説明

電流測定装置

【課題】測定用途等に応じて選択された電流センサを測定器本体に接続して使用する電流測定装置において、既存の構成の設計変更を最小限に止めて、測定器本体側で接続された電流センサの機種等を認識可能とする。
【解決手段】測定器本体20側の信号入力端子20aに対して、所定の参照直流電圧Vrefを発生する直流電圧源21を、電流センサ10が備えているシャント抵抗R1とともに分圧回路を構成する分圧用の抵抗R2を介して接続することにより、測定演算制御部27において、電流センサ接続時に抵抗R1,R2により分圧される参照直流電圧Vrefの分圧電圧値に基づいて、接続された電流センサ10の機種および/または特性を認識可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定用途等に応じて選択された電流センサを測定器本体に接続して使用する電流測定装置に関し、さらに詳しく言えば、測定器本体側で接続された電流センサの機種等を認識可能とする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電流センサには、通常、活線状態にある被測定導体にそのまま取り付けることができるクランプセンサが用いられているが、測定用途(例えば、リーク電流測定用や負荷電流測定用等)に応じて適切な機種を選択する必要がある。
【0003】
クランプセンサには、測定回路や表示部等を備え電流測定装置として完結した形態のものがあるが、多くの機種は、磁気コアと検出コイルとを有する電流センサ単体として構成され、測定回路や表示部等を含む測定器本体に接続して使用される。
【0004】
クランプセンサを測定器本体に接続するにあたっては、そのクランプセンサの定格や出力レート等に応じて、測定器本体側でレンジ等を切り替えたり、ゼロサプレス機能を有する場合には、ゼロサプレスのしきい値等を設定する必要がある。
【0005】
この種の設定を測定者が行う手動設定の場合、往々にして間違えが生じやすい。また、接続状態にしても目視によるものであるため、接続プラグが完全に差し込まれているかどうか等を見落とすことがある。このような人的なミスは、特に1台の測定器本体に複数台のクランプセンサを接続して使用する多チャンネル型の場合により多く発生する。
【0006】
そこで、例えば非特許文献1に記載されているクランプセンサでは、測定器本体への接続に伴って、測定器本体側でそのクランプセンサの機種等を自動的に認識できるようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日置技報 VOL.25 2004 NO.1 p39に所載の製品名「3290クランプオンAC/DCハイテスタ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術では、クランプセンサ側に固有情報発生回路を設けるとともに、測定器本体側にはその解読回路(センサ認識回路)を設けて、それらをクランプ信号線とは別の多芯ケーブルからなる機種認識用信号線で接続するようにしているため、その分、コストアップになるばかりでなく、既存の製品に容易に適用することができない点で好ましい解決策とは言えない面があった。
【0009】
したがって、本発明の課題は、測定用途等に応じて選択された電流センサを測定器本体に接続して使用する電流測定装置において、既存の構成の設計変更を最小限に止めて、測定器本体側で接続された電流センサの機種等を認識可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、請求項1に記載されているように、被測定導体の周りに環状に配置される磁気コアに検出コイルが巻回され、上記検出コイルのホット側出力端子と接地側出力端子の各端子間にシャント抵抗R1が接続されている電流センサと、上記電流センサが交換可能に接続され、上記電流センサから与えられる測定信号に基づいて上記被測定導体に流れる電流を測定する測定演算制御部を有する測定器本体とを備えている電流測定装置において、上記測定器本体内に所定の参照直流電圧Vrefを発生する直流電圧源を備え、上記測定演算制御部の上記ホット側出力端子と接続される入力端子に対して、上記直流電圧源が上記電流センサの接続時に上記シャント抵抗R1とともに分圧回路を構成する分圧用の抵抗R2を介して接続されており、上記測定演算制御部は、上記電流センサ接続時に上記抵抗R1,R2により分圧される上記参照直流電圧Vrefの分圧電圧値に基づいて、接続された上記電流センサの機種および/または特性を認識することを特徴としている。
【0011】
