説明

電気化学素子用セパレータ、電気化学素子およびその製造方法

【課題】 高温貯蔵特性および充放電サイクル特性に優れ、かつ異常昇温時の安全性にも優れた電気化学素子およびその製造方法、並びに該電気化学素子を構成し得るセパレータを提供する。
【解決手段】 正極、負極、非水電解液およびセパレータを有する電気化学素子に用いられるセパレータであって、融点が100〜170℃である樹脂(A)を主成分とする樹脂多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラー(B)を主成分として含む耐熱多孔質層(II)とを有しており、かつセパレータの少なくとも片面に、樹脂(A)の融点よりも低い温度に加熱することで接着性が発現する接着性樹脂(C)が存在している電気化学素子用セパレータと、前記セパレータを有し、前記セパレータと電極とが一体化している電気化学素子である。本発明の電気化学素子は、前記セパレータと電極とを有する電極群を加熱プレスする工程を有する本発明の製造方法により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温貯蔵特性および充放電サイクル特性に優れ、かつ異常昇温時の安全性にも優れた電気化学素子、およびその製造方法、並びに前記電気化学素子を構成し得る電気化学素子用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、PDA、ノートパソコンなどのモバイル機器(携帯機器)の重要性が高まるとともに、それに搭載される電池の重要性も益々増している。特に環境への配慮から、繰り返し充電できる二次電池の重要性が増大している。このような二次電池は、現在では、前記のモバイル機器のような小型機器の電源用途だけでなく、自動車や、電動自転車、家庭用電力貯蔵システム、業務用電力貯蔵システムなどの大型機器への適用も検討されている。
【0003】
二次電池を前記のような用途に適用するにあたっては、各種の電池特性の向上が求められるが、例えば、エネルギー密度の向上を図ると、一般に、高温環境下での使用や長期間での使用によって劣化が激しくなり、電池の耐久性の問題が生じる。また、エネルギー密度の上昇によって、電池の発煙・発火といった異常の発生を抑制する安全性の確保が難しくなる。
【0004】
こうした二次電池の劣化要因としては、高温環境下での貯蔵や充放電を繰り返す過程で、非水電解液が分解して電池内でガスが発生したり電池内の電極自体が膨張収縮したりし、これらによって正極−負極間の距離にばらつきが生じて充放電反応の均一性が失われることが挙げられる。
【0005】
一方、このような問題を解決するための一手段として、セパレータと電極との間に接着層を配し、セパレータと電極とを、接着層を介して一体化する方法が開発されており、接着層の構成樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを使用することが提案されている(特許文献1〜5)。
【0006】
また、重合性官能基を有するポリマーをセパレータに担持させ、電池内の非水電解液によって重合を開始させて架橋構造を形成させ、これにより電極とセパレータとを接着させて一体化する技術も提案されている(特許文献6〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−255849号公報
【特許文献2】特開2003−77545号公報
【特許文献3】特開平10−172606号公報
【特許文献4】特開平10−177865号公報
【特許文献5】特開平10−189054号公報
【特許文献6】特開2005−100951号公報
【特許文献7】特開2007−157569号公報
【特許文献8】特開2007−157570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、セパレータとしてPVDFの多孔質膜を用いているため、例えば電池内がPVDFの融点以上の温度になった場合に、セパレータが膜形状を保つことが困難となり、短絡が容易に発生する虞がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、例えばポリエチレン(PE)製の微多孔膜表面にPVDFなどの多孔質層を形成しており、これにより、PVDFなどの溶融による短絡は防止できる。しかしながら、PE製の微多孔膜は熱に弱く、更には、加熱時に収縮するために、電池内の温度が上昇した場合に正負極間の短絡を十分に防止できるとはいい難い。
【0010】
更に、特許文献3〜5に記載の技術では、例えばポリプロピレン(PP)製の微多孔膜表面に接着性樹脂層を形成しており、PPはPEよりも耐熱性に優れているものの、PP製の微多孔膜が加熱時に収縮する点ではPE製の微多孔膜と同様であり、これらについても、電池内の温度が上昇した場合に正負極間の短絡を十分に防止できるとはいい難い。
【0011】
また、特許文献6〜8には、PE製微多孔膜表面に反応性接着樹脂層を形成し、電極と一体化することでPE製微多孔膜の熱収縮を抑制する効果を奏し得ることが記載されているが、電池内が高温となった場合の耐短絡性については特に考慮されておらず、PE製微多孔膜を使用していることから、こうした場合の短絡を十分に抑制できているとはいい難い。
【0012】
このようなことから、二次電池を始めとする電気化学素子においては、高温環境下での貯蔵や充放電を繰り返すことに起因する正極−負極間距離のばらつきの発生による特性低下を抑制しつつ、異常昇温時の安全性を高め得る技術の開発が求められる。
【0013】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温貯蔵特性および充放電サイクル特性に優れ、かつ異常昇温時の安全性にも優れた電気化学素子およびその製造方法、並びに該電気化学素子を構成し得るセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成し得た本発明の電気化学素子用セパレータは、正極、負極、非水電解液およびセパレータを有する電気化学素子に用いられるセパレータであって、融点が100〜170℃である樹脂(A)を主成分とする樹脂多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラー(B)を主成分として含む耐熱多孔質層(II)とを有しており、かつセパレータの少なくとも片面に、前記樹脂(A)の融点よりも低い温度に加熱することで接着性が発現する接着性樹脂(C)が存在していることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の電気化学素子は、正極、負極、非水電解液およびセパレータを有する電気化学素子であって、前記セパレータが本発明の電気化学素子用セパレータであり、かつ前記セパレータが正極および負極の少なくとも一方と一体化していることを特徴とするものである。
【0016】
更に、本発明の電気化学素子の製造方法は、正極、負極、非水電解液およびセパレータを有する電気化学素子の製造方法であって、本発明の電気化学素子用セパレータを使用し、該セパレータを正極と負極との間に配置して積層するか、または前記セパレータを正極と負極との間に配置して積層したものを巻回して電極群を形成する工程と、前記電極群に加熱プレスを施して、正極および負極のうちの少なくとも一方とセパレータとを一体化する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温貯蔵特性および充放電サイクル特性に優れ、かつ異常昇温時の安全性にも優れた電気化学素子およびその製造方法、並びに該電気化学素子を構成し得るセパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の電気化学素子(リチウム二次電池)の一例を示す外観斜視図である。
【図2】図1のI−I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」という。)は、その少なくとも片面に、加熱することで接着性が発現する接着性樹脂(C)が存在している。本発明のセパレータは、この接着性樹脂(C)の作用によって電気化学素子を構成する正極および/または負極と接着して一体化することができる。よって、本発明のセパレータを使用し、これを正極および/または負極と一体化させた電極群を用いた電気化学素子では、高温貯蔵途中や充放電を繰り返した状況下においても、正極−負極間の距離にばらつきが生じにくく、充放電特性の低下が抑制される。
