説明

電源装置

【課題】高圧側のコンデンサおよび低圧側のコンデンサの放電を迅速に行なうと共にインバータの過熱を抑制する。
【解決手段】システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断されたときには、昇圧コンバータ40の上アームをオフとした状態で下アームをスイッチングすることにより、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷を昇圧コンバータ40に流してその電力を消費し、モータ32の回転が停止したときにインバータ34の下アームをオンとした状態で上アームをスイッチングすることにより、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷をインバータ34に流してその電力を消費する。これにより、迅速に低圧側コンデンサ46と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電することができ、インバータ34の過熱を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関し、詳しくは、バッテリと、インバータと、バッテリとインバータとの間に設けられた昇圧コンバータと、インバータの正極母線と負極母線とに接続された平滑コンデンサと、バッテリを遮断するシステムメインリレーと、昇圧コンバータよりバッテリ側の電力ラインに取り付けられたフィルタコンデンサと、を備える電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電源装置としては、二つのバッテリと、モータの駆動回路としてのインバータと、上アームと下アームとの二つのスイッチング素子により構成され二つのバッテリとインバータとに接続された昇圧コンバータと、二つのバッテリを各々遮断する二つのシステムメインリレーと、インバータに取り付けられた平滑コンデンサと、昇圧コンデンサのバッテリ側に取り付けられたコンデンサと、を備える装置において、二つのバッテリの一方との接続から他方への接続に切り替えるときには、双方のシステムメインリレーをオフとし、昇圧コンバータの上アームをオフとした状態で下アームをスイッチングすることにより、コンデンサの電荷をインバータ側に放電し、その後、接続するバッテリ側のシステムメインリレーをオンとするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、バッテリと、走行用モータの駆動回路としてのインバータと、バッテリからの直流電力を昇圧してインバータに供給する昇圧コンバータと、インバータ側に取り付けられた高圧側コンデンサと、高圧側コンデンサと並列に接続された放電抵抗と、を備え、高圧側の電圧センサからの信号に異常が生じたときには、昇圧コンバータを停止すると共に、高圧側電圧を低圧側電圧まで直線的に低下させるものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−004668号公報
【特許文献2】特開2009−261196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
緊急時の対応としてバッテリを緊急遮断したときには、昇圧コンバータの高圧側および低圧側に接続された機器が予期しない駆動を生じさせない等の要請からコンデンサに蓄えられている電荷を放電する必要がある。この場合、上述の前者の装置では、低圧側のコンデンサの電荷をインバータ側に放電するために、高圧側電圧が低圧側電圧以下となる必要がある。したがって、上述の後者の装置のように、高圧側電圧を低圧側電圧まで低下させ、その後、高圧側のコンデンサの放電と共に低圧側のコンデンサの電荷を高電圧側に放電するものとなる。後者の装置では放電抵抗を備えるため、高圧側のコンデンサの電荷は放電抵抗によって熱として消費されるが、放電抵抗を備えていないものでは、インバータのスイッチングロスやモータでのロスにより熱として消費することも考えられる。例えば、インバータが備えるスイッチング素子における下アームをオンとした状態で上アームをスイッチングすることにより高圧側のコンデンサの電荷をインバータで消費し、高圧側のコンデンサの電荷を放電している最中に高圧側電圧が低圧側電圧相当に至ったときに昇圧コンバータの上アームをオフとした状態で下アームをスイッチングして低圧側のコンデンサの電荷をインバータ側に放電し、高圧側のコンデンサの電荷と共にインバータによって消費することが考えられる。また、低圧側のコンデンサの電荷をインバータ側に放電する手法としては、昇圧コンバータの下アームをオフの状態で上アームをオンとすることによっても行なうことができる。
【0006】
上述のように、バッテリを緊急遮断したときに高圧側のコンデンサからの放電による電力をインバータで消費し、その際中に高圧側電圧が低圧側電圧相当に至ったときに低圧側のコンデンサの電荷をインバータ側に放電して高圧側のコンデンサからの放電による電力も低圧側のコンデンサからの放電による電力もインバータで消費するものは、高圧側電圧が低圧側電圧相当に至った以降に低圧側のコンデンサの放電を開始するため、高圧側のコンデンサと低圧側のコンデンサの電荷のすべてを放電するのに時間を要してしまう。また、高圧側のコンデンサからの放電による電力も低圧側のコンデンサからの放電による電力もインバータで消費するため、インバータが過熱する場合も生じる。
【0007】
本発明の電源装置は、高圧側のコンデンサおよび低圧側のコンデンサの放電を迅速に行なうと共にインバータの過熱を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電源装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明の電源装置は、
