説明

電源装置

【課題】電圧変換比の制御範囲を確保するとともに、リップル電流を広い動作範囲にわたって低減することが可能な電源装置を提供する。
【解決手段】電源装置100は、並列接続された、通常コンバータ110および多相コンバータ120を含む。多相コンバータ120は、所定位相(180度)ずつずれたタイミングで動作する、並列接続された複数のチョッパ回路121−1,121−2を有する。チョッパ回路121−1,121−2のそれぞれのリアクトルL1,L2は磁気結合される。制御回路120は、予め求められた、通常コンバータ110および多相コンバータ120のそれぞれにおけるデューティ比に対するリップル電流の特性に従って、高圧側電圧VHの電圧指令値VHrおよび低圧側電圧VLの比に基づいて、電流リップルが相対的に小さい一方のコンバータを選択的に動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源装置に関し、より特定的には、直流電圧変換機能を有する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、直流電圧変換を行なうための電源装置の構成が種々提案されている。たとえば、モータ駆動装置において、低圧電源の出力を昇圧コンバータによって昇圧した直流電圧を、インバータによって交流電圧に変換してモータ駆動に用いる構成が、たとえば特開2004−112904号公報(特許文献1)に記載されている。特に、特許文献1には、リアクトルならびに、上下アームの電力用半導体スイッチング素子およびそれぞれの逆並列ダイオードを含む昇圧チョッパの構成および、当該昇圧チョッパにおいて、デッドタイムの影響を低減するために、リアクトルの電流範囲に応じてスイッチング周波数を低下させることが記載されている。
【0003】
また、昇圧コンバータの他の回路構成として、複数の並列接続されたコンバータを互いに位相をずらして動作する多相コンバータを、磁気結合型リアクトルを用いて構成することが、特開2006−262601号公報(特許文献2)および特開2003−304681号公報(特許文献3)に記載されている。特許文献2,3に記載された昇圧コンバータによれば、平滑コンデンサのリップル電流を低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−112904号公報
【特許文献2】特開2006−262601号公報
【特許文献3】特開2003−304681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昇圧チョッパでは、リアクトル電流をスイッチングするため、必然的に電流にリップル成分(以下、単に「リップル電流」とも称する)が生じる。リップル電流が大きくなると、コンバータに設けられた平滑コンデンサの発熱が大きくなったり、電力用半導体スイッチング素子の電流最大値が上昇したりするので、回路素子の寿命に悪影響を与える可能性がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された昇圧チョッパでは、昇圧比を大きくとったときにリップル電流が増大することが懸念されるが、かかる問題点については特に考慮されていない。
【0007】
また、特許文献2,3に記載された磁気結合型リアクトルを用いた多相コンバータでは、特許文献1に記載された通常の昇圧チョッパとはリップル電流の特性が異なってくるものと予想される。ただし、特許文献2,3には、リップル電流が低下できることは記載されるものの、コンバータの動作領域に応じてリップル電流がどのように変化するかについては記載されていない。
【0008】
上記の様に、昇圧コンバータのリップル電流特性は回路構成によって異なるため、負荷の動作範囲に対応させて電圧範囲を広く確保する必要がある用途では、広い電圧変換比(高圧側電圧/低圧側電圧)にわたって昇圧コンバータのリップル電流を抑制することが一般的に困難である。
【0009】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、広い動作範囲(電圧変換比の範囲)を確保するとともに、リップル電流を抑制することが可能な電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による電源装置は、第1のコンバータ(110)と、第2のコンバータと、制御回路とを備える。第1のコンバータは、負荷に接続された電源配線と直流電源との間で直流電力変換を行なうために、少なくとも1個のスイッチング素子を含んで構成される。第2のコンバータは、直流電源および電源配線の間に第1のコンバータと並列に接続されて、少なくとも1個のスイッチング素子を含んで構成される。制御回路は、第1および第2のコンバータを制御するように構成される。そして、第1および第2のコンバータの各々は、スイッチング素子のオンオフ制御におけるデューティ比によって、直流電源の出力電圧に対する電源配線の電圧の比である電圧変換比が変化するように構成され、かつ、第1および第2のコンバータの間では、デューティ比に対するリップル電流特性が異なる。制御回路は、特性記憶部と、コンバータ選択部とを含む。特性記憶部は、予め求められたリップル電流特性に関する情報を記憶するように構成される。コンバータ選択部は、電源配線の電圧指令値と直流電源の出力電圧とに基づいて必要な電圧変換比を算出するとともに、特性記憶部に記憶された情報に従って、第1および第2のコンバータから、算出された電圧変換比においてリップル電流がより小さい一方のコンバータを選択的に動作させるように構成される。
