説明

電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタ

【課題】黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を用いた分極性電極の、特に圧延シート製法における製造効率を向上させた新規な分極性電極を提供すること。
【解決手段】黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材とバインダーとを含んでなる、シート状の電気二重層キャパシタ用電極であって、該炭素材のフロー式画像解析法による平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)が0.65以上であることを特徴とする電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大電流で充放電できる電気二重層キャパシタが、電気自動車用補助電源、太陽電池用補助電源、風力発電用補助電源等の充放電頻度の高い蓄電デバイスとして有望視されている。そのため、エネルギー密度が高く、急速充放電が可能で、耐久性に優れた電気二重層キャパシタが望まれている。
【0003】
電気二重層キャパシタは、1対の分極性電極を、セパレータを介して対向させて正極および負極とする構造を有している。各分極性電極には水系電解質溶液または非水系電解質溶液が含浸させられ、各分極性電極はそれぞれ集電極と接合させられる。
【0004】
電気二重層キャパシタの蓄電エネルギーは電圧の2乗に比例するため、できるだけ高い電圧で動作させることが好ましい。しかしながら、従来の活性炭は比表面積が1000〜3000m/g程度と非常に大きく、その表面には賦活時に生成した−OH、−COOHなどの官能基が0.3eq/g以上多く付いている。これらの官能基の耐電圧は低く、2V程度の電圧を印加すると分解し、HO、COなどを発生し、これが電極に組み込まれていた場合には、キャパシタの劣化を招いたため、実際的に3V程度の高電圧を印加して寿命が長いキャパシタを作製することはできなかった。
【0005】
電気二重層キャパシタに用いられる分極性電極材料として、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する非多孔質の炭素材が知られている(特許文献1〜9)。この炭素材は、原料の賦活処理を制御することにより、黒鉛類似の微結晶性炭素の結晶子の層間距離が0.350〜0.385nmの範囲内になるように調製されたものである。このような特定の層間距離を有する微結晶性炭素は、電解質溶液と接触させて通常使用する電圧を印加しても、その比表面積が小さい(数100m/g程度である)ために低い静電容量しか得られないが、一度使用する電圧を超える高い電圧を印加すると、層間に電解質イオンが挿入され、その結果高い静電容量を示すようになる。この炭素材は、一度イオンが挿入されると、その後通常使用する電圧(2.8〜4.0V)で繰り返し使用しても高い静電容量を維持する。この炭素材は、電気二重層キャパシタ用の炭素材として一般的に用いられている活性炭と比較して、耐電圧が高く、エネルギー密度を格段に高くできることから、活性炭に代わる炭素材として注目を集めている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−317333号公報
【特許文献2】特開2000−068165号公報
【特許文献3】特開2000−068164号公報
【特許文献4】特開2000−077273号公報
【特許文献5】特開2000−100668号公報
【特許文献6】特開2002−025867号公報
【特許文献7】特開2002−083747号公報
【特許文献8】特開2003−051430号公報
【特許文献9】特開2003−086469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電気二重層キャパシタの電極を製造する方法には、電極材料を集電体上にコーティングするコーティング製法と、電極材料を圧延成形するシート製法がある。コーティング製法は、シート製法と比較して、電極の薄膜化が容易であるが、電極の密度が低くなるため、高いエネルギー密度が要求される用途には向かない。これに対して、シート製法は、電極材料自体を圧延処理して製造するため、圧延によりシートを薄くするほど電極の密度が高くなり、高いエネルギー密度が得られるため、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を用いて高いエネルギー密度の電極を製造するのに適している。しかし、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材は、グラフェン構造が比較的平行に積層された構造を有するため一般的な活性炭と異なり細長い棒状粒子となることが多い。このような棒状粒子を多く含む炭素材を用いて圧延により電極を作製しようとすると、炭素材粒子の流動性が低く、シートの成形性が極端に悪い。このため、シート製法で所望の厚さにするためは圧延処理を何度も繰り返す必要があり、製造効率が極めて低い。
【0008】
