説明

電気化学素子用セパレータ、これを用いたリチウム電池又はリチウムイオン電池、及び電気化学素子用セパレータの製造方法

【課題】内部又は外部短絡時に電池の発熱を抑制でき、かつ、内部抵抗を抑制した電気化学素子を構成できる新規な電気化学素子用セパレータ及びこれを用いたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】セパレータ1に耐熱性および強度を付与するためのフィラー粒子3及びフィラー粒子とテンプレート剤を分散し、耐熱層を形成させる結着剤5を含有し空隙4を有する耐熱性多孔質層2’からなるセパレータ1である。空隙はテンプレート剤により作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータ、これを用いたリチウム電池又はリチウムイオン電池、及び電気化学素子用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン又は携帯電話などのモバイル端末用電源として高電圧、高エネルギー密度を有する二次電池が求められている。現在は、これらの用途に求められる能力を満たすべく、非水電解液のリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、電池電圧が高く、高エネルギーを有していることから、電池の内部短絡時又は外部短絡時に大電流が流れる。そのため、短絡時には、ジュール発熱による電池の発熱の問題や、電解液やセパレータの溶融分解にともなうガス発生による電池の膨れや特性劣化の問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するため、ポリプロピレン又はポリエチレン製の微細孔を有する合成樹脂フィルムからなるセパレータを用いた非水電解液電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、短絡時の発熱によってセパレータの微細孔が溶融物で塞がれ、イオンの移動が阻止されて電流が流れなくなり、電池の過剰な発熱や発火が抑制されることが記載されている。
【0005】
現在、非水電解液二次電池の用途が広がるに伴って、より安全性が高い電池が求められている。特に、内部短絡が生じた場合の安全性の向上が求められている。
【0006】
内部短絡が生じた場合、局部的な発熱によって短絡部分では600℃以上の温度となることがあると考えられる。このため、ポリオレフィン樹脂からなる従来のセパレータでは、短絡時の熱によって短絡部分のセパレータが収縮して正極と負極との接触面積(短絡面積)が増大する可能性があった。
【0007】
そこで、金属酸化物などのフィラーを含む層を多孔質基材表面に形成させることで、耐熱性を向上させたセパレータを用いた電池が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。ところが、特許文献2及び3で提案されているフィラーを含む耐熱層を有するセパレータでは、金属酸化物を多く含むためにセパレータ内でのリチウムイオンの拡散が阻害され、電池の内部抵抗が高くなるという問題点があった。
【特許文献1】特開昭60−023954号公報
【特許文献2】特開2005−038793号公報
【特許文献3】特開2006−164761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況に鑑み、本発明は、内部又は外部短絡時における電池の発熱を抑制でき、かつ、内部抵抗を抑制した電気化学素子を構成できる新規な電気化学素子用セパレータ及びこれを用いたリチウム電池又はリチウムイオン電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために種々検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、(1)フィラー粒子及び結着剤を含有し空隙を有する耐熱性多孔質層からなるセパレータであって、前記空隙はテンプレート剤により作製されたものであることを特徴とする電気化学素子用セパレータに関する。
【0011】
また、本発明は、(2)多孔質基体と、前記多孔質基体の表面に設けられた耐熱性多孔質層を有する電気化学素子用セパレータであって、前記耐熱性多孔質層がフィラー粒子及び結着剤を含有し空隙を有する層であり、前記空隙がテンプレート剤により作製されたものであることを特徴とする電気化学素子用セパレータに関する。
【0012】
また、本発明は、(3)前記空隙は、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層からテンプレート剤を除去することにより作製されてなることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0013】
また、本発明は、(4)前記空隙は、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層からテンプレート剤を電解液中に溶解させることにより作製されてなることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0014】
また、本発明は、(5)前記テンプレート剤が電解液に可溶性である前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0015】
また、本発明は、(6)前記テンプレート剤が金属の酸化物、金属の炭酸塩、金属の硝酸塩、金属のクエン酸塩、金属のアンモニウム塩、金属の酢酸塩、イオン液体、高分子及びリチウム塩から選ばれる少なくとも一種を含む前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0016】
また、本発明は、(7)前記テンプレート剤が電池内の電解液に溶解した際に、過充電防止剤として機能することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0017】
また、本発明は、(8)前記テンプレート剤が、アルキル置換ベンゼン化合物、アリール置換ベンゼン化合物、ジアリールエーテル化合物及びハロゲン置換アニソール化合物から選ばれる少なくとも一種を含む前記(7)記載の電気化学素子用セパレータ。
【0018】
また、本発明は、(9)前記テンプレート剤が電池内の電解液に溶解した際に、電解液の難燃化剤として機能することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0019】
また、本発明は、(10)前記テンプレート剤が、リン酸エステル化合物及びホスファゼン化合物から選ばれる少なくとも一種を含む前記(9)記載の電気化学素子用セパレータ。
【0020】
また、本発明は、(11)前記テンプレート剤が電池内の電解液に溶解した際に、正極集電体の腐食防止剤として機能することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0021】
また、本発明は、(12)前記テンプレート剤が、O−B結合を有するリチウム塩である前記(11)記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0022】
また、本発明は、(13)前記フィラー粒子が、Al、SiO、モンモリロナイト、雲母、ZnO、TiO、BaTiO、ZrO及びガラスから選ばれる少なくとも一種を含む前記(1)〜(12)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0023】
また、本発明は、(14)前記フィラー粒子が、少なくともAlを含む前記(1)〜(13)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0024】
また、本発明は、(15)前記フィラー粒子の二次粒子の平均粒子径が、5nm〜5μmである前記(1)〜(14)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0025】
また、本発明は、(16)前記結着剤が、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である前記(1)〜(15)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0026】
また、本発明は、(17)前記多孔質基体が、ポリオレフィンを含む前記(2)〜(16)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータに関する。
【0027】
また、本発明は、(18)前記(1)〜(17)のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータを有するリチウム電池又はリチウムイオン電池に関する。
【0028】
また、本発明は、(19)フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤を含む組成物を加熱して、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層を形成する工程、次いで耐熱性層からテンプレート剤を除去することにより耐熱性層に空隙を作製し、耐熱性多孔質層を形成する工程を含む電気化学素子用セパレータの製造方法に関する。
【0029】
また、本発明は、(20)前記テンプレート剤を電解液に溶解することにより除去することを特徴とする前記(19)記載の電気化学素子用セパレータの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の電気化学素子用セパレータは、内部又は外部短絡時における電池の発熱を抑制でき、かつ、内部抵抗を抑制することができる。また、本発明のリチウム電池又はリチウムイオン電池は、電池の安全性が向上した、内部抵抗が低い電池である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0032】
本発明の電気化学素子用セパレータ1は、図1に示すようにフィラー粒子3及び結着剤5を含有し空隙4を有する耐熱性多孔質層2からなるセパレータであって、前記空隙4はテンプレート剤により作製されたものであることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の電気化学素子用セパレータ1は、図2に示すように多孔質基体6と、前記多孔質基体6の表面に設けられた耐熱性多孔質層2’を有する電気化学素子用セパレータであって、前記耐熱性多孔質層2’がフィラー粒子3及び結着剤5を含有し空隙4を有し、前記空隙4がテンプレート剤により作製されたものであることを特徴とする。この場合、耐熱性多孔質層2’は多孔質基体6の片側のみに配置(図2を参照)しても、両面に配置(図示せず)しても良い。
【0034】
このように、本発明においては、フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤を含む組成物を、例えば層状に形成し(以下、フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤を含む組成物を用いて形成された層を、単に「耐熱性層」という)、空隙を作製し(以下、「耐熱性層」に空隙が形成された層を、単に「耐熱性多孔質層」という)、それをそのまま(図1を参照)、あるいは、従来セパレータに使用されている多孔質基体と組み合わせて(図2〜図4を参照)、電気化学素子用セパレータとして使用することができる。多孔質基体と組み合わせて用いることにより、電気化学素子用セパレータに柔軟性を付与しやすくなる。多孔質基体と組み合わせる場合は、上記のように多孔質基体6の表面に耐熱性多孔質層2’を設けた形態(図2を参照)でも、多孔質基体6の細孔7内に耐熱性多孔質層を設けた形態(図3を参照)であってもよい。
【0035】
本発明の電気化学素子用セパレータは、空隙を有することによって、イオン伝導経路が確保されるために低抵抗化が可能となる。空隙は連続孔であっても、非連続孔であってもよいが、低抵抗化の点からは連続孔であることが好ましい。空隙の大きさは、リチウムイオンが通過できる大きさであれば特に限定されないが、耐熱性多孔質層の機械的強度の観点から平均空隙径が5nm〜5μmであることが好ましく、0.01μm〜1μmであることがより好ましい。また、電気化学素子用セパレータにおける空隙の占める体積割合は、耐熱性多孔質層の機械的強度の観点から、5〜80体積%であることが好ましい。また、空隙は、均一若しくはほぼ均一に形成されていることが好ましい。
