説明

電池電極の製造方法

【課題】多層構造の電極層を容易に形成することができる電池電極の製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質集電体5の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料1と、多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料2と、溶媒に分散、溶解した結着剤3とを含有する電極層形成用組成物4を調製し、多孔質集電体の表面に塗布する。多孔質集電体の表面、および内部に形成され、第2の電極材料および結着材を含有する内部電極層11と、内部電極層の表面に形成され、第1の電極材料および結着材を含有する外部電極層12とを有する電池電極13を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造の電極層を容易に形成することができる電池電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池、リチウム電池および燃料電池等の化学電池に用いられる電極は、通常、集電体と、その集電体上に形成された電極層とを有する。近年、電池電極の性能向上のために、電極層を多層化する試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、非水電解質空気電池に用いられる正極であって、組成の異なる2つの層を有する正極が開示されている。具体的には、空気穴側に形成された酸素還元能を有する層と、負極側に形成されたリチウムイオン吸蔵能を有する層と、を有する正極が開示されている。また、特許文献1では、このような正極を形成する方法として、2つの層をそれぞれフィルム状に成形して両層を集電体と共に重ね合わせる方法、および、各層を構成する成分を含有する組成物を順次塗布する方法等が挙げられている。
【0004】
特許文献2においては、金属空気電池や燃料電池に用いられる電極であって、触媒を含有する活性層と、撥水性を有するブロッキング層とを有する電極が開示されている。また、特許文献2では、このような電極を形成する方法として、各層を構成する成分を含有する分散液を用いて、ろ過手段により順次堆積させる方法が挙げられている。
【特許文献1】特開2006−286414号公報
【特許文献2】特開平7−320744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載された方法は、いずれも、単層を形成する作業を組み合わせる方法である。そのため、製造工程が多くなり、作業が煩雑になるという問題がある。本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、多層構造の電極層を容易に形成することができる電池電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明においては、多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料、および、上記多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料を含有する電極層形成用組成物を調製する組成物調製工程と、上記電極層形成用組成物を、上記多孔質集電体上に塗布する塗布工程と、を有することを特徴とする電池電極の製造方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、多孔質の集電体と、粒径の異なる2種類以上の電極材料とを組み合わせて用いることにより、多層構造の電極層を容易に形成することができる。これにより、性能に優れた電池電極を容易に得ることができる。
【0008】
上記発明においては、上記第1の電極材料および上記第2の電極材料が、互いに異なる材料であることが好ましい。材料選択の幅が広がり、性能に優れた種々の電池電極を得ることができるからである。
【0009】
上記発明においては、上記第1の電極材料および上記の第2電極材料が、それぞれ、触媒、導電性材料、撥水性材料、活物質または固体電解質であることが好ましい。性能に優れた種々の電池電極を得ることができるからである。
【0010】
上記発明においては、上記多孔質集電体の材料が、金属材料またはカーボン材料であることが好ましい。電子伝導性に優れているからである。
【0011】
上記発明においては、上記電池電極が、金属空気電池用の電極であることが好ましい。リチウム電池に比べて、さらなる高容量化を図ることができるからである。
【0012】
上記発明においては、上記第1の電極材料が触媒であり、上記第2の電極材料が導電性材料であり、上記多孔質集電体がカーボン材料を用いた集電体であることが好ましい。発電効率に優れた空気極を得ることができるからである。
【0013】
また、本発明においては、多孔質集電体と、上記多孔質集電体の表面内部に形成され、上記多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料を含有する内部電極層と、上記内部電極層上に形成され、上記多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料を含有する外部電極層と、を有することを特徴とする電池電極を提供する。
【0014】
