説明

電気二重層キャパシタの製造方法

【課題】 従来より静電容量密度が高くなる電気二重層キャパシタの製造方法を提供すること。
【解決手段】 黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を分極性電極として含む電気二重層キャパシタの製造方法であって、該炭素材に電解液を接触させた状態で該炭素材を所定の時間保存し、その後該炭素材の厚さ方向における充電時の膨張を抑制するに必要な圧力を充電開始時に該電極に加えた状態で、室温より高い温度において、該キャパシタの使用予定電圧より高い電圧を充電終止電圧とする充電を少なくとも1回施すことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大電流で充放電できる電気二重層キャパシタが、電気自動車用補助電源、太陽電池用補助電源、風力発電用補助電源等の充放電頻度の高い蓄電デバイスとして有望視されている。そのため、エネルギー密度が高く、急速充放電が可能で、耐久性に優れた電気二重層キャパシタが望まれている。
【0003】
電気二重層キャパシタは、1対の分極性電極を、セパレータを介して対向させて正極および負極とする構造を有している。各分極性電極には水系電解質溶液または非水系電解質溶液が含浸させられ、各分極性電極はそれぞれ集電極と接合させられる。
【0004】
電気二重層キャパシタに用いられる分極性電極材料として、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材が知られている(特許文献1)。この炭素材は、原料の賦活処理を制御することにより黒鉛類似の微結晶性炭素の結晶子の層間距離が0.350〜0.385nmの範囲内になるように調製されたものである。このような特定の層間距離を有する微結晶性炭素は、電解質溶液と接触させて通常の使用予定電圧(定格電圧)を印加しても、その比表面積が小さいために低い静電容量しか得られないが、一度使用予定電圧を超える高い電圧を印加すると、層間に電解質イオンが挿入されることにより電解賦活が起こり、その結果高い静電容量を示すようになる。この炭素材は、一度イオンが挿入されると、その後使用予定電圧で繰り返し使用しても高い静電容量を維持する。この炭素材は、電気二重層キャパシタ用の炭素材として一般的に用いられている活性炭と比較して、耐電圧が高く、エネルギー密度を格段に高くできることから、活性炭に代わる炭素材として注目を集めている。
【0005】
黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を分極性電極とする電気二重層キャパシタを完成させるための初期充電は、微結晶性炭素の層間に電解質イオンを強制挿入させるため、使用予定電圧より高い電圧を使用することが知られている(特許文献2)。また、このような電気二重層キャパシタの初期充電に際し、電解質イオンの挿入による分極性電極の膨張を抑制するため、膨張に抗する圧力を分極性電極に加えることも知られている(特許文献3および4)。さらに、このような初期充電に際し、電気二重層キャパシタの定格充電時間を超えて長時間充電を行うことも知られている(特許文献5)。これらの従来技術は、いずれも電気二重層キャパシタの静電容量を高めるために初期充電の方法を改良したものである。しかしながら、従来技術に、分極性電極の充電前の処理および充電時温度に着目したものはない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−317333号公報
【特許文献2】特開2000−077273号公報
【特許文献3】特開2000−068164号公報
【特許文献4】特開2000−068165号公報
【特許文献5】特開2000−100668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来より静電容量密度が高くなる電気二重層キャパシタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、
(1)黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を分極性電極として含む電気二重層キャパシタの製造方法であって、該炭素材に電解液を接触させた状態で該炭素材を所定の時間保存し、その後該炭素材の厚さ方向における充電時の膨張を抑制するに必要な圧力を充電開始時に該電極に加えた状態で、室温より高い温度において、該キャパシタの使用予定電圧より高い電圧を充電終止電圧とする充電を少なくとも1回施すことを特徴とする方法が提供される。
