電界電子放出源の製造方法
【課題】 ナノ繊維を含む電界電子放出材料を用いて、良好な起毛処理を行うことにより、電子放出能力の高い電界電子放出源を製造すること。
【解決手段】 カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103を陰極基板100表面に形成し、陰極基板100の表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマ261を照射して、電界電子放出材料103に含まれるカーボンナノツイストの起毛処理を行い、電子放出能力を向上させた電界電子放出源を製造する。
【解決手段】 カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103を陰極基板100表面に形成し、陰極基板100の表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマ261を照射して、電界電子放出材料103に含まれるカーボンナノツイストの起毛処理を行い、電子放出能力を向上させた電界電子放出源を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ繊維を陰極に用いた電界電子放出源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子線で蛍光体を励起して表示を行う薄型の画像表示装置の開発が盛んになっており、この電子源としては電界電子放出源を用いた冷陰極が用いられる。電界電子放出源の材料としてナノ繊維、その中でも特に炭素原子の六員環ネットが円筒状となったカーボンナノチューブ(CNT)が注目されている。
CNTは直径が数nm〜数100nm程度、長さが数μmから1mm程度であり先端の曲率半径が小さく全体が細長い形状であるため電界が集中し易い。また炭素は化学的に安定であることから電子放出源に極めて好適と考えられている。
【0003】
CNTを画像表示装置の電子源として用いるときは、CNTと有機バインダとを混合した粘性溶液(ペースト)を作り、これをスクリーン印刷で基板上の所定位置に印刷し、乾燥、焼成して用いることが多い。しかしこの場合、CNTは有機バインダ層に埋もれたり、互いに絡み合ったりしてCNT先端に電界が掛からないことが少なくなく、十分な電子放出が得られないことが多かった。
【0004】
そこで特許文献1及び2に記載されているように有機バインダ層をプラズマエッチングで除去し、CNTを有機バインダ類層の表面に露出させて電子放出能力を高める処理が開発された。
ここで表面処理に用いられるプラズマの生成技術としては、コロナ放電、グロー放電、誘電体バリア放電(DBD:Dielectric Barrier Discharge)、RF放電、マイクロ波放電、アーク放電などがあり、従来のプラズマ生成技術では、ヘリウム、アルゴン、室内空気、乾燥空気などが作動ガスとして用いられていた。
【0005】
また、プラズマを発生させる電極としては、グライディングアーク型、スプリットグライディングアーク型、ペンジェット型又は誘電体バリア放電(DBD)型などがある。
前記グライディングアーク型電極は、ガス流中に配置した2つの電極間に直流、交流又はパルス電圧を印加し、電極間およびガス下流に向かってプラズマを発生させるものであり、非特許文献1などに記載されている。
【0006】
前記スプリットグライディングアーク型電極は、プラズマの電流路であるアークコラムの影響を排除して弱電離プラズマであるプルームのみによって被処理物を処理するために、複数の穴を介してプラズマを発生するようにしたもので、特許文献3等に記載されている。
前記ペンジェット型電極は、ガス流中に配置した棒状電極とリング状若しくは円筒状電極との間に、直流、交流あるいはパルス電圧を印加し、リング状若しくは円筒状電極の孔部からプラズマを放出するものであり、非特許文献2などに記載されている。
【0007】
前記誘電体バリア放電(DBD)は、2つの電極のうち少なくとも片方の電極が誘電体で部分的に覆われた電極間にグロー状あるいはストリーマ状の放電を発生させるというものであり、非特許文献3などに記載されている。
このように構成された電子源は、CNTが有機バインダ層の表面に露出しているのでCNTの先端部に電界が集中して電子が出易くなり、また電子放出ポイントも増加するのでエミッション電流が向上する。
【0008】
しかしながら、この場合でもCNTが基板面から起立していることは稀であり、基板面と平行に寝ていることが多い。前記有機バインダと混合した粘性溶液中でCNTの軸線方向はランダムに分布していると思われるが、基板上に粘性溶液をスクリーン印刷すると、スキージの動きで粘性溶液が基板面に延ばされてCNTは基板面と平行に配向されるからである。
更にCNTが多数絡み合って電界集中しづずらい状態になっていることもあった。
このためCNTが有機バインダ層の表面に露出して基板面から起立している場合と比較して電子放出特性が劣ってしまう問題があった。
【0009】
