説明

電池用包装材

【課題】 リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して熱接着して密封するタイプのリチウム電池等の電池用包装材であって、密封性、耐突刺し性、絶縁性、耐熱・耐寒性、耐腐蝕性等の諸物性においても優れることは元より、スリップ剤を用いることなく良好な滑り性を得ることができ、結果としてプレス成形時の成形安定性やラミネート強度の安定性に優れる電池用包装材を提供することである。
【解決手段】 少なくとも基材層、アルミニウム箔、化成処理層、接着層、熱接着性樹脂層が順に積層された電池用包装材において、前記熱接着性樹脂層の表出面の中心線表面粗さ(Ra)が60nm〜1000nmであることを特徴とする電池用包装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、特に電解質(液体や固体電解質)を有するリチウム電池本体を包装する電池用包装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池とは、リチウム二次電池ともいわれ、電解質として固体高分子、ゲル状高分子、液体などからなり、リチウムイオンの移動で起電する電池であって、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。リチウム二次電池の構成は、正極集電材(アルミニウム)/正極活性物質層(金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料)/電解質(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジメチル、エチレンメチルカーボネート等のカーボネート系電解液、リチウム塩からなる無機固体電解質、ゲル電解質)/負極活性物質層(リチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリルなどの高分子負極材料)/負極集電材(銅)からなるリチウム電池本体およびそれらを収納する外装等からなる。リチウム二次電池は、その高い体積効率、重量効率から電子機器、電子部品、特に携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラなどに広く用いられている。
【0003】
前記リチウム電池の外装としては、円柱状や直方体状の金属缶を金属接合により密封したものと、柔軟性を有する包装材を熱接着して密封したものとに大別されるが、金属端子の取出し易さや密封のし易さ、あるいは、柔軟性を有するために電子機器や電子部品の適当な空間に合わせた形状とすることができ、電子機器や電子部品自体の形状をある程度自由に設計することができるために、小型化、軽量化が容易であるなどの理由から、プラスチックフィルムやアルミニウム等の金属箔を積層した包装材が用いられるようになってきた。
【0004】
そして、前記包装材には、リチウム電池として求められる物性、すなわち、防湿性、密封性、耐突刺し性、絶縁性、耐熱・耐寒性、耐電解質性(耐電解液性)、耐腐蝕性(電解質の劣化や加水分解により発生するフッ酸に対する耐性)等が必要不可欠なものとして求められるために、前記包装材としては耐突刺し性や外部との通電を阻止するための基材層、防湿性を確保するためのアルミニウム等の金属箔からなるバリアー層、および、リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続されて外部に突設される金属端子との接着性に優れる内層、あるいは、密封性を確保するための熱接着性を有する内層で一般的には構成されるものである。
【0005】
リチウム電池の形態としては、上記した包装材を製袋加工して周縁熱接着部で図2(a)に示すように袋状〔図2(a)上はピロータイプの包装袋であるが三方タイプ、四方タイプ等の包装袋であってもよい〕にして、図示はしないがリチウム電池本体の正極および負極との各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で収納し、開口部を熱接着して密封するなりした図2(b)に示す袋タイプ、あるいは、上記した包装材を図3(a)に示すようにプレス成形して凹部を形成し、この凹部に図示はしないが前記リチウム電池本体の正極および負極との各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で収納すると共に、図示はしないが別途用意したシート状の前記包装材で前記凹部を被覆すると共に四周縁を熱接着して密封するなりした図3(b)に示す成形タイプとがある。また、前記成形タイプには、図示はしないが、前記凹部を被覆するシート状の前記包装材に代えて、図3(a)に示すようにプレス成形したものを用いて四周縁を熱接着して密封した両側に凹部を形成した成形タイプもある。なお、図2、3に示す袋タイプ、あるいは、成形タイプは本発明のリチウム電池の形態である。また、図2、3上で示す符号1は包装材、符号Dはリチウム電池、符号Sは周縁熱接着部、Tは金属端子を示す。
【0006】
