説明

電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器

【課題】 ガスバリア層の剥離やクラックに金する水分の侵入を抑制した電気光学装置及びその製造方法、及び電子機器を提供する。
【解決手段】 ガスバリア層の下地を平坦化させることによりガスバリア層への応力集中を緩和させるようにする。 基体200上に、複数の第1電極23と、第1電極23の形成位置に対応した複数の開口部221aを有する隔壁221と、開口部221aのそれぞれに配置される電気光学層60と、隔壁221及び電気光学層60を覆う第2電極50と、を有する電気光学装置1において、第2電極50を覆うと共に平坦な上面が形成された有機緩衝層210aと、当該有機緩衝層210aを覆うと共に当該有機緩衝層210aよりも広い面積で形成された無機緩衝層210bと、当該無機緩衝層210bを覆うガスバリア層30と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置及びその製造方法と、この電気光学装置を備えた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気光学装置においては、発光機能層を備えた有機EL装置が知られている。このような電気光学装置は、無機陽極と無機陰極との間に有機発光層を備えた構成が一般的である。更に、正孔注入性や電子注入性を向上させるために、無機陽極と有機発光層の間に有機正孔注入層を配置した構成や、有機発光層と無機陰極の間に電子注入層を配置した構成が提案されている。
【0003】
ここで、電子を放出しやすい材料特性を有する電子注入層は、大気中の存在する水分と反応しやすく、水と反応することによって電子注入効果が低下し、ダークスポットと呼ばれる非発光領域が形成されてしまい、発光素子としての寿命が短くなってしまう。従って、このような電気光学装置の分野においては、水分や酸素等に対する耐久性向上が課題となっている。
このような課題を解決するために、表示装置の基板にガラスや金属の蓋を取り付けて水分等を封止する方法が一般的に採用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化及び薄型化/軽量化に伴い、外部応力に耐えるパネル強度を保持するため、中空構造からソリッド構造に切り替える必要が出てきている。また、大型化に伴ってTFTや配線回路の面積を十分に確保するため、回路基板の反対側から発光させるトップエミッション構造を用いる必要も提案されている。このような要求を達成するために、封止構造においては、透明でかつ軽量、耐強度性に優れた薄い構造を採用する必要があり、また、乾燥剤を除いても防湿性能が得られる構造が求められている。
【0004】
そこで、近年では、表示装置の大型化及び軽薄化に対応するために、発光素子上に透明でガスバリア性に優れた珪素窒化物、珪素酸化物、セラミックス等の薄膜を高密度プラズマ成膜法(例えば、イオンプレーティング、ECRプラズマスパッタ、ECRプラズマCVD、表面波プラズマCVD、ICP−CVD等)により成膜させる薄膜封止と呼ばれる技術が用いられている(例えば、特許文献1〜4)。このような技術によれば、水分を完全に遮断して薄膜形成することが可能となっている。
【特許文献1】特開平9−185994号公報
【特許文献2】特開2001−284041号公報
【特許文献3】特開2000−223264号公報
【特許文献4】特開2003−17244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような技術を採用した場合でも、外部から水分が侵入してしまい、十分な発光特性や発光寿命が得られないことが本発明者によって確認された。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、ガスバリア層の剥離やクラックに金する水分の侵入を抑制した電気光学装置及びその製造方法、及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述した技術により成膜される薄層(ガスバリア層)は、緻密で非常に硬い膜であるため、薄層が被膜する表面上に凸凹や急峻な段差が存在すると、成膜された薄層に外部応力が集中してクラックや剥離が生じ、かえって遮断性が低下するということを見出した。特に、バンクと呼ばれる隔壁を設けて、複数の発光層を区分けしている場合には、ガスバリア層が被膜する表面がバンクの存在により凸凹状に形成されてしまうため、外部応力が集中してクラックや剥離等が生じることを見出した。
【0007】
更に、本発明者らは、ガスバリア層のエッジ部分から水分が侵入することを見出した。
具体的に説明すると、ガスバリア層のエッジ部分においては、ガスバリア層が緩やかな傾斜を有しながら基体に接触している。このような接触部分にガスバリア層が緻密に形成されると、ガスバリア層にクラックが生じ、そこから水分が浸入してしまう。ここで、クラックが生じるのは、ガスバリア層自体が水蒸気等のガス遮断性を得るため緻密な膜質を有しているために、ガスバリア層において基体を押さえつける力が生じてしまい、換言すればガスバリア層に圧縮応力が生じてしまい、基体からガスバリア層が剥離してしまうことに起因している。このようなクラックは、特に段差のある周辺エッジ部分において生じやすい。また、このようなクラックを抑制するには、ガスバリア層を薄くして、圧縮応力の発生を低減することが考えられるが、ガスバリア層を薄くすると、表面の微細な凹凸の影響を受けやすく、ピンホール欠陥も生じやすくなってしまう。即ち、ガスバリア層の下地の凹凸を埋めるためにも、ガスバリア層を所定の膜厚で形成する必要がある。
このように、本発明者らは、ガスバリア層を厚膜化した場合の問題点と、薄膜化した場合の問題点を見出し、単に緻密で高い応力のガスバリア層を形成しただけでは、水分の浸入を抑制することができないことを見出した。
そこで、本発明者らは、上記に基づいて以下の手段を有する本発明を想到した。
【0008】
即ち、本発明の電気光学装置は、基体上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁と、前記開口部のそれぞれに配置される電気光学層と、前記隔壁及び前記電気光学層を覆う第2電極と、を有する電気光学装置において、前記第2電極を覆うと共に略平坦な上面が形成された有機緩衝層と、当該有機緩衝層を覆うと共に当該有機緩衝層よりも広い面積で形成された無機緩衝層と、当該無機緩衝層を覆うガスバリア層と、を備えることを特徴としている。
【0009】
ここで、ガスバリア層は無機材料からなり、特に珪素化合物であることが好ましい。
また、無機緩衝層は、ガスバリア層よりも膜密度が小さいことが好ましい。なお、無機緩衝層はガスバリア層と同じ珪素化合物からなることがさらに好ましい。
また、本発明におけるガスバリア層と無機緩衝層の各々は、ガスバリア機能を有する部分(層膜)と、応力に対する緩衝機能を有する部分(層膜)を意味しており、界面を介して配置された部分でもよいし、ガスバリア層及び無機緩衝層の構成原子の濃度勾配を有して配置された部分でもよい。ここで、後者の濃度勾配を有する場合においては、構成原子の濃度の大小によってガスバリア層と無機緩衝層が規定される。
【0010】
一般に、ガスバリア層は上述のように基板中央を持ち上げるような力が働く圧縮応力を有しており、有機緩衝層は有機材料からなるため基板周辺を引っ張り上げるような力が働く引張応力を有している。したがって、有機緩衝層側の無機緩衝層は有機緩衝層より引張応力の小さい膜であり、ガスバリア層側の無機緩衝層はガスバリア層より圧縮応力が小さい膜であることが好ましい。また、有機緩衝層側の無機緩衝層と有機緩衝層と、もしくは、ガスバリア層側の無機緩衝層とガスバリア層との間の応力の差を少なくすることにより、これらの層の密着性を向上させることができる。したがって、無機緩衝層は有機緩衝層側からガスバリア層側に向け、引張応力から圧縮応力に段階的もしくは連続的に形成されていることが好ましい。
【0011】
このように、無機材料からなるガスバリア層と無機緩衝層とが接触し、また、無機緩衝層はガスバリア層よりも小さい膜密度を有しているので、ガスバリア層を形成した際の圧縮応力が緩和される。これにより、ガスバリア層の剥離やクラックを抑制できる。従って、水分の浸入を抑制することができ、電気光学層の劣化を防止できる。
また、ガスバリア層と無機緩衝層は、共に無機材料からなるので、両者の密着性は高く、互いに剥離することがない。ガスバリア層と無機緩衝層は、共に珪素化合物から形成することにより、さらに両者の密着性を向上させることができる。また、このような無機緩衝層を設けたことにより、ガスバリア層の膜厚を従来よりも薄くできる。これにより、ガスバリア層を厚膜に形成した場合の基体の反りを抑制できる。また、ガスバリア層の薄膜化を単に施しただけでは、ピンホールなどの膜欠陥が生じて一般的に水分に対する遮断性が低下してしまうが、上記のように無機緩衝層が形成されることによって、無機緩衝層が水分に対する遮蔽性を補完するので、ガスバリア層が薄膜となっても、十分に水分を遮蔽できる。
