説明

電気絶縁層を析出する方法

本発明は、アークソースを作動させる方法に関するものであり、電気火花放電がターゲット(5)の表面で点火または作動し、火花放電には、直流電圧DVが割り当てられた直流電流と、周期的に印加される電圧信号によって生成されるパルス電流とが同時に供給される。このときアークソースの電圧は数マイクロ秒のうちに上昇し、または、電圧信号の信号形状は実質的に自由に調整可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提項に記載されているアークソースを作動させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術水準
従来技術より、アーク蒸発源またはスパーク蒸発器とも呼ばれるアークソースを、DC電流供給部とパルス電流供給部との組み合わせによって作動させる種々の方法が知られている。
【0003】
たとえば欧州特許出願公開第0666335B1号明細書では、良導体材料を蒸発させるために、直流電流で作動するアーク蒸発器に脈動電流を重ね合わせることが提案されている。このとき最大5000Aのパルス電流が実現され、このパルス電流は、100Hzから最大50kHzまでの比較的低いパルス周波数でコンデンサ放電により生成される。それにより、特に純粋に金属のターゲットを蒸発させる場合に、ドロップレット形成が大幅に低減するとされている。さまざまに作成可能なパルス電流のパルス形状を生成するために、個々のコンデンサ放電が用いられる。それにより、たとえば矩形の電流パルスパターンを作成する場合には、放電電圧の非常に短時間での上昇につながるが、そうした放電電圧は一定に保つことはできず、再び低下していく。火花放電における低いプラズマインピーダンスに基づいて火花電流がただちに上昇し、このことが、コンデンサ放電電圧およびこれに伴う火花放電電圧の低下という結果につながるからである。一時的な電圧ピークの好ましい効果が予想されるにもかかわらず、長時間にわたって高い火花放電電圧を維持することには成功しない。
【0004】
それに対して、この引用をもって本件出願の構成要素とする同一出願人のCH01614/06(10.10.2006)またはUS11/548,529(11.10.2006)より、欧州特許出願公開第0666335B1号明細書に記載されている方法に加えて、絶縁性の特に酸化物層を製作するために利用される金属を反応性ガス雰囲気の中で蒸発させるために、パルス化された火花電流を記載する方法が公知である。この方法では、ドロップレット低減に及ぼされるパルスの好ましい作用が記載されているだけでなく、反応性ガス雰囲気中での、特に酸素中での、火花ターゲットの作動に及ぼされる好ましい作用も説明されている。さらにこれらの出願では、火花放電電圧に重ね合わされる電圧パルスの勾配の重要性についても初めて説明されている。本件出願は当該発明を踏まえたものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の説明
本発明の課題は、上に述べた従来技術の欠点が回避され、火花放電の高い電離という利点を放電電圧の上昇という利点と結びつけることができ、その際に火花陰極が、特に火花陰極の表面が、過度に熱の負荷を受けることがない方法を提供することにある。この課題は、請求項1の特徴部に記載された本発明の構成要件によって解決される。
【0006】
この場合、電気火花放電がターゲットの表面で点火または作動し、それと同時に、この火花放電は電流源の直流電流と比較的低い直流電圧とによって作動する。それと同時に、周期的に印加される電圧信号によって生成されるパルス電流が供給され、この電圧信号の信号形状は基本的に自由に選択可能である。
【0007】
原則として、火花電流をパルス化し、そのようにして火花放電電圧を引き上げるにはさまざまな選択肢がある。
【0008】
火花放電のための電流を供給するパルス化電流供給部を使用することが、最初の取組みとしてはもっとも単純な選択肢であろう。しかしながら、大きい電流の切換/パルス化をするための従来技術の通常の発電機によっては、この取組みは火花放電電圧の上昇にはつながらず、もしくは少なくとも、印加される信号の時間全体にわたって一定ではない不十分な上昇にしかつながらないことが判明している。このような電圧上昇は十分に迅速ではなく、また、急勾配のエッジを高い周波数で具体化することもできない。100Aまたはそれ以上の高い火花電流でそれを実現することは困難または不可能だからである。したがって、このようなパルス信号の印加は振幅の小さい短い電圧ピークをもたらすにすぎず、そのような電圧ピークは、加えられる出力に呼応する電流上昇によって、および迅速な電荷担体提供の増大を引き下げるプラズマインピーダンスによって、相殺されてしまう。一方の電流供給源がパルス化されて作動する、2つの別個の電流供給源を組み合わせることも、大幅な改善を実現することはない。