【0036】
本発明における耐熱性多孔質層の厚さは特に制限はないが、好ましくは0.5μm〜50μm、より好ましくは0.5μm〜30μmである。耐熱性多孔質層の厚さが0.5μm未満の場合は、電気化学素子用セパレータの耐熱性が不十分となり、安全性の高い電池を提供することが難しい場合があり、50μmを超える場合は、それを用いた電気化学デバイスのエネルギー密度の点で不利となる可能性がある。
【0037】
以下、本発明の電気化学素子用セパレータを構成する各成分について説明する。
(フィラー粒子)
本発明において、フィラー粒子は電気化学素子用セパレータに耐熱性及び強度を付与させる目的で用いられる。用いられるフィラー粒子としては、融点が120℃以上の粒子であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。また、融点の上限は特に制限はないが、4000℃以下であることが好ましく、3000℃以下であることがより好ましい。前記融点が120℃未満である場合は、耐熱性を付与しし難くなる。
【0038】
フィラー粒子の形状としては特に制限はなく、無定形フィラー、板状フィラー、針状フィラー、球形フィラーのいずれであってもよいが、フィラー粒子は耐熱性層内に均一に分散していることが好ましいため、この点から球形フィラーが好ましい。フィラー粒子の分散が不均一である場合、フィラー粒子が存在していない部分又はフィラー粒子が少ない部分は耐熱性が低下し、電池として使用した場合、異常発熱時にその部分に穴が開いてしまうおそれがあるため、フィラー粒子の分散は均一であることが望ましい。
フィラー粒子の粒子径は、特に限定されないが、二次粒子の平均粒子径が5nm〜5μmであることが好ましく、0.01μm〜1μmであることがより好ましい。平均粒子径が5μmを超えると、電気化学素子用セパレータの強度が低下し、即ち脆くなり、また表面の平滑性が低下する傾向があり、5nm未満であると分散性が低下するため、フィラー粒子が均一に分散したセパレータを作製することが困難となる傾向がある。該二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法を用いて測定できる。
【0039】
また、フィラー粒子の含有量は、フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤の合計重量の5重量%以上95重量%以下であることが好ましく、10重量%以上75重量%以下であることがより好ましい。フィラー粒子の含有量が、5重量%未満であると、十分な耐熱性が得られない場合があり、95重量%を超えると、電気化学素子用セパレータが脆くなり、取り扱いが難しくなる場合がある。
【0040】
本発明で用いられるフィラー粒子として、例えば、電気絶縁性の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等からなる粒子や、ポリマー粒子が挙げられる。これら粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。フィラー粒子の具体例としては、Al、SiO、モンモリロナイト、雲母、ZnO、TiO、BaTiO、ZrO、ガラス等の金属酸化物からなる粒子;窒化ケイ素、窒化ガリウム、窒化チタン、窒化リチウム等の金属窒化物からなる粒子;WC、WC、CuC、CoC、VC、MnC、ZrC、NbC、CrC、MoC、W0.3Co0.20.5等の金属炭化物からなる粒子;架橋ポリメチルメタクリレート(架橋PMMA)などの架橋アクリル系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、架橋ポリウレタン、架橋ポリスチレン、ベンゾグアナミンポリマー、メラミンポリマー、ポリオレフィンポリマー等のポリマー粒子;等が挙げられる。本発明においては金属酸化物が好ましく用いられ、中でもAl粒子を好適に用いることができる。
【0041】
(結着剤)
本発明で用いられる結着剤は、フィラー粒子とテンプレート剤とを分散させ、耐熱性層を形成することができれば特に制限はなく、例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を好適に使用できる。
【0042】
熱硬化性樹脂としては、例えば、アラミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。後述する電気化学素子用セパレータの製造方法におけるフィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤を含む液状の組成物を加熱する工程において、同時に結着剤成分である熱硬化性樹脂を硬化することもできる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、アクリル樹脂等が挙げられる。また、これらの共重合体を用いることもできる。
【0043】
結着剤の含有量は、フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤の合計重量の5重量%以上90重量%以下であることが好ましく、10重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。結着剤の含有量が、5重量%未満であると、フィラー粒子、テンプレート剤、多孔質基体とをつなぎ止める結着剤としての機能が不足する場合があり、90重量%を超えると、フィラー粒子及びテンプレート剤の含有量が不足し、耐熱性又は低抵抗の効果が得られ難くなる可能性がある。
【0044】
(テンプレート剤)
本発明においてテンプレート剤は、耐熱性多孔質層に空隙を作製するために用いるものである。かかるテンプレート剤としては、フィラー粒子及び結着剤を含む耐熱性層中に分散又は溶解して存在し、耐熱性層から除去できるものであれば特に制限はなく、電解液に可溶性であるものが好ましい。
【0045】
かかるテンプレート剤としては、例えば、金属の酸化物、金属の炭酸塩、金属の硝酸塩、金属のクエン酸塩、金属のアンモニウム塩、金属の酢酸塩等の無機物が挙げられ、前記金属としてはリチウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、珪素、チタン等が挙げられる。
【0046】
また、イオン液体、高分子、リチウム塩等の有機物もテンプレート剤として用いることが出来る。イオン液体としては、融点が室温(25℃)以下であり、室温で液状の外観を呈する塩であるものが好ましいが、融点が室温より高い塩でも、溶媒に溶解した状態でフィラー粒子及び結着剤と混合して耐熱性層の中に分散して使用することができる。イオン液体の組成については特に制限はなく、耐熱性層に均一に分散又は溶解できる組成であれば好適に用いることができる。例えば、カチオンとして、アンモニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、オキサゾリウム、オキサゾリニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、スルホニウムが挙げられる。また、アニオンとしては、N(SOF)、N(SOCF、N(SO、BF、PF、CFSO又はCFCOが挙げられ、これらのカチオンとアニオンを組み合わせたイオン液体を用いることができる。上記イオン液体は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。これらのアニオンの中でも、特に疎水性のアニオンであるN(SOF)、N(SOCF、N(SO、CFSO又はCFCOが好適に用いられる。疎水性のアニオンを用いることにより、それによって構成されるイオン液体の取り扱い性、特に空気雰囲気での取り扱い性が容易になる。高分子としては、特に制限はなく、耐熱性層に均一に分散又は溶解できるものであれば好適に用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。
【0047】
リチウム塩としては、電解液に溶解性であるものが好ましく、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO〔ここでRfはフルオロアルキル基〕等が挙げられる。
【0048】
また、本発明では、テンプレート剤として、電池内の電解液に溶解した際に、過充電防止剤として機能するものを用いることが好ましい。かかる過充電防止剤は、過充電防止作用を高めるために酸化分解電圧が低く、且つ、酸化分解電流が大きいものが好ましいが、酸化分解電圧が低すぎると、電池の使用時、特に高温保存時などに過充電防止剤の酸化電気分解が起こって、電池特性が低下する恐れがある。また、過充電状態で活物質表面に高抵抗の被膜を形成させる化合物が好ましい。このうち、電池の最大動作電圧以上の電池電圧で酸化反応を受ける化合物、特にサイクリックボルタンメトリー法によって測定した酸化電圧が4.3V以上4.9V以下の化合物が好ましい。酸化電圧が4.9Vを超えると、過充電防止の効果が小さくなり、4.3V未満では電池特性を劣化させることがある。酸化電位の上限は4.8V以下、特に4.7V以下が好ましい。酸化電位の下限は4.4V以上、特に4.5V以上が好ましい。
【0049】
上記過充電防止剤は、アルキル置換ベンゼン化合物、アリール置換ベンゼン化合物、ジアリールエーテル化合物、ハロゲン置換アニソール化合物から選ばれる少なくとも一種を含むものであることが好ましく、具体的には以下のような化合物を挙げることができる。例えば、アルキル置換ベンゼン化合物としては、炭素数が1〜10個のアルキル基で置換されたベンゼン類であり、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、クメン、t−ブチルベンゼン、4−t−ブチルトルエン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、ジフェニルメタンなど、あるいはこれらのフッ素置換体などが例示される。アリール置換ベンゼン化合物としては、炭素数が6〜12個のアリール基で置換されたベンゼン類を表し、ビフェニル、ナフタレン、o−ターフェニル、m−ターフェニル、p−ターフェニル、o−シクロヘキシルビフェニルなど、2−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニルなどのフッ素置換体などが例示される。ジアリールエーテル類としては、炭素数が6〜12個のアリール基からなるエーテル類を表し、ジフェニルエーテル、ジトルイルエーテル、ジフェノキシベンゼン、ジフェニレンオキシドなど、4−フルオロジフェニルエーテルなどのフッ素置換体などが例示される。あるいはこれらのフッ素置換体などが例示される。ハロゲン置換アニソール類としては、ベンゼン環あるいはメトキシ基の水素をフッ素で置換したアニソールを表し、2,4−ジフルオロアニソール、2,3−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2−フルオロ−4−クロロアニソール、2−クロロ−4−フルオロアニソール、2−フルオロアニソール、3−フルオロアニソール、4−フルオロアニソールなどが例示される。
【0050】
これらのうち、過充電防止作用が高く、且つ、高温保存時などに過充電防止剤の酸化電気分解が起こり難い点で、トルエン、エチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、4−t−ブチルトルエン、ビフェニル、4−フルオロビフェニル、2−フルオロビフェニル、o−ターフェニル、4−フルオロジフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、2,4−ジフルオロアニソール、2−フルオロアニソール又は4−フルオロアニソールが好ましく、トルエン、エチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、o−ターフェニル、ビフェニル、4−フルオロジフェニルエーテル、2−フルオロアニソール、4−フルオロアニソールがさらに好ましく、ビフェニルが特に好ましい。かかる過充電防止剤は、適宜選択でき、単一の化合物で用いても良いし、複数の化合物を混合して使用しても良い。複数の化合物を混合する場合は、ビフェニルとトルエン、ビフェニルとエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼンとトルエン、シクロヘキシルベンゼンとエチルベンゼンを組み合わせることが最も望ましい。
【0051】
