説明

電波吸収用塗料組成物

【課題】本発明は、テレビ電波、特に周波数400〜770MHzのテレビ電波に対する吸収性能に優れた塗膜を形成することができ、さらにハケやスプレーなどの一般的な塗装方法で既設の構造物に施工できるとともに、鉄や亜鉛メッキなどの金属基材に強固に付着する塗膜を提供することができる電波吸収用塗料組成物、この組成物から形成された電波吸収性塗膜、および電波吸収性塗膜付き基材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る電波吸収用塗料組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)軟磁性金属と、(C)硬化剤と、(D)シランカップリング剤と、(E)アルミノシリケートとを含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ電波、特に周波数400〜770MHzのテレビ電波に対する吸収性能に優れた塗膜を形成可能な電波吸収用塗料組成物、この組成物から形成された電波吸収性塗膜、および電波吸収性塗膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、テレビの画像が二重、三重に映る「テレビゴースト現象」などの電波障害が問題となっている。この現象は、家庭などの受信用アンテナが、テレビ電波の送信所から直接来る電波(直接波)だけでなく、高層ビルや鉄塔などに当たって反射した電波(反射波)を時間的に遅れて受信してしまうため発生する現象である。
【0003】
このようなテレビゴースト現象を防止する方法として、高層ビルの壁や鉄塔の表面に電波吸収性能を付与して反射波の発生を防止する方法が一般的に行われている。そのような方法として、具体的には、これらの建造物の外壁自体を電波吸収材で形成する方法、または高層ビルの外壁や鉄塔の表面に、電波吸収性のシートやタイルなどを設けたり、電波吸収性の塗膜を形成して電波吸収性を付与する方法等が挙げられる。
【0004】
このうち電波吸収性の塗膜を形成して電波吸収性を付与する方法としては、フェライトと合成樹脂とを混合して電波吸収用塗料組成物を調製し、この組成物を用いて塗膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1〜5)。
【0005】
しかしながら、これらの電波吸収用塗料組成物から得られる塗膜は、テレビ電波に対する電波吸収性能に優れているとは言い難く、また、基材に対する付着性に問題があるため、防食性に優れているとはいえるものではなかった。さらに上塗り塗膜との付着性に問題があるため、美観や景観に優れた構造物を提供することができなかった。従来の電波吸収用塗料組成物は、このため既設の構造物(鉄塔など)に直接施工するのが困難であった。
【0006】
一方、軟磁性材料であるソフトフェライトとエポキシ樹脂とを含有してなる電波吸収用の組成物が開発されている。そのようなものとして、エポキシ樹脂と軟磁性材料として偏平状金属磁性材料を含み、さらに硬化剤、硬化促進剤、ワックス、非磁性無機充填剤から選ばれた少なくとも1種を含むエポキシ樹脂組成物が挙げられる(例えば、特許文献6,7)。
【0007】
しかしながら、これらのエポキシ樹脂組成物は、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形などの方法によって目的とする形状に成形し、高周波集積回路に用いるものであり、塗料組成物として用いるものではない。したがって、このエポキシ樹脂組成物では、基材に対する付着性に問題があり、さらに上塗り塗膜との付着性にも依然として問題を有していた。さらに、このエポキシ樹脂組成物では、テレビ電波に対する吸収性能に優れているとは言い難いものであった。
【0008】
また、近年では、高層ビルが全国的に建設されるようになってきており、VHF帯に加え、UHF帯でもテレビゴースト現象が発生するケースが出始めている。また、地上波デジタル放送が開始され、今後全国各地で開始する準備が進められている。この地上波デジタル放送は、UHF帯に導入されるため、今後ますますUHF帯でテレビゴースト現象が
発生することが予想される。
【0009】
しかしながら、従来の電波吸収塗膜ではテレビ電波、特にUHF帯における電波吸収性
能に問題があり、テレビゴースト現象の発生が軽減されているとは言い難かった。
【特許文献1】特公昭61−46189号公報
【特許文献2】特開昭54−124298号公報
【特許文献3】特公平02−866号公報
【特許文献4】特開平09−237707号公報
【特許文献5】特開平11−354972号公報
【特許文献6】特開2000−324863号公報
【特許文献7】特開2002−234988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するものであって、テレビ電波、特に周波数400〜770MHzのテレビ電波に対する吸収性能に優れた塗膜を形成することができ、さらにハケやスプレーなどの一般的な塗装方法で既設の構造物に施工できるとともに、鉄や亜鉛メッキなどの金属基材に強固に付着する塗膜を提供することができる電波吸収用塗料組成物、この組成物から形成された電波吸収性塗膜、および電波吸収性塗膜付き基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電波吸収用塗料組成物は、