バッテリと、複数のスイッチング素子を有し直流電力を交流電力に変換して三相交流電動機に供給するインバータと、前記バッテリが接続される低圧側電力ラインの直流電力を昇圧して前記インバータが接続される高圧側電力ラインに供給するコンバータであって前記高圧側電力ライン間に上アームと下アームとからなる直列配置の二つのスイッチング素子と前記二つのスイッチング素子の中間点と前記低圧側電力ラインにおける正極側のラインとの間に取り付けられたリアクトルとを有する昇圧コンバータと、前記高圧側電力ラインに取り付けられた高圧側コンデンサと、前記低圧側電力ラインに取り付けられ前記バッテリを遮断するシステムメインリレーと、前記低圧側電力ラインの前記システムメインリレーより前記昇圧コンバータ側に取り付けられた低圧側コンデンサと、を備える電源装置であって、
前記システムメインリレーによる前記バッテリの緊急遮断時には、前記インバータのスイッチング素子をスイッチングすることにより前記高圧側コンデンサからの放電による電力を前記インバータおよび/または前記三相交流電動機で消費する第1放電制御と、前記昇圧コンバータの上アームをオフとすると共に下アームをスイッチングすることにより前記低圧側コンデンサからの放電による電力を前記昇圧コンバータで消費する第2放電制御と、を独立に実行する緊急遮断時制御手段を備える、
ことを特徴とする。
【0010】
この本発明の電源装置では、システムメインリレーによるバッテリの緊急遮断時には、インバータのスイッチング素子をスイッチングすることにより高圧側コンデンサからの放電による電力をインバータや三相交流電動機で消費する第1放電制御と、昇圧コンバータの上アームをオフとすると共に下アームをスイッチングすることにより低圧側コンデンサからの放電による電力を昇圧コンバータで消費する第2放電制御と、を独立に実行する。ここで、第1放電制御では、インバータの各相の下アームをオンのオンの状態とすると共にインバータの各相の上アームをスイッチングすることにより、高圧側コンデンサ,インバータの上アーム,インバータの下アームを経由する閉回路を形成し、インバータのスイッチング素子における損失により高圧側コンデンサからの放電による電力を消費し、三相交流電動機にd軸電流だけが流れるようにインバータをスイッチング制御することにより、高圧側コンデンサ,インバータ,三相交流電動機を経由する閉回路を形成し、三相交流電動機の損失により高電圧コンデンサからの放電による電力を消費する。第2放電制御では、昇圧コンバータの上アームをオフとした状態で下アームをスイッチングすることにより、低圧側コンデンサ,昇圧コンバータのリアクトル,昇圧コンバータの下アームを経由する閉回路を形成し、昇圧コンバータのリアクトルや下アームの損失により低圧側コンデンサからの放電による電力を消費する。このように、第1放電制御による高圧側コンデンサからの放電による電力の消費と第2放電制御による低圧側コンデンサからの放電による電力の消費とは異なる閉回路を形成して行なわれるから、第1放電制御と第2放電制御とを独立に実行することができる。「独立に」とは、「個別に」や「一方が他方に従属することなく」の意味であり、第1放電制御と第2放電制御との関係とすれば、第1放電制御の実行と第2放電制御の実行とを個別に一方が他方に従属することなく行なうことができることを意味している。これらのことから、本発明の電源装置では、高圧側電力ラインの電圧が低圧側電力ラインの電圧相当に至ったときに低圧側コンデンサの放電を開始するものに比して、高圧側コンデンサおよび低圧側コンデンサの放電を迅速に行なうことができる。また、第2放電制御では低圧側コンデンサからの放電による電力は昇圧コンバータによって消費するから、高圧側コンデンサからの放電による電力も低圧側コンデンサからの放電による電力もインバータで消費するものに比して、インバータの過熱を抑制することができる。
【0011】
こうした本発明の電源装置において、前記緊急遮断時制御手段は、前記第1放電制御については前記システムメインリレーによる前記バッテリの緊急遮断後であって前記三相交流電動機が略停止した以降に実行し、前記第2放電制御については前記システムメインリレーによる前記バッテリの緊急遮断の直後に実行する手段である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての電源装置20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電子制御ユニット50により実行される緊急遮断時高圧側制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】電子制御ユニット50により実行される緊急遮断時低圧側制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電しているときの電流の流れる様子の一例を示す説明図である。
【図5】低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷を放電しているときの電流の流れる様子の一例を示す説明図である。
【図6】緊急遮断時のモータ32の回転数Nmや実施例および比較例における高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電している際のインバータ34のゲート電圧や高圧側電圧VH等および低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷を放電している際の昇圧コンバータ40のゲート電圧や低圧側電圧VL等の時間変化の一例を示す説明図である。
