説明

電源遮断装置

【課題】インターロック手段と、車両の衝突事故が発生した際に高電圧バッテリの電力供給を適切に遮断する衝撃遮断手段と、を兼ね備えた電源遮断装置を提供することを目的とする。
【解決手段】電源遮断装置10はパワーコントロールユニット3(PCU)内部に配置され、PCU3はトランスアクスル2上に配置されている。電源遮断装置10は、センサ機能とインターロック機能を合わせ持つ摺動棒11と、摺動棒11を摺動可能にシールする気密シール14と、摺動棒11に設けられたオス端子15と、オス端子15とメス端子19との接続を保つメス端子台12と、メス端子台12を保持するブラケット13と、を有している。摺動棒11はPCU3の車両前方側、かつ、PCU3で最も飛び出すように配置され、摺動棒11はPCU3の上蓋と下蓋とを固定するボルト26を覆うように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電源遮断装置に関し、特に車両の電力制御装置に搭載された電源遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やエンジンと電気自動車を組み合わせたハイブリッド自動車が実用化され、ハイブリッド自動車等が普及し始めている。このようなハイブリッド自動車等には高電圧バッテリの電力をインバータによって制御してモータジェネレータに供給し、車両を駆動する駆動回路が搭載されている。駆動回路には、モータジェネレータを制御するためのインバータや高電圧バッテリの電力を補機バッテリの充電のために低電圧に降圧するコンバータ等がある。インバータやコンバータ等は1つのパワーコントロールユニット(PCU)として一体化され、取り扱う電圧が数百ボルトの高電圧となることから複数の安全対策が施されている。
【0003】
安全対策の一つには、車両の修理点検を行うサービスマンが誤って高電圧の機器に触れて感電しないようにするため、高電圧バッテリやその関連機器からの電力供給を遮断すると共に電力が不用意に供給されることを防ぐインターロック手段がある。また、別の安全対策としては、車両の衝突事故が発生した際に高電圧バッテリの電力供給を適切に遮断する衝撃遮断手段と、車両の衝突事故が発生した場合において高電圧機器が破損しにくいようにするため、高電圧機器のケースや高電圧機器を保持するブラケット等により衝撃を吸収する衝撃吸収手段とがある。
【0004】
図9は従来の電源遮断装置を含むパワーコントロールユニット100の一例を示している。図9において、電源遮断装置は、2つの機能を組み合わせて実現されている。電源遮断装置は、パワーコントロールユニット100(PCU)の上蓋24と下蓋25とを固定する複数のボルト26を取り外して上蓋24と下蓋25とを分離した時に電源をオフするインターロックスイッチ102と、衝突時の衝撃を加速度センサ101が検出するとバッテリからの電力供給を遮断する衝撃遮断手段と、を有している。インターロックスイッチ102は上蓋24と下蓋25にそれぞれコネクタを有し、上蓋24と下蓋25が嵌り合った時に導通状態となる。衝撃遮断手段は加速度センサ101とPCU100内の制御装置によって実現されている。
【0005】
また、特許文献1には、別の衝撃遮断手段を有する電源遮断装置が開示されている。特許文献1の電源遮断装置は、高電圧バッテリと、高電圧バッテリを4つのバッテリユニットに分割してそれぞれのバッテリユニットを1つのリレーで直列接続するシステムメインリレー(SMR)と、衝撃を検出する加速度センサと、加速度センサからの信号が所定の値を上回った場合にリレーをオフする制御装置と、を備え、1つのリレーを駆動するだけで電源を遮断すると共に、高圧バッテリの電圧をバッテリユニットの電圧に瞬時に低くすることが可能である。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の衝撃遮断手段は、加速度センサにより衝突時の加速度を検出して衝突を判断する必要があることから加速度センサや追加の電子回路等を取り付ける必要があり、コストアップ要因となる。そこで、特許文献2には、これらの加速度センサや追加の電子回路を必要としない電源遮断装置が開示されている。
【0007】
特許文献2の電源遮断装置は、バッテリと負荷とリレーとを有する電源回路と、リレーを制御することでバッテリと負荷との接続/切断を行うリレー制御部と、車両衝突時にリレー制御部とリレーの間に設けられた信号線を破断またはグランド電位にする切断刃と、を有している。このような構成により、衝突の検出に伴うセンサや制御回路を不要にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−199807号公報
