説明

電極触媒

【課題】酸性、アルカリ性の電解質下でも安定性に優れた非貴金属酸化物系の電極触媒を提供する。
【解決手段】導電性担体と、前記導電性担体に担持される非貴金属酸化物触媒と、
前記非貴金属酸化物触媒を保護する保護層と、を有することを特徴とする電極触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒、特に燃料電池用電極触媒に関するものである。特に、本発明は、白金などの貴金属を触媒に使用しない電極触媒、特に燃料電池用電極触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、比較的低温で作動することから、電気自動車用電源として期待されている。固体高分子形燃料電池の構成は、一般的には、電解質膜−電極接合体を、セパレータで挟持した構造となっている。電解質膜−電極接合体は、高分子電解質膜が一対の電極触媒層及びガス拡散性の電極(ガス拡散層;GDL)により挟持されてなるものである。
【0003】
上記したような電解質膜−電極接合体(MEA)を有する固体高分子形燃料電池では、固体高分子電解質膜を挟持する両電極(カソード及びアノード)において、その極性に応じて以下に記す反応式で示される電極反応を進行させ、電気エネルギーを得ている。まず、アノード(水素極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素は、触媒成分により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H→4H+4e:反応1)。次に、生成したプロトンは、電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらに電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(酸素極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、電極触媒層を構成している導電性担体、さらに電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O+4H+4e→2HO:反応2)。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0004】
上記電気化学的反応において、アノード側で上記反応1により生成した水素イオン(H)(以下、「プロトン」とも称する)は、水和状態(H)で固体高分子電解質膜を透過(拡散)する。膜を透過したプロトンは、カソードで、ガス拡散層を透過(拡散)した酸素および電子とともに、上記反応2に供される。すなわち、アノードおよびカソードでの反応は、電解質膜に密着した電極触媒層を反応サイトとし、当該電極触媒層内の触媒と固体高分子電解質との界面で進行する。したがって、触媒と高分子電解質との界面が増大し、界面形成が均一化すれば、上記した反応1及び2が、より円滑かつ活発に進行する。
【0005】
一般的に、電極触媒層内の触媒としては、導電性担体(カーボンブラックなど)に白金や白金合金を担持したものが用いられる(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−36418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現状では、発電性能および耐久性の観点から、自動車一台当り、100g以上のPtを用いる必要がある。しかしながら、Ptは、非常に高価であり、資源的にも稀少な金属であるため、非Pt系の触媒成分の開発が求められている。
【0007】
例えば、遷移金属(卑金属)酸化物の電極触媒は、Ptに近い活性を示すものが見出されている。その一方で、このような電極触媒は、強酸性の電解質下(例えば、PEFC)では安定性(耐酸性)に欠け、長期間使用することができない。同様に、強アルカリ性の電解質下(例えば、PAFC)でも、電極触媒の安定性が不十分である。
【0008】
しがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、酸性、アルカリ性の電解質下でも安定性に優れた非貴金属酸化物の電極触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、非貴金属酸化物触媒に、触媒の安定性の向上しうる保護層を設けることによって、酸性、アルカリ性の電解質下でも安定性に優れた電極触媒が得られることを知得した。上記知見に基づいて、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極触媒は、酸性、アルカリ性の電解質下であっても、安定性を維持できる。このため、本発明の電極触媒は、長期間にわたって安定した性能を発揮しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、導電性担体と、前記導電性担体に担持される非貴金属酸化物触媒と、前記非貴金属酸化物触媒を保護する保護層と、を有することを特徴とする電極触媒を提供する。
【0012】
従来、Ptに近い活性を示す遷移金属(卑金属)酸化物の電極触媒は知られている。しかしながら、従来の電極触媒は、例えば、ナフィオン(登録商標)などの強酸性の電解質下(例えば、PEFC)では安定性(耐酸性)に欠け、特に燃料電池など耐久性が要求される用途には使用することが困難である。同様に、強アルカリ性の電解質下(例えば、PAFC)でも、電極触媒の安定性が不十分であり、やはり、燃料電池など耐久性が要求される用途には使用することが困難である。これは、電位変動時に、酸化(金属酸化物)と還元(金属単体)とのサイクルを繰り返す間に、触媒から遷移金属イオンが溶出(移動)して失活することによる。特に、電解質が強酸性で、プロトンがイオン伝導体である、固体高分子形燃料電池(PEFC)では、遷移金属酸化物を触媒として使用すると、電解質が強酸性のため、遷移金属酸化物から遷移金属元素が容易に溶出し失活する。また、活性を向上するためには、触媒粒子の微粒子化が有効であるが、このような場合には、逆に、耐酸性や溶解耐性は低下する。このように遷移金属(卑金属)酸化物を、固体高分子形燃料電池(PEFC)をはじめとする、燃料電池用電極触媒として利用するには、性能と耐久性の向上が不可欠である。
【0013】
これに対して、本発明によると、導電性担体に担持した非貴金属酸化物触媒を保護層で被覆する。保護層の存在により、非貴金属酸化物触媒と電解質との直接的な接触が抑制・防止され、非貴金属酸化物触媒の耐酸性や溶解耐性を向上できる。このため、電位変動時に、酸化(金属酸化物)と還元(金属単体)とのサイクルを繰り返しても、触媒からの遷移金属等の非貴金属イオンの溶出(移動)が有効に抑制・防止される。ゆえに、本発明の電極触媒は、長期にわたって高い化学的安定性を維持することができる。また、本発明の電極触媒を用いてなる燃料電池は、優れた性能を長期間維持することができる。また、本発明の電極触媒は、白金などの高価な貴金属元素を使用しない。このため、本発明の電極触媒は、原料コストを大幅に低減して、製造することが可能となる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明の電極触媒は、導電性担体と、前記導電性担体上に配接された非貴金属酸化物触媒と、前記非貴金属酸化物触媒及び必要であれば前記導電性担体を被覆する保護層、とを有する。以下、図面を用いて本発明を説明する。
【0016】
図1A〜Eは、本発明の電極触媒の代表的な構成を示す模式図である。本発明の電極触媒10は、導電性担体1と、前記導電性担体1上に担持(配接)された非貴金属酸化物触媒2と、前記非貴金属酸化物触媒2の少なくとも一部を被覆する保護層3と、を有する。好ましくは、本発明の電極触媒10は、導電性担体1と、前記導電性担体1上に担持(配接)された非貴金属酸化物触媒2と、前記非貴金属酸化物触媒2及び前記導電性担体1の少なくとも一部を被覆する保護層3、とから形成されてなるものである。
【0017】
ここで、保護層3による非貴金属酸化物触媒2の被覆範囲は、非貴金属酸化物触媒2の少なくとも一部が保護層3で被覆していれば、特に制限されない。好ましくは、非貴金属酸化物触媒2の表面全部が保護層3で被覆されている。これにより、非貴金属酸化物触媒と電解質との接触が起こらないので、電位変動時にも非貴金属酸化物触媒がイオン化しないため、触媒性能を維持できる。保護層3による非貴金属酸化物触媒2の被覆形態としては、例えば、以下に限定されるものではないが、以下の形態が好ましく挙げられる。図1Aに示されるように、電極触媒10が、導電性担体1上に担持された非貴金属酸化物触媒2の表面を選択的に保護層3で被覆してなる構造であってもよい。または、図1Bや図1Cに示されるように、電極触媒10が、非貴金属酸化物触媒2に加えて、導電性担体1の一部をも含むように、保護層3で被覆してなる構造であってもよい。または、図1Dに示されるように、電極触媒10が、非貴金属酸化物触媒2および導電性担体1を一体的に保護層3で被覆してなる構造であってもよい。または、上記図1A〜1Dが、例えば、図1Aと図1Cとが組み合わされた図1Eのように、上記形態を適宜組み合わしてもよい。
【0018】
以下、本発明の電極触媒の構成部材ごとに説明する。
【0019】
(i)非貴金属酸化物触媒
本発明において、非貴金属酸化物触媒は、下記に詳述される導電性担体に担持(配接)される。なお、本明細書中「導電性担体に担持(配接)される」とは、非貴金属酸化物触媒が導電性担体に担持される場合に加えて、非貴金属酸化物触媒の少なくとも一部が導電性担体と接触する場合をも包含する。ただし、非貴金属酸化物触媒が電気的に導電性担体と接続されていることは必要である。
【0020】
非貴金属酸化物触媒の材質は、特に制限されない。ここで、「非貴金属」とは、不可避的な不純物を除き、貴金属、即ち、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、および金を含まないことを意味する。例えば、非貴金属酸化物触媒は、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)からなる群より選択される金属の酸化物、ならびに前記金属の酸化物の部分窒化物、部分炭化物および部分炭窒化物などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ランタン(La)およびストロンチウム(Sr)からなる群より選択される金属の酸化物、ならびに前記金属の酸化物の部分窒化物、部分炭化物および部分炭窒化物などが挙げられる。これらの非貴金属酸化物触媒は、酸化還元活性に優れるためである。ここで、金属の酸化物としては、上記したような金属を含むものであればよいが、例えば、LaCoO、LaMnO、LaFe0.5Mn0.5、(LaSr1−x)(MnFe1−y)O[ここで、xは、0〜1であり、yは、0〜1である]等の、式:ABO[式中、Aは、La、Sr、Ca、Ba、Pr及びNdからなる群より選択される少なくとも一種であり;Bは、Mn、Fe、Cr、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも一種である]で表わされるペロブスカイト型酸化物;ZrO2−x、TaO5−x等の、不定比酸化物が好ましく使用される。また、上記金属の酸化物の部分窒化物としては、上記したような金属を含むものであればよいが、例えば、ZrO、TaOなどの酸化物の部分窒化物が好ましく使用される。上記金属の酸化物の部分炭化物としては、上記したような金属を含むものであればよい。上記金属の酸化物の部分炭窒化物としては、上記したような金属を含むものであればよいが、例えば、ZrO、TaOなどの酸化物の部分炭窒化物が好ましく使用される。なお、上記非貴金属酸化物触媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0021】