本発明において、請求項2に記載されているように、上記測定演算制御部は、上記入力端子の電圧を監視し、上記入力端子の電圧が上記参照直流電圧Vrefに近似する電圧である場合には、電流センサ未接続と判断する。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、請求項3に記載されているように、上記入力端子には、交流成分を通過させる交流カップリングコンデンサを有する計測ラインと、直流成分を通過させるローパスフィルタを有するセンサ認識ラインとが接続されており、上記計測ラインと上記センサ認識ラインとが切替手段を介して上記測定演算制御部に選択的に接続される。
【0013】
また、本発明の好ましい態様によれば、請求項4に記載されているように、上記測定演算制御部は、上記測定器本体が備える表示部に対するゼロサプレス機能を有し、上記認識された電流センサの機種および/または特性に応じてゼロサプレスのしきい値を選択することができる。なお、本明細書において、ゼロサプレスは、数値を強制的にゼロにすることを言う。
【0014】
同様に、本発明の好ましい態様によれば、請求項5に記載されているように上記測定演算制御部は、上記認識された電流センサに測定上必要および/または不要とされる付属品を上記測定器本体が備える表示部に表示することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、ハード的には、測定器本体側において、測定演算制御部の入力端子に対して、所定の参照直流電圧Vrefを発生する直流電圧源を電流センサが備えているシャント抵抗R1とともに分圧回路を構成する分圧用の抵抗R2を介して接続するだけの構成でよく、これにより、測定演算制御部では、電流センサ接続時に抵抗R1,R2により分圧される参照直流電圧Vrefの分圧電圧値に基づいて、接続された電流センサの機種および/または特性を認識することができる。
【0016】
また、測定演算制御部の入力端子の電圧が参照直流電圧Vrefに近似する電圧である場合には、電流センサ未接続と判断することができる。
【0017】
また、測定演算制御部の入力端子に、交流成分を通過させる交流カップリングコンデンサを有する計測ラインと、直流成分を通過させるローパスフィルタを有するセンサ認識ラインとを接続し、この計測ラインとセンサ認識ラインとを切替手段を介して測定演算制御部に選択的に接続する構成とすることにより、特に複数台の電流センサが接続される多チャンネル型の場合、各電流センサを順次認識しながら適切な信号処理(電流計測)を行うことができる。
【0018】
また、測定演算制御部は、認識された電流センサの機種および/または特性に応じてゼロサプレスのしきい値を選択することができる。また、認識された電流センサに測定上必要および/または不要とされる付属品(例えば、フィルタ回路等)を測定器本体が備える表示部に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による電流測定装置の実施形態を示す模式図。
【図2】電流センサの機種ごと異なる電圧レベルを示すグラフ。
【図3】多チャンネル(例えば2チャンネル)に拡張したときの切替手段を示す模式図。
【図4】2チャンネル時の切替手段の動作を示すタイミングチャート。
【図5】2チャンネル時の図4に対応した入力波形を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図1ないし図5により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0021】
図1を参照して、この電流測定装置は、電流センサ10と測定器本体20とを備え、測定用途に応じて電流センサ10が選択され、測定器本体20に接続される。図1の実施形態では、接続される電流センサ10が1台の1チャンネルとしているが、図3に示すように、2チャンネル(多チャンネル)に拡張することができる。
【0022】
電流センサ10は、被測定導体Mの周りに環状に配置されて閉磁路を形成する磁気コア11と、磁気コア11に巻回された検出コイル12とを備える。磁気コア11は、開閉可能なクランプ式であることが好ましいが、被測定導体Mを通す貫通型であってもよい。
【0023】
検出コイル12の両端は出力端子12a,12bであり、この場合、一方の出力端子12aがホット側で、他方の出力端子12bは測定器本体20に接続された際、その接地端子20bを介して接地される。
【0024】
出力端子12a,12b間には、電流−電圧変換用としてのシャント抵抗R1が接続されている。このシャント抵抗R1の抵抗値は、機種ごとに異なっている。
【0025】
一例として、リーク電流測定用の場合には、数十〜数百オームのシャント抵抗が搭載され、負荷電流測定用の場合には、数オームのような低い抵抗値のシャント抵抗が搭載される。本発明では、このシャント抵抗R1の抵抗値によって、電流センサ10の機種や特性を認識する。
【0026】
