説明

電波を利用した距離測定装置及び距離測定方法

【課題】近距離の被測定物までの距離を精度良く測定することができる電波を利用した距離測定装置を実現する。
【解決手段】ビート信号を直交検波により検出し、ビート信号の同相成分とビート信号の直交成分との間の直交関係に関する誤差を補正し、ビート信号の同相成分のデータ系列を実部とし、ビート信号の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから近距離の被測定物までの距離を精度良く測定することができる電波を利用した距離測定装置を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物までの距離を、電波を利用して測定する距離測定装置及び距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で被測定物までの距離を測定する距離測定装置として、FMCW方式の電波を利用した距離測定装置が公知である。FMCW方式は、周波数変調した連続波信号を送信波として被測定物に対して送信し、被測定物で反射して戻ってきた受信波と、送信波と、をミキシングしてビート信号を生成し、ビート信号の周波数から被測定物までの距離を測定する方式である(特許文献1)。
【0003】
ミキシングにより得られるビート信号は、アナログ信号である。このため、ビート信号の周波数の値を求めるには、ビート信号をA/D変換し、これにより生成されたデータ系列を離散フーリエ変換し、離散フーリエ変換により得られた周波数のうち、振幅値が最大となる周波数の値を検出する必要がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−240842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電波を利用した距離測定装置で高精度な距離測定を行うには、ビート信号の周波数を高精度に検出する必要がある。しかしながら、従来の電波を利用した距離測定装置では、近距離の被測定物までの距離を測定するには充分な精度が得られなかった。これについて、以下に詳細に説明する。
【0006】
前述したミキシングにより、角周波数ωのビート信号(A・cos(ωt+φ))が得られたとすると、そのビート信号は、
A・cos(ωt+φ) = A・(eφjωt+e−φ−jωt)/2 ・・・ (1)
で表すことができる。ここで、Aはビート信号の振幅、φはビート信号の位相をそれぞれ示す。式(1)で表されるビート信号をフーリエ変換すると、
【数1】

