説明

電気化学素子用電極の製造方法及び電気化学素子

【課題】高い塗着効率で、安定して、内部抵抗の低い電気化学素子用電極を製造する方法を提供する。
【解決手段】摩擦帯電により帯電させた電極材料を、集電体上の少なくとも一面上に供給することにより電極層を形成させることを特徴とする電気化学素子用電極の製造方法、および前記製造方法により得られる電気化学素子用電極を備える電気化学素子。前記摩擦帯電は、前記電極材料と、フッ素含有基を有する物質との摩擦による帯電であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用電極及び電気化学素子の製造方法に関する。より詳しくは、電極厚みが薄くかつ均一で、内部抵抗を低減可能な電気化学素子用電極を生産性良く製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタは、エネルギーの環境問題や資源問題から分散電源やハイブリッド自動車などの大型電源としての応用が期待されている。しかしながら、これらの電気化学素子を大電源として応用するためには、大電流放電時のエネルギー損失を小さくするために内部抵抗の低減が望まれている。
【0003】
内部抵抗の低減のためには、電極厚みを薄くかつ均一にすることが一般的に行われており、薄膜電極を生産性良く製造することが求められている。
【0004】
電極の製造方法としては、電極活物質および結着剤などを含む電極材料をスラリーとし、塗布、乾燥する方法;電極材料を混練して、圧延ロールにて目標の厚みまで延展する方法;電極材料をそのまま、あるいは複合粒子状にして加圧成形する方法などが挙げられる。この中でも電極材料を加圧成形する方法は、生産性の点で好ましく、そのための電極材料の供給方法が様々提案されている。
【0005】
電極材料の供給方法として電極材料を帯電させて、静電的に付着させるという方法がある。この方法は、薄く均等に電極材料を供給できること、付着しなかった電極材料を回収して再利用できる可能性もあり、生産性の面でも優れている。
【0006】
電極材料を静電的に帯電させる方法としては、電極材料を摩擦により帯電させる方法や、コロナ放電を利用し電極材料に直接電圧を印加して帯電させる方法が挙げられる。
【0007】
例えば特許文献1には、鉄粉と電極用粉体原料との摩擦帯電により帯電した電極用粉体原料を、感光ドラム上に供給し、該感光ドラム上の電極用粉体原料を、薄紙や有機繊維材料から成る基体上に静電転写することで電極を形成させる方法が開示されている。この方法によれば極めて薄い固体活性炭電極を安定して製造できるとしている。
また、特許文献2には、水平方向に走行される搬送路上に、電極原料粉末を散布する散布工程と、散布された電極原料粉末上に集電体を供給する集電体供給工程と、前記電極原料粉末と集電体とを連続的に加圧して電極を形成するゾーン圧着工程と、を備える電気化学デバイス用電極の製造方法が開示されている。そして、電極原料粉末を供給する方法として、静電吹き付け法など静電気により付着させる方法が例示されている。この方法によれば均一性が高く十分な性能を備える電極シートを高速で連続的に製造することが可能としている。
また、特許文献3には、活物質、導電化材および結着剤からなる混合粉末を、電界印加用電極により帯電させて、集電体上に供給することで電極層を形成することを特徴とする電極の製造方法が開示されている。この方法によれば、湿式法に比べて制御が容易で生産性が良く、負荷特性に優れる電極が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−223142号公報
【特許文献2】国際公開2005/117043号公報
【特許文献3】特開2001−351616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
薄膜電極を生産性良く製造するための課題として、連続的に安定した電極材料の供給が求められる。このような課題に対して、電極材料を静電的に供給する方法は有効である。しかしながら、回収再利用の可能性はあるものの、電極材料を静電的に供給する場合の塗着効率の向上も生産性の面で重要である。このような課題に対して、特許文献1に記載の方法では、鉄粉と電極用粉体原料との摩擦帯電により帯電した電極用粉体原料を、感光ドラム上に供給し、その後帯電させた電極用粉体原料を基体上に転写するという複数の工程を有しているため塗着効率を十分に高くできない問題があり、特許文献2に記載のような静電吹きつけ方法でも塗着効率を十分に高くできないという問題があった。
また、特許文献3のようにコロナ放電により電極材料に直接電圧を印加させて帯電させる方法では、強制的に電極材料を帯電させるため、材料に制限されないという利点がある一方で、ファラデーゲージ効果や逆電離現象などコロナ放電に特有の現象があり、電極端部が厚くなることおよび電極の割れや欠けが発生しやすく、内部抵抗が高くなってしまうということが問題であった。
従って、本発明は、高い塗着効率で安定して、内部抵抗の低い電気化学素子用電極を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討の結果、摩擦帯電により静電的に帯電させた電極材料を、集電体上の少なくとも一面上に供給して電極層を形成させることにより、電極材料を効率良く帯電させることができるので、電極材料を集電体上に効率良く供給することができ、長時間安定して内部抵抗の低い電気化学素子用電極の製造が可能となることを見出し、これらの知見に基づき以下の本発明を完成させるに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、摩擦帯電により帯電させた電極材料を、集電体上の少なくとも一面上に供給することにより電極層を形成させることを特徴とする電気化学素子用電極の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、前記製造方法により得られる電気化学素子用電極を用いてなる電気化学素子が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極材料を効率良く帯電させることができるため、長時間安定して、電極材料を集電体上に効率良く供給することが可能となり、内部抵抗が低い電気化学素子用電極を生産性よく製造することが可能である。本発明は、特に電気二重層キャパシタ用電極、ハイブリットキャパシタ用電極、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電気化学素子用電極の製造方法は、摩擦帯電により帯電させた電極材料を、集電体上の少なくとも一面上に供給することにより電極層を形成させることを特徴とする。
【0014】
<摩擦帯電>