上記したいずれの形態のリチウム電池においても、リチウム電池本体を包装材で密封する際に、リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続された金属端子を外部に突出させると共に包装材で前記金属端子を挟持した状態で熱接着することにより密封する必要がある。このために、前記包装材の内層を金属と良好な接着性を有する熱接着性樹脂、たとえば、不飽和カルボン酸でグラフト変性した酸変性オレフィン樹脂を用いて熱接着して密封する、あるいは、前記内層を金属との接着性に劣る一般的なオレフィン系樹脂(炭素と水素とからなる直鎖状あるいは分枝鎖状のオレフィン系樹脂)を用い、金属と良好な接着性を有する上記した酸変性オレフィン樹脂からなる金属端子部密封用接着性フィルムを前記金属端子と前記内層との間に介在させて熱接着して密封する方法が一般的に採られている。
【0007】
ところで、上記したリチウム電池の形態の中で、成形タイプの二次電池は袋タイプの二次電池に比べて、リチウム電池本体等をタイト(ぴったりとした状態)に収納することができるために体積エネルギー密度を向上させることができると共にリチウム電池本体等の収納がし易いなどの利点があり、成形タイプが主流となっているが、成形タイプのリチウム電池において、次のような問題がある。
【0008】
すなわち、包装材を構成する内層は、通常、加工性等を考慮してスリップ剤を混練した
層とし、プレス成形時にアルミニウム等の金属箔からなるバリアー層にピンホールやクラックが生じることなく均質に成形することができるように設計されているが、シャープな形状で深く安定して成形するという成形安定性の観点から滑り性を付与する手段が包装材には採られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
特許文献1に開示された技術は、包装材の基材層面および/ないし内層面にスリップ剤層を形成し、これによりプレス成形時の包装材の滑り性を向上させ、成形安定性の向上を図るものであるが、スリップ剤層を形成するスリップ剤の種類によっては、プレス成形時に成形金型にスリップ剤が蓄積し、これを定期的に清掃しなければならないという問題を生じるものもあり、また、包装材製造後の時間経過に伴って、滑り性が低下するという虞もあり、さらに、スリップ剤層を形成する工程が必要なためにコストアップになるという問題もあり、これらの問題の解決が要望されていた。
【0010】
また、包装材の根本的問題として、スリップ剤を混練した内層は、アルミニウム等の金属箔からなるバリアー層と内層との間のラミネート強度が不安定となる場合があり、この問題の解決も要望されていた。
【特許文献1】特開2002−216713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して熱接着して密封するタイプのリチウム電池等の電池用包装材であって、密封性、耐突刺し性、絶縁性、耐熱・耐寒性、耐腐蝕性等の諸物性においても優れることは元より、スリップ剤を用いることなく良好な滑り性を得ることができ、結果としてプレス成形時の成形安定性やラミネート強度の安定性に優れる電池用包装材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を達成するために請求項1記載の本発明は、少なくとも基材層、アルミニウム箔、化成処理層、接着層、熱接着性樹脂層が順に積層された電池用包装材において、前記熱接着性樹脂層の表出面の中心線表面粗さ(Ra)が60nm〜1000nmであることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2記載の本発明は、請求項1記載の電池用包装材において、前記熱接着性樹脂層が複層からなることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項3記載の本発明は、請求項1記載の電池用包装材において、前記化成処理層がアミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する化成処理液により形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電池用包装材は、熱接着性樹脂層の表出面の中心線表面粗さ(Ra)を60nm〜1000nmとすることにより、スリップ剤を用いることなく前記熱接着性樹脂層のプレス成形時の滑り性を向上させることができ、アルミニウム箔層にピンホールやクラックが発生し難い成形安定性に優れるという効果を奏し、また、本発明の電池用包装材は、密封性、耐突刺し性、絶縁性、耐熱・耐寒性、耐腐蝕性等の諸物性においても優れると共に、特にアルミニウム等の金属箔からなるバリアー層と内層との間のラミネート強度の安定性に優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記の本発明について、図面等を用いて以下に詳しく説明する。
図1は本発明にかかる電池用包装材の一実施例の層構成を図解的に示す図であって、電池用包装剤1は少なくとも基材層2、アルミニウム箔3、化成処理層4、接着層5、熱接着性樹脂層6を順に積層したものである。
【0017】