【図7】比較例における低圧側コンデンサ46と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電しているときの電流の流れる様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は本発明の一実施例としての電源装置20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電源装置20は、図示するように、例えば同期発電電動機として構成されて車両の走行用の動力を出力する三相交流モータ32と共に車両に搭載され、モータ32を駆動するためのインバータ34と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、高圧側電力ラインという)44とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、低圧側電力ラインという)42とに接続されて高圧側電力ライン44の電圧VHを低圧側電力ライン42の電圧VL以上かつ最大許容電圧VHmax以下の範囲内で調節すると共に高圧側電力ライン44と低圧側電力ライン42との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ40と、バッテリ36を遮断するための低圧側電力ライン42に取り付けられたシステムメインリレー(SMR)43と、低圧側電力ライン42のシステムメインリレー43と昇圧コンバータ40との間に取り付けられて低圧側の電圧を平滑する低圧側コンデンサ46と、高圧側電力ライン44に取り付けられて高圧側の電圧を平滑する高圧側コンデンサ48と、電源装置20全体をコントロールすると共にモータ32を駆動制御する電子制御ユニット50と、を備える。
【0015】
インバータ34は、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、高圧側電力ライン44の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を制御することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。
【0016】
昇圧コンバータ40は、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ高圧側電力ライン44の正極母線と高圧側電力ライン44および低圧側電力ライン42の負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと高圧側電力ライン44および低圧側電力ライン42の負極母線とにはそれぞれバッテリ36の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフ制御することにより、低圧側電力ライン42の電力を昇圧して高圧側電力ライン44に供給したり、高圧側電力ライン44の電力を降圧して低圧側電力ライン42に供給したりすることができる。
【0017】
システムメインリレー43は、図2に示すように、低圧側電力ライン42の正極側ラインに取り付けられた正極側リレー43aと、低圧側電力ライン42の負極側ラインに取り付けられた負極側リレー43bとにより構成されている。
【0018】
電子制御ユニット50は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、図示しないが、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置や、モータ32とインバータ34との接続ライン(電力ライン)に取り付けられた電流センサ33u,33vからの相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vb,バッテリ36の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ36に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度,低圧側コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからの低圧側コンデンサ46の電圧(低圧側電力ライン42の電圧)VLや高圧側コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからの高圧側コンデンサ48の電圧(高圧側電力ライン44の電圧)VH,その他、車両の駆動制御に必要な信号、例えば、イグニッションスイッチからのイグニッション信号やシフトレバーの操作位置を検出するセンサからの信号,アクセルペダルの踏み込み量を検出するセンサからの信号,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するセンサからの信号,車速センサからの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号,システムメインリレー43への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置に基づいてモータ32の回転数Nmも演算している。
【0019】
次に、こうして構成された実施例の電源装置20の動作、特に衝突などによりシステムメインリレー43によりバッテリ36を緊急遮断したときの低圧側コンデンサ46や高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電する際の動作について説明する。図2は、緊急遮断時に高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電するために実施例の電子制御ユニット50により実行される緊急遮断時高圧側制御ルーチンの一例を示すフローチャートであり、図3は、緊急遮断時に低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷を放電するために実施例の電子制御ユニット50により実行される緊急遮断時低圧側制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。図2のルーチンと図3のルーチンは、システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断されたときに、同時に並行して電子制御ユニット50により実行される。以下、順に説明する。
【0020】