【特許文献2】特開2004−159439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、パワーコントロールユニット(PCU)は、衝撃吸収を目的としてボディに専用のブラケットを用いて別置きタイプのPCUとして車両に搭載していたが、小型化と部品点数削減の要求に答えるため、ボディに直接PCUを搭載する直置きタイプが検討されている。PCUを直置きタイプにすると、例えば、ボディの取り付けブラケットの上をPCUが移動することにより衝撃を吸収する効果が期待できないことからケースの強化や確実な衝撃遮断手段が要求される。
【0010】
そこで、特許文献2の確実な衝撃遮断手段を用いることにより、PCUの直置きタイプであっても特別なケースの強化をすることなく部品点数を削減しながら対応することが考えられる。しかしながら、特許文献2の衝撃遮断手段はサービスマンが保守時に使用するインターロック手段を備えておらず、別途設置する必要あった。
【0011】
上記理由から、本発明に係る電源遮断装置は、インターロック手段と、車両の衝突事故が発生した際に高電圧バッテリの電力供給を適切に遮断する衝撃遮断手段と、を兼ね備えた電源遮断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る電源遮断装置は、バッテリからの電力を制御して負荷に供給する電力制御装置に搭載され、バッテリからの電力の供給を遮断すると共に安全性を確保するインターロック手段と、外部からの衝撃荷重により電力の供給を遮断する衝突遮断手段と、を有する車両用の電源遮断装置において、インターロック手段は、導通接点を有する摺動棒と導通接点に接続された回路とを有し、摺動棒は電力制御装置を収容する筐体の車両前方に突出するように配置され、摺動棒を電力制御装置から引き抜くことにより電力の供給を遮断し、衝撃遮断手段は、車両前方からの衝撃荷重によりインターロック手段の摺動棒が予め決められた長さ以上押し込まれることにより電力の供給を遮断することを特徴とする。このような構成にすることでインターロック手段と、車両の衝突事故が発生した際に高電圧バッテリの電力供給を適切に遮断する衝撃遮断手段と、を兼ね備えた電源遮断装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明に係る電源遮断装置において、電力制御装置の筐体は上蓋と下蓋とを有し、電源遮断装置のインターロック手段と衝撃遮断手段とは、リレーを制御し、電源遮断装置を上蓋又は下蓋のいずれか1つに配置することを特徴とする。従来のインターロック手段は、上蓋と下蓋とにそれぞれコネクタを配置する必要があったが、上記構成とすることにより構成を簡略化することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る電源遮断装置において、インターロック手段の摺動棒は、電力制御装置の上蓋と下蓋とを係止する係止具の一部を覆うように配置され、筐体を分解するためには摺動棒を引き抜くことが必要である。
【0015】
また、本発明に係る電源遮断装置において、インターロック手段の摺動棒には誤って押し込むことを防止するフランジ状の張出し部が設けられ、張出し部は車両前方からの衝撃荷重により折損し、摺動棒を予め決められた長さ以上押し込むことを許容することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る電源遮断装置において、インターロック手段の摺動棒は、オフセット衝突時であっても衝撃荷重を受け付け可能とするため、車両中心寄り、かつ、車両前方に配置することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る電源遮断装置において、電力制御装置の車両前方には衝突によって摺動棒を押し込む突出部材を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電源遮断装置を使用することにより、高電圧バッテリからの電力供給を遮断すると共に電力が不用意に供給されることを防ぐインターロック手段と、車両の衝突事故が発生した際に高電圧バッテリの電力供給を適切に遮断する衝撃遮断手段と、を兼ね備えた電源遮断装置を構成することができ、小型化と部品点数の低減が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る電源遮断装置を有するパワーコントロールユニットとトランスアクスルとの断面図である。