【0020】
接着性樹脂(C)の接着性が発現する最低温度は、セパレータにおける樹脂多孔質層(I)の主成分である樹脂(A)(詳しくは後述する)の融点よりも低い温度である必要があるが、具体的には、60℃以上120℃以下であることが好ましい。このような接着性樹脂(C)を使用することで、セパレータと正極および/または負極とを加熱プレスして一体化する際に、樹脂多孔質層(I)の劣化を良好に抑制することができる。
【0021】
室温(例えば25℃)では接着性(粘着性)が殆どなく、加熱圧着することで接着性が発現する性能をディレードタック性と呼ぶが、本発明のセパレータは、接着性樹脂(C)の存在によって、こうしたディレードタック性を有していることが好ましい。より具体的には、例えば、電気化学素子を構成する電極(例えば負極)とセパレータとの間の180°での剥離試験を実施した際に得られる剥離強度が、加熱プレス前の状態では、好ましくは0.05N/20mm以下、特に好ましくは0N/20mm(全く接着力のない状態)であり、60〜120℃の温度で加熱プレスした後の状態では0.2N/20mm以上となるディレードタック性を有していることが好ましい。
【0022】
ただし、前記剥離強度が強すぎると、電極の合剤層(正極合剤層および負極合剤層)が電極の集電体から剥離して、導電性が低下する虞がある事から、前記180°での剥離試験による剥離強度は、60〜120℃の温度で加熱プレスした後の状態で10N/20mm以下であることが好ましい。
【0023】
なお、本明細書でいう電極とセパレータとの間の180°での剥離強度は、以下の方法により測定される値である。セパレータおよび電極を、それぞれ長さ5cm×幅2cmのサイズに切り出し、切り出したセパレータと電極と重ねる。加熱プレスした後の状態の剥離強度を求める場合には、片端から2cm×2cmの領域を加熱プレスして試験片を作製する。この試験片のセパレータと電極とを加熱プレスしていない側の端部を開き、セパレータと負極とを、これらの角度が180°になるように折り曲げる。その後、引張試験機を用い、試験片の180°に開いたセパレータの片端側と電極の片端側とを把持して、引張速度10mm/minで引っ張り、セパレータと電極とを加熱プレスした領域で両者が剥離したときの強度を測定する。また、セパレータと電極との加熱プレス前の状態での剥離強度は、前記のように切り出した各セパレータと電極とを重ね、加熱をせずにプレスする以外は前記と同様に試験片を作製し、前記と同じ方法で剥離試験を行う。
【0024】
よって、本発明のセパレータで使用する接着性樹脂(C)は、室温(例えば25℃)では接着性(粘着性)が殆どなく、かつ接着性の発現する最低温度が樹脂(A)の融点未満、好ましくは60℃以上120℃以下といったディレードタック性を有するものが望ましい。なお、セパレータと電極とを一体化する際の加熱プレスの温度は、セパレータを構成する樹脂多孔質層(I)の熱収縮があまり顕著に生じない80℃以上100℃以下であることがより好ましく、接着性樹脂(C)の接着性が発現する最低温度も、80℃以上100℃以下であることがより好ましい。
【0025】
ディレードタック性を有する接着性樹脂(C)としては、室温では流動性が殆どなく、加熱時に流動性を発揮し、プレスによって密着する特性を有する樹脂が好ましい。また、室温で固体であり、加熱することによって溶融し、化学反応によって接着性が発揮されるタイプの樹脂を接着性樹脂(C)として用いることもできる。
【0026】
接着性樹脂(C)は、融点、ガラス転移点などを指標とする軟化点が60℃以上120℃以下の範囲内にあるものが好ましい。接着性樹脂(C)の融点およびガラス転移点は、例えば、JIS K 7121に規定の方法によって、また、接着性樹脂(C)の軟化点は、例えば、JIS K 7206に規定の方法によって、それぞれ測定することができる。
【0027】
このような接着性樹脂(C)の具体例としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ−α−オレフィン[ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1など]、ポリアクリル酸エステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂などが挙げられる。
【0028】
また、前記の各樹脂や、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、エチレン−プロピレンゴムなどの室温で粘着性を示す樹脂をコアとし、融点や軟化点が60℃以上120℃以下の範囲内にある樹脂をシェルとしたコアシェル構造の樹脂を接着性樹脂(C)として用いることもできる。この場合、シェルには、各種アクリル樹脂やポリウレタンなどを用いることができる。更に、接着性樹脂(C)には、一液型のポリウレタンやエポキシ樹脂などで、60℃以上120℃以下の範囲内に接着性を示すものも用いることができる。
【0029】
接着性樹脂(C)には、前記例示の樹脂を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記のようなディレードタック性を有する接着性樹脂(C)の市販品としては、松村石油研究所製の「モレスコメルト エクセルピール(PE、商品名)」、中央理化工業社製の「アクアテックス(EVA、商品名)」、日本ユニカー社製のEVA、東洋インキ社製の「ヒートマジック(EVA、商品名)」、三井デュポンポリケミカル社製の「エバフレックス−EEAシリーズ(エチレン−アクリル酸共重合体、商品名)」、東亜合成社製の「アロンタックTT−1214(アクリル酸エステル、商品名)」、三井デュポンポリケミカル社製「ハイミラン(エチレン系アイオノマー樹脂、商品名)」などが挙げられる。
【0031】
接着性樹脂(C)は、セパレータを正極および負極のいずれか一方のみと一体化させる場合には、セパレータ表面のうち、一体化が予定される電極と接する側の表面にのみ存在させればよいが、セパレータを正極および負極の両者と一体化する場合には、セパレータの両面に存在させる。
【0032】
なお、セパレータ表面に接着性樹脂(C)で構成される実質的に空孔を含有しない層を形成した場合には、セパレータと一体化した電極の表面に、電池の有する非水電解液が接触し難くなる虞があることから、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面においては、接着性樹脂(C)の存在する箇所と、存在しない箇所とが形成されていることが好ましい。具体的には、例えば、接着性樹脂(C)の存在箇所と、存在しない箇所とが、溝状に交互に形成されていてもよく、また、平面視で円形などの接着性樹脂(C)の存在箇所が、不連続に複数形成されていてもよい。これらの場合、接着性樹脂(C)の存在箇所は、規則的に配置されていてもランダムに配置されていてもよい。
【0033】
なお、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面においては、接着性樹脂(C)の存在する箇所と、存在しない箇所とを形成する場合、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面における接着性樹脂(C)の存在する箇所の面積(総面積)は、例えば、セパレータと電極とを加熱圧着した後のこれらの180°での剥離強度が、前記の値となるようにすればよく、使用する接着性樹脂(C)の種類に応じて変動し得るが、具体的には、平面視で、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面の面積のうち、10〜60%に、接着性樹脂(C)が存在していることが好ましい。
【0034】
また、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面において、接着性樹脂(C)の目付けは、電極との接着を良好にして、例えば、セパレータと電極とを加圧接着した後のこれらの180°での剥離強度を前記の値に調整するには、0.05g/m以上とすることが好ましく、0.1g/m以上とすることがより好ましい。ただし、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面において、接着性樹脂(C)の目付けが大きすぎると、セパレータ全体の厚みが大きくなりすぎたり、接着性樹脂(C)がセパレータの空孔を塞ぐ可能性が高くなり、電気化学素子内部でのイオンの移動が阻害される虞がある。よって、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面において、接着性樹脂(C)の目付けは、1g/m以下であることが好ましく、0.5g/m以下であることがより好ましい。