そこで、本発明は、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を用いた分極性電極の、特に圧延シート製法における製造効率を向上させた新規な分極性電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、
(1)黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材とバインダーとを含んでなる、シート状の電気二重層キャパシタ用電極であって、該炭素材のフロー式画像解析法による平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)が0.65以上であることを特徴とする電極が提供される。
【0010】
さらに本発明によると、
(2)該電極が圧延処理によりシート状にされたものである、(1)に記載の電極が提供される。
【0011】
さらに本発明によると、
(3)該炭素材の円相当径が5μm以上である、(1)または(2)に記載の電極が提供される。
【0012】
さらに本発明によると、
(4)該炭素材の比表面積が200m/g以下である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電極が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(5)該炭素材のX線回折法による層間距離d002が0.350〜0.385nmの範囲内にある、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の電極が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(6)該炭素材がピッチ系炭素前駆体から得られたものである、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の電極が提供される。
【0015】
さらに本発明によると、
(7)該バインダーがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の電極が提供される。
【0016】
さらに本発明によると、
(8)さらに導電補助材を含む、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の電極が提供される。
【0017】
さらに本発明によると、
(9)該電極の厚さが400μm以下である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の電極が提供される。
【0018】
さらに本発明によると、
(10)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の電極を含む電気二重層キャパシタが提供される。
【0019】
さらに本発明によると、
(11)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ用電極の製造方法であって、前記炭素材の原料を、400〜600℃の範囲内で熱処理し、次いで高速気流中衝撃法により球形化処理することを特徴とする方法が提供される。
【0020】
さらに本発明によると、
(12)黒鉛類似の微結晶性炭素を有する電気二重層キャパシタ電極用炭素材であって、フロー式画像解析法による平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)が0.65以上であることを特徴とする炭素材が提供される。
【0021】
さらに本発明によると、
(13)円相当径が5μm以上である、(12)に記載の炭素材が提供される。
【0022】
さらに本発明によると、
(14)比表面積が200m/g以下である、(12)または(13)に記載の炭素材が提供される。
【0023】
さらに本発明によると、
(15)X線回折法による層間距離d002が0.350〜0.385nmの範囲内にある、(12)〜(14)のいずれか1項に記載の炭素材が提供される。
【0024】
さらに本発明によると、
(16)ピッチ系炭素前駆体から得られたものである、(12)〜(15)のいずれか1項に記載の炭素材が提供される。
【0025】
さらに本発明によると、
(17)(12)〜(16)のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ電極用炭素材の製造方法であって、前記炭素材の原料を、温度400℃〜600℃の範囲内で熱処理し、次いで高速気流中衝撃法により球形化処理することを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、特にフロー式画像解析法による平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)が0.65以上である炭素材を用いたことにより、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材を用いた分極性電極の圧延シート製法における製造効率が向上する。さらに、まったく意外なことに、本発明による炭素材を用いると、電気二重層キャパシタの耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明による電気二重層キャパシタ用電極は、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材とバインダーとを含んでなる、シート状の電気二重層キャパシタ用電極であって、該炭素材のフロー式画像解析法による平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)が0.65以上であることを特徴とするものである。本発明による電気二重層キャパシタ用電極は、特に圧延処理によりシート状にされたものであることが好ましい。