この問題を解決する方法として、粘着テープを使用し、長軸方向が基板面と平行に寝ているCNTを、基板面に垂直に起立させる起毛処理方法が考えられている。前記粘着テープを使用した起毛処理方法は、基板に被着したCNT上に粘着テープを貼り付けた後、前記粘着テープを剥がすことによって、前記CNTを起毛させる方法である。
この方法では、十分均一な起毛が行われないため高い電子放出能力は得られず又、全く起毛されていない部分や多く起毛されている部分が形成され、同一基板内でも場所によって電子放出にムラが生じるという問題がある。また、最近の環境問題から廃棄テープが出ることも好ましくない。
【0010】
【特許文献1】特開2000−36243号公報
【特許文献2】特開2001−35361号公報
【特許文献3】特開2006−277953号公報
【非特許文献1】A.Czemichowski:Gliding Arc.Applications to engineering and environment control, Pure and Applied Chemical, Vol.666(1994)pp.1301−1310
【非特許文献2】J.Toshifuji,T.Katsumata,H.Takikawa,T.Sakakibara,I.Shimizu:Cold arc-plasma jet under atmospheric pressure for surface modification,Surface and Coatings Technology,171(2003)pp.302−306
【非特許文献3】X.Xu:Dielectric barrier discharge - properties and applications,Thin Solid Films,Vol.390(2001)pp.237−242
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記問題に鑑み成されたもので、ナノ繊維を含む電界電子放出材料を用いて、良好な起毛処理を行うことにより、電子放出能力の高い電界電子放出源を製造することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ナノ繊維を含む電界電子放出材料を陰極に用いた電界電子放出源の製造方法において、前記ナノ繊維を含む電界電子放出材料及びバインダの混合物を基板上に設けた後に、その表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマを照射して前記バインダを除去すると共に前記ナノ繊維の起毛処理を行うことを特徴とする電界電子放出源の製造方法が提供される。
ナノ繊維を含む電界電子放出材料及びバインダの混合物を基板上に設けた後に、その表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマを照射して前記バインダを除去すると共に前記ナノ繊維の起毛処理を行うことにより電界電子放出源が製造される。
【0013】
ここで、前記ナノ繊維が単層又は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、ヘリカルカーボンナノファイバ又はグラファイトナノファイバであってもよい。
また、前記ナノ繊維がカーボン以外の金属又は半導体材料から成るナノ繊維であってもい。
また、前記大気圧プラズマの照射が大気開放下で行うようにしてもよい。
また、前記大気圧プラズマが交流もしくはパルス状電力によって発生させられたプラズマであり、誘電体バリア放電、グライディングアーク、スプリットグライディングアーク、ペンジェットのいずれかであるようにしてもよい。
【0014】
また、前記大気圧プラズマが直径が2mm以下のジェット噴出し口から出力された円筒または円錐状のジェット状であるようにしてもよい。
また、前記大気圧プラズマが誘電体バリア放電の場合、放電状態がグロー状でなく、2個以上のストリーマ状であり、そのストリーマの直径が2mm以下であるようにしてもよい。
また、前記大気圧プラズマの作動ガスが、空気、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、水素、一酸化炭酸、二酸化酸素のいずれか、もしくは、それらの2種以上の混合ガスであるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ナノ繊維を含む電界電子放出材料を用いて、良好な起毛処理を行うことができるため、電子放出能力の高い電界電子放出源を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る電界電子放出源の製造方法では、絶縁基板上に設けられた陰極電極上に、ナノ繊維を含む電界電子放出材料(電界の作用によって電子を放出する材料であり、例えば炭素物質)を被着することによって陰極基板を形成し、前記陰極基板に対して所定条件下で大気圧プラズマ処理を施すことによって電界電子放出源を製造するようにしている。
【0017】
