説明

電気化学セルの使用方法

本発明のリチウムイオン電池に用いるためのアノード材料としてのシリコンは、セル製造方法を可能にする。サイクル中でのシリコンのリチウム化度は、コントロールすることができ、それによって許容可能な容量を維持しつつ体積膨張を低減させて、リチウムイオン電池におけるシリコン含有アノードの故障率を減少させることができる。結晶シリコンアノードは最初に、アノードが部分的にリチウム化されるように充電する。本充電工程中のアノード電圧は通常、周囲温度で結晶シリコンのリチウム化電位未満、例えば金属リチウムに対して170mV未満である。コンディショニング中の充電−放電サイクルの総数は、少なくとも2以上である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リチウムイオン電池は一般に、アノード、カソード、及び電解質を有する。グラファイトをベースにしたアノードが、リチウムイオン電池に使用されてきた。シリコンは、グラファイトに比較してほぼ3倍の理論容量をリチウム金属に対して有するため、シリコンはリチウムイオン電池に用いるための魅力的なアノード材料である。しかし、シリコンが完全にリチウム化された場合の体積膨張が、通常、複合電極を作成するために使用される従来の結合剤物質が許容できない程大きく、これにより電気化学セルのサイクル中に、アノードが破壊される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0002】
一態様では、本発明は、下記の連続した工程:
(a)結晶シリコンを含む未コンディショニングアノード、
カソード及び
電解質を含む電気化学セルを用意する工程、
(b)シリコンアノードが、結晶シリコンのリチウム化電位より小さい電圧に到達するように電気化学セルを充電する工程、
(c)電気化学セルを少なくとも部分的に放電する工程、
(d)工程(b)及び(c)を少なくとも1回は繰り返す工程、そして
(e)コンディショニング済みアノードの電位を、結晶シリコンのリチウム化電位より上に維持するように電気化学セルを稼動する工程、
を含む、電気化学セルの使用方法を提供する。
【0003】
一実施形態では、工程(a)から(e)までの工程は逐次的である。
【0004】
一実施形態では、前記電気化学セルは工程(c)又は(d)の少なくとも1つにて完全に放電される。
【0005】
幾つかの実施形態では、シリコンアノードのリチウム化の最大レベルは、工程(b)を繰り返す間実質的に一定に維持されてもよい。
【0006】
別の態様では、本発明は、
下記の連続した工程:
(a)電気化学セルを用意する工程であって、該電気化学セルが、
結晶シリコンを含むアノードであって、
(i)前記シリコンアノードの電圧が前記結晶シリコンのリチウム化電位未満にまで到達するように前記シリコナノードをコンディショニングすること、
(ii)前記電気化学セルを少なくとも部分的に放電することと、
(iii)工程(i)及び(ii)を少なくとも1回繰り返すこと、とから成る連続した工程を含む方法により調整した、コンディショニング済みのアノードと、
カソードと、
電解質とを含む電気化学セルを用意する工程、そして
(b)コンディショニング済みアノードの電位を、結晶シリコンのリチウム化電位より上に維持するように電気化学セルを稼動する工程、
を含む、電気化学セルの使用方法を提供する。
【0007】
幾つかの実施形態では、シリコンアノードのリチウム化の最大レベルは、繰り返し工程(ii)の間に実質的に一定に維持されてもよい。
【0008】
本発明によれば、サイクル中でのシリコンのリチウム化(即ち、リチウムを蓄積する)度合は、コントロールすることができ、それによって許容可能な容量を維持しつつ体積膨張を低減させて、リチウムイオン電池におけるシリコン含有アノードの故障率を減少させることができる。
【0009】
以下の定義は、本明細書及び特許請求の範囲を通して適用される。
【0010】
用語「アノード」とは、放電プロセス(即ち、放電中に、アノードが脱リチウム化し、且つ充電中に、リチウム原子が本電極に追加される)中に電気化学的酸化が生じる電極を意味する。
【0011】
用語「カソード」とは、放電プロセス(即ち、放電中に、カソードがリチウム化し、且つ充電中に、リチウム原子が本電極から除去される)中に電気化学的還元が生じる電極を意味する。
【0012】
用語「充電」とは、電気エネルギーを電気化学セルに供給するプロセスを意味する。
【0013】
用語「コンディショニング」とは、アノードのコントロールされたリチウム化及び脱リチウム化の初回サイクルを意味する。前記コンディショニング工程は、一般的使用のためのセルを作成する。コンディショニングサイクルの実施後に、セルを電気エネルギーの可逆的な蓄積と供給のために使用してもよい。
【0014】
用語「放電」とは、電気エネルギーを電気化学セルから除去するプロセスを意味する(即ち、放電とは、有益な作業をするために電気化学セルを使用するプロセスである)。
【0015】
