説明

電池及び電池の製造方法

【課題】 正極板と負極板との間で短絡が生じた場合に、短絡点の拡大を抑制すると共に、電池の温度の昇温を抑制(緩和)できる電池を提供する。
【解決手段】 電池1は、正極板20と負極板30とセパレータ40とを備え、セパレータの表面41Aに形成され、負極板とセパレータとの間に介在し、絶縁性の水分吸着無機粒子51と結着材52を含む耐熱層50を備え、耐熱層の水分吸着無機粒子は、水分吸着無機粒子に含まれる水分量を、カールフィッシャ法で滴定した場合において、水分吸着無機粒子を120℃としたときに、これに含まれる第1水分量W1とし、水分吸着無機粒子を150℃としたときに、これに含まれる第2水分量W2としたとき、第1水分量W1と第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)が、ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱層を備える電池、及び、この電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車、電気自動車などの車両や、ノート型パソコン、ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器の駆動用電源に、充放電可能な二次電池(以下、単に電池ともいう)が利用されている。
この電池として、正極板と負極板との間に、無機酸化物フィラー(無機粒子)を含む一層の多孔質耐熱層(耐熱層)を備える電池がある(例えば、特許文献1)。この電池では、耐熱層自身及びセパレータを貫通して正極板と負極板との間で短絡が生じた場合、耐熱層がその短絡点の拡大を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−194203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のように耐熱層を備えた電池でも、短絡に起因して電池温度が上昇してしまう場合がある。電池温度が所定温度(例えば、120℃)以上となった場合には、セパレータが大きく熱収縮するなど温度上昇に起因する不具合が発生してしまう。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、正極板と負極板との間で短絡が生じた場合に、短絡点の拡大を抑制すると共に、電池の温度の昇温を抑制(緩和)できる電池を提供することを目的とする。また、このような電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に介在するフィルム状のセパレータと、を備え、上記正極板と上記セパレータとの間、及び、上記負極板と上記セパレータとの間の少なくともいずれかに介在し、絶縁性の水分吸着無機粒子と結着材を含む耐熱層を備える電池であって、上記耐熱層の上記水分吸着無機粒子は、上記水分吸着無機粒子に含まれる水分量を、カールフィッシャ法で滴定した場合において、上記水分吸着無機粒子を120℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第1水分量W1とし、上記水分吸着無機粒子を150℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第2水分量W2としたとき、上記第1水分量W1と上記第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)が、ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する電池である。
【0007】
上述した電池では、耐熱層の水分吸着無機粒子が、第1水分量W1と第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)がΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する。このため、電池の昇温等で電池の温度が120℃となると、150℃に上昇するまでの間に、水分吸着無機粒子から差ΔW分の水分を放出させうる。従って、昇温して温度が120℃程度となった電池において、水分吸着無機粒子から放出した水分の蒸発により、電池の温度上昇を抑制(緩和)することができる。
【0008】
なお、カールフィッシャ法とは、JIS K 0068に規定された手法である。また、絶縁性の水分吸着無機粒子は、例えば、粒径(D100)を0.1〜10μm、BET比表面積を1〜200m2/gにするなど表面性状が調整されて、水分を吸着させることで上述の水分保持特性を備えた、例えば、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、シリカ等からなる粒子である。また、結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0009】
