説明

電池用シーリングコンパウンド及び電池用容器の巻締め部形成方法

【課題】接着強度、耐電解液性、耐熱性、耐寒性、保存性に優れた電池用シーリング剤を提供する。
【解決手段】(A−1)ウレトジオン基含有変性ポリイソシアネートと、親水基含有ポリオールと、炭化水素基含有ポリオールとを反応させ、更にイソシアネート基をブロック化剤で処理して得られるブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、(A−2)有機ポリイソシアネートと、親水基含有ポリエステルポリオールと、炭化水素基含有ポリオールとを反応させて得られるポリウレタンオリゴマーと、(A−3)有機ポリイソシアネートと、親水基含有ポリエステルポリオールと、炭化水素基含有ポリオールとを反応させて得られるポリウレタン樹脂(A)、及び充填剤(B)、イソシアネート硬化剤(C)から成り、(B)充填剤を(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り20〜100重量部、(C)硬化剤を0.1重量部以上5重量部未満配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用容器の巻締め部に用いられる電池用シーリングコンパウンドに関するものであり、より詳細には、塗工性、接着性、耐電解液性、耐熱性、耐寒性、長期密封性に優れた電池用シーリングコンパウンドに関する。
また本発明は、かかる電池用シーリングコンパウンドを用いた効率的な電池容器の巻締め部形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、一般に金属部材から成る容器に、集電体や電解液等が収容されて形成されており、かかる容器は電池用ケースにケースの開口部を覆うための蓋をレーザー溶接等によって接合されて形成されているが、より簡易で信頼性のある密封構造を形成することが望まれている。
このような観点から、電池用ケースへの蓋の接合方法として巻締めが行われており、該巻締め部の密封性を確保するために巻締め箇所にシーリングコンパウンドを用いて巻締めが行われている。
【0003】
電池用容器等の金属製容器の胴部及び天板及び底板の巻締めに用いられるシーリングコンパウンドとしては、一般にスチレンブタジエンゴムから成る水性ラテックスから成るシーリングコンパウンドや(特許文献1)、共役ジエンと芳香族ビニル化合物を乳化重合してなる缶シーリング材用共重合体ラテックス(特許文献2)、或いはカルボキシル基を有するスチレンブタジエン共重合体、ウレタン樹脂及びフェノール樹脂から成る缶用接着剤(特許文献3)等が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特公平1−53313号公報
【特許文献2】特許第2619301号公報
【特許文献3】特開平9−279112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
充放電可能な電気二重層キャパシタにおいては、一般に円筒形状の電池用容器が用いられていたが、高出力且つ高持続力を実現するために、円筒形状の容器よりも容積効率のよい角型形状(直方体状)の容器が用いられることが望まれている。
しかしながら、このような角型形状の容器は円筒形状の容器に比して角部の曲率半径が小さいため、巻締めに際して角部及びその近傍に皺が発生しやすく、上述した従来のシーリングコンパウンドでは、このような皺の発生部の密封性について充分満足する結果を得ることが困難であった。
【0006】
またこのような電気二重層キャパシタにおいては、プロピレンカーボネート等の極性有機溶剤が電解液として使用されており、シーリングコンパウンドにより形成されるシール材が電解液に対して体積低下(マイナス膨張)しては密封性能が損なわれ、一方電解液に対する膨潤の程度が大きすぎても満足する密封性能を得ることができないことから、シーリングコンパウンドは電解液に対する耐性を有することが要求される。
【0007】
従って本発明の目的は、塗工性及び取扱い性に優れた水系、一液型のシーリングコンパウンドであって、接着性強度、耐電解液性、耐熱性、耐寒性、長期密封性に優れたシール材を提供可能な電池用シーリングコンパウンドを提供することである。
本発明の他の目的は、角型形状の電池用容器に適用された場合にも、優れた密封性を長期にわたって実現可能なシーリングコンパウンドを提供することである。
また本発明の他の目的は、電池の製造工程において効率よくシーリングコンパウンドを架橋硬化させることができる電池用容器の巻締め部形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、(A−1)ウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリオールと炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させ、更にイソシアネート基をブロック化剤でブロックして得られるブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、(A−2)有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させて得られるポリウレタンオリゴマーと、(A−3)有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させて得られるポリウレタン樹脂、から成る(A)ポリウレタン樹脂、及び(B)充填剤、(C)イソシアネート硬化剤から成り、前記(B)充填剤が(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り20乃至100重量部、前記(C)イソシアネート硬化剤が(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1重量部以上5重量部未満の量で配合されていることを特徴とする電池用シーリングコンパウンドが提供される。
【0009】
本発明の電池用シーリングコンパウンドにおいては、
1.炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールが、ダイマージオールであること、
2.粘度調整剤を(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1乃至5重量部の量で配合してなること、
3.ポリウレタン樹脂が、(A−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中の潜在NCO基と、(A−2)ポリウレタンオリゴマー及び(A−3)ポリウレタン樹脂中のOH基の比(モル比)が0.8乃至3.0の範囲にあること、
4.(A−2)ポリウレタンオリゴマーと(A−3)ポリウレタン樹脂の比(重量比)が0.6乃至2.0の範囲であること、
5.親水基を含有するポリエステルポリオールがアニオン親水基を含有するポリエステルポリオールであること、