用語「リチウム化」とは、リチウムを電気化学セル内の電極活物質中に挿入するプロセスを意味する。リチウム化プロセス中、電極では電気化学的還元が生じる。用語「脱リチウム化」とは、リチウムを電気化学セル内の電極活物質から脱離するプロセスを意味する。脱リチウム化プロセス中、電極では電気化学的酸化が生じる。
【0016】
用語「リチウムイオン電気化学セル」とは、アノード及びカソードがセルサイクル中にリチウム化/脱リチウム化するが、リチウム金属がセル内に存在しない電気化学セルを意味する。
【0017】
用語「リチウム化電位」とは、結晶シリコンのリチウム化が生じる電位を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に従ってコンディショニングした電気化学セルは、シリコンを含むアノード、カソード及び電解質を含有する。本発明のアノード及びカソードは、集電体、定着剤(adhesion promotor)及び結合剤を含有してもよい。電解質は、液体又は固体であることができる。
【0019】
本発明の電気化学セルは、例えば、通常はリチウムポリマー電池のケースであり得るようなハウジングを更に含んでよい。かかる構造物はよく知られており、例えば米国特許第6,322,928号(サッカレー(Thackeray)ら)に見出すことができる。
【0020】
アノードは通常、複数のシリコン粒子(例えば、シリコン粉末)を含むが、その他の形態のシリコン(例えば、より大きな粒子、ワイヤ、又はプレート)を使用してもよい。それ故に、明確にするために、以下の議論をシリコン粒子について行う。しかし、特に指示しない限り、本議論はこのような他の形態のシリコンについても行うことを理解すべきである。
【0021】
コンディショニング前において、シリコン粒子は通常結晶性であるが、本発明のコンディショニング後には、当該粒子は通常結晶シリコン相及びリチウムを含有する場合がある非晶質シリコン相とを含む。結晶シリコン粒子(即ち、未コンディショニングシリコン粒子)は通常、0.5〜50マイクロメートルの範囲の平均粒径を有するが、これは必要条件ではない。
【0022】
コンディショニング済みアノードは通常、アノードの総重量を基準にして少なくとも70重量%のシリコン粒子、例えば少なくとも80重量%のこれら粒子を含むが、その他の百分率を使用してもよい。
【0023】
アノードは通常、高分子結合剤中に分散された導電性希釈剤を更に含む。例示の導電性希釈剤としては、カーボンブラック、フレーク状黒鉛、金属、金属窒化物、金属炭化物、金属シリサイド、金属ホウ化物、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、代表的導電性高表面積の炭素希釈剤としては、商品名「スーパーP」及び「スーパーS」にてMMMカーボン(ベルギー)から、「シャウイニガンブラック(Shawinigan Black)」の商標名でシェブロン・ケミカル・カンパニー(Chevron Chemical Co.)(テキサス州ヒューストン)から入手可能なもののようなカーボンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、グラファイト、炭素繊維並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
シリコン粒子及び導電性希釈剤は通常、高分子結合剤中に分散している。例示の高分子結合剤としては、ポリイミドが挙げられる。通常、ポリイミドは、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒中での二酸無水物とジアミンとの間の縮合反応によって調製してよい。本反応により、ポリアミン酸が形成され、それに続く化学的又は熱的環化によりポリイミドとなる。様々な好適なポリイミドが、同一出願人による同時係属の米国特許出願第11/218,448号、表題「ポリイミド電極結合剤(Polyimide Electrode Binders)」(2005年9月1日出願)(クラウゼ(Krause)ら)に記載されている。
【0025】
ポリイミドは、L.J.クラウゼ(Krause)ら著、「ポリイミド中の電子伝導(Electronic Conduction in Polyimides)」(電気化学会雑誌(J. Electrochem. Soc.)、第136巻、5号、1989年5月)にて記載されたような評価をすると、電気化学的電荷輸送能力がある。
【0026】
アノードは、所望により、シリコン粒子又は導電性希釈剤の高分子結合剤への接着を促進する定着剤(sdhesion promoter)を含んでよい。定着剤とポリイミド結合剤との組み合わせは、リチウム化/脱リチウム化のサイクル繰り返し中に粉末状物質内に発生することがある体積変化に、結合剤がより適切に適応する手助けをすることができる。
【0027】