となる。ここで、δ(k−ω)及びδ(k+ω)はディラックのデルタ関数である。ディラックのデルタ関数δ(x)は、x≠0のときにδ(x)=0となり、
【数2】

となる条件を満たす関数である。すなわち、関数δ(k−ω)は、k≠ωとなるときに0となる関数であり、関数δ(k+ω)は、k≠−ωとなるときに0となる関数である。従って、角周波数ωのビート信号をフーリエ変換すると、角周波数“+ω”のスペクトラム(これを「実像」と呼ぶ)と、角周波数“−ω”のスペクトラム(これを「鏡像」と呼ぶ)と、が現れる。
【0007】
前述したように、電波を利用した距離測定装置では、ビート信号の周波数を検出するために、ミキシングにより得られたビート信号をA/D変換し、これにより生成されたデータ系列を、離散フーリエ変換している。このため、各周波数ωを有するビート信号のデータ系列を、離散フーリエ変換すると、図7aに示すように、角周波数“+ω”を中心とする四角形でポイントされたビート信号の実像と、角周波数“−ω”を中心とする三角形でポイントされたビート信号の鏡像と、の2つのsinc関数特性を有するスペクトラムが現れる。電波を利用した距離測定装置に搭載された演算部では、このような2つのスペクトラムを加算したスペクトラムを算出し、加算したスペクトラムの振幅値が最大となる周波数の値を算出することによりビート信号の周波数を算出している。
【0008】
このような電波を利用した距離測定装置では、ビート信号の周波数が高いとき(アンテナから被測定物までの距離が遠いとき)は、図7aに示したように、ビート信号の実像“+ω”と鏡像“−ω”の各々のスペクトラムが、お互いに離れる。このため、実像(及び鏡像)のスペクトラムの振幅値が最大となる周波数の値と、加算したスペクトラムの振幅値が最大となる周波数の値と、の間の誤差は無い(又は小さい)。従って、ビート信号の周波数が高いとき(アンテナから被測定物までの距離が遠いとき)は、電波を利用した距離測定装置で検出されるビート信号の周波数の誤差が無い(又は小さい)。
【0009】
一方、ビート信号の周波数が低いとき(アンテナから被測定物までの距離が近いとき)は、図7bに示すように、ビート信号の実像“+ω”と鏡像“−ω”の各々のスペクトラムが、お互いに近づく。このため、実像(及び鏡像)のスペクトラムの振幅値が最大となる周波数の値と、加算したスペクトラムの振幅値が最大となる周波数の値と、の間に誤差が発生する。従って、従来の電波を利用した距離測定装置では、ビート信号の周波数が低いとき(アンテナから被測定物までの距離が近いとき)に、検出されるビート信号の周波数に誤差が発生し、近距離にある被測定物までの距離の測定を行うのに充分な精度が得られなかった。
【0010】
本発明は、以上のような課題に対してなされたものであり、その目的は、近距離の被測定物までの距離を精度良く測定することができる電波を利用した距離測定装置及び距離測定方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成は、アンテナから被測定物に対し、周波数が一定の範囲で時間に対して変移する電波を送信する送信系と、アンテナを介し、被測定物で反射した電波を受信する受信系と、送信した電波で受信した電波を直交検波することにより、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波と同じ位相と、を有する差分の周波数成分の同相成分と、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波とπ/2異なる位相と、を有する差分の周波数成分の直交成分と、を検出する周波数検出部と、差分の周波数成分の同相成分と直交成分をA/D変換し、データ系列を生成するA/D変換部と、生成された差分の周波数成分の同相成分と直交成分のデータ系列を演算することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する演算部と、を備え、演算部は、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を算出し、算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を補正する誤差補正回路と、誤差が補正された差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、誤差が補正された差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした誤差が補正された複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する回路と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
また、誤差補正回路は、差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を離散フーリエ変換し、これにより求まるスペクトラムを算出する回路と、算出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数を探索し、スペクトラムの振幅が最大となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第一の複素数と、スペクトラムの振幅が最大となる周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第二の複素数と、を抽出する回路と、第一の複素数と、第二の複素数と、のうちいずれか一方を共役複素数として、第一の複素数と、第二の複素数と、を減算することにより、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出する回路と、算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正する回路と、を備えていることが望ましい。
【0013】
また、誤差補正回路は、抽出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数がゼロのとき、算出されたスペクトラムのゼロ以外の周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第一の複素数とし、ゼロ以外の周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第二の複素数として、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出することが望ましい。
【0014】
また、誤差補正回路は、差分の周波数成分の同相成分のデータ系列と、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列と、からリサージュ図形を算出し、算出されたリサージュ図形から、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正しても良い。
【0015】