【0012】
また、無機緩衝層は有機緩衝層よりも広い面積で形成されるので、有機緩衝層は無機緩衝層によって被覆された状態となる。これによって、ガスバリア層と有機緩衝層が直接的に接触することがない。これにより、ガスバリア層と有機緩衝層との間で生じる応力が緩和され、ガスバリア層の剥離やクラックを抑制できる。
また、有機緩衝層を設けたことにより、隔壁の平坦化と共に、基体側から発生する反りや体積変化により発生する応力が分散され、無機緩衝層及びガスバリア層に発生するクラックや剥離を防止する。また、有機緩衝層を設けたことにより、不安定な隔壁からの第2電極の剥離を防止できる。また、有機緩衝層の上面が略平坦化されるので、有機緩衝層上に形成される無機緩衝層やガスバリア層が平坦化され、ガスバリア層における応力集中が生じる部位がなくなり、ガスバリア層のクラック発生を防止できる。
また、有機緩衝層は、第2電極を形成した後に付着する微細なパーティクルを埋めるので、当該パーティクルがあったとしても、無機緩衝層やガスバリア層の平坦化を実現できる。
【0013】
また、前記電気光学装置においては、前記無機緩衝層は、酸素原子を含むことを特徴としている。
このように、無機緩衝層の内部に酸素原子が入り込むことで、無機緩衝層の緻密さが低下するので、ガスバリア層の圧縮応力を効果的に緩和できる。
特に無機緩衝層とガスバリア層を珪素化合物で形成する場合には、無機緩衝層の酸素含有量がガスバリア層の酸素含有量より多くすることにより、無機緩衝層の圧縮応力をガスバリア層の圧縮応力よりも小さく抑えることができる。
また、無機緩衝層が酸素原子を含むことにより、当該酸素原子を含んでいない場合と比較して、無機緩衝層の屈折率が変化する。従って、酸素原子の含有量を調整することで、無機緩衝層が所望の屈折率、即ち、所望の膜密度を有するように調整できる。
【0014】
また、前記電気光学装置においては、前記無機緩衝層は、水素原子を含むことを特徴としている。
このように、無機緩衝層の内部に水素原子が入り込むことで、無機緩衝層の緻密さが低下するので、ガスバリア層の圧縮応力を効果的に緩和できる。特に無機緩衝層とガスバリア層を珪素化合物で形成する場合には、無機緩衝層の水素含有量がガスバリア層の水素含有量より多くすることにより、無機緩衝層の圧縮応力をガスバリア層の圧縮応力よりも小さく抑えることができるとともに、無機緩衝層の水素含有量を制御することにより圧縮応力から引張応力の範囲にて制御することができる。無機緩衝層の水素含有量を有機緩衝層側からガスバリア層側に向け連続的、もしくは、段階的に少なくすることにより、無機緩衝層の応力を有機緩衝層側からガスバリア層側に向け、引張応力から圧縮応力に段階的もしくは連続的に変えて形成することができる。
また、無機緩衝層が水素原子を含んだとしても、無機緩衝層の屈折率が変わらないので、屈折率を変えずに膜質の緻密さを調整できる。
【0015】
また、前記電気光学装置においては、前記無機緩衝層は、前記有機緩衝層を被覆すると共に基体上の無機材料と接触して形成されていることを特徴としている。
このようにすれば、ガスバリア層が基体上の無機材料と直接接触することなく、無機緩衝層を介してガスバリア層が無機材料上に形成されることとなる。従って、ガスバリア層の圧縮応力が無機緩衝層によって緩和されるので、基体上の無機材料の形成部分におけるガスバリア層の剥離やクラックを抑制できる。従って、当該剥離やクラックに起因する水分の浸入を抑制できる。
【0016】
また、前記電気光学装置においては、前記ガスバリア層を覆う樹脂接着層と、当該樹脂接着層を覆う保護基体とが設けられていることを特徴としている。
このようにすれば、ガスバリア層が保護されるので、ガスバリア層の破壊や損傷を抑制できる。
【0017】
また、前記電気光学装置においては、第2電極と有機緩衝層との間に、電極保護層が設けられていることを特徴としている。
このようにすれば、電極保護層によって第2電極が保護されるので、有機緩衝層を形成する際の有機溶剤や残留水分によるダメージを抑制できる。
【0018】
また、前記電気光学装置においては、前記無機緩衝層は、前記有機緩衝層を被覆すると共に前記電極保護層と接触して形成されていることを特徴としている。
このようにすれば、ガスバリア層が電極保護層と直接接触することなく、無機緩衝層を介してガスバリア層が電極保護層上に形成されることとなる。従って、ガスバリア層の圧縮応力が無機緩衝層によって緩和されるので、電極保護層上に形成されるガスバリア層の剥離やクラックを抑制できる。従って、当該剥離やクラックに起因する水分の浸入を抑制できる。
【0019】
また、前記電気光学装置においては、有機緩衝層の側面端部の角度が45°以下で形成されていることを特徴としている。
ここで、無機緩衝層やガスバリア層は、このような有機緩衝層の形状に倣って形成される。このようにすれば、無機緩衝層やガスバリア層は、急峻な形状ではなく、緩やかな形状を有するので、当該無機緩衝層やガスバリア層における応力を低減できる。従って、無機緩衝層やガスバリア層に荷重が付与されたとしても、剥離やクラックが生じることがなく、水分の侵入を抑制できる。
【0020】
また、本発明の電気光学装置の製造方法は、基体上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁と、前記開口部のそれぞれに配置される電気光学層と、前記隔壁及び前記電気光学層を覆う第2電極と、を有する電気光学装置の製造方法において、前記第2電極を覆うと共に略平坦な有機緩衝層を形成する工程と、当該有機緩衝層を覆うと共に当該有機緩衝層よりも広い面積を有する無機緩衝層を形成する工程と、当該無機緩衝層を覆うガスバリア層を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0021】
このように、無機緩衝層が形成されることにより、ガスバリア層の圧縮応力が緩和され、ガスバリア層の剥離やクラックを抑制できる。従って、水分の浸入を抑制することができ、電気光学層の劣化を防止できる。また、無機緩衝層を形成することにより、ガスバリア層の膜厚を従来よりも薄くできる。これにより、ガスバリア層を厚膜に形成した場合の基体の反りを抑制できる。また、無機緩衝層が水分に対する遮蔽性を補完するので、ガスバリア層が薄膜となっても十分に水分を遮蔽できる。
【0022】
また、有機緩衝層よりも広い面積で無機緩衝層を形成するので、ガスバリア層と有機緩衝層が直接的に接触することがない。これにより、ガスバリア層と有機緩衝層との間で生じる応力が緩和され、ガスバリア層の剥離やクラックを抑制できる。
また、有機緩衝層を形成することにより、基体側から発生する反りや体積変化により発生する応力を緩和できる。従って、不安定な隔壁からの第2電極の剥離を防止できる。また、有機緩衝層の上面が略平坦化されるので、有機緩衝層上に形成される無機緩衝層やガスバリア層が平坦化され、ガスバリア層における応力集中が生じる部位がなくなり、ガスバリア層のクラック発生を防止できる。
また、有機緩衝層は、第2電極を形成した後に付着する微細なパーティクルを埋めるので、当該パーティクルがあったとしても、無機緩衝層やガスバリア層の平坦化を実現できる。
【0023】
また、前記電気光学装置の製造方法においては、前記有機緩衝層を形成する工程は、大気圧雰囲気下における液相法を利用することを特徴としている。
このようにすれば、真空雰囲気で形成する場合と比較して、安価かつ容易に平坦性に優れた有機緩衝層を形成できる。
【0024】
また、前記電気光学装置の製造方法においては、前記無機緩衝層及び前記ガスバリア層を形成する工程は、真空雰囲気において連続して行うことを特徴としている。
このようにすれば、大気圧雰囲気に戻すことなく無機緩衝層とガスバリア層が形成されるので、生産性を向上させることができる。また、大気雰囲気に戻す場合には、大気中に含まれる水分が無機緩衝層とガスバリア層の間に入り込んでしまうが、同一の真空雰囲気において一括して成膜することにより、水分を抑制できる。
【0025】
また、本発明の電子機器は、先に記載の電気光学装置を備えたことを特徴としている。
このような電子機器としては、例えば、携帯電話機、移動体情報端末、時計、ワープロ、パソコンなどの情報処理装置、プリンタ等を例示できる。また、大型の表示画面を有するテレビや、大型モニタ等を例示できる。このように電子機器の表示部に、本発明の電気光学装置を採用することによって、長寿命で表示特性が良好な表示部を備える電子機器を提供できる。また、プリンタなどの光源に適用してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器の実施形態について図を参照して説明する。
電気光学装置として、電気光学物質の一例である電界発光型物質、中でも有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を用いたEL表示装置について説明する。
図1は、EL表示装置1の配線構造を示す図である。EL表示装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型のEL表示装置である。