使用する場合、任意の定着剤を導電性希釈剤に加えてもよく、且つ/又は結合剤の一部を形成してもよく(例えば、官能基の形態で)、且つ/又はシリコン粒子表面へ適用されるコーティングの形態であってよい。後者の物質の例は周知であり、シラン類、チタネート類、及びホスホン酸塩が挙げられる。有用なシラン類の例としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(2−メトキシエチル)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピル−トリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、及びフェニルトリメトキシシランが挙げられる。有用なチタネート類の例としては、チタンN−(トリエタノールアミネート)イソプロポキサイドが挙げられ、及びイー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I.Du Pont de Nemours and Co.)(デラウェア州ウィルミントン)から「TYZOR」の商標名で市販されているようなものが挙げられる。追加の例としては、イソプロピルトリス(イソステアロイル)チタネート、イソプロピルトリス(ドデシルベンゼンスルホニル)チタネート、イソプロピルトリス(イソステアロイル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタンネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタンネート、ビス(ジオクチルピロホスフェートオキシアセテート)チタンネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、及びジイソステアロイルエチレンチタネートが挙げられる。有用なホスホネート類の例としては、1−ヒドロキシエチレンー1,1−ジホスホン酸が挙げられる。米国特許出願番号第2004/0058240A1号(クリステンセン(Christensen))に記載されるもののような定着剤も有用である。
【0028】
定着剤が、シリコン粒子のためのコーティングとして含まれている場合、シリコン粒子100重量部当たり、0.1〜100重量部の範囲の量で通常は存在し、より典型的には、シリコン粒子100重量部当たり、1〜10の間の重量部で存在する。前記コーティングが、粒子表面を完全に又は部分的に覆ってよい。
【0029】
本発明の電池においては、任意のリチウム含有物質又は合金をカソード材料として使用することが可能である。液体電解質含有電池のための好適なカソード組成物の例としては、LiCoO、LiCo0.2Ni0.8、及びLi1.07Mn1.93が挙げられる。固体電解質含有電池のための好適なカソード組成物の例としては、LiV、LiV、LiV13、及びLiMnOが挙げられる。本発明の電池において有用なカソード組成物のその他の例は、米国特許出願番号第2003/0027048A1号(ルー(Lu)ら)、米国特許出願番号第2005/0170249A1号(ルー(Lu)ら)、米国特許出願番号第2004/0121234A1号(ルー(Lu))、米国特許出願番号第2003/0108793A1号(ダーン(Dahn)ら)、米国特許出願番号第2005/0112054A1号(イバーマン(Eberman)ら)、米国特許出願番号第2004/0179993A1号(ダーン(Dahn)ら)、並びに米国特許第6,680,145B1号(オブロヴァック(Obrovac)ら)、及び米国特許第5,900,385A1号(ダーン(Dahn)ら)に見出すことができる。
【0030】
有用な電解質は通常、1種類以上のリチウム塩類及び固体、液体、又はゲルの形態にある電荷保持媒体を含有する。例示のリチウム塩類は、セル電極が稼動する電気化学的帯域及び温度範囲(例えば、−30℃〜70℃)内において安定しており、選択した電荷保持媒体に可溶性で、選択したリチウムイオンセル内で良好に機能する。例示のリチウム塩類としては、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ホウ酸塩、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiAsF、LiC(CFSO、これらの組み合わせ及び当業者によく知られているその他のリチウム塩類が挙げられる。
【0031】
代表的な電荷保持媒体は、電極が稼動する電気化学的帯域及び温度範囲内において、凍結又は沸騰することなく安定しており、好適な量の電荷が正極から負極へ運搬することが可能なだけの十分な量のリチウム塩を可溶化し、選択したリチウムイオンセル内で良好に機能する。
【0032】
有用な固体電荷保持媒体としては、例えばポリエチレンオキシドなどの高分子媒体が挙げられる。
【0033】
