説明

電源回生コンバータ、モータ駆動システム、及び電源回生処理方法

【課題】交流電源に印加される高調波の有無にかかわらず適切な開始タイミングで電源回生処理を行う。
【解決手段】入力される交流電源200の各相の交流電流流通状態Iacを検出する交流電流検出部12と、交流電源200を全波整流して直流電圧Vdcを出力する整流ブリッジ回路11aと、2つのアームスイッチング素子51を直列に接続した組を、整流ブリッジ回路11aの各相に対応して並列に接続した回生スイッチング部11bと、を有する回生コンバータ部11と、直流電圧Vdcを平滑する平滑コンデンサ2と、交流電流検出部12が検出した交流電流流通状態Iacに基づく開始判定処理で判定した開始タイミングで、回生コンバータ部11のアームスイッチング素子51をそれぞれスイッチングして、直流電圧Vdc側で発生した回生電力を交流電源200へ戻すようにコンバータ側電源回生処理を行うコンバータ回生制御部14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、電源回生機能を備えた電源回生コンバータ、モータ駆動システム、及び電源回生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、それぞれ電源回生制御が可能な三相ブリッジ整流回路及びインバータ回路と、平滑コンデンサとを備えたサーボ駆動装置に関する技術が開示されている。この従来技術では、交流電圧の波高値がわずかに平滑コンデンサの直流電圧値を超えた場合に、三相ブリッジ整流回路が間欠的に短絡状態となって平滑コンデンサに充電電流が流れ、それにより三相ブリッジ整流回路の内部から高調波が発生するとの考え方に基づいている。その対策として、平滑コンデンサの直流電圧値を超える波高値の三相交流電源電圧が入力してきた場合に、簡単な回路構成により三相交流電源の電圧と電流にひずみが生じないようにすることができ、高調波の発生および力率の悪化を回避でき、高調波の発生による他の回路へのノイズ妨害を防止できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2872210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年においては、例えば日本から欧州へ電気製品を輸出するにあたってEMC指令に基づくCEマーキングの表記が義務づけられており、使用国によってはこのEMC指令に基づく基準を満たしていなければ使用できない状況にある。EMC指令は、機器から漏れ出てくる電磁波を評価するEMI(electro−magnetic interference)と、機器の外来の電磁波に対する耐性を評価するEMS(electro−magnetic susceptibility)の両方の対策が要求されている。
【0005】
上記従来技術は、同一の交流電源に接続する他の機器から高調波が発生するなどにより、当該交流電源から入力される交流電圧そのものに高調波が印加される場合があり、上記従来技術はそのような外部由来の高調波に対する耐性を評価する上記EMSへの対策はできていない。
【0006】
例えば、モータの運転シーケンスにおいて、モータを減速停止時に回生された電力がインバータを介して平滑コンデンサに充電された際、どの程度充電された時点でコンバータ側から交流電源への回生制御を開始すればよいかの開始タイミングを適切に判定する必要がある。しかし交流電圧に定常的に高調波が印加されている場合には、平滑コンデンサの充電電圧が高調波の電圧振幅に合わせて昇圧する一方、通常の交流電圧の検出手法では高調波成分を検出できず通常の交流電圧値しか検出できない。このため、交流電圧と直流電圧との単純な比較では、コンバータ側の回生制御の開始タイミングを誤判定しやすい。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、交流電源に印加される高調波の有無にかかわらず適切な開始タイミングで電源回生処理を行える電源回生コンバータ、モータ駆動システム、及び電源回生処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一の観点によれば、入力される交流電源の各相の交流電流流通状態を検出する交流電流検出部と、前記交流電源を全波整流して直流電圧を出力する整流ブリッジ回路と、2つの半導体スイッチング素子を直列に接続した組を、前記整流ブリッジ回路の各相に対応して並列に接続した回生スイッチング部と、を有する回生コンバータ部と、前記直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、前記交流電流検出部が検出した前記交流電流流通状態に基づく開始判定処理で判定した開始タイミングで、前記回生コンバータ部の前記半導体スイッチング素子をそれぞれスイッチングして、前記直流電圧側で発生した回生電力を前記交流電源へ戻すように電源回生処理を行うコンバータ回生制御部と、を備える電源回生コンバータが適用される。
【0009】
また上記課題を解決するために、本発明の一の観点によれば、入力される交流電源の各相の交流電流流通状態を検出する交流電流検出部と、前記交流電源を全波整流して直流電圧を出力する整流ブリッジ回路と、2つの半導体スイッチング素子を直列に接続した組を、前記整流ブリッジ回路の各相に対応して並列に接続した回生スイッチング部と、を有する回生コンバータ部と、前記直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、前記交流電流検出部が検出した前記交流電流流通状態に基づく開始判定処理で判定した開始タイミングで、前記回生コンバータ部の前記半導体スイッチング素子をそれぞれスイッチングして、前記直流電圧側で発生した回生電力を前記交流電源へ戻すように電源回生処理を行うコンバータ回生制御部と、前記平滑コンデンサに接続されるインバータ部と、上位制御装置からのモータ制御指令に基づいて前記インバータ部に接続されたモータに所望の電力を供給するよう当該インバータ部をPWM制御するインバータ制御部と、を備えるモータ駆動システムが適用される。
【0010】