前記基材層2としては、外力からアルミニウム箔3を保護すると共に、特に外部からの突き刺しに対する耐突き刺し性を向上させる目的で設けるものであり、機械的強度に優れる点から2軸方向に延伸したポリエステルフィルムやポリアミドフィルム、あるいは、これらの積層体を挙げることができる。ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート等からなるフィルムを挙げることができ、また、ポリアミドフィルムとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等からなるフィルムを挙げることができる。前記基材層2の厚さとしては6μm以上が適当である。この理由としては、6μmより厚さが薄いと、それ自体にピンホールが存在する可能性があると共に外力に対するアルミニウム箔3の保護効果が減少し、特に成形タイプ(図3参照)の場合にはアルミニウム箔3にピンホールや破断が発生し易く成形不良を起こし易いからであり、より好ましくは12μm以上である。また、前記基材層2が上記したフィルムの単層であれ、複層であれ、25μmより厚い場合は外力に対するアルミニウム箔3の保護という点で顕著な効果が認められず、体積および重量エネルギー密度を低下させると共に、費用対効果の面からも使用しない方が望ましい。また、上記したポリエステルフィルムやポリアミドフィルムは必要な面にコロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の易接着処理を施してもよいものである。
【0018】
また、前記アルミニウム箔3としては、外部から電池内部に特に水蒸気が浸入するのを防止するために設けられるものであって、水蒸気バリアー性の確保と加工時の加工適性を考慮すると、20〜200μmの厚さのものが適当である。20μm未満の厚さの場合は、アルミニウム箔単体のピンホールが危惧され、水蒸気の浸入の危険性が高くなり、200μm超の厚さの場合は、アルミニウム箔のピンホールに顕著な効果が認められず、水蒸気バリアー性の更なる向上が期待できず、加工適性においても劣り、体積および重量エネルギー密度を低下させると共に費用対効果の面からも使用しない方が望ましい。
【0019】
また、前記アルミニウム箔3は鉄分を0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%含有したものが鉄分を含有しないものと比較して延展性に優れると共に折り曲げに対するピンホールの発生が少なく、特にプレス成形時に偏肉のない均一な成形品が得られるために成形タイプ(図3参照)とする場合の電池用包装材1に鉄分を含有したアルミニウム箔を用いるのが好ましい。なお、鉄含有量が0.3重量%未満ではピンホール発生の防止や延展性において効果が認められず、鉄含有量が9.0重量%超ではアルミニウム箔としての柔軟性が阻害されるために成形適性が低下する。
【0020】
また、前記アルミニウム箔3は冷間圧延で製造されるが、焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性、腰の強さ、硬さが変化するが、本発明に用いるアルミニウム箔3は焼きなましをしていない硬質処理品よりも多少ないし完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウム箔がよい。また、柔軟性、腰の強さ、硬さを決めるアルミニウム箔の焼きなまし条件は、電池用包装材1を袋タイプ(図2参照)として用いるのか、成形タイプ(図3参照)として用いるのかにより適宜決めればよいものである。
【0021】
前記化成処理層4は前記アルミニウム箔3を電解液や電解液の加水分解により発生するフッ酸による腐蝕を防止すると共に電解液や電解液の加水分解により発生するフッ酸による前記アルミニウム箔3と後述する接着層との間でのデラミネーションを防止し、さらに前記化成処理層4上に積層する接着層5との間を強固に接着させるために設けるものである。また、成形タイプの電池にあっては、プレス成形時の上記した層間でのデラミネーションを防止するために設けるものである。前記化成処理層4は、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等の非クロム系(塗布型)化成処理等により前記アルミニウム箔3面に形成されるものであるが、連続処理が可能であると共に水洗工程が不要で処理コストを安価にすることができるなどから塗布型化成処理が適当である。処理液としては、従来公知の六価クロム化合物を含有したクロメート処理液で処理してもよいものであるが、環境に優しく、時間経過と共に上記した各層間の接着強度の低下を来たし難い処理液、具体的にはアミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する処理液を用いて形成するのが好ましい。
【0022】
まず、アミノ化フェノール重合体について説明する。アミノ化フェノール重合体としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、下記式(1)、(2)、(3)、(4)で表される繰り返し単位からなるアミノ化フェノール重合体を挙げることができる。なお、式中のXは水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基ないしベンジル基を示す。また、R1、R2はヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基を示し、同じ基であってもよいし、異なる基であってもよいものである。
【0023】