【0009】
本発明によると、電圧信号の所望の信号形状を確保するために、高い出力をパルスで供給することができるパルス化電圧源の並列接続によって、火花電流を作動させることができる。あとで詳しく説明するように、このことは、たとえば複数のコンデンサ放電の相応に迅速な時間的連続によって惹起され、または、特別に設計された電圧供給部の採用によって惹起される。
【0010】
本発明によって実現される利点は、特に、火花放電の電流範囲/電圧範囲の管理または調整可能性が改善されることによって、さまざまなターゲット材料やプロセス条件について、火花蒸発から知られている高いコーティング速度で、コーティング素材の表面でのドロップレット形成に関して明らかに改善された品質を有する層を析出することができる作業領域を設定できるという点に見ることができる。
【0011】
このことは金属層の析出について当てはまるだけでなく、特に、反応性プロセスにおける各層の合成についても、同時に高い付着速度で当てはまる。たとえばこの場合、従来の火花放電プロセスよりもいっそう高い割合のターゲットの電離蒸気を、同じく少なくとも部分的に電離もしくは解離した反応性ガスとプラズマ中で、またはコーティングされるべき工作物の表面で反応させて、相応の層形成化合物にすることができる。たとえば窒化物、カーバイド、炭化窒化物、ホウ化物、ケイ素化合物、および元素周期表のIV族、V族、VI族の1つまたは複数の遷移金属ならびにアルミニウムのその他の化合物といった知られている多くの硬質物質の化合物のほか、ここでは特に、本方法によって酸化物の層またはその他の絶縁性層を製作するという選択肢を強調しておく。このようなパルス化法は炭素の火花蒸発において特別に好ましい。この材料では、純粋なDC電流供給によって陰極火花をうまく偏向させることはできない。電圧パルスとの重ね合わせは、火花の立脚点の「焼付き」が回避され、たとえばta−Cのような水素を含まない硬質の炭素層を析出することができるように、電子放出挙動に影響を与えるものと考えられる。ここで「焼付き」とは、ターゲット表面の非常に狭い領域に火花の立脚点が長くとどまることを意味しており、このことは特に炭素ターゲットの場合、表面の損傷、ドロップレット形成の増大、コーティング速度の低下などをしばしば伴う。
【0012】
コランダム構造の混晶を製作するのに適しているのは、特別に設計された垂直方向の小さい磁界を有さない、または有するアーク法、およびパルスが重ね合わされたアーク法、ならびに一般には、アーク蒸発器またはスパッタソースのような材料ソースに高電流パルスが印加される、またはDC基本動作に重ね合わされる、たとえばアーク法またはスパッタ法である。それにより、あとで詳しく説明する周辺条件が守られてさえすれば、ポイズニングされた状態での動作が可能であり、またはターゲットでの合金形成が可能である。
【0013】
コランダム型の結晶格子に多重酸化物の特に熱的に安定した混晶層を製作するためのパルスソース法では、少なくとも1つのアークソースに直流電流だけでなくパルス電流または交流電流も供給される。このとき、合金ターゲットとして施工されたアークソースまたはスパッタソースの第1の電極と、第2の電極とによって工作物に層が析出され、それと同時にこのソースには直流電流もしくは直流電圧だけでなくパルス電流または交流電流もしくはパルス電圧または交流電圧も供給される。このとき合金ターゲットは、混晶層の組成に実質的に呼応している。好ましいパルス周波数は1kHzから200kHzの範囲内にあり、パルス電流供給部は、さまざまに異なるパルス幅比率またはパルスポーズで作動させることもできる。
【0014】
このとき第2の電極はアークソースから分離されて配置されていてよく、またはアークソースの陽極として配置されていてよく、第1および第2の電極はただ1つのパルス電流供給部と接続されて作動する。第2の電極がアークソースの陽極として作動するのではない場合、アークソースは、パルス電流供給部を介して次の材料源のうちの1つと接続され、または作動する:
−同じくDC電流供給部と接続されている別のアーク蒸発源
−同じく電流供給部と、特にDC電流供給部と接続されたスパッタソースの、特にマグネトロン源の陰極
−同時に低電圧アーク蒸発器の陽極として作動する蒸発るつぼ
