説明

電極転写フィルム

【課題】積層セラミックコンデンサの電極形成に使用される離型層を必要としない転写信頼性の高い電極転写フィルムを提供する。
【解決手段】基材のプラスチックフィルムの片面に電極となる金属膜が形成された電極転写フィルムにおいて、前記基材のプラスチックフィルムは、厚み12〜30μmの2軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムであることを特徴とする電極転写フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子部品用の電極形成について、電極材料を成膜したフィルムから転写法によって被転写物に電極材料を転写し電極を形成するための電極転写フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、積層セラミックコンデンサの電極を形成する場合には、まず基材フィルム上に形成されたグリーンシート表面に、ペースト法によって電極材料を所定のパターン状に塗布、乾燥させて電極部を形成する。この後、ペーストを塗布したグリーンシートを必要枚数積層し、さらに焼成することが行われる。
【0003】
近年、積層セラミックコンデンサの小型化、高容量化が要求され、このような要求に対する一つとして、グリーンシート厚および電極厚を薄くすることで、積層方向に対する電極間距離を小さくするとともに、高積層化を実現する方法が検討されていた。
その結果、グリーンシートは基材フィルム表面にドクターブレードなどでシート状に形成されることから、現在1〜2μm程度の薄膜が形成されるに至っている。その一方で、電極部に関しては、スクリーン印刷により形成されることから、スクリーンマスク自体の厚みの影響などもあり、薄膜化、特に膜厚1μm以下の電極形成は非常に困難となっていた。
【0004】
この問題を解決する方法として、たとえば特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(以下、PET樹脂フィルムと称す)表面に蒸着法やスパッタリング法を用いて形成した金属膜を、全面または電極パターン形状に成形し、この膜をグリーンシート表面に加熱しながら押し付けることで、所定の形状の電極部を形成する方法が示されている。しかし、PET樹脂フィルムからグリーンシート表面に金属膜の電極部を転写するために、PET樹脂フィルムと金属膜との密着強度は、加熱、押圧により金属膜が容易に剥がれてグリーンシート上に転写される程度に低くなければならないが、単にPET樹脂フィルム表面に金属膜を成膜しただけの転写フィルムでは、必ずしもグリーンシート表面への転写性は良好とはいえなかった。
【0005】
このため、転写フィルムにおける基材フィルム表面と金属膜との密着強度を制御する方法として、担持フィルムと回路パターン形状の内部電極との間に、異なる2種類の樹脂からなる表面処理層を設ける方法(特許文献2参照)、あるいはプラスチックフィルムと金属膜との間に、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂またはフッ素樹脂の離型層を設けた電子部品用金属膜転写フィルム(特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
しかし、この表面処理層や離型層を形成する方法を用いた場合、担持フィルムやプラスチックフィルム表面に表面処理層や離型層を形成するために、その構成用樹脂の塗布工程、および乾燥工程が必要であることから、工程数が増加し、強いては製造コストの増加や生産性の低下を引き起こす要因となってしまう。また、グリーンシートへの電極部の転写の際に、基材フィルムから表面処理層や離型層の樹脂が剥離し、金属層と一緒にグリーンシートに転写され、その除去が不十分であった場合に、この樹脂は積層工程、焼結工程の際に気化、拡散することで、汚染物質として積層セラミックコンデンサに取り込まれる恐れがあり、コンデンサ特性を維持する点で望ましくない。
【0007】
一方、基材となる樹脂フィルム表面に金属酸化物層および電極材料となる金属層を順次形成し、その金属酸化物層を離型層とすることで転写性を向上させる方法も検討されている(特許文献4参照)。
この方法では金属酸化物層を離型層として利用するため、離型樹脂層を形成する場合のように樹脂の気化・拡散による汚染の影響は小さい。しかし、離型樹脂層の場合と同様に転写の際の不均一な剥離によるグリーンシート側への残留、除去不足によって、コンデンサ特性に悪影響を及ぼす恐れがある。さらには蒸着法やスパッタリング法を用いて、一度薄い金属層をフィルム上に形成した後、一旦外に出してから、成膜した金属層を大気中や酸化雰囲気中で酸化処理して酸化物層とし、再度乾式成膜法によって金属層を形成する必要があることから、真空成膜工程を2回行うこととなり、チャンバー内の真空吸引時間なども含め成膜時間の増加も招き、製造コストや生産性に悪影響を及ぼすことから望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−42809号公報