本発明において、非貴金属酸化物触媒の製造方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。以下、本発明に係る非貴金属酸化物触媒のうち、ペロブスカイト型酸化物の製造方法の好ましい実施形態を記載する。しかし、本発明は、下記実施形態に限定されるものではない。
【0022】
ペロブスカイト型酸化物の粉末の製造方法は、それ自体公知の方法を採用することができる。例えば、希土類金属、遷移金属、アルカリ土類金属、及びその他の金属を直接混合して焼成する焼成方法、またこれらの複数の元素を含んだ水酸化物の混合液をAMP法、逆ミセル法、逆均一沈殿法(Reverse Homogeneous Precipitation:以下、「RHP法」とも称する)等により作製する方法を挙げることができる。以下では、下記方法について説明する。
【0023】
(ア)AMP法
AMP法とは、La、Sr、Co、Mnの水溶性塩(例えば、塩化物、硝酸塩等)を有機酸と混合し、pH調整によりゾル状とし、その後、乾燥させて熱分解させる方法である。このような方法は、特に制限されないが、例えば、特開平7−289903号公報や特開2005−190833号公報に記載される方法などが使用できる。具体的には、上記したような金属の水溶性塩の混合液にリンゴ酸水溶液を必要量添加し、アンモニアによりpH調整を行い、ゾル状のリンゴ酸錯体を生成する。次いで、そのリンゴ酸錯体を300〜350℃で加熱してゲル状として水酸化物のペロブスカイト型酸化物の前駆体を得る。そして、このような前駆体を大気雰囲気中で電気炉にて熱分解反応(650℃で2時間)させ、粉砕、微粒化させて、ペロブスカイト型酸化物からなる触媒粉末を得る。
【0024】
(イ)逆ミセル法(RM法)
逆ミセル法は、有機溶媒中で界面活性剤分子等の両親媒性物質が集合することにより形成される分子集合体の一種(ミセル)を利用して、析出粒子の大きさを規制した状態で電極触媒物質前駆体を析出させる方法である。逆ミセルを構成する界面活性剤分子のそれぞれは、その親水性基を内側に、疎水性基を外側すなわち有機溶媒相側に向けて配向していることが知られている。親水性基が集まった部分には、水などの極性分子を保持する能力があり、界面活性剤を有機溶媒に溶解した溶液に水溶液を加えると、水溶液は直径数nm〜数10nm程度の極めて小さな水滴(water droplet)となって有機溶媒中に安定に分散することができる。微細な水滴は、界面活性剤を溶解させた有機溶媒溶液に水溶液を注入して形成させるが、注入した水と界面活性剤のモル比によって逆ミセルの微細組織の大きさが決定できる。
【0025】
このように、析出粒子の大きさを規制した状態で炭素粒子を投入し、電極触媒物質前駆体を炭素粒子上に分散して担持させた後に固形物を分離し焼成することによって、炭素粒子上に触媒活性が大きな電極触媒物質を高分散状態で担持できる。
【0026】
逆ミセル法は、特に制限されないが、例えば、特開2000−67877公報や特開2003−288905号公報に記載される方法などが使用できる。具体的には、電極触媒物質の原料の金属の塩類の水溶液を有機溶媒中に界面活性剤を混合した溶液中に添加して、電極触媒物質の原料の金属の塩類の水溶液を含んだ逆ミセルを形成する。また、電極触媒物質の塩を沈殿することができる沈殿剤の水溶液を内部に包含した逆ミセルを同様に作製する。これら両者の逆ミセルを含んだ溶液を混合して、逆ミセル中において沈殿析出反応を起こすとともに、逆ミセル溶液中に炭素粒子を分散することで、炭素粒子上に高度に分散された電極触媒を得ることができる。
【0027】
逆ミセル中での沈殿生成反応(添加順序)は、以下のように実施できるが、必ずしもこれに限るものではない。
【0028】
有機溶媒中に界面活性剤を混合した溶液中に、硝酸ランタン水溶液、硝酸マンガン水溶液を加えると、界面活性剤は、親水性基を内側に疎水性基を外側にして金属塩水溶液包含逆ミセルが生成する。別途、同様に有機溶媒中に界面活性剤を混合した溶液中に、金属塩水溶液から沈殿物を形成させる沈殿剤水溶液を加えると、沈殿剤水溶液包含逆ミセルが生成する。次いで、両者の逆ミセルを混合すると、逆ミセル同士が結合して、逆ミセル中において沈殿反応が進行する。さらに、沈殿の熟成を行なうことによって、逆ミセルの大きさに規制された沈殿物含有逆ミセルを得ることができる。したがって、逆ミセルによって得られる沈殿物は、超微粒子が単分散状態で分散した極めて分散性の大きなものが得られる。
【0029】
(ウ)逆均一沈殿法(RHP法)
通常、2種類以上の金属カチオンが存在する溶液からの沈殿には、これらの金属カチオンが同時に析出すること(共沈殿)が理想である。しかし、実際の沈殿物にあっては、析出する場所、時間が不均一になる。従来から得られる沈殿物は、具体例に水酸化物の析出反応によるが、目的の金属成分を溶解した水溶液を攪拌させながら、そこにアルカリ液を少量ずつ加える。このため、アルカリ液と接する場所は他の場所よりもpHが高くなり、析出反応が不均一になる。
【0030】
これに対して、RHP法とは、激しく攪拌したアルカリ溶液中に金属カチオン溶液を滴下して水酸化物の沈殿物を生成するものである。大量のOHの中へ少量のカチオンを加えていくことになり、複数金属のカチオンの周りでは平等にpHが即座にアルカリ側へと移行する。なお、硝酸ストロンチウムを添加したものについては、Sr(OH)がpH14付近においても溶液中でCOと反応するので、窒素で溶液をバブリング処理し、溶存COを低減することが好ましい。このため、急激な核の生成が起こり、使用金属の個々の溶解度に違いがあったとしても、各水酸化物の沈殿生成はほぼ同時となる。このため、均一で微細な混合水酸化物が調製され、このようなペロブスカイト型酸化物の前駆体をカーボン粉末等の担持体に分散し、乾燥、焼成することによって、触媒として十分に高分散、高均一に形成できる。
【0031】
また、上記ペロブスカイト型酸化物は上述したように、特定の希土類金属、及び遷移金属、必要によりアルカリ土類金属を所定の組成比で得るようにするために、上記金属カチオン溶液の各金属成分のモル比を調整する。
【0032】
次に、得られたペロブスカイト型酸化物の水酸化物(前駆体)は、カーボン材料等の導電性担体に担持される。水酸化物及びカーボン粉末を所定の分散媒、例えば、2−プロパノールに分散させ、超音波装置等で超音波処理して分散を十分にする。そして、かかる分散溶液を濾過し、濾過物を乾燥し、窒素雰囲気下でペロブスカイト型酸化物を形成するのに適切な温度において焼成し、カーボン担持ペロブスカイト型酸化物(即ち、本発明に係る電極触媒)を得ることができる。
【0033】
または、予めカーボン粉末等の担持体を該アルカリ溶液中に懸濁しておけば、ペロブスカイト型酸化物の前駆体である均一で微細な混合水酸化物は、カーボン粉末等の担持体に分散する。このような状態でカーボン粉末を、乾燥、焼成することによって、触媒として十分に高分散、高均一に形成できる。
【0034】
本発明において、非貴金属酸化物触媒の形状や大きさは、特に制限されず、電極触媒に使用される公知の金属/金属酸化物触媒と同様の形状及び大きさが使用できる。非貴金属酸化物触媒は、粒状であることが好ましい。すなわち、非貴金属酸化物触媒は、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ランタン(La)およびストロンチウム(Sr)からなる群より選択される金属の酸化物、ならびに前記金属の酸化物の部分窒化物、部分炭化物および部分炭窒化物からなる群より選択される少なくとも一から形成される触媒粒子であることが好ましい。
【0035】
また、非貴金属酸化物触媒の大きさもまた、特に制限されない。例えば、非貴金属酸化物触媒が粒状である場合の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。したがって、非貴金属酸化物触媒の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。導電性担体上への担持の容易さ、多孔性無機材料(SiO等)による包接のし易さなどの観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「非貴金属酸化物触媒の平均粒子径」は、X線回折における非貴金属酸化物触媒の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる非貴金属酸化物触媒の粒子径の平均値により測定することができる。
【0036】
なお、下記に詳述するが、導電性担体表面を親和処理する場合があるが、このように親和処理した導電性担体表面上に非貴金属酸化物触媒を担持させた場合の非貴金属酸化物触媒の平均粒子径も1〜30nmであればよい。好ましくは、非貴金属酸化物触媒の平均粒子径は、2〜30nm、より好ましくは2.5〜10nm、さらにより好ましくは3〜5nmの粒状である。
【0037】
上記非貴金属酸化物触媒の担持量は、所望の触媒性能を発揮できる限り、特に制限されない。非貴金属酸化物触媒の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が80質量%以下であると、非貴金属酸化物触媒の導電性担体上での優れた分散度を有効に保持することができ、発電性能の向上効果を有効に発現させることができる利点がある。また、前記非貴金属酸化物触媒の担持量が10質量%以上であると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の発電性能を得ることができる。そのため、所望の電池性能を確保するための担持量設計が比較的容易になし得る点で優れている。なお、非貴金属酸化物触媒の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0038】
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
【0039】
上記非貴金属酸化物触媒は、触媒活性を有する触媒非貴金属酸化物触媒から電極集電体(図示せず)までの区間の電子伝導を確保する機能を持つことが好ましい。このため、保護層が導電性を有する場合には、非貴金属酸化物触媒全体が保護層で被覆されていてもよい。一方、保護層が導電性を持たない場合には、非貴金属酸化物触媒の少なくとも一部は、非導電性の保護層(例えば、多孔性無機材料)で包接されていないことが望ましい。なお、その製法上、非貴金属酸化物触媒全体が保護層で被覆されるような場合もある。そうした場合には、触媒インク調製時に粉砕をかけ、非貴金属酸化物触媒を適当に細かく切断すればよい。これにより、得られる非貴金属酸化物触媒では、少なくとも表面の一部が露出し、非導電性保護層で被覆されていない部分を得ることができるものである。
