説明

電気化学的装置で使用されるイオン伝導性ポリマー

イオン伝導性ポリマーにはここに示される化学構造1を持つ。本ポリマーの一例としては4,4'-(4-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール、ベンゾイミダゾール背骨を含むスルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)、カルボン酸骨格を含むスルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)、スルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)を含むカルボン酸からのベンゾイミダゾール骨格を含むポリスルホン化された(アリルエーテルスルホン)がある。本ポリマーは、固有のイオン伝導特性を持つので、たとえ低水位状態の下でも、効果的な伝導性がある。具体例のひとつとしては、ポリマーが本質的に無水状態において、本ポリマーは、温度120℃で少なくとも1 x 10-5S/cmのイオン伝導性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー一般に関し、なかでも燃料電池および他の電気化学的装置で使用されるイオン伝導性ポリマーに関する。具体的には、燃料電池薄膜及び/または燃料電池電極のバインダーの製造のために使用しうるポリマーである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤とが供給される間、化学エネルギーを連続的に電気エネルギーと若干の熱に変換する電気化学デバイスである。燃料電池は進化している。現在知られているカテゴリーの燃料電池のいくつかは、高分子電解質膜(PEM)、アルカリ、リン酸、溶融炭酸塩、固形酸化物、および微生物/酵素に基づくものを含んでいる。
【0003】
PEM燃料電池の中心に、膜・電極一体構造(MEA)がある。MEAは、高分子電解質或いはプロトン伝導性のポリマーから製造される薄膜を含む。高分子電解質膜は、陽極(アノード)と陰極(カソード)と呼ばれる1対の電極の間に挟まれる。MEAは、通常、さらに多孔性で、電気的伝導性のある、ガス拡散層と呼ばれるシートを含み、それは電極への反応物の拡散を許容する側の電極に隣接して位置している。
【0004】
操業中、水素またはメタノールなどの燃料は、電子と陽子とに分離する陽極と接触するように流される。高分子電解質膜を通り抜けることができない電子は、電気負荷を含む外部回路によって陽極から陰極まで流れ、燃料電池によって発生された電力を消費する。陽子は高分子電解質膜を通り抜けて、水と熱を生産するために陰極上の酸素および電子と結合する。
【0005】
典型的には、高分子電解質は、薄膜を通じて陽子を効果的に導くために、十分なレベルの水和作用を必要とする。しかしながら、燃料電池は、例えば低相対湿度(RH)および/または高温の条件の下など、高分子電解質膜が低い含水率しか持っていない状態の下で操作される場合もある。これた条件下の高分子電解質膜のプロトン伝導性を増加させるための様々なアプローチが用いられた。しかし、どれもことごとく成功しなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、燃料電池および他の電気化学的装置で使用されるイオン伝導性ポリマーに関する。本ポリマーは次の化学構造1を含む:
【0007】
【化1】

【0008】
本ポリマーは、含水量に依存しない固有のプロトン伝導特性を持つので、その結果、低含水率条件を含む実質上すべての水条件のもとで、効果的に伝導性である。
【0009】
本発明はまた、特別の反応体、溶剤および/または触媒を用いたプロセスを含む、ポリマー生産方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
イオン伝導性ポリマーは燃料電池および他の電気化学的装置での使用に供される。本ポリマーは次の化学構造1を含む:
【0011】
【化2】