なお、以下の説明では、EL表示装置1を構成する各部位や各層膜を認識可能とするために、各々の縮尺を異ならせている。
【0027】
EL表示装置(電気光学装置)1は、図1に示すように、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101と信号線102の各交点付近に画素領域Xが設けられる。
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続される。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続される。
【0028】
さらに、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(第1電極)23と、この画素電極23と陰極(第2電極)50との間に挟み込まれた機能層110とが設けられる。画素電極23と陰極50と機能層110により、発光素子(有機EL素子)が構成される。
【0029】
このEL表示装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から画素電極23に電流が流れ、さらに機能層110を介して陰極50に電流が流れる。機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0030】
次に、EL表示装置1の具体的な構成について図2〜図6を参照して説明する。
EL表示装置1は、図2に示すように電気絶縁性を備えた基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線(図示せず)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを具備して構成されたアクティブマトリクス型のものである。
なお、本発明においては、基板20と後述するようにこれの上に形成されるスイッチング用TFTや各種回路、及び層間絶縁膜などを含めて、基体と称している。(図3、4中では符号200で示している。)
【0031】
画素部3は、中央部分の実表示領域4(図2中二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とに区画される。
実表示領域4には、それぞれ画素電極を有する表示領域R、G、BがA−B方向およびC−D方向にそれぞれ離間してマトリックス状に配置される。
また、実表示領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80、80が配置される。これら走査線駆動回路80、80は、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0032】
さらに、実表示領域4の図2中上側には、検査回路90が配置される。この検査回路90は、EL表示装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時の表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されたものである。なお、この検査回路90も、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0033】
走査線駆動回路80および検査回路90は、その駆動電圧が、所定の電源部から駆動電圧導通部310(図3参照)および駆動電圧導通部340(図4参照)を介して、印加されるよう構成される。また、これら走査線駆動回路80および検査回路90への駆動制御信号および駆動電圧は、このEL表示装置1の作動制御を行う所定のメインドライバなどから駆動制御信号導通部320(図3参照)および駆動電圧導通部350(図4参照)を介して、送信および印加される。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80および検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバなどからの指令信号である。
【0034】
また、EL表示装置1は、図3、図4に示すように基体200上に画素電極23と発光層60と陰極50とを備えた発光素子(有機EL素子)を多数形成し、さらにこれらを覆って有機緩衝層210a、無機緩衝層210b、ガスバリア層30等を形成させたものである。
なお、発光層60としては、代表的には発光層(エレクトロルミネッセンス層)であり、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などのキャリア注入層またはキャリア輸送層を備えるもの。さらには、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子阻止層(エレクトロン阻止層)を備えるものであってもよい。
【0035】
基体200を構成する基板20としては、いわゆるトップエミッション型のEL表示装置の場合、この基板20の対向側であるガスバリア層30側から発光光を取り出す構成であるので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0036】
また、いわゆるボトムエミッション型のEL表示装置の場合には、基板20側から発光光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。なお、本実施形態では、ガスバリア層30側から発光光を取り出すトップエミッション型とし、よって基板20としては上述した不透明基板、例えば不透明のプラスチックフィルムなどが用いられる。
【0037】
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFT123などを含む回路部11が形成されており、その上に発光素子(有機EL素子)が多数設けられる。発光素子は、図6に示すように、陽極として機能する画素電極23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層70と、電気光学物質の一つである有機EL物質を備える発光層60と、陰極50とが順に形成されたことによって構成されたものである。
このような構成のもとに、発光素子はその発光層60において、正孔輸送層70から注入された正孔と陰極50からの電子とが結合することにより発光する。
【0038】
画素電極23は、本実施形態ではトップエミッション型であることから透明である必要がなく、したがって適宜な導電材料によって形成される。
正孔輸送層70の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体などが用いられる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液などを用いて正孔輸送層70を形成することができる。
【0039】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
なお、上述した高分子材料に代えて、従来公知の低分子材料を用いることもできる。
また、必要に応じて、このような発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0040】
また、本実施形態において正孔輸送層70と発光層60とは、図3〜図6に示すように基体200上にて格子状に形成された親液性制御層25と有機隔壁層(隔壁)221とによって囲まれて配置され、これにより囲まれた正孔輸送層70および発光層60は単一の発光素子(有機EL素子)を構成する素子層となる。
なお、有機隔壁層221の開口部221aの各壁面の基体200表面に対する角度θが、110度以上から170度以下となっている(図6参照)。このような角度としたのは、発光層60をウエットプロセスにより形成する際に、開口部221a内に配置されやすくするためである。
【0041】
陰極50は、図3〜図6に示すように、実表示領域4およびダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されたもので、発光層60と有機隔壁層221の上面、さらには有機隔壁層221の外側部を形成する壁面を覆った状態で基体200上に形成されたものである。なお、この陰極50は、図4に示すように有機隔壁層221の外側で基体200の外周部に形成された陰極用配線202に接続される。この陰極用配線202にはフレキシブル基板203が接続されており、これによって陰極50は、陰極用配線202を介してフレキシブル基板203上の図示しない駆動IC(駆動回路)に接続される。
【0042】
陰極50を形成するための材料としては、本実施形態はトップエミッション型であることから光透過性である必要があり、したがって透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)が好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide:IZO/アイ・ゼット・オー)(登録商標)等を用いることができる。なお、本実施形態ではITOを用いるものとする。