【図2】本実施形態における駆動システムの構成を示す回路図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る電源遮断装置の断面を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る電源遮断装置の衝突時における動作を説明する説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る電源遮断装置の保守点検時における動作を説明する説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電源遮断装置の衝突時の動作を説明する説明図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る電源遮断装置の衝突時の動作を説明する説明図である。
【図8】本実施形態に係る電源遮断装置を有するパワーコントロールユニットにおいて、電源遮断装置の配置状況を説明する外観図である。
【図9】従来の電源遮断装置を含むパワーコントロールユニットを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0021】
図1は電源遮断装置10を有するパワーコントロールユニット3(PCU)とトランスアクスル2との断面を示している。PCU3はトランスアクスル2上に直接搭載されており、トランスアクスル2は第1のモータジェネレータ21(MG1)と第2のモータジェネレータ22(MG2)とディファレンシャルギア23とを有している。PCU3は、2つのモータジェネレータを制御するIGBTトランジスタをモジュール化したIGBTモジュール34と、バッテリ電圧を昇圧するためのリアクトル31と、補機バッテリを充電するためのDC/DCコンバータ32と、これらのモジュールと電力ケーブル36とを接続するコネクタ35と、IGBTモジュール34やDC/DCコンバータ32等を冷却するウォータジャケット33と、インターロック手段と衝撃遮断手段とを有する電源遮断装置10と、を含んでいる。
【0022】
図1の電源遮断装置10は、センサ機能とインターロック機能を合わせ持つ摺動棒11と、摺動棒11を摺動可能にシールする気密シール14と、摺動棒11に設けられたオス端子15と、オス端子15とメス端子との接続を保つメス端子台12と、メス端子台12を保持するブラケット13と、を有している。また、摺動棒11はPCU3の車両前方側、かつ、PCU3で最も飛び出すように配置され、摺動棒11はPCU3の上蓋と下蓋とを固定するボルトを覆うように配置されている。なお、従来のインターロックスイッチは、上蓋と下蓋とにそれぞれ分けて配置していたが、本実施形態に係る電源遮断装置10は上蓋又は下蓋のいずれかに配置することが可能となる。次に、電源遮断装置の具体的な配置場所について図8を用いて詳説する。
【0023】
図8は本実施形態に係る電源遮断装置を有するパワーコントロールユニットにおいて、本発明に係る電源遮断装置(50a,50b)の2つの配置例を示している。図8のPCU3には、上蓋24と下蓋25とを固定する複数のボルト26と、ウォータジャケット33に冷却水を供給する冷却配管54と、図8に示したいずれか1つの電源遮断装置と、が設けられている。図8(A)の電源遮断装置50aは、オフセット衝突時や前面衝突時においても電力供給を適切に遮断するため、車両中央寄りに摺動棒11を配置すべく、PCU3に張り出し部を設け、その内部に電源遮断装置50aを設けたものである。前面衝突時では車両中央部や車両外側部が均等に衝撃荷重を受け、オフセット衝突時では左右の車両外側部どちらか一方が大きい衝撃荷重を受けるものの、車両中央部ではどちらの場合でも衝撃荷重を受けることから車両中央部寄りに電源遮断装置50aを配置することで適切に検出可能となる。
【0024】
図8(B)の電源遮断装置50bは、摺動棒11に衝撃力を伝える部材(例えば、ラジエータ後方のメンバ材など)の配置の関係で電源遮断装置50aに比べて比較的車両外側のPCU3内部に配置したものである。内部構造は車両毎に異なるため、衝突時における衝撃荷重を適切に検出できるように摺動棒11の位置を決定することでオフセット衝突や前面衝突等に対応可能となる。なお、図8の電源遮断装置50a,50bは2つの配置例として同一のPCU3に図示したが、いずれか一つの電源遮断装置があれば良く、安全性をより高めるために、2つの電源遮断装置をOR論理によって接続してPCU3に配置することも好適である。
【0025】