【0040】
(ii)導電性担体
本発明において、導電性担体は、特に制限されず、公知の導電性担体が使用されうる。好ましくは、図1に示すように、非貴金属酸化物触媒を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有する。また、導電性担体は、集電体として十分な電子導電性を有していることが好ましい。
【0041】
導電性担体の材料(材質)としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよい。好ましくは、酸性雰囲気下で安定であり、電気抵抗が低く、また長さを制御可能である点から、主成分がカーボンである炭素系材料が望ましい。該炭素系材料としては、具体的には、例えば、カーボンブラック、活性炭、コークス、グラファイト、高温(黒鉛化)処理したカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバ、カーボンフィブリル構造体、炭素系多孔材料などが例示できる。柱状ないし管状形状の導電性担体としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル構造体が、酸性雰囲気下でより安定であり、電気抵抗がより低く、また長さを容易に制御可能である点で好適である。球状の導電性担体の場合としては、カーボンブラック、高温(黒鉛化)処理したカーボンブラックが、電気抵抗が低く耐久性に優れる点で好適である。好ましくは、カーボンブラック、高温(黒鉛化)処理したカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンおよびカーボンフィブリル構造体が、導電性担体の材料として使用できる。上記導電性担体は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0042】
また、導電性担体の形状は、特に制限はないが、球状、柱状、管状のいずれの形状を有していてもよい。
【0043】
また、導電性担体の大きさもまた、特に制限されない。例えば、導電性担体が球状である場合の、導電性担体の平均粒子径は、特に制限されるものではなく、既存の平均粒子径を採用することができる。担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
【0044】
導電性担体のBET比表面積は、非貴金属酸化物触媒を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよい。球状の導電性担体の場合には、導電性担体のBET比表面積は、好ましくは5〜2000m/g、より好ましくは50〜1500m/gとするのがよい。前記比表面積が、5m/g以上であると球状の導電性担体上への非貴金属酸化物触媒および高分子電解質の分散性が向上し、十分な発電性能が得られる点で優れている。一方、2000m/g以下であると非貴金属酸化物触媒および高分子電解質の高い有効利用率を有効に保持することができる点で優れている。特に好ましくは、導電性担体は、BET比表面積が50〜2000m/gのアセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラックおよびブラックパールならびにこれらを熱処理したものである。また、球状の導電性担体の1種である高温(黒鉛化)処理したカーボンブラックは、X線回折から算出される[002]面の平均格子面間隔d002が0.343〜0.358nmかつBET比表面積が100〜300m/gであることが望ましい。
【0045】
一方、柱状および/または管状の導電性担体の場合には、導電性担体のBET比表面積は、好ましくは1〜2000m/g、より好ましくは50〜1500m/gとするのがよい。前記比表面積が、1m/g以上であると柱状および/または管状の導電性担体上への非貴金属酸化物触媒および高分子電解質の分散性が向上し、十分な発電性能が得られる点で優れている。一方、2000m/g以下であると非貴金属酸化物触媒および高分子電解質の高い有効利用率を有効に保持することができる点で優れている。
【0046】
また、上記導電性担体は、触媒活性を有する非貴金属酸化物触媒から電極集電体(図示せず)までの区間の電子伝導を確保する機能を持つことが好ましい。このため、保護層が導電性を有する場合には、図1Dのように、導電性担体全体が保護層で被覆されていてもよい。一方、保護層が導電性を持たない場合には、導電性担体の少なくとも一部は、非導電性の保護層(例えば、多孔性無機材料)で被覆(包接)されていないことが望ましい(図1A〜C、E参照)。なお、図1Dのように、その製法上、導電性担体全体が包接されるような場合もある。そうした場合には、触媒インク調製時に粉砕をかけ、この導電性担体を適当に細かく切断すればよい。これにより、得られる導電性担体では、少なくとも表面の一部が露出し、非導電性の保護層で被覆(包接)されていない部分を得ることができる。
【0047】
(iii)保護層
従来、導電性担体上に非貴金属酸化物を配接(担持)した触媒は、アルカリ形燃料電池で、高い酸素還元活性を示すことが報告されている。しかし、このような酸化物を構成する元素は、アルカリ性・酸性のいずれの電解質下でも溶出し易いため耐久性の改善が必要であった。一般に、アルカリ性電解質下では元素の溶解(溶出)が小さいため、組成や調製法の最適化で耐久性の改善が可能であるが、さらなる向上が求められている。他方、酸性電解質下では元素の溶解(溶出)が大きいため、組成や調製法の最適化では耐久性の改善が著しく困難であるため、これまで酸化物系触媒を、特に酸性電解質を使用するPEFCでは使用できなかった。
【0048】
これに対して、本発明において、保護層で、非貴金属酸化物触媒を保護する。このような保護層の存在により、非貴金属酸化物触媒と酸性やアルカリ性の電解質との直接的な接触を抑制・防止できるため、非貴金属酸化物触媒の酸やアルカリによる溶出を低減しうる。また、万が一、非貴金属酸化物触媒が溶解(溶出)したとしても、保護層が当該溶解(溶出)した金属の通過や移動を抑制するため、非貴金属酸化物触媒の骨格構造から当該金属元素が溶解(溶出)することを著しく抑制できる。特に、電位変動時には、非貴金属酸化物触媒の金属と当該金属酸化物との変化を繰り返して、当該酸化物の骨格(結晶構造)中から元素がイオン化し溶解(溶出)する現象が顕著である。しかしながら、本発明によると、上述したように、保護層が非貴金属酸化物触媒に設けられている、好ましくは非貴金属酸化物触媒を多孔性無機材料で被覆している。このため、電位変動を繰り返したとしても、非貴金属酸化物触媒の溶解(溶出)を有効に抑制、防止できる。したがって、本発明の電極触媒は、経時的な触媒性能の低下が起こらず、耐久性に優れる。
【0049】
保護層の組成は、上記したように非貴金属酸化物触媒の酸やアルカリによる溶出を低減しうるものであれば特に制限されない。具体的には、保護層は、多孔性無機材料を含む、あるいは多孔性無機材料から構成されることが好ましい。非貴金属酸化物触媒を多孔性無機材料で包接(被覆)して保護層を形成することで、電解質との接触を間接的にできる。このため、酸性およびアルカリ性、いずれの電解質と接触した場合でも構成元素の溶出(溶解)を著しく抑制できる。また、保護層が多孔性となるため、ガスや水やプロトンが透過、拡散し、電極触媒上で酸素還元反応を発現することができる。
【0050】
ここで、多孔性無機材料は、該導電性担体上に配接された非貴金属酸化物触媒と、場合によっては、導電性担体とを包接することにより、保護層を形成してなる。ここで、多孔性無機材料の材料としては、触媒活性を有する非貴金属酸化物触媒と導電性担体の接触を維持し、かつ非貴金属酸化物触媒の溶出を防止することができるものであれば、特に制限されない。好ましくは、燃料電池の電極に用いた際に安定であり、該多孔性無機材料自体が溶出されることがない。具体的には、多孔性無機材料としては、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、酸化スズ(SnO)およびチタニア(TiO)などが挙げられる。ここで、上記多孔性無機材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態であるいは2種以上が複合化した形態(例えば、チタニア−シリカ複合酸化物)で使用されてもよい。これらの材料を用いることで、比較的安価に、多孔化が達成しうる。なお、多孔性無機材料が2種以上含まれている場合には、それらの配合比率に関しては、特に制限されるものではない。
【0051】
保護層は、導電性を有していてもあるいは有さなくともいずれでもよいが、好ましくは、保護層は導電性を有する。これにより、保護層も、集電体としての電子導電性を発揮しつつ、非貴金属酸化物触媒の酸やアルカリによる溶出を低減できるからである。また、一般に、遷移金属(卑金属)酸化物は電子伝導性が低いため、触媒粒子を電子伝導性の低い物質(多孔性無機物、例えば、SiO)で被覆すると、導電性担体間(カーボンブラック凝集体)の電子伝導性が低下し、触媒層内の抵抗損失が増大する。このため、上記に加えて、遷移金属(卑金属)酸化物を電極触媒とするためには、保護層は電子伝導性を有し、ガスや水やプロトンも拡散することが好ましい。このような保護層への導電性の付与を考慮すると、SiO、ZrO、SnOおよびTiOのうち1つ以上の成分を含んでなるものが好ましく、より好ましくは、酸化スズ(SnO)、チタニア(TiO)、SnO−TiO、SnO−シリカ(SiO)、SnO−ジルコニア(ZrO)、TiO−SiO、およびTiO−ジルコニア(ZrO)からなる群より選択される少なくとも一種が、多孔性無機材料として好ましく使用される。上記例示において、例えば、TiO−SiOは、TiOとSiOとが単に混合されてなる場合およびTiOとSiOとが複合化した場合双方を包含する。
【0052】
なお、上記した好適な多孔性無機材料は、上記材料のうち1つ以上の成分を含んでいるものであればよく、これら以外の他の成分を適量配合していてもよいことは言うまでもない。この場合にも、多孔性材料に加工でき、非貴金属酸化物触媒と導電性担体の接触を維持し、かつ非貴金属酸化物触媒の溶出を防止することができるものであることが求められる。本発明では、こうした所望の特性を有効に発揮することができるものであれば如何なる成分を配合していてもよいといえる。特に該無機物材料に電子伝導性を付与することができるような成分であれば、特に有効である。
【0053】
上記多孔性無機材料の細孔径は、好ましくは0.4〜5nm、より好ましくは0.4〜2nm、特に好ましくは0.4〜1nmの範囲であるのが望ましい。多孔性無機材料の細孔径が上記範囲であれば、ガスの拡散と非貴金属酸化物触媒の溶出防止を両立することができるためである。これは、ガス流路として一定サイズの細孔径が必要であるが、非貴金属酸化物触媒の溶出を防止するにはあまり大きい細孔径は望ましくないためである。また、保護層もまた、細孔を有することが好ましい。この場合、保護層の細孔径は特に制限されないが、保護層は、細孔径が0.4〜5nm、より好ましくは0.4〜2nm、特に好ましくは0.4〜1nmに分布のある細孔を有することが好ましい。