或いは、前述の電池を搭載し、この電池に蓄えた電気エネルギを動力源の全部又は一部に使用する車両である。
車両動力源に用いられる電池は高い入出力を要求されるので、通常、電池の体格が民生用電池よりも大きくなる。電池の体格が大きくなると、電池の放熱性が悪くなってしまう。これに対し、上述の車両は、120℃程度の温度からの温度上昇を抑制(緩和)できる電池を搭載しているので、放熱性の悪い電池において、電池の昇温を抑えた車両とすることができる。
【0010】
さらに、本発明の他の態様は、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に介在するフィルム状のセパレータと、を備え、上記正極板と上記セパレータとの間、及び、上記負極板と上記セパレータとの間の少なくともいずれかに介在し、絶縁性の水分吸着無機粒子と結着材を含む耐熱層を備え、上記耐熱層の上記水分吸着無機粒子は、上記水分吸着無機粒子に含まれる水分量を、カールフィッシャ法で滴定した場合において、上記水分吸着無機粒子を120℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第1水分量W1とし、上記水分吸着無機粒子を150℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第2水分量W2としたとき、上記第1水分量W1と上記第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)が、ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する電池の製造方法であって、水分を吸着させて、上記水分保持特性を有する上記水分吸着無機粒子を得る粒子水分吸着工程と、上記粒子水分吸着工程の後、上記水分吸着無機粒子と上記結着材と溶媒とを混合してペーストを調製するペースト調製工程と、上記正極板、上記負極板及び上記セパレータの少なくともいずれかの上記表面に、上記ペーストを塗布して塗膜を形成するペースト塗布工程と、80℃以下の温度環境下で、上記塗膜を乾燥させて上記耐熱層を形成する乾燥工程と、を備える電池の製造方法である。
【0011】
上述した電池の製造方法では、吸着処理前の無機粒子に水分を吸着させて、差ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する水分吸着無機粒子を得る粒子水分吸着工程と、この粒子水分吸着工程の後、ペーストを調製するペースト調製工程と、80℃以下の温度環境下で塗膜を乾燥させる乾燥工程とを備える。このため、乾燥工程で、水分吸着無機粒子の水分保持特性の低下を防ぎつつ塗膜を乾燥させて耐熱層を形成できる。これにより、水分吸着無機粒子を含む耐熱層を有する電池を容易に製造できる。
【0012】
さらに、他の態様は、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に介在するフィルム状のセパレータと、を備え、上記正極板と上記セパレータとの間、及び、上記負極板と上記セパレータとの間の少なくともいずれかに介在し、絶縁性の水分吸着無機粒子と結着材を含む耐熱層を備え、上記耐熱層の上記水分吸着無機粒子は、上記水分吸着無機粒子に含まれる水分量を、カールフィッシャ法で滴定した場合において、上記水分吸着無機粒子を120℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第1水分量W1とし、上記水分吸着無機粒子を150℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第2水分量W2としたとき、上記第1水分量W1と上記第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)が、ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する電池の製造方法であって、無機粒子と上記結着材と溶媒とを混合してペーストを調製するペースト調製工程と、上記正極板、上記負極板及び上記セパレータの少なくともいずれかの上記表面に、上記ペーストを塗布して塗膜を形成するペースト塗布工程と、上記塗膜を乾燥させて、吸着前耐熱層を形成する乾燥工程と、上記吸着前耐熱層の上記無機粒子に水分を吸着させて、上記無機粒子を上記水分吸着無機粒子を含む上記耐熱層を形成する層水分吸着工程と、を備える電池の製造方法である。
【0013】
上述した電池の製造方法では、塗膜を乾燥させて吸着前耐熱層を形成する乾燥工程と、この吸着前耐熱層中の無機粒子に水分を吸着させて、差ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性の水分吸着無機粒子とする層水分吸着工程とを備える。これにより、塗膜を乾燥させる温度に制限を受けることなく、上述の水分保持特性の水分吸着無機粒子を含む耐熱層を有する電池を容易に製造できる。