【0011】
好ましくは、第1のコンバータは、第1のチョッパ回路を含む。第1のチョッパ回路は、制御回路によってオンオフ制御される少なくとも1個の第1のスイッチング素子と、第1のスイッチング素子によりスイッチングされた電流が通過するように配置された第1のリアクトルとを有する。第2のコンバータは、並列接続された複数の第2のチョッパ回路を含む。複数の第2のチョッパ回路の各々は、制御回路によってオンオフ制御される少なくとも1個の第2のスイッチング素子と、第2のスイッチング素子によりスイッチングされた電流が通過するように配置された第2のリアクトルとを有する。そして、各第2のチョッパ回路の第2のリアクトルは、互いに磁気的に結合するように配置され、複数の第2のチョッパ回路間で互いに所定位相ずつタイミングがずれるように、各第2のチョッパ回路の第2のスイッチング素子のオンオフは制御される。
【0012】
さらに好ましくは、複数の第2のチョッパ回路のそれぞれの第2のリアクトルは、共通のコアの異なる部位に巻回されたコイル巻線をそれぞれ含む。
【0013】
また好ましくは、制御回路は、第1のコンバータ制御部および第2のコンバータ制御部をさらに含む。第1のコンバータ制御部は、第1のコンバータが選択されたときに、第2のコンバータのスイッチング素子をオフに固定する一方で、電源配線の電圧を電圧指令値に制御するために第1のコンバータのスイッチング素子のデューティ比を制御するように構成される。第2のコンバータ制御部は、第2のコンバータが選択されたときに、第1のコンバータのスイッチング素子をオフに固定する一方で、電源配線の電圧を電圧指令値に制御するために第2のコンバータのスイッチング素子のデューティ比を制御するように構成される。
【0014】
あるいは好ましくは、電源装置は、直流電源および第1のコンバータの間に接続された第1の開閉器と、直流電源および第2のコンバータの間に接続された第2の開閉器とをさらに備える。そして、コンバータ選択部によって第1のコンバータが選択されると、第1の開閉器がオンする一方で、第2の開閉器はオフされ、コンバータ選択部によって第2のコンバータが選択されると、第2の開閉器がオンする一方で、第1の開閉器はオフされる。
【0015】
好ましくは、特性記憶部は、第1および第2のコンバータのそれぞれにおける、デューティ比に対する電流リップルの特性を記憶する。そして、コンバータ選択部は、算出した電圧変換比を実現するための第1および第2のンバータの各々におけるデューティ比を算出とともに、算出されたデューティ比における、第1および第2のコンバータの電流リップルの比較に基づいて、一方のコンバータを選択する。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、広い動作範囲(電圧変換比の範囲)を確保するとともに、リップル電流を広い動作範囲にわたって抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態による電源装置の構成を説明する回路図である。
【図2】磁気結合型リアクトルの構成例を示す回路図である。
【図3】デューティ比に対するリップル電流の特性を比較するグラフである。
【図4】本発明の実施の形態による電源装置の制御構成を説明する機能ブロック図である。
【図5】通常コンバータを選択したときのスイッチング制御を説明する波形図である。
【図6】多相コンバータを選択したときのスイッチング制御を説明する波形図である。
【図7】本発明の実施の形態による電源装置の制御処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、この発明の実施の形態で図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さないものとする。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態による電源装置の構成を説明する回路図である。
図1を参照して、本発明の実施の形態による電源装置100は、平滑コンデンサC0,C1と、リレーRL0,RL1と、通常の昇圧チョッパ型のコンバータ110(以下、「通常コンバータ」とも称する)と、磁気結合型リアクトルを含んで構成された多相コンバータ120とを備える。電源装置100は、負荷220と接続された電源配線PLおよび直流電源B1の間で、直流電力変換を行なう。
【0020】