このときDC電流供給は、プラズマ放電が少なくともアーク蒸発源のところで、ただし好ましくはすべてのソースのところで、実質的に中断なく維持されるように、基本電流によって行われる。このとき、それぞれDC電流供給部とパルス電流供給部は、電気的な減結合フィルタによって減結合されたうえで、好ましくは少なくとも1つの阻止ダイオードを含んでいるのが好ましい。このときコーティングは650℃よりも低い温度で、好ましくは550℃よりも低い温度で行うことができる。
【0015】
火花蒸発に代えて、気体状の先駆物質の分解によってのみ層形成を行うことも基本的にはできるが、これは、工作物と火花源の間の光学結合がたとえば絞りまたはその他の設計上の措置によって遮断される場合に限られる。ここでは一例として、特にVDI2840の表1に記載されている窒化ケイ素、窒化ホウ素、およびこれに類似するシステムのような種々のDLC層またはダイヤモンド層を挙げておく。このような層の多くは、層形成材料の一部が気相に由来していて他の部分がスパッタ陰極または火花陰極のプラズマに由来する複合型のプロセスでも、析出することができる。
【0016】
さらにこのような方法によって、周期的に印加される電圧信号の、または電圧信号を形成するニードルパルスの、エッジの高さと勾配とを調整することで、火花放電の電子放出をコントロールすることが可能である。電圧信号またはニードルパルスが強くなればなるほど、または電圧上昇のそれぞれ相応のエッジが急勾配に選択されるほど、電子放出は強力になる。
【0017】
直流電流と、周期的に印加される電圧信号により生成されるパルス電流とによって電気火花放電が作動するとき、電圧信号の周波数を1Hzから200kHzの間で、好ましくは10Hzから50kHzの間で選択するのが好ましい。このとき電圧信号の信号形状は、たとえばのこぎり波状、多角形、台形などであってよいが、矩形の形状が、それによって与えられる特別に迅速な完全な振幅高さへの電圧上昇に基づき、および、全パルス時間Tpにわたっての当該電圧レベルPVでの保持に基づき、多くの用途について好ましい。
【0018】
このとき電圧信号または電圧発生器はギャップのあるパルスによって、すなわち、動作周波数の周期長の半分よりも短いパルス長によって、作動させることができる。
【0019】
火花放電によって生成されるプラズマの高い電離度に基づき、および、これに伴って十分な個数だけ存在している電荷担体に基づき、電流はただちに上昇し、もしくは数マイクロ秒の範囲内の遅延をするだけで上昇する。ただし、一方ではプラズマ中では電荷輸送が電子とイオンの両方によって行われ、後者は特定の慣性を有しているために、また他方では、たとえば火花電流回路におけるケーブルインピーダンスのような別の抵抗も一定の役割を演じるために、電流がただちにパルス化電圧信号に同程度に追随することはできない。本方法では、電圧信号が非常に高い振幅で印加されることによって、この現象を利用することができる。このような電圧信号は、あとで詳しく説明するように、もしもパルス長またはニードル信号の時間的制限がなければ、電圧の降下、電圧発生器の過負荷、有害な電気的なフラッシオーバの形成、ターゲット表面の損傷、プロセス中断、あるいはこれに類似する望ましくない現象へただちにつながることになる。代替的に、または追加の安全措置として、パルス周波数またはニードルパルス周波数による電流上昇を制限するために、検出された電流閾値を上回ったときに電圧信号を停止することで、有害な電流上昇に対処することもできる。いずれのケースでも、必要に応じて当業者によりそのつどの個別ケースについて、たとえば電圧パルスの相応の時間定数の調整によって判定可能であるように、たとえば上に述べたようなギャップのある動作による適合化されたパルスポーズを意図することができ、それにより、たとえば異なるターゲット材料や異なるプロセスガス組成を有するプロセスについて信号形状を最適化する。
【0020】
このとき信号形状は、たとえば時間的な順序で制御される個々のコンデンサの放電によって生成される、1列のニードルパルスの合成によって形成されるのが好ましい。このときニードルパルスのエッジ勾配は少なくとも0.5V/μs、ただし特に少なくとも2V/μsであるのがよく、そのようにして、合成により形成される電圧信号の勾配をも規定する。ニードルパルスの連続または時間は0.1kHzから1MHzの間または10msから1μsの間、ただし特に1kHzから500kHzの間または1msから2μsの間で調整することができる。すでに述べたとおり、合成がパルス時間Tpにわたって準定常的な電圧形状を有するように、すなわちほぼ矩形の形状を有するように、ニードルパルスを選択するのが特別に好ましく、それにより、パルス時間にわたって所望の放出プロセスを陰極で安定的に保つことができる。
【0021】