図2は本実施形態における駆動システム1の構成を示している。車両に搭載される駆動システム1は、高電圧のバッテリ49と、補機バッテリ42と、パワーコントロールユニット3とを有している。パワーコントロールユニット3は、モータジェネレータ45を制御するインバータ44と、電圧を平滑化する平滑コンデンサ46と、12Vの補機バッテリ42を充電するDC/DCコンバータ43と、インターロック手段と衝撃遮断手段を実現するための電源遮断装置10と、バッテリ49の電力をインバータ44やDC/DCコンバータ43等へ供給・遮断を行うシステムメインリレー(SMR)であるリレー47,48と、リレー47,48を駆動するトランジスタ51a,51bと、これらの制御を行う制御装置41と、を有している。
【0026】
リレー47,48がオンの時、バッテリ49の電力がリレー47,48を介してインバータ44に供給され、インバータ44によってモータジェネレータ45が制御される。一方、リレー47,48がオフの時、バッテリ49とインバータ44が電気的に切り離される。ここで、インターロック手段と衝撃遮断手段は制御装置によって実現されており、電源遮断装置10からの導通信号を制御装置41に入力し、制御装置41がトランジスタを駆動してリレー47,48のオン・オフを制御する。本実施形態において、電源遮断装置10の摺動棒11がサービスマンなどによって引き抜かれることによりインターロック手段を実現し、摺動棒11が衝撃荷重により押し込まれることにより衝撃遮断手段を実現する。
【0027】
図3(B)は第1実施形態に係る電源遮断装置10の断面を示し、図3(A)から図3(D)を用いて電源遮断装置10の構造を詳説する。なお、以下同様に、すでに述べた構造に関しては説明を割愛する。図3(B)の電源遮断装置10は、上蓋24に設けられた気密シール14及びアーム17によって摺動可能に保持される円筒状の摺動棒11と、上蓋24に設けられたブラケット13に固定軸16で固定されたメス端子台12と、を有している。摺動棒11は、摺動棒11の先端部に設けられた操作ノブ18と、引き抜き抵抗を発生させるため摺動棒11の外周に設けられた凸部11aと、図3(D)のメス端子19と接続するオス端子15と、アーム17に接触するガイド部11bと、を有している。
【0028】
なお、摺動棒11は、図3(A)に示すように、円筒形の棒に四角形の操作ノブ18を有している。通常、摺動棒11はボルト26を覆うように配置され、上蓋24と下蓋25とを分離する際には、操作ノブ18をにぎって摺動棒11を抜き取る必要がある。
【0029】
図3(C)はメス端子台12の近傍を拡大したものであり、図中丸印aは摺動棒11とメス端子台12の接触状況を示している。また、図3(D)は図3(C)の側面図である。図3(C)に示したように摺動棒11はメス端子台12の角部に当接することで摺動棒11の押し込み距離を規定する。摺動棒11の先端が上下方向に引き起こし又は押し下げられた場合には、アーム17、メス端子台12を支持するブラケット13が変位して所定の振れを吸収することができる。また、摺動棒11を下方から支持するアーム17の受け部は摺動棒11の断面形状にならって形成されているため、摺動棒11がねじられた場合にはアーム17上で摺動棒11が回動し、メス端子台12が摺動棒11の回動に合わせて左右に振れることになる。
【0030】
このような振れを吸収できるようにしたのは、修理点検時において摺動棒11を抜き差しする必要があり、摺動棒11を電源遮断装置に取り付けた後に予め決められた荷重より小さい荷重においてメス端子19とオス端子15との導通状態が開放状態になることを避けるためである。なお、衝突時における上下左右あるいは回動などの決められた以上の衝撃荷重が摺動棒11に加わった場合には固定軸16付近が壊れることで導通状態が開放状態に変化して衝撃荷重を正確に検出可能にすることが可能であることはいうまでもない。
【0031】
図4は電源遮断装置10の衝突時における動作を示している。図4(A)は車両の衝突前におけるメンバ39の初期位置を示し、図4(B)は車両の衝突に伴ってメンバ39が所定の衝突荷重にて摺動棒11を押し込む状態を示している。図4(A)のメンバ39はラジエータが取り付けられており、ラジエータからの空気の流れを整流するために整流板37がファスナ38によって固定されている。なお、図4(A)の右側の電源遮断装置10は図2の電源装置と同一であることから説明は割愛する。
【0032】
図4(B)において、衝撃荷重によりメンバ39が摺動棒11を水平方向に押し込むと、気密シール14とアーム17によって摺動棒11がガイドされ、摺動棒11の角部がメス端子台12の側面を押し込むことで、メス端子台12が固定軸16付近で壊れてメス端子19とオス端子15との導通状態が開放状態へと変化する。また、メンバ39が回転動作を伴って摺動棒11に接触した場合には、摺動棒11の回動に伴い固定軸16が捻られながら変位することでメス端子19とオス端子15との導通状態が開放状態へと変化する。