前記陰極基板の製造工程を図1に沿って説明すると、先ず有機バインダとしてエチルセルロースをテルピオネールに溶解した溶液を用いて、この溶液に、ナノ繊維としてカーボンナノツイスト(CNTw)を含む電界電子放出材料103を混合して乳鉢で30分間分散させて粘性溶液(ペースト)を作った。
電界電子放出材料103にはカーボンナノツイスト以外にもカーボンナノツイスト製造時に用いる金属触媒他の物質が含まれ、カーボンナノツイスト及びこれらの物質も含めて電界電子放出材料103として使用する。尚、カーボンナノツイスト、カーボンナノファイバ、カーボンナノグラファイト、単層・多層カーボンナノチューブはほぼ100%の純度で合成可能である。カーボンナノコイルは、30〜50%の純度であり炭素系の不純物を含む。
【0018】
次に、陰極電極102が形成されたガラス基板101上に厚さ200μmの粘着テープ(3M製スコッチテープ)をスペーサ105として貼り付けて、枠104を形成した(図1(a))。
そして、陰極電極102上に前記ペーストを塗布し(同図(b))、スペーサ105上にスキージを載せて移動させ前記ペーストの塗膜を形成した(同図(c))。
【0019】
次にスペーサ105を除去することによって枠104内のみに前記ペーストを残した後に(同図(d))、これらを含むガラス基板101全体を空気中120℃で2時間乾燥し、その後空気中400℃で1時間焼成した。
このようにして、ガラス基板101上に陰極電極102、カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103の膜(例えばナノカーボン膜)が積層された陰極基板100を作成した。
【0020】
本実施の形態では、大きさが□30mmで厚さ1.1mmのホウケイ酸ガラス基板101上に陰極電極102を形成し、その上に□18mmの大きさに有機バインダとともカーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103を積層形成した後、前記有機バインダを除去することによって陰極基板100を形成した。
【0021】
尚、カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103を陰極電極102上に形成して陰極基板100を製造する方法としては、例えば、直接合成法、あるいは、塗布印刷法(例えば、スプレー法、電着法、メッキ法、スキージ法、スクリーンプリント法、グラビア印刷法、インクジェット法、バルブジェット(登録商標)法、エレクトリックスプレー法)がある。
【0022】
図2に、本実施の形態において使用するグライディングアーク(GA)法を用いたプラズマ生成装置の概略構成図を示す。
グライディングアーク法は、(1)最短ギャップでアーク放電を開始し、(2)アーク陽光柱をガス流で押し出し、(3)対流で熱拡散して非熱平衡状態に移行し、(4)熱損失が入力を超えると陽光柱が消滅する、という(1)〜(4)の動作を繰り返して行うもので、大面積処理が可能という特徴を有している。また、どの様なガスでもプラズマ化するため、作動ガスとして空気を使用することが可能である。
【0023】
プラズマ生成装置200から照射されたプラズマ261により陰極基板100上部表面(カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103が被着された面)を処理する。プラズマ生成装置200は、プラズマ発生部210、作動ガス供給路221、電圧供給用電源251を備えている。電源251は、一般的な高電圧直流電源、高電圧交流電源、高電圧パルス電源などを使用できる。
【0024】
作動ガス供給路221がノズル部材231に形成され、プラズマ発生部210がノズル部材231内に配設されている。作動ガス供給手段により大気圧以上又は大気圧近傍の作動ガス271が供給管241を通して作動ガス供給路221に導入され、作動ガス271は作動ガス供給路221を流通して末広がりの電極211、211が配設されたプラズマ発生部210に供給される。前記作動ガス供給手段としては、市販のガスボンベ、コンプレッサ、ブロア、窒素ガス供給装置などを利用できる。
【0025】
電極211、211は、作動ガス271の進行方向に沿って電極間の距離が増大するようにプラズマ発生部210に配設されている。電源251による印加電圧が電極211、211間最短ギャップの絶縁破壊電圧に達すると、電極211、211間に供給された作動ガス271は、最短ギャップ位置にスパークを生じてプラズマ261が発生する。
プラズマ261は、電流路部分のプラズマであるアークコラムと弱電離プラズマ状態のプルームから構成される。
【0026】
前記アークコラムは、供給される作動ガス271のガス流により押し出されて電極211、211に沿って下流へと移動する。前記アークコラムが所定長さまで伸長すると、アークコラムの放電維持電圧が印加電圧を超え、前記アークコラムは自己消弧する。
このとき、前記プルームも作動ガス271のガス流により押し出され、射出口の方向へ進行する。
【0027】