本発明の他の構成は、アンテナから被測定物に対し、周波数が一定の範囲で時間に対して変移する電波を送信する工程と、アンテナを介し、被測定物で反射した電波を受信する工程と、送信した電波で受信した電波を直交検波することにより、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波と同じ位相と、を有する差分の周波数成分の同相成分と、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波とπ/2異なる位相と、を有する差分の周波数成分の直交成分と、を検出する工程と、差分の周波数成分の同相成分と直交成分をA/D変換し、データ系列を生成する工程と、生成された差分の周波数成分の同相成分と直交成分のデータ系列を演算することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する工程と、を有し、アンテナから被測定物までの距離を測定する工程は、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を算出し、算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を補正する工程と、誤差が補正された差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、誤差が補正された差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした誤差が補正された複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する工程と、を有していることを特徴とする。
【0016】
また、直交関係に関する誤差を補正する工程は、差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を離散フーリエ変換し、これにより求まるスペクトラムを算出する工程と、算出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数を探索し、スペクトラムの振幅が最大となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第一の複素数と、スペクトラムの振幅が最大となる周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第二の複素数と、を抽出する工程と、第一の複素数と、第二の複素数と、のうちいずれか一方を共役複素数として、第一の複素数と、第二の複素数と、を減算することにより、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出する工程と、算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正する工程と、を有していることが望ましい。
【0017】
また、直交関係に関する誤差を補正する工程は、抽出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数がゼロのとき、算出されたスペクトラムのゼロ以外の周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第一の複素数とし、ゼロ以外の周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第二の複素数として、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出することが望ましい。
【0018】
また、直交関係に関する誤差を補正する工程は、差分の周波数成分の同相成分のデータ系列と、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列と、からリサージュ図形を算出し、算出されたリサージュ図形から、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正しても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を算出し、算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を補正し、誤差が補正されたビート信号の複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから近距離の被測定物までの距離を精度良く測定することができる電波を利用した距離測定装置及び距離測定方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る電波を利用した距離測定装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る電波を利用した距離測定装置の構成を示すブロック図である。図2は、本実施形態に係る電波を利用した距離測定装置から送信される送信波と、受信される受信波の時間に対する周波数の変移を示すグラフである。まず、第1の実施形態に係る電波を利用した距離測定装置の構成を説明する。
【0021】
「第1の実施形態」
図1において、電波を利用した距離測定装置1は、送信アンテナ21から被測定物に対し、周波数が一定の範囲で時間に対して変移する電波を送信する送信系と、受信アンテナ23を介し被測定物で反射した電波を受信する受信系と、を備えている。ここで、送信系は、発振部11、周波数変調部12、ミキサ13、IF発振部14、フィルタ15、カプラ16、ミキサ17、フィルタ18及び送信アンテナ21を備えている。また受信系は、受信アンテナ23、ミキサ40、フィルタ41、直交検波部42、コンデンサ46−1,46−2、A/D変換部47−1,47−2及び演算部50を備え、直交検波部42は、ミキサ43−1,43−2、π/2移相器44、フィルタ45−1,45−2を備えている。なお、電波を利用した距離測定装置1は、送信波のRF周波数帯へのアップコンバートと、受信波のIF周波数帯へのダウンコンバートと、を行うためのRF発振部30を備えている。
【0022】
また演算部50には、ビート信号の同相成分との直交成分の直交関係に関する誤差(振幅誤差及び位相誤差)を算出し、算出された誤差に基づいて、ビート信号の同相成分と直交成分の直交関係に関する誤差を補正する誤差補正回路と、誤差が補正されたビート信号の複素データ系列を離散フーリエ変換してアンテナから被測定物までの距離を測定する回路と、が備えられている。なお、これについては、後述する。
【0023】
また、アンテナは、送信アンテナ21が被測定物に対して電波を送信し、受信アンテナ23が反射してきた電波を受信できるよう、被測定物に対向するよう設置されている。なお、送信アンテナ21と、受信アンテナ23は、特許文献1に記載されているように、アンテナを送受信で共用し、サーキュレータにより、送信波と受信波を分離する構造であっても構わないが、分離して配置することが望ましい。特許文献1に記載された距離測定装置のように、アンテナを送受信で共用すると、送信波がアンテナ内部で(輻射されずに)反射され、この反射波が受信波としてサーキュレータを介して受信されてしまう。アンテナ内部で反射された反射波は、伝達距離が限りなくゼロに近く非常に短いため、送信波とほとんど変わらない周波数で受信される。従って、アンテナを送受信で共用すると、送信波と受信波のミキシングにより低周波のビート信号が常に検出されてしまう。このような低周波のビート信号は、アンテナから被測定物までの距離が近いとき(場合によっては近くなくても)、ビート信号の周波数の検出に誤差を生じさせる。従って、アンテナは、充分なアイソレーションをとって(一例として50dB以上)、送信用と受信用で分離して配置するのが望ましい。以下、第1の実施形態の電波を利用した距離測定装置の動作について詳細に説明する。
【0024】
図1において、発振部11は、基本周波数fの送信波(電波)を発生させ、これを出力する。周波数変調部12は、前述した送信波が入力され、これを周波数変調し、周波数f〜f+B[Hz]の範囲で、時間T[sec]に対して線形的に変移する送信波を出力する。周波数変調された送信波は、ミキサ13に入力され、IF発振部14から出力されたIF信号とミキシングされる。ミキサ13によりミキシングされた送信波は、フィルタ15により、高周波成分のみが通過するようフィルタリングされ、IF周波数帯(fIF〜fIF+B[Hz])にアップコンバートされる。
【0025】