【0012】
上記に示されるように、R3=Nの場合、R2構造はベンゾイミダゾールを含み、R3=Oの場合、ベンゾオキサゾールを含み、またR3=Sの場合、R2構造はベンゾチアゾールを含む。高分子骨格の一部が水に依存しないメカニズムでプロトン伝導性を可能にするように、R2構造が含まれる。プロトン伝導性のメカニズムは、特にR2構造上の酸性基から塩基性基への移転を通じてのものである。その結果、本ポリマーは低水位条件を含む実質上すべての水条件のもとで、効果的な伝導性を持つ。
【0013】
R2構造は骨格上の柔軟な部位である。この部位は、実質上妨害のないプロトン移動ための、分節的な易動性を供給する。
【0014】
構造1で示されるポリマーは、骨格の一部としてスルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)を含む。しかしながら、本高分子骨格は、スルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)に制限されず、むしろ上述のR2構造を含んでいる限り、イオン伝導性ポリマーの製造に適する任意のタイプのポリマーを実質上含みうる。
【0015】
構成要素として本ポリマーを含む燃料電池のいくつかの実施形態の典型的な運転条件としては、約60℃から約150℃までの範囲内の温度と、約25%から約75%までの範囲内の相対湿度を含んでいてもよい。燃料電池は、例えば50%未満のRHなどの低相対湿度および/または例えば約150℃から約200℃までの温度のような、高温の条件のもとで操作される場合もあろう。そのような低いRHおよび/または高温条件は、本ポリマーから作られる燃料電池構成要素に低含水率をもたらす。実施形態のひとつとしては、薄膜に低含水率を持つ場合、本ポリマーから作られた高分子電解質膜は、120℃の温度で、少なくとも約1×10-5 S/cm、なかでも少なくとも約1×10-4 S/cmのイオン伝導率を持つ。
【0016】
本ポリマーは、任意の好適な構成要素を、任意の好適量において使用して製造することができる。実施形態のひとつとしては、次に示す化学構造を含む化合物1から誘導されるポリマーであり、化合物1の量としては、約10から約90のモルパーセントまでの範囲内のものである:
【0017】
【化3】

【0018】
実施形態の別のひとつでは、次に示す化学構造を含む化合物2から誘導されるポリマーであり、化合物2の量としては、約10から約90のモルパーセントまでの範囲内のものである:
【0019】
【化4】

【0020】
実施形態の別のひとつでは、次に示す化学構造を含む化合物3から誘導されるポリマーであり、化合物3の量としては、約10から約90のモルパーセントまでの範囲内のものである:
【0021】
【化5】

【0022】
実施形態の別のひとつでは、次に示す化学構造を含む化合物4から誘導されるポリマーであり、化合物4の量としては、約10から約90のモルパーセントまでの範囲内のものである:
【0023】
【化6】