電極211、211の先端が前記射出口より内側に位置しているので、前記射出口における高速のガス流速によってアークコラムが冷却されるため、前記射出口より外にアークコラムが出にくくなり、前記アークコラムの到達範囲が縮小される。したがって、前記アークスポットの発生を防止して、陰極基板100表面に弱電離プラズマ状態であるプルームを高効率に照射することができる。
【0028】
よって、陰極基板100上に形成された電界電子放出材料103に含まれるカーボンナノツイストの良好な表面処理(起毛処理)を行うことができ又、有機バインダの除去処理等を行うことができ、電子放出ムラが少なく、電子放出特性に優れた電界電子放出源を製造することができる。
【0029】
図3は、本実施の形態において使用するスプリットグライディングアーク(SGA)法を用いたプラズマ生成装置300の部分構成図で、同図(a)は正面図、同図(b)はブロック部材301の底面図である。尚、図2と同一部分には同一符号を付している。304は電源からの電力を供給するためのケーブルである。
スプリットグライディングアーク法は、アークスポットの発生を良好に抑制できるため、処理対象物表面にダメージを与えないという特質を有している。
【0030】
図3に示したプラズマ生成装置300は、図2に示したプラズマ生成装置200の射出口前面に複数のジェット噴き出し口である貫通孔302を有するブロック部材301を配置した構成である。ブロック部材301には複数の円柱状の貫通孔302が等間隔に形成されている。大気圧プラズマが、円筒または円錐状のジェット状になるように、ジェット噴出し口である貫通孔302の直径は2mm以下に設定されている。
【0031】
このようにして、前記ブロック部材301によりプラズマの電流路であるアークコラムを遮断して、弱電離プラズマであるプルーム303のみを被処理物表面に照射する。
よって、アークスポットの発生が防止され、陰極基板100上に形成された炭素物質に含まれるカーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103の良好な表面処理(カーボンナノツイストの起毛処理)や有機バインダの除去処理等を行うことができ、電子放出特性に優れた電界電子放出源を製造することができる。
【0032】
本実施の形態では、ブロック部材301から陰極基板100までの距離を5mm、消費電力を200〜250W、駆動電力波形をパルス30kHz、ガス流量を40L/minとし、陰極基板100に対して、図3に示すスプリットグライディングアーク処理を行い、電界電子放出源を作成した。
【0033】
図4に本実施の形態におけるスプリットグライディングアーク処理前後の基板表面状態の比較を示す。
未処理の状態では、カーボンナノツイストは有機バインダの残渣分と一体となっており、表面に起毛したカーボンナノツイストはほとんど見られない(同図4(a))。
これに対して、大気又はN2に1%のH2を混合したガスでスプリットグライディングアーク処理した後は、表面の有機バインダ残渣分が除去され又、カーボンナノツイストが基板面から起立(起毛)していることが確認できる(同図(b)、(c))。同図(b)、(c)から解るように、有機バインダの除去効果や起毛効果の程度はガス種に依存しない。
【0034】
次に、前記電界電子放出源の電子放出特性について説明する。
図5に、前記電界電子放出源の電子放出特性を測定する測定装置の概要を示す。
図5において、カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103、陰極電極102及びガラス基板101が積層された電界電子放出源501と、陽極電極502を有しガラス基板101に対向する位置に配設されたガラス基板503とをスペーサ504、504によって所定間隔に保持した状態で真空チャンバ505内に収容した。
この状態で、陰極電極102と陽極電極502間に電源506から電圧を印加して、電流計507に流れる電流を側定した。
【0035】
図6は、本発明の実施の形態によって製造した電界電子放出源の印加電圧に対するエミッション電流の比較(I-V特性)を示す特性図で、複数の処理速度について、スプリットグライディングアーク処理前後の特性を示している。
処理前の特性では850V程度でエミッションが確認されたのに対し、処理後の特性では500V程度でエミッションが確認できた。
【0036】
また、エミッション確認後の電圧に対するエミッション増加率も処理後の方が格段に向上している。また、粘着テープを使用した起毛方法に比べてムラが少ないという効果がみられた。
尚、前記実施の形態では大気開放でプラズマ処理を行ったが、大気圧の1/10〜数気圧までは、類似形態のプラズマが発生することは一般的に予想され、0.1atmから2atmの圧力範囲では同様に処理が可能である。
【0037】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。誘電体バリア放電は2つの電極のうち少なくとも片方の電極が誘電体で部分的に覆われた電極間にストリーマ状の放電を巨視的時間軸で(肉眼で判断できる時間で見て)複数個(2個以上)同時に発生させるものである。