(A)エポキシ樹脂と、
(B)軟磁性金属と、
(C)硬化剤と、
(D)シランカップリング剤と、
(E)アルミノシリケートと
を含んでなることを特徴とする。
【0012】
エポキシ樹脂(A)が、脂肪鎖変性エポキシ樹脂であることが好ましい。
硬化剤(C)が、ウレタン変性ポリアミン、ポリアミドアミンまたは変性ポリアミンであることが好ましい。
【0013】
軟磁性金属(B)が、Feを主成分とするアモルファス合金であることが好ましい。
シランカップリング剤(D)が、エポキシ系シランカップリング剤であることが好ましい。
【0014】
アルミノシリケート(E)が、ベントナイトであることが好ましい。
本発明に係る電波吸収性塗膜は、前記の電波吸収用塗料組成物から形成されたことを特徴とする。
【0015】
電波吸収性塗膜は、周波数400〜770MHzの電波に対して、5dB以上の電波吸収減衰能を有することが好ましい。
電波吸収性塗膜付き基材は、基材表面に、前記いずれかの電波吸収性塗膜が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、テレビ電波、特に周波数400〜770MHzのテレビ電波に対する吸収性能に優れ、かつ基材に対する付着性および上塗り塗膜との付着性に優れた塗膜を形成可能な電波吸収用塗料組成物、この組成物から形成された電波吸収性塗膜、および電波吸収性塗膜付き基材を提供することができる。
【0017】
したがって、電波吸収用塗料組成物によれば、デジタル放送の開始に伴ってUHF帯においても懸念されるテレビゴースト等の電波障害を効果的に抑制することができる。
さらに本発明の電波吸収用塗料組成物によれば、一般的な塗装方法で既設の構造物に施工でき、さらに金属基材に強固に付着する塗膜を提供することができる。また、本発明の電波吸収性塗膜は、その表面に上塗り塗料を塗装することが可能であり、美観や景観に優れた構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の電波吸収用塗料組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)軟磁性金属と、(C)硬化剤と、(D)シランカップリング剤と、(E)アルミノシリケートとを含んでなる。
【0019】
以下に、各成分について説明する。
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ま
しく、なかでも脂肪鎖変性エポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
これらのエポキシ樹脂は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
テルペンとエポキシ樹脂とを反応させた脂肪鎖変性エポキシ樹脂(テルペン変性エポキ
シ樹脂)としては、「アデカレジンEP9002」(旭電化(株)製)などを用いることが
できる。
【0021】
このようなエポキシ樹脂は、本発明に用いられる電波吸収用塗料組成物100重量%中に、5〜30重量%、好ましくは、10〜25重量%の量で含まれていることが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂を塗料中に上記の量で含有することにより、エポキシ樹脂系塗膜に特有の、金属との良好な接着性が得られ、しかも、該樹脂中のテルペン骨格に由来する適度な可とう性が得られるため、より長期間に亘って優れた電波吸収性と防食性が発揮できる。
【0023】
(B)軟磁性金属
軟磁性金属(B)としては、特に限定されるものではないが、鉄元素を含むものが好ましく、例えば、Fe系、Fe−P系、Fe−Cr系合金、Fe−Si系合金、Fe−Ni系合金、Fe−Al系合金、Fe−Co系合金、Fe−Al−Si系合金、Fe−Cr−Si系合金、Fe−Cr−Al系合金、Fe−Si−Ni系合金、Fe−Si−Cr−Ni系合金、Feを主成分とするアモルファス合金などが挙げられる。これらは、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明においては、「Feを主成分とするアモルファス合金」を用いることが好ましい。この合金を用いることにより、UHF帯における低周波域(400〜770MHz)での電波吸収に特に優れる塗膜を得ることができる。
【0025】
前記「Feを主成分とするアモルファス合金」とは、Fe基のアモルファス合金を結晶化させることにより、ランダム配向した強磁性相のナノ結晶粒をアモルファス相に分散させた材料である。このようなものとしては、ファインメット(製品名、日立金属(株))などが挙げられる。
【0026】
また、軟磁性金属(B)は、通常、扁平状、粒子状などの粉末形状のものが用いられ、各形状の混合物であってもよい。