【0024】
実施形態の別のひとつでは、本ポリマーは任意の好適量において化合物1〜4の任意の組み合わせから誘導される。特定の実施形態としては、例えば、本ポリマーは、これらの化合物のすべてを用いて誘導される。
【0025】
本ポリマーは任意の適切な方法によって製造することができる。実施形態のひとつとしては、本ポリマーは、溶剤若しくは溶剤混合物中に反応体を混合し、該反応体混合物を熱することより製造される。特定の実施形態としては、例えば、溶剤混合物は極性非プロトン性溶媒と無極性溶媒とを含む。任意の適切な極性非プロトン性溶媒あるいはその混合物も使用することができる。極性非プロトン性溶媒は、例えば、N,N'-ジメチルアセトアミド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルフォランあるいはこれらの溶剤の混合物から選ばれてもよい。
【0026】
任意の適切な無極性溶媒あるいはその混合物も使用することができる。無極性溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m -キシレン、p-キシレンあるいはこれらの溶剤の混合物から選ばれてもよい。
【0027】
極性非プロトン性溶媒および無極性溶媒は、任意の適切な量で使用することができる。実施形態のひとつとしては、例えば、溶剤混合物は、極性非プロトン性溶媒と無極性溶媒とを、重量割合約1:9から約9:1の範囲内で、より好ましくは約6:4から約8:2の範囲内で含む。
【0028】
実施形態のひとつとしては、本ポリマーは、触媒を用いた反応で製造される。任意の適切な触媒や異なる触媒の混合物も反応中に使用することができる。触媒は、例えば、アルカリ金属とそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属およびそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩、あるいはこれらの触媒の混合物から選ばれてもよい。
【0029】
触媒は、任意の適切な量で使用することができる。特定の実施形態としては、例えば、化合物1、化合物2、化合物3および化合物4から本ポリマーが誘導され、また触媒の量が、化合物3および化合物4を組み合わせたモル比を超えて、約1から約30までのモルパーセントの範囲内にある。
【0030】
特定の実施形態としては、本ポリマーが上記に示されるような化合物4から誘導され、また化合物4は、次の化学構造を含む、化合物5と化合物6との反応により製造される:
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
化合物5を製造する化合物5と化合物6との反応は、任意の適切な方法で行うことができる。特定の実施形態としては、極性非プロトン性溶媒、無極性溶媒および極性溶媒を含む溶剤混合物の中で化合物5および化合物6を反応させる。異なる溶剤は任意の適切な量で使用することができる。特定の実施形態では、例えば、極性非プロトン性溶媒:無極性溶媒:極性溶媒の重量割合が、約1:7:2から約6:2.5:0.5までの範囲内にあり、なかでも約6:3:1から約7:2.5:0.5までの範囲内にある。
【0034】
任意の適切な極性非プロトン性溶媒、無極性溶媒および極性溶媒は、反応中に用いることができる。特定の実施形態としては、例えば、極性非プロトン性溶媒が、N,N'ジメチルアセトアミド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N -メチル-2-ピロリドン、スルフォランおよびそれらの混合物から選ばれ;無極性溶媒が、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびそれらの混合物から選ばれ;また極性溶媒が、n-ブタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールおよびそれらの混合物から選ばれる。
【0035】
実施形態のひとつとしては、化合物4を製造する化合物5と化合物6との反応には、触媒を用いる。任意の適切な触媒あるいは異なる触媒の混合物は反応中に使用することができる。特定の実施形態としては、例えば、反応には、硫酸、リン酸、ポリリン酸、p-トルエンスルフォン酸、アルカリ金属およびそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属およびそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩およびそれらの混合物から選ばれた触媒であり、該触媒の量が、約1から約30のモルパーセントまでの範囲内のものを使用できる。
【0036】
特定の実施形態として、本ポリマーは次の手段によって製造される:
(a) SMとして指定された溶剤或いは溶剤混合物と、C1として指定された触媒との存在下において、化合物1、化合物2、化合物3及び化合物5を混合して、反応体混合を加熱して、下に示された化学構造2を含む生成物を得る;
そしてその後、(b) SM(a)として指定された溶剤混合物と、C2として指定された触媒の存在下で、該生成物と化合物6とを反応させ、本ポリマーを製造する。溶剤SMおよびSM(a)と、触媒C1およびC2の特定の例示については、後ほど記述する。
【0037】
【化9】

