説明

電気絶縁性多層シ−ト

【課題】 太陽電池モジュール用保護シートに好適な、溶融押出し成形で製造できる防湿性、電気絶縁性多層保護シ−トを提供する。
【解決手段】 2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体とを、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(a)の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%、置換基含有ノルボルネン系モノマー由来の繰り返し単位(b)の全繰り返し単位に対する存在割合が10〜0重量%の割合で開環重合して得られる開環重合体の主鎖炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化することにより得られる2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物であって、融点を有する開環重合体水素化物からなる層Aを中間層とし、波長250〜365nmにおける光線透過率が、100μm当たり50%以下である樹脂層Bが、層Aの両面に配置されている電気絶縁性多層シ−ト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間にわたる過酷な自然環境に耐え得る耐候性、防湿性に優れた太陽電池用裏面保護シートに好適な電気絶縁性多層シート関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題に対する関心が高まっている。温暖化の要因として二酸化炭素の排出が挙げられ、温暖化防止のために二酸化炭素排出量抑制のための種々努力が行われている。二酸化炭素を発生させないクリーンなエネルギー源として太陽光発電に対する期待が高まっている。太陽電池は太陽光のエネルギーを直接電気に変換する太陽光発電システムの心臓部を構成するものである。発電素子であるセルは半導体からできている。太陽電池の構造は、発電素子単体をそのままの状態で使用することはなく、一般的に数枚〜数十枚の発電素子を直列、並列に配線し、長期間(約20年)に亘って素子を保護するため種々パーケージングが行われ、ユニット化されている。このパッケージに組み込まれたユニットを太陽電池モジュールと呼び、一般的に太陽光が当たる面をガラスで覆い、熱可塑性プラスチックからなる充填材で発電素子の間隙を埋め、裏面を防湿・耐候性プラスチック材料などのシートで保護された構成になっている。
【0003】
これらの太陽電池モジュールは、屋外で使用されるため、その構成、材質構造などにおいて、十分な耐久性、耐候性が要求される。特に、裏面保護シートは耐候性と共に水蒸気透過率の小さいことが要求される。これは水分の透過により充填材が吸湿して配線の腐蝕を起こしたり、発電素子が劣化して、モジュールの出力そのものに影響を及ぼす恐れがあるためである。
【0004】
従来から、この太陽電池用裏面保護シートとしては、ガラスの他、ポリフッ化ビニルフイルムでアルミニウム箔をサンドイッチした積層構造の裏面保護シートが多く用いられていた。しかし、モジュール作成時の破損や熱変性を抑制するべく、より高い機械的強度、また高い耐熱性が求められてきている。また、吸湿を抑制するため金属層を有する保護シートを用いた場合、保護シートに破損が起きると太陽電池素子と金属層とが短絡して電池性能に悪影響を及ぼす。また、金属層形成は生産性を低下させる原因ともなっている。
特許文献1において、環状オレフィン系開環重合体または環状オレフィン系開環重合体の水素添加物からなる層を有する保護シートが提案されている。ここで具体的に開示されている保護シートの構成は、環状オレフィン系開環重合体または環状オレフィン系開環重合体の水素添加物からなる層の他に、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリエーテル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、その他プラスチックからなる層が例示されている。そして、実施例においては、環状オレフィン系開環重合体の水素添加物からなるシートとフッ素樹脂からなるシートとを一枚ずつ重ねた2層の保護シートについて、耐候性と防湿性を確認している。
【0005】
ところで、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する樹脂溶液を用いて物品の表面を保護すると、水蒸気バリア性、屈曲性、耐油性などを改善できることが特許文献2において知られている。ここでは、具体的には高密度ポリエチレンフィルムに融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物溶液を塗布、乾燥した多層フィルムに関して、その効果を確認している。
【0006】
【特許文献1】特開2000−106450号公報
【特許文献2】特開2008−111033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、太陽電池モジュール用保護シートに好適な、溶融押出し成形で製造できる安価な防湿性、電気絶縁性多層保護シ−トを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が、特許文献2に記載されたような、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を太陽電池モジュール用保護シート材料として検討した結果、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物からなる保護層は、光照射により酸化劣化することが判った。
かかる知見のもと、本発明者は、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物からなる層の両側を遮光層で挟んだ電気絶縁性多層保護シートであれば、光照射を受けても優れた水蒸気バリア性を維持する太陽電池モジュール用保護シートとして有用であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
かくして本発明によれば、2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体とを、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(a)の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%、置換基含有ノルボルネン系モノマー由来の繰り返し単位(b)の全繰り返し単位に対する存在割合が10〜0重量%の割合で開環重合して得られる開環重合体の主鎖炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化することにより得られる2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物であって、融点が110〜145℃である2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体との開環重合体水素化物(以下、「融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物」ということがある)からなる層Aを中間層とし、波長250〜365nmにおける光線透過率が、100μm当たり50%以下である樹脂層Bが、層Aの両面に配置されている電気絶縁性多層シ−トが提供される。