プラズマとして、誘電体バリア放電(平衡平板電極、同軸円筒電極などの少なくとも一方の電極に誘電体を配し、電極間に交流又はパルス電圧を印加すると誘電体バリア放電が発生する。)、ストリーマ放電(一般的な誘電体バリア放電の形態であり、細い放電柱(フィラメント)が電極全面に単数または多数現れる。ガス種はヘリウム以外が使用される。)、グロー放電(誘電体バリア放電部に大気圧のヘリウムを導入して交流電圧またはパルス電圧を印加すると均一な放電が容易に得られる。)がある。
【0038】
前記いずれの場合も使用可能であり、ここでは、誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでプラズマ処理を行うことによって電界電子放出源を製造する方法について説明する。
誘電体バリア放電は、2つの電極のうち少なくとも片方の電極が誘電体で部分的に覆われた電極間に発生させるものであり、誘電体バリア放電ストリーマ放電モードは、電極間にグロー状でなく、ストリーマ状の放電が発生するものである。
【0039】
図7は、誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでのプラズマ処理を行うプラズマ生成装置の概略構成図である。
図7において、対向配設された2つの電極701、702には、各々、両電極701、702の対向面側に誘電体(例えばガラスあるいはセラミック)703、704が設けられている。一方の誘電体704上には、導電性シリコン基板101、陰極電極102及びカーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103が積層された陰極基板100が配設されている。
【0040】
本実施の形態では、誘電体703、704間のギャップを1mm、導電性シリコン基板101の厚さを0.38mm、電子放出源膜厚を50μm、電極701、702間の印加電圧を9kV、周波数30MHz、パルス幅2〜3μsec、作動ガスとしてN2、前記ガスの流量を2L/min、処理時間を10秒として、陰極基板100に対して、誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでのプラズマ処理を行った。
【0041】
バリア放電において、ストリーマ状のプラズマを発生させるためには、作動ガスとして空気又は窒素ガスを用いるのがよい。また、それらに水素を微量(10%以下)混ぜてもよい。
尚、このとき、放電状態がグロー状でなく、ストリーマ状であり、そのストリーマ705の直径が2mm以下になるように大気圧プラズマを発生させることにより、電界電子放出源に良好な電子放出能力を与えることができる。
【0042】
図8は、前述した誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでプラズマ処理を行う前後の、カーボンナノツイストを含む炭素物質の走査型電子顕微鏡写真である。
プラズマ処理前はカーボンナノツイストが固まりになっているが(同図(a))、プラズマ処理後は起毛効果が現れている(同図(b))。また、粘着テープを使用した起毛方法に比べてムラが少ない。
【0043】
図9に、前記DBDストリーマ放電処理前後の印加電圧に対するエミッション電流の比較(I-V特性)を示す。
前記I−V特性は図5の測定装置を用いて測定した。測定は真空チャンバ505内の真空度10−4〜10−5Pa、電極間のギャップ長100μm、陰極電極面積12.5mm2として行った。
図9に示すように、エミッションの立ち上がり電圧がプラズマ処理前は約800Vであるのに対し、プラズマ処理後は約300Vに低下しており、優れた電子放出能力が得られている。
【0044】
以上述べたように、本実施の形態に係る電子放出源の製造方法では、ナノ繊維を含む電界電子放出材料(例えば炭素物質)を陰極に用いた電界電子放出源において、陰極表面に大気圧プラズマを照射することによってナノ繊維の起毛処理を行い、電界放出能力を改善した電界電子放出源を製造するようにしている。
【0045】
また、基板上に有機バインダ層とともに形成したナノ繊維に大気圧プラズマを照射することで、基板面に対してナノ繊維を上向きに起毛(起毛効果)のみならず、有機バインダの除去処理、プラズマ圧によるカーボンナノツイスト等のナノ繊維集合の破裂的ほぐし(ほぐし効果)、及び、ナノ繊維間の密着性を低下させる効果(焼成効果)を同時に実現するので、カーボンナノツイスト等のナノ繊維の先端部により電界が集中して電子放出特性を増大させる効果が得られる。
また、ストリーマ放電を用いることにより、より優れた電子放出能力を得ることが可能になる。
【0046】
尚、前記実施の形態ではナノ繊維としてカーボンナノツイストの例を挙げたが、必ずしもこれに限定されない。炭素繊維系のナノ繊維として、単層又は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、ヘリカルカーボンナノファイバ(カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンナノロープ)又はグラファイトナノファイバが使用できる。