【0038】
SMとして指定された溶剤または溶剤混合物は、任意の適切な溶剤あるいは混合物になりえる。特定の実施形態として、SMは、例えば、極性非プロトン性溶媒および無極性溶媒を含有する溶剤混合物を含む;極性非プロトン性溶媒は、N,N'ジメチルアセトアミド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルフォランおよびそれらの混合物から選ばれ;無極性溶媒は、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびそれらの混合物から選ばれ;また極性非プロトン性溶媒:無極性溶媒の比率は、約1:9から約9:1までの範囲内にある。
【0039】
さらにSM(a)として指定された溶剤または溶剤混合物は、任意の適切な溶剤あるいは混合物になりえる。特定の実施形態として、SM(a)は、例えば、極性非プロトン性溶媒、無極性溶媒および極性溶媒を含有する溶剤混合物を含み;極性非プロトン性溶媒は、N,N'ジメチルアセトアミド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルフォランおよびそれらの混合物から選ばれ;無極性溶媒は、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびそれらの混合物から選ばれ;極性溶媒は、n-ブタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールおよびそれらの混合物から選ばれ、また極性非プロトン性溶媒:無極性溶媒:極性溶媒の比率は、約1:7:2から約6:2.5:0.5までの範囲内にある。
【0040】
触媒C1は、任意の適切な触媒、あるいは異なる触媒の混合物になりえる。特定の実施形態として、C1は、アルカリ金属とそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属とそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩、およびそれらの混合物から選ばれ、また触媒C1の量が、化合物3および化合物5を組み合わせたモル比を超えて、約1から約30までのモルパーセントの範囲内にある。
【0041】
さらに触媒C2は、任意の適切な触媒、あるいは異なる触媒の混合物になりえる。特定の実施形態として、C2は、硫酸、リン酸、ポリリン酸、p-トルエンスルフォン酸、アルカリ金属とそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属とそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩、およびそれらの混合物から選ばれ、また触媒C2の量が、約1から約30までのモルパーセントの範囲内にある。
【0042】
本ポリマーは、さらに該ポリマーのイオン伝導率を増加させる1つ以上の添加剤を含有することができる。この効果を有する任意の適切な添加剤あるいは異なる添加剤の混合物を用いることができる。特定の実施形態としては、添加剤は、例えば、ヘテロポリ酸、遷移金属リン酸塩、遷移金属リン酸塩上で固定されたヘテロポリ酸あるいはこれらの添加剤の混合物から選ばれる。
【0043】
本ポリマーは様々な応用において使用することができる。いくつかの実施形態としては、本ポリマーは燃料電池のような電気化学デバイスの構成要素、あるいは構成要素を作るために使用される。限定されないいくつかの例としては、膜・電極一体構造、薄膜、電極、バインダー溶液、触媒インクおよび膜・電極一体構造をつくるための結合剤を含む。本ポリマーは、水素燃料と直接メタノール型燃料電池との両方を含む、異なるタイプの燃料電池に役立つ。
【実施例】
【0044】
〔実施例1:4,4'-(4-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)ブタン-2,2-ジイル)ジフェノールの合成〕
オーバーヘッド撹拌機、熱電対、気体導入口アダプターおよび冷却器を装備した、4首の250 mL反応ケトルの中に、30.01グラムの4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン酸(0.1048モル)、15.17グラムの1,2-フェニレンジアミン(0.1403モル)および150グラムのポリリン酸を加えた。その混合物は15分間室温にて250 rpmで撹拌され、アルゴン雰囲気下、120℃まで加熱された。その反応は3時間継続され、そして生成物は室温まで冷却された。リン酸溶液の中で得られた生成物は、水中で沈殿させ、引き続き中和とろ過されることにより分離された。分離された生成物は、48時間90℃で真空中にて乾燥された。ベンゾイミダゾール官能基への酸変換はIR分光法によって確認された。