直流電源B1は、直流電圧を出力する。直流電源B1は、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池から成る。
【0021】
平滑コンデンサC0は、直流電源B1の正極と電気的に接続されるノードNaと接地配線GLとの間に接続される。平滑コンデンサC0は、電源装置100の低圧側電圧VLに相当する直流電源B1の出力電圧を平滑する。
【0022】
平滑コンデンサC1は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に接続されて、電源装置100の高圧側電圧VHを平滑する。負荷200は、電源配線PLおよび接地配線GLと接続される。
【0023】
負荷200としては、たとえばインバータ回路を介して駆動される交流電動機が適用される。そして、エンジン出力および/または電動機出力によって走行するハイブリッド自動車や電動機出力のみによって走行する電気自動車等への適用が、本発明の実施の形態によるDC−DCコンバータの代表的な適用例として挙げられる。この場合には、たとえば直流電源B1の出力電圧(電圧VL)が200V程度とされる一方で、負荷200へ供給すべき電圧VHが200V〜650V程度とされる。
【0024】
通常コンバータ110および多相コンバータ120は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に互いに並列に接続されて、各々が、電源配線PLおよび直流電源B1の間で直流電力変換を行なうように構成される。
【0025】
リレーRL0は、ノードNaおよび通常コンバータ110の間に配置され、リレーRL1は、ノードNaおよび多相コンバータ120の間に配置される。各リレーRL0,RL1のオンオフは、制御回路210によって制御される。リレーRL0,RL1は、「開閉器」の代表例として示される。すなわち、電流経路の遮断および形成を制御回路120により制御可能な素子であれば、リレーRL0,RL1に代えて任意の素子を用いることが可能である。
【0026】
通常コンバータ110は、チョッパ回路により構成される。具体的には、通常コンバータ110は、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)Q01およびQ02と、ダイオードD01およびD02と、リアクトルL0とを含む。スイッチング素子Q01およびQ02は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に直列接続される。リアクトルL0は、スイッチング素子Q01およびQ02の接続ノードであるノードN0と、リレーRL0との間に電気的に接続される。ダイオードD01およびD02は、スイッチング素子Q11およびQ12に対してそれぞれ逆並列に接続される。
【0027】
スイッチング素子として、本実施の形態ではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を例示するが、制御電極(ゲートあるいはベース)の駆動制御によってターンオンおよびターンオフを制御可能なスイッチング素子であれば、電圧駆動型のスイッチング素子(MOS−FET、IGBT等)や電流駆動型のスイッチング素子(バイポーラトランジスタ等)、各種のスイッチング素子を任意に適用可能である。
【0028】
多相コンバータ120は、並列接続された複数のチョッパ回路121−1,121−2を有する。チョッパ回路121−1,121−2は、通常コンバータ110を構成するチョッパ回路と同様の構成を有するが、リアクトルL1およびL2は、互いに磁気的に結合するように配置される点が、通常コンバータ110と異なる。すなわち、多相コンバータ120は、磁気結合型リアクトルを含む多相コンバータである。
【0029】
具体的には、チョッパ回路121−1は、スイッチング素子Q11およびQ12と、ダイオードD11およびD12と、リアクトルL1とを含む。スイッチング素子Q11およびQ12は、電源配線PLおよび接地配線GLの間に直列接続される。リアクトルL1は、スイッチング素子Q11およびQ12の接続ノードであるノードN1と、直流電源B1との間に電気的に接続される。ダイオードD11およびD12は、スイッチング素子Q11およびQ12に対してそれぞれ逆並列に接続される。
【0030】
同様に、チョッパ回路121−2は、チョッパ回路121−1と同様に構成され、スイッチング素子Q21およびQ22と、ダイオードD21およびD22と、リアクトルL2とを含む。リアクトルL2は、スイッチング素子Q21およびQ22の接続ノードであるノードN2と、直流電源B1の間に電気的に接続される。
【0031】
図1の構成において、通常コンバータ110は、「第1のコンバータ」および「第1のチョッパ回路」に対応し、多相コンバータ120は、「第2のコンバータ」に対応する。
そして、チョッパ回路121−1,121−2は、「複数の第2のチョッパ回路」に対応する。また、リアクトルL0は「第1のリアクトル」に対応し、リアクトルL1,L2は「第2のリアクトル」に対応する。さらに、リレーRL0は「第1の開閉器」に対応し、リレーRL1は「第2の開閉器」に対応する。