【0028】
平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)は、球状の程度を示すパラメータで、シスメックス株式会社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」を用い、フロー式画像解析法により粒子の最大長(X軸)と最大長垂直長(Y軸)から以下の式より求めたアスペクト比の平均値である。
アスペクト比=(最大長垂直長)/(最大長)
アスペクト比の上限は1で、その場合、当該粒子が完全球体であることを意味する。本発明による炭素材は、平均球形度が0.65未満であると、特に圧延処理に際して炭素材粒子の流動性が不十分となり、電極シートの成形性が悪化する。本発明による炭素材は、平均球形度が0.68以上であることが好ましく、さらには0.70以上であることがより好ましい。
【0029】
本発明による炭素材は、円相当径が5μm以上であることが好ましく、さらには10μm以上であることがより好ましい。本発明による炭素材は、円相当径が5μm未満であると、後述するバインダーによる固定が不十分となり、電極が劣化しやすくなる。反対に円相当径が20μm以上になると、トップ粒径が電極の厚さ以上になる可能性があるため好ましくない。
【0030】
本発明による炭素材(以下「黒鉛類似炭素材」ともいう。)は、黒鉛類似の微結晶性炭素を有する。この黒鉛類似炭素材は、比表面積が小さいので、活性炭を使用していた従来の基準からは、電気二重層キャパシタ用電極として適さないものである。しかしながら、この炭素材は、その微結晶炭素の層間距離d002(X線回折法による)が特定の範囲、すなわち0.350〜0.385nmにある場合、その比表面積が小さいにもかかわらず、分極性電極として高い静電容量を示す。この層間距離d002が0.365〜0.380nmの範囲にあると、電解質イオンの層間への挿入による静電容量の発現が顕著に表れるためより好ましい。この層間距離d002が0.350nmを下回ると、電解質イオンの層間への挿入が起こり難くなるため、静電容量が低くなる。反対にこの層間距離d002が0.385を超える場合も、電解質イオンの層間への挿入が起こり難くなり静電容量が低くなるので好ましくない。
【0031】
本発明による炭素材は、比表面積が20〜200m/gの範囲内にあることが好ましく、さらに50〜150m/gの範囲内にあることがより好ましい。この比表面積が200m/gを超えると、黒鉛類似炭素材の表面に存在する官能基量が増え、電圧印加時にこれらの官能基が分解することに起因する電気二重層キャパシタの性能低下が著しくなる。比表面積は、ユアサアイオニクス株式会社製「MONOSORB」を用いてBET1点法にて測定(乾燥温度:180℃、乾燥時間:1時間)した値である。
【0032】
黒鉛類似炭素材は、これに後述する導電補助材とバインダーとを合わせた合計質量に対して、50〜99質量%、好ましくは65〜95質量%の範囲内で電極中に含まれる。黒鉛類似炭素材の含有量が50質量%より少ないと、電極のエネルギー密度が低くなる。反対に含有量が99質量%を超えるとバインダーが不足し、連続したシート状の電極が形成できなくなる。
【0033】
黒鉛類似炭素材は、電気二重層キャパシタ用電極として用いられた場合に、高い静電容量を示すと共に、電圧印加の際に膨張するという特性を示す。すなわち、黒鉛類似炭素材は、これをシート状に成形して集電体の片面または両面に積層した電気二重層キャパシタを組み立てて、両集電体間に電圧を印加すると、黒鉛類似炭素材が主として両集電体による電圧印加方向に膨張するという特性を示す。電極として用いた黒鉛類似炭素材が膨張すると、電気二重層キャパシタの体積が大きくなるため、該キャパシタの静電容量が増加しても、単位体積当たりの電気二重層キャパシタの静電容量の増加はその分減殺される。したがって、静電容量の増大を享受するためには、黒鉛類似炭素材の膨張による電気二重層キャパシタの体積増加を最小限に抑えることが好ましい。電気二重層キャパシタの体積増加を抑制するためには、黒鉛類似炭素材の膨張により生じる圧力(膨張圧)に抗する圧力を外部から電極に加えればよい。実際、電極の体積膨張を完全に抑制しても、電極間に発生する静電容量は、自由な膨張を許容した場合と変わらない。
【0034】