【0045】
〔実施例2:ベンゾイミダゾール骨格を含む、スルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)の合成〕
撹拌棒、熱電対、ディーン・スターク冷却器および気体パージ用注入口を装備した1リットルの樹脂反応ケトルの中に、ビフェニル-4,4'-ジオール(30g,0.1611モル)、4,4'-(4-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール(17.32g,0.0483モル)、4,4'-スルホニルビス(クロロベンゼン)(39.09g,0.1361モル)、5,5'-スルホニルビス(2-クロロベンゼンスルホン酸)ナトリウム(36.01g,0.0733モル)、K2CO3(33.29g,0.2409モル)、N,N'-ジメチルアセトアミド600mLおよびトルエン300mLを加えた。試薬は約133℃に達するまで還流温度までゆっくり加熱され、そして還流は4時間維持された。トルエンは徐々に除去され、温度は165℃に増大された。反応はその温度で20時間維持された。20時間終了後、反応混合物は80℃に冷却され、ポリマー溶液は、Whatman(商標)濾紙4番が取り付けられたBuckner漏斗を用いてろ過された。ろ過されたポリマー溶液は、水中で沈殿させて分離され、引き続いて24時間120℃にて真空オーブン中で乾燥させた。
【0046】
〔実施例3:カルボン酸骨格を含む、スルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)の合成〕
撹拌棒、熱電対、ディーン・スターク冷却器および気体パージ用注入口を装備した1リットルの樹脂反応ケトルの中に、ビフェニル-4,4'-ジオール(38.80g,0.2084モル)、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン酸(5.97g、0.0208モル)、4,4'-スルホニルビス(クロロベンゼン)(52.65g、0.1834モル)、5,5'-スルホニルビス(2-クロロベンゼンスルホン酸) ナトリウム(22.52g,0.0458モル)、K2CO3(39.74g,0.2875モル)、N,N'-ジメチルアセトアミド600mLおよびトルエン300mLを加えた。試薬は約133℃に達するまで還流温度までゆっくり加熱され、そして還流は4時間維持された。トルエンは徐々に除去され、温度は165℃に増大された。反応はその温度で20時間維持された。20時間終了後、反応混合物は80℃に冷却され、ポリマー溶液は、Whatman(登録商標)濾紙4番が取り付けられたBuckner漏斗を用いてろ過された。ろ過されたポリマー溶液は、水中で沈殿させて分離され、引き続いて24時間120℃にて真空オーブン中で乾燥させた。
【0047】
ポリマーの特性は次の通りであった:
イオン伝導率
(a) 80℃,相対湿度72%において=1.57E-02
(b) 120℃,相対湿度30%において=1.0E-12
60℃,48時間における30%メタノール中の体積変化率(%)=338
〔実施例4:スルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)を含むカルボン酸からのベンゾイミダゾール骨格を含むスルホン化されたポリ(アリルエーテルスルホン)の合成〕
2Mの硫酸を1リットル含む2リットルのビーカーの中に、実施例3で得られたポリマー25.12グラムを加えた。ビーカー中の内容物は、磁気撹拌棒を用いて撹拌プレート上で撹拌された。またビーカーは70℃に加熱され、この温度は5時間維持された。ビーカー中に得られた生成物は、室温まで冷却され、ろ過された。生成物は、蒸留水250 mLで10回、若しくはリトマス紙で中性になるまで洗浄された。生成物は12時間80℃にて対流オーブン中で乾燥された。乾燥した生成物(15.1g)は、1,2-フェニレンジアミン1.18g、N,N-ジメチルアセトアミド125mL、n-ブタノール20mL、o-リン酸(85%)5.2グラムおよびトルエン25mLとともに、オーバーヘッド撹拌機、熱電対、気体導入口アダプターおよび冷却器を装備した、4首の250mL反応ケトルの中に加えられた。混合物は15分間室温にて250rpmで撹拌され、アルゴン雰囲気下150℃に加熱されて、トルエンをすべて除去した。反応は6時間継続され、そして生成物は室温まで冷却された。生成物は、水中で沈殿させ、引き続き中和とろ過されることにより分離された。分離された生成物は、48時間90℃で真空中にて乾燥された。ベンゾイミダゾール官能基への酸変換はIR分光法によって確認された。