また、本発明では、テンプレート剤として、電池内の電解液に溶解した際に、電解液の難燃化剤として機能するものを用いることが好ましい。電解液の難燃化剤としては、エンジニアリングプラスチックの難燃化剤として使用されている化合物の内、電池内で比較的安定に存在できれば、特に制限なく使用することができ、例えば、リン酸エステル化合物又はホスファゼン化合物から選ばれる少なくとも一種を含むものであることが好ましい。
【0052】
リン酸エステル化合物としては、例えば、一般式(1)で示されるリン酸エステル化合物を挙げることができる。
【化1】

【0053】
(式中、R1〜R3は炭素数1〜7の炭化水素基であり、同じであっても異なっていてもよい。また、R1〜R3の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。)
一般式(1)における炭素数1〜7の炭化水素基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシキル基、オクチル基などのアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基などのアリール基;等を挙げることができる。また、これらの炭化水素基の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよく、それによって化学的安定性を高めやすくなる。これらのなかでも、メチル基又はフェニル基が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル又はリン酸トリフェニルがより好ましい。
【0054】
ホスファゼン化合物としては、例えば、一般式(2)で表されるホスファゼン化合物を挙げることができる。
【化2】

【0055】
(式中、R1〜R6は炭素数1〜10の有機基であり、同じであっても異なっていてもよい。また、R1〜R3の水素原子はフッ素原子で置換されていても良い。)
一般式(2)における炭素数1〜10の有機基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基などのアルコキシ基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基などのアルコキシアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、3−ブテニル基、3−ペンテニル基、2−フルオロエテニル基、2,2−ジフルオロエテニル基、1,2,2−トリフルオロエテニル基、4,4−ジフルオロ−3−ブテニル基、3,3−ジフルオロ−2−プロペニル基、5,5−ジフルオロ−4−ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル基などのアリール基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;等が挙げられる。有機基の水素原子をフッ素原子で置換することにより、化学的安定性を高めやすくなる。これらのなかでも、メチル基、エチル基、1,2,2−トリフルオロエテニル基が好ましい。
また、本発明では、テンプレート剤として、電池内の電解液に溶解した際に、正極集電体の腐食防止剤として機能するものを用いることが好ましい。かかる腐食防止剤としては、O(酸素)−B(臭素)結合を有するリチウム塩を用いることが好ましく、具体的にはリチウムビス(オキサレート)ボレート及びリチウムオキサリルジフルオロボレートを挙げることができる。テンプレート剤としてO−B結合を有するリチウム塩を用いることで、テンプレート剤が電解液に溶出して、電池の充放電が行われた際にO−B結合が解離して正極集電体上で安定な不動態被膜を形成すると考えられる。
【0056】
このようなテンプレート剤を用いて正極集電体の腐食を防止することで、これまで正極、例えば、アルミニウムを腐食するためにリチウム電池の電解質塩として使用できなかった、リチウムビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド LiN(SORf) (Rfはフッ素化アルキルC2n+1基を表す)、例えばリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドLiN(SOCF)やリチウムビス(ヘキサフルオロエタンスルホニル)イミド LiN(SOを使用することができる。また、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンN(SORf)-からなるイオン液体を電解液溶媒として使用することが可能となる。ここで言うイオン液体とは、融点が室温(25℃)以下であり、室温(25℃)で液状の外観を呈する塩である。
【0057】
前記リチウムビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドは従来のリチウムイオン二次電池で使用されてきた六フッ化リン酸リチウムLiPFやLiBFと比較して、電解液に溶解した際の解離度が高く、高いイオン伝導率を示す電解液を調製することができるとともに、高い熱安定性を示すという利点があり、また、イオン液体は難揮発性であるため、これを電解液溶媒に用いたリチウムイオン電池およびリチウム電池は安全性が高くなる。したがって、これらの使用が可能になることによって、電池としての付加価値が向上する。
【0058】
本発明において、テンプレート剤の配合量は、テンプレート剤/結着剤の重量比率として、好ましくは10/90〜90/10であり、より好ましくは30/70〜70/30である。前記テンプレート剤の重量比率が10未満であると、耐熱性多孔質層に作製される空隙が少なくなるためにイオン伝導経路が不足し内部抵抗が抑制し難くなり、90を超えるとフィラー粒子とテンプレート剤が分散した耐熱性層を形成し難くなる。
【0059】
本発明の電気化学素子用セパレータでは、空隙が均一若しくは略均一に形成されていることが好ましく、その為にはテンプレート剤が結着剤中に均一若しくは略均一に分散又は溶解していることが好ましい。テンプレート剤を結着剤中に均一若しくは略均一に分散又は溶解させる方法としては、例えば、結着剤の溶媒に溶解するテンプレート剤を用いて結着剤中に分散又は溶解させる方法、テンプレート剤が結着剤の溶媒に溶解しない場合は、テンプレート剤、フィラー粒子、結着剤、結着剤の溶媒からなるスラリーを機械的に混合すればよい。
【0060】
本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法は、フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤を含む組成物を機械的に混合して均一に分散し、次いで加熱して、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層を形成する工程(I)、ついで耐熱性層からテンプレート剤を除去することにより耐熱性層に空隙を作製し、耐熱性多孔質層を形成する工程(II)を含むものである。
【0061】
前記工程(I)では、フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤を含む組成物を機械的に混合して均一に分散し、次いで加熱して、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層を形成する。前記組成物の製造方法として、例えば、フィラー粒子と、結着剤を溶媒に溶解又は分散した溶液とを混合し、その後テンプレート剤を混合し、次いで機械的に混合した後、基板に塗布し、加熱することによって溶媒を乾燥する方法が挙げられる。フィラー粒子、テンプレート剤、結着剤、結着剤の溶媒以外に、その他の物質を添加していてもよい。機械的に混合する方法としては、公知の攪拌機、分散機、粉砕機等を用いることができる。
【0062】
結着剤を溶解又は分散する溶媒として、結着剤を溶解又は分散できれば特に制限はなく、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等の複素環化合物;ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物;カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等のエステル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の非プロトン極性物質;トルエン、キシレン等の非極性溶媒;メチレンクロリド、エチレンクロリド等の塩素系溶媒;水;等を用いることができる。
【0063】
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、結着剤に対して5〜50質量%であることが好ましい。5質量%未満ではフィラー粒子、テンプレート剤、結着剤、結着剤の溶媒からなるスラリーの粘度が高くなり、均一なスラリーを調整することが困難となる傾向があり、50質量%を超えるとフィラー粒子、テンプレート剤、結着剤、結着剤の溶媒からなるスラリーの粘度が低くなり、塗布する際の作業性が悪くなる傾向にある。
【0064】
次いで、前記組成物を加熱して、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層を形成する。フィラー粒子、テンプレート剤、結着剤、結着剤の溶媒を含有する組成物は、フィラー粒子とテンプレート剤が分散したスラリー状組成物であるため、該スラリー状組成物をフィルムや金属箔などの基板上に塗布し、又は多孔質基体に塗布あるいは含浸させた後、所定の温度に加熱することにより耐熱性層を形成することができる。
【0065】
加熱は、組成物の成分や耐熱性層の厚さなどに応じて適宜選択されるが、通常は、50〜200℃で1〜60分で行なわれる。また、必要に応じて、真空条件下において加熱してもよい。
【0066】
基板としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミドなどのプラスチックフィルム、ガラス、銅、アルミニウムなどの金属箔などを用いることができる。基板の厚さは特に制限はないが、通常は5〜50μmである。
【0067】
多孔質基体としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの微多孔膜、電気絶縁性の有機繊維又は無機繊維、パルプからなる多孔質の織物、不織布、紙などを用いることもできる。電気絶縁性の有機繊維としては、ポリオレフィン、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリスチレン、ナイロン(商標名)等の熱可塑性ポリマーからなる繊維や、マニラ麻などの天然繊維等が挙げられる。電気絶縁性の無機繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維等が挙げられる。多孔質基体の厚さは特に制限はないが、適度な機械的強度を有し、かつ低抵抗化に適した厚さが好ましく、10〜30μm程度のものが好適である。多孔質基体として、一般に電気化学素子用として市販されているものを用いることが可能であり、一例として、旭化成ケミカルズ株式会社製のポリエチレン製微多孔膜「ハイポアN8416」が挙げられる。
【0068】
耐熱性層は、少なくともフィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤から構成されるが、本発明の効果が得られる範囲で、更にその他の物質を含んでいてもよい。耐熱性層の厚さは特に限定されないが、0.5μm〜5μmが好ましい。耐熱性層の厚さが0.5μm未満であると電気化学素子用セパレータの機械的強度が劣り、また、耐熱性が不十分となり、安全性の高い電池を提供することが難しい場合があり、5μmを超える厚さであると、それを用いた電気化学素子のエネルギー密度の点で不利となる傾向がある。
【0069】