【0032】
上述のように、リアクトルL1およびL2は、磁気結合型リアクトルを構成するように設けられる。図2には、磁気結合型リアクトルの構成例が示される。
【0033】
図2を参照して、磁気結合型リアクトルは、コア250と、コア250に巻回されたコイル巻線241,242とを含む。コア250は、外脚部251a,251bと、ギャップ253を挟んで対向するように配置された中央脚部252とを含む。
【0034】
リアクトルL1を構成するコイル巻線241は、外脚部251aに巻回される。リアクトルL2を構成するコイル巻線242は、外脚部251bに巻回される。ここで、外脚部251aおよび251bの断面積をS1とし長さをLN1とすると、外脚部251a,251bの磁気抵抗R1は下記(1)式で示される。同様に、中央脚部252の断面積をS2、長さをLN2とし、ギャップ長をdとすると、中央脚部252の磁気抵抗R2は下記(2)式によって示される。なお、(1),(2)式において、μはコア250の透磁率を示し、μ0はギャップにおける空気中の透磁率を示す。
【0035】
R1≒(1/μ)・(LN1/S1) …(1)
R2≒(1/μ)・2・(LN2/S2)+1/μ0・(d/S2) …(2)
本実施の形態では、磁気結合型リアクトルの定数S1,LN1,S2,LN2,dは、(1),(2)式によるR2>>R1となるように設定される。
【0036】
このように設定することにより、コイル巻線241の通過電流によって生じた磁束の殆どがコイル巻線242と鎖交するとともに、コイル巻線242の通過電流によって生じた磁束の殆どがコイル巻線241と鎖交するようになる。この結果、図1において、リアクトルL1およびL2でそれぞれ生じた起電力の反対方向の逆起電力が、リアクトルL2およびL1にそれぞれ発生するようになる。
【0037】
なお、コア250の形状については、図2の例に限定されるものではなく、図1に記載した等価回路を構成可能である限り、任意とすることができる。たとえば、特開2003−304681号公報(特許文献3)の図5,6等に示される形状を用いてもよい。
【0038】
電圧センサ20は、直流電源B1の出力電圧に相当する、多相コンバータ120の低圧側の直流電圧VLを検出する。電圧センサ22は、電源配線PLの電圧、すなわち、多相コンバータ120の高圧側の直流電圧VHを検出する。電圧センサ20,22による検出値VL,VHは、制御回路210へ入力される。
【0039】
制御回路210は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成され、当該メモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、所定の演算処理を実行するように構成される。あるいは、ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0040】
制御回路210は、上述した各センサによる検出値に基づいて、電源配線PLの直流電圧VHを電圧指令値VHrと一致させるように、通常コンバータ110のスイッチング素子Q01,Q02のオンオフを制御する信号PWM0と、多相コンバータ120のスイッチング素子Q11,Q12,Q21,Q22のオンオフを制御するための信号PWM1,PWM2とを生成する。
【0041】
通常コンバータ110、チョッパ回路121−1および121−2の各々は、下アームのスイッチング素子Q02,Q12,Q22をオンオフさせることにより、スイッチングされた電流をリアクトルL0,L1,L2に通過させることによって、上アームのダイオードD01,D11,D21による電流経路を用いて、低圧側の直流電圧VLを昇圧した直流電圧VHを電源配線PLに発生することができる。
【0042】
反対に、通常コンバータ110、チョッパ回路121−1および121−2の各々は、上アームのスイッチング素子Q01,Q11,Q21をオンオフさせることにより、スイッチングされた電流をリアクトルL0,L1,L2に通過させることによって、下アームのダイオードD02,D12,D22による電流経路によって、高圧側の直流電圧VHを降圧した直流電圧VLにより直流電源B1を充電することができる(回生時)。
【0043】
通常コンバータ110、チョッパ回路121−1および121−2の各々では、力行時には上アームのスイッチング素子Q01,Q11,Q21はオフ固定することも可能であり、回生時には下アームのスイッチング素子Q02,Q12,Q22をオフ固定することも可能である。ただし、電流方向によって制御を切替えることなく回生および力行に連続的に対応するために、各スイッチング周期内で、上アームのスイッチング素子Q11,Q21および下アームのスイッチング素子Q02,Q12,Q22を相補的にオンオフさせてもよい。
【0044】
以下、本実施の形態では、スイッチング周期に対する下アームのスイッチング素子のオン期間の比率をデューティ比DTと定義することとする。