本発明において電極材料を摩擦帯電させる方法としては、帯電列を利用して、電極材料とこれを帯電させやすい物質とを接触させて帯電させる方法が用いられる。帯電列とは、物資が固有に持つものであり、帯電しやすさを、マイナスに帯電しやすい材料からプラスに帯電しやすい材料までにわたって相対的に序列したものである。摩擦させる2つの物質が帯電列上離れているほど、それぞれが大きく帯電するので、帯電列上で、電極材料から帯電列が離れた物質と、電極材料とを接触させることで容易に電極材料を帯電させることができる。電極材料をプラスに帯電させる場合は、これとポリテトラフルオロエチレンや塩化ビニルなどとを接触させることにより、電極材料をマイナスに帯電させる場合は、これとアスベストやナイロンなどと電極材料とを接触させることにより、それぞれ帯電させることができる。
【0015】
電極材料と摩擦させる物質としてはフッ素含有基を有することが好ましい。フッ素含有基を有する物質としては、フルオロカーボン好ましく、フルオロカーボンの中でも、フルオロカーボンの重合体がより好ましく、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデンが特に好ましい。電極材料と摩擦させる物質としてフッ素含有基を有するものを用いると、摩擦させる物質の表面エネルギーが低下し、電極材料が摩擦させる物質の表面に付着しにくくなり、長時間安定して摩擦帯電を起こすことが可能となる。電極材料と摩擦させる物質に、電極材料が付着してしまうと、電極材料と摩擦させる物質と電極材料とが接触しにくくなり、安定して電極材料を塗着させることができなくなる。フッ素含有基を有する物質としては、前記フルオロカーボンの他に、フルオロカーボンが表面にコーティングされた金属を用いることができる。
【0016】
物質の帯電性は官能基を付与することで、調節することができる。物質をよりプラスに帯電させる官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基などが挙げられる。物質をよりマイナスに帯電させる官能基としては、例えば、フッ素含有基、ニトロ基、塩素含有基などが挙げられる。電極材料を帯電させる方法が、ポリテトラフルオロエチレンとの摩擦帯電である場合は、電極材料によりプラスに帯電させる官能基を付与することで、帯電量が上昇し、塗着効率を向上させることができる。
【0017】
<集電体>
本発明に用いる集電体の材料は、例えば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましい。
【0018】
本発明に用いる集電体の形状は、特に制限されないが、フィルム状またはシート状であり、シート状集電体は、空孔を有していても良い。また、シート状集電体はエキスパンドメタル、パンチングメタル、網状などの形状を有していても良い。空孔を有するシート状集電体を用いると、得られる電極の体積当りの容量を高くすることができる。シート状集電体が空孔を有する場合の空孔の割合は、好ましくは10〜79面積%、より好ましくは20〜60面積%である。
【0019】
集電体の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。集電体の厚みがこの範囲内にあると、電子の移動抵抗を低減でき、内部抵抗が低減できる。
【0020】
本発明では、集電体の少なくとも一面上に接着剤層が形成されていることが好ましい。接着剤層は、電極層と集電体の界面抵抗を小さく出来ることから、導電性のものがより好ましい。接着剤層は集電体の表面に接着剤を塗布、乾燥することで形成することができる。
接着剤は、導電助剤の粉末と結着剤と、必要に応じ添加される分散剤とを、水または有機溶媒中に分散させたものである。導電性接着剤に用いられる導電助剤としては、銀、ニッケル、金、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられ、好ましくは、黒鉛、アセチレンブラックである。導電性接着剤に用いられる結着剤としては、後述する電極層を構成する結着剤として例示したものをいずれも使用できる。また、水ガラス、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ウレタン樹脂等も用いることができ、これらはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。導電性接着剤に用いられる結着剤としては、アクリレート系重合体、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩、水ガラス、ポリアミドイミド樹脂が好ましい。また、導電性接着剤に用いられる分散剤としては、上記本発明の製造方法の電極層に使用しても良い分散剤、または界面活性剤を用いることができる。
本発明に用いられる接着剤層の形成方法は、特に制限されないが、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り、静電塗装法などによって、集電体上に形成される。
【0021】
接着剤層の厚みは、通常0.01〜20μm、好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。接着剤層の厚みが前記範囲であることにより、本発明の製造方法により得られる電気化学素子用電極を有する電気化学素子の内部抵抗をより低減することができる。
【0022】
本発明に用いる電極材料とは、電極活物質、導電助剤、結着剤、およびその他電極を構成するのに必要な材料であって、通常は固体粒子状の形態をなしているものを言う。
【0023】
(電極活物質)
本発明の製造方法により得られる電気化学素子用電極に用いる電極活物質は、電極が利用される電気化学素子に応じて選択すればよい。
【0024】
本発明の製造方法により得られる電気化学素子用電極を、電気二重層キャパシタ用電極やハイブリッドキャパシタの正極用電極に用いる場合には、電極活物質としては、通常、炭素の同素体が用いられる。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末または繊維を使用することができる。好ましい電極活物質は活性炭であり、具体的にはフェノール樹脂、レーヨン、アクリロニトリル樹脂、ピッチ、およびヤシ殻等を原料とする活性炭を挙げることができる。
【0025】
本発明の製造方法により得られる電気化学素子用電極を、リチウムイオン二次電池の正極用電極に用いる場合においては、具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVOなどのリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoSなどの遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO・P、MoO、V、V13などの遷移金属酸化物が例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられる。好ましくは、リチウム含有複合金属酸化物である。