また上記課題を解決するために、本発明の一の観点によれば、入力される交流電源を全波整流して直流電圧を出力する整流ブリッジ回路と、2つの半導体スイッチング素子を直列に接続した組を、前記整流ブリッジ回路の各相に対応して並列に接続した回生スイッチング部と、を有する回生コンバータ部に対して実行する電源回生処理方法であって、前記交流電源の各相の交流電流流通状態を検出する交流電流検出工程と、前記交流電流検出工程で検出した前記交流電流流通状態に基づく開始判定処理で判定した開始タイミングで、前記回生コンバータ部の前記半導体スイッチング素子をそれぞれスイッチングして、前記直流電圧側で発生した回生電力を前記交流電源へ戻すように電源回生処理を行うコンバータ回生制御工程と、を実行する電源回生処理方法が適用される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、交流電源に印加される高調波の有無にかかわらず適切な開始タイミングで電源回生処理を行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係るモータ駆動システムの構成を模式的に示したブロック図である。
【図2】図1の回路構成を簡略化して着目すべき各所の電流や電圧を示した図である。
【図3】高調波の印加が無い場合の3相交流電圧の全波整流波形を比較して示した図である。
【図4】高調波の印加が有る場合の3相交流電圧の全波整流波形を比較して示した図である。
【図5】高調波が印加された場合の直流電圧と交流電圧の変化を示すタイムチャートである。
【図6】高調波が印加された状態で比較従来方式による開始判定を行った場合の交流電流と直流電圧の変化を示すタイムチャートである。
【図7】高調波が印加されない状態で実施形態の方式による開始判定を行った場合の交流電流、直流電圧、及び参照電圧の変化を示すタイムチャートである。
【図8】高調波が印加された状態で実施形態の方式による開始判定を行った場合の交流電流、直流電圧、及び参照電圧の変化を示すタイムチャートである。
【図9】コンバータ回生制御部が備えるCPUが実行する開始判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1において、モータ駆動システム100は、交流電源200から供給される電力を利用して3相交流モータ300を駆動するものであり、電源回生コンバータ1と、モータ駆動装置3とを備えている。なおこの例では、3相交流モータ300は回転型モータの使用を想定しており、各請求項記載のモータに相当する。
【0015】
電源回生コンバータ1は、回生コンバータ部11と、平滑コンデンサ2と、交流電流検出部12と、交流電圧検出部13と、コンバータ回生制御部14とを備えている。
【0016】
回生コンバータ部11は、例えばIGBTなどの半導体で構成する6つのアームスイッチング素子51と、6つのダイオード52とをブリッジ接続したデバイスである。詳しくは、アームスイッチング素子51とダイオード52とを並列接続した回路を2つ直列に接続して1組とし、上記平滑コンデンサ2に対して3組並列に接続した構成であり、交流電源200の各相に対応する交流電力が各組の中間接続位置に入力されることで、各ダイオード52が3相交流電力を全波整流して直流電力を平滑コンデンサ2に出力する。つまり、全てのダイオード52は、交流電源200からの入力側から平滑コンデンサ2への出力側へ向けて順方向に接続されている。また、各アームスイッチング素子51はそれぞれコンバータ回生制御部14からのゲート信号が入力されることで、平滑コンデンサ2側の直流電力を各組の中間接続位置から交流電源200の各相に対応して電源回生するようスイッチングする。この回生コンバータ部11における電源回生処理を、以下においてコンバータ側電源回生処理という。なお、回生コンバータ部11は、交流電源200が単相の場合、単相交流電力を整流して直流電力を出力するものであれば良い。また、コンバータ側電源回生処理が、各請求項記載の電源回生処理に相当する。
【0017】
平滑コンデンサ2は、電源回生コンバータ1の出力側の直流母線間を渡すように接続され、当該電源回生コンバータ1の6つのダイオード52が全波整流した直流電圧Vdcを平滑する。
【0018】
交流電流検出部12は、この例ではCT(Current Transformer)を利用した電流検出器であり、交流電源200と回生コンバータ部11との間における交流電流(図中のIac)の流通状態を各相ごとに検出する。
【0019】
交流電圧検出部13は、この例では6つのダイオードをブリッジ接続した全波整流器であり、交流電源200の交流電圧を全波整流してこの検出電圧値を交流電源電圧の大きさの目安値である全波整流電圧(図中のVac)として検出する。
【0020】
コンバータ回生制御部14は、CPU、ROM、RAMなどから構成されており、上記交流電流検出部12で検出された交流電流Iac、上記交流電圧検出部13で検出された全波整流電圧Vac、及び平滑コンデンサ2が接続されている直流母線間の直流電圧(図中のVdc)に基づいてコンバータ側電源回生処理の開始タイミングを判定する。そしてコンバータ側電源回生処理が開始された際には、回生コンバータ部11の各アームスイッチング素子51に対してそれぞれゲート信号を出力して制御する。
【0021】
モータ駆動装置3は、インバータ部31と、インバータ制御部32とを備えている。
【0022】
インバータ部31は、例えばIGBTなどの半導体で構成する6つのアームスイッチング素子61と、6つのダイオード62とをブリッジ接続したデバイスである。詳しくは、アームスイッチング素子61とフライホイールダイオード(FWD)であるダイオード62とを並列接続した回路を2つ直列に接続して1組とし、上記平滑コンデンサ2に対して3組並列に接続した構成であり、各アームスイッチング素子61はそれぞれインバータ制御部32からのゲート信号が入力されることで、平滑コンデンサ2側の直流電力を各組の中間接続位置から3相交流モータ300の各相に対応して出力するようスイッチングする。また、例えば、3相交流モータ300が急な減速動作時の場合、3相交流モータ300が発電機として動作するため、3相交流モータ300から平滑コンデンサ2を含む電源回生コンバータ1における直流回路へ逆流する回生電力が発生する。すなわち、モータが発電機として動作した場合、回転(運動)エネルギーが回生電力(回生エネルギー)に変換され、3相交流モータ300からインバータ部31におけるダイオード62を経由して、電源回生コンバータ1内の直流回路に流れ込む。このインバータ部31における回生動作を、以下においてインバータ側回生動作という。なお、交流電源からインバータ用の直流を生成する直流回路が、電源回生処理能力を持たない単純なダイオード整流器の場合、インバータ側回生動作時に直流回路に流れ込んできた回生電力を交流電源に回生することができないため、直流回路における平滑コンデンサ2に回生電力が溜まって直流電圧が上昇し、過電圧になる恐れがある。