【特許文献2】特開平7−115035号公報
【特許文献3】特開2003−59756号公報
【特許文献4】特開平4−65284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電極転写フィルムの基材に2軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(以下、OPP樹脂フィルムと称す)を使用し、離型層を必要としない転写信頼性の高い電極転写フィルムの提供を目的とするものである。
さらに、本発明の電極転写フィルムを用いることで、基材表面の金属膜を電極パターンに形成すること無く、グリーンシートなどに電極を転写、形成することができるために製造工程の短縮をはかることができ、その製造性を向上せしめるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの問題を解決する方法として、先ず本発明者らは、従来の透明性に優れ、包装用フィルムとして汎用されるPET樹脂フィルムに代わるフィルム材質を種々検討した結果、好適な厚みの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを電極転写フィルムの基材(ベースフィルム)として使用することにより、これまで必要とされていたシリコーン樹脂やフッ素樹脂、あるいは金属酸化物層などの離型層を設けることなく、転写法によりグリーンシート表面に電極を形成することができることを見出した。
さらに、特定のスパッタリング条件で、この2軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム表面上に金属膜を形成することで、より転写性が高められることも見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明における第1の発明は、基材のプラスチックフィルムの片面に電極となる金属膜が形成された電極転写フィルムにおいて、その基材のプラスチックフィルムは、厚み12〜30μmの2軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムである電極転写フィルムである。
【0012】
第2の発明は、その金属膜が、スパッタリング法を用いて形成される厚みが0.5μm以下の金属膜である第1の発明に記載の電極転写フィルムである。
【0013】
第3の発明は、第1および第2の発明による電極転写フィルムが、電極パターンを形成された金型により、電極転写フィルム上の金属膜がセラミックグリーンシートに転写されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電極転写フィルムの基材フィルム表面に離型層を設ける必要がなくなるので、製造性に優れ、また、被転写物に離型層が混入することがなく、さらには、グリーンシート表面に電極パターンを転写するに際し、パターン端部の直線性に優れると共に内部に未転写部分を有さないパターンを、信頼性よく形成することを可能とするものである。
【0015】
さらに、適切な条件により形成した金属膜を用いることで、グリーンシート表面に転写された電極の転写良品率が95%以上と高い電極転写フィルムを得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による電極転写フィルムを示す図で、(a)は電極転写フィルムの断面図、(b)は転写試験における電極転写フィルムの配置を示す図である。
【図2】実施例における目視による評価基準を示す図で、(a)は良品、(b)〜(d)は不良品を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、特許文献1(請求項4、p6.37行からp7.6、および図8、9参照)に記載される技術において、転写フィルムに離型層を挟まずに設けられた金属膜に電極パターンを形成しないで、転写時に電極パターンを形成する転写法に用いられる電極転写フィルムとして好適なものである。以下、本発明の構成について詳細に説明する。
【0018】
1.電極転写フィルムの基材(転写フィルム)
電極転写フィルムに用いる基材のプラスチックフィルムは、材質により電極となる金属膜との密着力が異なるので、その材質の選択は重要である。従来金属膜の形成は、スパッタリング法あるいは蒸着法などの乾式めっき法が利用されていて、このような処理に強いPET樹脂フィルムが最も一般的に使用されてきている。
【0019】