【0026】
本発明の製造方法により得られる電気化学素子用電極を、リチウムイオン二次電池の負極用電極やハイブリッドキャパシタの負極用電極に用いる場合には、電極活物質としては、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;リチウムと合金化可能なSi、Sn、Sb、Al、ZnおよびWなどが挙げられる。好ましくは、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの結晶性炭素質材料である。
【0027】
本発明に用いられる電極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは3〜20μmである。
【0028】
本発明に用いられる電極活物質の比表面積は、30m/g以上、好ましくは500〜5,000m/g、より好ましくは1,000〜3,000m/gであることが好ましい。電極活物質の比表面積が大きいほど得られる電極層の密度は小さくなる傾向があるので、電極活物質を適宜選択することで、所望の密度を有する電極層を得ることができる。また、これらの電極活物質は、単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0029】
(導電助剤)
本発明に用いる導電助剤は、導電性を有し、電気二重層を形成し得る細孔を有さない粒子状の炭素の同素体からなり、具体的には、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびファーネスブラックが好ましい。
【0030】
本発明に用いる導電助剤の体積平均粒子径は、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましく、その範囲は通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmである。導電助剤の体積平均粒子径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。これらの導電助剤は、単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。導電助剤の量は、電極活物質100重量部に対して通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。導電助剤の量がこの範囲にあると、得られる電気化学素子用電極を使用した電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0031】
(結着剤)
本発明に用いられる結着剤は、電極活物質や導電助剤を相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はない。その種類としては、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、セルロース系ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、ジエン系重合体、アクリレート系重合体または、セルロース系ポリマーが好ましく、ジエン系重合体又はアクリレート系重合体が、耐電圧を高くでき、かつ電気化学素子のエネルギー密度を高くすることができる点でより好ましい。また、電極材料を帯電させる方法が、フッ素含有基を有する物質との摩擦帯電である場合は、帯電列の関係を利用することにより、後述する帯電量を調整することができる。例えば、アクリレート系重合体は、ジエン系重合体よりも帯電列上はプラスに帯電し易いので、帯電量を大きくすることが出来る点で好ましい。
【0032】
ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。前記単量体混合物における共役ジエンの割合は通常30重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;スチレン・ブタジエン・メタクリル酸共重合体や、スチレン・ブタジエン・イタコン酸共重合体などの芳香族ビニル・共役ジエン・カルボン酸基含有単量体の共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0033】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH=CR−COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基を、Rはアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体単位を含む重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリレート;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。アクリレート系重合体中の一般式(1)で表される化合物由来の単量体単位の割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上である。前記一般式(1)で表される化合物由来の単量体単位の割合が前記範囲であるアクリレート系重合体を用いると、耐熱性が高く、かつ得られる電気化学素子用電極の内部抵抗を小さくできる。
【0034】
前記アクリレート系重合体は、一般式(1)で表される化合物の他に、共重合可能なカルボン酸基含有単量体を用いることができる。カルボン酸基含有単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸などの一塩基酸含有単量体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの二塩基酸含有単量体が挙げられる。なかでも、二塩基酸含有単量体が好ましく、集電体との結着性を高め、電極強度を向上できる点で、イタコン酸が特に好ましい。これらの一塩基酸含有単量体、二塩基酸含有単量体は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。共重合の際のカルボン酸基含有単量体の量は、一般式(1)で表される化合物100重量部に対して、通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。カルボン酸基含有単量体の量がこの範囲であると、集電体との結着性に優れ、得られる電極強度が高まる。
【0035】