下記式(1)〜(4)において、X、R1、R2で示されるアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。また、X、R1、R2で示されるヒドロキシアルキル基としては、たとえば、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ基が1個置換された炭素数1〜4の直鎖ないし分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。なお、下記式(1)〜(4)におけるXは水素原子、ヒドロキシル基、および、ヒドロキシアルキル基のいずれかであるのが好ましい。
【0024】
また、下記式(1)、(3)で表されるアミノ化フェノール重合体は、繰り返し単位を約80モル%以下、好ましくは繰り返し単位を約25〜約55モル%の割合で含むアミノ化フェノール重合体である。また、アミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、好ましくは約500〜約100万、より好ましくは約1000〜約2万である。アミノ化フェノール重合体は、たとえば、フェノール化合物ないしナフトール化合物とホルムアルデヒドとを重縮合して下記(1)ないし(3)で表される繰り返し単位からなる重合体を製造し、次いで、この重合体にホルムアルデヒドおよびアミン(R12NH)を用いて水溶性官能基(−CH2NR12)を導入することにより製造される。アミノ化フェノール重合体は、1種ないし2種以上混合して用いることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
次に、三価クロム化合物について説明する。三価クロム化合物としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロム等を挙げることができ、好ましくは硝酸クロム、フッ化クロムである。
【0030】
次に、リン化合物について説明する。リン化合物としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、リン酸、ポリリン酸等の縮合リン酸およびこれらの塩等を挙げることができる。ここで、前記塩としては、たとえば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0031】
そして、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する処理液を用いて形成する前記化成処理層としては、1m2当たり、アミノ化フェノール重合体が約1〜約200mg、三価クロム化合物がクロム換算で約0.5〜約50mg、および、リン化合物がリン換算で約0.5〜約50mgの割合で含有されているのが適当であり、アミノ化フェノール重合体が約5.0〜150mg、三価クロム化合物がクロム換算で約1.0〜約40mg、および、リン化合物がリン換算で約1.0〜約40mgの割合で含有されているのがより好ましい。この場合の乾燥温度としては、150〜250℃、好ましくは170〜250℃で、加熱処理(焼付け処理)するのが適当である。
【0032】
また、前記化成処理層4の形成方法としては、前記処理液をバーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法等の周知の塗布法を適宜選択して形成すればよいものである。また、前記化成処理層を形成する前に前記アルミニウム箔面に、予め、たとえば、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法等の周知の脱脂処理法で処理を施しておく方が、前記化成処理層の機能を最大限に発現させると共に、長期間維持することができる点から好ましい。
【0033】
次に、前記接着層5について説明する。前記接着層5としては、前記アルミニウム箔3の前記化成処理層4と後述する熱接着性樹脂層6とを強固に接着させるために設けるものであり、前記接着層5を形成する樹脂としてその一つを例示するならば、たとえば、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体等の酸変性ポリオレフィン樹脂、特に好ましくは不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂を挙げることができ、前記接着層の形成方法としては上記した樹脂をTダイ押出機を用いて前記アルミニウム箔3の前記化成処理層4面に溶融押出しして、後述する熱接着性樹脂層6を構成する樹脂フィルムを積層する、いわゆるサンドイッチラミネーション法で積層することにより形成してもよいし、また、上記した樹脂と後述する熱接着性樹脂層6に用いる樹脂とを予め共押出しして共押出しフィルムとなし、この共押出しフィルムを用いてサーマルラミネーション法で前記アルミニウム箔3の前記化成処理層4面に積層してもよいものである。この場合の前記接着層5の厚さとしては、5〜20μm、好ましくは10〜15μmであり、5μm未満では十分なラミネート強度を得ることができず、20μm超では端面からの水分透過が多くなり、電池としての性能を低下させる虞があるからである。
【0034】