【0045】
このデューティ比DTと、通常コンバータ110、チョッパ回路121−1および121−2の各々での電圧変換との関係は、下記(3)式によって示される。(3)式を変形することにより、高圧側の電圧VHは、(4)式によって示される。
【0046】
DT=1.0−(VL/VH) ・・・(3)
VH=VL/(1.0−VL) ・・・(4)
(3),(4)式より、下アームのスイッチング素子Q02,Q12,Q22がオフに固定(DT=0.0)されるとVH=VLとなり、デューティ比DTを上昇させるのに従って電圧VHが上昇することが理解される。すなわち、制御回路210は、通常コンバータ110、チョッパ回路121−1および121−2の各々について、デューティ比DTの制御により、電源配線PLの電圧VHを制御することができる。
【0047】
多相コンバータ120を構成する2個のチョッパ回路121−1,121−2は、180(360/2)度、すなわちスイッチング周期に対して半周期分、位相をずらして動作する。したがって、信号PWM1およびPWM2の位相は、180度ずれている。
【0048】
さらに、多相コンバータ120では、磁気結合型リアクトルL1,L2によって、チョッパ回路121−1,121−2間で、リアクトル電流I1,I2のリップル成分の影響が互いに打ち消し合うように作用する。したがって、通常コンバータ110と多相コンバータ120との間では、図3に示す様に、デューティ比に対するリップル電流の特性が異なってくる。
【0049】
図3を参照して、特性線260は、通常コンバータ110における、デューティ比に対するリップル電流の特性をプロットしたものに相当する。通常の昇圧チョッパであるコンバータ110では、下アームのスイッチング素子Q02のオン期間が長くなるほど、リアクトルL0への蓄積エネルギおよび、下アームのスイッチング素子オフ時の電流変化が大きなものとなるので、デューティ比の上昇に応じてリップル電流が単調に増大する。
【0050】
これに対して、磁気結合型リアクトルを備えた多相コンバータ120では、リアクトルL1,L2間で逆方向に起電力が作用し合うので、180度位相がずれたチョッパ回路121−1,121−2間で、下アームのスイッチング素子Q12およびQ22が相補にオンオフする状況で、リップル電流の抑制効果が最大となる。すなわち、多相コンバータ120のデューティ比に対するリップル電流の特性を示す特性線270では、特定のデューティ比(図1の多相コンバータ120ではDT=0.5)に、リップル電流の極小点が存在する。また、DT=0に近い領域では、電流のスイッチングが殆ど行われないため、リップル電流も当然小さくなる。
【0051】
この結果、特定のデューティ比範囲(図3のD1<DT<D2)では、多相コンバータ120の方が通常コンバータ110よりもリップル電流が小さくなる。
【0052】
この反面、多相コンバータ120は、上記以外のデューティ比範囲では、リアクトル間の相互作用によって却ってリップル電流が大きくなってしまうため、広い電圧範囲で使用したときに問題が生じる。
【0053】
この様に、通常コンバータ110および多相コンバータ120の間では、デューティ比に対するリップル電流特性が異なるため、各デューティ比に対して、通常コンバータ110でのリップル電流I1と、多相コンバータ120でのリップル電流I2とが異なる。そして、通常コンバータ110を用いた方がリップル電流が小さくなる(I2>I1)デューティ比領域と、多相コンバータ120を用いた方がリップル電流が小さくなる(I1>I2)デューティ比領域とが存在することが理解される。
【0054】
図4は、本発明の実施の形態による電源装置の制御構成を説明する機能ブロック図である。図4に示した各ブロックによる機能は、制御回路210によるソフトウェア処理によって実現してもよく、当該機能を実現する電子回路(ハードウェア)を制御回路210に構成することによって実現してもよい。
【0055】
図4を参照して、制御回路210は、コンバータ選択部300と、リップル特性記憶部310と、通常コンバータ制御部320と、多相コンバータ制御部330とを含む。
【0056】
リップル特性記憶部310には、図3に示したデューティ比に対するリップル電流特性を示す情報が記憶される。具体的には、解析や動作実験等によって予め求められた特性線260,270(図3)に従って、各デューティ比に対応して、通常コンバータ110のリップル電流I1および多相コンバータ120のリップル電流I2がマップ化されて記憶されている。
【0057】
コンバータ選択部300は、電源装置100の電圧指令値VHrと低圧側の電圧VLとに基づいて、必要な電圧変換比(VHr/VL)を算出するとともに、この電圧変換比の逆数を上記(3)式に代入することによって、対応のデューティ比を算出する。
【0058】
そして、コンバータ選択部300は、このように算出したデューティ比におけるリップル電流I1,I2を、リップル特性記憶部310から読出す。さらに、コンバータ選択部300は、想定されるデューティ比において、よりリップル電流が低い一方のコンバータを選択する。すなわち、I1>I2のときには多相コンバータ120が選択される一方で、I2>I1のときには、通常コンバータ110が選択される。
