説明

電気・電子部品用の洗浄剤

【課題】 帯電を確実に防止でき、配線等の腐食を起こすこともない、歩留まりよく電気・電子部品の製造が可能となる洗浄剤。
【解決手段】 (1)炭化水素系溶剤が93〜100質量%、オクタノール等の(2)炭化水素系溶剤以外の有機溶剤が0〜7質量%、及びテトラオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド等の(3)下記一般式(I)
【化1】


{上記式中、ZはN又はP、R〜Rは炭素数4〜20の置換されていてもよい炭化水素基を示し、該R〜Rのうち最も炭素数の多い基と、最も少ない基との炭素数の比は2以下であり、Xは下記式(II)
【化2】


(上記式中、A、Aはフルオロアシル基等を示す)で示されるアニオンを示す。}で示される有機オニウム塩が(1)と(2)の合計100質量部に対して、0.001〜10質量部を主成分とする洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ、化合物半導体、プリント基板、実装基盤、磁気ヘッド、磁気ディスク等の電気・電子部品用の洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド等の電気素子は、被膜形成、研磨、切断等の行程を繰り返して製造されるが、これらの行程において金属、半導体等からなる素子や基板を加工装置に固定するためにワックス、シリコーン油等が使用されている。このワックス等が素子表面に残留していると、次の製膜行程を妨害することがある。
【0003】
このためワックス等を除去する必要が有る。ワックス等を除去する洗浄剤としては、一般的にノルマルヘキサン等の石油系(炭化水素系)洗浄剤が使用されている。しかし、石油系溶剤のような非極性の溶剤は帯電しやすく、発生する静電気によって発火する危険があるだけでなく、静電気により素子が破壊されるという問題点がある。
【0004】
この問題に対して、炭化水素系溶剤にアニオン型界面活性剤を添加した洗浄剤が、ある程度静電気発生を防止する効果があることも知られている。しかし、アニオン型界面活性剤が必ずしも良好に溶解せず、あるいは一旦溶解しても時を経るに従い、沈殿を生じたりして、溶液の貯蔵安定性に問題がある。さらには、このような問題を有する洗浄剤で成形物を洗浄した場合、乾燥後成形物表面に粉状の白色物を生じて表面が汚損されるという問題がある。この問題を解決するために、アニオン型界面活性剤に加えてさらに極性溶媒を炭化水素系洗浄剤に添加して帯電を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
一方、有機アンモニウム塩とイミド化合物からなる有機オニウム塩を、熱可塑性ポリマーとの溶融ブレンドにより練り込み繊維やフィルム、あるいは、アルキルアクリレートに練り込み感圧接着剤に帯電防止性を付与する技術が知られている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0006】
上記有機アンモニウム塩とイミド化合物からなる有機オニウム塩は、塩でありながら常温近辺でも液状を示すため、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタの電解質として種々検討がなされている(例えば、特許文献4、5参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平6―136387号公報
【特許文献2】特表2003−511505号公報
【特許文献3】国際公開第03/011958号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/012900号パンフレット
【特許文献5】特開平7−272982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、従来用いられてきたアニオン型界面活性剤では炭化水素系有機溶剤に対する溶解度が低いため、充分な帯電防止性を得ることが困難である。極性溶剤を併用することにより該アニオン型界面活性剤の溶解性を向上させることが可能であるが、今度は、洗浄剤の吸水性が高くなってしまうという問題が新たに生じる。
【0009】
洗浄剤に多量の水が含まれると、この水の影響により腐食が進行し易くなり、そのため電子・電子部品の微細な配線が破損しやすく、歩留まりが低下してしまう。
【0010】
特に、従来から用いられてきている界面活性剤は、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンや、塩素イオン、臭素イオン等のハロゲンイオンを含むものが多く、これらアルカリ金属イオン、ハロゲンイオンは腐食を促進する作用を有するため電子・電子部品の洗浄に用いることは困難である。なお、過塩素酸イオンや硼フッ化物イオン等は加水分解してハロゲンイオンを生じるため、これらのアニオンを有す界面活性剤を含有する洗浄剤も用いることはできない。
【0011】