【0009】
さらに本発明によると、
(2)該保存を室温より高い温度で行う、(1)に記載の方法が提供される。
【0010】
さらに本発明によると、
(3)該保存時および該充電時の温度をいずれも35℃以上とする、(1)または(2)に記載の方法が提供される。
【0011】
さらに本発明によると、
(4)該保存を12時間以上行う、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法が提供される。
【0012】
さらに本発明によると、
(5)該圧力を4.9×10〜4.9×10Paの範囲内とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(6)該充電終止電圧を該使用予定電圧の110〜135%の範囲内とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(7)該黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材は、BET1点法による未充電時比表面積が200m/g以下であり、かつ、X線回折法による層間距離d002が0.350〜0.385nmの範囲内にある、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、特に黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を含む分極性電極を、初期充電前に所定の時間保存し、その後室温より高い温度で充電したことにより、電極の膨張を抑制することができることから、該分極性電極を含む電気二重層キャパシタの静電容量密度が大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による電気二重層キャパシタの製造方法は、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材(以下、「黒鉛類似炭素材」という。)に電解液を接触させた状態で該炭素材を所定の時間保存し、その後該炭素材の厚さ方向における充電時の膨張を抑制するに必要な圧力を充電開始時に該電極に加えた状態で、室温より高い温度において、該キャパシタの使用予定電圧より高い電圧を充電終止電圧とする充電を少なくとも1回施すことを特徴とするものである。
【0017】
本発明による電気二重層キャパシタの製造方法に用いられる黒鉛類似炭素材は、微結晶性炭素を有する。この炭素材は、比表面積が小さいので、活性炭を使用していた従来の基準からは、電気二重層キャパシタ用電極として適さないものである。しかしながら、この黒鉛類似炭素材は、その微結晶炭素の層間距離d002(X線回折法による)が特定の範囲、すなわち0.350〜0.385nmにある場合、その比表面積が小さいにもかかわらず、分極性電極として高い静電容量を示す。この層間距離d002が0.360〜0.380nmの範囲にあると、電解質イオンの層間への挿入による静電容量の発現が顕著に表れるためより好ましい。この層間距離d002が0.350nmを下回ると、電解質イオンの層間への挿入が起こり難くなるため、静電容量が低くなる。反対にこの層間距離d002が0.385を超える場合も、電解質イオンの層間への挿入が起こり難くなり静電容量が低くなるので好ましくない。
【0018】
この黒鉛類似炭素材の比表面積は、200m/g以下が好ましく、100m/g以下がより好ましく、20m/g以下が特に好ましい。この比表面積が200m/gを超えると、本発明の方法によらなくても十分な静電容量密度が得られる。また、黒鉛類似炭素材の表面に存在する官能基量が増え、電圧印加時にこれらの官能基が分解することに起因する電気二重層キャパシタの性能低下が著しくなる。比表面積は、ユアサアイオニクス株式会社製「MONOSORB」を用いてBET1点法にて測定(乾燥温度:180℃、乾燥時間:1時間)した値である。
【0019】
黒鉛類似炭素材は、賦活が進んでいない低温焼成した炭素材料を用いることができ、活性炭原料として用いられる木材、果実殻、石炭、ピッチ、コークス等の種々の材料を用いて製造することができる。例えば、賦活前に不活性雰囲気中において熱処理して、賦活が大きく進行しないようにしたり、あるいは賦活操作を短時間とする等の処理によって製造することができる。熱処理温度としては、600〜1000℃程度の比較的低温で焼成を行ったものが好ましい。本発明に好適に用いられるその他の黒鉛類似炭素材およびその製法については、特許文献1〜5を参照されたい。黒鉛類似炭素材は、これに後述する導電補助材と、バインダーとを合わせた合計質量に対して、50〜99質量%、好ましくは65〜85質量%の範囲内で分極性電極中に含まれる。黒鉛類似炭素材の含有量が50質量%より少ないと、電極のエネルギー密度が低くなる。反対に含有量が99質量%を超えるとバインダーが不足し、連続したシート状の電極が形成できなくなる。