例示の液体電荷保持媒体としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フッ素化エチレンカーボネート、フッ素化プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、メチルジフルオロアセテート、エチルジフルオロアセテート、ジメトキシエタン、ジグリム(即ち、ビス(2−メトキシエチル)エーテル)、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、これらの組み合わせ及び当業者によく知られているその他の媒体が挙げられる。例示の電荷保持媒体ゲルとしては、米国特許第6,387,570号(ナカムラ(Nakamura)ら)及び米国特許第6,780,544号(ノー(Noh))に記載されるものが挙げられる。
【0034】
前記電荷保持媒体の可溶化力は、好適な共溶媒を添加することによって改善される場合がある。例示の共溶媒としては、選択した電解質を含有するLiイオンセルと相溶性のある芳香族物質が挙げられる。代表的な共溶媒としては、トルエン、スルホラン、ジメトキシエタン、これらの組み合わせ及び当業者によく知られているその他の共溶媒が挙げられる。
【0035】
電解質としては、当業者によく知られているその他の添加剤を含んでもよい。例えば、電解質は、米国特許第5,709,968号(シミズ(Shimizu))、米国特許第5,763,119号(アダチ(Adachi))、米国特許第5,536,599号(アランギール(Alamgir)ら)、米国特許第5,858,573号(エイブラハム(Abraham)ら)、米国特許第5,882,812号(ヴィスコ(Visco)ら)、米国特許第6,004,698号(リチャードソン(Richardson)ら、’698)、米国特許第6,045,952号(カー(Kerr)ら)、及び米国特許第6,387,571B1号(レイン(Lain)ら);米国特許出願第11/094,927号(2005年3月31日出願、表題「充電式リチウムイオンセルの酸化還元シャトル」)及びPCT国際公開特許WO01/29920A1号(リチャードソン(Richardson)ら、’920)に記載されるもののようなレドックス化学シャトルを含有してもよい。
【0036】
集電体は、アノード及びカソードの一方又は両方と組み合わせて使用してもよい。導電性集電体に好適な材料の例としては、銅、クロム、ニッケル、銀などの金属類及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
結晶シリコンアノードをプレコンディショニングなしに固定電圧限界の間でサイクルさせると通常は、結晶シリコンアノードが徐々によりリチウム化される。理論に束縛されるものではないが、リチウム化/脱リチウム化サイクルの間に、非晶質シリコンが結晶シリコン粒子の表面上に形成される。更なるリチウム化により、この表面が厚くなる。注意深く電気化学的測定を行うことにより、結晶シリコンの最初のリチウム化が生じる電圧が、23℃にてリチウム金属に対し170mV未満であることを見出した。
【0038】
本発明によれば、シリコン粒子は、リチウム及び結晶質相を含有する場合もある非晶質相を含むようにコンディショニングされる。本2相構造は、結晶シリコンアノードを所定のコンディショニングサイクル手順によってサイクル化することにより形成される。コンディショニングサイクル完了後は、固定電圧限界内で、電圧が結晶シリコンのリチウム化電位より上に維持され、且つ2相構造が維持されるそれに引き続くサイクル中にて、結晶シリコン相の更なるリチウム化は阻害されるか、あるいは全くそれが生じない。
【0039】
本発明に従ってコンディショニングしたシリコン含有アノードは、以下の方法を使用してコンディショニングすることによって、電気化学セル内で「その場」生成されてもよい。
【0040】
(1)結晶シリコンアノードを含むリチウムイオン電気化学セルを最初に充電して、アノードが部分的にリチウム化するようにする。本充電工程中のアノード電圧は通常、周囲温度で結晶シリコンのリチウム化電位未満、例えば23℃にて金属リチウムに対して170mV未満である。
【0041】
(2)次に、リチウムイオン電気化学セルを少なくとも部分的に放電する。
【0042】
(3)更なる充電コンディショニングサイクルとそれに続き、その間、アノード電圧が、結晶シリコンのリチウム化電位未満、(例えば23℃にて金属リチウムに対して約170mV未満)にまで降下する放電を、例えば所望量の結晶シリコンが非晶質シリコンに変換されるまで実施してよい。後続の充電−放電サイクルの間、当該アノード電圧が、23℃にてリチウム金属に対して、170mV、175mVに又はそれ以上、更には180mVに又はそれ以上に保たれてもよい。このように、結晶シリコンの更なるリチウム化が阻害されるか又は全く生じず、非晶質シリコン相及び結晶シリコン相の相対量が維持される。
【0043】
コンディショニング中の充電−放電サイクルの総数は、少なくとも2つであるが、少なくとも3、4、5、6、7あるいはそれ以上であってもよい。
【0044】
コンディショニング後に、前記電気化学セルを、残りの結晶シリコンを更にわずかにリチウム化するか又は全くリチウム化することなく、結晶シリコンのリチウム化電位より上で稼動させることができる。