本発明によれば、集電体内部に形成された内部電極層と、集電体外部に形成された外部電極層とを設けることにより、性能に優れた電池電極とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、多層構造の電極層を容易に形成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の電池電極の製造方法および電池電極について、詳細に説明する。
【0017】
A.電池電極の製造方法
まず、本発明の電池電極の製造方法について説明する。本発明の電池電極の製造方法は、多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料、および、上記多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料を含有する電極層形成用組成物を調製する組成物調製工程と、上記電極層形成用組成物を、上記多孔質集電体上に塗布する塗布工程と、を有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、多孔質の集電体と、粒径の異なる2種類以上の電極材料とを組み合わせて用いることにより、多層構造の電極層を容易に形成することができる。これにより、性能に優れた電池電極を容易に得ることができる。また、製造工程が簡略化されることで、製造効率の向上やコストの低減を図ることができる。
【0019】
図1は、本発明の電池電極の製造方法の一例を示す概略断面図である。図1に示される電池電極の製造方法においては、まず、図1(a)に示すように、多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料1と、多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料2と、溶媒に分散・溶解した結着材3とを含有する電極層形成用組成物4を調製する。次に、図1(b)に示すように、多孔質集電体5の表面上に、電極層形成用組成物4を塗布する。これにより、図1(c)に示すように、多孔質集電体5と、多孔質集電体5の表面内部に形成され、第2の電極材料2および結着材(図示せず)を含有する内部電極層11と、内部電極層11上に形成され、第1の電極材料1および結着材3を含有する外部電極層12と、を有する電池電極13を得ることができる。
【0020】
次に、本発明における、第1の電極材料の粒径、第2の電極材料の粒径および多孔質集電体の開口径の関係について説明する。本発明において、多孔質集電体の開口径は、以下のように定義する。すなわち、バブルポイント法(ASTM F316−86、JIS K3832)およびハーフドライ法(ASTM E1294−89)に基づき、累積フィルターフローが90%となるボトルネック径を、本発明における多孔質集電体の開口径とする。なお、多孔質集電体のボトルネック径分布は、パームポロメーター(PMI社製)により測定することができる。多孔質集電体の開口径は、第1の電極材料の粒径より小さく、第2の電極材料よりも大きな値であれば特に限定されるものではないが、例えば1μm〜50μmの範囲内、中でも5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0021】
また、本発明において、第1の電極材料の粒径は、以下のように定義する。すなわち、電極材料の粒径分布を測定するために、粒度分布測定を行い、d50となる値を、本発明における第1の電極材料の粒径とする。第1の電極材料の粒径は、通常、多孔質集電体の開口径よりも大きいものであり、第1の電極材料の粒径と、多孔質集電体の開口径との差は、例えば1μm以上であること好ましく、5μm〜25μmの範囲内であることがより好ましい。また、第1の電極材料の粒径は、例えば10μm〜100μmの範囲内であり、中でも5μm〜25μmの範囲内であることが好ましい。
【0022】
また、本発明において、第2の電極材料の粒径は、上述した第1の電極材料と同様の方法で定義することができる。第2の電極材料の粒径は、通常、多孔質集電体の開口径よりも小さいものであり、多孔質集電体の開口径と、第2の電極材料の粒径との差は、例えば1μm以上であること好ましく、5μm〜20μmの範囲内であることがより好ましい。また、第2の電極材料の粒径は、例えば0.01μm〜10μmの範囲内であり、中でも0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。
以下、本発明の電池電極の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0023】
1.組成物調製工程
まず、本発明における組成物調製工程について説明する。本発明における組成物調製工程は、多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料、および、上記多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料を含有する電極層形成用組成物を調製する工程である。電極層形成用組成物は、電極材料等を混合することにより得ることができる。
【0024】
(1)電極層形成用組成物
上記のように、本発明における電極層形成用組成物は、少なくとも第1の電極材料および第2の電極材料を含有する。なお、本発明においては、第1の電極材料および第2の電極材料を、それぞれ2種類以上用いても良い。また、電極層形成用組成物は、結着材を含有することが好ましい。電極材料の密着性を向上させることができるからである。さらに必要に応じて、電極層形成用組成物は、溶媒を含有していても良い。溶媒を添加することにより、電極材料等の分散性を向上させたり、組成物の粘度調整を容易にしたりすることができる。