ところで、一般にフィルムの表面張力が小さくなるとフィルム表面の離型性は良くなるが、この表面張力はフィルムの分子構造中にフッ素基やメチル基などの化学的に安定な感能基を有する場合に小さくなることが知られている。一方PET樹脂フィルムは、構造中にメチル基を有さず表面張力が比較的大きくなるため、転写フィルムとして用いるにはフィルム表面に表面張力を小さくするための離型層を形成する必要があった。この離型層は工程数の増加やMLCC内部へのコンタミネーションとなる可能性があるため、極力使用しないことが望ましかった。
【0020】
そこで、表面張力がPET樹脂フィルムより小さく、転写フィルムの基材に利用可能な樹脂フィルムとして、分子構造中にメチル基を有しているため表面張力が小さいと考えられるポリプロピレン樹脂フィルム(以下、PP樹脂フィルムと称す)を見出した。
【0021】
特に、二軸延伸PP樹脂フィルム(以下、OPP樹脂フィルムと称す)は、離型層を必要とせず、かつコロナ処理や帯電防止処理の有無にも関係なく良好な転写性を示すことを見出した。このOPP樹脂フィルムは、その製造時に150℃程度の温度雰囲気中で2軸方向に延伸させた状態で樹脂の結晶を熱固定するもので、その結果フィルムの結晶性がよくなり、表面にメチル基が規則性よく配列することなどから表面の活性度が低くなると考えられる。また、結晶が熱固定されていることから耐熱性に優れており、転写時の加熱による表面の軟化に伴う表面活性化を抑制することができる。
【0022】
なお、同じポリプロピレン樹脂フィルムであっても、無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(以下、CPP樹脂フィルムと称す)や一軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムでは、製造時の延伸工程がない、あっても十分でないなどの点から、結晶性の低いフィルムとなっているため、フィルム表面へのメチル基の形成が十分でなく表面活性度が高く、結晶の熱固定もされていないため、転写時の加熱によって表面活性度がさらに高くなるため、フィルムの離型性が十分でなく、転写フィルムの基材としての性能を満足していない。
【0023】
使用するOPP樹脂フィルムの厚みについては、12〜30μmの厚みが好ましい。フィルムの厚みが、10μmより薄い場合ではフィルム強度の不足によってスパッタリング時の発生熱やフィルム搬送時のテンションによってフィルムの変形が生じる恐れがある。またシワがつきやすいなどのハンドリング性が低下することから望ましくない。一方、30μmより厚いフィルムの場合、押圧することで金属膜を転写する際に、金型からの熱および荷重が、押圧するフィルム上の箇所の電極パターンの直下のみでなくその周辺にも伝わるため、力が分散し、金型の電極パターン形状通りに電極の形状がうまく転写されないため望ましくない。
【0024】
2.金属膜
2−1.材質、膜厚
電極となる金属膜は、その材質は特に限定されるものではなく、要求される電極特性に適合するように適宜設定するものであるが、基材のプラスチックフィルムとの密着性が、転写法の使用において適合するように、形成方法、膜厚を設定することが重要である。特に金属膜の膜厚は、電極としての特性を発揮する厚みを満足し、かつ転写時に金型による押圧によって転写し易い膜厚で、0.5μm以下であることが望ましい。この厚みを超えた場合には、転写時に金型によって電極パターンに沿わず、形状が歪むなどの問題を生じる場合が有る。また、あまり薄くなると電極としての機能を失い、またグリーンシートへの転写も困難となってくるので膜厚の選定には注意が必要である。なお、膜厚が0.1μmでは良好な転写性を有している。
【0025】
2−2.形成方法
ところで、金属膜の形成方法の一つであるスパッタリング法は、ターゲット材質の違いにかかわらず、ターゲットから発生した直後のスパッタ粒子の運動エネルギーは数eV程度とほぼ同じエネルギー範囲を示し、一方基材のプラスチックフィルムとの密着強度は、スパッタ粒子の運動エネルギーと基材のプラスチックフィルムの表面活性度の相乗効果で決まることから、ターゲット材質の違いによる影響はほとんどない。膜厚に関しても、スパッタリング時間の調整によりその厚みは容易に制御することができ、任意の膜厚が設定できることからスパッタリング法を用いることが望ましい。
【0026】
そのスパッタリング法を用いて、本発明の電極転写フィルムに好適な金属膜を形成する条件としては、雰囲気は不活性ガス、特には形成する金属膜の材質との反応性を考慮するとArガスが望ましく、そのガス圧を0.2〜0.8Pa、より好ましくは0.2〜0.4Pa、スパッタパワーをターゲット面積に対して0.5〜8W/cm、好ましくは0.7〜7.0W/cmとし、かつ電極間距離、すなわちターゲットと被成膜面となるプラスチックフィルム表面との間の距離を4〜12cm、望ましくは5〜10cmとすることにより、より好ましい金属膜が形成できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