【0014】
なお、ペースト調製工程で用いる無機粒子としては、水分を吸着させることで上述の水分保持特性を満たしうるBET比表面積などの性状を有していれば良く、ペースト調製時に上述の水分保持特性を有していてもいなくても良い。
【0015】
さらに、上述の電池の製造方法であって、前記正極板は、リチウム含有複合酸化物の正極活物質粒子を含み、前記負極板は、炭素材料からなる負極活物質粒子を含み、前記セパレータは、絶縁性の樹脂材料からなり、前記ペースト塗布工程は、上記負極板及び上記セパレータの少なくともいずれかの表面に、前記ペーストを塗布する電池の製造方法とするのが好ましい。
【0016】
リチウム含有複合酸化物は水分と反応して強アルカリ性を示す。このため、正極板上に吸着前耐熱層を形成し、この吸着前耐熱層の無機粒子に水分を吸着させる場合には、水分と正極活物質粒子との反応により正極箔の腐食等が生じる可能性がある。一方、炭素材料や樹脂材料は水分と反応しない。
上述した電池の製造方法のペースト塗布工程では、負極板及びセパレータの少なくともいずれかの表面にペーストを塗布する。このため、正極板にリチウム含有複合酸化物を用いていながらも、腐食等の不具合を生じ難くできる。
【0017】
なお、正極活物質粒子であるリチウム含有複合酸化物としては、例えば、LixCoO2(0<x≦1.0)、LixNiO2(0<x≦1.0)、LixCoyNizMn(1-y-z)2(0<x≦1.0,0<y≦1.0,0<z≦1.0)などの層状酸化物や、LiMn24等のスピネル系酸化物や、LiFePO4等のオリビン系酸化物が挙げられる。また、負極活物質粒子である炭素材料としては、例えば、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛などの天然黒鉛や、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの人造黒鉛が挙げられる。また、セパレータをなす絶縁性の樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1,変形形態にかかる電池の斜視図である。
【図2】実施形態1,変形形態の正極板の斜視図である。
【図3】実施形態1,変形形態の負極板の斜視図である。
【図4】実施形態1,変形形態のセパレータ及び耐熱層の斜視図である。
【図5】実施形態1,変形形態にかかる電池の製造方法を示す説明図である。
【図6】実施形態2にかかる車両についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態1)
次に、本発明の実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。
なお、本実施形態1にかかる電池1について、図1,2を参照しつつ説明する。
この電池1は、いずれも帯状の正極板20と、負極板30と、これら正極板20及び負極板30との間に介在するセパレータ40とを扁平形状に捲回した電極体10を備えるリチウムイオン二次電池である(図1参照)。また、この電池1は、電極体10において、セパレータ40の表面(後述する第1表面41A)に形成され、負極板30とセパレータ40との間に介在する耐熱層50を備える。
なお、電池1は、図1に示すように、電極体10を電池ケース80に収容してなる。
【0020】
この電池ケース80は、共にアルミニウム製の電池ケース本体81及び封口蓋82を有する。このうち電池ケース本体81は有底矩形箱形であり、この電池ケース80と電極体10との間には、樹脂からなり、箱状に折り曲げた絶縁フィルム(図示しない)が介在させてある。また、封口蓋82は矩形板状であり、電池ケース本体81の開口を閉塞して、この電池ケース本体81に溶接されている。この封口蓋82には、電極体10と接続している正極集電部材91及び負極集電部材92のうち、それぞれ先端に位置する正極端子部91A及び負極端子部92Aが貫通しており、図1中、上方に向く蓋表面82aから突出している。これら正極端子部91A及び負極端子部92Aと封口蓋82との間には、それぞれ絶縁性の樹脂からなる絶縁部材95が介在し、互いを絶縁している。さらに、この封口蓋82には矩形板状の安全弁97も封着されている。
【0021】
また、電極体10では、正極板20及び負極板30がそれぞれ、上述した正極集電部材91又は負極集電部材92と接合している(図1参照)。
この電極体10を構成する、薄板形状の正極板20は、帯状のアルミニウム箔28と、このアルミニウム箔28の両主面上に、帯状に形成・配置された2つの正極活物質層21,21とを有している(図2参照)。
このうち正極活物質層21は、リチウム含有複合酸化物であるLiCoO2からなる正極活物質粒子22、アセチレンブラックからなる導電助剤23、及び、PVDFからなる結着材24を含む(図2参照)。