次に、測定器本体20は、電流センサ10が接続される一対の接続端子を備える。その一方の接続端子が、電流センサ10のホット側出力端子12aが接続される信号入力端子20aで、他方の接続端子が電流センサ10の接地端子12bと接続される接地端子20bである。
【0027】
また、測定器本体20は、その内部に所定の参照直流電圧Vrefを発生する安定した直流電圧源21を備える。この直流電圧源21は、例えばA/Dコンバータ用の動作電源等として用いられる装置内電源であってもよい。また、この実施形態において、参照直流電圧Vrefの極性は正であるが、負であってもよい。
【0028】
直流電圧源21は、上記シャント抵抗R1とともに分圧回路を構成する分圧用の抵抗R2を介して信号入力端子20aに接続される。なお、図示しないが、信号入力端子20aと接地端子20bとの間に、200k〜1Mオーム程度の安定化用の抵抗が接続されてもよい。
【0029】
信号入力端子20aには、交流成分を通過させる交流カップリングコンデンサ22aを含む計測ライン22と、直流成分を通過させるローパスフィルタ23aを含むセンサ認識ライン23とが接続されている。
【0030】
計測ライン22の交流信号(測定信号)と、センサ認識ライン23の直流信号(センサ認識信号)は、切替手段(切替スイッチ)24により選択され、増幅器25を介してA/Dコンバータ26に与えられてデジタル信号に変換されたのち、測定演算制御部27に入力される。測定演算制御部27には、例えばマイクロコンピュータが用いられてよい。
【0031】
上記した構成において、電流センサ10を測定器本体20に接続すると、シャント抵抗R1と分圧用の抵抗R2とが直列に接続されて分圧回路が形成され、直流電圧源21の参照直流電圧Vrefは、抵抗R1,R2によって分圧される。これにより、信号入力端子20aには、Vref×{R1/(R1+R2)}なる直流電圧(DC分圧電圧)が現れる。
【0032】
電流センサ10においては、磁気コア11に流れる磁束によって検出コイル12に生じたAC(交流)電流がシャント抵抗R1に流れて電圧化され、このAC信号が測定信号として測定器本体20に入力される。したがって、信号入力端子20aには、重畳の理により上記DC分圧電圧を基準としたAC+DC波形が現れる。
【0033】
このAC+DC波形のうちのAC成分(測定信号)が計測ライン22の交流カップリングコンデンサ22aによって抽出され、DC成分(センサ認識信号)はセンサ認識ライン23のローパスフィルタ23aによって抽出される。
【0034】
切替手段24は、まず、センサ認識ライン23のDC成分を選択して、増幅器25およびA/Dコンバータ26を介して測定演算制御部27に与え、その後に、計測ライン22のAC成分を選択し同様にして測定演算制御部27に与える。
【0035】
測定演算制御部27では、DC成分により接続された電流センサ10の機種等を認識したのち、AC成分に基づいて被測定導体Mに流れている電流を測定する。測定演算制御部27でのセンサ認識は、次のようにして行われる。
【0036】
上記したように、電流センサ10のシャント抵抗R1には、リーク電流測定用の場合には、数十〜数百オームの抵抗が用いられ、負荷電流測定用の場合には、数オームのような低い抵抗値の抵抗が用いられる。
【0037】
したがって、負荷電流測定用の電流センサ接続時のローパスフィルタ23aの出力電位をVLOAD,リーク電流測定用の電流センサ接続時のローパスフィルタ23aの出力電位をVLEAK,電流センサ未接続時のローパスフィルタ23aの出力電位をVOPEN,回路の接地電位をGNDとすると、図2に示すように、
GND<VLOAD<VLEAK<VOPEN≦Vref
となり、これによって、接続された電流センサ10の機種および/または特性等を認識することが可能となる。
【0038】
本発明は、1台の測定器本体20に複数台の電流センサ10を接続して計測を行う多チャンネル化も可能であり、その一例として、図3ないし図5により、電流センサ10を2台接続する2チャンネルとした場合について説明する。
【0039】
この例では、チャンネルCH1にリーク電流測定用の電流センサ10が接続され、チャンネルCH2に負荷電流測定用の電流センサ10が接続されており、この場合には、上記した構成にしたがって、各チャンネルCH1,CH2ごとに計測ライン22とセンサ認識ライン23とが設けられ、切替手段24は、これら各ラインを択一的に順次選択するマルチプレクサが用いられる。
【0040】
図4および図5を参照して、まず、チャンネルCH1のセンサ認識ライン23が選択され、その電位(VLOAD)によりチャンネルCH1に接続されている電流センサ10が負荷電流測定用であるとの認識が行われ、その後、チャンネルCH1の計測ライン22が選択され、チャンネルCH1に接続されている負荷電流測定用の電流センサ10による電流測定が行われる。
【0041】