【0035】
また、本発明のセパレータは、融点が100〜170℃の樹脂(A)を主成分とする樹脂多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラー(B)を主成分として含む耐熱多孔質層(II)とを有している。樹脂多孔質層(I)は、本発明のセパレータを用いた電気化学素子において、正極と負極の短絡を防止しつつ、イオンを透過するセパレータ本来の機能を有する層であり、耐熱多孔質層(II)は、セパレータに耐熱性を付与する役割を担う層である。
【0036】
樹脂多孔質層(I)は、融点が100℃以上170℃以下、すなわち、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が、100℃以上170℃以下の樹脂(A)を主成分としている。このような樹脂(A)を主成分とする樹脂多孔質層(I)を有するセパレータとすることで、これを用いた電気化学素子内が高温となった場合に、前記熱可塑性樹脂が溶融してセパレータの孔を塞ぐ、所謂シャットダウン機能を確保することができる。
【0037】
樹脂多孔質層(I)の主成分となる樹脂(A)は、融点が100℃以上170℃以下で、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後で詳述する電気化学素子の有する非水電解液や、耐熱多孔質層(II)形成用の組成物に使用する媒体に安定な熱可塑性樹脂であれば特に制限は無いが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィンなどが好ましい。
【0038】
樹脂多孔質層(I)には、例えば、従来から知られているリチウム二次電池などの電気化学素子で使用されているポリオレフィン製の微多孔膜、すなわち、無機フィラーなどを混合したポリオレフィンを用いて形成したフィルムやシートに、一軸または二軸延伸を施して微細な空孔を形成したものなどを用いることができる。また、前記の樹脂(A)と、他の樹脂を混合してフィルムやシートとし、その後、前記他の樹脂のみを溶解する溶媒中に、これらフィルムやシートを浸漬して、前記他の樹脂のみを溶解させて空孔を形成したものを、樹脂多孔質層(I)として用いることもできる。
【0039】
なお、樹脂多孔質層(I)には、強度向上などを目的としてフィラーを含有させることもできる。このようなフィラーとしては、例えば、耐熱多孔質層(II)に使用されるフィラー(B)の具体例として後述する各種フィラーが挙げられる。
【0040】
なお、樹脂多孔質層(I)における「樹脂(A)を主成分とする」とは、樹脂(A)を、樹脂多孔質層(I)の構成成分の全体積中、70体積%以上含むことを意味している。樹脂多孔質層(I)における樹脂(A)の量は、樹脂多孔質層(I)の構成成分の全体積中、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。
【0041】
耐熱多孔質層(II)は、耐熱温度が150℃以上のフィラー(B)を主成分として含んでいる。フィラー(B)としては、耐熱温度が150℃以上であり、電気化学素子内で電気化学的に安定で、電気化学素子内の非水電解液に対して安定であれば特に制限はない。なお、本明細書でいうフィラー(B)における「耐熱温度が150℃以上」とは、少なくとも150℃において変形などの形状変化が目視で確認されないことを意味している。フィラー(B)の耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、500℃以上であることが更に好ましい。
【0042】
フィラー(B)は、電気絶縁性を有する無機微粒子であることが好ましく、具体的には、酸化鉄、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、TiO、BaTiOなどの無機酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;モンモリロナイトなどの粘土微粒子;などが挙げられる。ここで、前記無機酸化物微粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などの微粒子であってもよい。また、これらの無機微粒子を構成する無機化合物は、必要に応じて、元素置換されていたり、固溶体化されていたりしてもよく、更に前記の無機微粒子は表面処理が施されていてもよい。また、無機微粒子は、金属、SnO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、前記の無機酸化物など)で被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。
【0043】
フィラー(B)には、有機微粒子を用いることもできる。有機微粒子の具体例としては、ポリイミド、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、架橋ポリメチルメタクリレート(架橋PMMA)、架橋ポリスチレン(架橋PS)、ポリジビニルベンゼン(PDVB)、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの架橋高分子の微粒子;熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子の微粒子;が挙げられる。これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
【0044】
フィラー(B)は、前記例示のものを1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよいが、前記例示の各種フィラーの中でも無機酸化物微粒子が好ましく、より具体的には、アルミナ、シリカ、ベーマイトより選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0045】
フィラー(B)の粒径は、平均粒径で、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは1μm以下である。なお、フィラー(B)の平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA−920」)を用い、フィラー(B)を溶解しない媒体に分散させて測定した数平均粒子径として規定することができる。
【0046】
フィラー(B)の形状としては、例えば、球状に近い形状であってもよく、板状であってもよいが、短絡防止の点からは、板状の粒子であることが好ましい。板状粒子の代表的なものとしては、板状のAlや板状のベーマイトなどが挙げられる。
【0047】
フィラー(B)が板状粒子である場合の形態としては、アスペクト比が、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、また、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。更に、粒子の平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比(長軸方向長さ/短軸方向長さ)の平均値は、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1に近い値であることが特に好ましい。
【0048】
なお、板状のフィラー(B)における前記の平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比の平均値は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。更に板状粒子における前記のアスペクト比も、SEMにより撮影した画像を、画像解析することにより求めることができる。
【0049】
セパレータ中での板状のフィラー(B)の存在形態は、平板面がセパレータの面に対して略平行であることが好ましく、より具体的には、セパレータの表面近傍における板状のフィラー(B)について、その平板面とセパレータ面との平均角度が30°以下であることが好ましい[最も好ましくは、当該平均角度が0°、すなわち、セパレータの表面近傍における板状の平板面が、セパレータの面に対して平行である]。ここでいう「表面近傍」とは、セパレータの表面から全体厚みに対しておよそ10%の範囲を指す。板状のフィラー(B)の存在形態が前記のような場合には、樹脂多孔質層(I)の熱収縮をより効果的に防ぐことができ、全体として熱収縮率の特に小さなセパレータを形成することができる。