【0023】
インバータ制御部32は、CPU、ROM、RAMなどから構成されており、別途設けた上位制御装置33からのモータ制御指令に基づいて3相交流モータ300が所望の電力を供給するようインバータ部31の各アームスイッチング素子61に対してそれぞれPWM制御に基づいたゲート信号を出力して制御する。
【0024】
なお、図1中には特に図示していないが、交流電源200と電源回生コンバータ1との間の各相の電力線には、電源回生コンバータ1の電源投入時に交流電源200からの電力が電源回生コンバータ1に急激に流れ込むのを防ぐため、または、コンバータ側電源回生処理により回生された電力が交流電源200に向けて急激に逆流するのを防ぐためのリアクトルが設けられる。
【0025】
ここで、上記モータ駆動システム100の回路構成を簡略化して示す図2を参照し、3相交流モータ300の運転シーケンス別における各所の内部パラメータの変化を説明する。モータ駆動システム100の作動状況を知る上で着目すべき内部パラメータは、交流電源200−回生コンバータ部11間における交流電流Iacの流通状態及び全波整流電圧Vacと、回生コンバータ部11−平滑コンデンサ2−インバータ部31間の直流母線における直流電圧Vdcである。これら交流電流Iac、全波整流電圧Vac、及び直流電圧Vdcは、電源回生コンバータ1で実際に検出している。
【0026】
なお、上述した回生コンバータ部11の構成は、図2中に示すように入力側から出力側へ向けて順方向にダイオード52を接続して全波整流が可能な整流ブリッジ回路11aと、2つのアームスイッチング素子51を直列に接続した組を各相ごとに並列に接続した回生スイッチング回路11bとを、各相ごとに並列に接続した構成と等価である。また、上述したインバータ部31の構成は、図2中に示すようにアームスイッチング素子61とフライホイールダイオード(FWD)であるダイオード62とを並列接続した回路を2つ直列に接続して1組とし、上記平滑コンデンサ2に対して3組並列に接続した構成と等価である。
【0027】
このような回生コンバータ部11、インバータ部31を備えるモータ駆動システム100においては、交流電源200から3相交流モータ300へ順方向で駆動電力を供給する場合、該駆動電力は回生コンバータ部11を介して、インバータ部31でスイッチング制御を行うことで供給される。また逆に3相交流モータ300で発生した回生電力を交流電源200へ逆方向に電源回生する場合には、該回生電力はインバータ部31を介して、回生コンバータ部11でスイッチング制御を行うことで電源回生される。
【0028】
なお、回生コンバータ部11におけるスイッチング制御の方式には、例えば、PWM制御方式と120°通電方式等がある。本実施形態の例では、回生コンバータ部11におけるコンバータ側電源回生処理に、交流電源200の各相の位相に合わせてスイッチング制御を行う120°通電方式を適用する。なお、この120°通電方式については公知の方式によるスイッチング制御を行えばよく、ここではその詳細な説明を省略する。
【0029】
以下においては、交流電源200の通常の交流電圧そのものは一定に維持されることを前提とする。
【0030】
<1.高調波の印加が無い場合>
まず、交流電源200に高調波が印加されていない通常の場合を説明する。
(1−A:起動時)最初に、モータ駆動システム100全体が完全に放電、無通電となっている初期状態から電源を投入した直後の起動時には、全波整流電圧Vac>直流電圧Vdcであるため交流電力を回生コンバータ部11が全波整流し、平滑コンデンサ2が順充電される。またこのとき、別途備えた電圧自動調整機能により、全波整流電圧Vac×自動調整ゲイン≒直流電圧Vdcの関係となるように初期ゲイン自動調整される。なお、この初期充電時には当然、交流電流Iacが交流電源200から電源回生コンバータ1への方向で流通している状態となる。
【0031】
(1−B:モータ駆動前時)そしてモータ駆動前時には、上述した電圧自動調整機能により全波整流電圧Vac×自動調整ゲイン≒直流電圧Vdcの関係が維持される。なお、このモータ駆動前時には、電源回生コンバータ1及びモータ駆動装置3に通電している状態であるため、交流電流Iacが交流電源200から電源回生コンバータ1への方向で流通している状態となる。
【0032】
(1−C:モータ駆動時)インバータ制御部32がインバータ部31の各アームスイッチング素子61に対してPWM制御によるスイッチング制御を行い3相交流モータ300を給電駆動した場合(3相交流モータ300の加速または一定速駆動の場合)には、平滑コンデンサ2の充電電力がモータ駆動に消費されるため全波整流電圧Vac>直流電圧Vdcとなるが、全波整流電圧Vac≒直流電圧Vdcの関係を保つように、回生コンバータ部11が交流電圧を整流して平滑コンデンサ2を随時順充電する。このとき、当然、交流電流Iacが交流電源200から電源回生コンバータ1への方向で流通している状態となる。
【0033】
(1−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))
上述のように3相交流モータ300の減速駆動時の場合、インバータ側回生動作となる。すなわち、3相交流モータ300からの回生電力が、インバータ部31におけるダイオード62を経由して、電源回生コンバータ1内の直流回路に流れ込む。この時点では、電源回生コンバータ1におけるコンバータ側電源回生処理が開始されていないため、回生電力が平滑コンデンサ2に溜まって(逆充電)、直流電圧Vdcが昇圧する。このとき、全波整流電圧Vac>直流電圧Vdcである段階の交流電流Iacは交流電源200から電源回生コンバータ1への方向で流通状態、直流電圧Vdcの昇圧に伴い全波整流電圧Vac<直流電圧Vdcとなった段階の交流電流Iacは不通状態となる。
【0034】
(1−E:コンバータ側電源回生処理時)上記インバータ側回生動作中には、直流電圧Vdcが昇圧し続けるが、適宜の開始タイミングで回生コンバータ部11におけるコンバータ側電源回生処理を開始し、平滑コンデンサ2に溜まった回生電力を交流電源200に電源回生させる。この例では、上述した120°通電方式によりコンバータ側電源回生処理を適切に行うことで直流電圧Vdcを全波整流電圧Vacと同電位まで降圧させ、その後に全波整流電圧Vac≒直流電圧Vdcの関係を維持するように、回生電力を交流電源200に電源回生する。このとき、当然、交流電流Iacが電源回生コンバータ1から交流電源200への方向で流通している状態となる(交流電流Iacが流通する方向は、上記(1−A)(1−B)(1−C)と逆方向)。そして、上記インバータ側回生動作が終了後、コンバータ側電源回生処理を解除することで、上記(1−B)のモータ駆動前時に戻り、上述した電圧自動調整機能によって全波整流電圧Vac×自動調整ゲイン≒直流電圧Vdcの関係が維持される。