【0020】
電気二重層キャパシタ用電極は、黒鉛類似炭素材に導電性を付与するための導電補助材を含有する。導電補助材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のナノカーボン、粉末グラファイト等を用いることができる。導電補助材は、これに黒鉛類似炭素材と、バインダーとを合わせた合計質量に対して、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜20質量%の量を添加すればよい。この導電補助材の添加量が1質量%より少ないと電気二重層キャパシタの内部抵抗が高くなる。反対に添加量が40質量%を超えると電極のエネルギー密度が低くなる。
【0021】
電気二重層キャパシタ用電極は、黒鉛類似炭素材と、導電補助材とを結着してシート化するためのバインダーを含有する。バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等を用いることができる。バインダーは、これに黒鉛類似炭素材と、導電補助材とを合わせた合計質量に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%の量を添加すればよい。このバインダーの添加量が1質量%より少ないと連続したシート状の電極が形成できなくなる。反対に添加量が30質量%を超えると電気二重層キャパシタの内部抵抗が高くなる。
【0022】
電気二重層キャパシタ用電極は、従来の活性炭を用いた場合と同様の方法により製造することができる。例えば、上述の方法で得られた黒鉛類似炭素材を平均粒径D50が5〜200μm程度になるように粒度を整えた後、これに導電補助材と、バインダーとを添加して混錬し、圧延処理してシート状に成形することができる。混錬に際して、水、エタノール、アセトニトリル、シロキサン等の液体助剤を単独または混合して適宜使用してもよい。電気二重層キャパシタ用電極の厚さは、50〜500μmが好ましく、60〜300μmがより好ましい。この厚さが50μmを下回ると電極にピンホールが発生しやすくなる。反対に500μmを超えると電極の密度が高くできないため、電極のエネルギー密度が低くなる。電極の厚さは、株式会社テクロック社製ダイヤルシックネスゲージ「SM−528」を用いて、本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した値である。
【0023】
上述のようにして得られたシート状の電極に、電気二重層キャパシタに一般に用いられる適当な集電体とセパレータを組み合わせ、さらに適当な電解液を電極に含浸することにより、本発明による電気二重層キャパシタを組み立てることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレススチール等の金属系シートや、導電性高分子フィルム、導電性フィラー含有プラスチックフィルム等の非金属系シートをはじめとする種々のシート材料を用いることができる。シート状の集電体は、一部または全面に穴を有するものでもよい。シート状電極と集電体は、両者を単に圧着するだけでも機能するが、これらの間の接触抵抗を下げるため、導電性塗料を接着剤として用いて電極と集電体とを接合したり、導電性塗料を電極または集電体に塗布して乾燥した後に電極と集電体を圧着してもよい。セパレータとしては、微多孔性の紙、ガラスや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のプラスチック製多孔質フィルム等の絶縁材料を用いることができる。セパレータの厚さは、一般に10〜100μm程度である。電解液としては、液状電解質を使用しても、電解質を有機溶媒に溶かした電解質溶液を使用してもよい。当業者であれば、目的に合わせて適宜電解質を選択することができる。
【0024】
本発明によると、このようにして組み立てられた電気二重層キャパシタに初期充電を施すのに先立ち、黒鉛類似炭素材に電解液を接触させた状態でその炭素材を所定の時間保存する。初期充電前に保存工程を設けることにより、このような保存を行わない場合と比べ、充電前に黒鉛類似炭素材に存在している細孔内に電解液を十分に浸透させることができるため、得られる電気二重層キャパシタの単位体積当たりの静電容量(静電容量密度)が顕著に増大する。