【0043】
また、陰極50は、電子注入効果の大きい材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。また、これらの材料だけでは、電気抵抗が大きく電極として機能しないため、アルミニウムや金、銀、銅などの金属層やITO、酸化錫などの金属酸化物導電層との積層体と組み合わせて用いてもよい。なお、本実施形態では、フッ化リチウムとマグネシウム金属、ITOの積層体を、透明性が得られる膜厚に調整して用いるものとする。
【0044】
陰極50の上層部には、陰極保護層(電極保護層)55が形成されている。当該陰極保護層55は、有機緩衝層210aの形成時の有機溶剤や残留水分等が起因する、製造プロセス時における陰極50の腐食やダメージを防止するために設けられるものである。また、このような陰極保護層55は、形成後の圧縮応力が生じにくい材料が好ましく、珪素化合物や、酸化チタン等の金属化合物などの無機化合物により形成されたものが好ましい。また、より好ましくは、無機緩衝層210bと同じ材料であることが好ましい。また、陰極保護層55の形成方法としては、高密度プラズマ成膜法や、真空蒸着法等が用いられる。また、その膜厚は30〜100nmが好ましい。
なお、陰極保護層55は、基板200の外周部の絶縁層284上まで、10nmから300nm程度の厚みに形成される。
【0045】
陰極保護層55の上層部には、有機隔壁層221よりも広い範囲で、かつ陰極50を覆った状態で有機緩衝層210aが設けられる。有機緩衝層210aは、有機隔壁層221の形状の影響により、凸凹状に形成された陰極50の凸凹部分を埋めるように配置され、更に、その上面は略平坦に形成される。
【0046】
有機緩衝層210aは、基板200側から発生する反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、不安定な有機隔壁層221からの陰極50の剥離を防止する機能を有する。また、有機緩衝層210aの上面が略平坦化されるので、有機緩衝層210a上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層30も平坦化されるので、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層30へのクラックの発生を防止する。
有機緩衝層210aとしては、親油性で低吸水性を有する高分子材料、例えば、ポリオレフィン系またはポリエーテル系が好ましい。また、メチルトリメトキシシランやテトラエトキシシランなどのアルコキシシランを加水分解させて縮合させた有機珪素ポリマーでもよい。また、アクリルポリオールやメタクリポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、を主成分とし、トリレンジイソシアネートやキシリレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物を重合した高分子誘導体やビスフェノール系エポキシとアミン化合物を重合した高分子誘導体等を採用してもよい。
更に、3−アミノプロピルトリメトキシシランや3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤等の珪素化合物を含んだ高分子を用いることにより、陰極50やガスバリア層30等の無機材料との界面の接着性を向上させることができる。
また、有機緩衝層210aとしては、低温で硬化する材料が好ましく、メタクリレート樹脂やエポキシ樹脂などを主成分とする紫外線硬化型樹脂を用いることもできる。紫外線硬化型樹脂を用いることにより、加熱処理を行うことなく有機緩衝層210aが成膜されるので、加熱による発光層60への悪影響を抑えることができる。この場合には、陰極保護層55が紫外線吸収材料により形成されるようにすることが望ましく、例えば酸化チタンや酸化亜鉛、インジウム錫酸化物(ITO)などのエネルギーバンドギャップが2〜4eVの酸化物半導体材料が陰極保護層の少なくとも一部に使われることで、有機緩衝層210aを透過した紫外線を陰極保護層55で吸収させることにより、有機緩衝層210aに照射した紫外線が発光層60に悪影響を与えることを防止する。また、硬化収縮を防止する微粒子等の添加剤が混入されていてもよい。
これらの有機緩衝層材料は、親油性の有機溶媒等で希釈することで平坦塗布しやすい粘度範囲に調整されて塗布形成する。これらの有機溶媒は、塗布後に減圧乾燥等で除去される。
【0047】
ここで、図5を参照し、有機緩衝層210aの端部の構造について説明する。
図5は、図3における有機緩衝層210aの端部を示す拡大図である。図5に示すように、有機緩衝層210aは、陰極保護層55上に形成されるようになっており、その端部においては陰極保護層55の表面と接触角αで接触している。ここで、接触角αは45°以下であり、より好ましくは、10°〜20°程度であることが好ましい。このように有機緩衝層210aが形成されることにより、当該有機緩衝層210aの上層に形成される無機緩衝層210bやバリア層30は有機緩衝層210aの形状に倣って、形成される。
【0048】
更に、有機緩衝層210aの上層部には、無機緩衝層210bが形成されている。
無機緩衝層210bは、ガスバリア層30よりも膜密度が低く圧縮応力の小さい、即ち、緻密さが低い材料からなるものである。例えば、珪素窒素酸化物やアルミニウム酸化物等の化学的に安定で、有機材料との密着性に優れた材料を主成分にすることが好ましい。また、その材料は、有機緩衝層210aとガスバリア層30に対して、密着性が良好に得られるものが適宜採用される。
一般に、ガスバリア層30はガスバリア性を付与するため緻密性が必要であり、圧縮応力を有している。また、有機緩衝層は有機材料を重合させて形成するため小さい引張応力を有している。したがって、無機緩衝層210bは有機緩衝層210a側からガスバリア層30側に向け、引張応力から圧縮応力に段階的もしくは連続的に形成されていることにより、無機緩衝層210bと有機緩衝層210a、もしくは、無機緩衝層210bとガスバリア層30との密着性を向上させることができる。また、ガスバリア層30との密着性が向上させるために、ガスバリア層30と同じ珪素系の材料を採用することが好ましい。具体的には、珪素酸化物や珪素酸窒化物が採用される。ここで、酸素や窒素の含有量をガスバリア層30と比較して異ならせて、膜形成時の圧縮応力を調整しながら形成されたものが好ましい。また、ガスバリア層30と無機緩衝層210bは共に、珪素酸化物や珪素酸窒化物により形成され、無機緩衝層210bの酸素含有量がガスバリア層30の酸素含有量より多くすることにより圧縮応力を低減させることができる。
また、無機緩衝層210bは、圧縮応力を発生させないように、比較的非晶質な膜もしくは多孔質な膜であることが好ましく、水素原子を膜中に導入して、共有結合を分断するような構造を用いてもよい。また、水素原子と共に酸素原子を膜中に導入してもよい。また、ガスバリア層30と無機緩衝層210bは共に、珪素酸化物や珪素酸窒化物により形成され、無機緩衝層210bの水素含有量がガスバリア層30の水素含有量より多くすることにより圧縮応力を低減させることができる。
また、有機緩衝層210a側の無機緩衝層210bはシリコーン樹脂もしくはシラザンなどの有機シランにより形成することにより、無機緩衝層210bとガスバリア層30との密着性をより向上させることができる。
また、無機緩衝層210bは有機緩衝層210aよりも広い面積で形成されることが好ましい。これにより、有機緩衝層210aは無機緩衝層210bによって被覆された状態となる。
【0049】
更に、無機緩衝層210bの上層部には、ガスバリア層30が形成されている。
ガスバリア層30は、絶縁層284に接触することなく、無機緩衝層210b上に形成されるものである。ガスバリア層30は、その内側に酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより陰極50や発光層60への酸素や水分の浸入を防止し、酸素や水分による陰極50や発光層60の劣化等を抑えるようにしたものである。
また、ガスバリア層30は、例えば無機化合物からなるもので、好ましくは珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物、珪素酸化物などによって形成される。更に、水蒸気などのガスを遮断するため緻密で欠陥の無い被膜にする必要があり、好適には低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法を用いて形成する。このようにガスバリア層30が無機緩衝層と同じ珪素化合物から形成されることで、ガスバリア層30と無機緩衝層210bの密着性がよくなり、したがってガスバリア層30が欠陥のない緻密な層となって酸素や水分に対するバリア性がより良好になる。ただし、珪素化合物以外でも、例えばアルミナや酸化タンタル、酸化チタン、さらには他のセラミックスなどからなっていてもよい。