また、前記接着層5を形成する樹脂として別の一つを例示するならば、たとえば、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリウレタン系等の主剤からなる周知の2液硬化型ドライラミネーション用接着剤を挙げることができる。前記接着層5を形成する方法としては、上記した主剤にイソシアネート化合物を配合した組成物をグラビアコート法、ロールコート法等の周知の塗布方法で塗布・乾燥し、後述する熱接着性樹脂層6を構成する樹脂フィルムを積層する、いわゆるドライラミネーション法で積層することにより形成することができる。前記接着層5の乾燥後の塗布量としては2.0〜5.0g/m2、好ましくは3.0g/m2以上となるように塗布するのが適当である。
【0035】
次に、前記熱接着性樹脂層6について説明する。前記熱接着性樹脂層6としては、リチウム電池本体の正極および負極の各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して熱接着して密封する際に前記熱接着性樹脂層6と金属端子との間に金属端子部密封用接着性フィルムを介在させるか否かで樹脂種が異なるものである。金属端子部密封用接着性フィルムを介在させる場合には、低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,線状低密度ポリエチレン,エチレン−ブテン共重合体等のエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂の単体ないし混合物等からなるフィルムを適宜選択して用いればよく、また、金属端子部密封用接着性フィルムを介在させない場合には、たとえば、不飽和カルボン酸でグラフト変性した酸変性オレフィン樹脂からなるフィルムを用いればよいものである。前記熱接着性樹脂層6の厚さとしては、20〜80μm、好ましくは30〜70μmであり、20μm未満では電池としたときのヒートシール強度を十分に得ることができない虞があり、80μm超では端面からの水分透過が多くなり、電池としての性能を低下させる虞があるからである。
【0036】
次に、前記熱接着性樹脂層6の一方の面、すなわち、電池用包装材1とした際の表出面を60nm〜1000nm(ナノメーター)の中心線表面粗さ(Ra)とする方法について説明する。上記した中心線表面粗さ(Ra)を得る方法としては、1)前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムの必要な面にサンドブラスト処理を施す方法、2)前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムに微粒子を配合する方法等を採用することができる。
【0037】
まず、上記1)のサンドブラスト処理は公知の方法でよいのであって、たとえば、カーボランダム(炭化珪素粉)、金属粒子等を圧搾空気と共にフィルム表面に強力に吹き付け、その後に水洗・乾燥処理を経て目的を達成することができる。サンドブラスト処理によるフィルム表面の中心線表面粗さ(Ra)の制御は、吹き付ける微粒子の粒径、処理量(面積当たりの処理頻度)により行うことができ、当然のことではあるが微粒子の粒径が大きくなるほど、また、処理量が多くなるほどフィルム表面の中心線表面粗さ(Ra)を大きくすることができる。
【0038】
次に、上記2)の微粒子を配合する方法について説明する。微粒子を配合して60nm〜1000nmの中心線表面粗さ(Ra)を得る場合は、前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムの製膜適性、熱接着性能、前記接着層5側に位置する面の前記接着層5との接着性等の諸問題を考慮すると、前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムは単層であって構わないが、前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムの電池用包装材1とした際の表出する面となる側を、微粒子を配合した層とした2ないし3層構成の共押出しフィルムとするのがより好ましい。また、微粒子を配合する層は、中心線表面粗さ(Ra)が60nm〜1000nm(ナノメーター)を達成することができればよいのであって、上記諸問題を考慮すると1〜10μm、好ましくは3〜7μmの厚さであればよいものであり、前記熱接着性樹脂層6の総厚は上記した通りであり、説明は省略する。具体的に微粒子を配合した層を有するフィルムの層構成を例示するならば、たとえば、酸変性ポリエチレン層/線状低密度ポリエチレン層/酸変性ポリエチレン層(微粒子含有層)、酸変性ポリプロピレン層/ポリプロピレン層/酸変性ポリプロピレン層(微粒子含有層)、酸変性ポリエチレン層/酸変性ポリエチレン層(微粒子含有層)、酸変性ポリプロピレン層/酸変性ポリプロピレン層(微粒子含有層)、酸変性ポリエチレン層/線状低密度ポリエチレン層(微粒子含有層)、酸変性ポリプロピレン層層/ポリプロピレン層(微粒子含有層)、線状低密度ポリエチレン層/酸変性ポリエチレン層(微粒子含有層)、ポリプロピレン層/酸変性ポリプロピレン層(微粒子含有層)、線状低密度ポリエチレン層/線状低密度ポリエチレン層(微粒子含有層)、ポリプロピレン層/ポリプロピレン層(微粒子含有層)等であるが、層構成はこれに限定されるものではなく、上記した熱接着性樹脂層6を形成する樹脂として例示した樹脂の各種組み合わせが可能である。なお、前記接着層5としての酸変性ポリオレフィン樹脂は前記熱接着性樹脂層6に用いるフィルムが前記接着層5を兼ねるものであれば、敢えて用いなくてもよいものである。