【0045】
本発明の目的及び利点を以下の非限定的な実施例により更に例示するが、これらの実施例の中で挙げた特定の材料及びその量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不当に限定するように解釈されるべきではない。
【実施例】
【0046】
特に注記がない限り、実施例及び明細書の残りの中における全ての部、百分率、比などは重量による。実施例の中で用いられる全ての試薬は、例えば、シグマ−アルドリッチ社(Sigma-Aldrich Company)(ミズーリ州セントルイス(Saint Louis))などの一般化学品供給業者から購入したか、又は入手できるか、あるいは従来の方法によって合成してもよい。
【0047】
実施例において、「mAh/g」は、ミリアンペア時/グラムを意味し、「mA/g」は、ミリアンペア時/グラムを意味し、「g」は、グラムを意味し、及び「mV」は、ミリボルトを意味する。
【0048】
実施例1乃至3の電気化学的サイクルは、23℃の周囲温度にて実施した。
【0049】
準備的実施例1
4,4’−オキシジアニリン(3g、0.015モル)を、丸底容器内の44.4グラムのN−メチルピロリドン(CaHから新たに蒸留した)に添加した。3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二酸無水物(4.83g)を、前記反応混合物に添加した。前記溶液を乾燥窒素下にて一晩攪拌し、芳香族ポリイミド前駆体溶液(BTDA−ODA溶液)を形成した。
【0050】
実施例1
複合シリコン電極は、次の方法で作成した。1.7gのSi粉末(1〜20マイクロメートル、99.985%純度、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州、ワードヒル)から入手)、0.255gのカーボンブラック(「スーパーP」の商標名でMMMカーボン(ベルギー)から入手)、1.133gの準備的実施例1のBTDA−ODA溶液及び4.5gのN−メチルピロリドン(即ち、NMP)を、2個の1.3cm(0.5インチ)タングステンカーバイト製ボール及び10個の0.64cm(0.25インチ)タングステンカーバイト製ボールとを有する45mLのタングステンカーバイド製ミリング容器(フリッチ(Fritsch)番号:50.708.00)に添加した。摩砕ボウルを遊星ミル(フリッチ(Fritsch GmbH)(イーダー・オーバーシュタイン(Idar-Oberstein)D−55743、ドイツ)から、「遊星マイクロミル・プルヴァリセッテ(PULVERISETTE)7」の商標名で入手可能)に取り付けて、1時間、8の速度設定にてミリングした。ミリング後、次に0.13mm(5ミル)のギャップノッチバーを使用して、スラリーをニッケルホイル上にコーティングした。前記コーティングは、75℃にて1時間乾燥させ、次に空気中200℃にて1時間、更に250℃で1時間熱処理した。次に、円形電極(面積=2cm)を前記電極から打ち抜いた。対極としての金属リチウム及び30マイクロメートル厚ポリプロピレンセパレータを使用して、コイン電池(型式2325)を組み立てた。前記電解質は、エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)混合物(1:2体積/体積)中の1モルのLiPFであった。前記セルを、「マッコール(MACCOR)シリーズ2000・バッテリー検査システム」の商標名にてマッコール社(Maccor, Inc.)(オクラホマ州タルサ)から入手したセルサイクラー(cell cycler)にて検査した。これらのセルの1つを表1(下記)の手順に従ってサイクルさせた。
【0051】
【表1】

【0052】
表1(上記)において、「L」とは、シリコン電極がリチウム化したことを意味し、「D」とは、シリコン電極が脱リチウム化したことを指す。
【0053】
セルの最初の4サイクルは、固定したリチウム化容量へのサイクリングによってコンディショニングした。これらのコンディショニングサイクルの間、シリコン電極に170mV未満の電圧を受けさせ、いくらかのシリコンをリチウム化させた。最初の4サイクルの後、セルを170mVの下側電圧カットオフまでサイクルさせた。図1は、リチウム化/脱リチウム化のサイクル数の関数としての比容量及びクーロン効率対セルのサイクル数のプロットを示す。最初の4サイクルの後、セルの比容量(充電又は放電)は増加せず、最初の5サイクルの後、新しいシリコンがリチウム化されず、且つ粒子の2相構造が維持されることを示した。
【0054】
実施例2