【0010】
本発明に係る遮光性を有する樹脂層Bは、波長250〜365nmにおける光線透
光線透過率がこれを上回る場合は、長期間の太陽光照射により、開環重合体水素化物からなる層Aの防湿性が低下し、保護シ−トを透過する水分が多くなり、配線の腐蝕を起こしたり、発電素子が劣化したりして好ましくない。
層Aに配置される一方の面の樹脂層Bと他方の面の樹脂層Bとは、同じ樹脂からなるものでも、異なる樹脂からなるものでも良く、光線透過率も本願の規定に入る限り、二つの樹脂層Bが同じ光線透過率でなくても良い。
【0011】
層Aを構成する融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物は、2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体とを、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(a)の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%、置換基含有ノルボルネン系モノマー由来の繰り返し単位(b)の全繰り返し単位に対する存在割合が10〜0重量%の割合で開環重合して得られる開環重合体の主鎖炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化することにより得られる2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物であって、融点が110〜145℃である2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体との開環重合体水素化物であり、前記特許文献2に詳述されているノルボルネン系開環重合体水素化物と同様にして得ることができる。
【0012】
2−ノルボルネン又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を、メタセシス重合触媒の存在下に開環重合することにより、2−ノルボルネン単独開環重合体又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体の開環共重合体を得ることができる。
【0013】
2−ノルボルネンは、公知の化合物であり、例えば、シクロペンタジエンとエチレンとを反応させることにより得ることができる。
【0014】
置換基含有ノルボルネン系単量体は、分子内にノルボルネン骨格を有する化合物である(ただし、2−ノルボルネンを除く)。本発明に用いる「置換基含有ノルボルネン系単量体」には、置換基を有する2−ノルボルネン誘導体のほか、縮合した環を有するノルボルネン化合物も含まれる。
【0015】
置換基含有ノルボルネン系単量体としては、分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体、及び3環以上の多環式ノルボルネン系単量体等が挙げられる。
【0016】
前記分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体の具体例としては、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン等のアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネン等の芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;等が挙げられる。
【0017】
3環以上の多環式ノルボルネン系単量体とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環と縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン系単量体である。その具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン等のシクロペンタジエン類;テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、等の芳香環を有するノルボルネン誘導体;テトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−フェニルテトラシクロドデセン、8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、8−シアノテトラシクロドデセン、8−クロロテトラシクロドデセン、8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のテトラシクロドデセン類;ヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−フェニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミド、12−クロロヘキサシクロヘプタデセン、12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセン等のヘキサシクロヘプタデセン類等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明においては、上記した2−ノルボルネン及び/又は置換基含有ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体とを組み合わせて用いることもできる。
【0019】
2−ノルボルネン及び/又は置換基含有ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状ジエン及びその誘導体;等が挙げられる。
【0020】
単量体の組成は、2−ノルボルネンが、通常、90〜100重量%、好ましくは95〜99重量%、より好ましくは97〜99重量%であり、置換基含有ノルボルネン系単量体は、通常、0〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。
【0021】