本発明による炭素材は、以下のように調製することができる。まず、活性炭原料として用いられる木材、果実殻、石炭、ピッチ、コークス等の種々の材料を、不活性雰囲気中で、400〜600℃、好ましくは450〜550℃の範囲内の温度で熱処理(一次焼成)する。この一次焼成は、後述の高速気流中衝撃法による球形化処理を促進するため、比較的低温での熱処理とすべきことに留意されたい。次いで、固化した一次焼成炭素材を、例えば気流式粉砕法で粉砕することによって、上述の円相当径を調整する。その後、高速気流中衝撃法により、上記平均球形度が0.65以下になるまで球形化処理する。高速気流中衝撃法の実施には、例えば、株式会社奈良機械製作所より市販されているハイブリダイゼーションシステム(NHS)を使用すると便利である。ハイブリダイゼーションシステムによると、炭素材粒子を気相中に分散させながら衝撃力を主体とする機械的熱的エネルギーが粒子に与えられ、棒状粒子の角がとれることにより球形化する。さらに、球形化処理済炭素材を700℃〜1000℃の温度で熱処理(二次焼成)することにより炭化させる。その後、水酸化カリウム等のアルカリを使用し、不活性雰囲気中、800℃程度の温度で賦活処理を実施する。本発明に好適に用いられる黒鉛類似炭素材の、球形化処理以外の処理工程の詳細については、特許文献1〜9を参照されたい。
【0035】
本発明による電極は、導電補助材を含有することが好ましい。導電補助材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のナノカーボン、粉末グラファイト等を用いることができる。導電補助材は、これに黒鉛類似炭素材とバインダーとを合わせた合計質量に対して、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜20質量%の量を添加すればよい。この導電補助材の添加量が1質量%より少ないと電気二重層キャパシタの内部抵抗が高くなる。反対に添加量が40質量%を超えると電極のエネルギー密度が低くなる。
【0036】
本発明による電極は、黒鉛類似炭素材と導電補助材を結着してシート化するためのバインダーを含有する。バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等を用いることができる。バインダーは、これに黒鉛類似炭素材と導電補助材とを合わせた合計質量に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%の量を添加すればよい。このバインダーの添加量が1質量%より少ないと連続したシート状の電極が形成できなくなる。反対に添加量が30質量%を超えると電気二重層キャパシタの内部抵抗が高くなる。
【0037】
本発明による電極は、従来の活性炭を用いた場合と同様の方法により製造することができる。例えば、上述の方法で得られた黒鉛類似炭素材に導電補助材とバインダーとを添加して混錬した後、好ましくは圧延処理によりシート状に成形することができる。混錬に際して、水、エタノール、アセトニトリル、シロキサン等の液体助剤を単独または混合して適宜使用してもよい。本発明により球形化された黒鉛類似炭素材は、特に圧延処理に際して流動性が高くなり、滑らかに移動する。したがって、所望の厚さ、例えば400μm以下、を得るのに要する圧延処理回数が大幅に削減され、電極の製造効率が飛躍的に向上する。
【0038】
本発明による電極の厚さは、400μm以下であることが好ましく、100〜150μmの範囲がより好ましい。この厚さが100μmを下回ると電極にピンホールが発生しやすくなる。反対に400μmを上回ると電極の密度が高くできないため、電極のエネルギー密度が低くなる。
【0039】
本発明によるシート状の電極に、電気二重層キャパシタに一般に用いられる適当な集電体とセパレータを組み合わせ、さらに適当な電解液を電極に含浸することにより、本発明による電気二重層キャパシタを組み立てることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレススチール等の金属系シートや、導電性高分子フィルム、導電性フィラー含有プラスチックフィルム等の非金属系シートをはじめとする種々のシート材料を用いることができる。シート状の集電体は、一部または全面に穴を有するものでもよい。シート状電極と集電体は、両者を単に圧着するだけでも機能するが、これらの間の接触抵抗を下げるため、導電性塗料を接着剤として用いて電極と集電体とを接合しても、また導電性塗料を電極または集電体に塗布して乾燥した後に電極と集電体を圧着してもよい。セパレータとしては、微多孔性の紙、ガラスや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のプラスチック製多孔質フィルム等の絶縁材料を用いることができる。セパレータの厚さは、一般に10〜100μm程度である。電解液としては、液状電解質を使用しても、また電解質を有機溶媒に溶かした電解質溶液を使用してもよい。電解液の具体例については、特開2004−289130号公報を参照されたい。
【0040】
このように組み立てられた電気二重層キャパシタは、使用する電圧より3〜100%高い電圧(通常、3.0〜4.2V程度)を印加して充電することにより、電解質イオンが(有機溶媒の存在下では溶媒も伴って)黒鉛類似炭素材の組織内に挿入され、その後電気二重層を形成する。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