次いで、工程(II)では、耐熱性層からテンプレート剤を除去することにより耐熱性層に空隙を作製し、耐熱性多孔質層を形成する。前記工程(I)で形成された耐熱性層中にはテンプレート剤が分散又は溶解して存在しており、工程(II)において、テンプレート剤を溶解し、結着剤及びフィラーを溶解しない溶媒を用いてテンプレート剤を溶解させ耐熱性層から除去すればよい。工程(II)におけるテンプレート剤の除去方法は、特に限定されないが、電解液に可溶性であるテンプレート剤を用いて電解液に溶解させ除去することが好ましく、電池内で耐熱性層を電解液に浸積してテンプレート剤を電解液に溶解させ除去することがより好ましい。電解液に可溶性であるテンプレート剤としては、電池として使用される電圧範囲で電池の特性を悪化させないものであれば特に制限はなく、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO〔ここでRfはフルオロアルキル基〕等のリチウム塩やイオン液体などの他、電池内の電解液に溶解した際に、過充電防止剤として機能するもの、電解液の難燃剤として機能するもの、正極集電体の腐食防止剤として機能するもの等を用いることによって、それぞれの機能が発揮され電池の特性を向上することが可能となる。
【0070】
テンプレート剤の除去を電池内で行なわない場合は、テンプレート剤が可溶性で、結着剤及びフィラー粒子が不溶性の溶媒を用いてテンプレート剤を溶解させ耐熱性層から除去すればよい。例えば、テンプレート剤が電解液に溶解性である場合は、耐熱性層を電解液に所定時間、浸漬してテンプレート剤を電解液に溶解させ除去すればよい。必要に応じて電解液で洗浄を繰り返し、乾燥することにより、フィラー粒子及び結着剤を含有し空隙を有する耐熱性多孔質層からなるセパレータを得ることができる。
【0071】
前記(I)の工程で用いた基材は、工程(II)においてテンプレート剤の除去前又は除去後に剥離され、得られた耐熱性多孔質層はそのまま、あるいは、多孔質基体と組み合わせて電気化学素子用セパレータとして用いることができる。
【0072】
かくして得られる本発明の電気化学素子用セパレータは、空隙をテンプレート剤を用いて作製することにより、テンプレート剤を用いない場合に比較して、空隙がより開いた状態となり、電池に用いた際に内部抵抗をより低減することが可能になる。
本発明の電気化学素子用セパレータを用い、リチウム電池又はリチウムイオン電池等の電気化学素子を製造することができる。電気化学素子の基本構造は、電気化学素子用セパレータを介して正極及び負極を対向配置し、これに非水電解液を含浸させるものである。
【0073】
リチウム電池及びリチウムイオン電池の場合、正極に含まれる正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn等のリチウムと遷移金属との複合酸化物;MnO、V等の遷移金属酸化物;MoS、TiS等の遷移金属硫化物;ポリアセチレン、ポリアセン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物;ポリ(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)などのジスルフィド化合物;等が用いられる。正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属箔;パンチングメタル、網、エキスパンドメタル等を用いるが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0074】
負極に含まれる負極活物質としては、リチウム金属、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、リチウムを吸蔵・放出できる炭素質材料、黒鉛、フェノール樹脂、フラン樹脂等のコークス類、炭素繊維、ガラス状炭素、熱分解炭素、活性炭等が用いられる。負極に集電体を用いる場合に、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル等を用いるが、通常は銅箔が用いられる。この負極の集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、また下限は5μmであることが好ましい。
【0075】
電極活物質を用いて電極を作製する際に用いられる導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、アルミニウム、ニッケル等の金属繊維、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン等が用いられる。これらの中でも、少量の配合で所望の導電性を確保できるアセチレンブラック、ケッチェンブラックが好ましい。なお、導電助剤は、電極活物質に対して、通常、0.5〜20質量%程度配合されるが、1〜10質量%配合することがより好ましい。
【0076】
導電助剤と共に用いられるバインダーとしては、公知の各種バインダーを用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、スチレンーブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0077】
電解液としては、テンプレート剤を溶解する性質を有するものであり、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLiイオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に制限はない。例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF 、LiSbF等の無機リチウム塩;LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO〔ここでRfはフルオロアルキル基〕等の有機リチウム塩などを用いることができる。前記リチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜2mol/Lとすることが好ましく、0.9〜1.5mol/Lとすることがより好ましい。
【0078】
電解液に用いる有機溶媒としては、上記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に制限はない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル類;γ−ブチロラクトンといった環状エステル類;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等の鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル等のニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;イオン液体;などが挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用しても差し支えない。より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネート類の混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。
【0079】
また、これらの電解液に安全性や充放電サイクル性、高温貯蔵性といった特性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキサン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼン等の添加剤を適宜加えることもできる。
【0080】
本発明のリチウム電池又はリチウムイオン電池の形態としては、スチール缶、アルミニウム缶等を外装体(外装缶)として使用した、角筒形や円筒形などの筒形が挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0081】
なお、本発明の電気化学素子用セパレータは、正負極いずれか一方を電気二重層キャパシタで用いられる分極性電極とし、もう一方をリチウムイオン電池で用いられるリチウムイオンを挿入・脱離可能な物質を活物質とする電極としたハイブリッド型の蓄電デバイスにも応用することができる。
【0082】
本発明のリチウム電池又はリチウムイオン電池は、従来公知のリチウム電池又はリチウムイオン電池が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を制限するものではない。
【0084】
実施例1
<電気化学素子用セパレータの作製>
フィラー粒子としてAl(アルドリッチ社製「nanopowder Al」、球状フィラー、融点2020℃、)1gを秤量しメノウ乳鉢に入れた。次いで、結着剤を含む溶液としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN−メチルピロリドン(NMP)溶液(株式会社クレハ社製「PVDF#1120」、PVDFの濃度12重量%)をPVDFの固形分が0.5gとなるように加えて混合し、さらに、テンプレート剤としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1gを加え、さらにNMP1gを加えてスラリー(a)を作製した。
【0085】
このスラリー(a)をガラス基板上に、アプリケーターを用いて100μmのギャップで塗布して、80℃で2時間乾燥し、Alフィラー粒子、テンプレート剤、およびPVDF結着剤で構成される耐熱性層を作製した。ガラス基板上から剥離した耐熱性層の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。
【0086】
次いで、ガラス基板から剥離した耐熱性層を、エチレンカーボネート(キシダ株式会社製)、ジエチルカーボネート(キシダ株式会社製)及びジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)の混合溶液(1:1:1体積比)溶液に1時間浸漬し、テンプレート剤を混合溶液中に溶解させ除去した。その後、ジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)で繰り返し洗浄した後、80℃で3時間真空乾燥し、耐熱性多孔質層のみからなる電気化学素子用セパレータ(A)が得られた。耐熱性多孔質層のみからなる電気化学素子用セパレータ(A)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。
【0087】
また、電気化学素子用セパレータ(A)の表面を電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU−70」)を用いて5万倍で撮影した写真を図5に示す。
用いたAlの平均粒子径をレーザー回折法(株式会社島津製作所製、レーザー回折式粒度測定器「SALD3000J」)により測定したところ、平均粒子径(50)は0.07μmであった。
【0088】
上記ジメチルカーボネート洗浄の前後における耐熱性層の熱重量変化を、熱重量分析測定計(セイコーインスツルメンツ株式会社製、「SII EXSTAR6000/TGDTA6300」)により測定したところ、ジメチルカーボネート洗浄後の測定結果が、Alフィラー粒子とPVDF結着剤のみの耐熱性層(Al/PVDF=2/1(重量比))の熱重量変化の測定結果と同じであったことから、洗浄によって99重量割合を超えるテンプレート剤が除去されていることを確認した。
【0089】
<耐熱寸法安定性の評価>
実施例1の電気化学素子用セパレータ(A)を裁断して2cm×2cmの正方形の試験片を得た。次いで、その試験片を、縦7.5cm×横7.5cm×厚さ5mmの2枚のガラス板の間に挟んだ後、それらを水平にしてステンレス製のバット上に静置した。その後、120℃のオーブン中に1時間放置して面積を測定した。
【0090】
面積維持率=(放置後の面積/放置前の面積:4cm)×100(%)として評価し、耐熱寸法安定性の指標とした。その結果を表1に示す。なお、面積維持率が大きい程、耐熱寸法安定性に優れる。
【0091】
<リチウム二次電池用正極の作製>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、「セルシード10N」)、導電性カーボン(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、「PVDF#1120」)及び塗工溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMP)を用い、正極活物質:導電性カーボン:バインダー樹脂:NMP=94:3:3:28(重量比)の割合で混合してペースト状にし、アルミ集電箔(日本蓄電器工業株式会社製、「20CB」)に塗布し、80℃で3時間乾燥させた後、圧延し、直径9mmの円形に打ち抜いて、リチウム二次電池用正極電極を得た。
【0092】
<リチウム二次電池の作製>