緊急遮断時高圧側制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、まず、インバータ34の各相の下アームのトランジスタT14,T15,T16をオンとし(ステップS100)、モータ32の回転数Nmを入力すると共に入力した回転数Nmが値0となるのを待つ(ステップS110,S120)。モータ32の回転数Nmが値0となると、インバータ34の上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングを開始し(ステップS130)、電圧センサ48aからの高圧側コンデンサ48の電圧VHを入力すると共に電圧VHが値0となるのを待って(ステップS140,S150)、高圧側コンデンサ48の電圧VHが値0となったときにインバータ34の上アームおよび下アームのトランジスタT11〜T16のすべてをオフとして(ステップS160)、本ルーチンを終了する。
【0021】
インバータ34の各相の下アームのトランジスタT14,T15,T16をオンとした状態でインバータ34の上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングしているときの電流の流れる様子を図4に示す。図示するように、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷は、上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングにより、高圧側コンデンサ48,トランジスタT11,T14を経由する閉回路,高圧側コンデンサ48,トランジスタT12,T15を経由する閉回路,高圧側コンデンサ48,トランジスタT13,T16を経由する閉回路にそれぞれ流れ、この電荷の放電による電力は各閉回路におけるトランジスタT11,T14,トランジスタT12,T15,トランジスタT13,T16で損失として消費される。
【0022】
緊急遮断時低圧側制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ40の上アームのトランジスタT31をオフとし(ステップS200)、昇圧コンバータ40の下アームのトランジスタT32のスイッチングを開始し(ステップS210)、電圧センサ46aからの低圧側コンデンサ46の電圧VLを入力すると共に電圧VLが値0となるのを待って(ステップS220,S230)、低圧側コンデンサ46の電圧VLが値0となったときに昇圧コンバータ40の下アームのトランジスタT32をオフとして(ステップS240)、本ルーチンを終了する。
【0023】
昇圧コンバータ40の上アームのトランジスタT31をオフとした状態で昇圧コンバータ40の下アームのトランジスタT32のスイッチングしているときの電流の流れる様子を図5に示す。図示するように、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷は、下アームのトランジスタT32のスイッチングにより、低圧側コンデンサ46,リアクトルL,トランジスタT32を経由する閉回路に流れ、この電荷の放電による電力は閉回路におけるトランジスタT32で損失として消費される。
【0024】
図6は、システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断されたときのモータ32の回転数Nmと、実施例および比較例における高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電している際のインバータ34のゲート電圧や高圧側電圧VH等および低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷を放電している際の昇圧コンバータ40のゲート電圧や低圧側電圧VL等の時間変化の一例を示す説明図である。比較例としては、システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断されたときには、モータ32の回転数Nmが値0となるのを待ってインバータ34の下アームのトランジスタT14,T15,T16をオンとした状態で上アームのトランジスタT11,T12,T13をスイッチングすることにより高圧側コンデンサ48の電荷の放電による電力をインバータ34で消費し、高圧側コンデンサ48の電圧VHが低圧側コンデンサ46の電圧VLに等しくなったときに、トランジスタT11,T12,T13をスイッチングを継続しながら昇圧コンバータ40の上アームのトランジスタT31をオフとした状態で下アームのとトランジスタ32をスイッチングして低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷を高圧側に放電し、この放電による電力は高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電による電力と共にインバータ34によって消費されるものを想定した。比較例における低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電しているときの電流の流れる様子の一例を図7に示す。図示するように、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷も高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷もその放電による電力はインバータ34によって消費される。
【0025】