6.加熱硬化後のシーリング材のプロピレンカーボネート膨潤率が0乃至30%の範囲にあること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、電池用ケース及び蓋から成る電池用容器の巻締め部形成方法において、蓋端部に上記電池用シーリングコンパウンドを塗布乾燥し、次いで該シーリングコンパウンドが電池ケース及び蓋の間に位置するようにこれらの端部を巻締めて、120乃至220℃で0.1乃至72時間加熱することを特徴とする電池用容器の巻締め部形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電池用シーリングコンパウンドによれば、水系且つ一液型であるため、取り扱いが容易であり塗工性に優れている。
またかかるシーリングコンパウンドを蓋の端部に塗布し予備的に乾燥した場合に形成される乾燥皮膜が強度及び再流動性に優れているため、乾燥皮膜形成後の蓋の保存やスタック性に優れていると共に、巻締めの際の加熱によって、巻締め形状に合わせた形状に適合可能であり、角型形状の容器に使用された場合にも優れた密封性を発現できる。一方、耐スクイズアウト性にも優れており、効率よく外観特性にも優れた密封性のよいシーリング剤を形成できる。
【0012】
更に本発明の電池用シーリングコンパウンドは、金属基体に形成された樹脂皮膜との接着性や、耐熱性、耐寒性にも優れ、しかもプロピレンカーボネート等の極性有機溶剤から成る電解液に対して膨潤率が0乃至30%の範囲と優れた耐性を有しているため、角型形状の容器に使用された場合にも、長期にわたって優れた密封性を発現できる。
また本発明の巻締め部形成方法によれば、電池形成の際に効率よく巻締め部を形成することができるため、生産性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の電池用シーリングコンパウンドにおいては、(A−1)ウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリオールと炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させ、更にイソシアネート基をブロック化剤でブロックして得られるブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、(A−2)有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させて得られるポリウレタンオリゴマーと、(A−3)有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させて得られるポリウレタン樹脂、から成る(A)ポリウレタン樹脂を用いることが重要な特徴である。
【0014】
すなわち本発明において、上記(A−1)のブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基が、ウレトジオン基、ウレトイミン基のような二量化或いは重合化された形で存在するか或いはブロック化剤で封鎖されているため、その状態のままではヒドロキシル基とは反応せず、加熱することにより反応性のイソシアネート基に解離するという潜在イソシアネートプレポリマーとしての特性を有している。このため本発明のシーリングコンパウンドにおいては水系でありながら安定した一液型のエマルジョンとすることが可能となる。
また上記(A−2)のポリウレタンオリゴマーは、塗布後加熱されることにより上記(A−1)のブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと反応して、架橋構造を形成し、上述したような予備的な乾燥により形成された被膜の強度を向上させることができると共に、ソフトウレタンセグメントの存在によりシーリング材に柔軟性を付与することが可能となって密封性を向上させる。更に上記(A−3)のポリウレタン樹脂もヒドロキシル基を有していることから上記(A−1)との反応にも寄与するが、ハードウレタンセグメントを有していることから、それ自体で擬似的な架橋効果を発現できるため、更に皮膜強度の向上を図ることが可能となるのである。
【0015】
本発明の電池用シーリングコンパウンドにおいては、上記(A−1)乃至(A−3)から成るポリウレタン樹脂と共に、(B)充填剤が(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り20乃至100重量部、及び(C)イソシアネート硬化剤が(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1重量部以上5重量部未満の量で配合されていることも重要である。
すなわち後述する実施例の結果からも明らかなように、(B)充填剤の配合量が上記範囲よりも少ない場合にはシーリングコンパウンドの予備乾燥被膜が粘着性を有し、耐スクイズアウト性に劣ると共に、加熱硬化後のシーリング材の被膜強度が不十分で満足する密封性を得ることができず(比較例1)、一方上記範囲よりも多い場合には加熱時の再流動性が不十分であり、さらに加熱硬化後のシーリング材の硬化歪が大きく接着性が劣るようになりやはり満足する密封性を得ることができない(比較例2)。
また同様に(C)イソシアネート系硬化剤が上記範囲よりも多い場合には加熱硬化後のシーリング材が硬すぎて柔軟性が不足すると共に、プロピレンカーボネート膨潤性にも劣り満足する密封性を得ることができず(比較例4)、一方上記範囲よりも少ない場合には加熱硬化後のシーリング材の架橋度が不足しプロピレンカーボネート膨潤性が劣り満足する密封性を得ることができない(比較例3)。
【0016】
(A−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー
上述したように、本発明に用いるブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、ウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリオールと炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させ、更にイソシアネート基をブロック化剤でブロックして得られるものである。
ウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートとしては、下記の有機ポリイソシアネートをウレトジオン化触媒等を使用して重合することにより得られる、ウレトジオン基(主)とイソシアヌレート基(副)を含有する変性イソシアネートであることが特に好ましい。
【0017】