メタセシス重合触媒としては、例えば、特公昭41−20111号公報、特開昭46−14910号公報、特公昭57−17883号公報、特公昭57−61044号公報、特開昭54−86600号公報、特開昭58−127728号公報、特開平1−240517号公報等に記載された、本質的に(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分からなる一般のメタセシス重合触媒;シュロック型重合触媒(特開平7−179575号公報、Schrock et al.,J.Am.Chem.Soc.,1990年,第112巻,3875頁〜等)や、グラブス型重合触媒(Fu et al.,J.Am.Chem.Soc.,1993年,第115巻,9856頁〜;Nguyen et al.,J.Am.Chem.Soc.,1992年,第114巻,3974頁〜;Grubbs et al.,WO98/21214号パンフレット等)等のリビング開環メタセシス触媒;等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、得られる重合体の分子量分布を好適な範囲に調節するには、(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分とからなるメタセシス重合触媒が好ましい。
前記(a)遷移金属化合物触媒成分の具体例としては、TiCl、TiBr、VOCl、WBr、WCl、WOCl、MoCl、MoOCl、WO、HWO等が挙げられる。なかでも、重合活性等の点から、W、Mo、Ti、又はVの化合物が好ましく、特にこれらのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、又はアルコキシハロゲン化物が好ましい。
【0023】
前記(b)金属化合物助触媒の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等の有機アルミニウム化合物;テトラメチルスズ、ジエチルジメチルスズ、テトラブチルスズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ化合物;n−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物;n−ペンチルナトリウム等の有機ナトリウム化合物;メチルマグネシウムイオジド等の有機マグネシウム化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジエチルカドミウム等の有機カドミウム化合物;トリメチルホウ素等の有機ホウ素化合物;等が挙げられる。これらの中で、第13族の金属の化合物が好ましく、特にAlの有機化合物が好ましい。
【0024】
また、前記(a)成分、(b)成分の他に、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、分子状酸素、アルコール、エーテル、過酸化物、カルボン酸、酸無水物、酸クロリド、エステル、ケトン、含窒素化合物、含ハロゲン化合物、その他のルイス酸等の第3成分を併用することができる。
【0025】
これらの成分の配合比は、(a)成分:(b)成分が金属元素のモル比で、通常、1:
1〜1:100、好ましくは1:2〜1:10の範囲である。また、(a)成分:第三成分がモル比で、通常、1:0.005〜1:50、好ましくは1:1〜1:10の範囲である。
【0026】
また、重合触媒の使用割合は、(重合触媒中の遷移金属):(全単量体)のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:1,000〜1:20,000、より好ましくは1:5,000〜1:8,000である。触媒量が多すぎると重合反応後の触媒除去が困難になり、また、分子量分布が広がるおそれがあり、一方、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0027】
開環重合は無溶媒で行うこともできるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。
用いる有機溶媒としては、重合体及び重合体水素化物が所定の条件で溶解もしくは分散し、かつ、重合及び水素化反応に影響しないものであれば特に限定されないが、工業的に汎用されている芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及びエーテル類が好ましい。
【0028】
開環重合においては、反応系に1−ヘキセン等のα−オレフィン分子量調節剤を添加することができる。分子量調節剤を添加することで、得られる開環重合体の分子量を調整することができる。
分子量調節剤の添加量は、所望の分子量を持つ重合体を得るに足る量であればよく、(分子量調節剤):(全単量体)のモル比で、通常、1:50〜1:1,000,000、好ましくは1:100〜1:5,000、より好ましくは1:300〜1:3,000である。
【0029】
開環重合は、単量体と重合触媒とを混合することにより開始される。開環重合を行う温度、時間、圧力条件は、前記特許文献2に記載されているような一般的な条件が採用される。
反応終了後においては、通常の後処理操作により目的とする開環重合体を単離することができる。
【0030】
得られた開環重合体は、次の水素化反応工程へ供される。
ノルボルネン系開環重合体の水素化反応は、ノルボルネン系開環重合体の主鎖又は/及び側鎖に存在する炭素−炭素二重結合に水素化する反応である。この水素化反応は、ノルボルネン系開環重合体の不活性溶媒溶液に水素化触媒を添加し、反応系内に水素を供給して行う。
【0031】
水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化に際して一般に使用されているものであれば、均一系触媒、不均一系触媒のいずれも使用することができる。得られる重合体中の残留金属の除去等を考慮すると、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、又はこれらの金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた固体触媒系不均一系触媒が好ましい。
【0032】
触媒の使用量、水素化反応温度、水素化反応時間、水素圧、水素化反応溶媒などは、特許文献2に記載されたような一般的な条件を採用すれば良い。
水素化反応終了後は、反応溶液から水素化触媒等を濾別し、濾別後の重合体溶液から溶媒等の揮発成分を除去することにより、目的とする、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を得ることができる。溶媒等の揮発成分を除去する方法としては、特許文献2に記載されたような、一般的な樹脂の乾燥方法である凝固法や直接乾燥法等公知の方法を採用することができる。