IF周波数帯にアップコンバートされた送信波は、カプラ16に入力される。カプラ16に入力された送信波は、ミキサ17と、直交検波部42に入力される。ミキサ17に入力された送信波は、RF発振部30から出力されたRF信号とミキシングされる。ミキサ17によりミキシングされた送信波は、フィルタ18により、高周波成分のみが通過するようフィルタリングされ、RF周波数帯(fRF〜fRF+B[Hz])にアップコンバートされる。そして、RF周波数帯にアップコンバートされた送信波は、送信アンテナ21から被測定物に対して輻射される。
【0026】
送信アンテナ21から被測定物に対して輻射された送信波は、被測定物で反射し、受信波として受信アンテナ23で受信される。この受信波は、送信波に対して、被測定物までの距離R[m]を往復して伝搬する時間分δt[sec]だけ遅延している。そして、この受信波は、ミキサ40に入力される。ミキサ40に入力された受信波は、RF発振部30から出力されたRF信号とミキシングされる。ミキサ40によりミキシングされた送信波は、フィルタ41により、低周波成分のみが通過するようフィルタリングされ、IF周波数帯(fIF〜fIF+B[Hz])にダウンコンバートされる。そして、IF周波数帯にダウンコンバートされた受信波は、直交検波部42に入力される。
【0027】
直交検波部42に入力された受信波は、ミキサ43−1,43−2に入力される。ミキサ43−1に入力された受信波は、カプラ16から出力された送信波との間で、ミキシングされる。ミキサ43−1によりミキシングされた受信波は、フィルタ45−1により、低周波成分のみが通過するようフィルタリングされ、後述する送信波の周波数と受信波の周波数の差分の周波数δf[Hz]を有するビート信号の同相成分である余弦波成分が出力される。また、ミキサ43−2に入力された受信波は、カプラ16から出力されπ/2移相器44によりπ/2位相がずれた送信波との間でミキシングされる(なお、後述するように厳密には位相のずれはπ/2では無く誤差を含んでいる)。ミキサ43−2によりミキシングされた受信波は、フィルタ45−2により、高周波成分のみが通過するようフィルタリングされ、後述する送信波の周波数と受信波の周波数の差分の周波数δf[Hz]を有するビート信号の直交成分である正弦波成分が出力される。
【0028】
図2に、直交検波部42に入力される送信波と、受信波と、の周波数の変移の様子を示す。図2は、送信波と受信波の周波数変移の様子を示したグラフであり、横軸が時間、縦軸が周波数である。カプラ16から出力される送信波は、周波数fIF〜fIF+B[Hz]の範囲で時間T[sec]に対して線形的に変移する。また、直交検波部42に入力される受信波も、周波数fIF〜fIF+B[Hz]の範囲で時間T[sec]に対して線形的に変移して入力される。ここで、直交検波部42に入力される受信波は、前述したように送信波に対して、被測定物までの距離R[m]を往復して伝搬した分の時間δt[sec]だけ遅延して入力される。一方、直交検波部42に入力される送信波は、受信波に対して周波数δf[Hz]だけ(時間δt[sec]の分だけ)変移している。従って、直交検波部42からは、送信波の周波数と、受信波の周波数と、の差分の周波数δf[Hz]のビート信号の余弦波成分と正弦波成分が出力される。
【0029】
ここで、送信波の周波数変動幅をB[Hz]、変動時間をT[sec]とすると、電波が被測定物で反射して往復する時間は、
δt = Tδf/B ・・・ (4)
で表される。従って、電波の伝搬速度をc[m/sec]とすると、被測定物までの距離R[m]は、
R = cTδf/2B ・・・ (5)
を算出することにより求まる。
【0030】
前述したように、ミキサ45−1及び45−2から出力されるビート信号は、アナログ信号である。従って、演算部50で、ビート信号の周波数δf[Hz]から距離R[m]を算出するためには、ビート信号をデジタル信号(データ系列)に変換し、これを算出する必要がある。しかし、このビート信号を実数データとして、離散フーリエ変換してしまうと、前述したようなビート信号のスペクトラムの鏡像の影響を排除することができない。そこで、第1の実施形態に関わる電波を利用した距離測定装置では、前述した直交検波部42から出力されたビート信号の同相成分である余弦波成分を実部とし、直交成分である正弦波成分を虚部とした複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより鏡像の影響を排除する。以下、これについて詳細に説明する。
【0031】
直交検波部42のフィルタ45−1から出力されたビート信号の同相成分は、コンデンサ46−1により直流成分を含む低周波成分が除去されたのち、A/D変換部47−1に入力される。A/D変換部47−1に入力されたビート信号の同相成分は、既定のサンプル数でA/D変換される。一例として、既定のサンプル数を256個とする。従って、A/D変換部47−1からは、256個のデータからなる(同相成分の)データ系列が出力される。一方、直交検波部42のフィルタ45−2から出力されたビート信号の直交成分は、コンデンサ46−2により直流成分を含む低周波成分が除去されたのち、A/D変換部47−2に入力される。A/D変換部47−2に入力されたビート信号の直交成分は、前述した既定のサンプル数と同数のサンプル数(256個)でA/D変換される。従って、A/D変換部47−2からは、256個のデータからなる(直交成分の)データ系列が出力される。ここで、A/D変換部47−1及び47−2により生成されたデータ系列は、演算部50に入力され、前述したビート信号の周波数δf[Hz]が算出され、送信アンテナ21(又は23)から被測定物までの距離が算出される。以下、演算部50の処理について、詳細に説明する。
【0032】
前述したようにA/D変換部47−1から出力され、演算部50に入力されたビート信号は、ビート信号の同相成分である余弦波成分(A・cos(ωt+θ))である。一方、A/D変換部47−2から出力され、演算部50に入力されたビート信号は、ビート信号の直交成分である正弦波成分(A・γ・sin(ωt+θ+φ))である。ここでγは、ビート信号の同相成分と直交成分の振幅比(振幅誤差)である。また、φは、同相成分と直交成分の位相のずれの度合(位相誤差)である。従って、ビート信号の同相成分である余弦波成分と、ビート信号の直交成分である正弦波成分が、理想的な直交関係であれば、γ=1,φ=0となる。
【0033】
しかし、前述したように、カプラ16を介してπ/2移相器44に入力される送信波は、周波数が変移している。これに伴い送信波の波長も変移する。このため、ミキサ43−2に入力される送信波は、ミキサ43−1に入力される送信波に対する位相が、必ずしもπ/2になるとは限らない。従って、直交検波部42から出力されるビート信号の同相成分と直交成分は、常に理想的な直交関係を保つのは困難である。そこで、第1の実施形態に関わる電波を利用した距離測定装置1では、ミキシングにより生成されたビート信号に含まれる直交関係の誤差を離散フーリエ変換により検出し、検出された誤差によりビート信号の誤差補正を行い、誤差補正されたビート信号を再度離散フーリエ変換してビート信号の周波数を算出する。これについて、以下に詳細に述べる。
【0034】
前述したように、ビート信号の同相成分I(t)と、ビート信号の直交成分Q(t)は、
I(t) = A・cos(ωt+θ) ・・・ (6a)
Q(t) = A・γ・sin(ωt+θ+φ) ・・・ (6b)
で表すことができる。ここで、式(6a)で表されるビート信号の同相成分を実部とし、式(6b)で表されるビート信号の直交成分を虚部とすると、ビート信号は、
f(t)= A・cos(ωt+θ)+jA・γ・sin(ωt+θ+φ)
=(A/2)[(1+γejφ)ej(ωt+θ)+(1−γe−jφ)e−j(ωt+θ)
・・・ (7)
のように複素数で表すことができる。
【0035】
式(7)で表されるビート信号の複素数をフーリエ変換すると、
【数3】