このときニードルパルスまたは電圧信号の絶対的な振幅高さは、電離の増大等の所望の効果を実現するために、印加される直流電圧を少なくとも10パーセントだけ、ただし好ましくは少なくとも30パーセントだけ上回っているのがよい。
【0022】
このようなコンデンサ放電の連続の利点は、たとえばパルスごとに数百kWという非常に高いパルス出力を具体化できるという点にある。これに比べてDC動作での火花ターゲットは、典型的には5から10kWで作動する。しかし、ただ1つのコンデンサ放電に由来するこのような高出力パルスとの間で高周波の重ね合わせをすると、ソースおよび/またはその他の構造部分の過負荷につながることになり、また、パルス時間全体にわたる所望の電圧安定性も保証されなくなる。したがって、そのような高エネルギーのコンデンサ放電は約10kHz以下の、ただし高くとも50kHzの周波数領域について有意義である。一方、出力の低いコンデンサの放電、およびこれを時間的に並べることは、当業者には周知であるように、これよりも高い周波数で行うことができる。
【0023】
代替的に、このような電圧信号または相応のニードルパルスの連続を、信号長、信号周波数、電圧振幅、パルスポーズ、および/または信号形状に関して自由に調整可能な1つまたは複数の電圧供給部によって提供することもできるが、これは、その電圧供給部が高いエッジ勾配のパルス化電圧信号を出すように設計されている場合に限られる。このような電圧供給部は、たとえば国際公開第06099759号パンフレットに詳しく記載されている。したがってこれに対応する出願を、特に、同文献で真空プラズマ発電機と呼ばれているそのような電圧供給部の使用についての14頁2段落から17頁下までの記載を、本件特許出願の不可欠な構成要素とする。このような種類の発電機を用いて、0.1V/nsから1.0V/nsのエッジ勾配を実現することも可能である。
【0024】
このような電圧供給部の使用は、特に、たとえば10から200kHzの比較的高いパルス周波数が適用されるべきである場合に推奨される。その際に留意すべきは、パルス化された電圧源または電圧供給部の使用は、常に、実現可能なパルスエネルギーと可能な周波数との妥協になるということである。
【0025】
ターゲット表面での熱による励起をいっそう高めるために、冷却していないターゲットまたは加熱されたターゲットを用いた個々の実験が実施されており、酸素のもとですぐに赤熱するターゲット表面から材料が蒸発した。こうして製作された層もコランダム型の格子を示す。それと同時に、このようなプロセスでは、放電電圧の上昇を手がかりとしてプラズマインピーダンスの増大も確認することができ、そのような増大は、ターゲット材料の蒸気圧の上昇と結びついた赤熱表面の電子放出増大に起因するものであり、ソース電流のパルスによっていっそう強められる。
【0026】
本発明による酸化物層を製作するためのさらに別の選択肢は、少なくとも1つのソースを備える高出力放電を作動させることにある。このような高出力放電は、たとえば0.02V/nsから2.0V/nsの範囲内にある、好ましくは0.1V/nsから1.0V/nsの範囲内にあるパルスエッジ勾配をもつパルス電流供給部またはパルス電圧供給部の作動によって、生成することができる。このとき、少なくとも20A、ただし好ましくは60Aまたはこれ以上の電流が、60から800Vの間の、好ましくは100から400Vの間の電圧で、同時に作動するDC放電の電圧および電流に重ねて印加され、またははこれに加えて印加される。このような電圧ニードルパルスは、たとえば1つまたは複数のコンデンサカスケードによって生成することができ、このことは、他のさまざまな利点に加えて、基本電流供給部の負担軽減も可能にする。しかしながらパルス発生器は、同時に2つのDC動作のアークソースの間につながれるのが好ましい。このことは、驚くべきことに、アーク法でのニードルパルスの印加によって、印加される電圧信号の大きさに依存して数μs以上にまでソースにおける電圧を上昇させることができ、それに対してエッジ勾配の低いパルスは、予想されるように、ソース電流の上昇という結果を生むにすぎない。
【0027】
第1の実験が示すように、このような高電流放電によって、合金ターゲットを含むスパッタソースから、コランダム構造、エスコライト構造、またはこれに匹敵する六角結晶構造をもつ酸化物の多重酸化物を製作することも可能であり、このことは、ターゲットの表面における出力密度の増大、およびこれに伴う強力な温度上昇におそらく起因しており、この場合にも、上述したように冷却されていないターゲットまたは加熱されたターゲットの使用が好ましいことがある。このようなプロセスについて高出力放電は、高出力アーク用としても高出力スパッタ用としても、タウンゼント電流電圧グラフから知られる変則的なグロー放電に相当する類似の特性を示す。