従って、静電気の帯電がほとんどなく、かつ配線等の腐食を起こすこともないため、電子・電子部品の洗浄に用いても素子等の破壊や腐食を起こさず、よって歩留まりよく電気・電子部品の製造が可能となる洗浄剤が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。そして特定の構造の有機オニウム塩を帯電防止剤として採用すると、溶剤の親水性を高めてしまう極性溶剤をほとんど配合しなくても炭化水素系溶剤に良好に溶解することを見出し、さらに検討を進めた結果、本発明を完成した。
【0013】
即ち本発明は、
(1)炭化水素系溶剤:93〜100質量%、
(2)炭化水素系溶剤以外の有機溶剤:0〜7質量%、及び、
(3)下記一般式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
{上記式中、Zは窒素原子又は燐原子を示し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数4〜20の置換されていても良い炭化水素基を示し、かつ該R、R、R及びRのうち最も炭素数の多い炭化水素基と、最も炭素数の少ない炭化水素基との炭素数の比は2以下であり、Xは下記式(II)
【0016】
【化2】

【0017】
(上記式中、A、Aはそれぞれ独立にフルオロアシル基、フルオロアルコキシカルボニル基、フルオロアルキルスルフォニル基、フルオロアルコキシスルフォニル基又はニトリル基を示す)で示されるアニオンを示す。}
で示される有機オニウム塩:(1)と(2)の合計100質量部に対して、0.001〜10質量部、
を主成分とする電気・電子部品用の洗浄剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の洗浄剤は、炭化水素系溶剤を主とし(93〜100質量%)、その他の有機溶剤を7質量%以下しか含まないため、吸水性が極めて低く、非洗浄物を腐食する可能性がほとんどない。また、特定構造の有機オニウム塩を帯電防止成分として採用することにより、上記のような炭化水素系溶剤を主成分とする溶剤にもよく溶け、かつ少量でも高い帯電防止性を得ることができる。これにより、磁気ヘッド、プリント基板、実装基盤、磁気記録ディスク等の洗浄に用いても腐食や静電気による素子の破損がほとんど生じることなく、歩留まりよく電気・電子部品を製造することが可能となる。また、静電気の帯電による発火の危険性もほとんど無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の洗浄剤は有機溶剤と有機オニウム塩を主成分とし、該溶剤は(1)炭化水素系溶剤が93〜100質量%、及び7質量%以下の炭化水素系溶剤以外の有機溶剤(以下、非炭化水素系有機溶剤)からなる。炭化水素系溶剤の割合が93質量%より少なくなると、ワックス、グリース、シリコーン油等の洗浄性(溶解性)が低下するのみならず、吸水性が急激に高くなり、これにより、被洗浄物の腐食が起き易くなる。また、ハロゲン系溶剤を主成分とした場合には、該ハロゲン系溶剤の分解によって生じるハロゲンイオンが腐食を促進することもある。
【0020】
当該炭化水素系溶剤としては、電気・電子部品の洗浄用として公知の炭化水素系有機溶剤を採用すればよく、ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素およびナフテン系炭化水素などの飽和炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。毒性が少なく、また洗浄性に優れる点でノルマルパラフィン系炭化水素又はイソパラフィン系炭化水素が好ましく、ノルマルパラフィン系炭化水素が特に好ましい。また、揮発性や引火性を考慮すると炭素数が6〜25のノルマルパラフィン系炭化水素が好ましく、炭素数が8〜20のノルマルパラフィン系炭化水素がより好ましい。このようなノルマルパラフィン系炭化水素を具体的に例示すると、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等が挙げられる。またイソパラフィン系炭化水素としては、イソオクタン、イソノナン、イソデカン、イソウンデカン及びイソドデカンが例示され、ナフテン系炭化水素としてはシクロペンタン、アルキルシクロペンタン、シクロヘキサン、アルキルシクロヘキサン、デカリンが例示され、芳香族系炭化水素としてはトルエン、キシレン、アルキルベンゼン等が例示される。洗浄性(溶解性)、揮発性、臭気、引火点、比重、色などの各種特性を勘案して、これら炭化水素系化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて、被洗浄物の構成材料に悪影響を与えず、除去すべき対象物に対する溶解性の良いものを用途に応じて適宜選択、組み合わせて炭化水素系溶剤として使用することができる。
【0021】
充分な洗浄性と低い吸水性を得るためには、上記炭化水素系有機溶剤の配合量は、洗浄剤に配合される全有機溶剤中93質量%以上である必要があり、95質量%以上であるのが好ましく、98質量%以上であるのがより好適であり、99質量%以上であるのさらに好ましい。
【0022】