【0047】
また、ナノ繊維は、必ずしも炭素繊維である必要はなく、電子放出が可能なナノサイズ(例えば、繊維径が0.5nm〜500nm)の繊維状の材料であればよい。
また、前述したバリア放電法では室温〜100℃の範囲でプラズマを発生することができ(低温プラズマ)、PENジェット法、グライディングアーク法、スプリットグライディングアーク法では100℃〜500℃の範囲でもプラズマを発生することが可能である(中温プラズマ)。例えば、Co、Fe、Cu、Zn等のナノ金属繊維やこれらの金属酸化物、金属窒化物、ZnO、GaN、BN、Si、TiO2等の半導体材料のナノ繊維でもよい。
【0048】
また、前記大気圧プラズマは、交流もしくはパルス状電力によって発生させられたプラズマであり、バリア放電、グライディングアーク、スプリットグライディングアーク、ペンジェットのいずれでも可能である。
また、前記大気圧プラズマの照射は大気開放下で行うようにしても前記同様の効果が得られる。
【0049】
また、前記大気圧プラズマの作動ガスとして、空気、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、水素、一酸化炭酸、二酸化酸素のいずれか、もしくは、それらの2種以上の混合ガスを使用して良好な電子放出能力を得ることができる。
また、前記ナノ繊維が前記炭素繊維系の材料の場合、アーク放電法、CVD法、あるいは、レーザ蒸発法によって形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ナノ繊維を含む電界電子放出材料を陰極に用いた各種用途の電界電子放出源の製造方法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る電界電子放出源の製造方法の手順を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態において使用するプラズマ生成装置の概略構成図である。
【図3】本発明の実施の形態において使用するプラズマ生成装置の部分構成図である。
【図4】プラズマ処理前後の基板表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施の形態において電界電子放出源の電子放出特性を測定する測定装置の概略図である。
【図6】スプリットグライディングアーク処理前後の印加電圧に対するエミッション電流(I-V特性)を示す特性図である。
【図7】誘電体バリア放電ストリーマ放電モードでのプラズマ処理を行うプラズマ生成装置の概略構成図である。
【図8】誘電体バリア放電ストリーマ放電モードでプラズマ処理を行う前後のカーボンナノツイストを含む炭素物質の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】ストリーマ放電処理前後の印加電圧に対するエミッション電流(I-V特性)を示す特性図である。
【符号の説明】
【0052】
100・・・陰極基板
101・・・ガラス基板
102・・・陰極電極
103・・・電界電子放出材料
104・・・枠
105・・・粘着テープ
200、300・・・プラズマ生成装置
210・・・プラズマ発生部
211・・・電極
221・・・作動ガス供給路
231・・・ノズル部材
241・・・供給管
251・・・電源
261・・・プラズマ
271・・・作動ガス
301・・・ブロック部材
302・・・貫通孔
303・・・プルーム
304・・・ケーブル
501・・・電界電子放出源
502・・・陽極電極
503・・・ガラス基板
504・・・スペーサ
505・・・真空チャンバ
506・・・電源
507・・・電流計
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ繊維を陰極に用いた電界電子放出源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子線で蛍光体を励起して表示を行う薄型の画像表示装置の開発が盛んになっており、この電子源としては電界電子放出源を用いた冷陰極が用いられる。電界電子放出源の材料としてナノ繊維、その中でも特に炭素原子の六員環ネットが円筒状となったカーボンナノチューブ(CNT)が注目されている。
CNTは直径が数nm〜数100nm程度、長さが数μmから1mm程度であり先端の曲率半径が小さく全体が細長い形状であるため電界が集中し易い。また炭素は化学的に安定であることから電子放出源に極めて好適と考えられている。
【0003】
CNTを画像表示装置の電子源として用いるときは、CNTと有機バインダとを混合した粘性溶液(ペースト)を作り、これをスクリーン印刷で基板上の所定位置に印刷し、乾燥、焼成して用いることが多い。しかしこの場合、CNTは有機バインダ層に埋もれたり、互いに絡み合ったりしてCNT先端に電界が掛からないことが少なくなく、十分な電子放出が得られないことが多かった。
【0004】