実施例で電極転写フィルムの評価に用いたグリーンシートは、表1に示す成分組成の誘電体材料を混ぜ合わせた後、厚み50μmのPET樹脂フィルムの表面に塗布、乾燥することで作製した。乾燥後の誘電体層の膜厚は2μmに調整した。
【0028】
【表1】

【0029】
金属膜の形成に使用するスパッタリング装置は、ULVAC社製DCマグネトロンスパッタ「SBR-1104型」を用い、スパッタリング条件は、各実施例、比較例で説明する条件でスパッタリングを行い、金属膜を成膜した。
【0030】
電極転写フィルムの評価試験に用いた転写装置は、電極転写フィルムを設けた金属膜を介してグリーンシートと重ね合わした試料を、加熱および加圧する金型とプレス装置とかなる。このプレス装置にアズワン製小型熱プレス機「AH−2003」を用いるとともに、転写温度および転写圧力は、本プレス機に付属の温度コントローラーおよび油圧式圧力計を用いて転写性を評価した。
使用する金型のエッジ部の曲率半径は、測定顕微鏡(ニコン株式会社製「MM−60」)を用いて評価した。転写時の押圧条件は、荷重500kg/cmとした。
【0031】
また実施例において、その転写時間はほぼ同一の時間で行った。なお転写時間とは、加熱された下型に試料を載置し、加熱された上型で試料を押さえて加圧を行い、金属膜をグリーンシートに転写するまでに掛かる時間の内、金型の上型が下降して試料を押さえて加圧し、上昇して試料より離れるまでの加圧に要する時間を転写時間と定義している。
【0032】
以下、実施例1〜3、比較例1〜5、従来例1、2は、主として基材のプラスチックフィルム材質とその離型処理に関して、表2に示す代表的なスパッタリング条件での比較を行い、表3に結果を示したものである。
また、実施例4〜10は基材のプラスチックフィルム材質、厚みを本発明のものとして、導電材料と導電膜厚の設定を変えた場合でも、高い転写良品率を得るためのスパッタリング条件があることを表4〜10にて確認したものである。
【実施例1】
【0033】
図1(a)に示すように、基材のプラスチックフィルム2に、厚み12μmの二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(OPP:フタムラ化学株式会社製「FOR」)を用い、その表面に表2のスパッタリング条件を用いて、厚み0.5μmの金属膜であるNi膜3をスパッタリング法により設けて電極転写フィルム1を作製した。この電極転写フィルム1を表1に示すグリーンシート4の誘電体層5(6は基材のPET樹脂フィルム)と、設けたNi膜3を重ねた試料7を、図1(b)に示すように平面状の下型12にグリーンシート側を下にして配置し、長方形凸状の電極パターン21を上型の押圧面(図示せず)に備える上型11を用いて、プレス装置(図示せず)により押圧(プレス)して、グリーンシート4上に電極パターンを転写した。転写時間は60秒とした。
転写に際して、上型、下型の温度は、それぞれ70℃、50℃に制御し、プレス圧力500kg/cmで行った。また、上型の電極パターンのエッジ部の曲率半径は10μmとした。
【0034】
【表2】

【0035】
グリーンシート表面に転写された電極パターンを構成する金属膜の形状について、目視による評価を行った。評価の基準は、図2(a)〜(d)に示す顕微鏡写真で示すように、形状が明確に転写されており、かつ転写された金属膜端部の直線性が良好であるものを良品(図2(a))、それ以外を不良品(図2(b)〜(d))とした。この評価基準を用いて、転写パターン全体(100個)中の良品(図2(a))の割合を、転写良品率として評価して、表3に記した。
【実施例2】
【0036】
基材のプラスチックフィルムに、厚み20μmのOPP樹脂フィルム(フタムラ化学株式会社製「FOR」)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、電極パターンの転写試験を行った。その結果を表3に示す。
【実施例3】
【0037】
基材のプラスチックフィルムに、厚み30μmのOPP樹脂フィルム(フタムラ化学株式会社製「FOR」)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、電極パターンの転写試験を行った。その結果を表3に示す。
【0038】
(比較例1)
基材のプラスチックフィルムに、本発明の範囲外の厚み8μmと薄いOPP樹脂フィルム(信越化学工業株式会社製「R」)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、電極パターンの転写試験を行った。その結果を表3に示す。
【0039】
(比較例2)