本発明の洗浄剤における溶剤は上記炭化水素系溶剤を主成分とするが、後述する有機オニウム塩の溶解性を向上させるために、その他の有機溶剤を少量配合することも好ましい。しかしながら、一般的な非炭化水素系有機溶剤、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、アミド類などは親水性が高く、多量に配合すると急激に洗浄剤の吸水性を上昇させてしまうため、その配合量は7質量%以下である必要がある。またハロゲン系の溶媒は毒性や腐食性の問題も有す。
【0023】
少量の添加でも炭化水素系溶剤に対する有機オニウム塩の溶解度の向上効果が高い点で、非炭化水素系の有機溶剤としては1級アルコール類を採用することが好ましく、さらには、吸水性を上昇させ難く、かつ、保管、使用中に揮発してなくなってしまうことが少ないため、相分離や結晶の析出の防止などの保存安定性にも優れる点で炭素数6〜20の直鎖状第1級アルコールが好ましい。当該炭素数6〜20の直鎖状第1級アルコールを具体的に例示すると、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール等が挙げられる。
【0024】
また合計量が7質量%以下であれば、洗浄性やその他の特性の調製のために必要に応じて上記第1級アルコール以外の非炭化水素系溶剤を用いることも可能であるが、吸水性をできるだけ低く抑え、さらには保存安定性にも優れた洗浄剤とするという観点からは、炭化水素系有機溶剤及び炭素数6〜20の直鎖状第1級アルコール以外の有機溶剤は可能な限り配合しないことが好ましい。当該直鎖状第1級アルコール以外の非炭化水素系有機溶剤としては、イソプロピルアルコール等の第2級アルコール類、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。
【0025】
本発明の洗浄剤における有機溶剤としては、必要充分な帯電防止性を付与できる量の有機オニウム塩を長期に渡って安定に溶解させることが容易で、かつ吸水性を低く抑えることが可能な点で、炭化水素系有機溶剤が99.999〜93質量%、炭素数6〜20の直鎖状第1級アルコールが0.001〜7質量%からなる混合溶剤であることが好ましく、炭化水素系有機溶剤が99.99〜95質量%、炭素数6〜20の直鎖状第1級アルコールが0.01〜5質量%であるのがさらに好適であり、炭化水素系有機溶剤が99.9〜98質量%、炭素数6〜20の直鎖状第1級アルコールが0.1〜2質量%であるのが特に好ましい。
【0026】
本発明における最大の特徴は、帯電防止のための成分として下記一般式(I)、
【0027】
【化3】

【0028】
{上記式中、Zは窒素原子又は燐原子を示し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数4〜20の置換されていても良い炭化水素基を示し、かつ該R、R、R及びRのうち最も炭素数の多い炭化水素基と、最も炭素数の少ない炭化水素基との炭素数の比は2以下であり、Xは下記式(II)
【0029】
【化4】

【0030】
(上記式中、A、Aはそれぞれ独立にフルオロアシル基、フルオロアルコキシカルボニル基、フルオロアルキルスルフォニル基、フルオロアルコキシスルフォニル基又はニトリル基を示す)で示されるアニオンを示す。}
で示される有機オニウム塩を前記有機溶媒の合計100質量部に対して、0.001〜10質量部配合する点にある。
【0031】
上記式(I)以外で示されるオニウム塩や界面活性剤では、前述したような炭化水素系有機溶剤を主成分とする有機溶剤に対する溶解性が低かったり、あるいは、帯電防止性能が低かったりして、充分な帯電防止性を得ることができない。換言すれば、上記以外の公知の帯電防止剤では、充分な帯電防止性を得るために必要な量を溶解するためには、非炭化水素系有機溶剤を7質量%を超えて遥かに多量に配合する必要があり、そのため吸水性の著しく高いものになってしまう。またアルカリ金属イオンやハロゲンイオンを含むような化合物の場合には、腐食をさらに促進するという問題も有する。
【0032】
それに対し上記式(I)で示される有機オニウム塩は、炭化水素系溶剤に対する溶解度が高く、非炭化水素系有機溶剤の配合を必要としないか、配合しても少量でよいため洗浄剤の吸水性を悪化させることがほとんどない。さらに上記式(I)で示される有機オニウム塩は水に溶解しないため、イオン交換水等で洗浄することによって、合成不純物等として混入することのあるアルカリ金属イオンやハロゲンイオンを容易に除去できるという利点も有す。
【0033】
上記式(I)において、Zは窒素原子又は燐原子を示す。即ち、上記式(I)で示される化合物は第4級アンモニウム塩もしくは第4級ホスホニウム塩である。
【0034】
上記式(I)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数4〜20の置換されていても良い炭化水素基を示し、かつ該R、R、R及びRのうち最も炭素数の多い炭化水素基と、最も炭素数の少ない炭化水素基との炭素数の比は2以下である。R、R、R及びRのいずれか一つでも炭素数3以下の炭化水素基である場合には、前記炭化水素系溶剤への溶解性が極度に低下し、前記式(I)で示される有機オニウム塩と同量を溶解させるために、非炭化水素系溶剤が多量に必要となってしまい、腐食性の問題が生じやすくなる。また、これらRが水素原子である場合にも上記と同様の問題が生じるのみならず、熱安定性も低下する。