【0025】
第1の電極材料および第2の電極材料としては、例えば、触媒、導電性材料、撥水性材料、活物質および固体電解質等を挙げることができる。これらの材料の具体例や組み合わせについては、後述する「(2)第1の電極材料および第2の電極材料の組み合わせ」で詳細に説明する。また、電極層形成用組成物における第1の電極材料および第2の電極材料の含有量は、目的とする電池電極に応じて、適宜設定することが好ましい。
【0026】
また、本発明に用いられる結着材は、電極材料を固定化できるものであれば特に限定されるものではないが、化学的安定性が高いものが好ましい。電極反応によって、電極層が劣化することを抑制することができるからである。このような結着材としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVDF−HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材を挙げることができる。電極層形成用組成物における結着材の含有量は、電極材料の密着性を確保できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。
【0027】
また、本発明に用いられる溶媒は、電極材料や結着材を分散できるものであれば特に限定されるものではないが、揮発性の高いことが好ましい。上記溶媒としては、例えばアセトン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)およびテトラヒドロフラン(THF)等を挙げることができる。
【0028】
本発明における電極層形成用組成物の固形分濃度は、多孔質集電体の内部に浸透させる第2の電極材料の量に応じて、適宜設定することが好ましい。通常、電極層形成用組成物の固形分濃度を低くするほど、多孔質集電体の内部に向かって、深く第2の電極材料を浸透させることができる。電極層形成用組成物の固形分濃度は、例えば5%〜50%の範囲内、中でも10%〜20%の範囲内であることが好ましい。なお、固形分濃度は、次式により算出することができる。
電極層形成用組成物の固形分濃度(%)=(80℃、1h、Ar雰囲気下での乾燥後の組成物濃度)/(乾燥前の組成物濃度)×100
【0029】
(2)第1の電極材料および第2の電極材料の組み合わせ
次に、本発明における、第1の電極材料および第2の電極材料の組み合わせについて説明する。本発明においては、第1の電極材料および第2の電極材料が、同じ材料であっても良く、異なる材料であっても良い。前者の場合、粒径のみが異なる電極材料を用いて、電池電極を作製することになる。一方、後者の場合は、さらに、機能が同じ材料である場合と、機能が異なる材料である場合とに大別することができる。機能が同じ材料である場合の一例としては、第1の電極材料が触媒であり、かつ、第2の電極材料が上記の触媒とは異なる材料の触媒である場合を挙げることができる。これに対して、機能が異なる材料である場合の一例としては、第1の電極材料が触媒であり、かつ、第2の電極材料が導電性材料である場合を挙げることができる。
【0030】
また、本発明により得られる電池電極は、例えば化学電池に用いることができる。化学電池としては、例えば金属空気電池、リチウム電池および燃料電池等を挙げることができる。以下、電極材料の組み合わせについて、電池の種類ごとに説明する。
【0031】
(i)金属空気電池用の電極を得る場合
この場合、本発明により、金属空気電池用の空気極または負極を得ることができる。空気極の電極層に含まれる電極材料としては、例えば触媒、導電性材料および撥水性材料等を挙げることができる。なお、触媒は、導電性材料に担持されたものであっても良い。また、例えば電池を全固体型化する場合は、固体電解質を用いることもできる。上記触媒としては、例えば二酸化マンガンおよびコバルトフタロシアニン等を挙げることができる。上記導電性材料としては、例えばメソポーラスカーボン、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンファイバー等を挙げることができる。上記固体電解質としては、例えばポリマー電解質および無機固体電解質等を挙げることができる。上記撥水性材料としては、例えば撥水ポリマーを挙げることができる。さらに、上記撥水ポリマーとしては、具体的には、FAS(フルオロアルキルシラン)系撥水ポリマー等を挙げることができる。
【0032】
本発明においては、空気極の電極層に含まれる電極材料を任意に組み合わせることができる。この場合における電極材料の組み合わせとしては、例えば、第1の電極材料として触媒を用い、第2の電極材料として導電性材料を用いる組み合わせ;第1の電極材料として触媒を用い、第2の電極材料として触媒担持導電性材料を用いる組み合わせ;第1の電極材料として固体電解質を用い、第2の電極材料として触媒担持導電性材料を用いる組み合わせ;第1の電極材料として触媒担持導電性材料を用い、第2の電極材料として撥水性材料を用いる組み合わせ等を挙げることができる。
【0033】