軟磁性金属(B)の平均粒子径は、10〜70μm、好ましくは、30〜45μmであることが望ましい。平均粒子径がこの範囲であることにより、作業性に優れると共に、UHF帯における低周波域(400〜770MHz)での電波吸収に特に優れる塗膜を形成することができる。
【0027】
また、軟磁性金属(B)は、本発明の電波吸収用塗料組成物100重量%に、30〜80重量%、好ましくは、50〜70重量%の量で含まれていることが望ましい。前記の平均粒子径を有する軟磁性金属(B)が、電波吸収用塗料組成物中に前記の量で含有されることにより、UHF帯における低周波域(400〜770MHz)での電波吸収に特に優れる塗膜を形成することができる。
【0028】
(C)硬化剤
硬化剤(C)としては、通常エポキシ樹脂の硬化剤として利用されているポリアミン化合物、ポリアミドアミン化合物、これらの変性物などを用いることができる。ポリアミン化合物としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミンを挙げることができる。これらの硬化剤は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミンおよび芳香族ポリアミンの具体例としては、以下のようなポリアミンが挙げられる。
脂肪族ポリアミンとしては、具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミンなどが挙げられる。
【0030】
脂環式ポリアミンとしては、具体的には、メンセンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、N-アミノエチルピペラジン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシレンジアミン、ビス(4-アミノ-3- メチルシクロヘキシル)メタン、ポリシクロヘキシルポリアミン、ノルボルネンジアミン、フルフリールアミン、テトラハイドロフルフリールアミン、メチレンビス(フランメタンアミン)、フェナルカミン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデ
カンアダクトなどが挙げられる。
【0031】
芳香族ポリアミンとしては、具体的には、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジメチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン(例、4,4'- ジアミノ-3,3'-ジエチル-5,5'-ジメチルジフェニルメタン)、ジエチルトルエンジアミン、3,5-ジメチルチオトルエンジアミンなどが挙げられる。
【0032】
また、ポリアミドアミン化合物としては、ダイマー酸と前記ポリアミン化合物とを反応させたポリアミドアミンが挙げられる。具体的には、「ラッカマイドTD−966(商品名)」(大日本インキ化学工業(株)製)、「アデカハードナーEH−355(商品名)」(旭電化(株)製)などを用いることができる。
【0033】
ポリアミン化合物やポリアミドアミン化合物の変性体としては、これらの化合物にエポキシ化合物を付加させたエポキシ変性体、マンニッヒ変性体、カルボン酸によるアミド変性体、アクリル化合物を付加させたアクリル変性体、ウレタン化合物を付加させたウレタン変性体などが挙げられる。本発明においては、これらの変性体のうちでも、ウレタン変性ポリアミンを用いることが好ましい。
【0034】
ポリアミン化合物の変性体としては、具体的には、ケチミンタイプの変性脂環式ポリアミンである「アンカミンMCA(商品名)」(アンカーケミカル社製)など、エポキシアダクト系アミンである「PA−23(商品名)」(大竹明新化学(株)製)など、変性フェノルカミンである「カードライト541LV(商品名)」(アンカーケミカル社製)など、変性芳香族ポリアミンである「アデカハードナーEH101(商品名)」(旭電化(株)社製)、ウレタン変性ポリアミンである「アデカハードナーEH4024(商品名)」(旭電化(株)社製)など多種の化合物を例示することができる。
【0035】
本発明に用いられる硬化剤(C)としては、ウレタン変性ポリアミン、ポリアミドアミンが好ましく、これらを組み合わせて用いることがさらに好ましい。
硬化剤(C)の種類および配合量は、使用するエポキシ樹脂(A)の可使時間および硬化温度(乾燥温度)等を考慮して適宜決定されるが、硬化剤(C)は、エポキシ樹脂(A)との当量比が通常0.3〜3.0、好ましくは0.5〜1.5、さらに好ましくは0.7〜1.2の割合で用いることが望ましい。
【0036】
このような硬化剤(C)は、本発明に用いられる電波吸収用塗料組成物100重量%中に、1〜15重量%、好ましくは、6〜12重量%の量で含まれていることが望ましい。
硬化剤(C)を前記の量で含有することにより、適度な可とう性を有する塗膜を形成することができる。したがって、電波吸収性塗膜が形成された基材においては、基材が熱膨張や収縮などを繰り返し、長期間に亘って塗膜に応力を加えても亀裂が発生することがないため、より長期間に亘って優れた電波吸収性を発揮することができる。