【0035】
一方、炭素数21以上の置換基を有していると、オニウムカチオン同士の相互作用が増加してしまい、炭化水素系溶剤へ溶解させた際のイオンの移動度が低下するためであると推測されるが、十分な導電性(帯電防止性)を得ることができない。
【0036】
これらR、R、R及びRは、全て同一の炭化水素基でも、各々が異なる炭化水素基でも良いが、最も炭素数の多い炭化水素基(以下、最大炭化水素基)と、最も炭素数の少ない炭化水素基(以下、最小炭化水素基)との炭素数の比は2以下でなくてはならない。最大炭化水素基の炭素数と最小炭化水素基の炭素数の比が2を超える場合には、やはり十分な導電性を得ることができない。これは、その最短の炭化水素基部分で特異的にアニオンと相互作用してアニオン、カチオンの解離度が低下してしまうためであると推測される。
【0037】
また、上記R、R、R及びRにおける炭化水素基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子や、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基等の置換基が結合していてもよいが、炭化水素系溶剤への溶解性が良好であり、また、有機オニウム塩自体の吸水性が低く、さらには化学的安定性や環境負荷等を考慮すると、置換基を有さない炭化水素基であることがより好ましい。
【0038】
当該炭素数4〜20の炭化水素基は直鎖状、分枝状あるいは環状のいずれでも良く公知の炭化水素基でよい。当該炭化水素基を具体的に例示すると、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、オクタデシル基等の炭素数4〜20のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基等の炭素数6〜20のアリール基、ベンジル基等の炭素数7〜20のアラルキル基等が挙げられる。溶解性や化学的安定性を考慮すると、炭素数4〜20のアルキル基であるあることが好ましく、炭素数6〜15のアルキル基であることがより好ましい。
【0039】
上記一般式(I)で示される有機オニウム塩におけるカチオン部分である、第4級アンモニウムカチオンおよび第4級ホスホニウムカチオンを具体的に例示すると、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオン、テトラオクチルアンモニウムカチオン、テトラデシルアンモニウムカチオン等の中心窒素原子に結合しているR〜Rがすべて同一である対称第4級アンモニウムカチオン類;ブチルトリオクチルアンモニウムカチオン、ヘキシルトリオクチルアンモニウムカチオン、トリデシルオクチルアンモニウムカチオン、ジブチルジオクチルアンモニウムカチオン、ジヘキシルジオクチルアンモニウムカチオン等のR〜Rのうちの一つまたは二つが他と異なる擬対称第4級アンモニウムカチオン類;テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラオクチルホスホニウムカチオン等のR〜Rがすべて同一である対称ホスホニウムカチオン類;ブチルトリオクチルホスホニウムカチオン、ヘキシルトリオクチルホスホニウムカチオン、トリデシルオクチルホスホニウムカチオン、ジブチルジオクチルホスホニウムカチオン、ジヘキシルジオクチルホスホニウムカチオン等のR〜Rのうちの一つまたは二つが他と異なる擬対称第4級ホスホニウムカチオン類が挙げられる。
【0040】
中でも、少量の添加で高い導電性が得られることから、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオン、テトラオクチルアンモニウムカチオン、テトラデシルアンモニウムカチオン等のR〜Rがすべて同一である対称第4級アンモニウムカチオン類が特に好適に用いられる。
【0041】
前記一般式(I)において、Xは下記式(II)
【0042】
【化5】

【0043】
(上記式中、A、Aはそれぞれ独立にフルオロアシル基、フルオロアルコキシカルボニル基、フルオロアルキルスルフォニル基、フルオロアルコキシスルフォニル基又はニトリル基を示す)で示されるアニオンを示す。
【0044】
及びAがフルオロアシル基、フルオロアルコキシカルボニル基、フルオロアルキルスルフォニル基、フルオロアルコキシスルフォニル基又はニトリル基以外である場合には、該アニオンが安定に存在できなかったり、炭化水素系溶剤に溶解しにくかったり、あるいは、溶解させても解離が不十分で必要な導電性(帯電防止性)を得られなかったりする。
【0045】
フルオロアシル基としては、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロプロピオニル基等が、フルオロアルコキシカルボニル基としては、パーフルオロメトキシアセチル基、パーフルオロメトキシプロピオニル基等が、フルオロアルキルスルフォニル基としては、トリフルオロメタンスルフォニル基、パーフルオロメトキシメタンスルフォニル基等が、フルオロアルコキシスルフォニル基としては、パーフルオロメトキシメタンスルフォニル基、パーフルオロメトキシエタンスルフォニル基等が例示される。これらA、Aとしては、より少量で高い帯電防止性を得られる点で、炭素数が3以下の基であることが好ましく、2以下の基であることがより好ましい。