実施例の電源装置20では、図6に示すように、システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断された時間T1に図2の緊急遮断時高圧側制御ルーチンと図3の緊急遮断時低圧側制御ルーチンとが同時に実行され、高圧側ではインバータ34の下アームのトランジスタT14,T15,T16がオフとされ、低圧側では昇圧コンバータ40の上アームのトランジスタT31がオフとされた状態で下アームのトランジスタT32のスイッチングが開始される。低圧側では、こうした下アームのトランジスタT32のスイッチングにより、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷は低圧側コンデンサ46,リアクトルL,トランジスタT32を経由する閉回路に流れ、その電力はリアクトルLやトランジスタT32の損失によって消費される。そして、低圧側電圧VLが値0に至った時間T2に、低圧側では昇圧コンバータ40の下アームのトランジスタT32をオフとして低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷の放電を終了する。高圧側では、モータ32の回転数Nmが値0となる時間T3にインバータ34の上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングを開始し、上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングにより、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷は、高圧側コンデンサ48,トランジスタT11,T14を経由する閉回路,高圧側コンデンサ48,トランジスタT12,T15を経由する閉回路,高圧側コンデンサ48,トランジスタT13,T16を経由する閉回路にそれぞれ流れ、その電力はトランジスタT11〜T16の損失によって消費される。そして、高圧側電圧VHが値0に至った時間T5に、インバータ34の上下アームのトランジスタT11〜T16をオフとして高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電を終了する。
【0026】
一方、比較例では、システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断された時間T1に、高圧側ではインバータ34の下アームのトランジスタT14,T15,T16がオフとされ、低圧側では昇圧コンバータ40の上下アームのトランジスタT31,T32がオフとされ、この状態でモータ32の回転数Nmが値0となるのを待つ。モータMG2の回転数Nmが値0となる時間T3に、高圧側では、モータ32の回転数Nmが値0となる時間T3にインバータ34の上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングを開始し、上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングにより、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電による電力をトランジスタT11〜T16の損失によって消費する。高圧側のインバータ34のスイッチングにより高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電による電力をインバータ34で消費している最中に高圧側電圧VHが低下して低圧側電圧VLに一致する時間T4では、昇圧コンバータ40の上アームであるトランジスタT31をオンとして低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷が高圧側に放電し、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷とが共にインバータ34に放電され、その放電による電力はインバータ34により消費される。そして、低圧側電圧VLと高圧側電圧VHとが共に値0に至った時間T6にインバータ34のトランジスタT11〜T16と昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のすべてをオフとして低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電を終了する。
【0027】
比較例では、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷の放電は、高圧側電圧VHが低下して低圧側電圧VLに一致する時間T4から開始され、この時間T4から低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷とが共にインバータ34に放電されるため、放電が完了する時間が実施例の時間T5に比して時間T6と遅くなる。即ち、実施例は、比較例に比して迅速に低圧側コンデンサ46や高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電することができるのである。また、比較例では、低圧側コンデンサ46と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電による電力のすべてをインバータ34で消費するが、実施例では、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷の放電による電力は昇圧コンバータ40で消費し、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電による電力はインバータ34で消費するため、比較例に比して、インバータ34のトランジスタT11〜T16の過熱を抑制することができる。
【0028】
以上説明した実施例の電源装置20によれば、システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断されたときに図2の緊急遮断時高圧側制御ルーチンと図3の緊急遮断時低圧側制御ルーチンとが同時に実行して、低圧側コンデンサ46に蓄えられた電荷の放電による電力は昇圧コンバータ40で消費し、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電による電力はインバータ34で消費することにより、迅速に低圧側コンデンサ46と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を放電することができると共に、低圧側コンデンサ46と高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷の放電による電力のすべてをインバータ34で消費する比較例に比して、インバータ34のトランジスタT11〜T16の過熱を抑制することができる。