【0033】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物は、重合体中の炭素−炭素二重結合の水素化率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上である。上記の範囲にあると、樹脂層の耐光性に優れ好ましい。
【0034】
以上のようにして得られるノルボルネン系開環重合体水素化物(以下、「開環重合体水素化物」ということがある。)の水素化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、H−NMRにより測定して求めることができる。
【0035】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)の全繰り返し単位に対する存在割合は、90〜100重量%、好ましくは95〜99重量%、より好ましくは97〜99重量%であり、置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位(B)の全繰り返し単位に対する存在割合は、0〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。
【0036】
繰り返し単位(B)の存在割合が多すぎると、多層シートの耐熱性や水蒸気バリア性が悪化するおそれがある。繰り返し単位(B)の存在割合が上記範囲であると、水蒸気バリア性に優れ、また、多層シートの機械的特性にも優れ好ましい。また、繰り返し単位(B)の存在割合が少なすぎると、機械的特性が低下するおそれがある。
【0037】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算で、好ましくは50,000〜200,000、より好ましくは60,000〜180,000、さらに好ましくは70,000〜150,000である。
【0038】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物のMwがこの範囲にあると、2−ノルボルネン開環重合体水素添加物の溶剤への溶解性が良好であるためポリマーの生産性に優れ、ポリマーの精製も容易であり、かつ、成形も容易であり、得られた多層シートの機械的特性ならびに耐熱性が良好であるため好ましい。一方、Mwが高すぎると、溶融粘度が高くなりすぎ、ろ過性が低下するため生産性が悪化するおそれがあり、また、当該樹脂をシート成形するする際にはシートの膜厚精度を高めるため樹脂温度を高くする必要が生じ、樹脂焼けに起因するダイラインが発生おそれがある。また、Mwが小さすぎると成形品の機械的特性や耐熱性が低下するおそれや、当該重合体水素添加物が結晶性であるため溶液に溶解し難くなり、ポリマーの生産性の悪化やポリマーの精製が困難になるおそれがある。
【0039】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.5〜5.0、より好ましくは2.0〜4.5、さらに好ましくは2.5〜4.0、特に好ましくは2.5〜3.5である。
Mw/Mnが狭すぎると、該重合体が、有機溶剤に溶解しにくくなり析出する恐れがある。また、Mw/Mnが広すぎると、多層シートの機械的特性が低下するおそれがある。
【0040】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の融点(Tm)は、通常110〜145℃、好ましくは120〜145℃、より好ましくは130℃〜145℃である。
融点が上記範囲にあると、多層シートの耐熱性に優れるため好ましい。
なお、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の融点は、その分子量、分子量分布、異性化率、組成比率などにより変化する。
【0041】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の異性化率は、通常0〜40%、好ましくは0〜20%、より好ましくは1〜10%、さらに好ましくは3〜9%である。異性化率は、後記の実施例に記載された方法により測定することができる。
【0042】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の異性化率が高すぎると、耐熱性が低下するおそれがある。一方、異性化率が低すぎると、当該重合体の溶液への溶解性がわるくなり、ポリマーの生産性が悪化するおそれがある。そのため、開環重合体水素化物の異性化率は、0%であってもよいが、10%以下の範囲内である程度の異性化率を示すものであることが好ましい。
【0043】
異性化率を上記範囲にするためには、開環重合体の水素化反応において、反応温度を好ましくは120〜220℃、より好ましくは160〜200℃とし、かつ、使用する水素化触媒の使用量を、開環重合体100重量部に対し、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.1〜1重量部とする。
【0044】
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物は、1種類を単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
更に、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物には、必要に応じて、各種配合剤(樹脂工業において通常用いられる配合剤)を単独で、あるいは2種以上混合して用いることができる。
その他の配合剤としては、熱可塑性樹脂材料で通常用いられているものであれば格別な制限はなく、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などの配合剤が挙げられる。また、核剤を配合すると、結晶サイズを制御することが容易になる。
【0045】
老化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられるが、これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化防止剤の配合量は、本発明の目的を損なわれない範囲で適宜選択されるが、結晶性重合体と脂環構造含有重合体との合計量100重量部に対して通常0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
本発明では、上記各成分を必要に応じて混合して使用される。
各配合剤は、それぞれ独立して、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物にあらかじめ配合される。
混合方法は、重合体中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などで樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させて凝固法、キャスト法、又は直接乾燥法により溶剤を除去する方法などがある。