【0028】
原則として、プラズマまたはターゲット表面のインピーダンス上昇のためのさまざまな方策が可能である。このことは、上に説明したようにニードルパルスの重ね合わせ、ターゲット表面の加熱、またはこれらの方策の組み合わせによって惹起することができる。重ね合わせとは、ここではDC放電電圧とニードルパルスとの重ね合わせを意味しており、少なくとも部分的に重なり合うニードルパルスの連続という意味での、ニードルパルスの時間的な重ね合わせも排除されるものではない。特別に高い出力を実現するために、たとえば2つまたはそれ以上のコンデンサを同時に放電させることができ、そのようにして、いわば特別に高いニードルパルスが形成されることは当業者にとって自明である。
【0029】
次に、本発明のさまざまな実施例を示すにすぎない図面を参照しながら、本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】DC電流供給部とパルス電流供給部とを備えるスパークコーティング設備である。
【図2】DC電流供給部とパルスコンデンサとを備えるスパークコーティング設備である。
【図3】模式的な電圧形状である。
【図4】模式的な電圧/電流形状である。
【図5】測定された電圧/電流形状である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に示す真空処理設備1は、直流電流をパルス化電圧信号と重ね合わせるために、DC電流供給部13と、これと並列につながれたパルス化電圧源15、本例では電圧供給部15とを含む複合型の発電機ユニット16を備える、アークソースを作動させる構造を示している。このような配線は、時間の経過とともに設備1の内部、補助陽極10、および基板保持部3または基板に絶縁性層が堆積する絶縁性層についても、反応性火花蒸発の安定した動作を可能にする。設備1は、真空を生成するためのポンプスタンド2と、ここには詳しくは図示しない工作物の収容と電気接触のための基板保持部3と、いわゆる基板電圧を工作物へ印加するためのバイアス電流供給部4とを装備している。後者はDC基板電圧供給部、AC基板電圧供給部、またはバイポーラまたはユニポーラの基板電圧供給部であってよい。処理室内のプロセス圧力およびガス組成を制御するために、少なくとも1つのプロセスガス入口11を介して不活性ガスまたは反応性ガスを導入することができる。
【0032】
アークソース自体の構成要素は、点火フィンガ7を備えるターゲット5と、ターゲット5を包摂している陽極6である。スイッチ14により、陽極および電流供給部13の正極の浮動動作と、定義されたゼロ電位またはアース電位による動作との間で選択をすることができる。さらに、アークソースはターゲット磁石システム12を含むことができ、たとえば1つまたは複数のコイルおよび/または永久磁石システムを含むことができる。
【0033】
真空処理設備1のさらに別の任意選択の構成要件は追加のプラズマ源9であり、本例においては、高温陰極および不活性ガス入口8を備える低電圧アーク(NVB)を生成するためのソースと、補助陽極10と、プラズマ源9と補助陽極10の間で低電圧アークを作動させるためのここには詳しくは図示しない別の電流供給部と、必要に応じて、低電圧アークプラズマを磁気的に集束させるためのコイル17である。
【0034】
図2では、電圧源は、複数のコンデンサまたはコンデンサアレイ19を充電するための少なくとも1つの充電電圧供給部18と、充電電圧供給部へ充電をするため、またはアークソースへのニードルパルスを生成するために、コンデンサ19を時間的に制御しながら切り換える相応のスイッチ20とで構成されている。便宜上、図2ではこのようなコンデンサとスイッチの構造を代表する1つのコンデンサ19とスイッチ20だけが図示されている。このとき充電電圧供給部18は、たとえば100から1000Vの間の一定の電圧を提供するのに対して、ここでは同じく発電機ユニット16に統合されているDC電流供給部13の動作電圧は約10から約100Vであり、火花放電発電機の通常の動作電圧の範囲内にある。
【0035】