基材のプラスチックフィルムに、本発明の範囲外の厚み40μmと厚いOPP樹脂フィルム(フタムラ化学株式会社製「FOA」)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、電極パターンの転写試験を行った。その結果を表3に示す。
【0040】
(比較例3)
基材のプラスチックフィルムに、厚み20μmの一軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(フタムラ化学株式会社製「MCMD−AS」)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、電極パターンの転写試験を行った。その結果を表3に示す。
【0041】
(比較例4)
基材のプラスチックフィルムに、厚み20μmの無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(CPP:フタムラ化学株式会社製「FP」)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、電極パターンの転写試験を行った。その結果を表3に示す。
【0042】
(比較例5)
表3に示すように、基材のプラスチックフィルムに厚み16μmのPET樹脂フィルムを用いた以外は、実施例1同様の条件で転写試験を行い、その結果を表3に示す。
【0043】
(従来例1)
表3に示すように、基材のプラスチックフィルムに厚み16μmのPET樹脂フィルムを用い、シリコーン樹脂の離型層を介して金属膜を設け、転写に際しては上型のみを100℃の温度に制御した以外は、実施例1同様の条件で転写試験を行い、その結果を表3に示す。
【0044】
(従来例2)
表3に示すように、基材のプラスチックフィルムに厚み16μmのPET樹脂フィルムを用い、フッ素樹脂の離型層を介して金属膜を設け、転写に際しては上型のみを100℃の温度に制御した以外は、実施例1同様の条件で転写試験を行い、その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3から明らかなように、実施例1〜3の場合、金属膜はグリーンシート表面に明確に転写されており、端部の直線性も良好で、良品率転写率は80%以上であった。
【0047】
厚みが20μmと同じである、OPP樹脂フィルムを用いた実施例2と、一軸延伸PP樹脂フィルムを用いた比較例3と、無延伸PP樹脂(CPP)フィルムを用いた比較例4との比較においては、実施例2では80%の転写良品率を示したが、同じポリプロピレン樹脂フィルムであっても、結晶性に劣る比較例3と比較例4の転写良品率は悪く、実用に耐え無いものであることが表3から明らかで、延伸処理の違いにより転写品質が大きく影響を受けていることがわかる。
【0048】
基材のプラスチックフィルムに、従来から使用されているPET樹脂フィルムを用いた比較例5では、転写品質が大きく低下していることがわかる。すなわち、特許文献1に記載されるPET樹脂フィルムを基材のプラスチックフィルムに用い、離型層を挟まずに金属膜を設けた電極転写フィルムでは、満足した転写品質が得られないことがわかる。
【0049】
一方、PET樹脂フィルムを基材に用い、シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂の離型層を介して金属膜を設けた電極転写フィルムの従来例1、2では、転写品質は本発明と同程度が得られているが、離型層を基材上に設ける工程および転写後に残存している離型層成分の除去工程が、必要であることから生産性の面から本発明に劣っている。
【実施例4】
【0050】
次に、図1(a)に示すように、基材のプラスチックフィルム2に、厚み20μmの二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(OPP:フタムラ化学株式会社製「FOR」)を用い、その表面に表4のスパッタリング条件を用いて、厚み0.1μmの金属膜であるNi膜3をスパッタリング法により設けて電極転写フィルム1を作製した。なお、実施例4から実施例10におけるスパッタリングにはArガスを用いた。
この電極転写フィルム1を表1に示すグリーンシート4の誘電体層5と、設けたNi膜3を重ねた試料を、図1(b)に示すように平面状の下型12にグリーンシート側を下にして配置し、長方形凸状の電極パターン21を加圧面に備える上型11を用いて、プレス装置(図示せず)により押圧(プレス)して、グリーンシート4上に電極パターンを転写した。
転写に際して、上型、下型の温度は、それぞれ90℃、65℃に制御し、プレス圧力500kg/cmで行った。また、上型の電極パターンのエッジ部の曲率半径は10μmとした。
【0051】
実施例1と同様に誘電体グリーンシート表面に転写された電極パターンを構成する金属膜の形状について、目視による評価を行い、その結果を表4に記した。