二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
【0046】
本発明において樹脂層Bは、樹脂に遮光性物質を配合することで、波長250〜365nmにおける光線透過率が、100μm当たり50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下に調整されたものである。
樹脂に格別な制限はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルフロライド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でもポリエチレン、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体が低透湿性の点で好ましく、層Aとの密着性に優れ、シートの生産性が良好なことから非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物や環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体が特に好ましく、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物が特に好ましい。
【0047】
遮光性物質としては、顔料、染料、無機フィラー、カーボン、紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中でも、シート重量を増大させないばかりでなく、樹脂層の耐光性に優れ、樹脂層に導電性をもたらすおそれのない点から、紫外線吸収剤が好ましい。紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、アクリル系および金属錯体系から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0048】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、たとえば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0049】
ベンゾエート系紫外線吸収剤としては、たとえば、4−t−ブチルフェニル−2−ヒドロキシベンゾエート、フェニル−2−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタリミジルメチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0050】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、たとえば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸3水和物、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、4−ドデカロキシ−2−ホドロキシベンゾフェノン、4−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0051】
アクリル系紫外線吸収剤としては、たとえば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートなどが挙げられる。
【0052】
金属錯体系紫外線吸収剤としては、たとえば、[2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノレート)]−2−エチルヘキシルアミンニッケルなどが挙げられる。
【0053】
これらの紫外線吸収剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0054】
遮光性物質として好ましい紫外線吸収剤の配合量は、遮光性を有する樹脂層Bに使用する樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部、好ましくは0.02〜15重量部、さらに好ましくは0.05〜10重量部である。
【0055】
樹脂と遮光性物質とを配合する方法に格別な制限はなく、樹脂に配合剤を混合する一般的な方法を採用すればよい。具体的には、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などで樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させて凝固法、キャスト法、または直接乾燥法により溶剤を除去する方法などがある。
二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
【0056】
樹脂層Bを構成する樹脂にも、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物と同様に添加剤を配合することができる。
【0057】
本発明の多層シートは、例えば層Aの両面に樹脂層Bが配置されたものである。このような多層シートを製造する方法に格別な制限はなく、ドライラミネート法、ヒートラミネート法などの層Aに相当するシートと樹脂層Bに相当するシートとを積層する方法や、溶融押出法などが挙げられる。好適には溶融押出法が挙げられる。具体的には、多層シートを形成するポリマーおよび/またはポリマー混合物を押出機内で溶融し、次いで溶融物をフラットフィルム押出ダイから押出し、得られたフィルムを1個以上のロールに引き取ると冷却および凝固し、次いで適切な場合にはフィルムを既知の延伸法、および/または熱硬化法、および/または表面処理法により処理する。
【0058】
押出機から排出される溶融物を環状ダイから押出し、得られたフィルムをインフレートフィルムシステムで処理してフィルムにし、ロールにより圧潰させ、適切な場合には熱硬化および/または表面処理する。
【0059】
また、得られた多層シートは熱硬化(熱処理)を行うことができ、多層シートを100〜160℃の温度に0.5〜10秒間保持する。次いで多層シートを常法により、巻取装置で巻き取る。巻取装置の1以上の引取ロールは、多層シートの冷却および凝固も行う機能を持たせる場合、20〜90℃の温度に保持される。
更に、多層シートの片面または両面を既知の方法でコロナ処理または火炎処理することができる。
尚、この多層シートの厚みは好ましくは10から1000μm、より好ましくは100から800μmである。多層シートの厚みが厚すぎると、太陽電池バックシートとして用いた際、重量が重くなるため好ましくない。薄すぎると、透湿性が悪くなるため好ましくない。
また、層Aの厚みは全体の厚みに対し好ましくは30%から80%である。層Aの厚みが厚すぎると、耐光性が低くなるため好ましくない。薄すぎると透湿性が悪くなるため好ましくない。層Aの両面に配置する樹脂層Bは、耐光性の観点から多層シート全体の厚みの1%以上、好ましくは5%以上であり、両者が同じ厚みでも、異なる厚みでも良い。