対極として厚さ1mm及び直径15mmの円状金属リチウムを用い、また作用極として前記で得られたリチウム二次電池用正極電極を用い、実施例1の電気化学素子用セパレータ(A)を裁断して得た直径16mmの円形セパレータとポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)を各1枚ずつ介して対極と作用極を対向させた。ポリエチレン微多孔膜は正極側、電気化学素子用セパレータ(A)は負極側に配した。さらに1.0M LiPF/エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶液(1:1:1体積比)にビニレンカーボネートを1重量%添加した非水電解液を用いて通常の方法によってリチウム二次電池を作製した。
【0093】
<電極特性の評価>
対極(リチウム極)に対し、0.05Cに相当する電流で4.2Vまで充電した。放電はリチウム極に対して0.1Cに相当する電流で3.0Vまで行い、初期(初回)放電容量(x)を測定した。次いで、0.1Cに相当する電流で4.2Vまで充電した後、2.0Cに相当する電流で3.0Vまで放電を行い、放電容量(y)を測定し、下記式により放電容量維持率(%)を算出した。
【0094】
放電容量維持率(%)=放電容量(y)/放電容量(x)×100
実施例2
<イオン液体の合成>
ジエチルスルフィド(東京化成工業株式会社製)9.02g(0.1mol)及びアセトニトリル(和光純薬工業株式会社製)20gを、フラスコ中で攪拌し、さらにヨードメタン14.2(0.1mol)を加えた。これを還流下、25℃で攪拌し、10時間反応を行った。反応後、濃縮して得た結晶を酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製)500mlを用いて洗浄し、70℃で3時間真空乾燥した。この結晶2.71g(0.01mol)を精製水50mlに溶解し、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学株式会社製)2.87g(0.01mol)を加え、25℃で10時間攪拌した。これに塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製)50mlを加えた後、有機相を抽出し、精製水500mlを用いて洗浄した。この有機相を濃縮することによって塩化メチレンを除去した後、160℃で3時間真空乾燥を行い、モレキュラーシーブス4A(和光純薬工業株式会社製)を加え、1日間静置した後に、下記一般式(I)で表されるイオン液体(b)2.5gを得た。
【化3】

【0095】
上記一般式(I)で表されるイオン液体(b)の融点は25℃未満で、NMRスペクトルは、BRUKER社製、「AV400M」により400MHzで測定した。結果は以下の通りである。
【0096】
H−NMR[ppm]〔d−ジメチルスルホキシド、δ1.34(t)、δ2.84(s)、δ3.30(m)〕
<電気化学素子用セパレータ及びリチウム二次電池の作製>
実施例1で用いた、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1gの代わりに上記で得られたイオン液体1gを用いたこと以外は、実施例1と同様の工程を経て、厚さ25μmの電気化学素子用セパレータ(B)及びリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。
【0097】
実施例3
実施例1で用いた、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド1gの代わりに酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製、平均粒子径50nm)1gを用いたこと、またエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶媒の代わりに、20重量%塩酸水溶液を用いて酸化マグネシウムを溶解、除去したこと以外は実施例1と同様の工程を経て、厚さ27μmの電気化学素子用セパレータ(C)及びリチウム電池を作製し、同様に評価した。
【0098】
実施例4
実施例1において作製したスラリー(a)を、ガラス基板上に置いたポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)の上に塗布した後、30℃で真空乾燥した。次いで、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶液(1:1:1体積比)に1時間浸漬し、テンプレート剤を混合溶液中に溶解させ除去した。その後、ジメチルカーボネートで繰り返し洗浄した後、80℃で3時間真空乾燥し、ポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(D)を得た。ポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(D)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0099】
電気化学素子用セパレータ(D)を用いて実施例1と同様の操作を行いリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例1の電気化学素子用セパレータ(A)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(D)を用い、電極特性の評価は電気化学素子用セパレータ(A)とポリエチレン微多孔膜の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(D)を用いた。
【0100】
比較例1
従来のリチウムイオン二次電池のセパレータに広く使用されているポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm))を2枚重ねて、電気化学素子用セパレータ(E)を作製した。電気化学素子用セパレータ(E)を用いて実施例1と同様の操作を行いリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例1の電気化学素子用セパレータ(A)の代りに上記ポリエチレン微多孔膜1枚を用い、電極特性の評価は電気化学素子用セパレータ(A)とポリエチレン微多孔膜の代りに上記ポリエチレン微多孔膜を2枚重ねた電気化学素子用セパレータ(E)を用いた。
【0101】
比較例2
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いないこと以外は実施例1と同様に操作を行い、電気化学素子用セパレータ(F)を作製した。電気化学素子用セパレータ(F)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、24μmであった。
【0102】
また、電気化学素子用セパレータ(F)の表面を電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU−70」)を用いて5万倍で撮影した写真を図6に示す。
電気化学素子用セパレータ(F)を用いて実施例1と同様の操作を行いリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。
【0103】
比較例3
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いないこと以外は実施例4と同様に操作を行い、ポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(G)を作製した。ポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(G)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0104】
電気化学素子用セパレータ(G)を用いて実施例1と同様の操作を行いリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例1の電気化学素子用セパレータ(A)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(G)を用い、電極特性の評価は電気化学素子用セパレータ(A)とポリエチレン微多孔膜の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性多孔質層を配置した電気化学素子用セパレータ(G)を用いた。

【表1】

【0105】
なお、実施例1〜3及び比較例2について、「面積維持率」は耐熱性多孔質層単独の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして耐熱性多孔質層と多孔質基体とを重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0106】
また、実施例4及び比較例3について、「面積維持率」は表面に耐熱性多孔質層を設けた多孔質基体の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして表面に耐熱性多孔質層を設けた多孔質基体を単独で使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0107】
また、比較例1について、「面積維持率」は多孔質基体1層の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして多孔質基体を2層重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0108】
表1に示されるように、実施例1〜4の電気化学素子用セパレータは、面積維持率が高く耐熱寸法安定性に優れているため短絡時における電池の発熱を抑制でき、又、該セパレータを用いたリチウム二次電池は放電容量維持率が高いため内部抵抗を抑制でき、安全性と高性能を両立できることが明らかである。これに対し、ポリエチレン微多孔膜からなる比較例1の電気化学素子用セパレータは、フィラー粒子を含まないため面積維持率が低く耐熱寸法安定性に劣り、テンプレート剤を用いない比較例2及び3の電気化学素子用セパレータを用いたリチウム二次電池は放電容量維持率が低かった。
【0109】
実施例5
<電気化学素子用セパレータの作製>
フィラー粒子としてAl(エボニック社製「AEROXIDE AluC」、融点2020℃)1gと、テンプレート剤として蒸留したビフェニル(和光純薬工業株式会社製)0.5gを秤量しメノウ乳鉢に入れた。次いで、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(株式会社クレハ社製「PVDF#1100」)1gを加えた後、シクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製)2gを加えてスラリー(c)を作製した。
【0110】
このスラリー(c)をガラス基板上に、アプリケーターを用いて100μmのギャップで塗布して、40℃で2時間乾燥し、Alフィラー粒子、テンプレート剤、およびPVDF結着剤で構成される耐熱性層(h)を作製した。ガラス基板上から剥離した耐熱性層(h)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。用いたAlの平均粒子径をレーザー回折法(株式会社島津製作所製、レーザー回折式粒度測定器「SALD3000J」)により測定したところ、平均粒子径(D50)は0.1μmであった。
【0111】
<耐熱寸法安定性の評価>
実施例5の耐熱性層(h)をガラス基板から剥離し、エチレンカーボネート(キシダ株式会社製)、ジエチルカーボネート(キシダ株式会社製)及びジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)の混合溶液(1:1:1体積比)溶液に1時間浸漬し、テンプレート剤を混合溶液中に溶解させ除去した。その後、ジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)で繰り返し洗浄した後、80℃で3時間真空乾燥し、耐熱性多孔質層のみからなる電気化学素子用セパレータ(H)が得られた。電気化学素子用セパレータ(H)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。
【0112】