次に、チャンネルCH2のセンサ認識ライン23が選択され、その電位(VLEAK)によりチャンネルCH2に接続されている電流センサ10がリーク電流測定用であるとの認識が行われ、その後、チャンネルCH2の計測ライン22が選択され、チャンネルCH2に接続されているリーク電流測定用の電流センサ10による電流測定が行われる。
【0042】
測定中および/または測定後に、電流測定値が表示部28に表示されるが、本発明によれば、接続された電流センサの機種が自動的に認識されるため、測定演算制御部27は、その電流センサの特性等に応じた表示方法を選択して、電流測定値等を表示部28に表示することができる。
【0043】
また、無入力でも表示部28に数値が残ってしまうことを回避するための「ゼロサプレス機能」を有している場合、個々の電流センサに応じたゼロサプレスしきい値を選択することもできる。
【0044】
また、個々の電流センサの定格に応じて、その定格以上の入力があった場合、オーバーフロー等の表示が可能となる。
【0045】
さらには、用途に応じた設定の有無を測定器本体20側で選択して測定者に示すこともできる。例えば、負荷電流測定用電流センサには不要とされるLPF(ローパスフィルタ)は、リーク電流測定用電流センサでは必要とされることから、電流センサの自動認識によって、表示部28に設けられている図示しないフィルタON/OFFの設定画面をリーク電流測定用電流センサの接続時のみ表示させることができる。このような適切な操作画面の取捨選択も電流センサの自動認識により可能となる。
【符号の説明】
【0046】
10 電流センサ
11 磁気コア
12 検出コイル
12a,12b 出力端子
20 測定器本体
20a,20b 入力端子
21 直流電圧源
22 計測ライン
22a 交流カップリングコンデンサ
23 センサ認識ライン
23a ローパスフィルタ
24 切替手段(マルチプレクサ)
26 A/Dコンバータ
27 測定演算制御部
28 表示部
R1 電流センサのシャント抵抗
R2 分圧用の抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定導体の周りに環状に配置される磁気コアに検出コイルが巻回され、上記検出コイルのホット側出力端子と接地側出力端子の各端子間にシャント抵抗R1が接続されている電流センサと、上記電流センサが交換可能に接続され、上記電流センサから与えられる測定信号に基づいて上記被測定導体に流れる電流を測定する測定演算制御部を有する測定器本体とを備えている電流測定装置において、
上記測定器本体内に所定の参照直流電圧Vrefを発生する直流電圧源を備え、上記測定演算制御部の上記ホット側出力端子と接続される入力端子に対して、上記直流電圧源が上記電流センサの接続時に上記シャント抵抗R1とともに分圧回路を構成する分圧用の抵抗R2を介して接続されており、
上記測定演算制御部は、上記電流センサ接続時に上記抵抗R1,R2により分圧される上記参照直流電圧Vrefの分圧電圧値に基づいて、接続された上記電流センサの機種および/または特性を認識することを特徴とする電流測定装置。
【請求項2】
上記測定演算制御部は、上記入力端子の電圧を監視し、上記入力端子の電圧が上記参照直流電圧Vrefに近似する電圧である場合には、電流センサ未接続と判断することを特徴とする請求項1に記載の電流測定装置。
【請求項3】
上記入力端子には、交流成分を通過させる交流カップリングコンデンサを有する計測ラインと、直流成分を通過させるローパスフィルタを有するセンサ認識ラインとが接続されており、上記計測ラインと上記センサ認識ラインとが切替手段を介して上記測定演算制御部に選択的に接続されることを特徴とする請求項1または2に記載の電流測定装置。
【請求項4】
上記測定演算制御部は、上記測定器本体が備える表示部に対するゼロサプレス機能を有し、上記認識された電流センサの機種および/または特性に応じてゼロサプレスのしきい値を選択することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電流測定装置。
【請求項5】
上記測定演算制御部は、上記認識された電流センサに測定上必要および/または不要とされる付属品を上記測定器本体が備える表示部に表示することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電流測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−68191(P2012−68191A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214961(P2010−214961)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】