前記アクリレート系重合体は、一般式(1)で表される化合物の他に、共重合可能なニトリル基含有単量体を用いることができる。ニトリル基含有単量体の具体例としては、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどが挙げられ、中でもアクリロニトリルが、集電体との結着性が高まり、電極強度が向上できる点で好ましい。共重合の際のアクリロニトリルの量は、一般式(1)で表される化合物100重量部に対して、通常は0.1〜40重量部、好ましくは0.5〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部の範囲である。アクリロニトリルの量がこの範囲であると、集電体との結着性に優れ、得られる電極強度が高まる。
【0036】
前記アクリレート系重合体は、前記単量体以外に、アルキルスチレン系モノマーやビニルエステル類などを共重合させたものであってもよい。アルキルスチレン系モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレンおよびオクチルスチレン等のアルキルスチレン系モノマーが挙げらる。ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n‐酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、パーサティック酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル等のビニルエステル類が挙げることができる。
【0037】
前記ジエン系重合体およびアクリレート系重合体は、各重合体の主成分を構成する単量体の他に、これらと共重合可能なアミノ基含有単量体やアミド基含有単量体を用いることができる。アミノ基含有単量体の具体例としては、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレートなどが、アミド基含有単量体の具体例としては、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド―2―メチルプロパンスルホン酸、アクリルアミド、N―メチロールアクリルアミド、ジエチルアミノメチルメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、アミノ基含有単量体が好ましく、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートおよびジエチルアミノメチルメタクリレートが、後述する電極材料の帯電量を大きくできるという点からより好ましい。
共重合の際の、アミノ基含有単量体及びアミド基含有単量体の量は、ジエン系重合体の主成分を構成する単量体(共役ジエン)又はアクリル系重合体の主成分を構成する単量体(一般式(1)で表される化合物)100重量部に対して、好ましくは1〜90重量部、より好ましくは5〜70重量部、特に好ましくは10〜60重量部の範囲である。前記アミノ基含有単量体及びアミド基含有単量体の量が上記範囲内であると、電極材料の帯電量を大きくすることができ、より塗着効率に優れ生産性をより高くすることができる。
【0038】
セルロース系ポリマーとは、セルロースのヒドロキシル基の一部もしくは全て置換させたセルロースであり、具体的には、ニトロセルロース、アセチルセルロースおよびセルロースエーテルなどが挙げられる。これらの中でもカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ならびにこれらアンモニウム塩またはアルカリ金属塩などのセルロースエーテルが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が、集電体との結着性が高まり、電極強度が向上できる点でより好ましい。また、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩は電極材料の帯電量を大きくすることができるという点で特に好ましい。
【0039】
本発明に用いられる結着剤の量は、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。結着剤の量が前記範囲にあると、得られる電極層と集電体との密着性を充分に確保でき、電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。また、結着剤の量を多くすると、後述する電極材料の帯電量を大きくすることができ、結着剤の量を少なくすると電極材料の帯電量を小さくすることができる。
【0040】
本発明の製造方法においては、その他、電極を構成するのに必要な以下のような材料をを含有していてもよい。
【0041】
(分散剤等)
分散剤とは後述するスラリーの溶媒に溶解させて用いられ、電極活物質、導電助剤等を溶媒に均一分散させするものである。分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0042】
分散剤の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができ、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは1〜4重量部の範囲である。分散剤を用いることで、スラリー中の固形分の沈降や凝集を抑制できる。また、噴霧乾燥時のアトマイザーの詰まりを防止することができるので、噴霧乾燥を安定して連続的に行うことができる。
【0043】
その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤がある。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオンなどの両性の界面活性剤が挙げられるが、中でもアニオン性もしくはノニオン性の界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。
【0044】
界面活性剤は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。界面活性剤の量は、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して0〜50重量部、好ましくは0.1〜10重量部より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0045】
本発明に使用される電極材料は、上記電極活物質を含み、導電助剤および結着剤を好適な成分として、必要に応じて分散剤、その他添加剤を含有してなる粒子形状のもの(以下、「複合粒子」ということがある)であることが好ましい。電極材料が複合粒子であることにより、得られる電気化学素子用電極の電極強度をさらに高くしたり、内部抵抗をさらに低減したりすることができる。
【0046】
複合粒子の製造方法は特に制限されず、噴霧乾燥造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出し造粒法、破砕型造粒法、流動層造粒法、流動層多機能型造粒法、および溶融造粒法などの公知の造粒法により製造することができる。中でも、表面付近に結着剤および導電助剤が偏在した複合粒子を容易に得られるので、噴霧乾燥造粒法が好ましい。