そこで特許文献1及び2に記載されているように有機バインダ層をプラズマエッチングで除去し、CNTを有機バインダ類層の表面に露出させて電子放出能力を高める処理が開発された。
ここで表面処理に用いられるプラズマの生成技術としては、コロナ放電、グロー放電、誘電体バリア放電(DBD:Dielectric Barrier Discharge)、RF放電、マイクロ波放電、アーク放電などがあり、従来のプラズマ生成技術では、ヘリウム、アルゴン、室内空気、乾燥空気などが作動ガスとして用いられていた。
【0005】
また、プラズマを発生させる電極としては、グライディングアーク型、スプリットグライディングアーク型、ペンジェット型又は誘電体バリア放電(DBD)型などがある。
前記グライディングアーク型電極は、ガス流中に配置した2つの電極間に直流、交流又はパルス電圧を印加し、電極間およびガス下流に向かってプラズマを発生させるものであり、非特許文献1などに記載されている。
【0006】
前記スプリットグライディングアーク型電極は、プラズマの電流路であるアークコラムの影響を排除して弱電離プラズマであるプルームのみによって被処理物を処理するために、複数の穴を介してプラズマを発生するようにしたもので、特許文献3等に記載されている。
前記ペンジェット型電極は、ガス流中に配置した棒状電極とリング状若しくは円筒状電極との間に、直流、交流あるいはパルス電圧を印加し、リング状若しくは円筒状電極の孔部からプラズマを放出するものであり、非特許文献2などに記載されている。
【0007】
前記誘電体バリア放電(DBD)は、2つの電極のうち少なくとも片方の電極が誘電体で部分的に覆われた電極間にグロー状あるいはストリーマ状の放電を発生させるというものであり、非特許文献3などに記載されている。
このように構成された電子源は、CNTが有機バインダ層の表面に露出しているのでCNTの先端部に電界が集中して電子が出易くなり、また電子放出ポイントも増加するのでエミッション電流が向上する。
【0008】
しかしながら、この場合でもCNTが基板面から起立していることは稀であり、基板面と平行に寝ていることが多い。前記有機バインダと混合した粘性溶液中でCNTの軸線方向はランダムに分布していると思われるが、基板上に粘性溶液をスクリーン印刷すると、スキージの動きで粘性溶液が基板面に延ばされてCNTは基板面と平行に配向されるからである。
更にCNTが多数絡み合って電界集中しづずらい状態になっていることもあった。
このためCNTが有機バインダ層の表面に露出して基板面から起立している場合と比較して電子放出特性が劣ってしまう問題があった。
【0009】
この問題を解決する方法として、粘着テープを使用し、長軸方向が基板面と平行に寝ているCNTを、基板面に垂直に起立させる起毛処理方法が考えられている。前記粘着テープを使用した起毛処理方法は、基板に被着したCNT上に粘着テープを貼り付けた後、前記粘着テープを剥がすことによって、前記CNTを起毛させる方法である。
この方法では、十分均一な起毛が行われないため高い電子放出能力は得られず又、全く起毛されていない部分や多く起毛されている部分が形成され、同一基板内でも場所によって電子放出にムラが生じるという問題がある。また、最近の環境問題から廃棄テープが出ることも好ましくない。
【0010】
【特許文献1】特開2000−36243号公報
【特許文献2】特開2001−35361号公報
【特許文献3】特開2006−277953号公報
【非特許文献1】A.Czemichowski:Gliding Arc.Applications to engineering and environment control, Pure and Applied Chemical, Vol.666(1994)pp.1301−1310
【非特許文献2】J.Toshifuji,T.Katsumata,H.Takikawa,T.Sakakibara,I.Shimizu:Cold arc-plasma jet under atmospheric pressure for surface modification,Surface and Coatings Technology,171(2003)pp.302−306
【非特許文献3】X.Xu:Dielectric barrier discharge - properties and applications,Thin Solid Films,Vol.390(2001)pp.237−242
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記問題に鑑み成されたもので、ナノ繊維を含む電界電子放出材料を用いて、良好な起毛処理を行うことにより、電子放出能力の高い電界電子放出源を製造することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ナノ繊維を含む電界電子放出材料を陰極に用いた電界電子放出源の製造方法において、前記ナノ繊維を含む電界電子放出材料及びバインダの混合物を基板上に設けた後に、その表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマを照射して前記バインダを除去すると共に前記ナノ繊維の起毛処理を行うことを特徴とする電界電子放出源の製造方法が提供される。