一方、金属空気電池の負極の電極層に含まれる電極材料としては、例えば、負極活物質および導電性材料等を挙げることができる。また、例えば電池を全固体型化する場合は、固体電解質を用いることもできる。上記負極活物質は、金属イオンを吸蔵および/または放出できるものであれば特に限定されるものではない。リチウム空気電池に用いられる負極活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金、リチウム酸化物、リチウム窒化物等を挙げることができる。なお、導電性材料については、上記の空気極における場合と同様である。
【0034】
本発明においては、金属空気電池の負極の電極層に含まれる電極材料を任意に組み合わせることができる。この場合における電極材料の組み合わせとしては、例えば、第1の電極材料として固体電解質を用い、第2の電極材料として負極活物質を用いる組み合わせを挙げることができる。
【0035】
また、金属空気電池の種類としては、例えばリチウム空気電池、ナトリウム空気電池、カリウム空気電池、マグネシウム空気電池、カルシウム空気電池、亜鉛空気電池、アルミニウム空気電池および鉄空気電池等を挙げることができ、中でもリチウム空気電池、ナトリウム空気電池およびカリウム空気電池が好ましく、特にリチウム空気電池が好ましい。また、金属空気電池は一次電池であっても良く、二次電池であっても良い。
【0036】
(ii)リチウム電池用の電極を得る場合
この場合、本発明により、リチウム電池用の正極または負極を得ることができる。正極の電極層に含まれる電極材料としては、例えば、正極活物質および導電性材料を挙げることができる。また、全固体型化する場合は、固体電解質を用いることもできる。上記正極活物質としては、例えばLiCoO、LiMn、LiNiO、LiNi0.5Mn1.5、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiCoPO、LiFePO、LiMnPO等を挙げることができる。なお、導電性材料および固体電解質については、上記の金属空気電池における場合と同様である。
【0037】
本発明においては、リチウム電池の正極の電極層に含まれる電極材料を任意に組み合わせることができる。この場合における電極材料の組み合わせとしては、例えば、第1の電極材料として固体電解質を用い、第2の電極材料として正極活物質および導電性材料を用いる組み合わせ;第1の電極材料および第2の電極材料として、それぞれ正極活物質および導電性材料の両方を用いる組み合わせ等を挙げることができる。
【0038】
一方、リチウム電池の負極の電極層に含まれる電極材料としては、例えば、負極活物質および導電性材料等を挙げることができる。また、全固体型化する場合は、固体電解質を用いることもできる。上記負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵および/または放出できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、Si、Sn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。なお、導電性材料および固体電解質については、上記の金属空気電池における場合と同様である。
【0039】
本発明においては、リチウム電池の負極の電極層に含まれる電極材料を任意に組み合わせることができる。この場合における電極材料の組み合わせとしては、例えば、第1の電極材料として固体電解質を用い、第2の電極材料として負極活物質および導電性材料を用いる組み合わせ;第1の電極材料および第2の電極材料として、それぞれ負極活物質および導電性材料の両方を用いる組み合わせ等を挙げることができる。
【0040】
(iii)燃料電池用の電極を得る場合
この場合、本発明により、燃料電池用の電極(アノード極またはカソード極)を得ることができる。燃料電池の電極層に含まれる電極材料としては、例えば、触媒および導電性材料等を挙げることができる。なお、触媒は、導電性材料に担持されたものであっても良い。上記触媒としては、例えばPt、Pd、Rh、鉄ポルフィリンおよびLa0.8Sr0.2MnO等を挙げることができる。また、電極層形成用組成物は、パーフルオロスルホン酸系ポリマーに代表される電解質材料を含有していても良い。なお、導電性材料については、上記の金属空気電池における場合と同様である。また、本発明においては、燃料電池の電極層に含まれる電極材料を任意に組み合わせることができる。
【0041】
2.塗布工程
次に、本発明における塗布工程について説明する。本発明における塗布工程は、上記電極層形成用組成物を、上記多孔質集電体上に塗布する工程である。なお、多孔質集電体の開口径等については、上述した通りである。
【0042】
本発明に用いられる多孔質集電体は、所望の電子伝導性を有し、かつ、第2の電極材料が浸透できる程度の多孔性を有するものであれば特に限定されるものではない。中でも、多孔質集電体は、ガス拡散性を有することが好ましい。例えば、金属空気電池用の空気極集電体や燃料電池用のガス拡散(集電)体として有用だからである。
【0043】
多孔質集電体の構造としては、例えば、構成繊維が規則正しく配列されたメッシュ構造、構成繊維がランダムに配列された不織布構造、および独立孔や連結孔を有する三次元網目構造等を挙げることができ、中でも不織布構造および三次元網目構造が好ましい。第2の電極材料を集電体内部に保持し易いからである。
【0044】
また、多孔質集電体の気孔率は、特に限定されるものではないが、例えば20%〜99%の範囲内であることが好ましい。
【0045】