【0054】
本発明において、保護層の厚みは、特に制限されない。保護層の厚みは、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜20nm、さらにより好ましくは1〜10nmである。このような範囲であれば、非貴金属酸化物触媒の溶出を防止することができる。また、外部からのガス(HやO)を非貴金属酸化物触媒表面までは拡散(透過)させることができ、当該触媒表面での触媒作用により生じたH(プロトン)を触媒近傍の電解質を通じてイオン伝導させることができる。なお、後述する方法において、導電性担体の表面を親和処理する工程を行う場合には、導電性担体と多孔性無機材料との接触が良好となる。このため、こうした製造方法により得られた電極触媒では、保護層の厚さが薄くても、十分なガスの拡散及び非貴金属酸化物触媒の溶出防止を両立することができ、なおかつ良好な発電性能を得ることができる。
【0055】
ここで、多孔性無機材料の含有量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜40質量%とするのがよい。多孔性無機材料の含有量が上記範囲の場合には、導電性担体に配接ないし接触する非貴金属酸化物触媒を好適に包接することができ、非貴金属酸化物触媒の溶出を防止できる利点がある。なお、多孔性無機材料の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0056】
本発明に係る電極触媒は、カソード側電極触媒およびアノード側電極触媒のいずれであってもよい。しかし、カソード側電極では高電位になる。このため、非貴金属酸化物触媒のイオン化しやすさ(ゆえに、溶出の問題)を考慮すると、本発明に係る電極触媒は、少なくともカソード側電極触媒として用いるのが有利である。これにより高電位となるカソード側電極での非貴金属の溶出を効果的に抑制・防止することができる。ただし、本発明に係る電極触媒は、アノード側電極触媒として用いてもよいし、カソード側及びアノード側電極触媒双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0057】
また、本発明に係る電極触媒を使用しない側の電極触媒としては、公知の電極触媒を使用できる。すなわち、カソード触媒層に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層に用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり適宜選択できる。この際、カソード触媒層に用いることのできる触媒成分及びアノード触媒層に用いることのできる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。
【0058】
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒成分の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒成分の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒成分の平均粒子径」は、X線回折における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒粒子の粒子径の平均値により測定することができる。
【0059】
前記導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0060】
前記導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよい。柱状および/または管状の導電性担体の場合、導電性担体のBET比表面積は、好ましくは1m/g〜2000m/g程度とするのがよい。前記比表面積が、1m/g程度以上あれば前記導電性担体への触媒成分および高分子電解質の分散性が向上し、十分な発電性能が得られる。一方、2000m/g程度以下であれば、触媒成分および高分子電解質の高い有効利用率を有効に保持することができる。
【0061】
また、球状の導電性担体の場合、導電性担体のBET比表面積は、好ましくは5〜2000m/g、より好ましくは50〜1500m/gとするのがよい。特に好ましくは導電性担体のBET比表面積が50〜2000m/gのアセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラック、ブラックパールである。
【0062】
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜1000nm、好ましくは50〜700nm程度とするのがよい。
【0063】
導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が、80質量%以下であると、触媒成分の導電性担体上での優れた分散度を有効に保持することができ、担持量の増加に見合った発電性能の向上効果を有効に発現させることができる利点がある。また、前記担持量が、10質量%以上であると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の発電性能を得ることができる。そのため、所望の電池性能を確保するための担持量設計が比較的容易になし得る点で優れている。なお、触媒粒子の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0064】
また、上記電極触媒において、導電性担体と、該導電性担体上に担持された触媒成分とを多孔性無機材料により包接する場合には、触媒担持担体と同様の多孔性無機材料を用いて包接すればよい。その際の多孔性無機材料の使用量などに関しては、Pt等の触媒成分の溶出を防止し、導電性担体同士(更には多孔性無機材料で包接されていない導電性担体表面との間)の接触により導電性を確保することができることが好ましい。このため、適量を用いて導電性担体上の触媒成分の近傍のみを多孔性無機材料で包接することが望ましい。
【0065】
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル法(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。また、多孔性無機材料の包接の方法は、後述する触媒粒子の製造方法(第一調製法等)と同様にして行うことができる。
【0066】
本発明の電極触媒への触媒成分の混合量は、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適宜決定することができる。
【0067】
次に、本発明の電極触媒の製造方法について、説明する。
【0068】
本発明の電極触媒は、いずれの方法によって製造されてもよいが、代表的な製造方法の一実施形態として、下記方法が使用されうる。すなわち、本発明は、導電性担体上に非貴金属酸化物触媒を担持する工程と、前記非貴金属酸化物触媒が担持された導電性担体を、多孔性無機材料により包接する工程と、を含むことを特徴とする、本発明の電極触媒の製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、非貴金属酸化物触媒周辺を多孔性無機材料で包接する工程を行うという簡便な方法で、本発明の基本的な目的は達成される。即ち、非貴金属酸化物触媒周辺を多孔性無機材料で包接することにより該非貴金属酸化物触媒の溶出を防止するとともに、該非貴金属酸化物触媒を担持する担体に導電性担体を用いることで電子伝導性を保つことができる。これにより、カソード側および/またはアノード側の電極は、当該電極触媒及び電解質を含む触媒スラリーを塗布する簡便な工程によって形成できる。
【0069】
以下、工程毎に説明する。なお、これらの工程順序は、所望の電極触媒を製造可能であるならば、特に制限されるものではない。必要に応じて、複数の工程をまとめて(ワンステップで)行ってもよいし、工程順序を入れ替えて行ってもよい。なお、以下では、導電性担体として、球状の導電性担体を例に挙げて説明するが、柱状および/または管状の導電性担体についても同様にして製造することができる。
【0070】
(a)導電性担体上に非貴金属酸化物触媒を担持する工程
導電性担体上に非貴金属酸化物触媒を担持する本工程(a)に関しても、特に制限されるものではなく、従来公知の導電性担体であるカーボン担体(カーボンブラック担体など)に金属触媒粒子を担持させる各種製法を適宜利用することができる。すなわち、非貴金属酸化物触媒を導電性担体に担持させる方法としては、特に制限はなく、予め調製した非貴金属酸化物触媒を導電性担体に担持してもよい。例えば、導電性担体に非貴金属酸化物触媒を付着させ、その後焼成して該金属粒子を担持(固定化)してもよい。または、例えば、非貴金属酸化物触媒を含有する溶液に導電性担体を分散し、該溶液を混合・撹拌し、70〜100℃、3〜12時間反応させて該非貴金属酸化物触媒を該導電性担体に担持させる方法がある。なお、該溶液には、必要に応じて非貴金属酸化物触媒の金属成分の還元剤や沈殿剤を添加してもよい。
【0071】
例えば、上記(i)で記載したようにして得られた非貴金属酸化物触媒の溶液に、導電性担体を加えて、30〜90℃で1〜12時間、攪拌・混合する。次に、この混合物を濾過して、濾過物を乾燥し、窒素雰囲気下でペロブスカイト型酸化物を形成するのに適切な温度において焼成する。なお、本工程(a)は、一部、上記(i)の電極触媒の製造方法((a)〜(c))に記載されており、当該方法も使用できる。
【0072】
(b)非貴金属酸化物触媒が担持された導電性担体を、多孔性無機材料により包接する工程
ここでは、上記(a)で得られた非貴金属酸化物触媒が担持(配接)した導電性担体(以下、単に「触媒担持担体」とも称する)を多孔性無機材料により包接して、保護層を形成する。本工程(b)に関しても、特に制限されるものではなく、従来公知の非貴金属酸化物触媒を多孔性無機材料により包接する各種製法を適宜利用することができる。
【0073】
本工程(b)において、導電性担体が炭素系材料である場合には、該表面が疎水性であるため、Si−OH基のような親水性の官能基を有する多孔性無機材料の原料を弾く。そのため、疎水性表面を有する該導電性担体では、下記工程(c)で詳述するように、その表面に予め親和(親水化)処理を行うことが好ましい。かかる親和(親水化)処理としては、特に制限されるものではなく、例えば、以下に詳述するが、硝酸処理などが挙げられる。
【0074】
次に、触媒担持担体を、所定温度の分散媒に分散させる。ここで、上記分散媒としては、制限されるものではなく、例えば、アンモニア、水、有機溶媒(アルコールなど)などが上げられる。これらの分散媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。好ましくは、水、アンモニア水溶液が使用され、アンモニア水溶液がより好ましい。
【0075】