【0022】
一方、薄板形状の負極板30は、帯状で銅製の銅箔38と、この銅箔38の両主面上に、それぞれ帯状に形成・配置された2つの負極活物質層31,31とを有している(図3参照)。
このうち負極活物質層31は、黒鉛からなる負極活物質粒子32、カルボキシメチルセルロース(CMC)からなる増粘剤33、及び、スチレンブタジエンゴム(SBR)からなる結着材34を含む(図3参照)。
【0023】
また、帯状のセパレータ40は、多孔質状のポリエチレン(PE)からなるフィルム状である。このセパレータ40は、電池1(電極体10)において、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合有機溶媒に溶質(LiPF6)を添加してなる電解液(図示しない)が含浸されている。
【0024】
なお、このセパレータ40の一方の表面(第1表面41A)上に、層厚が4μmの耐熱層50が形成されている(図4参照)。この耐熱層50は、アルミナ(Al23)からなる絶縁性の粒子であって、次述する水分保持特性を満たす水分吸着無機粒子51と、PVDFからなる結着材52とを含む。なお、この耐熱層50における、水分吸着無機粒子51と結着材52との配合割合は、重量比で、水分吸着無機粒子51:結着材52=44:2である。
また、この耐熱層50は、電池1(電極体10)において、負極板30とセパレータ40との間に介在している。従って、電池1(電極体10)において、この耐熱層50及びセパレータ40を貫通して、正極板20と負極板30との間で短絡が生じた場合、耐熱層50がその短絡点の拡大を抑制できる。
【0025】
この耐熱層50の水分吸着無機粒子51は、以下のような水分保持特性と有している。
即ち、カールフィッシャ法で滴定した、水分吸着無機粒子51に含まれる水分量のうち、120℃のときの水分吸着無機粒子51の水分量を第1水分量W1とし、150℃のときの水分吸着無機粒子51の水分量を第2水分量W2とする。そして、これら第1水分量W1と第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)がΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する。
なお、JIS K 0068に規定のカールフィッシャ法で水分吸着無機粒子51の第1水分量W1及び第2水分量W2をそれぞれ測定した。
【0026】
具体的には、露点が−55〜−35℃のドライボックス内に設置した、水分測定装置(平沼産業(株)製アクアカウンターAQ−7)、及び、加熱気化装置(平沼産業(株)製エバポレータユニットEV−6)を用いて、水分吸着無機粒子51の第1水分量W1及び第2水分量W2をそれぞれ測定した。なお、溶液にはハイドラナールRアクアライトRS−A(SIGMA−ALDICH社製)を、キャリアガスには高純度窒素(99.99%、(株)ダイオー製)をそれぞれ用いた。そして、キャリアガスの流量を0.15L/分として30分間測定を行った(水分量の測定単位はμg)。
【0027】
水分吸着無機粒子51は、自身の温度が上昇するほど水分を放出して、自身が吸着する水分量が減少すると考えられる。ここで、差ΔWが200ppm以上であれば、電池温度が120℃程度になった電池1が、更に温度上昇した場合に、水分吸着無機粒子51から確実に水分を放出させうる。これにより、電池1の温度が120℃よりも上昇した場合に、昇温時の熱を吸収して水分吸着無機粒子51が吸着していた水分を蒸発させることができる。逆に、差ΔWが600ppmを超えると、セパレータ40の抵抗が無視できなくなるため好ましくない。
【0028】
以上より、本実施形態1にかかる電池1では、耐熱層50の水分吸着無機粒子51が、第1水分量W1と第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)がΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する。このため、電池1の昇温等で電池1の温度が120℃となると、150℃に上昇するまでの間に、水分吸着無機粒子51から差ΔW分の水分を放出させうる。従って、昇温して、温度が120℃程度となった電池1において、水分吸着無機粒子51から放出した水分の蒸発により、電池1の温度上昇を抑制(緩和)することができる。
【0029】
次に、本実施形態1にかかる電池1の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
まず、粒子水分吸着工程では、水分を吸着していない吸着前無機粒子51Bを用意する。そして、この吸着前無機粒子51Bを、室温が25℃、湿度が50%にそれぞれ管理された恒温恒湿槽内に72時間置く。
このようにして、吸着前無機粒子51Bに水分を吸着させて、前述の水分保持特性を有する水分吸着無機粒子51を得る。
【0030】