【0048】
実施例4で製造されたベンゾイミダゾールを含むポリマーの50% RH、120℃でのイオン伝導率は、6.2×10-5 S/cmだった。しかしながら、実施例3において製造された非ベンゾイミダゾールを含むポリマーのイオン伝導率は、機器検知レベル未満(1×10-12 S/cm)だった。
【0049】
〔実施例5:ベンゾイミダゾールが接合されたポリマーの合成〕
(ステップ1)
250ml反応ケトル中に、7.01gのPolysciences社から入手したMn〜10,000のポリ(4-ビニルフェノール)とtetrohydrofuran 120mLを加えて、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。固形微粒子を完全溶解した後、NaH(Aldrich社から入手したパラフィン油中60%分散物) 1.8グラムが加えられ、十分撹拌された。6-ブロモヘキサン酸12.2グラムはTHF 20mL中に溶解され、この溶液は30分間にわたって反応ケトルに加えられた。反応は室温にて12時間行なわれた。また、生成物はイソプロパノール中の反応体混合物を沈殿させることにより注意深く分離され、引き続いて生成物を40℃で12時間、真空オーブン中で乾燥した。
【0050】
(ステップ2)
ステップ1で得られた乾燥した生成物(5.57g)は、1,2-フェニレンジアミン3.1グラム、N,N-ジメチルアセトアミド120mL、n-ブタノール30mL、o-リン酸(85%) 10グラムおよびトルエン40mLとともに、オーバーヘッド撹拌機、熱電対、気体導入口アダプターおよび冷却器を装備した、4首の250mL反応ケトルの中に加えられた。混合物は15分間室温にて250rpmで撹拌され、アルゴン雰囲気下150℃に加熱されて、トルエンをすべて除去した。反応は6時間継続され、そして生成物は室温まで冷却された。
【0051】
〔実施例6〕
実施例5のステップ2から得られた生成物(10.03g)は、実施例3から得られたポリマー3.93グラムと混合されて、室温で12時間撹拌され、テフロン(商標)鋳型の上に注がれ、引き続いて12時間80℃で加熱し、フィルムを得た。フィルムは0.5MのH2SO4150 mLの中で、2時間70℃で浸されて、その後、洗液がpH紙で中性になるまで蒸留水で洗われた。フィルムは12時間真空オーブンの中で乾燥された。
【0052】
ポリマーの特性は次の通りであった:
イオン伝導率
(a) 80℃,相対湿度72%において=1.48E-02
(b) 120℃,相対湿度30%において=2.10E-04
〔実施例7〕
実施例5のステップ2から得られた生成物(10.03g)は、実施例3から得られたポリマー1.31グラムと混合されて、室温で12時間撹拌され、テフロン鋳型の上に注がれ、引き続いて12時間80℃で加熱し、フィルムを得た。フィルムは0.5MのH2SO4150mLの中で、2時間70℃で浸されて、その後、洗液がpH紙で中性になるまで蒸留水で洗われた。フィルムは12時間真空オーブンの中で乾燥された。
【0053】
ポリマーの特性は次の通りであった:
イオン伝導率
(a) 80℃,相対湿度72%において=1.18E-03
(b) 120℃,相対湿度30%において=3.54E-06
60℃,48時間における30%メタノール中の体積変化率(%)=150
〔実施例8〕
実施例5のステップ2から得られた生成物(10.03g)は、実施例3から得られたポリマー0.44グラムと混合されて、室温で12時間撹拌され、テフロン鋳型の上に注がれ、引き続いて12時間80℃で加熱し、フィルムを得た。フィルムは0.5MのH2SO4150mLの中で、2時間70℃で浸されて、その後、洗液がpH紙で中性になるまで蒸留水で洗われた。フィルムは12時間真空オーブンの中で乾燥された。
【0054】
ポリマーフィルムは80℃,相対湿度72%において1.53E-05のイオン伝導率を有していた。
【0055】
特許法の要件に従って、本ポリマーはそれらの好ましい実施形態の点から記述された。しかながら、特に記述された通り以外であっても、本ポリマーが製造され使用され得ることは理解されるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学構造1を含むイオン伝導性ポリマー。
【化10】