【0046】
上記一般式(II)で示されるアニオンを具体的に例示すると、ビス(トリフルオロメタンスルフォン)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルフォニルイミド)アニオン、トリフルオロメタンスルフォニルノナフルオロブタンスルフォニルアミドアニオン等のスルフォニルアミドアニオン類、2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドアニオン、2,2,2−トリフルオロ−N−(パーフルオロエタンスルフォニル)アセタミドアニオン、2,2,2−トリフルオロ−N−(パーフルオロプロパンスルフォニル)アセタミドアニオン、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)プロピオンアミドアニオン、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−N−(パーフルオロエタンスルフォニル)プロピオンアミドアニオン、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−N−(パーフルオロプロパンスルフォニル)プロピオンアミドアニオン等のスルフォニルアシルアミドアニオン類等が挙げられる。中でも、ビス(トリフルオロメタンスルフォン)イミドアニオン、2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドアニオンが、少量で高い導電性が得られ好適であり、さらには、2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドアニオンが、炭化水素系溶媒への溶解度が高く特に好適である。
【0047】
本発明の組成物に用いられる有機オニウム塩における、上記アニオンと前記有機オニウムカチオンとの組み合わせは特に限定されるものではないが、特に好適に用いられる有機オニウム塩の具体例を挙げると、テトラブチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、テトラヘキシルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、テトラオクチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、テトラデシルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド等の対称アンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド類;テトラブチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、テトラオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド等の対称ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド類等のビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド類;テトラブチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド、テトラヘキシルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド、テトラオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド、テトラデシルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド等の対称アンモニウム2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド類;テトラブチルホスホニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド、テトラオクチルホスホニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド等の対称ホスホニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド類が例示される。このような化合物を用いることにより、少量の添加量で高い導電性が得られ、かつ組成物の疎水性も高いものとすることができる。
【0048】
なお、上記有機オニウム塩は必要に応じて2種以上のものを併用してもよい。
【0049】
本発明の洗浄剤において、上記有機オニウム塩の配合量は有機溶剤100質量部に対して0.001〜10質量部である。配合量が多いほど導電性(帯電防止性)も向上するが、一般的な洗浄剤用途において要求される帯電防止性は10質量部以下の配合量で充分に得ることが可能であり、多すぎると吸水性が高くなってしまったり、溶解しにくくなる傾向がある。より好ましくは0.01〜5質量部であり、特に好ましくは0.05〜1質量部である。