次のペースト調製工程では、既知のミキサ100を用いる(図5参照)。このミキサ100は、有底円筒形状の混合槽110と、この混合槽110内において内容物を攪拌するプロペラ形状の攪拌はね120とを備える。
このペースト調製工程は、上述の水分吸着無機粒子51を44重量部と、結着材52であるPVDFを2重量部と、溶媒53であるNMPを54重量部とを、ミキサ100の混合槽110内にそれぞれ投入し、混合(混練)する。かくして、耐熱層50用のペースト50Pを作製した。
【0031】
次いで、ペースト塗布工程では、図5に示す塗工装置150を用いる。この塗工装置150は、巻出し部151、ダイ160、及び巻取り部152を備えている。
このうち、ダイ160は、ペースト50Pを内部に貯留するペースト貯留部161と、このペースト貯留部161のペースト50Pをセパレータ40の表面(第1表面41A)上に向かって連続的に吐出する吐出口162とを有する。このうち吐出口162は、スリット状で、セパレータ40の幅方向(図5中、奥行き方向)に平行に開口している。
このペースト塗布工程では、塗工装置150の巻出し部151に予め捲回した帯状のセパレータ40を長手方向DAに移動させ、そのセパレータ40の第1表面41A上に、ダイ160によりペースト50Pを塗布する。これにより、セパレータ40の第1表面41A上に、塗膜50Sが形成される。
【0032】
続いて、乾燥工程では、図5に示すヒータ170を用いて、塗膜50S内の溶媒53を揮発させ、塗膜50Sを乾燥させる。なお、このヒータ170は、塗膜50Sの温度が最高でも80℃以下となるよう、80℃の熱風で塗膜50Sを乾燥させる。このようにして、セパレータ40の第1表面41A上に耐熱層50を形成した。
この乾燥工程の後、セパレータ40を巻取り部152に巻き取る。
【0033】
その後、このセパレータ40を、いずれも帯状の正極板20及び負極板30と共に捲回して電極体10とした。さらに、正極板20及び負極板30にそれぞれ正極集電部材91及び負極集電部材92を溶接する。その後、電極体10を電池ケース本体81に収容し、封口蓋82で電池ケース本体81を溶接で封口する。そして、図示しない注液孔から電解液を注液し、その注液孔を封止して、電池1を完成させた(図1参照)。
【0034】
本実施形態1にかかる電池1の製造方法では、吸着処理前の吸着前無機粒子51Bに水分を吸着させて、差ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する水分吸着無機粒子51を得る粒子水分吸着工程と、この粒子水分吸着工程の後、ペースト50Pを調製するペースト調製工程と、80℃以下の温度環境下で塗膜50Sを乾燥させる乾燥工程とを備える。このため、乾燥工程では、塗膜50S中にある水分吸着無機粒子51の水分保持特性の低下を防ぎつつ、塗膜50Sを乾燥させ耐熱層50を形成できる。これにより、水分吸着無機粒子51を含む耐熱層50を有する電池1を容易に製造できる。
【0035】
(変形形態)
次に、前述した実施形態1にかかる製造方法の変形形態について、図面を参照しつつ説明する。
なお、実施形態1では、水分吸着無機粒子を得た後、この水分吸着無機粒子を用いてペーストを調製し、80℃以下の温度環境下で塗膜を乾燥させた。これに対し、本変形形態にかかる電池の製造方法では、塗膜を乾燥させた後、無機粒子に水分を吸着させて水分吸着無機粒子とする点で、実施形態1の製造方法とは異なる。
そこで、実施形態1と異なる点を中心に説明し、実施形態1と同様の部分の説明は省略または簡略化する。なお、実施形態1と同様の部分については同様の作用効果を生じる。また、同内容のものには同番号を付して説明する。
【0036】
本変形形態にかかる電池1の製造方法について、図5を参照しつつ説明する。
まず、ペースト調製工程では、水分吸着無機粒子51に代えて吸着前無機粒子51Bを用いるほかは、実施形態1の粒子水分吸着工程と同様にして、結着材52であるPVDF、及び、溶媒53であるNMPをそれぞれ用いる。そして、前述したミキサ100を用いて、吸着前無機粒子51Bを44重量部と、結着材52を2重量部と、溶媒53を54重量部とを混合(混練)して、ペースト250Pを作製した。
【0037】
次いで、ペースト塗布工程では、実施形態1と同様の塗工装置150(図5参照)を用いて、巻出し部151に予め捲回した帯状のセパレータ40を長手方向DAに移動させ、そのセパレータ40の第1表面41A上に、ダイ160によりペースト250Pを塗布する。これにより、セパレータ40の第1表面41A上に、塗膜250Sが形成される(図5参照)。
【0038】
続いて、乾燥工程では、図5に示すヒータ270を用いて、塗膜250S内の溶媒53を揮発させ、塗膜250Sを乾燥させる。
但し、このヒータ270は、実施形態1で用いたヒータ170よりも高温の熱風で塗膜250Sを乾燥させる点で、実施形態1と異なる。このため、本変形形態では、実施形態1の乾燥工程に比べて、より早い乾燥時間で確実に塗膜250Sを乾燥させて、吸着前無機粒子51Bと結着材52とを含む吸着前耐熱層250Bを形成することができる。