噴霧乾燥造粒法は、電極活物質と、結着剤と、必要に応じて分散剤、導電助剤およびその他の成分とを溶媒中で混合して分散液とする工程、および、該分散液を噴霧乾燥して複合粒子を形成する工程を含む。具体的には、複合粒子の形成工程で、上記分散液を噴霧乾燥機を使用してアトマイザから噴霧し、噴霧された分散液を乾燥塔内部で乾燥することで、分散液中に含まれる電極活物質、結着剤およびその他の成分からなる球状の複合粒子が形成される。噴霧乾燥造粒法で得られる複合粒子を用いると、本発明の電気化学素子用電極を高い生産性で得ることができる。また、該電極の内部抵抗をより低減することができる。
【0047】
噴霧乾燥造粒法により複合粒子を製造する場合において、前記分散液を得るために用いられる溶媒は、特に限定されないが、分散剤を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできるし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。この中でも有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用すると、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量または種類によって、結着剤の分散性または分散剤の溶解性が変わる。これにより、スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0048】
本発明に好適に用いる複合粒子の重量平均粒子径は、通常0.1〜1,000μm、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜100μmの範囲である。複合粒子の重量平均粒子径がこの範囲にあるとき、複合粒子が凝集を起こしにくく、重力に対して静電気力が大きくなるので好ましい。重量平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0049】
(帯電制御剤)
本発明においては、電極材料がさらに帯電制御剤を含有することが好ましい。電極材料がさらに帯電制御剤を含有することにより、帯電性が安定した電極材料を得ることができ、長期間安定して電極を製造することができる。
本発明において、帯電制御剤とは、電極材料に添加して用いられ、電極材料の帯電量を向上させる機能を有する物質である。
本発明に用いられる帯電制御剤としては、電極材料よりも小さい粒径の微粒子;帯電量を正に向上させる作用を有する正帯電制御剤;帯電量を負に向上させる作用を有する負帯電制御剤が挙げられる。これらの中でも、電極材料を帯電させる方法が、フッ素含有基を有する物質との摩擦帯電である場合は、電極材料よりも小さな粒径の微粒子や帯電量を正に向上させる作用を有する正帯電制御剤が、電極材料の帯電量を向上させることができる点において好ましい。
【0050】
電極材料よりも小さい粒径の微粒子としては、無機粒子や有機樹脂粒子等が挙げられる。無機粒子としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。無機粒子の平均粒子径は好ましくは、5〜100nm、より好ましくは7〜50nmである。有機樹脂粒子としては、メタクリル酸エステル重合体粒子、アクリル酸エステル重合体粒子、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体粒子、スチレン−アクリル酸エステル共重合体粒子、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、シェルがメタクリル酸エステル共重合体でコアがスチレン重合体で形成されたコアシェル型粒子等が挙げられる。有機粒子の平均粒子径は好ましくは、20〜800nm、より好ましくは100〜500nmである。これらのうち、特に、二酸化ケイ素粒子やスチレン−メタクリル酸エステル共重合体粒子は、電極材料の流動性を向上させる作用を有する点において好ましい。また、これらの微粒子は、その表面を疎水化処理して用いることができ、疎水化処理された二酸化ケイ素粒子は、湿度に対する帯電量の変動が小さい点において特に好適である。前記微粒子は、単独で用いてもよいし、これらを2種類以上組み合わせてもちいてもよい。前記微粒子を2種類以上組み合わせて用いる場合には、平均粒子径が異なる無機粒子同士、または無機粒子と有機樹脂粒子とを組み合わせる方法が好適である。
【0051】
帯電量を正に向上させる作用を有する正帯電制御剤としては、ニグロシン系染料、トリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、4級アンモニウム基及び/又はアミノ基を含有する樹脂または無機粒子等が挙げられる。
帯電量を負に向上させる作用を有する負帯電制御剤としては、トリメチルエタン系染料、サリチル酸の金属錯塩、ベンジル酸の金属錯塩、銅フタロシアニン、ペリレン、キナクリドン、アゾ系顔料、金属錯塩アゾ系染料、アゾクロムコンプレックス等の重金属含有酸性染料、カリックスアレン型のフェノール系縮合物、環状ポリサッカライド、カルボキシル基及び/又はスルホニル基を含有する樹脂、等が挙げられる。
電極材料を帯電させる方法が、フッ素含有基を有する物質との摩擦帯電である場合は、フッ素含有基を有する物質がマイナスに帯電しやすいため、正帯電制御剤を電極材料に添加させることで、電極材料の帯電量を大きくすることができ、塗着効率を向上させることができる。
【0052】
前記帯電制御剤の含有量は、特に制限されないが、電極材料に対して、好ましくは0.01〜20重量%、特に好ましくは0.1〜10重量%である。帯電制御剤の量が前記範囲にあると、電極材料の帯電量を向上させることができ、塗着効率を向上させることができる。
前記帯電制御剤を含有させる方法としては、特に制限されず、帯電制御剤と、他の電極材料とをヘンシェルミキサーなどの混合機に仕込み攪拌する方法;噴霧乾燥造粒法において複合粒子を製造する場合において、帯電制御剤を前記分散液中に溶解または分散させる方法等が挙げられるが、中でも、帯電制御剤と他の電極材料とをヘンシェルミキサーなどの混合機に仕込み攪拌する方法が好ましく、前記複合粒子と帯電制御剤とをヘンシェルミキサーなどの混合機に仕込み攪拌する方法がより好ましい。帯電制御剤を含有させる方法として、複合粒子と帯電制御剤とをヘンシェルミキサーなどの混合機に仕込み攪拌する方法を用いることにより、複合粒子の表面に帯電制御剤を付着させることができる。
【0053】
本発明においては、電極材料がプラスに帯電し易い官能基を有することが好ましい。電極材料が、プラスに帯電し易い官能基を有することにより、電極材料を帯電させる方法が、ポリテトラフルオロエチレンとの摩擦帯電である場合は、電極材料にプラスに帯電させる官能基を付与することで、帯電量が上昇し、塗着効率を向上させることができる。