また、分散媒のpHは、特に限定されない。本発明では、上記多孔性無機材料の前駆体、水、分散媒(pH調整液)を加えた溶液のpHを6〜11に調整して行うのが、加水分解縮合反応を好適に行う上で望ましい。このため、分散媒のpHを、好ましくは6〜11、より好ましくは8〜11に調節する。このようなpH範囲の分散媒では、多孔性無機材料の前駆体の加水分解速度を良好な程度に調整できる。また、分散媒のpHが上記上限を超えると、多孔性無機材料の被覆が過度に進行して、保護層の厚みが厚くなる可能性がある。一般に、工程(b)において、多孔性無機材料の前駆体を急激に加水分解すると、多孔性無機材料の被覆層の厚みが不均一になり易く、また、導電性担体または導電性担体の凝集体(2次粒子・3次粒子)の全体を被覆して(包んで)しまう。このため、多孔性無機材料の前駆体を上記したようなpH範囲の分散媒中でゆっくりと加水分解させると、上記したような問題が解決できる。すなわち、分散媒のpHを上記範囲に調整することによって、多孔性無機材料の被覆層の厚みが均一で、かつ導電性担体または導電性担体の凝集体の表面の一部を露出して、集電体として十分な電子導電性を発揮することが可能である。
【0076】
また、分散媒の温度は、特に制限されないが、好ましくは40〜80℃である。このような範囲であれば、多孔性無機材料の前駆体の加水分解速度を適宜好ましい範囲に調整できる。
【0077】
触媒担持担体の、分散媒への添加量は、特に制限されないが、多孔性無機材料による被覆のしやすさ、均一分散性などを考慮して、分散媒に添加することが好ましい。
【0078】
次に、触媒担持担体を添加した分散媒に、多孔性無機材料の前駆体をさらに添加する。ここで、多孔性無機材料の前駆体としては、下記化合物などを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
シラン化合物:例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなど;
ジルコニウム化合物:テトラエトキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−t−ブトキシジルコニウムなど;
チタン化合物:テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタンなど;および
スズ化合物:テトラエトキシスズ、テトラ−i−プロポキシスズ、テトラ−n−ブトキシスズ、テトラ−t−ブトキシスズなど。
【0079】
これらのうち、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、3−アミノプロピルエトキシシラン等のシラン化合物、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−t−ブトキシジルコニウム等のジルコニウム化合物、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン等のチタン化合物、テトラエトキシスズ、テトラ−i−プロポキシスズ、テトラ−n−ブトキシスズ、テトラ−t−ブトキシスズ等のスズ化合物が多孔性無機材料の前駆体として好ましい。
【0080】
上記多孔性無機材料の前駆体は、単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用してもよい。また、上記多孔性無機材料の前駆体は、所望の電極触媒の保護層に応じて、適宜選択される。
【0081】
上記したような多孔性無機材料の前駆体を、触媒担持担体を添加した分散媒に、ゆっくり滴下し、所定時間撹拌することで、該前駆体を触媒担持担体に選択的に吸着させることができる。これにより、後工程で、非貴金属酸化物触媒と多孔性無機材料との相溶性、密着性を高めることができ、非貴金属酸化物触媒上に多孔性無機材料を確実に配置(被覆)させることができる。なお、上述したように、導電性担体を予め親和処理した場合には、非貴金属酸化物触媒と多孔性無機材料との相溶性、密着性をさらに高めることができ、非貴金属酸化物触媒上に多孔性無機材料をより確実に(より選択的に)配置(被覆)させることができる。
【0082】
その後、多孔性無機材料の前駆体がさらに添加された分散媒を攪拌しながら、多孔性無機材料の前駆体の加水分解縮合反応を行なうことが好ましい。この際、撹拌条件は、所望の加水分解縮合反応を行うことで、導電性担体に担持された非貴金属酸化物触媒を多孔性無機材料により包接することができればよく、特に制限されるものではない。具体的には、多孔性無機材料の前駆体がさらに添加された分散媒を、20〜60℃で、60〜600分間、撹拌することで、多孔性無機材料の前駆体の加水分解縮合反応を行い、カーボン粒子上に担持したペロブスカイト型酸化物粒子を多孔性無機材料により被覆することができる。
【0083】
さらに、プロトン伝導性を向上させる目的で、シラン化合物として、プロトン解離性の官能基を含有するシラン化合物を含めてもよい。プロトン解離性の官能基としては、スルホン酸誘導体基、ホスホン酸誘導体基、スルホンアミド誘導体基もしくはスルホンイミド誘導体基が挙げられる。こうしたプロトン解離性の官能基を含有するシラン化合物としては、例えば、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、ジエチルホスフェートエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0084】
その後、洗浄、分離、乾燥後、焼成を行い、ペロブスカイト型酸化物粒子を多孔性無機材料により包接(固定化)する。洗浄方法は、例えば、純水等を用いた水洗、アルコール洗浄などを用いることができる。分離方法は、例えば、遠心分離などを用いることができる。乾燥方法は、例えば、真空乾燥、自然乾燥などを用いることができる。乾燥時間は、使用する方法に応じて適宜選択すればよい。場合によっては、乾燥工程を行わずに、焼成工程において乾燥させてもよい。乾燥の後に、必要に応じて微粉化し、得られた触媒粒子を焼成する。この際にも、導電性担体が炭素系材料(カーボン材料)である場合には、カーボンの酸化が進行しないように、アルゴンや窒素、ヘリウム等の不活性(非酸化性)雰囲気下において加熱・焼成する。具体的には、不活性ガス雰囲気下で200〜1100℃、より好ましくは200〜800℃、特に好ましくは300〜700℃で焼成する。このような条件を適用することにより、多孔性無機材料の保護層(被覆層)の細孔径や細孔容量を所望の値(例えば、2nm以下の細孔径)に調節することができる。また、ガス(例えば、O、H)、水やプロトンの輸送性を向上し、さらにイオンの移動性や拡散性を抑えることが可能である。
【0085】
上記したようにして、本発明に係る電極触媒は製造できるが、導電性担体上に非貴金属酸化物触媒を担持する工程(a)の前に、導電性担体の表面を親和処理する工程を設けることが好ましい。当該工程を工程(a)の前に設けることによって、非貴金属酸化物触媒または非貴金属酸化物触媒の前駆体が導電性酸化物に担持(配接)しやすくなる。以下、導電性担体の表面を親和処理する工程について説明する。
【0086】
(c)導電性担体の表面を親和処理する工程
本工程では、上記(a)の工程の前に、導電性担体の表面を親和処理するものである。カーボンブラックなどの導電性担体は表面に官能基が少ないため、導電性担体に親和処理を施さないと、非貴金属酸化物触媒または非貴金属酸化物触媒の前駆体が配接(担持)し難い。これに対して、当該工程(c)を工程(a)の前に設けることによって、非貴金属酸化物触媒または非貴金属酸化物触媒の前駆体が導電性酸化物に担持(配接)しやすくなる。上記利点に加えて、多孔性無機材料の包接についても、導電性担体の表面処理(親和処理)が望ましい。また、非貴金属酸化物触媒の溶出防止能および優れた発電性能をも達成しうる。即ち、導電性担体の表面処理(親和処理)により、多孔性無機材料と導電性担体との接触が極めて良好になり、溶出を防止しつつ、多孔性無機材料層を薄くでき、発電性能が向上する。
【0087】
ここで、導電性担体の親和処理としては、導電性担体の表面に水酸基など、TEOSやAPTSなどと縮重合しうる官能基を導入することができるものであれば特に制限されるものではなく、従来公知の表面処理(表面改質)技術を適宜利用することができる。即ち、導電性担体の表面を、後工程で当該導電性担体を包接するのに用いる多孔性無機材料ないしその前駆体(例えば、TEOS+APTS)に対して親和性を高めることができるものであればよい。例えば、導電性担体の表面に水酸基(−OH)を導入することでその親和性を高めるような処理が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0088】
上記親和処理の具体的としては、例えば、導電性担体を酸化性強酸で処理する方法が挙げられる。
【0089】
ここで、上記酸化性強酸としては、特に制限されものではなく、例えば、混酸(濃硫酸と濃硝酸とを、3:1(体積比)で混合した溶液)、硝酸などが挙げられる。なかでも処理後の水酸基密度の理由から、混酸が好ましい。また室温で混酸中、超音波をかけながら処理するのが親和性を高めるのに有効である。また、強酸と導電性担体との混合量は、電性担体の表面に水酸基(OH)を導入して親和処置を行なうことができれば、特に制限されない。具体的には、導電性担体を、強酸100mLに対して、5〜50g添加することが好ましい。親和処理条件は、導電性担体の表面に水酸基(OH)を導入することができれば、特に制限されない。例えば、導電性担体を、30〜100℃で1〜12時間、混酸中に浸漬し、超音波をかけながら処理する。これにより、導電性担体の表面に水酸基(OH)を導入することができる。
【0090】
上述した方法により、非貴金属酸化物触媒を、導電性担体上に高分散担持し、かつ非貴金属酸化物触媒の表面に、ガスや水やプロトンも透過する多孔性無機材料からなる保護層(被覆層)を配置してなる電極触媒が製造される。このようにして製造された電極触媒は、保護層の存在により、触媒自体の耐酸性や溶解耐性を向上できる。ゆえに、本発明に係る電極触媒は、高い化学的安定性を維持することができる。このため、本発明に係る電極触媒は、燃料電池に好適に適用でき、本発明に係る電極触媒を含む電解質膜−電極接合体や燃料電池は、優れた性能を長期間維持することができる。また、非貴金属酸化物触媒は、従来の白金系の触媒に比して安価であるため、商業的な意義もまた高い。このため、本発明の電極触媒、さらには当該電極触媒を含む電解質膜−電極接合体や燃料電池は、従来に比して安価に製造できる。
【0091】
したがって、本発明は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の一方に配置されたカソード触媒層と、前記高分子電解質膜の他方に配置されたアノード触媒層と、を有する電解質膜−電極接合体であって、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方が本発明に係る電極触媒を含む、電解質膜−電極接合体を提供する。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる。
【0092】