【0060】
多層シートは、厚み100μmの場合、透湿度が好ましくは0.5g/m・24hr以下、より好ましくは0.2g/m・24hr以下、特に好ましくは0.1g/m・24hr以下である。透湿度が高すぎると保護シ−トを透過する水分が多くなり、配線の腐蝕を起こしたり、発電素子が劣化したりして好ましくない。融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を用いて透湿度の低いシート(フィルム)を得るには、徐冷処理やアニーリング処理等をすればよいが、サイクルタイムが長くなる。融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物からなる層の両側に別の層を形成すると、内層に融点を有するノルボルネン系開環重合体水素添加物からなる層Aが配置されるため、成形時ロールに引き取る際、内層が直接ロールに接触せず、敢えてサイクルタイムを長くしなくても徐々に冷却される。そのためアニーリング処理などをすることなく透湿度を高くすることができるため、防湿性ならびに生産性に優れたフィルムを提供できる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部又は%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0062】
以下の実施例及び比較例において、各種物性の測定法は次のとおりである。
(1)開環重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0063】
測定装置として、GPC−8020シリーズ(DP8020、SD8022、AS8020、CO8020、RI8020、東ソー社製)を用いた。標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが、500、2630、10200、37900、96400、427000、1090000、5480000の計8点、東ソー社製)を用いた。
【0064】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、測定試料をTHFに溶解後、カートリッジフィルター(PTFE0.5μm)でろ過して調製した。
【0065】
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(東ソー社製)を2本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
【0066】
(2)開環重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0067】
測定装置として、HLC8121GPC/HT(東ソー社製)を用いた。標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが、988、2580、5910、9010、18000、37700、95900、186000、351000、88
9000、1050000、2770000、5110000、7790000、20000000の計16点、東ソー社製)を用いた。
【0068】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、140℃にて測定試料を1,2,4−トリクロロベンゼンに加熱溶解させて調製した。
【0069】
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(20)HT(東ソー社製)を3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量300μml、カラム温度140℃の条件で行った。
【0070】
(3)開環重合体水素化物の水素添加率は、溶媒に重クロロホルムを用い、1H−NMRにより測定した。
【0071】
(4)融点は、示差走査熱量分析計(DSC6220SII、ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K7121に基づき、試料を融点より30℃以上に加熱した後、冷却速度−10℃/minで室温まで冷却し、その後、昇温速度10℃/minで測定した。
【0072】
(5)ガラス転移温度は、示差走査熱量分析計(DSC6220SII、ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K 6911に基づいて測定した。
(6)樹脂層Bの光線透過率(%)は、以下の実施例、比較例とは別に、層Bに用いる樹脂のみの厚み100μmの単層シートを作製し、分光光度計(V−570、日本分光社製)を用いて、波長250〜365nmで測定した。
(7)多層シートの透湿度は水蒸気透過テスター(L80−5000型、LYSSY社製)を用いて、JIS K 7129(A法)に基づいて温度:40℃、湿度:%RHの条件下で測定した。測定は、フェードメーター(スガ試験機社製、U48)を使用し、紫外線ロングライフカーボンアーク灯で紫外線照度2mJ/mにおいて500時間照射前後の2回行った。紫外線照射前後の透湿度変化が少ないほど、耐光性に優れる。
(8)絶縁破壊電圧は、絶縁破壊試験装置(YST−243−100RHO、ヤマヨ試験機社製)を用いて、ASTM D 149に基づいて温度:23℃、シリコンオイル中で測定した。測定は、フェードメーター(スガ試験機社製、U48)を使用し、紫外線ロングライフカーボンアーク灯で紫外線照度2mJ/mにおいて500時間照射前後の2回行った。紫外線照射前後の透湿度変化が少ないほど、耐光性に優れる。
【0073】
[実施例1]
(開環重合)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500重量部に、1−ヘキセン0.55重量部、ジイソプロピルエーテル0.30重量部、トリイソブチルアルミニウム0.20重量部、イソブチルアルコール0.075重量部を室温で反応器に入れ混合した後、55℃に保ちながら、2−ノルボルネン250重量部、及び六塩化タングステンの1.0重量%トルエン溶液15重量部を2時間かけて連続的に添加し、重合した。得られた開環重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、83,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。
【0074】
(水素化反応)