有機ポリイソシアネートとしては、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、1,2−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、o−キシレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トルエンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。また、これら有機ジイソシアネートのアダクト変性体(ウレタン変性体)、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等も使用できる。更に、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、クルードトルエンジイソシアネート等のポリイソシアネートも使用できる。
これらの有機ポリイソシアネートは単独で又は2種以上を混合して使用することができ、また脂肪族ジイソシアネートが好適に使用される。
【0018】
親水基を含有するポリオールは、分子中にカチオン親水基、アニオン親水基などのイオン性親水基や非イオン性親水基を含有するポリオールであり、具体的には、分子中にカチオン親水基を含有するポリオール、分子中にアニオン親水基を含有するポリオール、分子中に非イオン性親水基を含有するポリオール、及びこれらの任意の2種以上の混合物を挙げることができる。
本発明においては、これらのポリオールのうち、非イオン性親水基を含有するポリオールとアニオン親水基を含有するポリエステルポリオールとの混合物を用いることが好ましい。
【0019】
分子中にカチオン親水基を含有するポリオールは、例えば、カチオン親水基形成性基を含有するポリオールと酸性中和剤或いは四級化剤とから好適に形成される。すなわち、カチオン親水基は、三級アミノ基等のようなカチオン親水基形成性基と、酸性中和剤或いは四級化剤とからなる。
カチオン親水基形成性基を含有するポリオールとしては、例えば、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジプロピルエタノールアミン、N,N−ジフェニルエタノールアミン、N−メチル−N−エチルエタノールアミン、N−メチル−N−フェニルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、N−メチル−N−エチルプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−メチルジプロパノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、N−フェニルジプロパノールアミン、N−ヒドロキシエチル−N−ヒドロキシプロピル−メチルアミン、N,N′−ジヒドロキシエチルピペラジン、トリエタノールアミン、トリスイソプロパノールアミン、N−メチル−ビス(3−アミノプロピル)アミン、N−メチル−ビス(2−アミノプロピル)アミンが挙げられる。また、アンモニア、メチルアミンのような第一アミンや、ジメチルアミンのような第二アミンにアルキレンオキサイドを付加させたものも使用できる。
【0020】
カチオン親水基を形成するための酸性中和剤としては、例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シアノ酢酸、リン酸、硫酸等の無機酸や有機酸が挙げられる。四級化剤としては、例えば、硫酸ジメチル、塩化ベンジル、ブロモアセトアミド、クロロアセトアミド、又は、臭化エチル、臭化プロピル、臭化ブチル等のハロゲン化アルキルが挙げられる。
なお、これらのカチオン親水基形成性基を含有するポリオールや酸性中和剤或いは四級化剤はそれぞれ、単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。
【0021】
分子中にアニオン親水基を含有するポリオールは、例えば、アニオン親水基形成性基を含有するポリオールと塩基性中和剤とから好適に形成される。すなわち、アニオン親水基は、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、チオスルホン酸等のようなアニオン親水基形成性基と、塩基性中和剤とからなる。
アニオン親水基形成性基を含有するポリオールとしては、例えば、α−ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシコハク酸、ε−ヒドロキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、ヒドロキシ酢酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、リシノエライジン酸、リシノステアロール酸、サリチル酸、マンデル酸等、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸をヒドロキシル化したヒドロキシ脂肪酸、又は、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボン酸含有ポリオール、5−スルホイソフタル酸骨格を導入したポリエステルポリオール、水やカルボキシル基を有する活性水素化合物を開始剤としたポリカプロラクトン、ポリエステルポリオールとカルボキシル基を有する活性水素化合物とのエステル交換物、ポリカーボネートポリオールとカルボキシル基を有する活性水素化合物とのエステル交換物が挙げられる。
【0022】
また、後述の長鎖ポリオール類、低分子ポリオール類等と、ポリカルボン酸無水物とを反応させて得られるカルボキシル基を含有するハーフエステル混合物も使用可能である。特に、無水ピロメリット酸等の二無水物にポリオールを付加させた場合、2個のカルボン酸が生成するため、ポリエステルポリオールの分子鎖中にアニオン親水基形成性基を導入できることになる。
分子中にアニオン親水基を含有するポリオールとしては、特にスルホン酸(塩)基含有ポリオール、例えばスルホン酸ナトリウム基含有ポリオールを好適に使用できる。
【0023】
アニオン親水基を形成するための塩基性中和剤としては、例えば、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール、ピリジン等の有機アミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類、アンモニアが挙げられる。なお、この中で好ましいものは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類である。
なお、これらのアニオン親水基形成性基を含有するポリオールや塩基性中和剤はそれぞれ、単独で或いは2種以上混合して用いてもよい。
【0024】
分子中に非イオン性親水基を含有するポリオールとしては、ポリ(オキシアルキレン)エーテルアルコール、ポリ(オキシアルキレン)脂肪酸エステルアルコール等が好適に挙げられる。非イオン性親水基は、樹脂の主鎖や側鎖に導入されたオキシアルキレン基の繰り返し単位の部分である。