となる。ここで、δ(k−ω)及びδ(k+ω)は、前述したディラックのデルタ関数である。すなわち、デルタ関数δ(k−x)は、k≠xのときにδ(k−x)=0となり、デルタ関数δ(k+x)は、k≠−xのときにδ(k+x)=0となる関数である。従って、誤差を含む角周波数ωのビート信号の複素数をフーリエ変換すると、角周波数“+ω”のスペクトラムと、角周波数“−ω”のスペクトラムと、が現れる。
【0036】
前述したように、電波を利用した距離測定装置1では、ビート信号の周波数を検出するために、ミキシングにより得られたビート信号をA/D変換し、これにより生成された複素データ系列を、離散フーリエ変換している。従って、直交関係に誤差が含まれた角周波数ωのビート信号の複素データ系列を離散フーリエ変換すると、図3aに示すように、角周波数“+ω”を中心とする四角形でポイントされたビート信号の実像と、角周波数“−ω”を中心とする三角形でポイントされたビート信号の鏡像と、の2つのsinc関数特性を有するスペクトラムが現れる。
【0037】
図3aに示すように、アンテナから被測定物までの距離が近いと、ビート信号の周波数が低くなることにより、実像“+ω”と鏡像“−ω”の各々のスペクトラムが、お互いに近づき、実像(及び鏡像)のスペクトラムの振幅値が最大となる周波数の値と、加算したスペクトラムの振幅値が最大となる周波数の値と、の間に誤差が発生する。このような誤差は、距離測定の精度を低下させる要因となるため、より精度の高い距離測定を行うために取り除く必要がある。以下、誤差補正について説明する。
【0038】
演算部50では、入力されたビート信号の複素データ系列を、有限区間Nで離散フーリエ変換している。有限区間Nで離散フーリエ変換されたビート信号のスペクトラムは、図3bに示すように、有限区間N毎に(実像と鏡像の)スペクトラムが繰り返す周期性を有している。演算部50では、まず、この有限区間Nで算出されたスペクトラムの中から、振幅が最も高い周波数に対応するデータを探索する。探索された振幅が最も高い周波数に対応するデータをF(kmax)とする。
【0039】
次に、kmaxを符号反転した−kmaxを探索する。ここで、前述したように、演算部50では有限区間Nで離散フーリエ変換しているため、0〜N−1の領域でしか演算することができない。また、前述したように、入力されたビート信号の複素データ系列を有限区間Nで離散フーリエ変換したスペクトラムは、データ数がN毎に(実像と鏡像の)スペクトラムが繰り返す周期性を有している。従って、F(N−kmax)を、kmaxの符号反転である−kmaxに対応するデータとする。これにより、データF(kmax)と、データF(N−kmax)は、式(8)より、
【数4】