上記で得た開環重合体(A)を含む重合反応液を耐圧の水素化反応器に移送し、そこへ、珪藻土担持ニッケル触媒(T8400、ニッケル担持率58重量%、日産ズードヘミー社製)1.0重量部を加え、200℃、水素圧4.5MPaで6時間反応させた。この溶液を、珪藻土をろ過助剤としてステンレス製金網を備えた濾過器によりろ過し、触媒を除去した。得られた反応溶液をイソプロピルアルコール3000重量部中に撹拌下に注いで水素化物を沈殿させ、濾取した。さらに、アセトン500重量部で洗浄した後、0.13×10Pa以下、100℃に設定した減圧乾燥器中で48時間乾燥し、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物(A)を190重量部得た。
【0075】
(重合体物性)
得られた開環重合体水素化物(A)の水素添加率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、82,200、分子量分布(Mw/Mn)は2.9、異性化率は5%、融点は140℃であった。
【0076】
(内層用樹脂組成物の調製)
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物(A)100重量部にヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGANOX 1010、チバガイギー社製)0.1重量部を加え、2軸混練機(TEM35、東芝機械社製)で混練し、ペレット化した樹脂A1を得た。
【0077】
(外層用樹脂組成物の調製)
ゼオノア1410R(日本ゼオン社製、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物)100重量部にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(TINUVIN 329、チバスペシャリティーケミカルズ社製、以下、「紫外線吸収剤A」という。)0.5重量部、ヒンダードアミン系光安定剤(CHIMASSORB 2020FDL、チバスペシャリティーケミカルズ社製、以下、「光安定剤A」という。)6重量部を加え、2軸混練機(TEM35、東芝機械社製)で混練し、ペレット化した樹脂A2を得た。
【0078】
(シート成形)
これらのペレットを、スクリュー径20mmφ、圧縮比3.1、L/D=30のスクリューを備えたハンガーマニュホールドタイプのTダイ式フィルム溶融押出成形機(据置型、GSIクレオス製)を使用し、以下の条件でTダイ成形を行い、内層に樹脂A1(厚み300μm)、その両側に樹脂A2(厚み各50μm)の多層シート(1)を得た。
【0079】
ダイリップ:0.8mm、
溶融樹脂温度:樹脂A1 210℃、樹脂A2 260℃、
Tダイの幅:300mm、
冷却ロール温度:95℃、
キャストロール温度:95℃。
【0080】
得られた多層シート(1)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0081】
[実施例2]
2−ノルボルネン250重量部に代えて、2−ノルボルネン245重量とジシクロペンタジエン5重量部とした以外は同様にして開環重合及び、水素化反応を行い、融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物(B)を190重量部得た。
【0082】
(重合体物性)
得られた融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物(B)の水素添加率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、80,500、分子量分布(Mw/Mn)は2.7、異性化率は5%、融点は134℃であった。
【0083】
(内層用樹脂組成物の調製)
融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物(B)を用いて、実施例1と同様にペレット化した樹脂B1を得た。
【0084】
(シート成形)
ペレット化した樹脂A1の代わりにペレット化した樹脂B1を用いる以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂B1(厚み300μm)、その両側に樹脂A2(厚み各50μm)の多層シート(2)を得た。
得られた多層シート(2)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0085】
[実施例3]
(内層用樹脂組成物の調製)
ペレット化した樹脂A1に代えて、ペレット化した樹脂A1を70重量部とゼオノア1020R(日本ゼオン社製、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物)を30重量部とを2軸混練機(TEM35、東芝機械社製)で混練し、ペレット化した樹脂C1を得た。
【0086】
(シート成形)
ペレット化した樹脂A1の代わりにペレット化した樹脂C1を用いる以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂C1(厚み300μm)、その両側に樹脂A2(厚み各50μm)の多層シート(3)を得た。
得られた多層シート(3)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0087】
[実施例4]
(外層用樹脂組成物の調製)
プライムポリプロF109V(プライムポリマー社製、ポリプロピレン)100重量部に紫外線吸収剤A 0.5重量部、光安定剤A 6重量部を加え、2軸混練機(TEM35、東芝機械社製)で混練し、ペレット化した樹脂B2を得た。
【0088】
(シート成形)
ペレット化した樹脂A2の代わりに、ペレット化した樹脂B2を用い、外層側の溶融樹脂温度を260℃から220℃に変えた以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂A1(厚み300μm)、その両側に樹脂B2(厚み各50μm)の多層シート(4)を得た。
得られた多層シート(4)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0089】
[実施例5]
(外層用樹脂組成物の調製)
ノバペックスGS400(三菱化学社製、ポリエチレンテレフタレート)100重量部に紫外線吸収剤A 0.5重量部、光安定剤A 6重量部を加え、2軸混練機(TEM35、東芝機械社製)で混練し、ペレット化した樹脂C2を得た。
【0090】
(シート成形)
ペレット化した樹脂A2の代わりに、ペレット化した樹脂C2を用い、外層側の溶融樹脂温度を、260℃から290℃に変えた以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂A1(厚み300μm)、その両側に樹脂C2(厚み各50μm)の多層シート(5)を得た。
得られた多層シート(5)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0091】
[比較例1]
(外層用樹脂組成物の調製)