【0033】
また、摺動棒11が上側から押さえつけられるように押し込まれた場合には、気密シール14を支点としてメス端子台12が跳ね上げられることでメス端子19とオス端子15との導通状態が開放状態へと変化する。さらに、摺動棒11が下側から持ち上げられるようにして押し込まれた場合には、アームが変形することによりメス端子19とオス端子15との導通状態が開放状態へと変化する。いずれの場合も所定以上の衝撃荷重が加わった場合であれば、正常に衝撃荷重を検出することが可能である。
【0034】
図5は保守点検における電源遮断装置10の動作を示している。図5(A)の状態から摺動棒11の操作ノブ18を握って摺動棒11を手前に引き寄せると、摺動棒11の凸部11aが気密シール14を通り抜ける際に摺動抵抗が発生すると共に、メス端子台12からオス端子15が引き抜かれ、メス端子19とオス端子15との導通状態が開放状態へと変化し、インターロックが設定される。図5(B)では、ボルト26を覆っている摺動棒11を引き抜くことでボルト26を取り外すことが可能となり、上蓋24と下蓋25を分離することができる。
【0035】
また、保守点検が終了し、摺動棒11を電源遮断装置10へ差し込む場合、図4(B)に示すように、最初にボルト26を取り付ける。次に、摺動棒11のガイド部11bを気密シール14に乗せるように押し込む。この時、摺動棒11の凸部11aが気密シール14を通り抜けるまで摺動抵抗が発生するが、通り抜けた後は摺動抵抗が減少する。さらに、操作ノブ18に刻印されている三角マークが真上を向くように保持し、アーム17の受け部にガイド部11bが乗るように押し込むことで、メス端子台12のメス端子19にオス端子15が嵌り込み、摺動棒11の角部がメス端子台12に当接すると押し込みが完了する。このように、摺動棒11を電源遮断装置10に取り付けることでインターロックが解除され、バッテリからの電力が供給可能な状態となる。
【0036】
図6は第2実施形態に係る電源遮断装置の衝突時の動作を示している。なお、パワーコントロールユニットを形成する上蓋と下蓋とを結合するボルトは省略している。図6(B)は衝撃荷重を受けた場合に摺動棒28の張り出し部28aが破損して摺動棒がPCUの中に嵌り込みメス端子19とオス端子15との導通を開放することにより衝撃遮断手段を実現したものである。また、図6(A)は摺動棒28を引き抜くことにより、インターロックを設定すると共に、ボルトを覆うカバーとなる張り出し部28aを取り除くことが可能となる。
【0037】
図6(A)の上蓋24と摺動棒11の張り出し部28aとが接触する部分にはOリング29が配置され、摺動棒11のストッパ28cが上蓋24の裏面に係合することで張り出し部28aがOリングを押さえつけるように上蓋24と密着して気密が保たれる。本実施形態で特徴的な事項は2点ある。第1は摺動棒28を矩形形状にすることで、オス端子15とメス端子19との接続を容易にしたことであり、第2は摺動棒28が衝撃荷重を受けると張り出し部28aの根元に設けられた切り欠き部28bから亀裂が発生し、張り出し部28aが破断して摺動棒28の角部がメス端子台12と当接し、メス端子台12の固定軸16付近が壊れることでメス端子19とオス端子15との導通を開放させることである。
【0038】
図7は第3実施形態に係る電源遮断装置の衝突時の動作を示している。なお、図6と同様にパワーコントロールユニットを形成する上蓋と下蓋とを結合するボルトは省略している。図7(B)は図6(B)と同様に衝撃荷重を受けた場合に摺動棒28の張り出し部28aが破損して摺動棒がPCUの中に嵌り込みメス端子19とオス端子15との導通を開放することにより衝撃遮断手段を実現したものであるが、摺動棒28の導通部53と向かい合う二つのスライド端子52とによる構造が異なっている。このような構成にすることで、スライド端子52を固定している固定軸16付近が壊れることによりスライド端子52が回動する必要が無い。
【0039】
また、図7(A)は図6(A)と同様に摺動棒28を引き抜くことにより、インターロックを設定すると共に、ボルトを覆うカバーとなる張り出し部28aを取り除くことが可能となる。摺動棒28は、ストッパ28cを有していることから、摺動棒28を引き抜く際の初期引き抜き力は比較的大きく簡単に抜き取ることができないような構造を有している。
【0040】