上記ジメチルカーボネート洗浄の前後における耐熱性層の熱重量変化を、熱重量分析測定計(セイコーインスツルメンツ株式会社製、「SII EXSTAR6000/TGDTA6300」〕により測定したところ、ジメチルカーボネート洗浄後の測定結果が、Alフィラー粒子とPVDF結着剤のみの耐熱性層(Al/PVDF=2/1(重量比))の熱重量変化の測定結果と同じであったことから、洗浄によってテンプレート剤が除去されていることを確認した。
【0113】
電気化学素子用セパレータ(H)を裁断して2cm×2cmの正方形の試験片を得た。次いで、その試験片を、縦7.5cm×横7.5cm×厚さ5mmの2枚のガラス板の間に挟んだ後に、それらを水平にしてステンレス製のバットに静置した。そして、120℃のオーブン中に1時間放置して面積を測定した。
【0114】
面積維持率=(放置後の面積/放置前の面積:4cm)×100(%)として評価し、耐熱寸法安定性の指標とした。その結果を表2に示す。なお、面積維持率が大きい程、耐熱寸法安定性に優れる。
【0115】
<リチウムイオン二次電池用正極の作製>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、「セルシード10N」)と、導電性カーボン(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、「PVDF#1120」)と、塗工溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMP)を用い、正極活物質:導電性カーボン:バインダー樹脂:NMP=94:3:3:28(重量比)の割合で混合してペースト状にし、アルミ集電箔(日本蓄電器工業株式会社製、「20CB」)に塗布し、80℃で3時間乾燥させた後、圧延し、直径14mmの円形に打ち抜いて、リチウムイオン二次電池用正極電極を得た。
【0116】
<リチウム二次電池の作製>
対極として厚さ1mm及び直径15mmの円状金属リチウムを用い、また作用極として前記で得られた正極を用い、実施例5の耐熱性層(h)を裁断して得た直径16mmの円形状の耐熱性層(h)とポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)を各1枚ずつ介して対極と作用極を対向させた。ポリエチレン微多孔膜は正極側、耐熱性層(h)は負極側に配した。更に1.0M LiPF/エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶液(1:1:1体積比)にビニレンカーボネートを1重量%添加した非水電解液を用いて通常の方法によってリチウム二次電池を作製した。
【0117】
<電池特性の評価>
対極(リチウム極)に対し、0.05Cに相当する電流で4.2Vまで充電した。放電はリチウム極に対して0.1Cに相当する電流で3.0Vまで行い、初期(初回)放電容量(x)を測定した。次いで、0.1Cに相当する電流で4.2Vまで充電した後、2.0Cに相当する電流で3.0Vまで放電を行い、放電容量(y)を測定し、下記式により放電容量維持率(%)を算出した。
【0118】
放電容量維持率(%)=放電容量(y)/放電容量(x)×100
<過充電防止特性>
1M LiPF/エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶液(1:1:1体積比)100重量部に対して、ビニレンカーボネート1重量部及びビフェニル2重量部を溶解し、電解液を調製した。また、作用極にグラッシーカーボンを使用し、参照極と対極には金属リチウムを使用した3電極式電解セルを作製した。この電解セルに前記電解液10mlを入れ、80℃に加熱した後に、過充電防止特性の指標として過充電防止剤の酸化分解開始電圧と酸化分解電流を測定した。酸化分解開始電圧と酸化分解電流の測定は、サイクリックボルタンメトリー法により行い、掃引速度10mV/secで、電圧掃引範囲3.0V〜5.0Vとした。酸化分解開始電圧は、0.5mA/cmの酸化分解電流が流れた電圧とし、酸化分解電流は4.7Vの酸化電流値とした。ビフェニルの分解電圧は4.48Vであり、4.7Vでの酸化電流値は18mA/cm−2であった。
【0119】
実施例6
実施例5において作製したスラリー(c)を、ガラス基板上に置いたポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)の上に塗布した後、30℃で真空乾燥し、耐熱性層(i)を作製した。耐熱性層(i)を配置したポリエチレン微多孔膜の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0120】
耐熱性層(i)を用いて実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例5の電気化学素子用セパレータ(H)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性層(i)を配置した電気化学素子用セパレータ(I)を用い、電極特性の評価は耐熱性層(h)とポリエチレン微多孔膜の代りに、耐熱性層(i)を配置したポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0121】
比較例4
従来のリチウムイオン二次電池のセパレータに広く使用されているポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)を2枚重ねて、電気化学素子用セパレータ(J)を作製した。電気化学素子用セパレータ(J)を用いて実施例5と同様の操作を行いリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例5の電気化学素子用セパレータ(H)の代りに上記ポリエチレン微多孔膜1枚を用い、電極特性の評価は耐熱性層(h)とポリエチレン微多孔膜の代りに上記ポリエチレン微多孔膜を2枚重ねた電気化学素子用セパレータ(J)を用いた。
【0122】
作用極にグラッシーカーボンを使用し、参照極と対極には金属リチウムを使用した3電極式電解セルを作製した。この電解セルに電解液として1M LiPF/エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶液(1:1:1体積比)100重量部にビニレンカーボネートを1重量部添加した溶液を10ml入れ、80℃に加熱した後に、過充電防止特性の指標として過充電防止剤の酸化分解開始電圧と酸化分解電流を測定した。酸化分解開始電圧と酸化分解電流の測定は、サイクリックボルタンメトリー法により行い、掃引速度10mV/secで、電圧掃引範囲3.0V〜5.0Vとして、過充電防止特性を評価したところ、3〜5Vの間において分解は観測されなかった。
【0123】
比較例5
ビフェニルを用いないこと以外は実施例5と同様に操作を行い、耐熱性層(k)を作製した。耐熱性層の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、24μmであった。
【0124】
耐熱性層(k)を用いて実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。
【0125】
比較例6
ビフェニルを用いないこと以外は実施例6と同様に操作を行い、耐熱性層(l)を作製した。耐熱性層(l)を配置したポリエチレン微多孔膜の厚みををマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0126】
耐熱性層(l)を用いて実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例5の電気化学素子用セパレータ(H)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性層(l)を配置した電気化学素子用セパレータ(L)を用い、電極特性の評価は耐熱性層(h)とポリエチレン微多孔膜の代りに、耐熱性層(l)を配置したポリエチレン微多孔膜を用いた。
【表2】

【0127】
なお、実施例5及び比較例5について、「面積維持率」は耐熱性層単独の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして耐熱性層と多孔質基体とを重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0128】
また、実施例6及び比較例6について、「面積維持率」は表面に耐熱性層を設けた多孔質基体の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして表面に耐熱性層を設けた多孔質基体を単独で使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0129】
また、比較例4について、「面積維持率」は多孔質基体1層の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして多孔質基体を2層重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0130】
表2に示されるように、実施例5及び6の電気化学素子用セパレータは、面積維持率が高く耐熱寸法安定性に優れているため短絡時における電池の発熱を抑制でき、又、該セパレータを用いたリチウム二次電池は放電維持容量が高くサイクル特性に優れ、また、過充電防止特性の結果から過充電状態での安全性を向上できることが分かる。これに対し、ポリエチレン微多孔膜からなる比較例4の電気化学素子用セパレータは、フィラー粒子を含まないため面積維持率が低く耐熱寸法安定性に劣り、テンプレート剤を用いない比較例5及び6の電気化学素子用セパレータを用いたリチウム二次電池は放電容量維持率が低かった。
【0131】
実施例7
<電気化学素子用セパレータの作製>
フィラー粒子としてAl(エボニック社製「AEROXIDE AluC」、融点2020℃)1gとテンプレート剤としてリン酸トリメチル(キシダ化学株式会社製)1gを秤量しメノウ乳鉢に入れた。次いで、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(株式会社クレハ社製、「PVDF#1100」)1gを加えた後、シクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製)2gを加えてスラリー(d)を作製した。このスラリー(d)をガラス基板上に、アプリケーターを用いて100μmのギャップで塗布して、40℃で2時間乾燥し、Alフィラー粒子、テンプレート剤、およびPVDF結着剤で構成される耐熱性層(m)を作製した。ガラス基板上から剥離した耐熱性層(m)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。用いたAlの平均粒子径をレーザー回折法(株式会社島津製作所製、レーザー回折式粒度測定器「SALD3000J」)により測定したところ、平均粒子径(D50)は0.1μmであった。
【0132】
<耐熱寸法安定性の評価>
実施例7の耐熱性層(m)をガラス基板から剥離し、エチレンカーボネート(キシダ株式会社製)、ジエチルカーボネート(キシダ株式会社製)及びジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)の混合溶液(1:1:1体積比)溶液に1時間浸漬し、テンプレート剤を混合溶液中に溶解させ除去した。その後、ジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)で繰り返し洗浄した後、80℃で3時間真空乾燥し、耐熱性多孔質層のみからなる電気化学素子用セパレータ(M)が得られた。電気化学素子用セパレータ(M)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。
【0133】
上記ジメチルカーボネート洗浄の前後における耐熱性層の熱重量変化を、熱重量分析測定計(セイコーインストラメンツ株式会社製、「SII EXSTAR6000/TGDTA6300」〕により測定したところ、ジメチルカーボネート洗浄後の測定結果が、Alフィラー粒子とPVDF結着剤のみの耐熱性層(Al/PVDF=2/1(重量比))の熱重量変化の測定結果と同じであったことから、洗浄によってテンプレート剤が除去されていることを確認した。
【0134】
電気化学素子用セパレータ(M)を裁断して2cm×2cmの正方形の試験片を得た。次いで、その試験片を、縦7.5cm×横7.5cm×厚さ5mmの2枚のガラス板の間に挟んだ後に、それらを水平にしてステンレス製のバットに静置した。そして、120℃のオーブン中に1時間放置して面積を測定した。