ポリ(オキシアルキレン)エーテルアルコールは、開始剤にアルキレンオキサイドを付加重合させて得られる。この開始剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサノール、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アニリン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールが挙げられる。これらのうちでは、エチレングリコールのように分子量が小さいものが好ましい。アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。なお、アルキレンオキサイドの一部に、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、ブチルグリシジルエーテル等のエポキシ基を有する化合物を用いてもよい。
【0025】
また、ポリ(オキシアルキレン)脂肪酸エステルアルコールの製造に用いられる脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸が挙げられる。
これらはいずれもそれぞれ単独で又は2種以上混合して使用してもよい。
なお、前述の原料に存在するポリエーテル鎖には、3〜300個、特に5〜200個のオキシエチレン基を有し、かつオキシエチレン基を50モル%以上、特に60モル%以上を有するものが好ましい。
【0026】
炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールは、疎水性を向上させてプロピレンカーボネートなどの極性有機溶剤に対する耐膨潤性を付与するためのものであり、体表例としてダイマージオールを挙げることができる。そのため、このポリオールの炭化水素基は18以上、更に30以上であることが好ましい。
ダイマージオールは、不飽和脂肪酸を重合して得られる二量体成分(一般にはダイマー酸と称されるもの)を水素化したグリコールである。その具体例としては、以下の一般式(1)及び(2)で表される化合物の混合物を主成分として含有するものを示すことができる。
【0027】
【化1】

【0028】
一般式(1)中、R及びRはいずれもアルキル基であり、かつRおよびRに含有される各炭素数ならびにnおよびmとの合計が30であるとの条件を満足するものであることを示す。また一般式(2)中、R及びRはいずれもアルキル基であり、かつRおよびRに含有される各炭素数ならびにqおよびrとの合計が34であるとの条件を満足するものであることを示す。
【0029】
本発明に用いるウレタンプレポリマーの製造の際には更に、前記以外の長鎖ポリオールや低分子ポリオール、低分子ポリアミン、低分子アミノアルコール等のその他の活性水素化合物を併用することができる。これらはいずれもそれぞれ単独で又は2種以上混合して使用することができる。
この長鎖ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール、動植物系ポリオール又はこれらのコポリオール等が挙げられる。
【0030】
本発明におけるウレタンプレポリマーにおけるカチオン親水基、アニオン親水基などのイオン性親水基と非イオン性親水基の導入量は、次の通りである。
アニオン親水基或いはカチオン親水基の導入量は、プレポリマーに対して、0.001〜1.0mmol/gであることが好ましく、特に0.003〜0.1mmol/gが好ましい。
非イオン性親水基(好適にはエチレンオキサイドユニット)の導入量は、プレポリマーに対して、0.1〜40質量%であることが好ましく、特に0.5〜30質量%が好ましい。
【0031】
本発明に用いるウレタンプレポリマーは、好適には例えば、ウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオール(特に好適にはダイマージオール)とを、イソシアネート基過剰の条件、好ましくはNCO/水酸基=1.1/1〜2.0/1(当量比)で順次あるいは同時に反応させて製造することができる。同時に反応させる方法が、製造工程が少なくなるので好ましい。
ウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートと(ブロック化剤以外の)活性水素基含有化合物との反応における温度は、0〜100℃が好ましく、更には20〜90℃が好ましい。
反応は、溶融状態、バルク状態、又は必要に応じてポリウレタン工業において常用の親水性溶剤、例えば、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテルエステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、極性溶剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
また、反応時には、必要に応じて触媒を用いることができる。具体的には、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート等の有機金属化合物や、トリエチレンジアミンやトリエチルアミン等の有機アミンやその塩等が挙げられる。
なお、イソシアネートプレポリマーの数平均分子量は1,000〜50,000、特に3,000〜40,000であることが好ましい。数平均分子量が1,000未満の場合は、反応が不十分であるため、必然的に親水基が少なくなり、水に分散しにくくなるという不具合が生じる。また、数平均分子量が50,000を超える場合は、プレポリマー自体の粘度が高くなり、該プレポリマーの取り扱い作業性が悪化し、また、該プレポリマーに含有される(ウレトジオン基を含む)イソシアネート基の減少により、樹脂の強度等の物性が低下する。なお、本発明において、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィにより屈折率検出器を用いてポリスチレン換算にて測定した値である。
また、ウレタンプレポリマーの(ウレトジオン基を含む)イソシアネート基(NCO)含量は、固形分100質量%換算で1〜30質量%、特に1〜25質量%であることが好ましい。
このときの反応装置としては、上記の反応が達成できればいかなる装置でも良く、例えば、攪拌装置の付いた反応釜やニーダー、一軸又は多軸押し出し反応機等の混合混練装置が挙げられる。
【0033】
ブロック化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール等のフェノール系化合物、2−ヒドロキシピリジン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール系化合物、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系化合物、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物、コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系化合物、イミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素系化合物、ホルムアミドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、カルバゾール、エチレンイミン、ポリエチレンイミン等のアミン系化合物が挙げられる。