プラスに帯電しやすい官能基としては、特に制限されないが、アミノ基やアミド基が好ましい。
電極材料に前記官能基を導入する方法としては、結着剤に前記官能基を導入する方法;帯電制御剤に前記官能基を導入する方法;結着剤や帯電制御剤以外の他電極材料に前記官能基を導入する方法が挙げられる。中でも、帯電量を向上させる作用が大きい点で、結着剤に前記官能基を導入する方法や帯電制御剤に前記官能基を導入する方法が好ましい。
【0054】
<帯電量>
電極材料を摩擦帯電させるときの帯電量は、電極材料が帯電したときに反対に帯電する材料がアースに流す電流量を計測することによって、電極材料の平均帯電量として測定することができる。電極材料の平均帯電量は、通常、0.5μC/g以上、好ましくは0.5〜20.0μC/g、さらに好ましくは10.0〜15.0μC/gである。前記平均帯電量が、この範囲にあるとき、電極材料を集電体上により効率良く塗着することができる。前記帯電量は、前述のように導電助剤や結着剤の量、種類を変更することにより調整することができる。
【0055】
<接地>
本発明においては、集電体が接地されていることが好ましい。集電体の接地抵抗は、通常1MΩ以下、好ましくは100Ω以下であることが好ましい。接地抵抗がこの範囲にあるとき、摩擦帯電させた電極材料が集電体近傍に接近したときに集電体に有効な誘導帯電が誘起されるので均一な電極を形成することができる。
【0056】
<電極層の形成>
(電極材料供給方法)
本発明では、上記摩擦帯電させた電極材料を、集電体上の少なくとも一面上に供給する。摩擦帯電させた電極材料を集電体上に供給する方法に特に制限はない。例えば、静電粉体塗装のように接地された集電体上に、帯電させた電極材料を噴霧して供給してもよいし、静電スクリーン印刷のように設置された集電体上に摩擦帯電させた電極材料を転写させてもよい。
【0057】
そして、集電体と前記供給方法によりその一面上に供給された電極材料とを一対のロールで加圧して、集電体上に電極層を形成する。この工程では、必要に応じ加温された前記電極材料が、一対のロールでシート状の電極層に成形されても良い。供給される電極材料の温度は、好ましくは40〜160℃、より好ましくは70〜140℃である。この温度範囲にある電極材料を用いると、プレス用ロールの表面で電極材料のすべりがなく、電極材料が連続的かつ均一にプレス用ロールに供給されるので、膜厚が均一で、電極密度のばらつきが小さい、電気化学素子用電極シートを得ることができる。
【0058】
本発明において、成形時の温度は、通常0〜200℃である、結着剤の融点またはガラス転移温度より高いことが好ましく、結着剤の融点またはガラス転移温度より20℃以上高いことがより好ましい。プレス用ロールを用いる場合の成形速度は、通常10m/分以上、成形性をより高く、薄膜化をより容易にすべく、好ましくは20〜200m/分、さらに好ましくは30〜80m/分である。またプレス用ロール間のプレス線圧は、特に規定されないが、得られる電極の電極強度を高くすることができる点で、好ましくは0.2〜30kN/cm、より好ましくは0.5〜10kN/cmである。
【0059】
本発明においては、前記一対のロールの配置は特に限定されないが、略水平または略垂直に配置されることが好ましい。略水平に配置する場合は、前記集電体を一対のロール間に連続的に供給し、該ロールの少なくとも一方に電極材料を供給することで、集電体とロールとの間隙に電極材料が供給され、加圧により電極層を形成できる。略垂直に配置する場合は、前記集電体を水平方向に搬送させ、該集電体上に電極材料を供給し、電極材料の層を形成する。供給された電極材料層を必要に応じブレード等で均した後、該集電体を一対のロール間に供給し、加圧により電極層を形成できる。
【0060】
成形した成形体の厚みばらつきをなくし、密度を上げて高容量化をはかるために、必要に応じて更に後加圧を行っても良い。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平衡に上下に並べ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませ加圧する。ロールは加熱または、冷却等、温度調節しても良い。
【0061】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、本発明の製造方法で得られる電気化学素子用電極を備える。電気化学素子としては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタなどが挙げられるが、電気二重層キャパシタが好適である。以下、本発明の製造方法で得られる電気化学素子用電極を電気二重層キャパシタ用電極に用いた場合について説明する。
【0062】
電気二重層キャパシタは、電極、セパレータおよび電解液で構成され、前記電極として、本発明の製造方法で得られた電気化学素子用電極を用いる。
【0063】
セパレータは、電極の間を絶縁でき、陽イオンおよび陰イオンを通過させることができるものであれば特に限定されない。具体的には、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、レーヨンもしくはガラス繊維製の微孔膜または不織布、一般に電解コンデンサ紙と呼ばれるパルプを主原料とする多孔質膜などを用いることができる。セパレータは、上記一対の電極層が対向するように、電極の間に配置され、素子が得られる。セパレータの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は1〜100μm、好ましくは10〜80μm、より好ましくは20〜60μmである。
【0064】
電解液は、通常電解質と溶媒で構成される。電解質は、カチオン性であってもよく、アニオン性であってもよい。カチオン性電解質としては、以下に示すような(1)イミダゾリウム、(2)第四級アンモニウム、(3)第四級ホスホニウム、(4)リチウム等を用いることができる。
(1) イミダゾリウム
1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウム、1,3,4−トリメチル−エチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリウム、1−メチル−2,3,4−トリエチルメチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリウム等
(2)第四級アンモニウム
テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム等
(3)第四級ホスホニウム
テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、メチルトリエチルホスホニウム、メチルトリブチルホスホニウム、ジメチルジエチルホスホニウム等
(4)リチウム
【0065】
また、アニオン性電解質としては、PF、BF、AsF、SbF、N(RfSO2−、C(RfSO3−、RfSO(Rfはそれぞれ炭素数1〜12のフルオロアルキル基)、F、ClO、AlCl、AlF等を用いることができる。これらの電解質は単独または二種類以上として使用することができる。
【0066】
電解液の溶媒は、一般に電解液の溶媒として用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、プロピレンカーボート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;スルホラン類;アセトニトリルなどのニトリル類;が挙げられる。これらは単独または二種以上の混合溶媒として使用することができる。中でも、カーボネート類が好ましい。
【0067】
上記の素子に電解液を含浸させて、本発明の電気化学素子が得られる。具体的には、キャパシタ素子を必要に応じ捲回、積層または折るなどして容器に入れ、容器に電解液を注入して封口して製造できる。また、素子に予め電解液を含浸させたものを容器に収納してもよい。容器としては、コイン型、円筒型、角型などの公知のものをいずれも用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0069】
<実施例1>
電極活物質として比表面積1,800m/g、体積平均粒子径5μmの高純度活性炭粉末「クラレコール YP−17D」(クラレケミカル社製)100部、結着剤として、体積平均粒子径0.31μmのアクリレート系重合体(アクリル酸n−ブチル40重量%、メタクリル酸エチル40重量%、メタクリル酸n−ブチル17重量%、メタクリル酸3重量%を乳化重合した共重合体)の40%水分散体を固形分相当で5部、導電助剤として平均粒径0.7μmのアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)を5部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩「DN−800H」(ダイセル化学工業社製)の1.5%水溶液を固形分相当で1.4部、およびイオン交換水を348.7部加えて、「TKホモミキサー」(プライミクス社製)で撹拝混合して固形分濃度が20%のスラリーを得た。スラリーのpHは23℃で7.6であった。このスラリーを25%アンモニア水でpH8.5に調整し、スプレー乾燥機(OC−16;大河原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)の回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃の条件で噴霧乾燥造粒を行い、電極材料の複合粒子を得た。この複合粒子の重量平均粒子径は54μmであった。
【0070】
体積平均粒子径が0.7μmのカーボンブラック100部と、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの4.0%水溶液(DN−10L;ダイセル化学工業社製)を固形分相当で4部、結着剤として数平均粒子径が0.25μmのアクリレート系重合体の40%水分散体を固形分相当で8部およびイオン交換水を全固形分濃度が30%となるように混合し、導電性接着剤層形成用のスラリー組成物を調整した。
【0071】
厚さ30μmのアルミニウム箔からなる集電体に前記導電性接着剤形成用のスラリー組成物を塗布し、120℃で、10分間乾燥して厚み4μmの導電性接着剤層を形成した。その後、導電性接着剤層を表面に形成した集電体を接地して水平に設置した。接地抵抗は10Ωであった。
【0072】
次いで、前記複合粒子の帯電及び供給を、旭サナック社製摩擦帯電式静電粉体塗装機MTR−100VTminiおよび旭サナック社製摩擦帯電式静電粉体手動ガンT−2mタイプL7(インナースリーブおよびアウタースリーブはポリテトラフルオロエチレン製)を用いて行った。具体的には前記複合粒子を前記粉体塗装機のホッパー内に投入し、定量供給用スクリューフィーダーの回転数を調節し、複合粒子を90g/分で供給した。また、前記粉体手動ガンからの搬送エア圧力を0.4MPaとして前記集電体に上部より複合粒子を供給した。なお、複合粒子は、前記粉体手動ガンのインナースリーブとアウタースリーブの隙間を通過させる際に発生する摩擦帯電により帯電させた。このときの電流値は1.5μA(C/秒)であった。帯電させた複合粒子の平均帯電量は1.0μC/gであった。供給した電極材料の重量および、集電体上に電極材料の層を形成した電極材料の重量から下式にしたがって集電体への塗着効率を算出したところ、43%であった。
塗着効率(%)=集電体上に付着した電極材料の重量/供給した電極材料の重量
【0073】
得られた電極材料の層の外観を観察したところ、均一に電極材料が集電体上に形成されていることを確認した。この電極材料の層が形成された集電体をロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度120℃、プレス線圧4kN/cm)に供給し、ロール加圧成形によりシート状の厚密化された電極層を形成して、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。
【0074】
<実施例2>
実施例1において、電極層を構成する結着剤としてアクリレート系重合体(アクリル酸n−ブチル40重量%、メタクリル酸エチル40重量%、ジエチルアミノメチルメタクリレート17重量%、メタクリル酸3重量%を乳化重合した共重合体)の40%水分散体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料の層の外観は問題なく、電極材料供給時の電流値は7.5μA(平均帯電量5.0μC/g)で、塗着効率は60%であった。
【0075】
<実施例3>
実施例1において、電極層を構成する結着剤としてアクリレート系重合体(アクリル酸n−ブチル35重量%、メタクリル酸エチル35重量%、ジエチルアミノメチルメタクリレート27重量%、メタクリル酸3重量%を乳化重合した共重合体)の40%水分散体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料の層の外観は問題なく、電極材料供給時の電流値は19.5μA(平均帯電量13.0μC/g)で、塗着効率は70%であった。
【0076】
<実施例4>
実施例1で得られた複合粒子100部と、帯電制御剤(綜研化学社製、「MP−5500」、スチレン−メタクリル酸共重合体、平均粒子径400nm)0.05部とを、ヘンシェルミキサー(三井三池社製)を用いて10分間混合し、複合粒子に帯電制御剤を付着させた粒子(外添粒子1)を得た。