【0035】
そして、上記(1−D)のインバータ側回生動作による直流電圧Vdcの昇圧中状態において、上記(1−E)のコンバータ側電源回生処理を開始するタイミングとしては、従来の一般的な方式として、例えば直流電圧Vdc−全波整流電圧Vacの差が所定値以上(例として400V系であれば40V以上)となったことを条件としてコンバータ側電源回生処理を開始していた。つまり、直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacよりも所定値以上に大きくなった場合に、平滑コンデンサ2に回生電力が溜まって直流電圧Vdcが上昇し過電圧となる電位差の発生を防ぐようコンバータ側電源回生処理を行って交流電源200への電源回生を開始する方式である。
【0036】
以上の(1−A)〜(1−E)の運転シーケンスは、交流電源200に高調波が印加されていない通常の場合を前提としていた。この場合、図3に示すように、上記交流電圧検出部13によって検出される全波整流電圧Vacは、全波整流された3相交流電圧の脈動分を含む実行値で検出される。一方、直流電圧Vdcは平滑コンデンサ2の充電電圧と同電位に変動するものであり、上述のようにモータ駆動装置3の駆動状態(上記(1−C))や回生状態(上記(1−D))に応じて昇降圧する。通常、回生コンバータ部11で全波整流された3相交流電圧の波高値が、ほぼ平滑コンデンサ2の充電電圧、すなわち直流電圧Vdcとして検出される。上述した電圧自動調整機能は、全波整流電圧Vac×自動調整ゲイン≒直流電圧Vdcの関係となるよう調整を行う。
【0037】
しかしながら、外部由来によって交流電源200自体に高調波が印加される場合がある。この場合には、図4に示すように、通常の交流電圧の波形(図中の破線部)に高調波成分が重畳することで歪んだ波形(図中の実線部)となる。このため、平滑コンデンサ2の充電電圧が高調波の電圧振幅分だけ昇圧することとなり、このような高調波が印加された交流電圧のピーク値が直流電圧Vdcとなる。一方、上記交流電圧検出部13によって検出される全波整流電圧Vacは、検出系統に存在するハードウェアまたはソフトウェアで構成するフィルタにより振幅減衰し、高調波の印加による交流電圧の電圧振幅上昇が正確に認識されない。したがって、全波整流電圧Vacは、上述した交流電源200自体に高調波が印加されない通常の場合と同様、全波整流された3相交流電圧の実行値と変わらない程度で検出されるため、直流電圧Vdcと全波整流電圧Vacとは大きく相違することになる。
【0038】
図5に示すように、全波整流電圧Vacが通常に供給されている状態の途中から高調波が印加された場合でも、高調波の印加後に徐々に直流電流Vdcが昇圧して全波整流電圧Vacと大きく相違する。このとき昇圧した直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacに対して上記所定値以上に相違した場合には、コンバータ側電源回生処理の開始条件を満たしてしまい、上記(1−D)のインバータ側回生動作ではない状態であっても誤ってコンバータ側電源回生処理を開始してしまう可能性がある。
【0039】
<2.高調波の印加がある場合>
次に、交流電源200自体に高調波が印加された場合の運転シーケンスを説明する。
(2−A:起動時)電源を投入した直後の起動時には、全波整流電圧Vac>直流電圧Vdcであるため交流電圧を回生コンバータ部11が整流し、平滑コンデンサ2が順充電される。しかしこの場合には高調波が印加されているため、高調波成分の電圧振幅値分だけ直流電圧Vdcが交流電圧検出部13で検出される全波整流電圧Vacより高くなる。なお、この高調波が印加されている場合でも初期充電時には当然、交流電流Iacが交流電源200から電源回生コンバータ1への方向で流通している状態となる。
【0040】
(2−B:モータ駆動前時)上記図1に示した構成の電源回生コンバータ1単独では、交流電源200における高調波の印加状態と無印加状態を見分けることができない。したがって、上記電圧自動調整機能は、直流電圧Vdcと全波整流電圧Vacとの相違が高調波の印加に起因するものなのか、モータ駆動装置3からの回生電力に起因するものなのかを見分けることができず、上記(1−A)で説明した正確な初期ゲイン自動調整を行うことができない。つまりモータ駆動前時には、高調波成分の電圧振幅値分だけ直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacより高い状態のままが維持される。なお、このモータ駆動前時には、電源回生コンバータ1及びモータ駆動装置3に通電している状態であるため、交流電流Iacが交流電源200から電源回生コンバータ1への方向で流通している状態となる。
【0041】
しかし、高調波が印加されている場合の(2−C:モータ駆動時)、(2−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))、及び(2−E:コンバータ側電源回生処理時)は、それぞれ上記(1−C)、(1−D)、及び(1−E)とほぼ同等に各所の電圧、電流が変化する。図6は、高調波が印加されている場合の全波整流電圧Vac、直流電圧Vdcの変動、及び交流電流Iacの流通状態を示したタイムチャートである。なおこの図6においては、起動時の図示を省略しており、また図示の明確化を優先するために、モータ駆動中において直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacと比較して大きく低下するよう示しているが、実際の低下幅はもっと小さい。
【0042】
この図6において、(2−B:モータ駆動前時)では高調波成分の電圧振幅値分だけ直流電圧Vdcが交流電圧検出部13で検出される全波整流電圧Vacより高くなるため全波整流電圧Vac<直流電圧Vdcの関係のまま維持される。また、(2−C:モータ駆動時)では平滑コンデンサ2の充電電力がモータ駆動に消費されるため全波整流電圧Vac>直流電圧Vdcとなる。そして、(2−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))では3相交流モータ300からの回生電力が平滑コンデンサ2に溜まって(逆充電)直流電圧Vdcが昇圧し始める。そして、直流電圧Vdcが昇圧し続ける途中で全波整流電圧Vacを超えて、全波整流電圧Vac<直流電圧Vdcの関係となる。