これらは単独で或いは2種以上を混合して使用することができる。
本発明においてはブロック化剤として、汎用性、製造の簡易さ及び作業性の点から、ラクタム系化合物が好ましい。
このようなブロック化剤とウレタンプレポリマーとの反応は、例えば20〜200℃で、必要に応じて、ウレタン工業で公知ないし常用の不活性溶剤、触媒等を使用して行うことができる。
ブロック化剤は、遊離のイソシアネート基に対して0.5〜1.5倍モル量使用するのが好ましい。
【0034】
(A−2)ポリウレタンオリゴマー
本発明で使用するポリウレタンオリゴマーは、有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオール(特に好適にはダイマージオール)とを水酸基過剰の条件、好ましくはNCO/水酸基=0.3/1〜0.6/1(当量比)で反応させることにより得ることができる。
このポリウレタンオリゴマーは、シーリング材の膜強度と水への分散性の点から、水酸基価が30〜110mgKOH/gの範囲にあることが好ましい。
【0035】
このポリウレタンオリゴマーの調製に用いる有機ポリイソシアネートとしては、前記のウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートの製造に使用される有機ポリイソシアネートはいずれも使用することができるが、芳香族以外のポリイソシアネートが好ましく、更にウレタン変性した芳香族以外のポリイソシアネートが好ましい。
親水基を含有するポリオールとしては、前記のウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートの製造に使用される、親水基を含有するポリオールはいずれも使用することができるが、水への分散性の点で、アニオン親水基を含有するポリエステルポリオール、特にスルホン酸(塩)基含有ポリオール、例えばスルホン酸ナトリウム基含有ポリオールを好適に使用できる。
炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールは、前記のウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートの製造に使用され、(A−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーで例示したものと同様のものを使用することができる。炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとしては、特にダイマージオールが好ましい。
【0036】
(A−3)ポリウレタン樹脂
本発明で使用されるポリウレタン樹脂は、有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを水酸基過剰の条件、好ましくはNCO/水酸基=0.75/1〜0.95/1(当量比)で反応させることにより得ることができる。炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとしては、特にダイマージオールが好ましい。
このポリウレタン樹脂は、シーリング材の膜強度と水への分散性の点から、水酸基価が2mgKOH/g以上30mgKOH/g未満の範囲にあることが好ましい。
【0037】
有機ポリイソシアネートとしては、前記のウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートの製造に使用される、有機ポリイソシアネートはいずれも使用することができるが、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、更にジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネートが好ましい。
親水基を含有するポリオールとしては、前記のウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートの製造に使用される、親水基を含有するポリオールはいずれも使用することができるが、水への分散性の点で、アニオン親水基を含有するポリエステルポリオール、特にスルホン酸(塩)基含有ポリオール、例えばスルホン酸ナトリウム基含有ポリオールを好適に使用できる。
炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールは、前記のウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートの製造に使用され、(A−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーで例示したものと同様のものを使用することができる。炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとしては、特にダイマージオールが好ましい。
【0038】
(B)充填剤
本発明の電池用シーリングコンパウンドは、(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り20乃至100重量部、特に30乃至70重量部の量で充填剤を配合する。
本発明に用いることができる充填剤としては、これに限定されないが、酸化アルミニウム水和物、酸化アルミニウム、アルミナホワイト、コロイダルシリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸および合成ケイ酸塩のようなシリカ質充填剤、タルク、ドロマイト、硫酸アルミナ、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、フライアシュ、軽石粉、ガラス粉、アスベスト、珪藻土、ベントナイト等、または、有機物粉体及びこれらから成る中空粒子等を例示できるが、特にタルクを好適に用いることができる。
【0039】
(C)イソシアネート硬化剤
イソシアネート硬化剤としては、前記のウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートの製造に使用される、有機ポリイソシアネートはいずれも使用することができるほか、ウレトジオン変性ポリイソシアネートも使用することができる。
これらは単独で或いは2種以上を混合して使用することができる。
特に膜強度の点から、ウレトジオン変性ポリイソシアネートが好ましく、芳香族ポリイソシアネートから誘導されたウレトジオン変性ポリイソシアネートが更に好ましい。
本発明の電池用シーリングコンパウンドは、(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1重量部以上5重量部未満の量でイソシアネート硬化剤を配合する。
【0040】
本発明の電池用シーリングコンパウンドにおいては、他の添加剤を配合することもでき、特に粘度調整剤を配合することが好ましい。これによりシーリングコンパウンドの塗工性をより向上させることができる。