ピッチ系炭素前駆体を不活性雰囲気中で450℃の温度で焼成し一次焼成品を作製した。この一次焼成炭素材を、株式会社奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションNHS−3型を用いて回転数4000rpmで10分間処理することにより、平均球形度0.72の球形化処理炭素材を得た。その後、球形化処理炭素材を再度800℃の温度で焼成し炭化した材料を用い、これに質量比で2倍量の水酸化カリウムを混合し、不活性雰囲気中800℃において賦活処理を行い、BET比表面積125m/gの黒鉛類似炭素材を調製した。この黒鉛類似炭素材は、その微結晶性炭素のX線回折法による層間距離d002が最大0.360nmの範囲内にある。この黒鉛類似炭素材80質量%と、導電補助材としてケッチェンブラック粉末(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製「EC600JD」)10質量%と、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン粉末(三井デュポンフロロケミカル株式会社製「テフロン(登録商標)6J」)10質量%とからなる混合物にエタノールを加えて混錬し、その後ロール圧延を3回実施することにより、幅100mm、厚さ200μmの分極性シートを得た。幅150mm、厚さ50μmの高純度エッチドアルミニウム箔(KDK株式会社製「C512」)を集電体とし、その両面に、導電性接着剤液(日立粉末冶金株式会社製「GA−37」)を塗布ロールで30g/m塗布した。この塗布量は、乾燥質量で6g/mとなる。塗布後、集電体の塗布部分(両面)に、上記長尺の分極性シートを重ね、これを圧縮ロールに通して圧着し、接触界面同士を確実に貼り合わせた積層シートを得た。この積層シートを、温度150℃に設定した連続熱風乾燥機に通し、導電性接着剤液層から分散媒を蒸発除去することにより長尺の分極性電極を得た。なお、乾燥機内の通過速度は、積層シートのすべての部分が乾燥機内に3分間滞留する速度とした。
【0042】
この長尺シート状の積層シートを分極性電極の炭素電極部の寸法が10cm角で、リード部(集電体上に分極性電極が積層されていない部分)が2×10cmの形状になるように打ち抜いて方形状の分極性電極とした。二枚の分極性電極体を正極、負極とし、その間にセパレータとして厚さ80μmの親水化処理したePTFEシート(ジャパンゴアテックス株式会社製「BSP0708070」)を1枚挿入して単セルを作製した。次いで、その単セルを、230℃で24時間真空乾燥した後、アルゴン雰囲気で−60℃以下の露点を保ったグローブボックス内にてアルミパックに収納した。アルミパックは、昭和電工パッケージング株式会社製「PET12/Al20/PET12/CPP30 ドライラミネート品」を裁断し、25×20cmの袋状に融着加工したもの(短辺の一辺が開口し、他の三辺が融着シールされたもの)を用いた。電極への電解液の含浸は−0.05MPaの減圧下で、1.8モル/Lのトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの炭酸プロピレン溶液を電解液としてアルミパックに注入し、10分間静置して行った。最後にアルミパックの開口部を融着密封することにより、角形電気二重層キャパシタを製造した。このキャパシタの使用予定電圧は3.3Vである。
【0043】
角形電気二重層キャパシタを25℃において24時間保存した。その後、このキャパシタの両面方向から2.45×10Paの加圧力(面加圧力)で加圧し、この加圧状態のまま、初期充電として、40℃の恒温槽内で5mA/cmの電流密度にて3.5Vまで充電し、その後同電流密度において0Vまで放電させた。このキャパシタを実施例1とした。
【0044】
実施例2〜5
前記ハイブリダイゼーション装置での処理回転数および処理時間を表1に示すように変化させて作製した以外は、実施例1と同様に作製した。
【0045】
実施例6、7
ピッチ系炭素前駆体を不活性雰囲気中で焼成する時の温度を表1に示すように変化させて作製した以外は、実施例1と同様に作製した。
【0046】
実施例8〜10
賦活処理条件を変更し、比表面積を表1に示すように変化させて作製した以外は、実施例1と同様に作製した。
【0047】
比較例1
ピッチ系炭素前駆体を不活性雰囲気中で焼成、賦活する前に球形化処理を施さなかった以外は、実施例1と同様に作製した。
【0048】
実施例1〜10および比較例1の電気二重層キャパシタについて、体積静電容量密度および内部抵抗、電極膨張率、耐久性能を測定した。測定条件は以下の通り。電極加工性の指標としては、弊社製法にて最も薄膜化可能な厚みとして判断した。
(体積静電容量密度)
測定器:株式会社パワーシステム製「CDT510−4」
温度:20℃
充電:5mA/cm、3.3V、3600秒
放電:5mA/cm、0V
5サイクル目の静電容量をエネルギー換算法により求め、それを膨張後における集電体を含まない正負極の炭素電極部の体積で除して算出した。算出には解析ソフト(株式会社パワーシステム製「CDT Utility」)を使用した。
(直流内部抵抗)