【0039】
また、配合する微粒子としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式ないし乾式シリカ、コロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ジルコニア等の無機微粒子、アクリル酸類、スチレン、シリコーン、イミド等を構成成分とする有機微粒子等を挙げることができ、1ないし2種以上を混合して用いてもよいものである。また、微粒子の平均粒径として50〜1000nm、好ましくは100〜500nmである。微粒子の配合量としては、特に限定されないが、ヒートシール強度等を考慮すると30重量%以下、好ましくは0.05〜10重量%である。0.05重量%未満では、緻密な表面粗さを得ることができない。なお、中心線表面粗さを(Ra)を60nm〜1000nmとする理由としては、60nm未満の場合は滑り性が悪くなる虞があり、1000nm超ではサンドブラスト処理で形成する場合は、フィルムにピンホールが生じる虞があり、微粒子を配合する場合は、粒径の大きい微粒子を用いる必要性からヒートシール強度が低下する虞がある。
【0040】
また、上記した1)および2)以外の方法としては、たとえば、3)表面に砂目等の凹凸模様を形成したエンボスロールで砂目等の凹凸模様を熱接着性樹脂層6を形成するフィルム表面に転写したフィルム(熱接着性樹脂層6)、あるいは、4)相溶性の低い樹脂をブレンドし、冷却製膜時の相分離を利用した方法によって製膜された海島構造を有するフィルム(熱接着性樹脂層6)などを挙げることができ、特に4)の方法によって製膜されたフィルム(熱接着性樹脂層6)は、たとえば、電池用包装材1をサーマルラミネーション法で製造する際には、相当に高い熱がラミネーション時に加えられるが、この熱に対しても上記した1)、2)、3)の方法で製造されたフィルムと比較して、熱によって中心線表面粗さ(Ra)が殆ど変化しない〔熱によって中心線表面粗さ(Ra)が殆ど低下することがない〕ために、電池用包装材1用の熱接着性樹脂層6を形成するフィルムとしては極めて好ましいものである。4)の方法によって製膜されたフィルム(熱接着性樹脂層6)についても、前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムの製膜適性、熱接着性能、前記接着層5側に位置する面の前記接着層5との接着性等の諸問題を考慮すると、前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムは単層であって構わないが、前記熱接着性樹脂層6を形成するフィルムの電池用包装材1とした際の表出する面となる側を、海島構造を有する層とした2ないし3層構成の共押出しフィルムとするのがより好ましい。海島構造を有するフィルムないし層の成形は、たとえば、海を構成する成分として線状低密度ポリエチレンを用い、島を構成する成分として高圧法低密度ポリエチレンないし低圧法低密度ポリエチレンからなるドライブレンドした樹脂組成物をインフレーション法等の周知の製膜法でフィルム化すればよいものであり、ブレンドする樹脂種としては上記した樹脂種に限ることはなく、互いに相溶性の低い樹脂であって、冷却製膜時の相分離により海島構造を形成するものであれば、適宜選択して用いることができるものである。なお、共押出しフィルムとする場合、海島構造を有する層以外の層は海島構造を有する層と熱溶融により接着することは元より互いに熱溶融して接着する樹脂種を選択して用いればよいものである。この場合の総厚および各層の厚さについても上記で説明したと同様であり、説明は省略する。
【0041】
〔中心線表面粗さ(Ra)の測定方法〕
・使用装置:
島津製作所(株)製−走査型プローブ顕微鏡SPM−9500
・測定条件:
位相検出モードにて走査針を上下動しながら針と試料の原子間力を測定(AFM)
・スキャナーユニット:
最大走査範囲−X=125.0μm Y=125.0μm Z=10.0μm
・走査範囲:
100×100μm
・走査速度:
0.2Hz
・画素数:
256×256
【0042】
なお、図示はしなかったが、前記基材層2と前記アルミニウム箔3との積層は、たとえば、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリウレタン系等の周知のドライラミネーション用接着剤を用いて、周知のドライラミネーション法で積層すればよいものである。また、前記電池用包装材1を成型タイプ(図3参照)に用いる場合にあっては前記アルミニウム箔3の前記基材層2を積層する側の面に、上記で説明した化成処理層4を設けるのが好ましい。この理由としては、プレス成型時およびプレス成形後のヒートシール時に前記アルミニウム箔3と前記外層2とのデラミネーションを防止することができるからであり、袋タイプ(図2参照)にあっては、敢えて設けなくてもよいものである。
【0043】
次に、本発明について、以下に実験例を挙げて詳述する。
【0044】
〔実験例1〕