【0025】
保存は室温、すなわち約25℃で行うことができる。保存は、室温より高い温度、例えば35℃以上で行うことが好ましい。保存温度を35℃以上とすることにより、電解液の粘度が低下し、充電前に黒鉛類似炭素材に存在している細孔内に電解液が浸透しやすくなる。逆に保存温度が室温より低い場合は、電解液の粘度が増大し、該細孔内に電解液が浸透しにくくなるため、保存は20℃以上で行うことが好ましい。保存温度の上限に臨界性はないが、電解液が分解しない温度で行うことが好ましい。例えば、電解液としてトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの炭酸プロピレン溶液を用いた場合には、80℃以上で電解液の分解が起こるため、保存温度は80℃以下とする必要がある。
【0026】
保存に要する時間は、保存時の温度、充電時の温度その他の工程変数によっても異なるが、室温で保存する場合には、一般に12時間以上、好ましくは18時間以上、より好ましくは24時間以上である。室温で保存する場合、保存時間が12時間を下回ると、充電前に黒鉛類似炭素材に存在している細孔内に電解液を十分に浸透させることができない。一方、保存を室温より高い温度で行う場合には、12時間を有意に下回る保存時間であっても、本発明の所期の効果が得られることがある。保存時間の上限に臨界性はないが、さらに長時間保存しても静電容量密度のさらなる増大は見込めない反面、電気二重層キャパシタの製造効率が低下する。
【0027】
本発明によると、上述の保存後、黒鉛類似炭素材の厚さ方向における充電時の膨張を抑制するに必要な圧力を充電開始時に該電極に加えた状態で充電を行う。黒鉛類似炭素材は、電気二重層キャパシタ用電極として用いられた場合、高い静電容量を示すと共に、電圧印加(充電)の際に膨張するという特性を示す。すなわち、黒鉛類似炭素材は、これをシート状に成形して集電体の片面または両面に積層した電気二重層キャパシタを組み立てて、両集電体間に電圧を印加すると、黒鉛類似炭素材が主として両集電体による電圧印加方向に膨張するという特性を示す。電極として用いた黒鉛類似炭素材が膨張すると、電気二重層キャパシタの体積が大きくなるため、該キャパシタの静電容量が増加しても、単位体積当たりの電気二重層キャパシタの静電容量(静電容量密度)の増加はその分減殺される。したがって、静電容量の増大を享受するためには、黒鉛類似炭素材の膨張による電気二重層キャパシタの体積増加を最小限に抑えることが好ましい。そこで電気二重層キャパシタの体積増加を抑制するため、黒鉛類似炭素材の膨張により生じる圧力(膨張圧)に抗する圧力を外部から電極に加える。例えば、充電の際に4.9×10〜4.9×10Pa程度の圧力を外部から電極に加えることにより、静電容量密度を高めることができる。なお、電極の体積膨張を完全に抑制しても、電極間に発生する静電容量は、自由な膨張を許容した場合とほとんど変わらない。
【0028】
本発明によると、充電を室温より高い温度で行うことにより、得られる電気二重層キャパシタの静電容量密度が顕著に増大する。充電は、好ましくは35℃以上で、より好ましくは40℃以上で行われる。充電時の温度が室温を下回ると、電解液の粘度が増大し、充電による電解賦活により新しく形成される黒鉛類似炭素材の細孔内に電解液が浸透しにくくなる。充電時温度の上限に臨界性はないが、保存時と同様に電解液が分解しない温度で行うことが好ましい。
【0029】
充電は、電気二重層キャパシタの使用予定電圧より高い電圧を充電終止電圧とする。これにより、電解質イオンが(有機溶媒の存在下では溶媒も伴って)黒鉛類似炭素材の層間に挿入され、その後電気二重層が形成される。充電終止電圧は、使用予定電圧の110〜135%の範囲内とすることが好ましい。充電終止電圧が、使用予定電圧の110%を下回ると、電解賦活が十分に行われないため、高い静電容量密度が得られない。135%を超えると、電解液の分解反応が促進されるため、電気二重層キャパシタの性能低下が著しくなる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