【0043】
その後、適宜の開始判定によりコンバータ側電源回生処理を開始した(2−E:コンバータ側電源回生処理時)では、直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacの近傍まで降圧し、その後に全波整流電圧Vac≒直流電圧Vdcの関係を維持し続ける。そして、このコンバータ側電源回生処理が終了した後には、再び高調波成分の電圧振幅値分だけ平滑コンデンサ2の充電電圧が昇圧し、その分だけ全波整流電圧Vac<直流電圧Vdcとなって上記(2−B:モータ駆動前時)の状態に戻る。なお図6中において、交流電流Iacは、上記(2−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))の状態における全波整流電圧Vac<直流電圧Vdcの状態では不通状態となる以外、その他の状態では流通状態となる。但し、上記上記(2−A)(2−B)(2−C)と、上記(2−E)との流通方向は逆方向となる。
【0044】
コンバータ側電源回生処理の開始タイミングの判定は、上記コンバータ回生制御部14で行われる開始判定処理で判定する。この判定については、高調波が印加していない場合と同様に、単純に直流電圧Vdc−全波整流電圧Vacの差が所定値以上となったことを開始条件にした場合、上記(2−D)のインバータ側回生動作ではない状態以外であっても誤ってコンバータ側電源回生処理を開始してしまう可能性がある。
【0045】
そこで、本実施形態では、外部由来によって交流電源200自体に高調波が印加していない場合、検出される直流電圧Vdcと全波整流電圧Vacとの差が所定値以上となったことを単純にコンバータ側電源回生処理の開始タイミングの判定条件とするのではなく、新たな判定条件を設定してコンバータ側電源回生処理を開始する。
【0046】
具体的には、平滑コンデンサの充電電圧と同電位に変動する直流電圧Vdcそのものではなく、交流電流Iacの流通状態に基づいて更新される電圧値変数としての参照電圧Vreを新たに設ける。この参照電圧Vreを比較基準電圧とし、この比較基準電圧と直流電圧Vdcとの差が所定値以上となった場合にコンバータ側電源回生処理の開始タイミングであると判定する。なお、従前の判定条件では、全波整流電圧Vacが比較基準電圧に相当する。
【0047】
基本的にこの参照電圧Vreは、平滑コンデンサの充電電圧と同電位に変動する直流電圧Vdcを逐次代入して更新する変数である。なお、本実施形態の例では、ノイズ対策として、参照電圧Vreの更新を直流電圧Vdcの移動平均値の代入により行うものとする。しかし、コンバータ側電源回生処理前のインバータ側回生動作中において昇圧する直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacに到達してからは参照電圧Vreの更新を停止し、前回値を保持し続けるものとする。
【0048】
ここで、インバータ側回生動作中において昇圧する直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacに到達してからは、交流電流Iacが不通状態となる。これを利用して、交流電流Iacの不通状態の開始を検知すれば、直流電圧Vdcがインバータ側回生動作の逆充電で昇圧したことにより全波整流電圧Vacに到達したことを検知できる。
【0049】
なお、直流電圧Vdcと参照電圧Vreが略等しい場合には、参照電圧Vreを更新しない判断も適用する。
【0050】
また、より確実な開始判定ができるように、直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacよりも低い間は、直流電圧Vdcと参照電圧Vreが略等しい場合でも参照電圧Vreを更新する判断も適用する。
【0051】
以上をまとめると、
・参照電圧Vreは基本的に直流電圧Vdcの移動平均値を逐次代入して更新する。
・交流電流Iacが不通状態の場合は参照電圧Vreの更新を停止して前回値を保持する。
・参照電圧Vre≒直流電圧Vdcである場合には、更新を停止して前回値を保持する。
・全波整流電圧Vac>直流電圧Vdcである場合には、参照電圧Vre≒直流電圧Vdcであっても更新する。
【0052】
このように設定された参照電圧Vreの変動を、上記図6に対応する図7と図8に示す。なお、図7は高調波の印加が無い場合であり、図8は高調波の印加がある場合をそれぞれ示している。このように設定された参照電圧Vreは、基本的に直流電圧Vdcの変動に追従するよう更新して略等しい電圧値となるが、インバータ側回生動作中で昇圧する直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacに到達してからは更新を停止して前回値を維持し続ける。これは、上述したように、モータの減速制御時でインバータ側回生動作中に昇圧する直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacを超えている間は、交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず交流電流Iacが不通状態となり、その不通状態の間には参照電圧Vreを更新しないためである。本実施形態の例では、このような条件で更新される参照電圧Vreをそのまま比較基準電圧に代入し、この比較基準電圧と直流電圧Vdcとの比較によりコンバータ側電源回生処理の開始タイミングを判定する。
【0053】
これにより、上記(1−D)及び(2−D)の運転シーケンスの間は、昇圧し続ける直流電圧Vdcと、一定の全波整流電圧Vacと同等の参照電圧Vre(=比較基準電圧)との比較を行うため、Vdc−Vre≧所定値の開始条件を満たした際に開始判定処理はコンバータ側電源回生処理の開始タイミングを適切に判定できる。それ以外の運転シーケンスでは、直流電圧Vdcと当該直流電圧Vdcに追従更新する参照電圧Vre(=比較基準電圧)との比較を行うため、Vdc−Vre≧所定値の開始条件を満たすことがなく開始判定処理が誤ってコンバータ側電源回生処理を開始することがなくなる。
【0054】
次に、図9のフローチャートを用いて、コンバータ回生制御部14が備えるCPU(図示省略)が実行するコンバータ側電源回生処理の開始判定処理について説明する。このフローは、電源回生コンバータ1の電源投入時から開始される。