この乾燥工程の後、吸着前耐熱層250Bと共にセパレータ40を巻取り部152に巻き取る。
【0039】
続いて、層水分吸着工程では、室温が25℃、湿度が50%にそれぞれ管理された恒温恒湿槽内に、吸着前耐熱層250Bをセパレータ40と共に、巻取り部152から外した(延出した)状態で72時間置く。このようにして、吸着前耐熱層250B内の吸着前無機粒子51Bに水分を吸着させて、この吸着前無機粒子51Bを前述の水分保持特性を有する水分吸着無機粒子51とした。
なお、実施形態1と同様、セパレータ40は水分と反応(化学反応)しないPEからなるので、この層水分吸着工程の前後で、セパレータ40の特性が変化することはない。
この層水分吸着工程の後、実施形態1と同様にして電池1を完成させれば良いので、説明を省略する。
【0040】
以上より、本変形形態にかかる電池1の製造方法では、塗膜250Sを乾燥させて吸着前耐熱層250Bを形成する乾燥工程と、この吸着前耐熱層250B中の吸着前無機粒子51Bに水分を吸着させて、差ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性の水分吸着無機粒子51とする層水分吸着工程とを備える。これにより、塗膜250Sを乾燥させる温度に制限を受けることなく、上述の水分保持特性の水分吸着無機粒子51を含む耐熱層50を有する電池1を容易に製造できる。
【0041】
また、本変形形態では、ペースト塗布工程では、セパレータ40の第1表面41Aにペースト250Pを塗布した。これと異なり、正極板20上に吸着前耐熱層250Bを形成し、この吸着前耐熱層250Bの吸着前無機粒子51Bに水分を吸着させることも考えられるが、この場合には、水分と正極活物質粒子21との反応によるアルミニウム箔28の腐食等が生じる可能性がある。これに対し、本変形形態では、セパレータ40に吸着前耐熱層250Bを形成したので、この吸着前耐熱層250Bの吸着前無機粒子51Bに水分を吸着させても、腐食等の不具合を生じ難くできる。
【0042】
(実施形態2)
本実施形態2にかかる車両300は、前述した電池1を複数含むバッテリパック310を搭載したものである。具体的には、図6に示すように、車両300は、エンジン340、フロントモータ320及びリアモータ330を併用して駆動するハイブリッド自動車である。この車両300は、車体390、エンジン340、これに取り付けられたフロントモータ320、リアモータ330、ケーブル350、インバータ360、及び、矩形箱形状のバッテリパック310を有している。
【0043】
車両動力源に用いられる電池は高い入出力が要求されるので、通常、電池の体格が民生用電池よりも大きくなる。電池の体格が大きくなると、電池の放熱性が悪くなってしまう。これに対し、本実施形態2にかかる車両300は、120℃程度の温度からの温度上昇を抑制(緩和)できる電池1を搭載しているので、放熱性の悪い電池において、電池の昇温を抑えた車両300とすることができる。
【0044】
以上において、本発明を実施形態1、実施形態2及び変形形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態1及び変形形態では、セパレータ40の第1表面41Aに耐熱層50を形成した例を示したが、セパレータに代えて、正極板の表面上に耐熱層50を形成して、正極板とセパレータとの間に介在させても良い。また、セパレータに代えて、負極板の表面上に耐熱層50を形成して、負極板とセパレータとの間に介在させても良い。
但し、変形形態にかかる電池の製造方法で電池を製造する場合で、水分と反応して強アルカリ性を示すリチウム含有複合酸化物の正極活物質粒子を含む正極板を用いる場合には、セパレータ及び負極板の少なくともいずれかの表面に塗布するのが好ましい。
また、実施形態1等では、セパレータの片側の表面に耐熱層を形成した例を示したが、セパレータの両方の表面に耐熱層をそれぞれ形成しても良い。
【0045】
また、実施形態1等では、正極活物質粒子にLiCoO2を用いたが、この他、例えば、LixCoO2(0<x≦1.0)、LixNiO2(0<x≦1.0)、LixCoyNizMn(1-y-z)2(0<x≦1.0,0<y≦1.0,0<z≦1.0)などの層状化合物系酸化物や、LixMn24(0<x≦1.0)などのスピネル系酸化物や、LiFePO4などのオリビン系酸化物のリチウム含有複合酸化物を用いても良い。
また、PEからなるセパレータを示したが、例えば、PPからなるものや、PE及びPPを積層したものを用いることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 電池
20 正極板
22 正極活物質粒子
30 負極板
32 負極活物質粒子
40 セパレータ