ピッチ系炭素前駆体を不活性雰囲気中で800℃の温度で焼成し炭化した材料を用い、これに重量比で2倍量の水酸化カリウムを混合し、不活性雰囲気中700℃において賦活処理を行い、BET比表面積10m/gの黒鉛類似炭素材を調製した。この黒鉛類似炭素材は、その微結晶性炭素のX線回折法による層間距離d002が0.360nmである。この黒鉛類似炭素材80質量%と、導電補助材としてケッチェンブラック粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製「EC600JD」)10質量%と、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン粉末(三井デュポンフロロケミカル株式会社製「テフロン 6J」)10質量%とからなる混合物にエタノールを加えて混錬し、その後ロール圧延を3回実施することにより、幅100mm、厚さ200μmの分極性シートを得た。幅150mm、厚さ50μmの高純度エッチドアルミニウム箔(KDK株式会社製「C512」)を集電体とし、その両面に、導電性接着剤液(日立粉末冶金株式会社製「GA−37」)を塗布ロールで30g/m塗布した。この塗布量は、乾燥質量で6g/mとなる。塗布後、集電体の塗布部分(両面)に、上記長尺の分極性シートを重ね、これを圧縮ロールに通して圧着し、接触界面同士を確実に貼り合わせた積層シートを得た。この積層シートを、温度150℃に設定した連続熱風乾燥機に通し、導電性接着剤液層から分散媒を蒸発除去することにより長尺の分極性電極を得た。なお、乾燥機内の通過速度は、積層シートのすべての部分が乾燥機内に3分間滞留する速度とした。
【0031】
この長尺シート状の積層シートを分極性電極の炭素電極部の寸法が10cm角で、リード部(集電体上に分極性電極が積層されていない部分)が2×10cmの形状になるように打ち抜いて方形状の分極性電極とした。二枚の分極性電極体を正極、負極とし、その間にセパレータとして厚さ80μmの親水化処理したePTFEシート(ジャパンゴアテックス株式会社製「BSP0708070−2」)を1枚挿入して単セルを作成した。次いで、その単セルを、230℃で24時間真空乾燥した後、アルゴン雰囲気で−60℃以下の露点を保ったグローブボックス内にてアルミパックに収納した。アルミパックは、昭和電工パッケージング株式会社製「PET12/Al20/PET12/CPP30 ドライラミネート品」を裁断し、25×20cmの袋状に融着加工したもの(短辺の一辺が開口し、他の三辺が融着シールされたもの)を用いた。電極への電解液の含浸は−0.05MPaの減圧下で、1.8モル/Lのトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの炭酸プロピレン溶液を電解液としてアルミパックに注入し、10分間静置して行った。最後にアルミパックの開口部を融着密封することにより、角形電気二重層キャパシタを製造した。このキャパシタの使用予定電圧は3.3Vである。
【0032】
角形電気二重層キャパシタを25℃において24時間保存した。その後、このキャパシタの両面方向から2.45×10Paの加圧力(面加圧力)で加圧し、この加圧状態のまま、初期充電として、40℃の恒温槽内で5mA/cmの電流密度にて4.0Vまで充電し、その後同電流密度において0Vまで放電させた。このキャパシタを実施例1とした。
【0033】
実施例2〜5
保存温度を40℃、50℃、60℃および70℃としたことを除き、実施例1と同様に各キャパシタを製造した。
【0034】
実施例6
保存時間を12時間としたことを除き、実施例1と同様にキャパシタを製造した。
【0035】
実施例7〜9
面加圧力を4.9×10Pa、1.5×10Pa、および4.9×10Paとしたことを除き、実施例1と同様に各キャパシタを製造した。
【0036】
実施例10〜12
充電時の恒温槽温度を50℃、60℃および70℃としたことを除き、実施例1と同様に各キャパシタを製造した。
【0037】
実施例13〜15
充電終止電圧を3.7V、4.1Vおよび4.3Vとしたことを除き、実施例1と同様に各キャパシタを製造した。
【0038】
比較例1
角形電気二重層キャパシタの製造後、保存工程を省略して即座に初期充電を行ったことを除き、実施例1と同様にキャパシタを製造した。
【0039】
比較例2および3
保存時間を5時間および10時間としたことを除き、実施例1と同様にキャパシタを製造した。
【0040】
比較例4
充電時の恒温槽温度を室温(25℃)としたことを除き、実施例1と同様にキャパシタを製造した。
【0041】
比較例5
面加圧力を9.8×10Paとしたことを除き、実施例1と同様にキャパシタを製造した。
【0042】
比較例6
充電終止電圧を4.5Vとしたことを除き、実施例1と同様にキャパシタを製造した。