【請求項2】
前記ポリマーが実質上無水状態の場合に、前記ポリマーが温度120°Cで少なくとも約1 x 10-5 S/cmのイオン伝導率を持つ、請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーが、下記化学構造を含む化合物1から誘導され、かつ化合物1の量が約10から約90までのモルパーセントの範囲内にある、請求項1記載のポリマー。
【化11】

【請求項4】
前記ポリマーが、下記化学構造を含む化合物2から誘導され、かつ化合物2の量が約10から約90までのモルパーセントの範囲内にある、請求項1記載のポリマー。
【化12】

【請求項5】
前記ポリマーが、下記化学構造を含む化合物3から誘導され、かつ化合物3の量が約10から約90までのモルパーセントの範囲内にある、請求項1記載のポリマー。
【化13】

【請求項6】
前記ポリマーが、下記化学構造を含む化合物4から誘導され、かつ化合物4の量が約10から約90までのモルパーセントの範囲内にある、請求項1記載のポリマー。
【化14】

【請求項7】
前記ポリマーが、化合物1、化合物2、化合物3および化合物4から誘導される、請求項1記載のポリマー。
【請求項8】
ポリマーのイオン伝導率を増加させる添加剤を含む、請求項1記載のポリマー。
【請求項9】
前記添加剤が、ヘテロポリ酸、遷移金属リン酸塩、遷移金属リン酸塩上に固定されたヘテロポリ酸およびそれらの混合物から選ばれる、請求項8記載のポリマー。
【請求項10】
高分子電解質膜が第一のポリマーから作られ、前記膜がバインダーとしての第二のポリマーを含む一対の電極間に挟まれ、前記第一及び前記第二のポリマーの少なくとも1つが、下記化学構造1を含むイオン伝導性ポリマーを含む、膜・電極一体構造。
【化15】

【請求項11】
150℃以上の温度で操作可能である、請求項10記載の膜・電極一体構造。
【請求項12】
下記化学構造1を含むイオン伝導性ポリマーから作られた燃料電池構成要素。
【化16】

【請求項13】
高分子電解質膜あるいは電極バインダーを含む、請求項12記載の燃料電池構成要素。
【請求項14】
下記化学構造1を含むイオン伝導性ポリマーを製造する工程であって、
前記工程には、溶剤または溶剤混合物中の反応体を混合し、前記反応体混合物を加熱して、前記ポリマーを製造する工程を含む、イオン伝導性ポリマーを製造する工程。
【化17】

【請求項15】
前記ポリマーが、極性非プロトン性溶媒および無極性溶媒を含む溶剤混合物中の反応体の混合により製造される、請求項14記載の工程。
【請求項16】
前記極性非プロトン性溶媒が、N,N'-ジメチルアセトアミド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルフォランおよびそれらの混合物から選ばれる、請求項15記載のポリマー。
【請求項17】
前記無極性溶媒が、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびそれらの混合物から選ばれる、請求項15記載のポリマー。
【請求項18】
前記極性非プロトン性溶媒と前記無極性溶媒との重量割合が、約1:9から約9:1までの範囲内の前記溶剤混合物を含む、請求項15記載のポリマー。
【請求項19】
前記極性非プロトン性溶媒対前記無極性溶媒の重量割合が、約6:4から約8:2までの範囲内である、請求項15記載のポリマー。
【請求項20】
下記化学構造1を含むイオン伝導性ポリマーを製造する工程であって、前記工程が触媒反応を含む、イオン伝導性ポリマーを製造する工程。
【化18】

【請求項21】
前記触媒が、アルカリ金属とそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属とそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩、およびそれらの混合物から選ばれる、請求項20記載の工程。
【請求項22】
前記ポリマーが、化合物1、化合物2、化合物3および化合物4から誘導され、かつ前記触媒の量が、化合物3および化合物4を組み合わせたモル比を超えて、約1から約30までのモルパーセントの範囲内にある、請求項20記載の工程。
【請求項23】
下記化学構造1を含むイオン伝導性ポリマーを製造する工程であり、
【化19】