図3は、スイッチ20の相応の制御によって生成することができる、考えられる電圧形状を示している。ここでは複数のコンデンサ放電が並んでおり、それにより、コンデンサの放電によって生成されるニードルパルス22の合成21が、パルス電圧PVを有するパルス化された電圧信号の信号形状を生起するようになっている。測定される実効電圧に実質的に相当する理想化された合成21は、ニードルパルスの大きさが等しいとき、最大のニードル電圧のほぼ3分の2の大きさで進行し、電気的なインピーダンスおよびニードルパルスの間隔によって根拠づけられるリプルと重ね合わされていてよい。ニードルパルス22は、ここでは模式的に三角形として図示されており、ギャップを有していない。当然ながら、ニードルパルスはこれと異なる形状を有することができ、ギャップを有するように並べることができる。このときパルス化電圧信号が、DC電流供給部13により生成されるDVの大きさの低電圧の直流電圧信号に重なり合う。時間Tのニードルパルス22のパケットごとの高速の連続によって、電圧上昇PV−DVを比較的長い時間Tにわたって、ただし少なくとも時間Tの中周波パルス信号を形成する長さの間だけ、安定的に保つことができる。このとき信号の形状は、当業者には周知であるさまざまな大きさもしくは長さのニードルパルスの印加によって変えることができ、または、火花放電のインピーダンスに合わせたコンデンサ放電の適合化によって変えることができる。矩形信号の場合、個々のコンデンサの容量が十分に大きく選択されていれば、合成21の立ち上がりエッジ23はニードルパルスと同じ勾配を有することができる。代替的に、当業者には周知であるように、相応の電圧信号を強制的に作成するために、それぞれ多数の小型のコンデンサを同期してサイクル化することができる。
【0036】
このときTは5μsから1sの間で調整することができ、ただし好ましくは20μsから100msの間で調整することができる。このとき、前述したようにギャップのある動作も可能である。Tは1μsから100msの間で調整することができ、好ましくは2μsから1msの間で調整することができる。極端に短い電圧信号が希望されるときは、ただ1つのニードルパルスによって電圧信号を構成することもできる。この場合には1つの電圧ピークが形成されるにすぎない。しかしながら、信号形状を自由に調整できるという本方法の利点は、電圧信号ごとに3個、好ましくは5個、特に10個のニードルパルスの最小限の連続によって初めて活用することができる。それにより、たとえば矩形パルスを採用した場合に完全なパルス電圧を印加することができる時間を少なくとも3、5、または10マイクロ秒にすることができ、好ましくは少なくとも6、15、または30マイクロ秒にすることができる。最大時間は、時間的なサイクル化をしている場合、たとえば電圧信号の周波数の半分によって規定することができる。
【0037】
同様に、たとえば国際公開第06099759に記載されているような電圧供給部によって、良好に定義された非常に急勾配の電圧信号を具体化することもでき、このような電圧信号は、火花放電電圧の相応の上昇を惹起するために、連続するニードルパルスのパケットが組み合わされてなっていてもよい。
【0038】
図4には、このような並列につながれたパルス化電圧源の作用形態について、原理的な電圧/電流挙動が掲げられている。図4Aは、図3に準じて、合成21の生成についての詳細を省いたうえで、DC電流供給部13(破線)およびパルス電圧源15または18から20(実線)の結果として生じる火花電圧の電圧形状を示している。図4Bは、これに対応する電流形状を示している。このとき火花電流の電流上昇は、事実上、パルス化電圧源によって高さPVがパルス信号の印加されたときにすぐ行われ、それにより、火花放電プラズマを通って流れる放電電流を引き上げる。ここで付言しておくと、図4および図5には放電電流の合計曲線ではなく、パルス化電圧源(実線)またはDC電流供給部13(破線)により生成される電流の曲線が別々に示されている。火花電圧は目標値へ非常に迅速に達し、パルスの長さ全体にわたってこの目標値を事実上定常的に保つことができるのに対して、火花電流は全パルス時間にわたっていわば線形に、火花電流回路のケーブルインピーダンスや他の抵抗によって規定される明らかに低い勾配で増加する。このとき火花電流は、タウンゼントグラフからも予期されるように、飽和に達するのではない。電圧パルスの停止と火花放電電圧の低下がはじめて火花電流を再び下げることができる。つまり原則として、DC火花電流供給部と並列につながれたパルス化電圧源により、火花放電電圧の準定常的な電圧上昇を実現することができる。このとき、パルス動作における勾配および電圧上昇の値は、たとえばケーブルインピーダンス、放電インピーダンス、ターゲット材料等のさまざまなパラメータに依存して決まる。パルスの勾配と電圧上昇の振幅とは、相互にも影響を及ぼしあう。電圧パルスを急勾配に構成することができるほど、電流上昇の相対的な慣性に基づき、可能な電圧上昇も大きくなる。ただし、やはり図4からわかるように、パルス長は無制限に長くてよいわけではない。電圧上昇は火花電流の追随を生じさせるが、このことは通常、短絡電流とも呼ばれる閾値に達したとき、電圧供給部の自動的な停止につながるからである。このような自動的な停止点も、電圧信号のパルス長Tの制限、ニードルパルスの長さTまたは順序と配置に加えて、電流上昇およびこれに伴う火花陰極での蒸発プロセスを制御するために利用することができる。