実施例1において、電極材料として、複合粒子のかわりに、前記外添粒子1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料の層の外観は問題なく、電極材料供給時の電流値は9.0μA(平均帯電量6.0μC/g)で、塗着効率は52%であった。
【0077】
<実施例5>
実施例4において、帯電制御剤の量を0.5部とした他は、実施例4と同様にして複合粒子に帯電制御剤を付着させた粒子(外添粒子2)を得た。
実施例1において、電極材料として、複合粒子のかわりに、前記外添粒子2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料の層の外観は問題なく、電極材料供給時の電流値は18.75μA(平均帯電量12.5μC/g)で、塗着効率は65%であった。
【0078】
<実施例6>
実施例4において、帯電制御剤の量を2.0部とした他は、実施例4と同様にして複合粒子に帯電制御剤を付着させた粒子(外添粒子3)を得た。
実施例1において、電極材料として、複合粒子のかわりに、前記外添粒子3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料の層の外観は問題なく、電極材料供給時の電流値は22.5μA(平均帯電量15.0μC/g)で、塗着効率は80%であった。
【0079】
<実施例7>
実施例1において、集電体に接着剤層を形成させていないこと以外は実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料層の外観は問題なく、電極材料供給時の電流値は0.9μA(平均帯電量0.6μC/g)で、塗着効率は43%であった。
【0080】
<比較例1>
実施例1において、電極材料の帯電及び供給を、旭サナック社製コロナ帯電式静電粉体塗装機XR4−100STおよび旭サナック社製コロナ帯電式静電粉体ハンドガンX−3m+を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料の供給途中で逆電離現象が発生し電極材料の層の外観が損なわれた。電極材料供給時の電流値は3.0μA(平均帯電量2.0μC/g)で、塗着効率は65%であった。
【0081】
<比較例2>
実施例1において、摩擦帯電式静電粉体塗装ガンT−2mタイプL7のPTFE製のインナースリーブおよびアウタースリーブを同形状のステンレス製のものに交換したこと以外は、実施例1と同様にして、電極層厚みが60μm、電極層密度が0.58g/cmの電気二重層キャパシタ用電極を製造した。電極材料の層の外観は問題なく、電極材料供給時の電流値は0.0μA(平均帯電量0.0μC/g)で、塗着効率は8%であった。
【0082】
上記実施例や比較例で得られた電極を、室温で1時間電解液(1.0mol/Lのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液)に含浸させ、次いで2枚の電極がセルロースセパレータを介して、それぞれの電極層が内側になるように対向させ、それぞれの電極が電気的に接触しないように配置して、コインセル形状の電気二重層キャパシタを作製した。そして、作製した電気二重層キャパシタの内部抵抗を測定した。
内部抵抗は、作製したコインセルを24時間静置させた後に充放電の操作を行い測定した。充電は10mAの定電流で行い、放電0.1秒後の電圧降下と定電流値から内部抵抗を算出した。なお、内部抵抗値は、比較例1の内部抵抗値を100%としたときの相対値として表1に示す。内部抵抗値は、小さいほど好ましい。
【0083】
【表1】

【0084】
表1の結果より、以下のことがわかる。比較例1は、コロナ放電により電極材料を帯電させており、電極材料を摩擦帯電により帯電させる本発明の方法とは異なる方法で帯電させている。そのため、塗着効率は良好だが、電極の厚みが均一にならず、内部抵抗が劣っている。比較例2は、インナースリーブおよびアウタースリーブにフッ素含有基を有しないステンレスを用いているため、インナースリーブおよびアウタースリーブに電極材料が付着し、摩擦帯電が起こらないため塗着効率が劣り、また粉体供給が安定せず、電極厚みが均一にならず、内部抵抗が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の電気化学素子用電極の製造方法は、内部抵抗に優れ、電極材料の塗着効率も高いので、生産性良く電気二重層キャパシタ電極、ハイブリッドキャパシタ電極、リチウムイオン二次電池等の電極製造に好適に使用することができる。
【0086】
以上、現時点において、最も、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電気化学素子用電極の製造方法もまた本発明の技術的範囲に含包されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦帯電により帯電させた電極材料を、集電体上の少なくとも一面上に供給することにより電極層を形成させることを特徴とする電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項2】
前記摩擦帯電が、前記電極材料と、フッ素含有基を有する物質との摩擦による帯電である請求項1に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素含有基を有する物質が、フルオロカーボンである請求項1または請求項2に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項4】
前記電極材料が、電極活物質を含む複合粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項5】
前記電極材料が、さらに帯電制御剤を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項6】
前記電極材料が、プラスに帯電し易い官能基を有するものを含む請求項1〜5のいずれかに記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項7】
前記集電体が、少なくとも一面上に接着剤層を有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる電気化学素子用電極を備える電気化学素子。
【請求項9】
前記電気化学素子が、電気二重層キャパシタである請求項8に記載の電気化学素子。

【公開番号】特開2010−278125(P2010−278125A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127636(P2009−127636)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】