【0135】
面積維持率=(放置後の面積/放置前の面積:4cm)×100(%)として評価し、耐熱寸法安定性の指標とした。その結果を表3に示す。なお、面積維持率が大きい程、耐熱寸法安定性に優れる。
【0136】
<リチウム二次電池用正極の作製>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、「セルシード10N」)と、導電性カーボン(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、「PVDF#1120」)と、塗工溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMP)を用い、正極活物質:導電性カーボン:バインダー樹脂:NMP=94:3:3:28(重量比)の割合で混合してペースト状にし、アルミ集電箔(日本蓄電器工業株式会社製、「20CB」)に塗布し、80℃で3時間乾燥させた後、圧延し、直径14mmの円形に打ち抜いて、リチウムイオン二次電池用正極電極を得た。
【0137】
<リチウム二次電池の作製>
対極として厚さ1mm及び直径15mmの円状金属リチウムを用い、また作用極として前記で得られた正極を用い、実施例7の耐熱性層(m)を裁断して得た直径16mmの円形状の耐熱性層(m)とポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)を各1枚ずつ介して対極と作用極を対向させた。ポリエチレン微多孔膜は正極側、耐熱性層(m)は負極側に配した。更に1.0M LiPF/エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶液(1:1:1体積比)にビニレンカーボネートを1重量%添加した非水電解液を用いて通常の方法によってリチウム二次電池を作製した。
【0138】
<電池特性の評価>
対極(リチウム極)に対し、0.05Cに相当する電流で4.2Vまで充電した。放電はリチウム極に対して0.1Cに相当する電流で3.0Vまで行い、初期(初回)放電容量(x)を測定した。次いで、0.1Cに相当する電流で4.2Vまで充電した後、2.0Cに相当する電流で3.0Vまで放電を行い、放電容量(y)を測定し、下記式により放電容量維持率(%)を算出した。
【0139】
放電容量維持率(%)=放電容量(y)/放電容量(x)×100
<加熱試験>
上記で作製したリチウム二次電池を加熱槽に設置し、加熱槽を5℃/分の昇温速度で140℃まで上昇させ、その状態で10分間放置した。その後、電池の温度をモニタし、電池温度が到達した最高温度を測定した。
【0140】
実施例8
リン酸トリメチル1gの代わりにリン酸トリフェニル(キシダ化学株式会社製)1gを用いたこと以外は実施例7と同様にして耐熱性層(n)を作製した。耐熱性層の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。
【0141】
耐熱性層(n)を用いて実施例7と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。
【0142】
実施例9
実施例7において作製したスラリー(d)を、ガラス基板上に置いたポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)の上に塗布した後、30℃で真空乾燥し、耐熱性層(o)を作製した。耐熱性層(o)を配置したポリエチレン微多孔膜の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0143】
耐熱性層(o)を用いて実施例7と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例7の電気化学素子用セパレータ(M)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性層(o)を配置した電気化学素子用セパレータ(O)を用い、電極特性の評価は耐熱性層(m)とポリエチレン微多孔膜の代りに、耐熱性層(o)を配置したポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0144】
比較例7
従来のリチウムイオン二次電池のセパレータに広く使用されているポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)を2枚重ねて、電気化学素子用セパレータ(P)を作製した。電気化学素子用セパレータ(P)を用いて実施例7と同様の操作を行いリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例7の電気化学素子用セパレータ(M)の代りに上記ポリエチレン微多孔膜1枚を用い、電極特性の評価は耐熱性層(m)とポリエチレン微多孔膜の代りに上記ポリエチレン微多孔膜を2枚重ねた電気化学素子用セパレータ(P)を用いた。
【0145】
比較例8
リン酸トリメチルを用いないこと以外は実施例7と同様に操作を行い、耐熱性層(q)を作製した。耐熱性層の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、24μmであった。
【0146】
耐熱性層(q)を用いて実施例7と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。
【0147】
比較例9
リン酸トリメチルを用いないこと以外は実施例9と同様に操作を行い、耐熱性層(r)を作製した。耐熱性層(r)を配置したポリエチレン微多孔膜の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0148】
耐熱性層(r)を用いて実施例7と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例7の電気化学素子用セパレータ(M)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性層(r)を配置した電気化学素子用セパレータ(R)を用い、電極特性の評価は耐熱性層(m)とポリエチレン微多孔膜の代りに、耐熱性層(r)を配置したポリエチレン微多孔膜を用いた。
【表3】

【0149】
なお、実施例7、8及び比較例8について、「面積維持率」は耐熱性層単独の面積維持率であり、「放電容量維持率」および「最高温度」はセパレータとして耐熱性層と多孔質基体とを重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率と最高温度である。
【0150】
また、実施例9及び比較例9について、「面積維持率」は表面に耐熱性層を設けた多孔質基体の面積維持率であり、「放電容量維持率」および「最高温度」はセパレータとして表面に耐熱性層を設けた多孔質基体を単独で使用した評価用セルの放電容量維持率と最高温度である。
【0151】
また、比較例7について、「面積維持率」は多孔質基体1層の面積維持率であり、「放電容量維持率」および「最高温度」はセパレータとして多孔質基体を2層重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率と最高温度である。
【0152】
表3に示されるように、実施例7〜8の電気化学素子用セパレータは、面積維持率が高く耐熱寸法安定性に優れているため短絡時における電池の発熱を抑制でき、又、該セパレータを用いたリチウム二次電池は放電維持容量が高くサイクル特性に優れ、また、加熱試験での最高温度が低く温度上昇を抑制することができ、安全性と高性能を両立できることが分かる。これに対し、ポリエチレン微多孔膜からなる比較例7の電気化学素子用セパレータは、フィラー粒子を含まないため面積維持率が低く耐熱寸法安定性に劣り、温度上昇が抑制できず、テンプレート剤を用いない比較例8及び9の電気化学素子用セパレータを用いたリチウム二次電池は放電容量維持率が低下し、温度上昇を抑制できなかった。
【0153】
実施例10
<リチウムビス(オキサレート)ボレートの合成>
リチウムビス(オキサレート)ボレートを「B.T.Yu,W.H.Qiu,F.S.Li and G.X.Xu,Electrochemical and Solid State Letters,9(2006),A1」の記載に従い、合成した。
【0154】
<電気化学素子用セパレータの作製>
フィラー粒子としてAl(エボニック社製「AEROXIDE AluC」、融点2020℃)1gとテンプレート剤としてリチウムビス(オキサレート)ボレート1gを秤量しメノウ乳鉢に入れた。次いで、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(株式会社クレハ社製、「PVDF#1100」)1gを加えた後、N−メチルピロリドン(NMP)(和光純薬工業株式会社製)2gを加えてスラリー(e)を作製した。このスラリー(e)をガラス基板上に、アプリケーターを用いて100μmのギャップで塗布して、40℃で2時間乾燥し、Alフィラー粒子、テンプレート剤、およびPVDF結着剤で構成される耐熱性層(s)を作製した。ガラス基板上から剥離した耐熱性層(s)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。組成物層のみからなるセパレータを作製した。セパレータの厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。用いたAlの平均粒子径をレーザー回折法(株式会社島津製作所製、レーザー回折式粒度測定器「SALD3000J」)により測定したところ、平均粒子径(D50)は0.1μmであった。
【0155】
<耐熱寸法安定性の評価>
実施例10の耐熱性層(s)をガラス基板から剥離し、エチレンカーボネート(キシダ株式会社製)、ジエチルカーボネート(キシダ株式会社製)及びジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)の混合溶液(1:1:1体積比)溶液に1時間浸漬し、テンプレート剤を混合溶液中に溶解させ除去した。その後、ジメチルカーボネート(キシダ株式会社製)で繰り返し洗浄した後、80℃で3時間真空乾燥し、耐熱性多孔質層のみからなる電気化学素子用セパレータ(S)が得られた。電気化学素子用セパレータ(S)の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、25μmであった。
【0156】
上記ジメチルカーボネート洗浄の前後における耐熱性層の熱重量変化を、熱重量分析測定計(セイコーインストラメンツ株式会社製、「SII EXSTAR6000/TGDTA6300」〕により測定したところ、ジメチルカーボネート洗浄後の測定結果が、Alフィラー粒子とPVDF結着剤のみの耐熱性層(Al/PVDF=2/1(重量比))の熱重量変化の測定結果と同じであったことから、洗浄によってテンプレート剤が除去されていることを確認した。
【0157】
電気化学素子用セパレータ(S)を裁断して2cm×2cmの正方形の試験片を得た。次いで、その試験片を、縦7.5cm×横7.5cm×厚さ5mmの2枚のガラス板の間に挟んだ後に、それらを水平にしてステンレス製のバットに静置した。そして、120℃のオーブン中に1時間放置して面積を測定した。
【0158】
面積維持率=(放置後の面積/放置前の面積:4cm)×100(%)として評価し、耐熱寸法安定性の指標とした。その結果を表4に示す。なお、面積維持率が大きい程、耐熱寸法安定性に優れる。
【0159】
<リチウムイオン二次電池用正極の作製>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、「セルシード10N」)と、導電性カーボン(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、「PVDF#1120」)と、塗工溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMP)を用い、正極活物質:導電性カーボン:バインダー樹脂:NMP=94:3:3:28(重量比)の割合で混合してペースト状にし、アルミ集電箔(日本蓄電器工業株式会社製、「20CB」)に塗布し、80℃で3時間乾燥させた後、圧延し、直径14mmの円形に打ち抜いて、リチウムイオン二次電池用正極電極を得た。
【0160】
<リチウム二次電池の作製>