【0039】
図5は、あとに詳しく掲げるパルスコーティングプロセス中に記録された電流電圧曲線を示しており、パルス電圧供給部15から周期的に印加される電圧信号Upulsと、これに対応する、DC電流供給部13からの直流電流IDCに重ね合わされるパルス電流Ipulsとを含んでいる。この場合にも、パルス電流Ipulsはパルス電圧PVの到達後にも、パルスが停止されるまで上昇していることがわかる。DC動作と比べたときの電圧上昇は、この場合には約−20Vである。
【0040】
図示している電流電圧曲線は、Oerlikon Balzers社のInnova生産システムでAlまたは(Al,Cr)層を析出する場合に、下記の条件のもとで行われたものである:
1.酸化アルミニウムを製作するための火花蒸発のプロセスパラメータ:
酸素流 400sccm
プロセス圧力 1×10−2mbar
DC電源電流Alターゲット 100A
パルス電源電流Alターゲット 50kHzで100A、10μsパルス/10μsポーズ
基板バイアス −40V DCパルス化またはAC(それぞれ50〜350kHz)
基板温度 約500℃
プロセス時間 60から120分、いくつかの実験では360分
ここでは電圧パルスの合成の立ち上がりエッジ23の上昇時間は約6V/μsで測定している。
【0041】
2.コランダム構造のアルミニウム/酸化クロム混晶を製作するための火花蒸発のプロセスパラメータ:
酸素流 1000sccm
プロセス圧力 2.6×10−2mbar
DC電源電流Al0.7Cr0.3: 120A
パルス電源電流Al0.7Cr0.3: 100A、30kHz、8μsパルス/25μsポーズ
型式Oerlikon Balzers MAG 6のソース磁界のコイル電流は0.5Aで調整した。
それによりターゲット表面では、実質的に鉛直方向に約2mT(20Gs)の弱い磁界が生成された。
基板バイアス U=−60V (バイポーラ、36μs負、4μs正)
基板温度 約550℃
プロセス時間 60から120分
ここでは電圧パルスの合成の立ち上がりエッジ23の上昇時間は約2V/μsで測定している。
【0042】
たとえば火花源への非常に短いケーブル接続を選択することでパルス電圧供給を相応に適合化することによって、最大100V/μsの勾配を実現することができた。
【符号の説明】
【0043】
1 スパークコーティング設備
2 真空ポンプスタンド
3 基板保持部
4 パルスバイアス供給部
5 ターゲット
6 陽極
7 点火装置
8 電離室
9 フィラメント
10 補助陽極
11 ガス入口
12 ターゲット磁石システム
13 DC電流供給部
14 アーススイッチ
15 パルス電圧供給部
16 発電機ユニット
17 コイル
18 充電電圧供給部
19 コンデンサ
20 パルススイッチ
21 合成
22 ニードルパルス
23 立ち上がりエッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークソースを作動させる方法であって、電気火花放電がターゲット(5)の表面で点火または作動し、前記火花放電には、直流電圧DVが割り当てられた直流電流と、周期的に印加される電圧信号によって生成されるパルス電流とが同時に供給される、そのような方法において、前記アークソースの電圧は数マイクロ秒のうちに上昇することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電圧信号の信号形状は実質的に自由に選択可能であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電圧信号の周波数は1Hzから200kHzの間であり、好ましくは10Hzから50kHzの間であることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記信号形状はのこぎり波状、多角形、台形、ただし好ましくは矩形であることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記電圧信号はギャップのある動作で印加されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記電圧信号は検出された電流閾値を