【0059】
コンバータ選択部300が通常コンバータ110を選択したときには、通常コンバータ制御部320が、図5に示すように、信号PWM0,PWM1,PWM2を生成する。
【0060】
図5を参照して、通常コンバータ制御部320は、電圧指令値VHrと電圧センサによって検出された電圧VHおよび/またはVLに基づいて、通常コンバータ110のデューティ比を制御する。たとえば、電圧指令値VHrおよび電圧VLによって決定される理論上の電圧変換比に対応するデューティ比を、電圧指令値VHrに対する電圧VHの偏差によって修正することによって、通常コンバータ110のデューティ比が設定される。
【0061】
通常コンバータ制御部320は、このようにして設定したデューティ比に従って通常コンバータ110のスイッチング素子Q01およびQ02をオンオフ制御するように信号PWM0を生成する。一方、通常コンバータ制御部320は、多相コンバータ120のスイッチング素子Q11,Q12,Q21,Q22についてはオフ固定するように、信号PWM1,PWM2を生成する。
【0062】
さらに、通常コンバータ制御部320は、リレーRL0をオンする一方で、リレーRL1をオフする。これにより、通常コンバータ110の選択時には、直流電源B1および多相コンバータ120の間での電流入出力を遮断できる。
【0063】
これに対して、コンバータ選択部300が多相コンバータ120を選択したときには、多相コンバータ制御部330が、図6に示すように、信号PWM0,PWM1,PWM2を生成する。
【0064】
図6を参照して、多相コンバータ制御部330は、電圧指令値VHrと電圧センサによって検出された電圧VHおよび/またはVLに基づいて、多相コンバータ120のデューティ比を制御する。そして、制御されたデューティ比に従って、かつ、チョッパ回路121−1,121−2の間で位相が180度(スイッチング周期の半周期)ずれるように、信号PWM1,PWM2を生成する。一方、多相コンバータ制御部330は、通常コンバータ110のスイッチング素子Q01,Q02についてはオフ固定するように、信号PWM0を生成する。
【0065】
多相コンバータ120でのデューティ比については、電圧情報(電圧指令値VHrならびに、電圧VLおよび/またはVH)のみに基づいて、チョッパ回路121−1,121−2の間で共通に制御してもよい。たとえば、通常コンバータ110と同様の制御により、チョッパ回路121−1,121−2の各々のデューティ比を共通値に設定することができる。あるいは、リアクトル電流I1,I2を検出するための電流センサ(図示せず)を配置することによって、チョッパ回路121−1,121−2のそれぞれにおいて、独立にリアクトル電流制御を行なうように、多相コンバータ120のデューティ比を制御してもよい。この場合には、電圧指令値VHrおよび電圧VHの偏差に応じてリアクトル電流制御の指令値を調整することにより、電源配線PLの電圧VHを制御することが可能である。
【0066】
さらに、多相コンバータ制御部330は、リレーRL1をオンする一方で、リレーRL0をオフする。これにより、多相コンバータ120の選択時には、通常コンバータ110および直流電源B1の間の電流入出力を遮断できる。
【0067】
図4の構成において、通常コンバータ制御部320は「第1のコンバータ制御部」に対応し、多相コンバータ制御部330は「第2のコンバータ制御部」に対応する。
【0068】
図7は、図4に示した制御構成を実現するための、制御回路210による一連の制御処理を説明するフローチャートである。フローチャートの各ステップは、基本的には制御回路210によるソフトウェア処理によって実現されるが、ハードウェア処理によって実現されてもよい。図7に示す制御処理は、所定周期で起動される。
【0069】
図7を参照して、制御回路210は、ステップS100により、電圧指令値VHrおよび電圧センサ20によって検出された電圧VLを取得する。そして、制御回路210は、
ステップS110では、電圧変換比VHr/VLに対応するデューティ比を(3)式に従って算出する。
【0070】
さらに、制御回路210は、ステップS120では、換算したデューティ比に基づく、リップル電流特性を読出すことによって、当該デューティ比における通常コンバータ110でのリップル電流I1および多相コンバータ120でのリップル電流I2を求める。そして、制御回路210は、ステップS130では、I1>I2であるか否かを判定することによって、リップル電流I1およびI2を比較する。そして、I1>I2のとき(S130のYES判定時)には、制御回路210は、ステップS140に処理を進めて、制御回路210は、通常コンバータ110のスイッチングを停止する。これに合わせて、リレーRL0をオフするように制御してもよい。
【0071】