また、多孔質集電体の材料としては、例えば金属材料、カーボン材料および高電子伝導性セラミックス材料等を挙げることができる。金属材料としては、例えばステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銅等を挙げることができる。また、カーボン材料としては、例えばカーボンファイバー(炭素繊維)等を挙げることができる。また、高電子伝導性セラミックス材料としては、例えば窒化チタン(TiN)等を挙げることができる。
【0046】
金属材料を用いた多孔質集電体の具体例としては、金属メッシュ等を挙げることができる。また、カーボン材料を用いた多孔質集電体の具体例としては、カーボンクロス(上記のメッシュ構造に該当する)およびカーボンペーパー(上記の不織布構造に該当する)等を挙げることができる。また、高電子伝導性セラミックス材料を用いた多孔質集電体としては、三次元網目構造を有する窒化チタン(TiN)等を挙げることができる。
【0047】
特に、本発明において、金属空気電池用の空気極を作製する場合は、多孔質集電体がカーボン材料を用いた集電体であることが好ましい。放電反応により生じる強アルカリ性の金属酸化物M(Mは金属元素、例えばLiである)によって、多孔質集電体が溶出することを抑制することができるからである。これにより、放電容量保持率等を向上させることができる。
【0048】
また、多孔質集電体の厚さとしては、例えば10μm〜1000μmの範囲内、中でも20μm〜400μmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
本発明においては、多孔質集電体の表面上に、電極層形成用組成物を塗布する。電極層形成用組成物を塗布する方法は、特に限定されるものではなく、ドクターブレード法等の一般的な塗布方法を用いることができる。さらに、本発明においては、電極層形成用組成物を塗布した後に、溶媒を除去する乾燥を行うことが好ましい。
【0050】
B.電池電極
次に、本発明の電池電極について説明する。本発明の電池電極は、多孔質集電体と、上記多孔質集電体の表面内部に形成され、上記多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料を含有する内部電極層と、上記内部電極層上に形成され、上記多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料を含有する外部電極層と、を有することを特徴とするものである。
【0051】
本発明によれば、集電体内部に形成された内部電極層と、集電体外部に形成された外部電極層とを設けることにより、性能に優れた電池電極とすることができる。
【0052】
図1(c)は、本発明の電池電極の一例を示す概略断面図である。図1(c)に示される電池電極13は、多孔質集電体5と、多孔質集電体5の表面内部に形成され、第2の電極材料2および結着材(図示せず)を含有する内部電極層11と、内部電極層11上に形成され、第1の電極材料1および結着材3を含有する外部電極層12と、を有するものである。
【0053】
なお、本発明における、多孔質集電体、第1の電極材料、第2の電極材料および結着材について、並びに、本発明の電極電池の用途等については、上記「A.電池電極の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0054】
本発明における内部電極層は、多孔質集電体の表面内部に形成され、少なくとも第2の電極材料を含有する層である。なお、内部電極層は、2種類以上の第2の電極材料を含有していても良い。内部電極層における第2の電極材料の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば10重量%〜90重量%の範囲内であることが好ましい。また、内部電極層は、さらに結着材を含有することが好ましい。第2の電極材料と集電体表面との密着性が向上するからである。内部電極層における結着材の含有量は、第2の電極材料の密着性を確保できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。また、内部電極層の厚さは、電池電極の用途によって異なるものであるが、例えば10μm〜500μmの範囲内であることが好ましい。
【0055】
本発明における外部電極層は、内部電極層上に形成され、少なくとも第1の電極材料を含有する層である。なお、外部電極層は、2種類以上の第1の電極材料を含有していても良い。外部電極層における第1の電極材料の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば10重量%〜90重量%の範囲内であることが好ましい。また、外部電極層は、さらに結着材を含有することが好ましい。第1の電極材料と内部電極層の表面との密着性が向上するからである。外部電極層における結着材の含有量は、第1の電極材料の密着性を確保できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。また、外部電極層の厚さは、電池電極の用途によって異なるものであるが、例えば10μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
また、本発明においては、上記の電池電極を用いたことを特徴とする化学電池を提供することができる。化学電池としては、例えば、金属空気電池、リチウム電池および燃料電池等を挙げることができる。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例]