【0050】
また、本発明のセパレータを用いた電気化学素子において、高出力の特性を必要とする場合には、フィラー(B)には、一次粒子が凝集した二次粒子構造のフィラーを用いることが好ましい。房状のフィラーを用いることで、耐熱多孔質層(II)の空隙を大きくすることが可能となり、高い出力特性の電気化学素子を形成することができる。
【0051】
耐熱多孔質層(II)はフィラー(B)を主成分として含むが、ここでいう「フィラー(B)を主成分として含む」とは、フィラー(B)を、耐熱多孔質層(II)の構成成分の全体積中、70体積%以上含むことを意味している。耐熱多孔質層(II)におけるフィラー(B)の量は、耐熱多孔質層(II)の構成成分の全体積中、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。耐熱多孔質層(II)中のフィラー(B)を前記のように高含有量とすることで、セパレータ全体の熱収縮を良好に抑制して、高い耐熱性を付与することができる。
【0052】
また、耐熱多孔質層(II)には、フィラー(B)同士を結着したり耐熱多孔質層(II)と樹脂多孔質層(I)とを結着したりするために有機バインダを含有させることが好ましく、このような観点から、耐熱多孔質層(II)におけるフィラー(B)量の好適上限値は、例えば、耐熱多孔質層(II)の構成成分の全体積中、99体積%である。なお、耐熱多孔質層(II)におけるフィラー(B)の量を70体積%未満とすると、例えば、耐熱多孔質層中(II)の有機バインダ量を多くする必要が生じるが、その場合には耐熱多孔質層(II)の空孔が有機バインダによって埋められてしまい、例えばセパレータとしての機能を喪失する虞がある。
【0053】
耐熱多孔質層(II)に用いる有機バインダとしては、フィラー(B)同士や耐熱多孔質層(II)と樹脂多孔質層(I)とを良好に接着でき、電気化学的に安定で、かつ電気化学素子用の非水電解液に対して安定であれば特に制限はない。具体的には、フッ素樹脂[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など]、フッ素系ゴム、SBR、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルアセトアミド、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの有機バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0054】
前記例示の有機バインダの中でも、150℃以上の耐熱性を有する耐熱樹脂が好ましく、特に、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高い材料がより好ましい。これらの具体例としては、ダイキン工業社製の「ダイエルラテックスシリーズ(フッ素ゴム、商品名)」、JSR社製の「TRD−2001(SBR、商品名)」、日本ゼオン社製の「EM−400B(SBR、商品名)」などが挙げられる。また、アクリル酸ブチルを主成分とし、これを架橋した構造を有する低ガラス転移温度の架橋アクリル樹脂(自己架橋型アクリル樹脂)も好ましい。
【0055】
なお、これら有機バインダを使用する場合には、後記する耐熱多孔質層(II)形成用の組成物(スラリーなど)の媒体に溶解させるか、または分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
【0056】
耐熱多孔質層(II)の空孔率は、電気化学素子の有する非水電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。一方、強度の確保と内部短絡の防止の観点から、耐熱多孔質層(II)の空孔率は、乾燥した状態で、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。なお、空孔率:P(%)は、耐熱多孔質層(II)の厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記(1)式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P =100−(Σa/ρ)×(m/t) (1)
ここで、前記式中、a:質量%で表した成分iの比率、ρ:成分iの密度(g/cm)、m:耐熱多孔質層(II)の単位面積あたりの質量(g/cm)、t:耐熱多孔質層(II)の厚み(cm)である。
【0057】
本発明のセパレータは、樹脂多孔質層(I)と耐熱多孔質層(II)とを、それぞれ1層ずつ有していてもよく、複数有していてもよい。具体的には、樹脂多孔質層(I)の片面にのみ耐熱多孔質層(II)を配置してセパレータとする他、例えば、樹脂多孔質層(I)の両面に多孔質層(II)を配置してセパレータとしてもよい。ただし、セパレータの有する層数が多くなりすぎると、セパレータの厚みを増やして電気化学素子の内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招く虞があるので好ましくなく、セパレータ中の層数は5層以下であることが好ましい。
【0058】
本発明のセパレータは、例えば、樹脂多孔質層(I)に、フィラー(B)などを含有する耐熱多孔質層(II)形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)を塗布した後、所定の温度で乾燥し、その後接着性樹脂(C)を含む溶液、エマルジョンなどを塗布してから所定の温度で乾燥して、樹脂多孔質層(I)と耐熱多孔質層(II)とを有するセパレータの表面に接着性樹脂(C)を存在させる方法により製造することができる。
【0059】
耐熱多孔質層(II)形成用組成物は、フィラー(B)の他、有機バインダなどを含有し、これらを溶媒(分散媒を含む。以下同じ。)に分散させたものである。なお、有機バインダについては溶媒に溶解させることもできる。耐熱多孔質層(II)形成用組成物に用いられる溶媒は、フィラー(B)などを均一に分散でき、また、有機バインダを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般に有機溶媒が好適に用いられる。なお、これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、有機バインダが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、水を溶媒としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
【0060】
耐熱多孔質層(II)形成用組成物は、フィラー(B)および有機バインダを含む固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
【0061】
なお、フィラー(B)として板状粒子を用い、かかる板状粒子の配向性を高めてその機能をより有効に作用させるためには、板状粒子を含有する耐熱多孔質層(II)形成用組成物を樹脂多孔質層(I)に塗布した後、前記組成物にシェアや磁場をかけるといった方法を用いればよい。例えば、板状のフィラー(B)を含有する耐熱多孔質層(II)形成用組成物を樹脂多孔質層(I)に塗布した後、一定のギャップを通すことで、前記組成物にシェアをかけることができる。
【0062】
前記のようにして形成した樹脂多孔質層(I)と耐熱多孔質層(II)との積層物に、接着性樹脂(C)を含有する溶液、エマルジョンなどを塗布して、接着性樹脂(C)を存在させることで本発明のセパレータを製造することができる。なお、この場合、前記の通り、耐熱多孔質層(II)は樹脂多孔質層(I)の片面または両面に形成することができ、また、接着性樹脂(C)は、樹脂多孔質層(I)と耐熱多孔質層(II)との積層物の片面または両面に存在させることができる。
【0063】
また、フィラー(B)などの構成物の持つ作用をより有効に発揮させるために、前記構成物を偏在させて、セパレータの膜面と平行または略平行に、前記構成物が層状に集まった形態としてもよい。
【0064】