さらに、制御回路210は、ステップS150により、多相コンバータ120のデューティ制御により、電源配線PLの電圧VHを電圧指令値VHrに制御する。すなわち、ステップS140,S150による処理は、図4の多相コンバータ制御部330による信号PWM0,PWM1,PWM2の生成(図6)およびリレーRL0,RL1の制御と同様である。
【0072】
一方、I1<I2のとき(S130のNO判定時)には、制御回路210は、ステップS160に処理を進めて、多相コンバータ120のスイッチングを停止する。これに合わせて、リレーRL1をオフするように制御してもよい。
【0073】
さらに、制御回路210は、ステップS170により、通常コンバータ110のデューティ制御により、電圧VHを電圧指令値VHrへ制御する。すなわち、ステップS160,S170による処理は、図4の通常コンバータ制御部320による信号PWM0,PWM1,PWM2の生成(図6)およびリレーRL0,RL1の制御と同様である。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態による電源装置では、通常の昇圧チョッパ型のコンバータ110と磁気結合型リアクトルを含んで構成された多相コンバータ120とを並列接続し、それぞれのコンバータを相対的にリップル電流が小さい動作領域に限定して作動させることができる。この結果、広い動作範囲(電圧変換比の範囲)を確保するとともに、リップル電流を抑制することができる。この結果、平滑コンデンサやスイッチング素子の発熱を抑制して、電源装置100の効率上昇や回路素子の長寿命化を図ることができる。
【0075】
なお、各チョッパ回路110,121−1,121−2について、上アームおよび下アームの両方にスイッチング素子を設ける図1の構成例のみならず、下アームにスイッチング素子(Q02,Q12,Q22)を設けるとともに上アームにはダイオード(D01,D11、D21)を配置する回路構成(力行専用)、または、上アームにスイッチング素子(Q01,Q11,Q21)を設けるとともに下アームにはダイオード(D02,D12,D22)を配置する回路構成(回生専用)とすることも可能である。この場合にも、特性線260および270を予め求めることによって、同様に、通常コンバータ110および多相コンバータ120を選択することができる。
【0076】
また、図1では、並列接続された2個のチョッパ回路によって多相コンバータ120を構成したが、特開2003−304681号公報(特許文献2)の図7,10のように、3以上の複数個(N個)のチョッパ回路の並列接続によって多相コンバータ12を構成してもよい。この場合には、N個のチョッパ回路は、それぞれ(360/N)度ずつ位相をずらしたタイミングでオンオフ制御される。ただし、このような多相コンバータにおいても、デューティ比に対するリップル電流特性(図3の特性線270)について、解析あるいは実験等によって予め求めることが可能である。
【0077】
あるいは、本実施の形態では、通常の昇圧チョッパで構成されたコンバータ(通常コンバータ110)と磁気結合型リアクトルを含む多相コンバータ(多相コンバータ120)が並列接続された構成例を説明したが、本願発明の適用はこのような構成に限定されるものではない。すなわち、リップル電流の異なる複数(3以上であっても可)のコンバータを並列接続した構成の電源装置について、本実施の形態と同様に、現在の動作点においてリップル電流が相対的に低いコンバータを選択的に動作させることが可能である。
【0078】
また、本実施の形態では、電源装置100の負荷200について、ハイブリッド自動車または電気自動車等に搭載される交流電動機およびインバータ回路を例示したが、本発明の適用はこれに限定されるものではない。すなわち、負荷200を特に限定することなく本発明の適用が可能である点について、確認的に記載する。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明は、直流電圧変換を行なうための電源装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
20,22 電圧センサ、100 電源装置、110 通常コンバータ、120 多相コンバータ、121−1,121−2 チョッパ回路、200 負荷、210 制御回路(ECU)、241,242 コイル巻線、250 コア、251a,251b 外脚部、252 中央脚部、253 ギャップ、260 特性線(通常コンバータ)、270 特性線(多相コンバータ)、300 コンバータ選択部、310 リップル特性記憶部、320 通常コンバータ制御部、330 多相コンバータ制御部、B1 直流電源、C0,C1 平滑コンデンサ、D01,D02,D11,D12,D21,D22 ダイオード、DT デューティ比、GL 接地配線、I1 リップル電流(通常コンバータ)、I2 リップル電流(多相コンバータ)、L0 リアクトル、L1,L2 リアクトル(磁気結合型)、N0,N1,N2,Na ノード、PL 電源配線、PWM0 信号(通常コンバータ)、PWM1,PWM2 信号(多相コンバータ)、Q01,Q02,Q11,Q12,Q21,Q22 スイッチング素子、RL0,RL1 リレー、VH 直流電圧(高圧側)、VHr 電圧指令値、VL 直流電圧(低圧側)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に接続された電源配線と直流電源との間で直流電力変換を行なうための、少なくとも1個のスイッチング素子を含んで構成された第1のコンバータと、