以上、上述したように、本実施形態に係る電源遮断装置を使用することにより、高電圧バッテリからの電力供給を遮断すると共に電力が不用意に供給されることを防ぐインターロック手段と、車両の衝突事故が発生した際に高電圧バッテリの電力供給を適切に遮断する衝撃遮断手段と、を兼ね備えた電源遮断装置を構成することが可能となる。また、従来のように加速度センサや追加の回路を設けることなく、装置の小型化と部品点数の低減が可能になる。なお、本実施形態における摺動棒は金型内にオス電極や導通電極を装填した後、樹脂を注入して一体成形したインサート成形部品を用いることにより信頼性を向上させたが、これに限定するものではない。
【符号の説明】
【0041】
1 駆動システム、2 トランスアクスル、3,100 パワーコントロールユニット、10,50a,50b 電源遮断装置、11,28 摺動棒、11a 凸部、11b ガイド部、12 メス端子台、13 ブラケット、14 気密シール、15 オス端子、16 固定軸、17 アーム、18 操作ノブ、19 メス端子、21,22 モータジェネレータ、23 ディファレンシャルギア、24 上蓋、25 下蓋、26 ボルト、28a 張り出し部、28b 切り欠き部、28c ストッパ、29 Oリング、31 リアクトル、32,43 DC/DCコンバータ、33 ウォータジャケット、34 IGBTモジュール、35 コネクタ、36 電力ケーブル、37 整流板、38 ファスナ、39 メンバ、41 制御装置、42 補機バッテリ、44 インバータ、45 モータジェネレータ、46 平滑コンデンサ、47,48 リレー、49 バッテリ、51a,51b トランジスタ、52 スライド端子、53 導通部、54 冷却配管、101 加速度センサ、102 インターロックスイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリからの電力を制御して負荷に供給する電力制御装置に搭載され、バッテリからの電力の供給を遮断すると共に安全性を確保するインターロック手段と、外部からの衝撃荷重により電力の供給を遮断する衝突遮断手段と、を有する車両用の電源遮断装置において、
インターロック手段は、導通接点を有する摺動棒と導通接点に接続された回路とを有し、摺動棒は電力制御装置を収容する筐体の車両前方に突出するように配置され、摺動棒を電力制御装置から引き抜くことにより電力の供給を遮断し、
衝撃遮断手段は、車両前方からの衝撃荷重によりインターロック手段の摺動棒が予め決められた長さ以上押し込まれることにより電力の供給を遮断することを特徴とする電源遮断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電源遮断装置において、
電力制御装置の筐体は上蓋と下蓋とを有し、
電源遮断装置のインターロック手段と衝撃遮断手段とは、リレーを制御し、
電源遮断装置を上蓋又は下蓋のいずれか1つに配置することを特徴とする電源遮断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電源遮断装置において、
インターロック手段の摺動棒は、電力制御装置の上蓋と下蓋とを係止する係止具の一部を覆うように配置され、筐体を分解するためには摺動棒を引き抜くことが必要である電源遮断装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電源遮断装置において、
インターロック手段の摺動棒には誤って押し込むことを防止するフランジ状の張出し部が設けられ、張出し部は車両前方からの衝撃荷重により折損し、摺動棒を予め決められた長さ以上押し込むことを許容する電源遮断装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電源遮断装置において、
インターロック手段の摺動棒は、オフセット衝突時であっても衝撃荷重を受け付け可能とするため、車両中心寄り、かつ、車両前方に配置することを特徴とする電源遮断装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電源遮断装置において、
電力制御装置の車両前方には衝突によって摺動棒を押し込む突出部材を配置したことを特徴とする電源遮断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−85416(P2012−85416A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228582(P2010−228582)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】