【0050】
本発明の洗浄剤は、上記(1)炭化水素系有機溶剤、(3)有機オニウム塩および必要に応じて配合される(2)非炭化水素系有機溶剤を主成分としてなるが、本発明の効果を減じない範囲で炭化水素系(石油系)洗浄剤の配合成分として公知の物質、例えば酸化防止剤等を配合してもよい。また本発明の洗浄剤は、その保管条件や使用条件にもよるが、数十〜数百ppm程度の水を吸収して含んでいる場合がある。換言すれば、保管条件や使用条件等によっては、従来公知の洗浄剤は多い場合には数%もの水を吸収するが、本発明の洗浄剤は本質的に非吸湿性であり、通常の条件下では数十〜数百ppm程度の水しか吸収しない。
【0051】
本発明の洗浄剤の製造方法は特に制限されるものではなく、所定量の有機オニウム塩を溶剤と混合し溶解させればよい。有機オニウム塩を溶剤に溶解させる方法は特に制限される物ではなく、有機オニウム塩をそのまま溶剤に添加して溶解させても良いが、有機溶剤に、加熱融解させたオニウム塩を添加して混合する方法や、有機オニウム塩が良く溶ける溶剤(アルコールなどの非炭化水素系溶剤)に溶解させた後に溶剤に添加する方法が好適に用いられる。また、不溶分が生じた場合には濾過等により除去することが好ましい。
【0052】
本発明の洗浄用組成物は、ワックス、シリコーン、潤滑油や加工油の付着した電気・電子部品の洗浄に好ましく用いられる。中でも、水分の存在や腐食、表面平滑度が問題となる、各種電子部品(電気素子や半導体基板等)の洗浄に特に好適に用いられる。具体的に例を挙げて説明すると、回路パターン形成済みシリコンウエハー、薄膜磁気ヘッド、化合物半導体、プリント基板、実装基盤、磁気記録ディスク等を挙げることができるが、特に磁気ヘッドの洗浄に好適である。また、洗浄方法としては、公知の洗浄方法で行えば良く、例えば洗浄対象物に洗浄剤をスプレーで吹き付けた後、布または刷毛でふき取る方法、予め洗浄剤を含ませた布、スポンジ、あるいはフェルト等でふき取る方法、又は洗浄剤中に浸けてブラシ等で洗浄した後、風乾する方法などで行うことができ、用途、洗浄剤の特性に応じて適当な方法を選択すればよい。
【0053】
このようにして洗浄された製品、加工物などは、その表面はきれいにワックス等の油類が除去され、洗浄剤によって汚損されることもない。さらに、洗浄物が帯電することもなく、塵等が付着しにくくなり、清浄な面が常に保持されることによって、製品価値を損なうこと無く、又は製造又は加工工程で余計な洗浄や清掃を省くことができる。さらには、洗浄用組成物の帯電による静電破壊や発火の危険性が低減され、余分な安全装置や特殊な行程をも省くことができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)比抵抗の測定
トクヤマ製連続比抵抗計TOR−2000を用い、室温にて測定した。
(2)放置後水分量の測定
組成物を大気開放下、室温で24時間攪拌した後、カールフィッシャー水分計を用いて水分量を測定した。
【0055】
実施例1
有機オニウム塩としてテトラオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドを用い、この4.54g(6.4mmol)を、1−オクタノール30gに溶解させた後、ノルマルパラフィン系溶剤TPS−2250(トクヤマ社製、引火点71℃)4L(3004g)に対して添加して無色透明で均一な組成物を得た。この組成物の比抵抗を測定したところ、10.8GΩであった。この組成物をTREK社製チャージドプレートモニター158を用いて1000Vの電圧をかけ、500Vまで減衰する時間を測定した所、2.8秒であり、十分な帯電防止性があることが確認できた。この組成物の放置後水分量は、49ppmであった。
【0056】
実施例2〜5、比較例1
有機オニウム塩又は1−オクタノールの量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして無色透明で均一な組成物を得、その比抵抗及び水分量を測定した。結果を併せて表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
比較例2
テトラオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドの代わりに、メチルトリオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミド塩6.4mmolを用いた以外、実施例1と同様に行ったところ、比抵抗は354GΩであった。この組成物の放置後水分量は40ppmであった。
【0059】
比較例3〜7
有機オニウム塩の添加量を6.4mmolに固定し、その種類、及び1−オクタノールの量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比抵抗及び水分量を測定した。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例6,7