体積静電容量密度の測定時に、V=IR式から算出した。算出には解析ソフト(株式会社パワーシステム製「CDT Utility」)を使用した。
(膨張率)
後述の充放電条件における5サイクル目の充電後の電極部厚さ(面加圧力を取り除いて測定した厚さ)を、その初期厚200μmで除して算出した(100%は変化無し)。
(耐久性能)
上記電気二重層キャパシタについて、45℃の温度下で5mA/cm、3.3Vで1時間充電、5mA/cm条件で0Vになるまで放電を行う操作を1サイクルとし、スタート時の静電容量、直流抵抗を確認後、同条件にて1000時間フロート充電し、20時間ごとに静電容量、直流抵抗を確認した。1サイクル目と1000時間経過時の静電容量を、静電容量密度について上記した方法で求め、結果は、測定スタート時(1サイクル目)に対する1000時間経過時の静電容量の維持率[100×(1000時間経過時のサイクルの静電容量)/(1サイクル目の静電容量)](%)で評価した。内部抵抗についても同様に算出した。
【0049】
表2からわかるように、本発明による各実施例のキャパシタ用電極は、弊社製法により電極を作製した場合、未処理の比較例電極と比べより薄膜化が可能であった。すなわち電極加工性が非常に良いという結果であった。これは、球形化処理を施すことにより粒子のアスペクト比が改善されより球形に近くなることにより粒子の流動性が向上し電極加工性が向上したものと思われる。
【0050】
体積静電容量密度、直流抵抗に関しては比較例と同等であるが、耐久性能については未処理の比較例電極を用いたキャパシタよりも1000時間後の静電容量維持率、直流抵抗増加率は優れていた。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛類似の微結晶性炭素を有する炭素材とバインダーとを含んでなる、シート状の電気二重層キャパシタ用電極であって、該炭素材のフロー式画像解析法による平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)が0.65以上であることを特徴とする電極。
【請求項2】
該電極が圧延処理によりシート状にされたものである、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
該炭素材の円相当径が5μm以上である、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
該炭素材の比表面積が200m/g以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
該炭素材のX線回折法による層間距離d002が0.350〜0.385nmの範囲内にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
該炭素材がピッチ系炭素前駆体から得られたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
該バインダーがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電極。
【請求項8】
さらに導電補助材を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極。
【請求項9】
該電極の厚さが400μm以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電極を含む電気二重層キャパシタ。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ用電極の製造方法であって、前記炭素材の原料を、400〜600℃の範囲内で熱処理し、次いで高速気流中衝撃法により球形化処理することを特徴とする方法。
【請求項12】
黒鉛類似の微結晶性炭素を有する電気二重層キャパシタ電極用炭素材であって、フロー式画像解析法による平均球形度(X軸Y軸アスペクト比)が0.65以上であることを特徴とする炭素材。
【請求項13】
円相当径が5μm以上である、請求項12に記載の炭素材。
【請求項14】
比表面積が200m/g以下である、請求項12または13に記載の炭素材。
【請求項15】
X線回折法による層間距離d002が0.350〜0.385nmの範囲内にある、請求項12〜14のいずれか1項に記載の炭素材。
【請求項16】
ピッチ系炭素前駆体から得られたものである、請求項12〜15のいずれか1項に記載の炭素材。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれか1項に記載の電気二重層キャパシタ電極用炭素材の製造方法であって、前記炭素材の原料を、温度400℃〜600℃の範囲内で熱処理し、次いで高速気流中衝撃法により球形化処理することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2010−73793(P2010−73793A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237927(P2008−237927)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】