本発明の電池用シーリングコンパウンドは、(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1乃至5重量部、特に0.5乃至3重量部の量で粘度調整剤を配合する。
本発明に用いることができる粘度調整剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩(ナトリウム、亜鉛)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムおよびカラヤガム等を挙げることができる、特にメチルセルロースを好適に用いることができる。
粘度調整剤以外にも、それ自体公知の添加剤、例えば老化防止剤、増粘剤、粘着付与剤、分散剤等を従来公知の処方に従って配合することができる。
【0041】
(シーリングコンパウンドの調製)
本発明のシーリングコンパウンドにおいては、上述した(A−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中のNCO基と、(A−2)ポリウレタンオリゴマー及び(A−3)ポリウレタン樹脂中のOH基の比(当量比)が0.8乃至3.0の範囲、特に1.3乃至2.0の範囲となるように配合することが好ましい。
また上記イソシアネート硬化剤は、上記(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1重量部以上5重量部未満、特に0.5乃至3重量部の範囲となるように配合することが好ましい。上記範囲よりも小さい場合には、所定の物性が得られず、一方上記範囲よりも大きい場合には接着性が劣るようになると共に、ブリスターの発生が有り好ましくない。
また(A−2)ポリウレタンオリゴマーと(A−3)ポリウレタン樹脂の比(重量比)が100:50乃至100:150の範囲にあることが好ましい。
本発明のシーリングコンパウンドにおいては、上述した各成分を所定の配合量で混合攪拌し、樹脂分濃度が10乃至60重量%、特に20乃至50重量%の水性エマルジョンとして調製される。
【0042】
(電池用容器の巻締め部形成方法)
本発明の電池用シーリングコンパウンドが使用される電池用容器は、電池用ケース及び蓋から成るものである。電池用ケースは、金属板を絞り成形等することによって形成されたシームレスの電池用ケースと1つの蓋からなる2ピース構造のもの、金属基体を溶接等により接合した胴部と底部からなる電池用ケースと蓋からなる3ピース構造のもの、またシームレスの胴部と底部からなる金属製の電池用ケースと蓋からなる3ピース構造のものの何れでもよい。
本発明のシーリングコンパウンドにおいては、特に再流動性や、耐スクイズアウト性に優れているので、円筒形型のみならず、角型形状の電池用容器にも好適に使用することができる。
また本発明のシーリングコンパウンドは、ブリキ、ティン・フリー・スチール等のスチール材やアルミ材からなる電池用容器の金属表面に使用することができ、塗装やラミネートにより樹脂被覆が施された基体表面にも使用することができる。特にPETラミネート材からなる電池容器の密封に好適に使用することができる。
【0043】
何れの形状の電池用容器の場合でも蓋の端部にシーリングコンパウンドをライニングして、これを予備的に乾燥してシーリングコンパウンドの乾燥皮膜を形成する。シーリングコンパウンドの乾燥皮膜の形成は、これに限定されないが、50乃至120℃の温度で1乃至20分間加熱することが好ましい。
次いでシーリングコンパウンドの乾燥皮膜が電池ケース及び蓋の間に位置するようにこれらの端部を二重巻締めして、120乃至220℃で0.1乃至72時間加熱することにより、シーリングコンパウンドは架橋硬化し、優れた密封性、耐電解液性、耐熱性、耐寒性を具備するシーリング材を巻締め部に形成することが可能となる。
尚、本発明のシーリングコンパウンドにおいては、加熱硬化後のシーリング材が、前述したプロピレンカーボネート膨潤度が0乃至30%の範囲にある以外にも、後述する実施例に示すように、接着強度が25乃至60N/cmの範囲、膜強度が抗張力として5乃至9MPa及び伸びとして250乃至700%の範囲、及び流動点が130乃至200℃の範囲にあることが好ましい。
【0044】
電池の製造工程においては、電池用ケース内に集電体を封入した後、蓋の巻締め、端子部のボス・ナット締付けを経て、電極を乾燥させるための加熱工程に付されるが、本発明においては特に、この電極乾燥のための加熱工程において、同時にシーリングコンパウンドの再加熱を行うこともでき、これにより生産工程を簡略化することができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。なお、合成例、実施例及び比較例における「%」は、特に断りのない限り、「質量%」を意味する。
【0046】
〔(A−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの合成〕
合成例1
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管の付いた容量2,000mlの反応器に、ウレトジオン基及びイソシアヌレート基を含有する変性ヘキサメチレンジイソシアネート(ウレトジオン基含有量=47%、NCO含量=22.2%、イソシアヌレート基含有量=31%)435.4gを仕込み、更にスルホン酸Na含有ヘキサンアジペート系ポリエステルジオール(水酸基価=107mgKOH/g、平均官能基数=2、スルホン酸Na含有量=0.4mmol/g)177gとメトキシポリオキシエチレングリコール(数平均分子量=400、平均官能基数=1)71gとダイマージオール(コグニス(株)製SOV908)177gと触媒(共同薬品(株)製KS−1010A−1)0.3gと酸化防止剤(チバガイギー社製イルガノックス−1010)3gを仕込み、80〜90℃にて3時間反応させて、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成した。
次いで、この中に、ε−カプロラクタムを135g仕込み、80℃で3時間反応させて、ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成した。
このブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、(ウレトジオン基及びブロックイソシアネート基から発生する)潜在イソシアネート基含量=2.9mmol/g、炭素数9以上の炭化水素基含有率=17.7%、スルホン酸Na含有量=0.071mmol/gであった。
このブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを(A−1)と称する。
【0047】
この(A−1)は、樹脂分30%のエマルジョンにして液性の変化を観察したとき、10日間以上肉眼観察では変化が見られなかった。