表4において、「数値」は転写良品率[%]を示し、「×」は金属膜の形成は可能であったが膜表面に割れが生じていたものを示し、「−」はプラズマが発生せずに金属膜の形成ができなかったもの、「/」は未試験のものであり、ガス圧の適正条件の中でも未試験の場合があるが、ガス圧、スパッタパワー、電極間距離の関係から良好な転写良品率を示すものと判断した。
【実施例5】
【0052】
形成する金属膜を厚み0.3μmのNi膜とし、表5に示すスパッタリング条件により形成した以外は、実施例4と同様の条件で電極パターンの転写試験を行った。その結果を表5に併せて示す。
【実施例6】
【0053】
形成する金属膜を厚み0.5μmのNi膜とし、表6に示すスパッタリング条件により形成した以外は、実施例4と同様の条件で電極パターンの転写試験を行った。その結果を表6に併せて示す。
【実施例7】
【0054】
形成する金属膜を厚み0.1μmのCu膜とし、表7に示すスパッタリング条件により形成した以外は、実施例4と同様の条件で電極パターンの転写試験を行った。その結果を表7に併せて示す。
【実施例8】
【0055】
形成する金属膜を厚み0.5μmのCu膜とし、表8に示すスパッタリング条件により形成した以外は、実施例4と同様の条件で電極パターンの転写試験を行った。その結果を表8に示す。
【実施例9】
【0056】
形成する金属膜を厚み0.1μmのNi−Ti膜とし、表9に示すスパッタリング条件により形成した以外は、実施例4と同様の条件で電極パターンの転写試験を行った。その結果を表9に示す。
【実施例10】
【0057】
形成する金属膜を厚み0.5μmのNi−Ti膜とし、表10に示すスパッタリング条件により形成した以外は、実施例4と同様の条件で電極パターンの転写試験を行った。その結果を表10に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
【表9】

【0064】
【表10】

【0065】
表4から表10で明らかなように、電極間距離が5〜10cm、スパッタパワーが0.7〜7W/cm、雰囲気のガス圧が0.2〜0.8Paの範囲を全て満足する条件におけるスパッタリングにおいては、金属膜の材質、膜厚が異なっても80%以上の良好な転写良品率を示す電極転写フィルムを得ることができる。さらに、ガス圧を0.2〜0.4Paの範囲に制御することで95%以上の高い転写良品率の電極転写フィルムを得ることができることがわかる。
【0066】
一方、電極間距離が近すぎたり、遠すぎたりする場合には、金属膜の形成後に、その表面にクラックなどが生じて良好な金属膜を得ることができず、したがって電極転写フィルムが提供できなかった。また、スパッタパワーが弱い場合には、プラズマの発生が困難となり、金属膜の形成ができない場合もあった。
【0067】
以上、基材のプラスチックに二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムを用い、金属膜の材質および膜厚の違いによらず、適正なスパッタリング条件により金属膜を形成することによって、80%以上の良品転写率を得、さらに好適なスパッタリング条件を用いることにより95%以上と高い良品転写率の電極転写フィルムを得ることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 電極転写フィルム
2 基材(転写フィルム)
3 金属膜(Ni膜、Cu膜、Ni−Ti膜)
4 グリーンシート
5 誘電体層
6 グリーンシート基材
7 試料
10 金型
11 上型
12 下型
21 凸状電極パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材のプラスチックフィルムの片面に電極となる金属膜が形成された電極転写フィルムにおいて、
前記基材のプラスチックフィルムは、厚み12〜30μmの2軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムであることを特徴とする電極転写フィルム。
【請求項2】
前記金属膜が、スパッタリング法を用いて形成される厚みが0.5μm以下の金属膜であることを特徴とする請求項1記載の電極転写フィルム。
【請求項3】
前記金属膜が、電極パターンを形成された金型により、セラミックグリーンシートに転写されることを特徴とする請求項1または2に記載の電極転写フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−222832(P2011−222832A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91653(P2010−91653)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】