なお、本発明のセパレータの製造方法は、前記の方法に限定される訳ではなく、他の方法によって製造してもよい。例えば、前記の耐熱多孔質層(II)形成用組成物を、ライナーのような基材表面に塗布し、乾燥して耐熱多孔質層(II)を形成した後、基材から剥離し、この耐熱多孔質層(II)を樹脂多孔質層(I)となる微多孔膜などと重ねて熱プレスなどにより一体化して積層物とし、その後、この積層物の片面または両面に前記と同様にして接着性樹脂(C)を存在させる方法でセパレータを製造することもできる。
【0065】
このようにして製造されるセパレータの厚みは、電気化学素子用セパレータに使用するため、正極と負極とをより確実に隔離する観点から、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。他方、セパレータが厚すぎると、電気化学素子としたときのエネルギー密度が低下してしまうことがあるため、その厚みは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0066】
また、セパレータを構成する樹脂多孔質層(I)の厚みをX(μm)、耐熱多孔質層(II)の厚みをY(μm)としたとき、XとYとの比率X/Yは、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、また、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。本発明のセパレータでは、樹脂多孔質層(I)の厚み比率を大きくし耐熱多孔質層(II)を薄くしても、セパレータ全体の熱収縮を抑制することが可能であり、電気化学素子内でのセパレータの熱収縮による短絡の発生を高度に抑制することができる。なお、セパレータにおいて、樹脂多孔質層(I)が複数存在する場合には、厚みXはその総厚みであり、耐熱多孔質層(II)が複数存在する場合には、厚みYはその総厚みである。
【0067】
具体的な値で表現すると、樹脂多孔質層(I)の厚み[樹脂多孔質層(I)が複数存在する場合には、その総厚み。]は、5μm以上であることが好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。そして、耐熱多孔質層(II)の厚み[耐熱多孔質層(II)が複数存在する場合には、その総厚み。]は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましく、また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。樹脂多孔質層(I)が薄すぎると、シャットダウン特性が弱くなる虞があり、厚すぎると、電気化学素子のエネルギー密度の低下を引き起こす虞があることに加えて、熱収縮しようとする力が大きくなり、セパレータ全体の熱収縮を抑える効果が小さくなる虞がある。また、耐熱多孔質層(II)が薄すぎると、セパレータ全体の熱収縮を抑制する効果が小さくなる虞があり、厚すぎると、セパレータ全体の厚みの増大を引き起こしてしまう。
【0068】
セパレータ全体の空孔率としては、非水電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にする観点から、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましい。なお、セパレータの空孔率:P(%)は、前記(1)式において、mをセパレータの単位面積あたりの質量(g/cm)とし、tをセパレータの厚み(cm)とすることで、前記(1)式を用いて求めることができる。
【0069】
また、前記(1)式において、mを樹脂多孔質層(I)の単位面積あたりの質量(g/cm)とし、tを樹脂多孔質層(I)の厚み(cm)とすることで、前記(1)式を用いて樹脂多孔質層(I)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる樹脂多孔質層(I)の空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
【0070】
また、本発明のセパレータは、JIS P 8117に準拠した方法で行われ、0.879g/mmの圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数で示されるガーレー値が、30〜300secであることが望ましい。透気度が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、他方、小さすぎると、セパレータの強度が小さくなることがある。さらに、セパレータの強度としては、直径1mmのニードルを用いた突き刺し強度で50g以上であることが望ましい。かかる突き刺し強度が小さすぎると、リチウムのデンドライト結晶が発生した場合に、セパレータの突き破れによる短絡が発生する場合がある。前記の構成を採用することにより、前記の透気度や突き刺し強度を有するセパレータとすることができる。
【0071】
本発明のセパレータを適用できる電気化学素子は、非水電解液を用いるものであれば特に限定されるものではなく、リチウム二次電池の他、リチウム一次電池やスーパーキャパシタなど、例えば高温での安全性が要求される用途であれば好ましく適用できる。すなわち、本発明の電気化学素子は、前記本発明のセパレータを備えていれば、その他の構成・構造については特に制限はなく、従来から知られている非水電解液を有する各種電気化学素子(リチウム二次電池、リチウム一次電池、スーパーキャパシタなど)が備えている各種構成・構造を採用することができる。
【0072】
以下、一例として、リチウム二次電池への適用について詳述する。リチウム二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0073】
リチウム二次電池に係る正極には、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている正極を使用することができる。例えば、正極活物質としては、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている活物質、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質であれば特に制限はない。例えば、Li1+xMO(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mn、Al、Mgなど)で表される層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnやその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Feなど)で表されるオリビン型化合物などを用いることが可能である。
【0074】
前記層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoOやLiNi1−xCox−yAl(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)などの他、少なくともCo、NiおよびMnを含む酸化物(LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiMn5/12Ni5/12Co1/6、LiMn3/5Ni1/5Co1/5など)などを例示することができる。
【0075】
また、正極の導電助剤としては、例えば、カーボンブラックなどの炭素材料が挙げられ、正極のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂が挙げられる。そして、正極には、前記の正極活物質、導電助剤およびバインダを含む正極合剤により構成される正極合剤層が、集電体の片面または両面に形成されたものを使用することができる。
【0076】
正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0077】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0078】