対極として厚さ1mm及び直径15mmの円状金属リチウムを用い、また作用極として前記で得られた正極を用い、実施例10の耐熱性層(s)を裁断して得た直径16mmの円形状の耐熱性層(s)とポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)を各1枚ずつ介して対極と作用極を対向させた。ポリエチレン微多孔膜は正極側、耐熱性層(s)は負極側に配した。更に1.0M LiPF/エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネートの混合溶液(1:1:1体積比)にビニレンカーボネートを1重量%添加した非水電解液を用いて通常の方法によってリチウム二次電池を作製した。
【0161】
<電池特性の評価>
対極(リチウム極)に対し、0.1Cに相当する電流で4.2Vまで充電した。放電は0.1Cに相当する電流で3.0Vまで行い、初期(初回)放電容量(x)を測定した。次いで、1.0Cに相当する電流で同様に充電―放電を繰り返すサイクルを29回行い、30回目の放電容量(y)を測定し、下記式により放電容量維持率(%)を算出した。
【0162】
放電容量維持率(%)=放電容量(y)/放電容量(x)×100
実施例11
実施例10において作製したスラリー(e)を、ガラス基板上に置いたポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)の上に塗布した後、30℃で真空乾燥し、耐熱性層(t)を作製した。耐熱性層(t)を配置したポリエチレン微多孔膜の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0163】
耐熱性層(t)を用いて実施例10と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例10の電気化学素子用セパレータ(S)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性層(t)を配置した電気化学素子用セパレータ(T)を用い、電極特性の評価は耐熱性層(s)とポリエチレン微多孔膜の代りに、耐熱性層(t)を配置したポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0164】
比較例10
従来のリチウムイオン二次電池のセパレータに広く使用されているポリエチレン微多孔膜(旭化成ケミカルズ株式会社製、「ハイポアN8416」、膜厚25μm)を2枚重ねて、電気化学素子用セパレータ(U)を作製した。電気化学素子用セパレータ(U)を用いて実施例10と同様の操作を行いリチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例10の電気化学素子用セパレータ(S)の代りに上記ポリエチレン微多孔膜1枚を用い、電極特性の評価は耐熱性層(s)とポリエチレン微多孔膜の代りに上記ポリエチレン微多孔膜を2枚重ねた電気化学素子用セパレータ(U)を用いた。
【0165】
比較例11
リチウムビス(オキサレート)ボレートを用いないこと以外は実施例10と同様に操作を行い、耐熱性層(v)を作製した。耐熱性層の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、24μmであった。
【0166】
耐熱性層(v)を用いて実施例10と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。
【0167】
(比較例12)
リチウムビス(オキサレート)ボレートを用いないこと以外は実施例11と同様に操作を行い、耐熱性層(w)を作製した。耐熱性層(w)を配置したポリエチレン微多孔膜の厚みをマイクロメーターにより測定したところ、27μmであった。
【0168】
耐熱性層(w)を用いて実施例10と同様の操作を行い、リチウム二次電池を作製し、同様に評価した。すなわち、耐熱寸法安定性の評価は実施例10の電気化学素子用セパレータ(S)の代りにポリエチレン微多孔膜の上に耐熱性層(w)を配置した電気化学素子用セパレータ(W)を用い、電極特性の評価は耐熱性層(s)とポリエチレン微多孔膜の代りに、耐熱性層(w)を配置したポリエチレン微多孔膜を用いた。
【表4】

【0169】
なお、実施例10及び比較例11について、「面積維持率」は耐熱性層単独の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして耐熱性層と多孔質基体とを重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0170】
また、実施例11及び比較例12について、「面積維持率」は表面に耐熱性層を設けた多孔質基体の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして表面に耐熱性層を設けた多孔質基体を単独で使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0171】
また、比較例10について、「面積維持率」は多孔質基体1層の面積維持率であり、「放電容量維持率」はセパレータとして多孔質基体を2層重ねて使用した評価用セルの放電容量維持率である。
【0172】
表4から分かるように、実施例10及び11の電気化学素子用セパレータは、面積維持率が高く耐熱寸法安定性に優れているため短絡時における電池の発熱を抑制でき、電解質塩としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いたにも関わらず放電維持容量が高くサイクル特性に優れることが分かる。これに対し、ポリエチレン微多孔膜からなる比較例10の電気化学素子用セパレータは、フィラー粒子を含まないため面積維持率が低く耐熱寸法安定性に劣り、テンプレート剤を用いない比較例11及び12の電気化学素子用セパレータを用いたリチウム二次電池は放電容量維持率が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の電気化学素子用セパレータの一例である、耐熱性多孔質層のみからなるセパレータを示す概略断面図である。
【図2】本発明の電気化学素子用セパレータの一例である、表面に耐熱性多孔質層(組成物層)を設けた多孔質基体からなるセパレータを示す概略断面図である。
【図3】本発明の電気化学素子用セパレータの一例である、内部に耐熱性多孔質層を含有させた多孔質基体からなるセパレータを示す概略図である。
【図4】本発明の電気化学素子用セパレータの一例である、耐熱性多孔質層と多孔質基体とを組み合わせてなるセパレータを示す概略図である。
【図5】実施例1で作製した電気化学素子用セパレータの表面を示す写真である。
【図6】比較例2で作製した電気化学素子用セパレータの表面を示す写真である。
【符号の説明】
【0174】
1 電気化学素子用セパレータ
2 耐熱性多孔質層
2’ 耐熱性多孔質層
3 フィラー粒子
4 空隙
5 結着剤
6 多孔質基体
7 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラー粒子及び結着剤を含有し空隙を有する耐熱性多孔質層からなるセパレータであって、前記空隙はテンプレート剤により作製されたものであることを特徴とする電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
多孔質基体と、前記多孔質基体の表面に設けられた耐熱性多孔質層を有する電気化学素子用セパレータであって、前記耐熱性多孔質層がフィラー粒子及び結着剤を含有し空隙を有する層であり、前記空隙がテンプレート剤により作製されたものであることを特徴とする電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
前記空隙は、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層からテンプレート剤を除去することにより作製されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項4】
前記空隙は、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層からテンプレート剤を電解液中に溶解させることにより作製されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項5】
前記テンプレート剤が電解液に可溶性である請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項6】
前記テンプレート剤が金属の酸化物、金属の炭酸塩、金属の硝酸塩、金属のクエン酸塩、金属のアンモニウム塩、金属の酢酸塩、イオン液体、高分子及びリチウム塩から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項7】
前記テンプレート剤が電池内の電解液に溶解した際に、過充電防止剤として機能することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項8】
前記テンプレート剤が、アルキル置換ベンゼン化合物、アリール置換ベンゼン化合物、ジアリールエーテル化合物及びハロゲン置換アニソール化合物から選ばれる少なくとも一種を含む請求項7記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項9】
前記テンプレート剤が電池内の電解液に溶解した際に、電解液の難燃化剤として機能することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項10】
前記テンプレート剤が、リン酸エステル化合物及びホスファゼン化合物から選ばれる少なくとも一種を含む請求項9記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項11】
前記テンプレート剤が電池内の電解液に溶解した際に、正極集電体の腐食防止剤として機能することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項12】
前記テンプレート剤が、O−B結合を有するリチウム塩である請求項11記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項13】
前記フィラー粒子が、Al、SiO、モンモリロナイト、雲母、ZnO、TiO、BaTiO、ZrO及びガラスから選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜12のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項14】
前記フィラー粒子が、少なくともAlを含む請求項1〜13のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項15】
前記フィラー粒子の二次粒子の平均粒子径が、5nm〜5μmである請求項1〜14のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項16】
前記結着剤が、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である請求項1〜15のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項17】
前記多孔質基体が、ポリオレフィンを含む請求項2〜16のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の電気化学素子用セパレータを有するリチウム電池又はリチウムイオン電池。
【請求項19】
フィラー粒子、テンプレート剤及び結着剤を含む組成物を加熱して、フィラー粒子、結着剤及びテンプレート剤を含有する耐熱性層を形成する工程、次いで耐熱性層からテンプレート剤を除去することにより耐熱性層に空隙を作製し、耐熱性多孔質層を形成する工程を含む電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項20】
前記テンプレート剤を電解液に溶解することにより除去することを特徴とする請求項19記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−50076(P2010−50076A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285448(P2008−285448)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】