【0029】
実施例の電源装置20では、走行用の動力を出力する三相交流モータ32と共に車両に搭載されるものとしたが、車両に搭載されるものに限定されるものではなく、車両以外の駆動装置に組み込まれるものとしても構わない。
【0030】
実施例の電源装置20では、インバータ34の下アームのトランジスタT14,T15,T16がオフとした状態で上アームのトランジスタT11,T12,T13のスイッチングすることにより、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を、高圧側コンデンサ48,トランジスタT11,T14を経由する閉回路,高圧側コンデンサ48,トランジスタT12,T15を経由する閉回路,高圧側コンデンサ48,トランジスタT13,T16を経由する閉回路にそれぞれ流し、その電力をトランジスタT11〜T16の損失によって消費するものとしたが、モータ32にd軸電流だけが流れるようインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチングすることにより、高圧側コンデンサ48に蓄えられた電荷を、インバータ34とモータ32に流し、その電力をインバータ34やモータ32の損失によって消費するものとしてもよい。
【0031】
実施例の電源装置20では、システムメインリレー43によりバッテリ36が緊急遮断されたときには電子制御ユニット50により図2の緊急遮断時高圧側制御ルーチンと図3の緊急遮断時低圧側制御ルーチンとを同時に平行して実行するものとしたが、図2の緊急遮断時高圧側制御ルーチンの実行を開始した後に、ある程度の時間が経過した後に図3の緊急遮断時低圧側制御ルーチンの実行を開始するものとしてもよい。
【0032】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、モータ32が「三相交流電動機」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、トランジスタT31,T32とリアクトルLとにより構成された昇圧コンバータ40が「昇圧コンバータ」に相当し、高圧側コンデンサ48が「高圧側コンデンサ」に相当し、システムメインリレー43が「システムメインリレー」に相当し、低圧側コンデンサ46が「低圧側コンデンサ」に相当する。そして、図2の緊急遮断時高圧側制御ルーチンによる制御が「第1放電制御」に相当し、図3の緊急遮断時低圧側制御ルーチンによる制御が「第2放電制御」に相当し、図2の緊急遮断時高圧側制御ルーチンと図3の緊急遮断時低圧側制御ルーチンとを実行する電子制御ユニット50が「緊急遮断時制御手段」に相当する。
【0033】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0034】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、電源装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
20 電源装置、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、33u,33v 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、40 昇圧コンバータ、42 低圧側電力ライン、43 システムメインリレー、43a 正極側リレー、43b 負極側リレー、44 高圧側電力ライン、46 低圧側コンデンサ、46a 電圧センサ、48 高圧側コンデンサ、48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと、複数のスイッチング素子を有し直流電力を交流電力に変換して三相交流電動機に供給するインバータと、前記バッテリが接続される低圧側電力ラインの直流電力を昇圧して前記インバータが接続される高圧側電力ラインに供給するコンバータであって前記高圧側電力ライン間に上アームと下アームとからなる直列配置の二つのスイッチング素子と前記二つのスイッチング素子の中間点と前記低圧側電力ラインにおける正極側のラインとの間に取り付けられたリアクトルとを有する昇圧コンバータと、前記高圧側電力ラインに取り付けられた高圧側コンデンサと、前記低圧側電力ラインに取り付けられ前記バッテリを遮断するシステムメインリレーと、前記低圧側電力ラインの前記システムメインリレーより前記昇圧コンバータ側に取り付けられた低圧側コンデンサと、を備える電源装置であって、
前記システムメインリレーによる前記バッテリの緊急遮断時には、前記インバータのスイッチング素子をスイッチングすることにより前記高圧側コンデンサからの放電による電力を前記インバータおよび/または前記三相交流電動機で消費する第1放電制御と、前記昇圧コンバータの上アームをオフとすると共に下アームをスイッチングすることにより前記低圧側コンデンサからの放電による電力を前記昇圧コンバータで消費する第2放電制御と、を独立に実行する緊急遮断時制御手段を備える、
ことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の電源装置であって、
前記緊急遮断時制御手段は、前記第1放電制御については前記システムメインリレーによる前記バッテリの緊急遮断後であって前記三相交流電動機が略停止した以降に実行し、前記第2放電制御については前記システムメインリレーによる前記バッテリの緊急遮断の直後に実行する手段である、
電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−74709(P2013−74709A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211677(P2011−211677)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】