ゆえに、本発明の電解質膜−電極接合体を用いることにより、発電性能及び耐久性に優れる信頼性の高い燃料電池を提供することができる。したがって、本発明はまた、本発明の電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池;さらには本発明の燃料電池を搭載した車両をも提供する。
【0093】
本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)は、本発明に係る電極触媒を含む触媒層を電解質膜の表面の少なくとも一方の面に備えることを特徴とする。ここで、本発明に係る電極触媒は、カソード側電極触媒およびアノード側電極触媒に使用されてよい。しかし、カソード側電極では高電位になる。このため、非貴金属酸化物触媒のイオン化しやすさ(ゆえに、溶出の問題)を考慮すると、本発明に係る電極触媒は、少なくともカソード側電極触媒として用いるのが好ましい。これにより高電位となるカソード側電極での非貴金属の溶出を効果的に抑制・防止することができる。ただし、本発明に係る電極触媒は、アノード側電極触媒として用いてもよいし、カソード側及びアノード側電極触媒双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0094】
以下、本発明の電解質膜−電極接合体を含む燃料電池について、説明する。
【0095】
図2は、本発明の燃料電池の基本構成(単セル構成)を模式的に表した断面概略図である。本発明はこれに限定されない。
【0096】
図2において燃料電池(単セル)20は、電解質膜21の両側(表面及び裏面)に、アノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bとがそれぞれ対向して配置されている。本発明では、これらアノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bの少なくとも一方に、本発明の燃料電池用電極材料により形成される燃料電池用電極が用いられていることを特徴とするものである。好ましくはカソード側触媒層22bに、より好ましくはアノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bの両方に、本発明の燃料電池用電極材料により形成される燃料電池用電極が用いられているのが望ましい。
【0097】
さらにアノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bの両側(外側)に、アノード側ガス拡散層(GDL)23aおよびカソード側GDL23bとがそれぞれ対向して配置され、電極−膜接合体(以下、MEAともいう)24を構成している。この各GDL23a、23bの両側(外側)にアノード及びカソードパレータ25a、25bが配置されている。該セパレータ25a、25bの内部にはガス流路(溝)26a、26bが設けられている。このガス流路(溝)26a、26bを通じて、水素含有ガス(例えば、Hガスなど)及び酸素含有ガス(例えば、Airなど)がアノード側及びカソード側のGDL23a、23bを通して触媒層22a、22bにそれぞれ供給される。さらに、ガスが外部へ漏洩することを防止するために、電解質膜21の外周領域とセパレータ25a、25bとの間にガスケット27がそれぞれ配置されている。
【0098】
以下、本発明の燃料電池につき、構成要件ごとに説明する。
【0099】
(A)電解質膜
本発明の燃料電池に用いることのできる電解質膜は、高いプロトン伝導性を有していればよい。高いプロトン伝導性を有する膜としては、−SOH基などのイオン交換基を有するモノマーの重合体または共重合体;またはイオン交換基を有するモノマーと他のモノマーとの重合体などの公知の材料からなる膜を用いることができる。かかる電解質膜21の材質としては、具体的には、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、または、ポリマー骨格にフッ素を含まない芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、などが挙げられる。
【0100】
前記イオン交換基としては、特に制限されないが、−SOH、−COOH、−PO(OH)、−POH(OH)、−SONHSO−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’、−NH等(R、R’、R’’は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基などが挙げられる。
【0101】
前記フッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0102】
前記芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ポリサルホンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸系ポリマー、架橋ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルサルホンスルホン酸系ポリマー等が好適な一例として挙げられる。
【0103】
高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。特に、本発明において、高分子電解質としてナフィオン(登録商標、デュポン社製)等のスルホン酸基を有するものを使用する場合には、EWが600〜1100程度のものを使用することが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、スルホン酸基1モル当たりの乾燥膜重量を表わし、小さいほどスルホン酸基の比重が大きいことを意味する。
【0104】
また、高分子電解質の量は、特に制限されない。導電性担体質量(C)に対する前記高分子電解質質量(I)の比(Ionomer/Carbon;I/C)が、0.5〜2.0、より好ましくは0.7〜1.6となるような量であることが好ましい。このような範囲であると、十分なプロトン伝導性およびガス拡散性が達成しうる。なお、上記I/C比は、以下に詳述する触媒インク(スラリー)を作製する際に予め混合する触媒層中に含まれる導電性担体質量および電解質固形分を測定しておき、これらの混合比を調整することにより、算出され、また、制御できる。また、電極触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、導電性担体の質量(C)とは、電極触媒の質量から触媒成分の質量を差し引いたものとする。触媒成分の質量は誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって定量することができる。電極触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、触媒層中の高分子電解質質量(I)は、19F NMRによる高分子電解質の構造解析、および、電量滴定によるS原子の定量、の2つを組合わせることで定量することができる。
【0105】
電解質膜の膜厚は、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定することができるが、5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜150μmである。電解質膜の膜厚が5μm以上であると製膜時の強度や燃料電池作動時の耐久性の点から好ましく、300μm以下であると燃料電池作動時の出力特性の点から好ましい。
【0106】
なお、本発明では、燃料電池のアノード及びカソードの両電極間に介在される電解質成分を含有してなる構成部材を、電解質膜と称したが、決してその名称に拘泥されるものではなく、燃料電池に用いられる使用目的からみて、例えば、電解質層や電解質などと称される場合であっても、本発明でいう電解質膜に含まれる場合があることはいうまでもない。他の構成要件についても同様であり、その名称に拘泥されるものではなく、使用目的に照らしてその同一性を判断すればよい。
【0107】
(B)触媒層
本発明の燃料電池に用いることのできるアノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bは、少なくとも一方に、本発明の燃料電池用電極材料により形成される燃料電池用電極が用いられていることを特徴とするものである。好ましくはカソード側触媒層22bに、より好ましくはアノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bの両方に、本発明の燃料電池用電極材料により形成される燃料電池用電極が用いられているのが望ましい。
【0108】
これら燃料電池用電極の形成に用いられる本発明の燃料電池用電極材料に関しては、既に説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0109】
本発明の燃料電池用電極材料を用いて形成される燃料電池用電極(触媒層)の厚さは、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。触媒層の厚さが0.1μm以上であると所望する発電量が得られる点で好ましく、100μm以下であると高出力を維持できる点で好ましい。
【0110】
また、アノード側触媒層22aとカソード側触媒層22bのうち、いずれか一方にのみ本発明の燃料電池用電極材料を用いて形成された燃料電池用電極を用い、もう一方には、従来公知の触媒層を用いることもできる。こうした場合の従来公知の触媒層としては、主として、導電性担体に非貴金属酸化物触媒が担持されてなる電極触媒と、プロトン導電性を有する電解質(バインダないしアイオノマとも称する)とで構成されている。これらの構成部材に関しては、既に説明したとおりであるので、ここでの説明は省略する。また、これら従来公知の触媒層の厚さに関しても、特に限定されるものではなく、本発明の燃料電池用電極材料を用いて形成される燃料電池用電極(触媒層)の厚さと同様の範囲とすることができる。
【0111】
(C)ガス拡散層(GDL)
ガス拡散層(GDL)23a、23bは、MEA24の構成部材に含めてもよいし、MEA24以外の燃料電池セル20の構成部材としてもよい。GDL23a、23bとしては、特に限定されないが、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とする多孔質基材などが挙げられる。また、GDL23a、23bでも触媒層22a、22bと同様に撥水性を高めてフラッディング現象を防ぐために、公知の手段を用いて、前記GDL23a、23bの撥水処理を行ったり、前記GDL23a、23b上に炭素粒子集合体からなる層を形成してもよい。
【0112】
本発明のMEAの構成を有する固体高分子型燃料電池において、触媒層22、GDL23および電解質膜21の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEA24、更には固体高分子型燃料電池が得られるように適宜決定すればよい。
【0113】
(D)セパレータ