【0050】
更に、ガスバリア層30としては、積層構造としてもよいし、その組成を不均一にして特にその酸素濃度が連続的に、あるいは非連続的に変化するような構成としてもよく、例えば、無機緩衝層210bが酸化珪素の場合、接合する界面側の酸素濃度を上げることが、上述した理由により好ましい。
また、このようなガスバリア層30の厚さとしては、10nm以上、200nm以下であるのが好ましい。10nm未満であると、膜の欠陥や膜厚のバラツキなどによって部分的に貫通孔が形成されてしまい、ガスバリア性が損なわれてしまうおそれがあるからであり、200nmを越えると、応力による割れが生じてしまうおそれがあるからである。また、同様の問題から、無機緩衝層とガスバリア層の合計膜厚は500nm以下にすることが好ましい。
また、本実施形態ではトップエミッション型としていることから、ガスバリア層30は透光性を有する必要があり、したがってその材質や膜厚を適宜に調整することにより、本実施形態では可視光領域における光線透過率を例えば80%以上にしている。
【0051】
なお、上記の無機緩衝層210bとガスバリア層30の各々は、必ずしも界面によって接合していなくてもよい。例えば、無機緩衝層210bとガスバリア層30は、界面を有していない同一層膜から形成されてもよい。この場合においては、当該同一層膜内の有機緩衝層210a側から保護層204側に向けて徐々に構成分子の濃度を異ならせた構造、即ち、濃度勾配を有する層膜が好ましい。具体的には、有機緩衝層210aの上層に珪素化合物を形成し、有機緩衝層210aの側において酸素原子濃度が高く、窒素濃度が低い状態とし、保護層204に向けて酸素原子濃度が低く、窒素濃度が高い状態とする構成が挙げられる。このように、酸素原子が窒素原子の濃度勾配を同一層膜内に形成することで、無機緩衝層210bとガスバリア層30の機能を当該同一層膜に含ませてもよい。
【0052】
更に、ガスバリア層30の上層部には、ガスバリア層30を覆う保護層204が設けられる。この保護層204は、ガスバリア層30側に設けられた接着層(樹脂接着層)205と表面保護基板(保護基体)206とからなる。
接着層205は、ガスバリア層30上に表面保護基板206を固定させ、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、発光層60やガスバリア層30の保護をするものである。当該接着層205に表面保護基板206が貼り合わされることで、保護層204が形成されている。接着層205は、例えばウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系などの樹脂で、表面保護基板206より柔軟でガラス転移点の低い材料からなる接着剤によって形成されたものである。また、透明樹脂材料が好ましい。また、低温で硬化させるため硬化剤を添加する2液混合型の材料によって形成されたものでもよい。
なお、このような接着層205には、シランカップリング剤またはアルコキシシランを添加しておくのが好ましく、このようにすれば、形成される接着層205とガスバリア層30との密着性がより良好になり、したがって機械的衝撃に対する緩衝機能が高くなる。
また、特にガスバリア層30が珪素化合物で形成されている場合などでは、シランカップリング剤やアルコキシシランによってこのガスバリア層30との密着性を向上させることができ、したがってガスバリア層30のガスバリア性を高めることができる。
【0053】
表面保護基板206は、接着層205上に設けられて、保護層204の表面側を構成するものであり、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有してなる層である。
表面保護基板206の材質は、ガラス、DLC(ダイアモンドライクカーボン)層、透明プラスチック、透明プラスチックフィルムが採用される。ここで、プラスチック材料としては、例えば、PET、アクリル、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が採用される。更に、当該表面保護基板206には、紫外線遮断/吸収層や光反射防止層、放熱層、レンズやミラー等の光学構造が設けられていてもよい。
なお、この例のEL表示装置においては、トップエミッション型にする場合に表面保護基板206、接着層205を共に透光性のものにする必要があるが、ボトムエミッション型とする場合にはその必要はない。
【0054】
また、上述の発光素子の下方には、図6に示したように回路部11が設けられる。この回路部11は、基板20上に形成されて基体200を構成するものである。すなわち、基板20の表面には下地としてSiO2を主体とする下地保護層281が形成され、その上にはシリコン層241が形成される。このシリコン層241の表面には、SiO2および/またはSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成される。
【0055】
また、シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域がチャネル領域241aとされる。なお、このゲート電極242は、図示しない走査線101の一部である。一方、シリコン層241を覆い、ゲート電極242を形成したゲート絶縁層282の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層283が形成される。
【0056】
また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造を形成する。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続される。このソース電極243は、上述した電源線103(図1参照、図6においてはソース電極243の位置に紙面垂直方向に延在する)の一部として構成される。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続される。
【0057】
ソース電極243およびドレイン電極244が形成された第1層間絶縁層283の上層は、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする第2層間絶縁層284によって覆われている。この第2層間絶縁層284は、アクリル系の絶縁膜以外の材料、例えば、SiN、SiO2などを用いることもできる。そして、ITOからなる画素電極23が、この第2層間絶縁層284の表面上に形成されるとともに、第2層間絶縁層284に設けられたコンタクトホール23aを介してドレイン電極244に接続される。すなわち、画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続される。
【0058】
なお、走査線駆動回路80および検査回路90に含まれるTFT(駆動回路用TFT)、すなわち、例えばこれらの駆動回路のうち、シフトレジスタに含まれるインバータを構成するNチャネル型又はPチャネル型のTFTは、画素電極23と接続されていない点を除いて駆動用TFT123と同様の構造とされる。
【0059】
画素電極23が形成された第2層間絶縁層284の表面には、画素電極23と、上述した親液性制御層25及び有機隔壁層221とが設けられる。親液性制御層25は、例えばSiO2などの親液性材料を主体とするものであり、有機隔壁層221は、アクリルやポリイミドなどからなるものである。そして、画素電極23の上には、親液性制御層25に設けられた開口部25a、および有機隔壁層221に囲まれてなる開口部221aの内部に、正孔輸送層70と発光層60とがこの順に積層される。なお、本実施形態における親液性制御層25の「親液性」とは、少なくとも有機隔壁層221を構成するアクリル、ポリイミドなどの材料と比べて親液性が高いことを意味するものとする。
以上に説明した基板20上の第2層間絶縁層284までの層が、回路部11を構成する。
【0060】
ここで、本実施形態のEL表示装置1は、カラー表示を行うべく、各発光層60が、その発光波長帯域が光の三原色にそれぞれ対応して形成される。例えば、発光層60として、発光波長帯域が赤色に対応した赤色用発光層60R、緑色に対応した緑色用発光層60G、青色に対応した青色用有機EL層60Bとをそれぞれに対応する表示領域R、G、Bに設け、これら表示領域R、G、Bをもってカラー表示を行う1画素が構成される。また、各色表示領域の境界には、金属クロムをスパッタリングなどにて成膜した図示略のBM(ブラックマトリクス)が、例えば有機隔壁層221と親液性制御層25との間に形成される。
【0061】
次に、本実施形態に係るEL表示装置1の製造方法の一例を、図7及び図8を参照して説明する。図7及び図8に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応した図である。
なお、本実施形態においては、電気光学装置としてのEL表示装置1がトップエミッション型である場合であり、また、基板20の表面に回路部11を形成させる工程については、従来技術と変わらないので説明を省略する。