前記ポリマーが下記化学構造を含む化合物4から誘導され、かつ前記化合物4の量が、約10から約90のモルパーセントまでの範囲内にあり、
【化20】

前記化合物4は、下記化学構造を含む化合物5と化合物6の反応により製造されたものである、イオン伝導性ポリマーを製造する工程。
【化21】

【化22】

【請求項24】
極性非プロトン性溶媒、無極性溶媒および極性溶媒を含む溶剤混合物中で、化合物5と化合物6とを反応させる、請求項23記載の工程。
【請求項25】
前記極性非プロトン性溶媒対前記無極性溶媒対前記極性溶媒の重量割合が、約1:7:2から約6:2.5:0.5までの範囲内にある、請求項24記載のポリマー。
【請求項26】
前記極性非プロトン性溶媒対前記無極性溶媒対前記極性溶媒の重量割合が、約6:3:1から約7:2.5:0.5までの範囲内にある、請求項25記載のポリマー。
【請求項27】
前記極性非プロトン性溶媒が、N,N'-ジメチルアセトアミド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルフォランおよびそれらの混合物から選ばれ、前記無極性溶媒が、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびそれらの混合物から選ばれ、また前記極性溶媒が、n-ブタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールおよびそれらの混合物から選ばれる、請求項24記載のポリマー。
【請求項28】
化合物5と化合物6との反応が、硫酸、リン酸、ポリリン酸、p-トルエンスルフォン酸、アルカリ金属とそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属とそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩およびそれらの混合物から選ばれた触媒であり、かつ前記触媒の量が約1から約30のモルパーセントまでの範囲内にある、請求項23記載の工程。
【請求項29】
下記化学構造1を含むイオン伝導性ポリマーを製造する工程であり、
【化23】

下記ステップによるポリマー製造を含む工程:
(a) SMとして指定された溶剤もしくは溶剤混合物中、かつC1として指定された触媒の存在下で、化合物1,化合物2,化合物3および化合物5を混合し、さらに前記反応体混合物を加熱して下記化学構造2を含む生成物を得ること;
そしてその後、(b) SM(a)として指定された溶剤混合物中、かつC2として指定された触媒の存在下で、生成物と化合物6とを反応させて前記ポリマーを製造すること。
【化24】

【請求項30】
SMが、極性非プロトン性溶媒と無極性溶媒を含む溶剤混合物を含み、前記極性非プロトン性溶媒が、N,N' -ジメチルアセトアミド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルフォランおよびそれらの混合物から選ばれ、無極性溶媒が、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびそれらの混合物から選ばれ、かつ前記極性非プロトン性溶媒対無極性溶媒の比率が、約1:9から約9:1の範囲内にある、請求項29の記載の工程。
【請求項31】
前記溶剤混合物SM(a)は、極性非プロトン性溶媒、無極性溶媒および極性溶媒を含んでいる混合物を含み、前記極性非プロトン性溶媒がN,N'-ジメチルアセトアミド、N,N' -ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルフォランおよびそれらの混合物から選ばれ、無極性溶媒が、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンおよびそれらの混合物から選ばれ、前記極性溶媒が、n-ブタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールおよびそれらの混合物から選ばれ、かつ前記極性非プロトン性溶媒対無極性溶媒対前記極性溶媒の比率が、約1:7:2から約6:2.5:0.5までの範囲内にある、請求項29の記載の工程。
【請求項32】
前記触媒C1が、アルカリ金属とそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属とそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩およびそれらの混合物から選ばれ、かつ前記触媒C1の量が、化合物3および化合物5を組み合わせたモル比を超えて、約1から約30までのモルパーセントの範囲内にある、請求項29に記載の工程。
【請求項33】
前記触媒C2が、硫酸、リン酸、ポリリン酸、p-トルエンスルフォン酸、アルカリ金属とそれらの炭酸塩、アルカリ土類金属とそれらの水酸化物、遷移金属リン酸のアルカリ金属塩およびそれらの混合物から選ばれ、かつ前記触媒C2の量が、約1から約30までのモルパーセントの範囲内にある、請求項29に記載の工程。
【請求項34】
イオン伝導性ポリマーを製造するのに適するポリマー構造体を含む骨格と、および前記で定義されたR2構造をさらに含む骨格を持つポリマーを含む、イオン伝導性ポリマー。

【公表番号】特表2011−507980(P2011−507980A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531313(P2010−531313)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/081301
【国際公開番号】WO2009/055776
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(591072086)バテル メモリアル インスティチュート (8)
【Fターム(参考)】