とすることができる。後述するが、第1の実施形態では、このF(kmax)及びF(N−kmax)に基づいて、ビート信号の同相成分と直交成分の振幅誤差γ及び位相誤差φを補正する。
【0040】
ここで、kmax=0のときは、式9(a)及び式(9b)に示す2つの式を抽出することができなくなる。そこで、kmax=0のときは、F(1)とF(N−1)を比較して、式(10)及び式(10b)のように、F(kmax)とF(N−kmax)を検出する。
【数5】

【0041】
ここで、式(9a)に示される複素数と、式(9b)に示される複素数の共役複素数と、の和と差を算出すると、
【数6】

を得ることができる。すなわち、式(11b)に示すようにビート信号の振幅誤差γと、ビート信号の位相誤差φと、が検出される。
【0042】
さらに、式(11a)及び(11b)に表された式を展開することにより、
【数7】

を得ることができる。
【0043】
ここで、式(6a)に示したビート信号の同相成分I(t)と、式(6b)に示したビート信号の直交成分Q(t)と、を展開すると、
I(t)= A・cos(ωt+θ)= A・cos(ωt)・cos(θ)−A・sin(ωt)・sin(θ) ・・・ (13a)
Q(t)= A・γ・sin(ωt+θ+φ)= A・γ・sin(ωt)・cos(θ+φ)+A・γ・cos(ωt)・sin(θ+φ) ・・・ (13b)
を導くことができる。また、補正後のビート信号の同相成分をI’(t)≡A・cos(ωt)と置き、補正後のビート信号の直交成分をQ’(t)≡A・sin(ωt)と置くと、式(13a)と式(13b)は、
I(t)= I’(t)・cos(θ)−Q’(t)・sin(θ)
・・・ (14a)
Q(t)= I’(t)・γ・sin(θ+φ)+Q’(t)・γ・cos(θ+φ)
・・・ (14b)
と置くことができる。この式(14a)及び式(14b)の連立方程式を解き、式(12a)〜(12d)までの式を代入することにより、式(15a)及び式(15b)に示すI’(t)及びQ’(t)を導き出すことができる。すなわち、
I’(t)=f(I(t)、Q(t)) ・・・ (15a)
Q’(t)=f(I(t)、Q(t)) ・・・ (15b)
のように、補正後のビート信号の同相成分I’(t)と、補正後のビート信号の直交成分Q’(t)は、演算部50に入力されたビート信号の同相成分I(t)と直交成分Q(t)の関数として表すことができる。
【0044】
式(15a)に示す補正後のビート信号の同相成分I’(t)を実部とし、式(15b)に示す補正後のビート信号の直交成分Q’(t)を虚部とすると、補正後のビート信号の複素データ系列f’(t)は、
f’(t)=I’(t)+jQ’(t) ・・・ (16)
とすることができる。この補正後の理想的な直交関係を有する(角周波数ωの)ビート信号の複素データ系列f’(t)を離散フーリエ変換することにより、図4に示すように、角周波数“+ω”を中心とする四角形でポイントされたsinc関数特性を有するビート信号の実像のスペクトラムのみが算出される。
【0045】
従って、第1の実施形態に示した電波を利用した距離測定装置では、従来の電波を利用した距離測定装置のように鏡像のスペクトラムが算出されることがない。これにより、第1の実施形態に示した電波を利用した距離測定装置では、従来の電波を利用した距離測定装置のように、近距離にある被測定物までの距離を測定するとき(ビート信号の周波数が低くなったとき)に、検出されるビート信号の振幅値が最大となる周波数から、スペクトラムの鏡像の影響による誤差を排除することができる。
【0046】
従って、第1の実施形態に示した電波を利用した距離測定装置1では、図4に示した、演算部50により算出されたビート信号の実像のスペクトラムから、鏡像の影響を受けることなく、ビート信号の周波数が低いとき(アンテナから被測定物までの距離が近いとき)のビート信号のスペクトラムの振幅が最大となるピーク周波数f[Hz]を算出することができる。これにより算出されたピーク周波数f[Hz]から、距離測定装置1の送信アンテナ21(又は受信アンテナ23)から被測定物までの距離R[m]は、
R = cfT/2B ・・・ (17)
で表すことができる。
【0047】
また、電波を利用した距離測定装置1を、水位測定装置に適用した場合は、電波を利用した距離測定装置1が水深距離Lに設置されているとすると、水位L[m]は、
L = L−cfT/2B ・・・ (18)
で表すことができる。
【0048】
また前述したように、kmax=0のときは、F(1)とF(N−1)を比較して、式(10a)及び式(10b)のように、F(kmax)とF(N−kmax)を検出しているため、測定されるアンテナから被測定物までの距離には、図5に示すような誤差を含む値が算出される。従って、電波を利用した距離測定装置には、図5に示すような被測定物までの距離と、算出される距離と、の関係を示すテーブルを用意しておき、このテーブルを参照して被測定物までの距離を測定することが望ましい。
【0049】
「第2の実施形態」
前述したように、第1の実施形態で説明した電波を利用した距離測定装置は、ビート信号を直交検波により検出し、ビート信号の同相成分のデータ系列を実部とし、ビート信号の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を離散フーリエ変換して、第一の複素数と、第二の複素数を算出し、これに基づいてビート信号の同相成分と、ビート信号の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出していた。しかしながら、前述したように、kmax=0のときは、被測定物までの距離と、算出される距離と、の関係を示すテーブルを用意しておき、このテーブルを参照して被測定物までの距離を測定しなければ、被測定物までの距離を正確に算出することができなかった。そこで、第2の実施形態では、より簡単に、ビート信号の同相成分と直交成分の間の誤差を補正することが可能な電波を利用した距離測定装置について説明する。
【0050】
前述したビート信号の同相成分I(t)をxとし、ビート信号の直交成分Q(t)をy(t)としてリサージュ図形を算出すると、図6aのようになる。ここで、
x = A・cos(ωt+θ) ・・・ (19a)
y = A・γ・sin(ωt+θ+φ) ・・・ (19b)
である。ビート信号の同相成分と直交成分が、理想的な直交関係(γ=1,φ=0)であれば、リサージュ図形は理想的な円になる。しかしながら、ビート信号の同相成分と直交成分の直交関係に誤差が含まれてしまうと、図6aに示すような楕円になってしまう。第2の実施形態に示す電波を利用した距離測定装置では、直交関係に誤差を含むビート信号によりリサージュ図形を算出し、算出されたリサージュ図形(の楕円の度合)によりビート信号の同相成分と直交成分の直交関係に誤差を検出し、検出された誤差に基づいてビート信号の誤差を補正する。以下、詳細に説明する。
【0051】
式(19a)及び式(19b)に示すビート信号の同相成分と直交成分を、
x/A = cos(ωt+θ) ・・・ (20a)
y/(A・γ)=sin(ωt+θ+φ)
=sin(ωt+θ)cos(φ)+cos(ωt+θ)sin(φ)
・・・ (20b)
と置き換える。式(20b)を展開すると、
sin(ωt+θ)={y/(A・γ)−(x/A)・sin(φ)}/cos(φ)
・・・ (21)
となる。
【0052】
式(20a)及び式(21)を各々2乗して加算すると、
【数8】