アノード及びカソードセパレータ25a、25bとしては、カーボンペーパー、カーボンクロス、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。また、前記セパレータ25a、25bは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するために所望の形状に加工されたガス流路(溝)26a、26bが形成されているのが望ましく、従来公知の技術を適宜利用することができる。セパレータ25a、25bの厚さや大きさ、ガス流路溝26a、26bの形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0114】
(E)ガスケット
上記ガスケット27は、気体、特に酸素や水素ガスに対して不透過であればよいが、一般的には、ガス不透過材料からなるOリングなどの単一の不透過部により構成されていればよい。さらに、必要に応じて、電解質膜21や酸素極及び燃料極触媒層22a、22bのエッジとの接着を目的とする接着部を設けてなる、接着剤付きのガスシールテープ等のような複合的な構成としてもよい。Oリングやガスシールテープの不透過部を構成する材料は、設置後に所定の圧力がかかった状態で、酸素や水素ガスに対して不透過性を示すものであれば特に制限されない。
【0115】
こうした不透過部を構成する材料のうち、Oリングを構成する材料としては、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0116】
一方、ガスシールテープ等の不透過部を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などが挙げられる。また、ガスシールテープ等の接着部を構成する材料としては、電解質膜21や酸素極及び燃料極触媒層22a、22bと、ガスケット27を密接に接着できるものであれば特に制限されない。例えば、ポリオレフィン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー等のホットメルト系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル、ポリオレフィン等のオレフィン系接着剤などが使用できる。
【0117】
上記ガスケット27の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、電解質膜21上に、あるいは触媒層22のエッジを被覆しながら電解質膜21上に、上記接着剤を、5〜30μmの厚みになるように塗布する。その後、上記したようなガス不透過材料を10〜200μmの厚みになるように塗布し、これを25〜150℃で、10秒〜10分間加熱することによって硬化させる方法が使用できる。または、予め、ガス不透過材料をシート状に成形した後に、この不透過膜に接着剤を塗布して、ガスケット27を形成した後、これを電解質膜21上に、あるいはガスケット27の一部を被覆しながら電解質膜21上に、貼り合わせてもよい。この際、不透過部の厚みは、特に制限されないが、15〜40μmが好ましい。また、接着部の厚みは、特に制限されないが、10〜25μmが好ましい。
【0118】
上記ガスケット27については、市販のものを購入して用いてもよい。ここでいう市販のものには、購入者側の仕様(寸法、形状、材料、特性など)に応じてメーカーが製造したような発注品ないし特注品等も含まれるものとする。
【0119】
本発明のMEA24の構成を有する燃料電池において、触媒層22、GDL23、および電解質膜21の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEA(燃料電池)が得られるように適宜決定すればよい。
【0120】
また、本発明の燃料電池は、上記の電極触媒層22を内側、GDL23を外側とし、電解質膜21を用い、該電解質膜21を両側から触媒層22で挟んで、適当にホットプレスすることによりMEA24を作製することができる。
【0121】
かかるホットプレス条件としては、適当な温度、圧力を設定するのが望ましい。具体的には、130〜200℃、好ましくは140〜160℃に加温し、1MPa〜5MPa、好ましくは2MPa〜4MPaで1〜10分間、好ましくは3〜7分間、ホットプレスするのが望ましい。ホットプレス温度が130℃以上であれば(膜の軟化が見られ、接合が容易である。またホットプレス温度が200℃以下であれば、膜の分解が防げる。また、ホットプレス圧が1MPa以上であれば、接合が容易である。またホットプレス圧が5MPa以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。更にホットプレス時間が1分間以上であれば、接合が容易である。またホットプレス時間が10分間以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。また、ホットプレスの際の雰囲気は、MEAに影響を及ぼさない雰囲気で行うのが望ましく、窒素中などの雰囲気で行うのが望ましい。
【0122】
また、本発明の燃料電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の製造技術を用いて組み立てることができる。例えば、触媒インクを電解質膜上に塗布・乾燥させた後ホットプレスして、電極触媒層を電解質膜と接合し、得られた接合体をガス拡散層で挟持して、MEAとする方法;触媒インクを、前記ガス拡散層上に塗布・乾燥させて電極触媒層を形成し、これを電解質膜とホットプレスにより接合する方法、などであってもよく各種公知技術を適宜用いて行えばよい。
【0123】
本発明の燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
【0124】
前記燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
【0125】
特に、前記高分子電解質形燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
【実施例】
【0126】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0127】
実施例1
1−1.試薬調製
硝酸ランタン 3.69gを純水1000mLに加えて金属硝酸塩の溶液(A)を調製した。また、硝酸マンガン 2.42gを純水1000mLに加えて金属硝酸塩の溶液(B)を調製した。この溶液(A)と(B)を混合し、金属硝酸塩の混合溶液(C)を調製した。
【0128】
1−2.反応
アルカリ溶液は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)1〜25%水溶液と沈殿凝集抑制用のテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPAB)を、調製する水酸化物と同モル数を加えて調製した。
【0129】
上記アルカリ溶液を攪拌しながら、上記混合溶液(C)をビュレットで滴下した。アルカリ溶液の高濃度化を行った。攪拌停止後、1時間放置して吸引濾過した。得られた濾過物を濾紙ごと2−プロパノール中に入れて、30分間、超音波処理をした。これにより、2−プロパノール中に高分散したペロブスカイト型酸化物の前駆体を得た。
【0130】
1−3.電極触媒の調製
BET比表面積が1270m/gのカーボンブラック粉末(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC600JD)を導電性担体として使用した。このカーボンブラック粉末10gを、混酸(濃硫酸と濃硝酸を3:1の体積比で混合した液体)200mLに分散し80℃で4時間の親和処理を行った。前記親和処理後、カーボンブラックを濾過・洗浄し120℃で12時間乾燥して、親和処理担体を調製した。
【0131】
上記ペロブスカイト型酸化物の前駆体(ペロブスカイト型酸化物換算で2g)を2−プロパノールに高分散した溶液に、上記で得られた親和処理担体(カーボン粉末)8gを加え、同様の超音波処理を施しながら4時間攪拌混合した。攪拌停止後1時間放置して吸引濾過し、得られた濾過物を濾紙ごと120℃で12時間乾燥した。乾燥した濾過物を窒素雰囲気下、温度650℃で5時間焼成した。これにより、親和処理担体にペロブスカイト型酸化物が担持してなる電極触媒を得た(ペロブスカイト型酸化物の担持量:20質量%)。
【0132】
得られた電極触媒は、粉末X線回折装置(理学電機製 RNT2OOO)を用いて、CuKα線をX線源として2θ=20°ないし80°の範囲で測定したところ、ペロブスカイト型のLaMnO3.0であることを確認することができた。
【0133】
1−4.保護層の形成
反応容器中で、上記1−3で得られた電極触媒1gを、アンモニア水溶液(pH=約11)500mL中に分散した。その容器を60℃の温浴中に移して、混合液を30分間攪拌した後、その溶液にカーボンブラック粉末100質量部に対して100重量部のアミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)を添加した。さらに、30分後にカーボンブラック100質量部に対して450重量部のテトラエトキシシラン(TEOS)を加え、激しく撹拌しながら1時間、加水分解縮合反応を行った。これにより、ペロブスカイト型酸化物/カーボンブラックの表面をシリカ前駆体で被覆した粒子を得た。その後、遠心分離によって試料を取り出し、60℃の恒温槽中で一晩乾燥させた。その触媒前駆体をアルゴン雰囲気下で350℃、3時間の焼成を行った。これにより、ペロブスカイト型酸化粒子と該ペロブスカイト型酸化物粒子を担持したカーボンブラックを部分的にSiOで被覆した所望の触媒粒子(1)を得た。得られた触媒粒子(1)を透過電子顕微鏡(TEM)により観察することで、所望の触媒粒子が形成されているか確認した。透過型電子顕微鏡を用い、得られた触媒粒子のSiO被覆層の厚さ、また、Arガス吸着法によりSiO被覆層の細孔分布を測定した。SiO被覆層は概ね5〜10nmの厚さで、細孔は0.4〜1.0nmに分布があった。
【0134】
実施例2
2−1.試薬調製
シクロヘキサン500mLに、ポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテル75.2gを加えて攪拌した。これに、濃度0.025Mの硝酸ランタン水溶液10mLと濃度0.025Mの硝酸マンガン水溶液10mLを加えて、透明になるまで攪拌し、逆ミセルAを含む溶液を得た。攪拌は5℃で、5分間行った。
【0135】
次に、シクロヘキサン1500mLにポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテル225gを加えて攪拌し、さらに濃度10重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液30mLを加えて、透明になるまで攪拌し、逆ミセルBを含む溶液を得た。攪拌は5℃で、2時間行った。
【0136】
2−2.反応