【0062】
まず、図7(a)に示すように、表面に回路部11が形成された基板20の全面を覆うように、画素電極23となる導電膜を形成され、更に、この透明導電膜をパターニングすることにより、第2層間絶縁層284のコンタクトホール23aを介してドレイン電極244と導通する画素電極23を形成すると同時に、ダミー領域のダミーパターン26も形成する。
なお、図3及び図4では、これら画素電極23、ダミーパターン26を総称して画素電極23としている。ダミーパターン26は、第2層間絶縁層284を介して下層のメタル配線へ接続しない構成とされる。すなわち、ダミーパターン26は、島状に配置され、実表示領域に形成されている画素電極23の形状とほぼ同一の形状を有する。もちろん、表示領域に形成されている画素電極23の形状と異なる構造であってもよい。なお、この場合、ダミーパターン26は少なくとも駆動電圧導通部310(340)の上方に位置するものも含むものとする。
【0063】
次いで、図7(b)に示すように、画素電極23、ダミーパターン26上、および第2層間絶縁膜上に絶縁層である親液性制御層25を形成する。なお、画素電極23においては一部が開口する態様にて親液性制御層25を形成し、開口部25a(図3も参照)において画素電極23からの正孔移動が可能とされている。逆に、開口部25aを設けないダミーパターン26においては、絶縁層(親液性制御層)25が正孔移動遮蔽層となって正孔移動が生じないものとされている。続いて、親液性制御層25において、異なる2つの画素電極23の間に位置して形成された凹状部に不図示のBM(ブラックマトリックス)を形成する。具体的には、親液性制御層25の凹状部に対して、金属クロムを用いスパッタリング法にて成膜する。
【0064】
そして、図7(c)に示すように、親液性制御層25の所定位置、詳しくは上述したBMを覆うように有機隔壁層221を形成する。具体的な有機隔壁層の形成方法としては、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などのレジストを溶媒に溶解したものを、スピンコート法、ディップコート法などの各種塗布法により塗布して有機質層を形成する。なお、有機質層の構成材料は、後述するインクの溶媒に溶解せず、しかもエッチングなどによってパターニングし易いものであればどのようなものでもよい。
【0065】
更に、有機質層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、有機質層に開口部221aを形成することにより、開口部221aに壁面を有した有機隔壁層221を形成する。ここで、開口部221を形成する壁面について、基体200表面に対する角度θを110度以上から170度以下となるように形成する。
なお、この場合、有機隔壁層221は、少なくとも駆動制御信号導通部320の上方に位置するものを含むものとする。
【0066】
次いで、有機隔壁層221の表面に、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とを形成する。本実施形態においては、プラズマ処理によって各領域を形成する。具体的には、プラズマ処理を、予備加熱工程と、有機隔壁層221の上面および開口部221aの壁面ならびに画素電極23の電極面23c、親液性制御層25の上面をそれぞれ親液性にする親インク化工程と、有機隔壁層211の上面および開口部221aの壁面を撥液性にする撥インク化工程と、冷却工程とで構成する。
【0067】
すなわち、基材(隔壁などを含む基板20)を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、次いで親インク化工程として大気雰囲気中で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(O2プラズマ処理)を行う。次いで、撥インク化工程として大気雰囲気中で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CF4プラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基材を室温まで冷却することで、親液性および撥液性が所定箇所に付与されることとなる。
【0068】
なお、このCF4プラズマ処理においては、画素電極23の電極面23cおよび親液性制御層25についても多少の影響を受けるが、画素電極23の材料であるITOおよび親液性制御層25の構成材料であるSiO2、TiO2などはフッ素に対する親和性に乏しいため、親インク化工程で付与された水酸基がフッ素基で置換されることがなく、親液性が保たれる。
【0069】
次いで、正孔輸送層形成工程によって正孔輸送層70の形成を行う。この正孔輸送層形成工程では、例えばインクジェット法等の液滴吐出法や、スピンコート法などにより、正孔輸送層材料を電極面23c上に塗布し、その後、乾燥処理および熱処理を行い、電極23上に正孔輸送層70を形成する。正孔輸送層材料を例えばインクジェット法で選択的に塗布する場合には、まず、インクジェットヘッド(図示略)に正孔輸送層材料を充填し、インクジェットヘッドの吐出ノズルを親液性制御層25に形成された開口部25a内に位置する電極面23cに対向させ、インクジェットヘッドと基材(基板20)とを相対移動させながら、吐出ノズルから1滴当たりの液量が制御された液滴を電極面23cに吐出する。次に、吐出後の液滴を乾燥処理し、正孔輸送層材料に含まれる分散媒や溶媒を蒸発させることにより、正孔輸送層70を形成する。
【0070】
ここで、吐出ノズルから吐出された液滴は、親液性処理がなされた電極面23c上にて広がり、親液性制御層25の開口部25a内に満たされる。その一方で、撥インク処理された有機隔壁層221の上面では、液滴がはじかれて付着しない。したがって、液滴が所定の吐出位置からはずれて有機隔壁層221の上面に吐出されたとしても、該上面が液滴で濡れることがなく、弾かれた液滴が親液性制御層25の開口部25a内に転がり込む。
なお、この正孔輸送層形成工程以降は、正孔輸送層70および発光層60の酸化を防止すべく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0071】
次いで、発光層形成工程によって発光層60の形成を行う。この発光層形成工程では、例えばインクジェット法により、発光層形成材料を正孔輸送層70上に吐出し、その後、乾燥処理および熱処理を行うことにより、有機隔壁層221に形成された開口部221a内に発光層60を形成する。この発光層形成工程では、正孔輸送層70の再溶解を防止するため、発光層形成材料に用いる溶媒として、正孔輸送層70に対して不溶な無極性溶媒を用いる。
なお、この発光層形成工程では、インクジェット法によって例えば青色(B)の発光層形成材料を青色の表示領域に選択的に塗布し、乾燥処理した後、同様にして緑色(G)、赤色(R)についてもそれぞれその表示領域に選択的に塗布し、乾燥処理する。
また、必要に応じて、上述したようにこのような発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0072】
次いで、図8(a)に示すように、陰極層形成工程によって陰極50の形成を行う。この陰極層形成工程では、例えばイオンプレーティング法等の物理気相成長法によりITOを成膜して、陰極50とする。このとき、この陰極50については、発光層60と有機隔壁層221の上面を覆うのはもちろん、有機隔壁層221の外側部を形成する壁面についてもこれを覆った状態となるように形成する。
次に、陰極50上に陰極保護層55を形成する。当該陰極保護層55を形成する方法としては、イオンプレーティング法等の物理気相成長法を用いることが好ましい。
【0073】
次いで、図8(b)に示すように、有機緩衝層210aは、液相法、すなわちウエットプロセスにより形成する。例えばインクジェット法で形成する場合には、まず、インクジェットヘッド(図示略)に有機溶媒で希釈された有機緩衝層材料を充填し、インクジェットヘッドの吐出ノズルを陰極50に対向させ、インクジェットヘッドと基材(基板20)とを相対移動させながら、吐出ノズルから1滴当たりの液量が制御された液滴を陰極50に吐出する。次に、吐出後の液滴を減圧乾燥処理し、緩衝層材料に含まれる分散媒や溶媒を蒸発させることにより、有機緩衝層210aを形成する。
また、有機緩衝層210aを形成する方法としては、インクジェット法だけでなく、大面積に均一塗布が可能なスリットコート法、カーテンコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等の方法を採用することもできる。
また、有機緩衝層210aが平坦性を有するために、塗布時の粘度は、低粘度であることが好ましく、例えば100mPa・s以下が好ましい。また、粘度を下げるために有機溶剤等で希釈することが好ましく、例えば、陰極や有機発光層は水分を嫌うため、トルエンやキシレン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の親油性有機溶剤で希釈されたものが好ましい。