負極としては、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている負極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、リチウム合金、リチウムと合金可能な金属、リチウム金属から選ばれる少なくとも1種を活物質として用いた負極であれば特に制限はない。活物質としては、より具体的には、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素およびその合金、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金、LiTi12、LiTiといったLi含有酸化物も負極活物質として用いることができる。これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどのバインダなどを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体(負極合剤層)に仕上げたもの、または、前記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、もしくは集電体表面に積層したものなどを、負極として使用することができる。
【0079】
負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、下限は5μmであることが望ましい。また、負極側のリード部は、正極側のリード部と同様にして形成すればよい。
【0080】
なお、前記のような正極合剤層を有する正極や、負極合剤層を有する負極は、例えば、正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶媒に分散させてなる正極合剤層形成用組成物(スラリーなど)や、負極合剤をNMPなどの溶媒に分散させてなる負極合剤層形成用組成物(スラリーなど)を集電体表面に塗布し、乾燥することにより作製される。
【0081】
電極は、前記の正極と前記の負極とを、本発明のセパレータを介して積層した積層体電極群や、更にこれを巻回した巻回体電極群の形態で用いることができる。
【0082】
非水電解液としては、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLiイオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれば特に制限はない。例えば、LiClO、LiPF、LiBF 、LiAsF 、LiSbF などの無機リチウム塩、LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(ROSO〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩などを用いることができる。
【0083】
非水電解液に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類、エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。なお、より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。また、これらの非水電解液に安全性や充放電サイクル特性、高温貯蔵性といった特性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤を適宜加えることもできる。
【0084】
このリチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
【0085】
なお、前記のリチウム二次電池の一例を図面に基づいて説明する。なお、図面で示すリチウム二次電池は、本発明の一例に過ぎず、本発明の電気化学素子は、これらの図面に図示するものに限定される訳ではない。図1は、リチウム二次電池の一例を示す外観斜視図であり、図2は、図1のI−I線の断面図である。
【0086】
図1および図2に示すリチウム二次電池1は、巻回体電極群9を角形の外装缶2内に収容した電池の例である。すなわち、リチウム二次電池1は、角形の外装缶2と蓋板3とを備えており、前記の通り、外装缶2は正極端子を兼ねている。蓋板3はアルミニウム合金などの金属で形成され、外装缶2の開口部を封口している。また、蓋板3には、PPなどの合成樹脂で形成された絶縁パッキング4を介して、ステンレス鋼などの金属で形成された端子5が設けられている。
【0087】
図2に示すように、リチウム二次電池1においては、正極6と、負極7と、セパレータ8とを有し、セパレータ8と正極6および負極7の少なくとも一方とが接着性樹脂(C)により一体化した扁平状の巻回体電極群9として、外装缶2内に非水電解液と共に収納されている。ただし、図2では、煩雑化を避けるため、正極6や負極7に係る集電体や、非水電解液などは図示していない。また、セパレータ8の各層や接着性樹脂(C)を区別して示しておらず、更に、巻回体電極群9の内周側の部分は断面にしていない。
【0088】
また、外装缶2の底部にはポリテトラフルオロエチレンシートなどの合成樹脂シートで形成された絶縁体10が配置され、巻回体電極群9からは正極6および負極7のそれぞれの一端に接続された正極リード体11と負極リード体12が引き出されている。正極リード体11、負極リード体12は、ニッケルなどの金属から形成されている。端子5にはPPなどの合成樹脂で形成された絶縁体13を介して、ステンレス鋼などの金属で形成されたリード板14が取り付けられている。
【0089】
蓋板3は外装缶2の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、外装缶2の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。
【0090】
なお、図2では、正極リード体11を蓋板3に直接溶接することによって、外装缶2と蓋板3とが正極端子として機能し、負極リード体12をリード板14に溶接し、リード板14を介して負極リード体12と端子5とを導通させることによって、端子5が負極端子として機能するようになっているが、外装缶2の材質などによっては、その正負が逆となる場合もある。
【0091】
本発明の電気化学素子は、例えば、本発明のセパレータを用いて前記の積層体電極群または巻回体電極群を形成する工程と、前記電極群に加熱プレスを施して、正極および負極のうちの少なくとも一方とセパレータとを一体化する工程とを有する本発明法により製造することができる。
【0092】
電極群に施す加熱プレスの温度は、セパレータに係る樹脂多孔質層(I)を構成する樹脂(A)の融点未満の温度であればよいが、前述したように60℃以上120℃以下であることが好ましく、樹脂多孔質層(I)の熱収縮があまり顕著に起こらない80℃以上100℃以下であることが更に好ましい。また、加熱プレス時の圧力は,0.1Pa以上が好ましいが特に制限はない。加熱プレスの時間は特に制限はないが,30s以上が好ましい。
【0093】
前記の加熱プレスによってセパレータと正極および/または負極とが一体化された電極群は、常法に従い、外装体(電池ケース)に挿入した後、非水電解液を注入し、封止して電気化学素子とすることができる。
【0094】
なお、電極群に加熱プレスを施すにあたっては、電極群に直接加熱プレスを施す以外にも、例えば、電極群をアルミニウムラミネートフィルムなどの金属ラミネートフィルムで構成された外装体に挿入し、非水電解液を注入して外装体を封止した後に、外装体ごと加熱プレスを施してもよい。この場合の、好ましい加熱温度やプレス圧力、プレス時間は、前記の場合と同様である。
【0095】
本発明の電気化学素子は、従来から知られている電気化学素子が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。なお、以下に示す耐熱性微粒子の平均粒径およびアスペクト比は、前記の方法により測定した値である。
【0097】
実施例1
<電極の作製>
正極は次のようにして作製した。まず、リチウム含有複合酸化物であるLiCo0.995Mg0.005(正極活物質)94質量部に、導電助剤としてカーボンブラック3質量部を加えて混合し、この混合物にポリフッ化ビニリデン3質量部をNMPに溶解させた溶液を加えて混合して正極合剤含有スラリーとし、70メッシュの網を通過させて粒径が大きなものを取り除いた。この正極合剤含有スラリーを、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗付して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して総厚さを136μmにした後、切断し、アルミニウム製のリード体を溶接して、帯状の正極を作製した。