【0055】
まずステップS5で、上記交流電圧検出部13を介した全波整流電圧Vacと、直流母線からの直流電圧Vdcとをそれぞれ検出する。
【0056】
そして、ステップS10へ移り、交流電流検出部12を介して交流電流Iacを検出する。なお、この手順が各請求項記載の交流電流検出工程に相当する。
【0057】
そして、ステップS15へ移り、上記ステップS10で検出して交流電流Iacが流通状態であったか否かを判定する。交流電流Iacが流通状態であると認められる程度に交流電流Iacが検出されなかった場合、判定は満たされず、ステップS20へ移る。この場合、インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前)で昇圧中の直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacを超えているか、もしくはその他に参照電圧Vreを更新する必要のない状態、例えば(1−B:モータ駆動前時)又は(2−B)などで直流電圧Vdcが一定維持している状態であると見なせる。
【0058】
ステップS20では、参照電圧Vreを更新せず、前回値を保持したまま後述のステップS45へ移る。
【0059】
一方、上記ステップS15の判定において、交流電流Iacが流通状態であると認められる程度に交流電流Iacが検出された場合、判定が満たされ、ステップS25へ移る。
【0060】
ステップS25では、上記ステップS5で検出した全波整流電圧Vacと直流電圧Vdcを比較して、直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacより低いか否かを判定する。直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacより低い場合には、判定が満たされ、ステップS35へ移る。
【0061】
一方、直流電圧Vdcが全波整流電圧Vac以上である場合には、判定は満たされず、ステップS30へ移る。
【0062】
ステップS30では、上記ステップS5で検出した直流電圧Vdcと参照電圧Vreを比較して、直流電圧Vdcと参照電圧Vreが略等しいか否かを判定する。直流電圧Vdcと参照電圧Vreとが所定の誤差内で略等しい場合には、判定が満たされ、上記ステップS20へ移る。この場合には、直流電圧Vdcに変動がなく、参照電圧Vreを追従更新させる必要がないと見なせる。
【0063】
一方、直流電圧Vdcと参照電圧Vreとが所定の誤差以上に相違していた場合には、判定は満たされず、ステップS35へ移る。この場合には、直流電圧Vdcが変動中であって参照電圧Vreもそれに追従更新させる必要があると見なせる。
【0064】
ステップS35では、過去直近の所定回数で検出した直流電圧Vdcの移動平均を算出する。これにより、直流電圧Vdcの変動に含まれるノイズを平坦化できる。
【0065】
そして、ステップS40へ移り、参照電圧Vreに上記ステップS35で算出した直流電圧Vdcの移動平均を代入して更新する。これにより、直流電圧Vdcの変動に追従させるよう参照電圧Vreを更新できる。
【0066】
そして、ステップS45へ移り、上記ステップS5で検出した直流電圧Vdcから、上記ステップS40で求めた参照電圧Vre(=比較基準電圧)を差し引いた偏差が所定値以上であるか否かを判定する。偏差が所定値以上である場合、判定が満たされ、ステップS100へ移る。
【0067】
ステップS100では、回生コンバータ部11が備える各アームスイッチング素子51に対してそれぞれ適宜のゲート信号を出力し、120°通電方式によるコンバータ側電源回生処理を実行する。そして、ステップS5に戻り、同様の手順を繰り返す。なお、このステップS100の手順が、各請求項記載のコンバータ回生制御工程に相当する。
【0068】
また一方、上記ステップS50の判定において、偏差が所定値より小さい場合、判定は満たされず、ステップS5に戻り同様の手順を繰り返す。
【0069】
なお、上記ステップS15、ステップS25、及びこのステップS30の判定においては、それぞれ上記ステップS5及びステップS10の検出も含めて3回連続して判定を行い、それぞれ3回とも更新条件を満たした場合にだけステップS35以降の参照電圧Vreの更新を行うようにしてもよい。
【0070】
以上説明したように、本実施形態のモータ駆動システム100によれば、(1−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))及び(2−D)の運転シーケンスで交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず交流電流Iacの流通状態が不通になることを利用して、コンバータ側電源回生処理の開始判定処理を行う。すなわち、コンバータ回生制御部14は、上記交流電流検出部12が検出した交流電流流通状態に基づく開始判定処理で判定した開始タイミングでコンバータ側電源回生処理を行う。
【0071】
これにより、本実施形態のモータ駆動システム100は、交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず、実質的に電源回生コンバータ1のコンバータ側電源回生処理を必要とするモータ駆動装置3のインバータ側回生動作中の期間において、開始判定処理がコンバータ側電源回生処理の開始タイミングを適切に判定できる。この結果、交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず適切な開始タイミングで電源回生処理を行える。
【0072】
また、この実施形態では特に、コンバータ回生制御部14が行う開始判定処理が、全波整流電圧Vacの値ではなく、交流電流流通状態の変化と直流電圧Vdcの変動に基づいて更新されるよう新たに設定した電圧値変数としての参照電圧Vreの値を比較基準電圧とし、これを直流電圧Vdcと比較する。そして、直流電圧Vdcが比較基準電圧より所定値以上に大きくなった際にコンバータ側電源回生処理の開始タイミングであると判定する。これにより、(1−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))及び(2−D)の運転シーケンスでインバータ側回生動作中に昇圧する直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacを超えた際に、交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず交流電流Iacの流通状態が不通になることを利用したコンバータ側電源回生処理の開始判定処理が可能となる。