有機緩衝層の膜厚は、平坦化と凹凸によって生じる応力緩和を目的にしているため、隔壁層や画素隔壁の高さよりも厚くする必要があり、例えば、5〜20μm程度が好ましい。応力はないことが好ましいが、わずかに引張応力が生じてもよい。膜密度は、極力応力を少なくするために比較的多孔質な膜であることが好ましく、0.8〜1.8g/cmが好適である。
有機緩衝層210aの塗布後の乾燥は、膜中の残存水分を完全に除去するため、減圧雰囲気下または乾燥窒素雰囲気下で50〜80℃の硬化温度で乾燥する。その後の吸湿を防ぐため、大気圧に戻すことなく、次の、無機緩衝層210bの形成プロセスへ移ることが好ましい。
【0074】
更に、無機緩衝層210bを形成する。
当該無機緩衝層210bを形成する方法としては、高密度プラズマ成膜法が用いられる。当該無機緩衝層210bの材料としては、酸素を有する透明な無機酸化物を主成分とするものが好ましい。ここで、膜密度は1.8〜2.3g/cmが好ましい。応力はないことが好ましいが、200MPa以下の引張応力または圧縮応力でもよい。膜厚は、有機緩衝層の表面粗さや付着したパーティクル径によって変わるが、50〜400nmが好適である。
【0075】
次いで、図8(c)に示すように、無機緩衝層210bを覆って、ガスバリア層30を形成する。
ガスバリア層は、減圧下の高密度プラズマ成膜法等により形成される窒素を有する窒素化合物であり、主に珪素化合物又は珪素酸窒化物からなる透明な薄膜が好ましい。また、小さな分子の水蒸気を完全に遮断するため緻密性を持たせており、200〜1000MPaの圧縮応力を持つことが好ましい。好ましい膜密度は、2.3/cm以上、膜厚は無機緩衝層と合わせて500nm以下にすることが好ましく、50〜100nmが好適である。
【0076】
無機緩衝層210b及びガスバリア層30の具体的な形成方法としては、先にスパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法で成膜を行い、次いで、プラズマCVD法等の化学気相成長法で成膜を行ってもよい。スパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法は、一般に異質な基板表面に対しても比較的密着性の良い膜が得られるため、無機緩衝層210bの形成に向いており、一方、化学気相成長法では、応力が少なくステップカバーレッジ性に優れた欠陥が少なく緻密で良好な膜質のものが得られるので、ガスバリア層30に向いている。これらの方法は、量産性を考慮して適時選択できる。
【0077】
また、ガスバリア層30は、先述の無機緩衝層210bを形成した後に、大気雰囲気に戻すことなく、真空雰囲気において連続的に形成される。また、当該ガスバリア層30及び無機緩衝層210bは、同一のプロセスチャンバ内において、成膜ガス種や混合比を連続的に変化させて成膜してもよい。このようにすれば、ガスバリア層30及び無機緩衝層210bは界面を有することなく、構成原子の濃度勾配を連続的に異ならせた膜質を形成することができる。これにより、ガスバリア層30の機能と、無機緩衝層210bの機能を兼ね備えた膜を形成することが可能となる。
【0078】
また、ガスバリア層30の形成については、上述したように同一の材料によって単層で形成してもよく、また異なる材料で複数の層に積層して形成してもよく、さらには、単層で形成するものの、その組成を膜厚方向で連続的あるいは非連続的に変化させるようにして形成してもよい。
【0079】
そして、図3に示すように、ガスバリア層30上に接着層205と表面保護基板206からなる保護層204を設ける。接着層205は、スリットコート法などによりガスバリア層30上に略均一に塗布され、その上に表面保護基板206が貼り合わされる。
このようにガスバリア層30上に保護層204を設ければ、表面保護基板206が耐圧性や耐摩耗性、光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能を有していることにより、発光層60や陰極50、さらにはガスバリア層もこの表面保護基板206によって保護することができ、したがって発光素子の長寿命化を図ることができる。
また、接着層205が機械的衝撃に対して緩衝機能を発揮するので、外部から機械的衝撃が加わった場合に、ガスバリア層30やこの内側の発光素子への機械的衝撃を緩和し、この機械的衝撃による発光素子の機能劣化を防止することができる。
【0080】
以上のようにして、EL表示装置1が形成される。
このようなEL表示装置1にあっては、陰極50とガスバリア層30との間に、陰極50を覆うとともに略平坦な上面が形成された有機緩衝層210aが配置されるので、有機緩衝層210aが基板200側から発生する反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、不安定な有機隔壁層221からの陰極50の剥離を防止することができる。
更に、有機緩衝層210aの上面が略平坦化されているので、有機緩衝層210a上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層30が平坦化されるので、ガスバリア層30に応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層30へのクラックの発生を防止できる。
【0081】
なお、上述した実施形態では、トップエミッション型のEL表示装置1を例にして説明したが、本発明はこれに限定されることなく、ボトムエミッション型にも、また、両側に発光光を出射するタイプのものにも適用可能である。
【0082】
また、ボトムエミッション型、あるいは両側に発光光を出射するタイプのものとした場合、基体200に形成するスイッチング用TFT112や駆動用TFT123については、発光素子の直下ではなく、親液性制御層25および有機隔壁層221の直下に形成するようにし、開口率を高めるのが好ましい。
また、EL表示装置1では本発明における第1の電極を陽極として機能させ、第2の電極を陰極として機能させたが、これらを逆にして第1の電極を陰極、第2の電極を陽極としてそれぞれ機能させるよう構成してもよい。ただし、その場合には、発光層60と正孔輸送層70との形成位置を入れ替えるようにする必要がある。
【0083】
また、本実施形態では、電気光学装置にEL表示装置1を適用した例を示したが、本発明はこれに限定されることなく、基本的に第2電極が基体の外側に設けられるものであれば、どのような形態の電気光学装置にも適用可能である。
【0084】
上述したように、本実施形態によれば、ガスバリア層30と無機緩衝層210bとが接触し、また、無機緩衝層210bはガスバリア層30よりも小さい膜密度を有しているので、ガスバリア層30を形成した際の圧縮応力が緩和される。これにより、ガスバリア層30の剥離やクラックを抑制できる。従って、水分の浸入を抑制することができ、電気光学層の劣化を防止できる。
また、ガスバリア層30と無機緩衝層210bは、共に無機材料からなるので、両者の密着性は高く、互いに剥離することがない。また、このような無機緩衝層210bを設けたことにより、ガスバリア層30の膜厚を従来よりも薄くできる。これにより、ガスバリア層30を厚膜に形成した場合の基板20の反りを抑制できる。また、ガスバリア層30の薄膜化を単に施しただけでは、一般的に水分に対する遮断性が低下してしまうが、上記のように無機緩衝層210bが形成されることによって、無機緩衝層210bが水分に対する遮蔽性を補完するので、ガスバリア層30が薄膜となっても、十分に水分を遮蔽できる。
【0085】
また、無機緩衝層210bは有機緩衝層210aよりも広い面積で形成されるので、有機緩衝層210aは無機緩衝層210bによって被覆された状態となる。これによって、ガスバリア層30と有機緩衝層210aが直接的に接触することがない。これにより、ガスバリア層30と有機緩衝層210aとの間で生じる応力が緩和され、ガスバリア層30の剥離やクラックを抑制できる。
また、有機緩衝層210aを設けたことにより、基板20側の有機隔壁層221等から発生する反りや体積変化により発生する応力が分散され、無機緩衝層210b及びガスバリア層30に発生するクラックや剥離を防止する。また、有機緩衝層210aを設けたことにより、不安定な隔壁からの陰極50の剥離を防止できる。また、有機緩衝層210aの上面が略平坦化されるので、有機緩衝層210a上に形成される無機緩衝層210bやガスバリア層30が平坦化され、ガスバリア層30における応力集中が生じる部位がなくなり、ガスバリア層30のクラック発生を防止できる。
また、有機緩衝層210aは、陰極50を形成した後に付着する微細なパーティクルを埋めるので、当該パーティクルがあったとしても、無機緩衝層210bやガスバリア層30の平坦化を実現できる。
【0086】