カーボンブラック(d50=5.0μm)と、MnO触媒(d50=15μm)と、PVDF−HFP(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)バインダーと、を重量比で25:42:33となるように秤量し、混合した。次に、これらの混合物およびアセトンを混合撹拌(2000rpm、30分)し、電極層形成層組成物を得た。
【0059】
次に、電極集電体として、開口径が8μmであるカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−090、厚さ0.28mm)を用意した。このカーボンペーパーに対して、上記の電極層形成層組成物をドクターブレードにて塗布した。次に、Ar雰囲気、80℃、1時間の条件で乾燥を行い、その後、60℃で一昼夜真空乾燥を行った。これにより、電池電極を得た。
【0060】
[評価]
実施例で用いたカーボンペーパーおよび実施例で得られた電池電極について、SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行った。その結果を図2に示す。図2(a)は、カーボンペーパーの平面写真であり、カーボンファイバーがランダムに配列されていることが確認できた。また、図2(b)は、実施例で得られた電池電極の平面写真であり、カーボンペーパーの表面に、粒子径の大きなMnO触媒が存在することが確認できた。また、図2(c)は、実施例で得られた電池電極の断面写真であり、カーボンペーパーの内部に、粒子径の小さなカーボンブラックが存在することが確認できた。このように、一度の塗布で多層構造の電極層を容易に形成できることが確認できた。
【0061】
また、実施例で得られた電池電極について、EDX(エネルギー分散型X線)分析を行った。その結果を図3に示す。図3(a)〜図3(c)は、それぞれ炭素(C)元素、酸素(O)元素およびマンガン(Mn)元素の存在を示す平面写真である。特に、図3(b)および図3(c)に示すように、酸素元素およびマンガン元素の位置が一致していることから、カーボンペーパーの外側表面に、存在する粒子は、MnO触媒であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の電池電極の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図2】実施例で用いたカーボンペーパーおよび実施例で得られた電池電極に対するSEM観察の結果である。
【図3】実施例で得られた電池電極に対するEDX分析の結果である。
【符号の説明】
【0063】
1 … 第1の電極材料
2 … 第2の電極材料
3 … 結着材
4 … 電極層形成用組成物
5 … 多孔質集電体
11 … 内部電極層
12 … 外部電極層
13 … 電池電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料、および、前記多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料を含有する電極層形成用組成物を調製する組成物調製工程と、
前記電極層形成用組成物を、前記多孔質集電体上に塗布する塗布工程と、
を有することを特徴とする電池電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1の電極材料および前記第2の電極材料が、互いに異なる材料であることを特徴とする請求項1に記載の電池電極の製造方法。
【請求項3】
前記第1の電極材料および前記の第2電極材料が、それぞれ、触媒、導電性材料、撥水性材料、活物質または固体電解質であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池電極の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質集電体の材料が、金属材料またはカーボン材料であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の電池電極の製造方法。
【請求項5】
前記電池電極が、金属空気電池用の電極であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の電池電極の製造方法。
【請求項6】
前記第1の電極材料が触媒であり、前記第2の電極材料が導電性材料であり、前記多孔質集電体がカーボン材料を用いた集電体であることを特徴とする請求項5に記載の電池電極の製造方法。
【請求項7】
多孔質集電体と、前記多孔質集電体の表面内部に形成され、前記多孔質集電体の開口径よりも小さな粒径を有する第2の電極材料を含有する内部電極層と、前記内部電極層上に形成され、前記多孔質集電体の開口径よりも大きな粒径を有する第1の電極材料を含有する外部電極層と、を有することを特徴とする電池電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−92721(P2010−92721A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261646(P2008−261646)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】