【0037】
(D)シランカップリング剤
シランカップリング剤(D)は、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基およびグリシジル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を含有してなり、好ましくはエポキシ基を含有するシランカップリング剤であることが望ましい。
【0038】
このようなエポキシ基含有シランカップリング剤としては、(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0039】
このようなエポキシ基含有シランカップリング剤としては、具体的には、KBM−303(信越化学工業(株)製、(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)、A−186(日本ユニカー(株)製、(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン);
KBM−403(信越化学工業(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、A−187(日本ユニカー(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン);
KBM−402(信越化学工業(株)製、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン)、AZ−6137(日本ユニカー(株)製、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン);
KBE−403(信越化学工業(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)などが挙げられる。本発明においては、これらシランカップリング剤を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0040】
本発明においては、シランカップリング剤(D)は、本発明の電波吸収用塗料組成物100重量%に、0.5〜5.0重量%、好ましくは、1.0〜3.0重量%の量で含まれていることが望ましい。シランカップリング剤(D)が、電波吸収用塗料組成物中に前記の量で含有されることにより、該組成物から形成される塗膜と、基材表面または各種上塗
り塗膜との接着性が向上するため長期間屋外において暴露されても塗膜が劣化することがなく、電波吸収特性を長期間に亘って維持することができる。
【0041】
(E)アルミノシリケート
アルミノシリケート(E)は、Al23とSiO2とを主要な成分組成として含み、合
成物と天然物とがある。
【0042】
合成物としては、発電所などから排出されるフライアッシュ、合成ゼオライト等を挙げることができ、天然物としては、ベントナイト、カオリン、ケイ砂、パーライトなどを挙げることができる。これらは、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
本発明に用いるアルミノシリケート(E)としては、ベントナイトを用いることが好ましい。ベントナイトを電波吸収用塗料組成物に添加すると、塗料組成物に増粘性を付与することができ、軟磁性金属(B)の沈殿を防止することができる。したがって、塗装作業中の塗料組成物や乾燥前の塗膜において軟磁性金属(B)が沈殿せず、硬化後の塗膜中で軟磁性金属(B)が均一に分散するため、テレビ電波、特にUHF帯における低周波域(400〜770MHz)での電波吸収性能にムラのない塗膜を得ることができる。
【0044】
本発明においては、アルミノシリケート(E)は、本発明の電波吸収用塗料組成物100重量%に、0.5〜5.0重量%、好ましくは、1.0〜3.0重量%の量で含まれていることが望ましい。アルミノシリケート(E)が、電波吸収用塗料組成物中に前記の量で含有されることにより、UHF帯における低周波域(400〜770MHz)での電波吸収に特に優れる塗膜を得ることができる。
【0045】
その他の成分
本発明の電波吸収用塗料組成物には、上記各成分の他に、必要に応じて、溶剤、消泡剤、可塑剤、無機脱水剤(安定剤)、防汚剤、硬化促進剤などを、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0046】
<電波吸収用塗料組成物>
本発明の電波吸収用塗料組成物は、主剤成分と硬化剤成分とからなり、保存、運搬時にはこの2成分系として取扱われ、塗装時には、これらを通常の方法に従い混合・攪拌して調製することができる。
【0047】
主剤成分は、エポキシ樹脂(A)と、軟磁性金属(B)と、シランカップリング剤(D)と、アルミノシリケート(E)とを含有してなり、これらを必要に応じて溶剤、消泡剤、可塑剤、無機脱水剤(安定剤)、防汚剤などのその他の成分と混合・攪拌して調製される。硬化剤成分は、硬化剤(C)を含有してなり、これを必要に応じて溶剤、硬化促進剤などのその他の成分と混合・攪拌して調製される。
【0048】