また、無機緩衝層210bに、酸素原子や水素原子が含まれることにより、無機緩衝層210bの緻密さが低下するので、ガスバリア層30の圧縮応力を効果的に緩和できる。また、無機緩衝層210bにおいては、酸素原子を含んでいない場合と比較して、無機緩衝層210bの屈折率が変化する。従って、酸素原子の含有量を調整することで、無機緩衝層210bが所望の屈折率を有するように調整できる。また、無機緩衝層210bに水素原子が含まれた場合には、無機緩衝層210bの屈折率が変わらないので、屈折率を変えずに膜質の緻密さを調整できる。
【0087】
また、陰極50と有機緩衝層210aとの間に、陰極保護層55が設けられているので、当該陰極保護層55によって陰極50が保護され、有機緩衝層210aを形成する際の有機溶剤や残留水分によるダメージを抑制できる。
また、無機緩衝層210bは、有機緩衝層210aを被覆すると共に、陰極保護層55を始めとする基板20上の無機材料と接触して形成されているので、ガスバリア層30が陰極保護層55等と直接接触することなく、無機緩衝層210bを介してガスバリア層30が陰極保護層55等の上方に形成されることとなる。従って、ガスバリア層30の圧縮応力が無機緩衝層210bによって緩和されるので、陰極保護層55を始めとする基板20上の無機材料におけるガスバリア層30の剥離やクラックを抑制できる。従って、当該剥離やクラックに起因する水分の浸入を抑制できる。
また、ガスバリア層30を覆う接着層205と、表面保護基板206とが設けられているので、ガスバリア層30が保護され、破壊や損傷を抑制できる。
【0088】
また、無機緩衝層210bは、有機緩衝層210aを被覆すると共に陰極保護層55と接触して形成されているので、ガスバリア層30が陰極保護層55と直接接触することなく、無機緩衝層210bを介してガスバリア層30が陰極保護層55上に形成されることとなる。従って、ガスバリア層30の圧縮応力が無機緩衝層210bによって緩和されるので、陰極保護層55におけるガスバリア層30の剥離やクラックを抑制できる。従って、当該剥離やクラックに起因する水分の浸入を抑制できる。
【0089】
また、有機緩衝層210aの側面端部の角度が45°以下で形成されているので、無機緩衝層210bやガスバリア層30は、このような有機緩衝層210aの形状に倣って形成される。これにより、無機緩衝層210bやガスバリア層30は、急峻な形状ではなく、緩やかな形状を有するので、当該無機緩衝層210bやガスバリア層30における応力を低減できる。従って、無機緩衝層210bやガスバリア層30に荷重が付与されたとしても、剥離やクラックが生じることがなく、水分の侵入を抑制できる。
【0090】
また、無機緩衝層210b及びガスバリア層30を形成する工程は、真空雰囲気において連続して行うことにより、大気圧雰囲気に戻すことなく無機緩衝層210bとガスバリア層30が形成されるので、生産性を向上させることができる。また、大気雰囲気に戻す場合には、大気中に含まれる水分が無機緩衝層210bとガスバリア層30の間に入り込んでしまうが、同一の真空雰囲気において一括して成膜することにより、水分を抑制できる。
【0091】
次に、本発明の電子機器について説明する。
電子機器は、上述したEL表示装置(電気光学装置)1を表示部として有したものであり、具体的には図9に示すものが挙げられる。
図9(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図9(a)において、携帯電話1000は、上述したEL表示装置1を用いた表示部1001を備える。
図9(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図9(b)において、時計1100は、上述したEL表示装置1を用いた表示部1101を備える。
図9(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図9(c)において、情報処理装置1200は、キーボードなどの入力部1201、上述したEL表示装置1を用いた表示部1202、情報処理装置本体(筐体)1203を備える。
図9(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、上述したEL表示装置(電気光学装置)1を有した表示部1001,1101,1202を備えているので、表示部を構成するEL表示装置の発光素子の長寿命化が図られたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】EL表示装置の配線構造を示す図。
【図2】EL表示装置の構成を示す模式図。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図。
【図4】図2のC−D線に沿う断面図。
【図5】図3の要部を示す断面拡大図。
【図6】図3の要部を示す断面拡大図。
【図7】EL表示装置の製造方法を工程順に示す図。
【図8】図7に続く工程を示す図。
【図9】電子機器を示す図。
【符号の説明】
【0093】
1 表示装置(電気光学装置)、 23 画素電極(第1電極)、 30 ガスバリア層、 50 陰極(第2電極)、 55 陰極保護層(電極保護層)、 60 発光層(電気光学層)、 200 基体、 210a 有機緩衝層、 210b 無機緩衝層、 221 有機隔壁層(隔壁)、 221a 開口部、 1000 携帯電話(電子機器)、1100 時計(電子機器)、 1200 情報処理装置(電子機器)、 1001,1101,1202 表示部(電気光学装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁と、前記開口部のそれぞれに配置される電気光学層と、前記隔壁及び前記電気光学層を覆う第2電極と、を有する電気光学装置において、
前記第2電極を覆うと共に平坦な上面が形成された有機緩衝層と、
当該有機緩衝層を覆うと共に当該有機緩衝層よりも広い面積で形成された無機緩衝層と、
当該無機緩衝層を覆うガスバリア層と、を備えることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記無機緩衝層は、前記ガスバリア層よりも膜密度が小さいことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記無機緩衝層及び前記ガスバリア層は、共に珪素化合物からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記無機緩衝層は、酸素原子を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記無機緩衝層は、水素原子を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記無機緩衝層は、前記有機緩衝層を被覆すると共に前記基体上の無機材料と接触して形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項7】
前記ガスバリア層を覆う樹脂接着層と、当該樹脂接着層を覆う保護基体と、が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項8】
前記第2電極と前記有機緩衝層との間に、電極保護層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項9】
前記無機緩衝層は、前記有機緩衝層を被覆すると共に前記電極保護層と接触して形成されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項10】
前記有機緩衝層の側面端部の角度は、45°以下で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項11】
基体上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁と、前記開口部のそれぞれに配置される電気光学層と、前記隔壁及び前記電気光学層を覆う第2電極と、を有する電気光学装置の製造方法において、
前記第2電極を覆うと共に平坦な有機緩衝層を形成する工程と、
当該有機緩衝層を覆うと共に当該有機緩衝層よりも広い面積を有する無機緩衝層を形成する工程と、
当該無機緩衝層を覆うガスバリア層を形成する工程と、を含むことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項12】
前記有機緩衝層を形成する工程は、大気圧雰囲気下における液相法を利用することを特徴とする請求項11に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項13】
前記無機緩衝層及び前記ガスバリア層を形成する工程は、真空雰囲気において連続して行うことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−24421(P2006−24421A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200555(P2004−200555)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】