【0073】
また、この実施形態では特に、基本的に参照電圧Vreが直流電圧Vdcの変動に追従して同じ電圧値となるよう更新される。しかし、交流電流Iacの不通状態が検出されてからしばらくの間、つまり(1−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))及び(2−D)の運転シーケンスでインバータ側回生動作中に昇圧中の直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacに到達してからしばらくの間は、参照電圧Vreは全波整流電圧Vacと略等しいまま維持される。これは、(1−D)及び(2−D)の運転シーケンスでインバータ側回生動作中に直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacを超えてからは、交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず交流電流Iacが不通状態となり、その不通状態が検出されている間は参照電圧Vreを更新しないためである。これにより、インバータ側回生動作中に昇圧する直流電圧Vdcは全波整流電圧Vacに到達してからしばらくの間は、比較基準電圧は全波整流電圧Vacと略等しいまま維持される。
【0074】
また、このインバータ側回生動作中には、直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacに到達した後にもそれを超えて時間の経過につれて上昇する。したがって、開始判定処理は、このときの上昇する直流電圧Vdcと、全波整流電圧Vacに略等しいままに維持される比較基準電圧とを比較し、直流電圧Vdcが比較基準電圧より所定値以上に大きくなった際に回生コンバータ部11のコンバータ側電源回生処理を開始するタイミングであると判定する。このようにして、(1−D)及び(2−D)の運転シーケンスでインバータ側回生動作中に昇圧する直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacを超えた際に、交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず交流電流Iacの流通状態が不通になることを利用した開始判定処理が可能となる。
【0075】
また一方、モータ駆動装置3の駆動制御による3相交流モータ300の運転がない(1−B:モータ駆動前時)及び(2−B)の運転シーケンスにおいては、上述したように参照電圧Vreが直流電圧Vdcの変動に追従して同じ電圧値に維持され、つまり比較基準電圧と直流電圧Vdcとが等しくなる。これにより、開始判定処理が直流電圧Vdcと比較基準電圧とを比較し続けた場合でも、モータ駆動前時には交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらず回生コンバータ部11のコンバータ側電源回生処理の開始タイミングを誤判定することがなくなる。この結果、開始判定処理が常時同じ比較判定を行っても、交流電源200に印加される高調波の有無にかかわらずコンバータ側電源回生処理の開始タイミングを適切に判定できる。
【0076】
また、この実施形態では特に、参照電圧Vreの更新を直流電圧Vdcの移動平均値の代入により行うことで、交流電源200に印加される高調波によるノイズの影響が参照電圧Vreの更新に及ぶことを抑えることができる。
【0077】
また、この実施形態では特に、(1−B:モータ駆動前時)及び(2−B)の運転シーケンスなどで、直流電圧Vdcに変動がなく、参照電圧Verと直流電圧Vdcとが略等しい場合には参照電圧Vreを更新しない。これにより、上記と同様、交流電源200に印加される高調波によるノイズの影響が参照電圧Vreの更新に及ぶことを抑えることができる。
【0078】
また、この実施形態では特に、(1−C:モータ駆動時)及び(2−C)の運転シーケンスなどで直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacより低くなった場合には、参照電圧Vreと直流電圧Vdcとが略等しい場合でも参照電圧Vreを更新する。これにより、例えば3相交流モータ300の低負荷運転で直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacよりわずかにしか低くならなかった場合などでも、(1−D:インバータ側回生動作中(コンバータ側電源回生処理前))及び(2−D)の運転シーケンスでインバータ部31がインバータ側回生動作を開始した後、昇圧する直流電圧Vdcが全波整流電圧Vacに到達した際に確実に比較基準電圧を全波整流電圧Vacと略等しくさせることができる。これは特に、上述した直流電圧Vdcの移動平均値を参照電圧Vreに代入して更新する場合には、その移動平均値の算出による遅れ要素を補うことで、急なインバータ側回生動作に伴う過電圧の発生を回避できるため効果が大きい。
【0079】
なお、上記実施形態では、参照電圧Vreの値をそのまま比較基準電圧に代入していたが、これに限られない。他にも、上記のように更新される参照電圧Vreと全波整流電圧Vacのいずれか大きい方の一方を比較基準電圧に代入し、これと直流電圧Vdcとの比較によりコンバータ側電源回生処理の開始タイミングを判定してもよい。このように設定した比較基準電圧もまた、基本的には直流電圧Vdcの変動に追従するよう更新して略等しい電圧値となるが、モータ駆動中とモータ減速制御中においては全波整流電圧Vacの電圧値を維持し続ける(特に図示せず)。この場合、(1−C:モータ駆動時)及び(2−C)の運転シーケンスでは、比較基準電圧が全波整流電圧Vacとなるが、この間は全波整流電圧Vac>直流電圧Vdcの関係となるため、開始条件(Vdc−Vx≧所定値)を満たすことがなく、開始タイミングの判定を誤ることはない。
【0080】
このように比較基準電圧を設定する場合には、上記図9のフローにおいて、ステップS45の直前に参照電圧Vreと全波整流電圧Vacのいずれか大きい方を比較基準電圧Vxに代入する手順を新たに設け、ステップS45の判定で「Vdc−Vx≧所定値」の判定を行えばよい。このように比較基準電圧を設定した場合には、特に(1−A:起動時)及び(2−A)の初期充電時に開始判定処理の誤判定を回避するために有用である。