各キャパシタの製造条件を表1にまとめて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1〜15および比較例1〜6の電気二重層キャパシタについて、膨張率、体積静電容量密度および内部抵抗を測定した。測定条件は以下の通り。
(膨張率)
後述の充放電条件における5サイクル目の充電後の電極部の厚さ(面加圧力を取り除いて測定した厚さ)を、その初期厚200μmで除して算出した。
(体積静電容量密度)
測定器:株式会社パワーシステム製「CDT510−4」
充電:5mA/cm、3.3V、3600秒
放電:5mA/cm、0V
5サイクル目の静電容量をエネルギー換算法により求め、それを膨張前後における集電体を含まない正負極の炭素電極部の体積で除して算出した。算出には解析ソフト(株式会社パワーシステム製「CDT Utility」)を使用した。
(直流内部抵抗)
体積静電容量密度の測定時に、V=IR式から算出した。算出には解析ソフト(株式会社パワーシステム製「CDT Utility」)を使用した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2からわかるように、本発明による各実施例のキャパシタは、各比較例のものと比べ、膨張率が抑制され、その結果体積静電容量密度が顕著に高くなった。実施例1と比較例1を対比すると、角形電気二重層キャパシタを24時間保存したことにより、静電容量密度が50%以上増大したことがわかる。特に実施例6と比較例2および3を対比すると、室温(25℃)保存の場合には、10時間以内(すなわち、保存を意図しなくても電解液注入後、充電工程が開始されるまでに経過し得る時間)の保存では、保存なしの場合(比較例1)を基準として静電容量密度が10%しか増大しないが、12時間保存すると、保存なしの場合を基準として静電容量密度が実質的に(45%)増大したことがわかる。実施例1と比較例4を対比すると、初期充電時の温度を室温(25℃)より高い温度(40℃)にしたことにより、静電容量密度が約50%増大したことがわかる。さらに、実施例2と比較例5を対比することにより、初期充電時の膨張を抑制するに必要な圧力を充電開始時に電極に加えた状態で充電したことにより、静電容量密度が80%以上増大したことがわかる。なお、比較例6は、充電終止電圧が高過ぎた(使用予定電圧3.3Vの135%を超えた)ため、面加圧力が膨張圧に抗しきれなかったことを示している。また、実施例1と実施例2〜5を対比すると、保存時の温度を25℃より高い温度(40〜70℃)にしたことにより、充電による膨張が一層抑制され、静電容量密度がさらに高くなったことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を分極性電極として含む電気二重層キャパシタの製造方法であって、該炭素材に電解液を接触させた状態で該炭素材を所定の時間保存し、その後該炭素材の厚さ方向における充電時の膨張を抑制するに必要な圧力を充電開始時に該電極に加えた状態で、室温より高い温度において、該キャパシタの使用予定電圧より高い電圧を充電終止電圧とする充電を少なくとも1回施すことを特徴とする方法。
【請求項2】
該保存を室温より高い温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該保存時および該充電時の温度をいずれも35℃以上とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該保存を12時間以上行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該圧力を4.9×10〜4.9×10Paの範囲内とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該充電終止電圧を該使用予定電圧の110〜135%の範囲内とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材は、BET1点法による未充電時比表面積が200m/g以下であり、かつ、X線回折法による層間距離d002が0.350〜0.385nmの範囲内にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2006−261599(P2006−261599A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80463(P2005−80463)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】