となる。ここで、式(22)で描かれる軌跡がリサージュ図形である。
【0053】
ここで、式(22)を、αx+βy+σxy=1と置くと、
【数9】

と置くことができる。
【0054】
ここで、演算部50に入力されたビート信号の同相成分のデータ系列x及びビート信号の直交成分のデータ系列yから、楕円の関係式を算出すると、
αx+βy+σx=1+ε ・・・(24)
を満たす。ここでεは、x及びyから楕円の関係式を算出するときの誤差である。ここで自乗誤差の総和Vを算出すると、
【数10】

となる。
【0055】
つまり、ビート信号の同相成分のデータ系列x及びビート信号の直交成分のデータ系列yから、楕円のパラメータα、β、σを求めるには、自乗誤差の総和Vが最小となる条件を算出すれば求まる。自乗誤差の総和Vが最小となる条件を算出するには、自乗誤差の総和Vを、楕円のパラメータα、β、σで偏微分した結果がゼロになる条件を求めれば良い。自乗誤差の総和Vを偏微分すると、
【数11】

となる。
【0056】
これらの式(26a)〜式(26c)がゼロとなるように方程式を展開すると、
【数12】

が得られる。すなわち、式(27a)〜式(27c)を解法することにより、
α = fα(x,y) ・・・ (28a)
β = fβ(x,y) ・・・ (28b)
σ = fσ(x,y) ・・・ (28c)
のようにα、β、σを算出することができる。
【0057】
式(28a)〜式(28b)で算出されたα、β、σを、式(23a)〜式(23b)に代入することにより、
【数13】