【0081】
なお、以上の本実施形態による効果は、コンバータ回生制御部14が実行する開始判定処理において開始条件の変更を行うだけで実現できるため、他の処理への影響はない。このような外部由来の高調波の印加に対する耐性は、EMC指令におけるEMS評価への対策として非常に有効である。
【0082】
なお、上記実施形態においては、回転型の3相交流モータ300を駆動対象としていたが、これに限られず、直動型のモータも駆動対象に適用できる。
【0083】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0084】
その他、一々例示はしないが、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0085】
1 電源回生コンバータ
2 平滑コンデンサ
3 モータ駆動装置
11 回生コンバータ部
11a 整流ブリッジ回路
11b 回生スイッチング回路
12 交流電流検出部
13 交流電圧検出部
14 コンバータ回生制御部
31 インバータ部
31a 回生ブリッジ回路
31b 駆動スイッチング回路
32 インバータ制御部
51,61 アームスイッチング素子(半導体スイッチング素子)
52,62 ダイオード
100 モータ駆動システム
200 外部交流電源
300 3相交流モータ
Iac 交流電流
Vac 交流電圧
Vdc 直流電流
Vre 参照電圧、比較基準電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される交流電源の各相の交流電流流通状態を検出する交流電流検出部と、
前記交流電源を全波整流して直流電圧を出力する整流ブリッジ回路と、2つの半導体スイッチング素子を直列に接続した組を、前記整流ブリッジ回路の各相に対応して並列に接続した回生スイッチング部と、を有する回生コンバータ部と、
前記直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、
前記交流電流検出部が検出した前記交流電流流通状態に基づく開始判定処理で判定した開始タイミングで、前記回生コンバータ部の前記半導体スイッチング素子をそれぞれスイッチングして、前記直流電圧側で発生した回生電力を前記交流電源へ戻すように電源回生処理を行うコンバータ回生制御部と、
を備えることを特徴とする電源回生コンバータ。
【請求項2】
前記交流電源からの交流入力電圧を全波整流して全波整流電圧を検出する交流電圧検出部をさらに備え、
前記コンバータ回生制御部が行う前記開始判定処理は、
前記交流電流流通状態と前記直流電圧とに基づいて更新される参照電圧を比較基準電圧とし、
前記直流電圧が、前記比較基準電圧より所定値以上に大きくなった際に前記電源回生処理の開始タイミングであると判定することを特徴とする請求項1記載の電源回生コンバータ。
【請求項3】
前記交流電源からの交流入力電圧を全波整流して全波整流電圧を検出する交流電圧検出部をさらに備え、
前記コンバータ回生制御部が行う前記開始判定処理は、
前記交流電流流通状態と前記直流電圧とに基づいて更新される参照電圧と、前記交流電圧検出部が検出した前記全波整流電圧とのいずれか大きい方を比較基準電圧とし、
前記直流電圧が、前記比較基準電圧より所定値以上に大きくなった際に前記電源回生処理の開始タイミングであると判定することを特徴とする請求項1記載の電源回生コンバータ。
【請求項4】
前記コンバータ回生制御部が行う前記開始判定処理は、前記参照電圧に前記直流電圧を逐次代入して更新し、前記交流電流流通状態が不通状態の間は前記参照電圧を更新しないことを特徴とする請求項2又は3記載の電源回生コンバータ。
【請求項5】
前記コンバータ回生制御部が行う前記開始判定処理は、前記参照電圧に前記直流電圧の移動平均を代入して更新することを特徴とする請求項4記載の電源回生コンバータ。
【請求項6】
前記コンバータ回生制御部が行う前記開始判定処理は、前記参照電圧と前記直流電圧とが略等しい場合には前記参照電圧を更新しないことを特徴とする請求項4又は5記載の電源回生コンバータ。
【請求項7】
前記コンバータ回生制御部が行う前記開始判定処理は、前記直流電圧が前記全波整流電圧より低い場合は更新することを特徴とする請求項6記載の電源回生コンバータ。
【請求項8】
入力される交流電源の各相の交流電流流通状態を検出する交流電流検出部と、
前記交流電源を全波整流して直流電圧を出力する整流ブリッジ回路と、2つの半導体スイッチング素子を直列に接続した組を、前記整流ブリッジ回路の各相に対応して並列に接続した回生スイッチング部と、を有する回生コンバータ部と、
前記直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、
前記交流電流検出部が検出した前記交流電流流通状態に基づく開始判定処理で判定した開始タイミングで、前記回生コンバータ部の前記半導体スイッチング素子をそれぞれスイッチングして、前記直流電圧側で発生した回生電力を前記交流電源へ戻すように電源回生処理を行うコンバータ回生制御部と、
前記平滑コンデンサに接続されるインバータ部と、
上位制御装置からのモータ制御指令に基づいて前記インバータ部に接続されたモータに所望の電力を供給するよう当該インバータ部をPWM制御するインバータ制御部と、
を備えることを特徴とするモータ駆動システム。
【請求項9】
入力される交流電源を全波整流して直流電圧を出力する整流ブリッジ回路と、2つの半導体スイッチング素子を直列に接続した組を、前記整流ブリッジ回路の各相に対応して並列に接続した回生スイッチング部と、を有する回生コンバータ部に対して実行する電源回生処理方法であって、
前記交流電源の各相の交流電流流通状態を検出する交流電流検出工程と、
前記交流電流検出工程で検出した前記交流電流流通状態に基づく開始判定処理で判定した開始タイミングで、前記回生コンバータ部の前記半導体スイッチング素子をそれぞれスイッチングして、前記直流電圧側で発生した回生電力を前記交流電源へ戻すように電源回生処理を行うコンバータ回生制御工程と、
を実行することを特徴とする電源回生処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−66257(P2013−66257A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201848(P2011−201848)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】