有機オニウム塩の添加量を6.4mmolに固定し、その種類を表1に示すように変更し、さらに1−オクタノールの量を90gとした以外は、実施例1と同様にして無色透明で均一な組成物を得、その比抵抗及び水分量を測定した。結果を併せて表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例7〜16
有機オニウム塩の種類と量、及び1−オクタノールの量を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比抵抗及び水分量を測定した。結果を併せて表2に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
実施例17
1−オクタノールに代えて、イソプロピルアルコールを用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表5に示す。なお、本実施例においては他の溶剤を用いた実施例と異なり、24時間放置後に少量の白色固体が析出していた。この放置後の組成をガスクロマトグラフィーで分析したところ、イソプロピルアルコールが揮発したことによる含有量低下が確認された。
【0066】
実施例18
1−オクタノールに代えて、エチレングリコールを用いて実施例1と同様にして評価した。なお、エチレングリコールの配合量が、30g及び60gではテトラオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドが完全には溶解しなかったため90g用いた。結果を表5に示す。
【0067】
実施例19
1−オクタノールに代えて、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを用いて実施例1と同様にして評価した。なお、トリエチレングリコールモノメチルエーテルの配合量が30gではテトラオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドが完全には溶解しなかったため60g用いた。結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
実施例20〜21
ノルマルパラフィン系溶剤TPS−2250の代わりに表6に示す溶剤3004gを用い、テトラオクチルアンモニウム・2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルフォニル)アセタミドを9.08g(12.7mmol)用いて実施例1と同様に均一溶液を得、評価を行った。結果を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
上記各実施例、比較例のうち、非炭化水素系溶剤として1−オクタノールを用いた例について、炭化水素系溶剤の割合と24時間水分量の値を図1として示す。図示した上記各実施例、比較例の結果から判るように、非炭化水素系溶剤の割合が7質量%を超えると急激に水分量が増加する。なお調製直後の水分量は、いずれの実施例、比較例においても5ppm以下である。また、前記式(1)で示される以外の有機オニウム塩を用いた場合には、帯電防止性に劣ったり、非炭化水素系溶剤の割合が7質量%未満の溶剤には溶解しなかったりする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】洗浄剤中の炭化水素系溶剤の割合と24時間後の水分量との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)炭化水素系溶剤:93〜100質量%、
(2)炭化水素系溶剤以外の有機溶剤:0〜7質量%、及び、
(3)下記一般式(I)
【化1】

{上記式中、Zは窒素原子又は燐原子を示し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数4〜20の置換されていても良い炭化水素基を示し、かつ該R、R、R及びRのうち最も炭素数の多い炭化水素基と、最も炭素数の少ない炭化水素基との炭素数の比は2以下であり、Xは下記式(II)
【化2】

(上記式中、A、Aはそれぞれ独立にフルオロアシル基、フルオロアルコキシカルボニル基、フルオロアルキルスルフォニル基、フルオロアルコキシスルフォニル基又はニトリル基を示す)で示されるアニオンを示す。}
で示される有機オニウム塩:(1)と(2)の合計100質量部に対して、0.001〜10質量部、
を主成分とする電気・電子部品用の洗浄剤。
【請求項2】
(2)炭化水素系溶剤以外の有機溶剤を0.001〜7質量%含み、かつ該炭化水素系溶剤以外の有機溶剤が、炭素数が6〜20の直鎖状第1級アルコールである請求項1記載の洗浄剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−63274(P2006−63274A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250339(P2004−250339)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】