1.7gの元素状シリコン、0.255gのスーパーP(導電性希釈剤)及び1.33gのNMP溶液(ポリイミド結合剤15重量%)を組み合わせることにより、シリコン含有電極を作成した。前記ポリイミドは、NMP中での3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二酸無水物とオキシジアニリンとの縮合により形成した。3〜4グラムの更なるNMPをスラリーに追加し、次に混合物をタングステンカーバイド製缶の中に置き、遊星ミル内で1時間ミリングした(実施例1、設定番号3の如く)。次に、0.13mm(5ミル)のギャップノッチバーを使用して、前記スラリーをニッケルホイル上にコーティングした。前記コーティングは、75℃にて1時間乾燥させ、次に空気中200℃にて1時間、更に250℃で1時間熱処理した。電極組成は、80重量%のSi、12重量%の導電性希釈剤及び8重量%のポリイミドであった。次に、円形電極(面積=2cm)を電極から打ち抜き、対極としての金属リチウム及び30マイクロメートル厚のポリプロピレンセパレータを使用して、コイン電池(型式2325)を作成した。電解質は、EC/DEC混合物(1:2体積/体積)中の1モル濃度のLiPFであった。全てのセルは、最初は、150mA/gにて1200mAh/gまでリチウム化し、次に150mA/gにてリチウム金属に対して、0.9ボルトまで脱リチウム化した。この最初のサイクル後、各セルは、150mA/gにて、異なるカットオフ電圧までリチウム化された。電流は、各電圧にて、30mA/gまでトリクル充電した。リチウム化/脱リチウム化のサイクル数に応じて測定した、これらのセルの比容量は、120mV〜170mVの範囲の異なるカットオフ電圧にて測定した。図2にて報告する。図2は、23℃にて、リチウム金属に対して170mVよりも低いカットオフ電圧では、安定せず、且つサイクルの度に、容量が増大することを示している。
【0055】
実施例3
シリコン電極及びリチウム対極を備え、実施例2にあるように組み立てられたコイン電池を表2の手順に従ってサイクルさせた。コンディショニングサイクル中、セルは、1.1A/gの限界電流、定電圧にてサイクルさせた。コンディショニング(1乃至10サイクル)中に、容量カットオフを使用して、シリコンの完全リチウム化濃度が、最初のリチウム化サイクルのそれと同じになるようにした。また、2から10までののコンディショニングサイクル中に、アノードを部分的にのみ脱リチウム化した。コンディショニングサイクル後、セルを900mV〜170mVの間の固定電圧限界且つ130mA/gの一定電流にて、170mVカットオフでの13mA/gトリクル充電にてサイクルさせた。この正規のサイクリングの間、完全リチウム化でのアノードのリチウム化レベルは、わずかに約50mAh/gであり、最初のリチウム化サイクル中に到達した最大リチウム化レベルに満たない。更に、正規のサイクリング中に、セルの比容量(充電又は放電)は増加せず、正規のサイクリング中に新しいシリコンがリチウム化されず、且つ粒子の2相構造が維持されることを示した。
【0056】
【表2】

【0057】
表2(上記)において、「L」とは、シリコン電極がリチウム化したことを意味し、「D」とは、シリコン電極が脱リチウム化したことを指す。
【0058】
本発明の種々の修正及び変更を本発明の範囲及び精神を逸脱せずに当業者によって行ってもよい。本発明は本明細書に記載された例示的な実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1に従って作成したセルのサイクル数に対する比容量及びクーロン効率のグラフである。
【図2】実施例2に従って各種カットオフ電圧へサイクルされたSi含有電極の比容量のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の連続した工程:
(a)結晶シリコンを含む未コンディショニングのアノード、カソード及び電解質を含む電気化学セルを用意する工程、
(b)シリコンアノードが、結晶シリコンのリチウム化電位より小さい電圧に到達するように電気化学セルを充電する工程、
(c)電気化学セルを少なくとも部分的に放電する工程、
(d)工程(b)及び(c)を少なくとも1回は繰り返す工程、そして
(e)コンディショニング済みアノードの電位を、結晶シリコンのリチウム化電位より上に維持するように電気化学セルを稼動する工程、
を含む、電気化学セルの使用方法。
【請求項2】
工程(b)及び(c)を少なくとも4回繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)から(e)までの工程が逐次的である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アノードのリチウム化の最大レベルが、繰り返しの工程(b)の間に実質的に一定に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アノードが、高分子結合剤及び導電性希釈剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記高分子結合剤が、ポリイミドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記