【0098】
また、負極は次のようにして作製した。負極活物質としては、以下の方法により合成された高結晶の人造黒鉛を用いた。コークス粉末100質量部、タールピッチ40質量部、炭化ケイ素14質量部、およびコールタール20質量部を、空気中において200℃で混合した後に粉砕し、窒素雰囲気中において1000℃で熱処理し、更に窒素雰囲気中において3000℃で熱処理して黒鉛化させて人造黒鉛とした。得られた人造黒鉛は、BET比表面積が4.0m/gで、X線回折法によって測定されるd002が0.336nm、c軸方向の結晶子の大きさLcが48nm、全細孔容積が1×10−3/kgであった。
【0099】
この人造黒鉛を用い、結着剤としてSBRを用い、増粘剤としてCMCを用い、これらを質量比98:1:1の割合で混合し、更に水を加えて混合して負極合剤含有ペーストとした。この負極合剤含有ペーストを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して総厚さを138μmにした後、切断し、ニッケル製のリード体を溶接して、帯状の負極を作製した。
【0100】
<非水電解液の調製>
エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、およびジエチルカーボネートの体積比10:10:30の混合溶媒にLiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させたものに、ビニレンカーボネートを、非水電解液の全質量に対して2.5質量%となるように添加して、非水電解液を調製した。
【0101】
<セパレータの作製>
有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%)300gと、水4000gとを容器に入れ、均一に分散するまで室温で攪拌した。この分散液にフィラー(B)であるベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10)4000gを4回に分けて加え、ディスパーにより2800rpmで5時間攪拌して均一なスラリーを調製した。PE製微多孔膜[樹脂多孔質層(I):厚み16μm、空孔率40%、平均孔径0.02μm、PEの融点135℃]の片面上に、前記のスラリーをマイクログラビアコーターによって塗布し、乾燥して耐熱多孔質層(II)を形成することで、厚みが21μmの積層物[樹脂多孔質層(I)と耐熱多孔質層(II)との積層物]を得た。この積層物の耐熱多孔質層(II)における前記フィラー(B)の体積含有率[耐熱多孔質層(II)の構成成分の全体積中の体積含有率。フィラー(B)の体積含有率について、以下同じ。]は92体積%であり、耐熱多孔質層(II)の空孔率は48%であった。
【0102】
次に、接着性樹脂(C)としてディレードタック型の接着性樹脂であるEVAのエマルジョン(固形分比率5質量%)を、前記積層物における樹脂多孔質層(I)側の表面に、マイクログラビアコーターを用いて塗布し、乾燥して、接着性樹脂(C)が片面に存在するセパレータ(厚み22μm)を得た。なお、このセパレータの、接着性樹脂(C)の存在面における接着性樹脂(C)の存在箇所の総面積は、セパレータにおける接着性樹脂(C)の存在面の面積の30%であり、接着性樹脂(C)の目付けは、0.5g/mであった。
【0103】
<リチウム二次電池の組み立て>
前記のようにして得たセパレータを、接着性樹脂(C)の存在面が負極側に向くように前記正極と前記負極との間に介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回体電極群を作製した。得られた巻回体電極群を押しつぶして扁平状にし、80℃で1分間、0.5Paの圧力で加熱プレスを施した後、厚み6mm、高さ50mm、幅34mmでのアルミニウム製外装缶に入れ、非水電解液を注入した後に封止を行って、図1に示す外観で、図2に示す構造のリチウム二次電池を作製した。なお、図1および図2では示していないが、本実施例1のリチウム二次電池は、外装缶2の上部に、内圧が上昇した場合に圧力を逃がすための開裂ベントを備えている。また、本実施例のリチウム二次電池では、4.2Vまで充電した場合(正極の電位がLi基準で4.3V)の設計電気容量は、790mAhである。
【0104】
実施例2
接着性樹脂(C)を、EVAからディレードタック型の接着性樹脂であるエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)に変更した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0105】
実施例3
接着性樹脂(C)を、EVAからエチレン系アイオノマー樹脂エマルジョン(固形分比率5質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0106】
実施例4
実施例1と同様にして作製したセパレータの、耐熱多孔質層(II)側表面にも、実施例1で使用したものと同じ接着性樹脂(C)の溶液を塗布し、乾燥させて、両面に接着性樹脂(C)が存在しているセパレータを作製した。なお、このセパレータの片面あたりの接着性樹脂(C)の存在箇所の総面積は、セパレータのいずれの面においても、セパレータ片面の28%であり、セパレータの片面あたりの接着性樹脂(C)の目付けは、0.5g/mであった。
【0107】
そして、前記セパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。すなわち、このリチウム二次電池に係る巻回体電極群では、セパレータが正極および負極の両者と一体化している。
【0108】
実施例5
フィラー(B)を、ベーマイトからアルミナ(粒状、平均粒径0.4μm)に変更し、接着性樹脂(C)を、EVAからディレードタック型の接着性樹脂であるPPに変更した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。なお、このセパレータの耐熱多孔質層(II)におけるフィラー(B)の体積含有率は89体積%であり、耐熱多孔質層(II)の空孔率は50%であった。
【0109】
比較例1
セパレータを、PE製微多孔膜(厚み20μm、空孔率40%、平均孔径0.02μm、PEの融点135℃)に変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0110】
比較例2
巻回体電極群を、加熱プレスを施さずに用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0111】
実施例1〜5および比較例1のセパレータ、並びに実施例1〜5および比較例1〜2のリチウム二次電池について、下記の各評価を行った。これらの結果を表1および表2に示す。
【0112】
<180°剥離試験>
各セパレータおよびリチウム二次電池に使用したものと同じ前記の負極を、それぞれ長さ5cm×幅2cmのサイズに切り出し、各セパレータを負極と重ねて、片端から2cm×2cmの領域を80℃で1分間、0.5Paの圧力で加熱プレスして、試験片を作製した。これらの試験片のセパレータと負極とを加熱プレスしていない側の端部を開き、セパレータと負極を、両者の角度が180°になるように折り曲げた。その後、引張試験機を用い、試験片の180°に開いたセパレータの片端側と負極の片端側とを把持して、引張速度10mm/minで引っ張り、セパレータと負極とを加熱プレスした領域で両者が剥離したときの強度を測定した。また、セパレータと負極との加熱プレス前の剥離強度は、前記のように切り出した各セパレータと負極とを重ね、加熱をせずにプレスした以外は、前記と同様にして測定した。なお、実施例4のセパレータについては、樹脂多孔質層(I)側の表面と負極との間で、前記剥離試験を実施した。
【0113】
<熱収縮試験>
各セパレータのMD方向およびTD方向を、それぞれ5cm、10cmとした短冊状の試験片を切り取った。なお、MD方向とはセパレータの樹脂多孔質層(I)に使用した微多孔膜の製造時の機械方向であり、TD方向とは、MD方向に垂直な方向である。前記の試験片において、MD方向およびTD方向の中心で交差するように、MD方向およびTD方向のそれぞれに平行に3cmずつの直線を油性マジックでマークした。なお、これらの直線の中心は、これらの直線の交差点とした。
【0114】