BET比表面積が1270m/gのカーボンブラック粉末(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC600JD)を導電性担体として使用した。逆ミセルAを含む溶液に、このカーボンブラック粉末を240mg混合した後に、1時間攪拌した後に、逆ミセルBを含む溶液を混合した。混合後、ランタンとマンガンの混合水酸化物の懸濁物(ペロブスカイト型酸化物換算で60mg)を逆ミセル中に含む溶液を、5℃で24時間熟成した。
【0137】
ダイナミック光散乱高度計(大塚電子社製DLS−700)を用いて、水酸化物を包含した逆ミセルの粒子径を測定したところ、概ね8nmであった。
【0138】
2−3.電極触媒の調製
熟成後、遠心分離機(日立製作所製、CENTRIFUGE05P−20B)を用いて6時間遠心分離を行い沈殿を分離した後に濾過して、濾過物をエタノールおよび水で洗浄した。得られた固形物を100℃において12時間乾燥した後に、乳鉢で粉砕し、電極触媒前駆体を担持したカーボン粒子を得た。次いで、電極触媒前駆体を担持したカーボン粒子を、窒素雰囲気において、600℃において5時間焼成して、電極触媒前駆体からペロブスカイト型酸化物の電極触媒(ペロブスカイト型酸化物の担持量20重量%)を形成した。
【0139】
得られた電極触媒は、粉末X線回折装置(理学電機製 RNT2OOO)を用いて、CuKα線をX線源として2θ=20°ないし80°の範囲で測定したところ、ペロブスカイト型のLaMnO3.0であることを確認することができた。
【0140】
2−4.保護層の形成
2−3で得られた電極触媒を1g使用する以外は、実施例1と同様にして、ペロブスカイト型酸化物粒子と該ペロブスカイト型酸化物粒子を担持したカーボン粒子を部分的にSiOで被覆した所望の触媒粒子(2)を得た。実施例1と同様に、得られた触媒粒子(2)を透過電子顕微鏡(TEM)により観察することで、所望の触媒粒子が形成されているか確認した。その結果、SiO被覆層は概ね5〜10nmの厚さで、細孔は0.4〜1.0nmに分布があった。
【0141】
実施例3
3−1.電極触媒の調製
実施例1の1−1〜1−3と同様にして、ペロブスカイト型酸化物粒子と該ペロブスカイト型酸化物粒子を担持したカーボン粒子(電極触媒)を得た。
【0142】
3−2.保護層の形成
反応容器中で、上記3−1で得られた電極触媒1gを、アンモニア水溶液(pH=約11)500mL中に分散した。その容器を60℃の温浴中に移して、混合液を30分間攪拌した後、その溶液にカーボンブラック粉末100質量部に対して100重量部のアミノプロピルアルコールを添加した。さらに、30分後にカーボンブラック粉末100質量部に対して550重量部のテトラ−iso−プロポキシチタンを加え、激しく撹拌しながら1時間、加水分解縮合反応を行った。これにより、ペロブスカイト型酸化物/カーボンブラックの表面をチタニア前駆体で被覆した粒子を得た。その後、遠心分離によって試料を取り出し、60℃の恒温槽中で一晩乾燥させた。その触媒前駆体をアルゴン雰囲気下で350℃、3時間の焼成を行った。これにより、ペロブスカイト型酸化粒子と該ペロブスカイト型酸化粒子を担持したカーボンブラックを部分的にTiOで被覆した所望の触媒粒子(3)を得た。得られた触媒粒子(3)を透過電子顕微鏡(TEM)により観察することで、所望の触媒粒子が形成されているか確認した。透過型電子顕微鏡を用い、得られた触媒粒子のTiO被覆層の厚さ、また、Arガス吸着法によりTiO被覆層の細孔分布を測定した。TiO被覆層は概ね5〜10nmの厚さで、細孔は0.4〜1.0nmに分布があった。
【0143】
実施例4
4−1.電極触媒の調製
実施例1の1−1〜1−3と同様にして、ペロブスカイト型酸化物粒子と該ペロブスカイト型酸化物粒子を担持したカーボンブラック(電極触媒)を得た。
【0144】
4−2.保護層の形成
反応容器中で、上記3−1で得られた電極触媒1gを、アンモニア水溶液(pH=約11)500mL中に分散した。その容器を60℃の温浴中に移して、混合液を30分間攪拌した後、その溶液にカーボンブラック粉末100質量部に対して100重量部のアミノプロピルアルコールを添加した。さらに、30分後にカーボンブラック粉末100質量部に対して550重量部のテトラ−n−ブトキシスズを加え、激しく撹拌しながら1時間、加水分解縮合反応を行った。これにより、ペロブスカイト型酸化物/カーボンブラックの表面を酸化スズ前駆体で被覆した粒子を得た。その後、遠心分離によって試料を取り出し、60℃の恒温槽中で一晩乾燥させた。その触媒前駆体をアルゴン雰囲気下で350℃、3時間の焼成を行った。これにより、ペロブスカイト型酸化粒子と該ペロブスカイト型酸化粒子を担持したカーボンブラックを部分的にSnOで被覆した所望の触媒粒子(4)を得た。得られた触媒粒子(4)を透過電子顕微鏡(TEM)により観察することで、所望の触媒粒子が形成されているか確認した。透過型電子顕微鏡を用い、得られた触媒粒子のSnO被覆層の厚さ、また、Arガス吸着法によりSnO被覆層の細孔分布を測定した。SnO被覆層は概ね5〜10nmの厚さで、細孔は0.4〜1.0nmに分布があった。
【0145】
比較例1
SiO被覆を行わない以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型酸化物/カーボンブラック粒子(比較触媒粒子(1))を得た。
【0146】
比較例2
SiO被覆を行わない以外は、実施例2と同様にしてペロブスカイト型酸化物/カーボンブラック粒子(比較触媒粒子(2))を得た。
【0147】
評価:非貴金属酸化物の溶出の確認
上記実施例1〜4で得られた触媒粒子(1)〜(4)ならびに比較例1、2で得られた比較触媒粒子(1)、(2)1gを、0.5モルの硫酸溶液(100mL)中に加え、80℃で24時間攪拌した。
【0148】
次いで、上記混合溶液を、ろ過、洗浄(水洗)し、100℃で24時間乾燥した。その後、各触媒粒子を、X線回折装置を用いて、CuKα線をX線源として2θ=20°ないし80°の範囲で測定し、試験前後のペロブスカイト型のLaMnO3.0の強度(積分強度)を比較した。その結果を下記表1に示す。
【0149】
【表1】

【0150】
上記表から、実施例1〜4の本発明の触媒粒子(1)〜(4)は、比較例1、2の比較触媒粒子(1)、(2)に比して、強度の低下が有意に低減されていることが分かる。この結果は、本発明の電極触媒中の非貴金属酸化物の酸による溶出が有意に抑制されていることによるものと考察される。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1A】本発明の電極触媒の代表的な構成を示す模式図である。
【図1B】本発明の電極触媒の代表的な構成を示す模式図である。
【図1C】本発明の電極触媒の代表的な構成を示す模式図である。
【図1D】本発明の電極触媒の代表的な構成を示す模式図である。
【図1E】本発明の電極触媒の代表的な構成を示す模式図である。
【図2】本発明の燃料電池の基本構成(単セル構成)を模式的に表した断面概略図である。
【符号の説明】
【0152】
1…導電性担体、
2…非貴金属酸化物触媒、
3…保護層、
10…電極触媒、
20…燃料電池セル、
21…電解質膜、
22…燃料電池電極触媒層、
22a…アノード触媒層、
22b…カソード触媒層、
23…ガス拡散層、
23a…アノードガス拡散層、
23b…カソードガス拡散層、
24…電解質膜−電極接合体(MEA)、
25a…アノードセパレータ、
25b…カソードセパレータ、
26a…アノード側ガス流路(溝)、
26b…カソード側ガス流路(溝)、
27…ガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体と、
前記導電性担体に担持される非貴金属酸化物触媒と、
前記非貴金属酸化物触媒を保護する保護層と、
を有することを特徴とする電極触媒。
【請求項2】
前記非貴金属酸化物触媒が、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ランタン(La)およびストロンチウム(Sr)からなる群より選択される金属の酸化物、ならびに前記金属の酸化物の部分窒化物、部分炭化物および部分炭窒化物からなる群より選択される少なくとも一から形成される触媒粒子である、請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記保護層は、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、酸化スズ(SnO)およびチタニア(TiO)からなる群より選択される少なくとも一の多孔性無機材料を含む、請求項1または2に記載の電極触媒。
【請求項4】
前記多孔性無機材料は、0.4〜2nmの細孔を有する、請求項3に記載の電極触媒。
【請求項5】
前記保護層の厚みは、1〜100nmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項6】
前記保護層は、導電性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項7】
前記導電性担体は、カーボンブラック、高温(黒鉛化)処理したカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンおよびカーボンフィブリル構造体からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項8】
前記導電性担体は、BET比表面積が50〜2000m/gのアセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラックおよびブラックパールならびにこれらを熱処理したものからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項9】
導電性担体上に非貴金属酸化物触媒を担持する工程と、
前記非貴金属酸化物触媒が担持された導電性担体を、多孔性無機材料により包接する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極触媒の製造方法。
【請求項10】
導電性担体上に非貴金属酸化物触媒を担持する工程の前に、導電性担体の表面を親和処理する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の一方に配置されたカソード触媒層と、前記高分子電解質膜の他方に配置されたアノード触媒層と、を有する電解質膜−電極接合体であって、
前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極触媒または請求項9もしくは10に記載の方法によって製造される電極触媒を含む、電解質膜−電極接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池。
【請求項13】
請求項12に記載の燃料電池を搭載した車両。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−67509(P2010−67509A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233641(P2008−233641)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】