ペレット作成時に、ゼオノア1410R(日本ゼオン社製、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物)に紫外線吸収剤A及び光安定剤Aを混練しなかったこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した樹脂D1を得た。
【0092】
(シート成形)
ペレット化した樹脂A2の代わりに、ペレット化した樹脂D1を用いる以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂A1(厚み300μm)、その両側に樹脂D1(厚み各50μm)の多層シート(6)を得た。
得られた多層シート(6)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0093】
[比較例2]
(外層用樹脂組成物の調製)
ゼオノア1410R(日本ゼオン社製、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物)の代わりに、クレハKFポリマー(クレハ社製、フッ化ビニリデン樹脂)を用いた以外は比較例1と同様にしてペレット化した樹脂D2を得た。
【0094】
(シート成形)
ペレット化した樹脂A1の代わりに、ペレット化した樹脂D1を用い、ペレット化した樹脂A2の代わりに、ペレット化した樹脂D2を用い、内層側の溶融樹脂温度を210℃から260℃、外層側の溶融樹脂温度を260℃から300℃に変えた以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂D1(厚み300μm)、その両側に樹脂D2(厚み各50μm)の多層シート(7)を得た。
得られた多層シート(7)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0095】
[比較例3]
(外層用樹脂組成物の調製)
ゼオノア1410R(日本ゼオン社製、非晶性環状オレフィン開環重合体水素化物)の代わり、ハイゼックス5000SF(プライムポリマー社製、高密度ポリエチレン)を用いた以外は比較例1と同様にしてペレット化した樹脂E2を得た。
【0096】
(シート成形)
ペレット化した樹脂D2の代わりにペレット化した樹脂E2を用い、外層側の溶融樹脂温度を260℃から220℃に変えた以外は比較例2と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂D1(厚み300μm)、その両側に樹脂E2(厚み各50μm)の多層シート(8)を得た。
得られた多層シート(8)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0097】
[比較例4]
(シート成形)
ペレット化した樹脂A1及びA2の代わりに、ペレット化した樹脂D1を用い、内層側の溶融樹脂温度を210℃から260℃に変えた以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂D1(厚み300μm)、その両側に樹脂D1(厚み各50μm)の多層シート(9)を得た。
得られた単層フィルム(9)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0098】
[比較例5]
(シート成形)
ペレット化した樹脂A2の代わりに、ペレット化した樹脂A1を用い、外層側の溶融樹脂温度を260℃から210℃に変えた以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂A1(厚み300μm)、その両側に樹脂A1(厚み各50μm)の多層シート(10)を得た。
得られた単層フィルム(10)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0099】
[比較例6]
(シート成形)
ペレット化した樹脂A1及びA2の代わりに、ペレット化した樹脂C1を用い、内層側の溶融樹脂温度を210℃から260℃に変えた以外は実施例1と同様にしてTダイ成形を行い、内層に樹脂C1(厚み300μm)、その両側に樹脂C1(厚み各50μm)の多層シート(11)を得た。
得られた単層フィルム(11)の紫外線照射前後の水蒸気透過度と絶縁破壊電圧は表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
(考察)
表から以下のことが分かる。
本発明の多層シートは層Aを特定の融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を用いて作成し、さらに、波長250〜365nmにおける光線透過率が、100μm当たり50%以下である樹脂層Bが、層Aの両面に配置されているため、耐光試験前後での透湿度並びに、絶縁破壊電圧の変化が極めて小さいことがわかる(実施例1〜5)。
それに対し、樹脂層Bの波長250〜365nmにおける光線透過率が、100μm当たり50%以上の樹脂層からなるフィルムは耐光試験前後での透湿度並びに、絶縁破壊電圧の変化が大きいことが分かる(比較例1、3)。
また、樹脂層Aに融点を有さないノルボルネン系開環重合体水素化物を用いているために、透湿度が高いことが分かる(比較例2)。
さらに、樹脂層Aと樹脂層Bを同一樹脂からなる単層フィルムは耐光試験前後での透湿度並びに、絶縁破壊電圧の変化が大きいことが分かる(比較例4〜6)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体とを、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(a)の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%、置換基含有ノルボルネン系モノマー由来の繰り返し単位(b)の全繰り返し単位に対する存在割合が10〜0重量%の割合で開環重合して得られる開環重合体の主鎖炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化することにより得られる2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物であって、融点が110〜145℃である2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体との開環重合体水素化物からなる層Aを中間層とし、波長250〜365nmにおける光線透過率が、100μm当たり50%以下である樹脂層Bが、層Aの両面に配置されている電気絶縁性多層シ−ト。

【公開番号】特開2010−123497(P2010−123497A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298121(P2008−298121)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】