前記の各試験片を恒温槽に吊るし、槽内温度を5℃/分の割合で150℃まで上昇させ、その後150℃で1時間保ち、その後に試験片を恒温槽から取り出してMD方向およびTD方向のマークの長さを測定して下記式によって熱収縮率を算出し、より数値の大きな方をセパレータの熱収縮率とした。
熱収縮率(%) = 100×(3−x)/3
[なお、前記式中、xは150℃に設定した恒温槽内で1時間放置した後のセパレータのMD方向またはTD方向の寸法(cm)である。]
【0115】
<メルトダウン試験>
リチウム二次電池に使用したものと同じ正極および負極を幅1.5cmに裁断して短冊状とした。各セパレータを3cm角に裁断して短冊状の前記正負極の間に挟みこみ、正負極を長手方向に2cm重ね、これを厚さ5mmの2枚のガラス板で挟みサンプルを作製した。これらのサンプルを恒温槽に入れ、槽内温度を5℃/分の割合で150℃まで上昇させ、その後150℃で1時間温度を保った際の正負極間の抵抗値を測定した。
【0116】
<充放電特性評価>
実施例1〜5および比較例1〜2のリチウム二次電池について、以下の条件で充電および放電を行い、充電容量および放電容量をそれぞれ求め、充電容量に対する放電容量の割合を充電効率とし、この充電効率によって各電池の充放電特性を評価した。充電は、0.2Cの電流値で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、次いで、4.2Vでの定電圧充電を行う定電流−定電圧充電を行った。なお、充電終了までの総充電時間は15時間とした。充電後の各電池を、0.2Cの放電電流で電池電圧が3.0Vになるまで放電を行ったところ、実施例1〜5および比較例1〜2の電池は、いずれも充電効率がほぼ100%となり、電池として良好に作動することが確認できた。なお、表1には、充放電特性評価を行った際に得られた放電容量を電池容量として記載している。
【0117】
<高温貯蔵特性>
実施例1〜5および比較例1〜2の各電池を、20℃において395mA(0.5C)で4.2Vになるまで充電し、更に4.2Vの定電圧で2.5時間充電して満充電とし、この時の電池の厚みを測定した。その後、20℃において1Cで3Vまで放電して貯蔵前の放電容量を測定した。
【0118】
次に、各電池を前記と同様にして充電した後、恒温槽中において80℃で5日間貯蔵した。貯蔵後の各電池を20℃まで自然冷却して厚みを測定し、貯蔵前の電池の厚みとの比較から、高温貯蔵後の電池の膨れを求めた。その後、各電池を貯蔵前と同じ条件で放電して高温貯蔵後の放電容量を測定し、貯蔵前の放電容量に対する割合を百分率で表して、高温貯蔵後の容量維持率(%)を求めた。
【0119】
<充放電サイクル特性>
実施例1〜5および比較例1〜2の各電池(前記高温貯蔵特性試験を行っていない電池)について、45℃において、0.5Cで4.2Vになるまで充電し、更に4.2Vの定電圧で2.5時間充電して満充電とし、その後、1Cで3Vまで放電する充放電サイクルを300回繰り返し、1サイクル目の放電容量と300サイクル目の放電容量を測定した。続いて、1サイクル目の放電容量と300サイクル目の放電容量を用いて、下記式により容量維持率を算出し、充放電サイクル特性を評価した。
容量維持率(%)
=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0120】
【表1】

【0121】
表1から明らかなように、実施例1〜5のセパレータは、負極との180°での剥離強度が、室温、すなわち加熱プレス前では最大でも0.02N/20mmと小さく、殆ど接着性を示さないが、80℃での加熱プレス後では、いずれも0.2N/20mm以上であり、セパレータ負極とが強固に一体化されている。
【0122】
【表2】

【0123】
表2から明らかなように、実施例1〜5のリチウム二次電池は、高温貯蔵後の電池膨れが小さく、容量維持率も良好であり、また、充放電サイクル後の容量維持率が高く優れた充放電サイクル特性を備えている。これに対し、通常のセパレータを有する比較例1のリチウム二次電池では、高温貯蔵後の電池膨れが大きく高温貯蔵特性が劣っており、また、充放電サイクル後の容量維持率が低く充放電サイクル特性が劣っている。
【0124】
なお、巻回体電極群を、セパレータと電極とを一体化せずに用いた比較例2のリチウム二次電池では、実施例1〜5の電池に比べて、高温貯蔵後の電池膨れが大きく、容量維持率も小さく、また、充放電サイクル後の容量維持率も小さい。この結果から、実施例1〜5のリチウム二次電池における優れた高温貯蔵特性および充放電サイクル特性は、セパレータと電極とが一体化されていることで向上していることが分かる。実施例1〜5の電池に見られる前記の効果は、セパレータと電極とが一体化されていることで、充電状態での電池の貯蔵および充放電サイクル過程におけるガス発生および電極の膨張収縮などによる電極間距離の増大に基づく電池内部抵抗の増加や電流集中によるリチウムデンドライト生成を低減することにより、発現していると考えられる。
【0125】
しかも、実施例1〜5のリチウム二次電池は、表1に示すように、熱収縮率が小さく、かつメルトダウン試験の結果が示すように高温下で正負極間の抵抗値を増大させ得る優れたシャットダウン機能を有するセパレータを備えていることから、異常昇温時の安全性にも優れている。
【符号の説明】
【0126】
1 電気化学素子(リチウム二次電池)
2 外装缶
3 蓋板
4 絶縁パッキング
5 端子
6 正極
7 負極
8 セパレータ
9 巻回体電極群
10 絶縁体
11 正極リード体
12 負極リード体
13 絶縁体
14 リード板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、非水電解液およびセパレータを有する電気化学素子に用いられるセパレータであって、
融点が100〜170℃である樹脂(A)を主成分とする樹脂多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラー(B)を主成分として含む耐熱多孔質層(II)とを有しており、かつセパレータの少なくとも片面に、前記樹脂(A)の融点よりも低い温度に加熱することで接着性が発現する接着性樹脂(C)が存在していることを特徴とする電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
接着性樹脂(C)の接着性が発現する最低温度が、60〜120℃である請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
接着性樹脂(C)が、ポリ−α−オレフィン、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニルおよびこれらの共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項4】
樹脂(A)がポリオレフィンである請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項5】
フィラー(B)が、アルミナ、シリカおよびベーマイトよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項6】
正極、負極、非水電解液およびセパレータを有する電気化学素子であって、前記セパレータが請求項1〜5のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータであり、かつ前記セパレータが正極および負極の少なくとも一方と一体化していることを特徴とする電気化学素子。
【請求項7】
正極、負極、非水電解液およびセパレータを有する電気化学素子の製造方法であって、
請求項1〜5のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータを使用し、該セパレータを正極と負極との間に配置して積層するか、または前記セパレータを正極と負極との間に配置して積層したものを巻回して電極群を形成する工程と、前記電極群に加熱プレスを施して、正極および負極のうちの少なくとも一方とセパレータとを一体化する工程とを有することを特徴とする電気化学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−23186(P2011−23186A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166299(P2009−166299)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】