のように、ビート信号の振幅誤差γ及び位相誤差φを検出することができる。従って、検出された振幅誤差γ及び位相誤差φに基づいてビート信号の振幅と位相を補正することが可能となる。振幅と位相が補正されたビート信号の同相成分と直交成分のリサージュ図形を図6bに示す。なお、誤差が補正されたビート信号は、第1の実施形態と同様に、ビート信号の同相成分のデータ系列を実部とし、ビート信号の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから近距離の被測定物までの距離を精度良く測定することが可能となる。
【0058】
以上、説明したように、第1及び第2の実施形態に係る電波を利用した距離測定装置は、ビート信号を直交検波により検出し、ビート信号の誤差を補正したのち、ビート信号の同相成分のデータ系列を実部とし、ビート信号の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから近距離の被測定物までの距離を精度良く測定することができる距離測定装置を実現することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る電波を利用した距離測定装置は、前述したように、電波を水面に対して輻射し、反射してきた受信波と、送信波と、のビート信号から水位を測定する水位測定装置や、地すべりの可能性のある岩盤までの距離を算出し、岩盤までの距離の変化によって地すべりを検出する地すべりセンサ等に転用できることは言うまでも無く本発明の趣旨から離れるものではない。本実施形態で示した電波を利用した距離測定装置を、前述したような水位測定装置や地すべりセンサ等に、適用する場合は、テレメータシステムとして適用しても良い。測定された距離(水位)は、有線、または、無線回線を通して、中央の制御センター等に伝送される。対向側のテレメータシステムは、距離のデータを保存し、帳票作成、増水判定、災害の早期発見などが可能となり、防災業務により貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に係る電波を利用した距離測定装置のブロック図である。
【図2】本実施形態に係る電波を利用した距離測定装置から送信される電波と、受信される電波の時間に対する周波数の変移のグラフである。
【図3a】第1の実施形態に係る電波を利用した距離測定装置で、誤差が含まれるビート信号の複素データ系列を離散フーリエ変換した後の周波数と振幅値との関係を示すグラフである。
【図3b】第1の実施形態に係る電波を利用した距離測定装置で、誤差が含まれるビート信号の複素データ系列を離散フーリエ変換した後の周波数と振幅値との関係を示すグラフである。
【図4】第1の実施形態に係る電波を利用した距離測定装置で、誤差を補正したビート信号の複素データ系列を離散フーリエ変換した後の周波数と振幅値との関係を示すグラフである。
【図5】第1の実施形態に係る電波を利用した距離測定装置で、誤差が補正されたビート信号の複素データ系列を離散フーリエ変換した後の被測定物までの距離と算出される距離との関係を示すグラフである。
【図6a】第2の実施形態に係る誤差が含まれるビート信号の同相成分をx軸とし、誤差が含まれるビート信号の直交成分をy軸としたときに算出されるリサージュ図形である。
【図6b】第2の実施形態に係る誤差が補正されたビート信号の同相成分をx軸とし、誤差が補正されたビート信号の直交成分をy軸としたときに算出されるリサージュ図形である。
【図7a】従来の実施形態に係る実数データ系列を離散フーリエ変換した後の周波数と振幅値との関係を示すグラフである。
【図7b】従来の実施形態に係る実数データ系列を離散フーリエ変換した後の周波数と振幅値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 電波を利用した距離測定装置、11 発振部、12 周波数変調部、13,17,40,43−1,43−2 ミキサ、14 IF発振部、15 フィルタ、16 カプラ、18,41,45−1,45−2 フィルタ、21 送信アンテナ、23 受信アンテナ、30 RF発振部、42 直交検波部、44 π/2移相器、46−1,46−2 コンデンサ、47−1,47−2 A/D変換部、50 演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナから被測定物に対し、周波数が一定の範囲で時間に対して変移する電波を送信する送信系と、
アンテナを介し、被測定物で反射した電波を受信する受信系と、
送信した電波で受信した電波を直交検波することにより、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波と同じ位相と、を有する差分の周波数成分の同相成分と、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波とπ/2異なる位相と、を有する差分の周波数成分の直交成分と、を検出する周波数検出部と、
差分の周波数成分の同相成分と直交成分をA/D変換し、データ系列を生成するA/D変換部と、
生成された差分の周波数成分の同相成分と直交成分のデータ系列を演算することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する演算部と、
を備え、
演算部は、
差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を算出し、算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を補正する誤差補正回路と、
誤差が補正された差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、誤差が補正された差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした誤差が補正された複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する回路と、
を備えていることを特徴とする電波を利用した距離測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の電波を利用した距離測定装置であって、
誤差補正回路は、
差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を離散フーリエ変換し、これにより求まるスペクトラムを算出する回路と、
算出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数を探索し、スペクトラムの振幅が最大となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第一の複素数と、スペクトラムの振幅が最大となる周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第二の複素数と、を抽出する回路と、
第一の複素数と、第二の複素数と、のうちいずれか一方を共役複素数として、第一の複素数と、第二の複素数と、を減算することにより、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出する回路と、
算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正する回路と、
を備えていることを特徴とする電波を利用した距離測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の電波を利用した距離測定装置であって、
誤差補正回路は、
抽出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数がゼロのとき、算出されたスペクトラムのゼロ以外の周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第一の複素数とし、ゼロ以外の周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第二の複素数として、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出することを特徴とする電波を利用した距離測定装置。
【請求項4】
請求項1記載の電波を利用した距離測定装置であって、
誤差補正回路は、
差分の周波数成分の同相成分のデータ系列と、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列と、からリサージュ図形を算出し、算出されたリサージュ図形に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正することを特徴とする電波を利用した距離測定装置。
【請求項5】
アンテナから被測定物に対し、周波数が一定の範囲で時間に対して変移する電波を送信する工程と、
アンテナを介し、被測定物で反射した電波を受信する工程と、
送信した電波で受信した電波を直交検波することにより、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波と同じ位相と、を有する差分の周波数成分の同相成分と、送信した電波の周波数と受信した電波の周波数の差分の周波数成分と、送信した電波とπ/2異なる位相と、を有する差分の周波数成分の直交成分と、を検出する工程と、
差分の周波数成分の同相成分と直交成分をA/D変換し、データ系列を生成する工程と、
生成された差分の周波数成分の同相成分と直交成分のデータ系列を演算することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する工程と、
を有し、
アンテナから被測定物までの距離を測定する工程は、
差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を算出し、算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の直交関係に関する誤差を補正する工程と、
誤差が補正された差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、誤差が補正された差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした誤差が補正された複素データ系列を、離散フーリエ変換することにより、アンテナから被測定物までの距離を測定する工程と、
を有していることを特徴とする電波を利用した距離測定方法。
【請求項6】
請求項5記載の電波を利用した距離測定方法であって、
直交関係に関する誤差を補正する工程は、
差分の周波数成分の同相成分のデータ系列を実部とし、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列を虚部とした複素データ系列を離散フーリエ変換し、これにより求まるスペクトラムを算出する工程と、
算出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数を探索し、スペクトラムの振幅が最大となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第一の複素数と、スペクトラムの振幅が最大となる周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む第二の複素数と、を抽出する工程と、
第一の複素数と、第二の複素数と、のうちいずれか一方を共役複素数として、第一の複素数と、第二の複素数と、を減算することにより、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出する工程と、
算出された誤差に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正する工程と、
を有していることを特徴とする電波を利用した距離測定方法。
【請求項7】
請求項6記載の電波を利用した距離測定方法であって、
直交関係に関する誤差を補正する工程は、
抽出されたスペクトラムの振幅が最大となる周波数がゼロのとき、算出されたスペクトラムのゼロ以外の周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第一の複素数とし、ゼロ以外の周波数と直流軸で対称となる周波数に対応する差分の周波数成分の振幅と位相を含む複素数を第二の複素数として、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を算出することを特徴とする電波を利用した距離測定方法。
【請求項8】
請求項5記載の電波を利用した距離測定方法であって、
直交関係に関する誤差を補正する工程は、
差分の周波数成分の同相成分のデータ系列と、差分の周波数成分の直交成分のデータ系列と、からリサージュ図形を算出し、算出されたリサージュ図形に基づいて、差分の周波数成分の同相成分と、差分の周波数成分の直交成分と、の振幅と位相の誤差を補正することを特徴とする電波を利用した距離測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【公開番号】特開2006−30022(P2006−30022A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210418(P2004−210418)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】