導電性希釈剤が、表面積の大きい炭素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記電気化学セルが、工程(c)又は(d)の少なくとも1つにおいて完全に放電される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記電気化学セルが、工程(c)又は(d)の少なくとも1つにおいて部分的に放電される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アノードが、複数の結晶シリコン粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記結晶シリコン粒子が、0.5〜50マイクロメートルの範囲の平均粒径を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記カソードが、リチウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記電解質が、フッ素化エチレンカーボネート、ポリエチレンオキシド、リチウムヘキサフルオロホスフェート、又はこれらの組み合わせの中の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
電気化学セルを、リチウム金属に対して170mV以上のアノード電位にて稼動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
下記の連続した工程:
(a)電気化学セルを用意する工程であって、該電気化学セルが、
結晶シリコンを含むアノードであって、
(i)前記シリコンアノードの電圧が前記結晶シリコンのリチウム化電位未満にまで到達するように前記シリコンアノードをコンディショニングすることと、
(ii)前記電気化学セルを少なくとも部分的に放電することと、
(iii)工程(i)及び(ii)を少なくとも1回繰り返すこと、とから成る連続した工程を含む方法により調製した、コンディショニング済みアノードと、
カソードと、
電解質とを含む電気化学セルを用意する工程、そして
(b)コンディショニング済みアノードの電位を、結晶シリコンのリチウム化電位より上に維持するように電気化学セルを稼動する工程、
を含む、電気化学セルの使用方法。
【請求項16】
工程(i)及び(ii)が、少なくとも4回繰り返される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アノードのリチウム化の最大レベルが、繰り返しの工程(ii)の間に実質的に一定に維持される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記アノードが、高分子結合剤及び導電性希釈剤を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記高分子結合剤が、ポリイミドを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記導電性希釈剤が、表面積の大きい炭素を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記電気化学セルが、工程(i)又は(ii)の少なくとも1つにおいて完全に放電される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記アノードが、複数の結晶シリコン粒子を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記結晶シリコン粒子が、0.5〜50マイクロメートルの範囲の平均粒径を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記カソードが、リチウムを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記電解質が、フッ素化エチレンカーボネート、ポリエチレンオキシド、リチウムヘキサフルオロホスフェート又はこれらの組み合わせの中の少なくとも1種を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記電気化学セルを、リチウム金属に対して170mV以上のアノード電位にて稼動させる、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−512160(P2009−512160A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535565(P2008−535565)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/038528
【国際公開番号】WO2007/044315
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】