基材層としての25μm厚さの2軸延伸ナイロンフィルム(以下、ONフィルムと呼称する)と、予めアミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する化成処理液で処理して化成処理層を両面に形成した40μm厚さのアルミニウム箔(以下、AL箔と呼称する)の一方の面とを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して積層して後に、前記AL箔の他方の面に2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して50μm厚さの未延伸ポリプロピレンフィルム(以下、CPPフィルムと呼称する)を加熱圧着した後に、熱乾熟成して電池用包装材〔ONフィルム25μm/接着剤層3.0g/m2/化成処理層/アルミニウム箔40μm/化成処理層/接着剤層3.0g/m2/CPPフィルム50μm〕を作製した。なお、使用したCPPフィルムは、表面粗さを特に意識することなく製膜したスリップ剤が混練された一般的なタイプであって、電池用包装材とした際のCPPフィルムの表出面の中心線表面粗さ(Ra)は48.13nmであった。
【0045】
〔実験例2〕
実験例1に用いたCPPフィルムに代えて、電池用包装材とした際の表出面となる面の中心線表面粗さ(Ra)を作為的に169.96nmとした50μm厚さのスリップ剤を混練しないCPPフィルム〔昭和電工(株)製:RSP#50(商品名)〕を用いた以外は実験例1と同様にして電池用包装材を作製した。電池用包装材とした際のCPPフィルムの表出面の中心線表面粗さ(Ra)は161.29nmであった。
【0046】
〔実験例3〕
実験例1に用いたCPPフィルムに代えて、電池用包装材とした際の表出面となる面の中心線表面粗さ(Ra)を作為的に141.05nmとした50μm厚さのスリップ剤を混練しないポリエチレンフィルム〔昭和電工(株)製:RS#50(商品名)−以下、PEフィルムと呼称する〕を用いた以外は実験例1と同様にして電池用包装材を作製した。電池用包装材とした際のPEフィルムの表出面の中心線表面粗さ(Ra)は133.90nmであった。
【0047】
上記で作製した実験例1〜3の電池用包装材について、成形性、ラミネート強度を下記評価方法で評価し、その評価結果を表1に纏めて示した。
【0048】
【表1】

【0049】
〔評価方法〕
※1:成形性評価方法
電池用包装材を裁断して120×80mmの短冊片を作製し、33×55mmの矩形状の雄型とこの雄型とのクリアランスが0.5mmの雌型からなるストレート金型(雄型のコーナーRは2mm、稜線Rは1mm、雌型のコーナーRは2mm、稜線Rは1mm)を用い、雄型側に熱接着性樹脂層(CPPないしPEフィルム)側が位置するように雌型上に短冊片を載置すると共に短冊片を0.1MPaの押え圧(面圧)で押えて、0.5mmの成形深さから0.5mm単位で成形深さを変えて各10枚のサンプルについて冷間成形(引き込み1段成形)し、アルミニウム箔にピンホールが10枚のサンプルのいずれにも発生していない成形深さを限界成形深さとし、その成形深さを評価値として示した。なお、ピンホールの確認は透過光を目視で確認した。
【0050】
※2:ラミネート強度評価方法
アルミニウム箔とCPP又はPEフィルムとの間で剥離し、これを15mm幅に切断したものを島津製オートグラフ(タイプ:AGS−50D)の引張り試験機で50mm/分の速度で引張り、ラミネート強度を測定し、5つのサンプルの最低値と最高値を示した。なお、ラミネート強度はN/15mm幅であらわした。
【0051】
表1からも明らかなように、実験例2、3の電池用包装材はスリップ剤を混練することなく表面粗さで滑り性を向上させたCPPフィルム、PEフィルムを用いているために、スリップ剤が混練されたCPPフィルムを用いた実験例1の電池用包装材に比べて成形性においては若干劣る結果となったが、ラミネート強度の安定性においては格段に優れた性能を示す結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかる電池用包装材の一実施例の層構成を図解的に示す図である。
【図2】リチウム電池の形態の一実施例を説明する図である。
【図3】リチウム電池の形態の他の実施例を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
1 電池用包装剤
2 基材層
3 アルミニウム箔
4 化成処理層
5 接着層
6 熱接着性樹脂層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層、アルミニウム箔、化成処理層、接着層、熱接着性樹脂層が順に積層された電池用包装材において、前記熱接着性樹脂層の表出面の中心線表面粗さ(Ra)が60nm〜1000nmであることを特徴とする電池用包装材。
【請求項2】
前記熱接着性樹脂層が複層からなることを特徴とする請求項1記載の電池用包装材。
【請求項3】
前記化成処理層がアミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する化成処理液により形成されていることを特徴とする請求項1記載の電池用包装材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−318685(P2006−318685A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137994(P2005−137994)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】