本発明の電波吸収用塗料組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分の合計を100重量部とした場合に、(A)成分が5〜30重量部、(B)成分が30〜80重量部、(C)成分が1〜15重量部、(D)成分が0.5〜5.0重量部、および(E)成分が0.5〜5.0重量部の範囲にあることが好ましく、さらに
(A)成分が10〜25重量部、(B)成分が50〜70重量部、(C)成分が6〜12重量部、(D)成分が1〜3重量部、および(E)成分が1〜3重量部の範囲にあることが特に好ましい。
【0049】
このような範囲で各成分を含有してなる電波吸収用塗料組成物は、テレビ電波、特にU
HF帯における低周波域(400〜770MHz)の電波に対して5dB以上の電波吸収減衰能を有し、かかる性能を長期間に亘って発揮することができるとともに、防食性にも優れた塗膜を提供することができる。したがって、今後デジタル放送の普及に伴い、UHF帯においても懸念されるテレビゴースト等の電波障害を長期間に亘って効果的に抑制することができる。
【0050】
<電波吸収性塗膜>
本発明の電波吸収性塗膜は、前記した電波吸収用塗料組成物を基材に塗布することによって形成することができる。具体的には、ブラストや電動工具などで研磨された基材表面に、エアスプレー、エアレススプレー、はけ、ローラーなどの一般的な塗装方法により電波吸収用塗料組成物を塗布し、次いで、硬化させることによって形成される。本発明の電波吸収用塗料組成物は、膜厚を任意に調整することができ、例えば硬化後の膜厚を2〜3mmとなるように施工することができる。
【0051】
このような、本発明の電波吸収性塗膜によれば、テレビ電波、特に周波数400〜770MHzのテレビ電波に対する吸収性能に優れ、かつ基材に対する付着性および上塗り塗膜との付着性に優れる。したがって、デジタル放送の開始に伴ってUHF帯においても懸念されるテレビゴースト等の電波障害を効果的に抑制することができる。
【0052】
さらに本発明の電波吸収性塗膜は、金属基材および各種の上塗り塗膜と強固に付着する。したがって、長期間に亘って電波吸収性能を発揮することができ、さらに上塗り塗膜により、美観や景観に優れた電波吸収性塗膜付き基材を提供することができる。
【0053】
このように電波吸収性塗膜は、鉄や亜鉛メッキなどの金属基材に強固に付着するため、特に送信鉄塔などに好適に用いられ、送信鉄塔などによる電波障害を軽減することができる。
【0054】
[実施例]
以下、好適な実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
使用材料
・エポキシ樹脂(A)
アデカレジンEP9002(製品名、旭電化(株)製、脂肪鎖変性エポキシ樹脂)
・軟磁性金属(B)
ファインメット(製品名、日立金属(株)製)
【0055】
・硬化剤(C)
アデカハードナーEH−4024(製品名、旭電化(株)製、ウレタン変性ポリアミン)
アデカハードナーEH−355(製品名、旭電化(株)製、ポリアミドアミン)
・シランカップリング剤(D)
シリコンKBM403(製品名、信越化学(株)製、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
・アルミノシリケート(E)
ガラマイト1958(製品名、Southern Clay Products社製、ベントナイト)
【0056】
・消泡剤
BYK−057(製品名、BYK−Chemie社製、塗膜調整剤)
・溶剤
ソルベッソ100(製品名、昭和シェル石油社製、芳香族系炭化水素)
・硬化剤(C)
アデカハードナーEH−451K(製品名、旭電化(株)製、変性脂肪族ポリアミン)
【0057】
[実施例1〜4]
<塗料の作成>
実施例1〜4に示す塗料は、以下のようにして調製した。
【0058】
すなわち、実施例1〜4では、主剤としては表1に示す配合成分を所定量で上から順に
タンクに投入し、2軸ディスパー又は高速ディスパーにて1時間以上分散処理した。分散
処理時には、タンク内部の温度が60℃以上にならないようにタンク外部に流水を巡らすなどの処置を行った。硬化剤は、表2に示す配合成分を所定量で上から順にタンクに投入し、ディスパーにて均一に分散した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
試験体の作成は、下記に示す塗装条件の通り、実施例毎に定めた混合比率で主剤と硬化剤をハンドミキサーで十分に攪拌した後、シンナー希釈を行った。1000×1000mmのアルミ板にエアレス塗装で、WET膜厚が3.0〜3.5mmになるように塗付した。常温で7日間養生後、ノギスで乾燥塗膜厚さが2.0〜2.4mmであることを確認した。
【0062】
塗装条件
(イ)混合比(単位:重量部)
・実施例1・・・・・主剤:硬化剤=100:10、
・実施例2・・・・・主剤:硬化剤=120:10、
・実施例3・・・・・主剤:硬化剤=90:10、
・実施例4・・・・・主剤:硬化剤=75:10。
(ロ)シンナー希釈 : 5%。
(ハ)エアレス塗装機: 圧縮比 45:1。
(ニ)塗装時の気温 : 23℃。
(ホ)養生時の気温 : 15〜25℃。