上回ったときに停止されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記信号形状は1列のニードルパルス(22)の合成(21)によって形成されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ニードルパルス(22)は時間的な連続で制御される個々のコンデンサ(19)の放電によって生成され、またはパルス電圧供給部(15)によって生成されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ニードルパルス(22)の立ち上がりエッジ(23)のエッジ勾配は少なくとも0.5V/μs、ただし好ましくは少なくとも2V/μsであることを特徴とする、請求項7および8に記載の方法。
【請求項10】
前記ニードルパルス(22)の連続ないし時間は0.1kHzから1MHzの間または10msから1μsの間であり、好ましくは1kHzから500kHzの間または1msから2μsの間であることを特徴とする、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ニードルパルス(22)の高さPVは印加される直流電圧DVを少なくとも10パーセント、好ましくは少なくとも30パーセントだけ上回っていることを特徴とする、請求項7から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも3個、好ましくは少なくとも5個の前記ニードルパルス(22)が前記電圧信号の生成のために用いられることを特徴とする、請求項7から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記電圧信号は信号長、信号周波数、電圧振幅、パルスポーズ、および/または信号形状に関して自由に調整可能なパルス電圧供給部(15)または発電機ユニット(16)によって提供されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記電圧信号は前記ニードルパルスの時間的な連続、エッジ勾配、および/または高さに関して自由に調整可能なパルス電圧供給部(15)または発電機ユニット(16)によって提供されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記電圧信号の立ち上がりエッジ(23)の勾配は少なくとも0.5V/μs、ただし好ましくは少なくとも2V/μsであることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
実質的に全パルス長Tにわたって特に一定のパルス電圧PVが印加されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
周期的に印加される前記電圧信号は複数の前記アークソースのターゲット(5)へ交互に印加されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
絶縁性で特に酸化物を含有する層または酸化物の層が析出されることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ターゲット(5)の材料は炭素でできており、または20容量%を超える炭素を含む材料でできていることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1から19までのいずれか1項に記載の方法に基づいて作動するアークソースを用いて、コーティングされた基板を製作する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−503350(P2011−503350A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532514(P2010−532514)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052521
【国際公開番号】WO2009/059807
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(598051691)エリコン・トレーディング・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ (44)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Trading AG,Truebbach
【Fターム(参考)】