前記直流電源および前記電源配線の間に前記第1のコンバータと並列に接続された、少なくとも1個のスイッチング素子を含んで構成された第2のコンバータと、
前記第1および第2のコンバータを制御するための制御回路とを備え、
前記第1および第2のコンバータの各々は、前記スイッチング素子のオンオフ制御におけるデューティ比によって、前記直流電源の出力電圧に対する前記電源配線の電圧の比である電圧変換比が変化するように構成され、
前記第1および第2のコンバータの間では、前記デューティ比に対するリップル電流特性が異なり、
前記制御回路は、
予め求められた前記リップル電流特性に関する情報を記憶するための特性記憶部と、
前記電源配線の電圧指令値と前記直流電源の出力電圧とに基づいて必要な電圧変換比を算出するとともに、前記特性記憶部に記憶された情報に従って、前記第1および前記第2のコンバータから、算出された電圧変換比においてリップル電流がより小さい一方のコンバータを選択的に動作させるためのコンバータ選択部とを含む、電源装置。
【請求項2】
前記第1のコンバータは、
前記制御回路によってオンオフ制御される少なくとも1個の第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子によりスイッチングされた電流が通過するように配置された第1のリアクトルとを有する第1のチョッパ回路を含み、
前記第2のコンバータは、
並列接続された複数の第2のチョッパ回路を含み、
前記複数の第2のチョッパ回路の各々は、
前記制御回路によってオンオフ制御される少なくとも1個の第2のスイッチング素子と、
前記第2のスイッチング素子によりスイッチングされた電流が通過するように配置された第2のリアクトルとを有し、
各前記第2のチョッパ回路の前記第2のリアクトルは、互いに磁気的に結合するように配置され、
前記複数の第2のチョッパ回路間で互いに所定位相ずつタイミングがずれるように、各前記第2のチョッパ回路の前記第2のスイッチング素子のオンオフは制御される、請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
前記複数の第2のチョッパ回路のそれぞれの前記第2のリアクトルは、共通のコアの異なる部位に巻回されたコイル巻線をそれぞれ含む、請求項2記載の電源装置。
【請求項4】
前記制御回路は、
前記第1のコンバータが選択されたときに、前記第2のコンバータの前記スイッチング素子をオフに固定する一方で、前記電源配線の電圧を前記電圧指令値に制御するために前記第1のコンバータの前記スイッチング素子のデューティ比を制御するための第1のコンバータ制御部と、
前記第2のコンバータが選択されたときに、前記第1のコンバータの前記スイッチング素子をオフに固定する一方で、前記電源配線の電圧を前記電圧指令値に制御するために前記第2のコンバータの前記スイッチング素子のデューティ比を制御するための第2のコンバータ制御部とをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記直流電源および前記第1のコンバータの間に接続された第1の開閉器と、
前記直流電源および前記第2のコンバータの間に接続された第2の開閉器とをさらに備え、
前記コンバータ選択部によって前記第1のコンバータが選択されると、前記第1の開閉器がオンする一方で、前記第2の開閉器はオフされ、
前記コンバータ選択部によって前記第2のコンバータが選択されると、前記第2の開閉器がオンする一方で、前記第1の開閉器はオフされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項6】
前記特性記憶部は、前記第1および第2のコンバータのそれぞれにおける、前記デューティ比に対する前記電流リップルの特性を記憶し、
前記コンバータ選択部は、算出した電圧変換比を実現するための前記第1および第2のコンバータの各々におけるデューティ比を算出とともに、算出されたデューティ比における、前記第1および第2のコンバータの電流リップルの比較に基づいて、前記一方のコンバータを選択する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−109815(P2011−109815A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262509(P2009−262509)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】