【0063】
電波吸収性能の評価方法は、下記の測定条件でタイムドメイン法(注1)を用いた。タイムドメイン法では、電波を全反射するアルミ板(金属板)の反射レベルと電波吸収体の反射レベルの差を電波反射減衰量(dB:デシベル)として評価し、5dB以上であれば電波吸収性能を有しているとした。
【0064】
測定条件
測定装置 :HP8503(マイクロ波レシーバー)、
HP8511A(周波数コンバーター)、
測定周波数:470MHz〜720MHz、
送信アンテナ :ログペディオリックアンテナ、
受信アンテナ :コーナーリフレクターアンテナ、
測定点数 :201点、
編波面 :水平編波、
入射角度 :送信アンテナ側に10°、
測定温度 :20℃。
【0065】
(注1)
タイムドメイン法とは、6面電波暗室内で、試験体に送信アンテナより連続波をその周波数を変化させて照射し、それによって生じる反射波を受信し、周波数毎の吸収量を測定するものである。この測定の特長として不要な散乱波を分離することができる。
電波吸収性能の評価結果は、図1に示す通り全ての本願実施例において、対象周波数帯で5dB以上の電波吸収性能を有していた。
【0066】
[比較例1〜4]
比較例1〜4に示す塗料は、以下のようにして調製した。
【0067】
すなわち、比較例1〜4では、主剤は、表3に示す配合成分を所定量で使用し、実施例と同様に上から順にタンクに投入し、2軸ディスパー又は高速ディスパーにて1時間以上
分散処理した。分散処理時には、タンク内部の温度が60℃以上にならないようにタンク外部に流水を巡らすなどの処置を行った。硬化剤については、実施例と同じものを使用した。
【0068】
【表3】

【0069】
比較例の試験体は、全ての比較例で混合比率を主剤:硬化剤=100:10(重量比)とし
、実施例と同じ塗装条件で試験体を作成した。
電波吸収性能の評価方法は、実施例と同様にタイムドメイン法を用いて行った。
【0070】
電波吸収性能の評価結果は、図2に示す通りであった。
比較例1では、実施例1においてアルミシリケートをアマイドワックスに換えた点以外は実施例1と同様にして試験体を作成しているが、この比較例1によれば、実施例1に比して電波吸収性能の低下が認めら、対象周波数帯の一部が5dB未満であった。
【0071】
また、比較例2〜4では、表3に示すように、実施例1において、電波吸収材料を軟磁性金属(B)から種々のソフトフェライトに換えた点以外は実施例1と同様にして試験体を
作成しているが、これらの比較例2〜4においては、対象周波数帯で5dB未満であった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、実施例1〜4に示す本発明の電波吸収性塗膜の周波数(MHz、横軸)と電波吸収性能(dB、縦軸)との関係を評価した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、比較例1〜4に示す電波吸収性塗膜の周波数(MHz、横軸)と電波吸収性能(dB、縦軸)との関係を評価した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)軟磁性金属と、
(C)硬化剤と、
(D)シランカップリング剤と、
(E)アルミノシリケートと
を含んでなる電波吸収用塗料組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(A)が、脂肪鎖変性エポキシ樹脂である請求項1の電波吸収用塗料組成物。
【請求項3】
硬化剤(C)が、ウレタン変性ポリアミン、ポリアミドアミンまたは変性ポリアミンである請求項1または2に記載の電波吸収用塗料組成物。
【請求項4】
軟磁性金属(B)が、Feを主成分とするアモルファス合金である請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収用塗料組成物。
【請求項5】
シランカップリング剤(D)が、エポキシ系シランカップリング剤である請求項1〜4のいずれかに記載の電波吸収用塗料組成物。
【請求項6】
アルミノシリケート(E)が、ベントナイトである請求項1〜5のいずれかに記載の電波吸収用塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電波吸収用塗料組成物から形成された電波吸収性塗膜。
【請求項8】
周波数400〜770MHzの電波に対して、5dB以上の電波吸収減衰能を有する請求項7に記載の電波吸収性塗膜。
【請求項9】
基材表面に、請求項7または8に記載の電波吸収性塗膜が形成された電波吸収性塗膜付き基材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−207985(P2007−207985A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24705(P2006−24705)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(390033628)中国塗料株式会社 (57)
【Fターム(参考)】