41A 第1表面(表面)
50 耐熱層
50P,250P ペースト
50S,250S 塗膜
51 水分吸着無機粒子
52 結着材
53 溶媒
250B 吸着前耐熱層
300 車両
W1 第1水分量
W2 第2水分量
ΔW 差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、
負極板と、
上記正極板と上記負極板との間に介在するフィルム状のセパレータと、を備え、
上記正極板と上記セパレータとの間、及び、上記負極板と上記セパレータとの間の少なくともいずれかに介在し、絶縁性の水分吸着無機粒子と結着材を含む耐熱層を備える
電池であって、
上記耐熱層の上記水分吸着無機粒子は、
上記水分吸着無機粒子に含まれる水分量を、カールフィッシャ法で滴定した場合において、
上記水分吸着無機粒子を120℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第1水分量W1とし、
上記水分吸着無機粒子を150℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第2水分量W2としたとき、
上記第1水分量W1と上記第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)が、ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する
電池。
【請求項2】
正極板と、
負極板と、
上記正極板と上記負極板との間に介在するフィルム状のセパレータと、を備え、
上記正極板と上記セパレータとの間、及び、上記負極板と上記セパレータとの間の少なくともいずれかに介在し、絶縁性の水分吸着無機粒子と結着材を含む耐熱層を備え、
上記耐熱層の上記水分吸着無機粒子は、
上記水分吸着無機粒子に含まれる水分量を、カールフィッシャ法で滴定した場合において、
上記水分吸着無機粒子を120℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第1水分量W1とし、
上記水分吸着無機粒子を150℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第2水分量W2としたとき、
上記第1水分量W1と上記第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)が、ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する
電池の製造方法であって、
水分を吸着させて、上記水分保持特性を有する上記水分吸着無機粒子を得る粒子水分吸着工程と、
上記粒子水分吸着工程の後、上記水分吸着無機粒子と上記結着材と溶媒とを混合してペーストを調製するペースト調製工程と、
上記正極板、上記負極板及び上記セパレータの少なくともいずれかの上記表面に、上記ペーストを塗布して塗膜を形成するペースト塗布工程と、
80℃以下の温度環境下で、上記塗膜を乾燥させて上記耐熱層を形成する乾燥工程と、を備える
電池の製造方法。
【請求項3】
正極板と、
負極板と、
上記正極板と上記負極板との間に介在するフィルム状のセパレータと、を備え、
上記正極板と上記セパレータとの間、及び、上記負極板と上記セパレータとの間の少なくともいずれかに介在し、絶縁性の水分吸着無機粒子と結着材を含む耐熱層を備え、
上記耐熱層の上記水分吸着無機粒子は、
上記水分吸着無機粒子に含まれる水分量を、カールフィッシャ法で滴定した場合において、
上記水分吸着無機粒子を120℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第1水分量W1とし、
上記水分吸着無機粒子を150℃としたときに、この水分吸着無機粒子に含まれる第2水分量W2としたとき、
上記第1水分量W1と上記第2水分量W2との差ΔW(=W1−W2)が、ΔW=200〜600ppmとなる水分保持特性を有する
電池の製造方法であって、
無機粒子と上記結着材と溶媒とを混合してペーストを調製するペースト調製工程と、
上記正極板、上記負極板及び上記セパレータの少なくともいずれかの上記表面に、上記ペーストを塗布して塗膜を形成するペースト塗布工程と、
上記塗膜を乾燥させて、吸着前耐熱層を形成する乾燥工程と、
上記吸着前耐熱層の上記無機粒子に水分を吸着させて、上記無機粒子を上記水分吸着無機粒子を含む上記耐熱層を形成する層水分吸着工程と、を備える
電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−221795(P2012−221795A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87349(P2011−87349)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】