一方、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを樹脂分30%のエマルジョンにして液性の変化を観察したとき、8時間経過後には相分離を生じ、肉眼でゲル状物が観察された。
【0048】
〔(A−2)ポリウレタンオリゴマーの合成〕
合成例2
合成例1と同様の反応器に、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製コロネート2612、NCO含量=17.5%)274gを仕込み、更にスルホン酸Na含有ヘキサンアジペート系ポリエステルジオール(水酸基価=107mgKOH/g、平均官能基数=2、スルホン酸Na含有量=0.4mmol/g)218gとダイマージオール(コグニス(株)製SOV908)508gと触媒(共同薬品(株)製KS−1010A−1)0.5gを仕込み、80〜90℃にて3時間反応させて、ポリウレタン(オリゴマー)ポリオールを合成した。
このポリウレタン(オリゴマー)ポリオールは、水酸基価=61.7mgKOH/g、炭素数9以上の炭化水素基含有率=50.8%、スルホン酸Na含有量=0.087mmol/gであった。
このポリウレタン(オリゴマー)ポリオールを(A−2)と称する。
【0049】
〔(A−3)ポリウレタン樹脂の合成〕
合成例3
合成例1と同様の反応器に、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製MDI、NCO含量=33.6%)231gを仕込み、更にスルホン酸Na含有ヘキサンアジペート系ポリエステルジオール(水酸基価=107mgKOH/g、平均官能基数=2、スルホン酸Na含有量=0.4mmol/g)416gとダイマージオール(コグニス(株)製SOV908)416gを仕込み、80〜90℃にて3時間反応させて、ポリウレタン(樹脂)ポリオールを合成した。
このポリウレタン(樹脂)ポリオールは、水酸基価=2.5mgKOH/g、炭素数9以上の炭化水素基含有率=39.1%、スルホン酸Na含有量=0.157mmol/gであった。
このポリウレタン(樹脂)ポリオールを(A−3)と称する。
【0050】
〔(B−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの合成〕
合成例4
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管の付いた容量2,000mlの反応器に、ウレトジオン基及びイソシアヌレート基を含有する変性ヘキサメチレンジイソシアネート(ウレトジオン基含有量=47%、NCO含量=22.2%、イソシアヌレート基含有量=31%)574gを仕込み、更にスルホン酸Na含有ヘキサンアジペート系ポリエステルジオール(水酸基価=107mgKOH/g、平均官能基数=2、スルホン酸Na含有量=0.4mmol/g)751gとメトキシポリオキシエチレングリコール(数平均分子量=400、平均官能基数=1)101gと触媒(共同薬品(株)製KS−1010A−1)0.3gと酸化防止剤(チバガイギー社製イルガノックス−1010)3gを仕込み、80〜90℃にて3時間反応させて、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成した。
次いで、この中に、ε−カプロラクタムを162.5g仕込み、80℃で3時間反応させて、ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成した。
このブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、(ウレトジオン基及びブロックイソシアネート基から発生する)潜在イソシアネート基含量=2.30mmol/g、スルホン酸Na含有量=0.189mmol/gであった。
このブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを(B−1)と称する。
【0051】
〔(B−2)ポリウレタンオリゴマーの合成〕
合成例5
合成例1と同様の反応器に、ウレタン変性ヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製コロネート2612、NCO含量=17.5%)186gを仕込み、更にスルホン酸Na含有ヘキサンアジペート系ポリエステルジオール(水酸基価=107mgKOH/g、平均官能基数=2、スルホン酸Na含有量=0.4mmol/g)814gと触媒(共同薬品(株)製KS−1010A−1)0.5gを仕込み、80〜90℃にて3時間反応させて、ポリウレタン(オリゴマー)ポリオールを合成した。
このポリウレタン(オリゴマー)ポリオールは、水酸基価=43.7mgKOH/g、スルホン酸Na含有量=0.326mmol/gであった。
このポリウレタン(オリゴマー)ポリオールを(B−2)と称する。
【0052】
〔(B−3)ポリウレタン樹脂の合成〕
合成例6
合成例1と同様の反応器に、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製MDI、NCO含量=33.6%)100gを仕込み、更にスルホン酸Na含有ヘキサンアジペート系ポリエステルジオール(水酸基価=107mgKOH/g、平均官能基数=2、スルホン酸Na含有量=0.4mmol/g)837gを仕込み、80〜90℃にて3時間反応させて、ポリウレタン(樹脂)ポリオールを合成した。
このポリウレタン(樹脂)ポリオールは、水酸基価=47.7mgKOH/g、スルホン酸Na含有量=0.4mmol/gであった。
このポリウレタン(樹脂)ポリオールを(B−3)と称する。
【0053】
〔水性分散液の調整〕
合成例1のブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−1)を加熱溶解し、90℃のイオン交換水に攪拌しながら徐々に添加し分散させ、室温まで冷却して固形分濃度30%の水分散液(A−1’)を調整した。
同様にして合成例2から6の30%水分散液(A−2’)(A−3’)及び(B−1’)〜(B−3’)を調整した。
【0054】
(実施例1〜12及び比較例1〜8)
表1及び2に示す配合でブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー水分散液、ポリウレタンオリゴマー水分散液、充填剤として酸化チタン及びタルク、ポリウレタン樹脂水分散液、粘度調整剤としてメチルセルロース、及びイソシアネート系硬化剤としてウレトジオン変性トルエンジイソシアネートを量り取り、攪拌混合することにより,実施例1〜12の電池用シーリングコンパウンド及び比較例1〜8のコンパウンドを調製した。
これらのコンパウンドを用いて、次の性能試験を行った。
これらの結果をまとめて表1及び2に示す。
【0055】
〔性能試験〕
(1)接着強度の測定
実施例及び比較例のシーリングコンパウンドを幅25mm、オープニング0.3mmのアプリケーターを用いてPETフィルムをラミネートしたアルミ板(幅40mm、板厚0.5mm)に常温で均一に塗布した。その後、これをオーブンに入れ、90℃で10分間加熱し乾燥して、試験片を作製した。
試験片を10mm幅にカットし、同幅のPETフィルムをラミネートしたアルミ板をはり合わせ、シール圧0.01MPa/cmになるように荷重をかけ、真空加熱オーブン(アズワン(株)製VO−300)を160℃、真空度10mmHgとして、72時間加熱した。その後オーブン内より取り出し、放冷後、試験片をオートグラフ(島津製作所(株)製AG−500D)を用いて、剥離速度300mm/分、n=3でT字剥離し、接着強度を測定した。
【0056】
(2)膜強度の測定
シーリングコンパウンドを幅40mm オープニング1.0mmのアプリケーターでテフロン板上に塗布した。常温で24時間風乾後、テフロン板より剥がし、90℃の電気オーブンで10分間予備乾燥した。その後、真空加熱オーブン(アズワン(株)製VO−300)を160℃、真空度10mmHgにし、72時間加熱し試験片を作製した。次いで、試験片について、JIS−K−7312の方法により2号ダンベルを用い、抗張力及び伸びを測定した。
【0057】
(3)膨潤度の測定
膜強度の測定におけるのと同様の方法で試験片を作製し、直径25mmの円形に打ち抜いた。
打ち抜いた試験片を80℃のプロピレンカーボネート液中に3日間浸漬し、試験片の浸漬前後の重量を測定した。膨潤度は、次の計算式より算出した。
膨潤度(%)=(浸漬後の試験片の重量/浸漬前の試験片の重量−1)×100
【0058】
(4)流動点の測定
膜強度の測定におけるのと同様の方法で試験片を作製した。
試験片について、オリエンテック(株)製レオバイブロン モデルRHEO−1021、測定機種DDV−01FPを使用し、−100℃〜+200℃の範囲で、等速昇温、測定間隔2℃、周波数35Hzにて動的引張粘弾性測定を実施した。貯蔵弾性率の測定が不能となる温度を流動点とした。
【0059】
(5)電池用容器での評価
PETラミネート・アルミ板(板厚0.5mm)から絞り成形によってDR缶を作製し、上下をトリミングして円筒缶を作製した。円筒缶胴を角型に再成形し、フランジ成形してコーナーR5mmであり一辺5cmの立方体缶胴を作製した。
次いで同PETラミネート・アルミ板から角蓋を打ち抜き、蓋の周縁部に幅5mmの溝部を有するカール成形を施した。これに乾燥重量130mgのシーリングコンパウンドを均一に塗布し、90℃で10分の予備乾燥を施した。
上記立方体缶胴の片側に蓋を巻締め電池ケースを作製し、両面に多孔質カーボンを塗布したアルミ箔からなる集電積層体を入れて、中央に3mmφの穴を設けた蓋を巻締めた。
10mmHgの減圧下、160℃で72時間の熱処理を行い、集電積層体の吸着物を除去すると共に、巻締め部のシーリングコンパウンドを加熱硬化させ、シール部を形成した。
電池用容器の評価としては、巻締め部でのシーリングコンパウンドはみ出し(スクイズアウト)の目視観察、0.3MPaの水中エアリーク試験を行い、プロピレンカーボネートを蓋中央の穴より注入して封止後、80℃、3週間の保存テストを行って重量減少の有無を測定した。
スクイズアウト、水中エアリーク試験、及び保存テストの合否は表1及び2に○×にて表示した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A−1)ウレトジオン基を少なくとも含有する変性ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリオールと炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させ、更にイソシアネート基をブロック化剤でブロックして得られるブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、(A−2)有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させて得られるポリウレタンオリゴマーと、(A−3)有機ポリイソシアネートと、親水基を含有するポリエステルポリオールと、炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールとを反応させて得られるポリウレタン樹脂、から成る(A)ポリウレタン樹脂、及び(B)充填剤、(C)イソシアネート硬化剤から成り、前記(B)充填剤が(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り20乃至100重量部、前記(C)イソシアネート硬化剤が(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1重量部以上5重量部未満の量で配合されていることを特徴とする電池用シーリングコンパウンド。
【請求項2】
炭素数9以上の炭化水素基を含有するポリオールが、ダイマージオールであることを特徴とする請求項1記載の電池用シーリングコンパウンド。
【請求項3】
粘度調整剤を(A)ポリウレタン樹脂100重量部当り0.1乃至5重量部の量で配合してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池用シーリングコンパウンド。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂が、前記(A−1)ブロックイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中の潜在NCO基と、前記(A−2)ポリウレタンオリゴマー及び(A−3)ポリウレタン樹脂中のOH基の比(当量比)が0.8乃至3.0の範囲にある請求項1乃至3の何れかに記載の電池用シーリングコンパウンド。
【請求項5】
前記(A−2)ポリウレタンオリゴマーと(A−3)ポリウレタン樹脂の比(重量比)が0.6乃至2.0の範囲である請求項1乃至4の何れかに記載の電池用シーリングコンパウンド。
【請求項6】
前記親水基を含有するポリエステルポリオールがアニオン親水基を含有するポリエステルポリオールである請求項1乃至5の何れかに記載の電池用シーリングコンパウンド。
【請求項7】
加熱硬化後のシーリング材のプロピレンカーボネート膨潤率が0乃至30%の範囲にある請求項1乃至6の何れかに記載の電池用シーリングコンパウンド。
【請求項8】
電池用ケース及び蓋から成る電池用容器の巻締め部形成方法において、前記蓋の端部に請求項1乃至7の何れかに記載の電池用シーリングコンパウンドを塗布乾燥し、次いで該シーリングコンパウンドが電池ケース及び蓋の間に位置するようにこれらの端部を巻締めて、120乃至220℃で0.1乃至72時間加熱することを特徴とする電池用容器の巻締め部形成方法。

【公開番号】特開2006−324014(P2006−324014A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143451(P2005−143451)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000239080)福岡パッキング株式会社 (12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】