ナノ繊維を含む電界電子放出材料及びバインダの混合物を基板上に設けた後に、その表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマを照射して前記バインダを除去すると共に前記ナノ繊維の起毛処理を行うことにより電界電子放出源が製造される。
【0013】
ここで、前記ナノ繊維が単層又は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、ヘリカルカーボンナノファイバ又はグラファイトナノファイバであってもよい。
また、前記ナノ繊維がカーボン以外の金属又は半導体材料から成るナノ繊維であってもい。
また、前記大気圧プラズマの照射が大気開放下で行うようにしてもよい。
また、前記大気圧プラズマが交流もしくはパルス状電力によって発生させられたプラズマであり、誘電体バリア放電、グライディングアーク、スプリットグライディングアーク、ペンジェットのいずれかであるようにしてもよい。
【0014】
また、前記大気圧プラズマが直径が2mm以下のジェット噴出し口から出力された円筒または円錐状のジェット状であるようにしてもよい。
また、前記大気圧プラズマが誘電体バリア放電の場合、放電状態がグロー状でなく、2個以上のストリーマ状であり、そのストリーマの直径が2mm以下であるようにしてもよい。
また、前記大気圧プラズマの作動ガスが、空気、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、水素、一酸化炭酸、二酸化酸素のいずれか、もしくは、それらの2種以上の混合ガスであるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ナノ繊維を含む電界電子放出材料を用いて、良好な起毛処理を行うことができるため、電子放出能力の高い電界電子放出源を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る電界電子放出源の製造方法では、絶縁基板上に設けられた陰極電極上に、ナノ繊維を含む電界電子放出材料(電界の作用によって電子を放出する材料であり、例えば炭素物質)を被着することによって陰極基板を形成し、前記陰極基板に対して所定条件下で大気圧プラズマ処理を施すことによって電界電子放出源を製造するようにしている。
【0017】
前記陰極基板の製造工程を図1に沿って説明すると、先ず有機バインダとしてエチルセルロースをテルピオネールに溶解した溶液を用いて、この溶液に、ナノ繊維としてカーボンナノツイスト(CNTw)を含む電界電子放出材料103を混合して乳鉢で30分間分散させて粘性溶液(ペースト)を作った。
電界電子放出材料103にはカーボンナノツイスト以外にもカーボンナノツイスト製造時に用いる金属触媒他の物質が含まれ、カーボンナノツイスト及びこれらの物質も含めて電界電子放出材料103として使用する。尚、カーボンナノツイスト、カーボンナノファイバ、カーボンナノグラファイト、単層・多層カーボンナノチューブはほぼ100%の純度で合成可能である。カーボンナノコイルは、30〜50%の純度であり炭素系の不純物を含む。
【0018】
次に、陰極電極102が形成されたガラス基板101上に厚さ200μmの粘着テープ(3M製スコッチテープ)をスペーサ105として貼り付けて、枠104を形成した(図1(a))。
そして、陰極電極102上に前記ペーストを塗布し(同図(b))、スペーサ105上にスキージを載せて移動させ前記ペーストの塗膜を形成した(同図(c))。
【0019】
次にスペーサ105を除去することによって枠104内のみに前記ペーストを残した後に(同図(d))、これらを含むガラス基板101全体を空気中120℃で2時間乾燥し、その後空気中400℃で1時間焼成した。
このようにして、ガラス基板101上に陰極電極102、カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103の膜(例えばナノカーボン膜)が積層された陰極基板100を作成した。
【0020】
本実施の形態では、大きさが□30mmで厚さ1.1mmのホウケイ酸ガラス基板101上に陰極電極102を形成し、その上に□18mmの大きさに有機バインダとともカーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103を積層形成した後、前記有機バインダを除去することによって陰極基板100を形成した。
【0021】
尚、カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103を陰極電極102上に形成して陰極基板100を製造する方法としては、例えば、直接合成法、あるいは、塗布印刷法(例えば、スプレー法、電着法、メッキ法、スキージ法、スクリーンプリント法、グラビア印刷法、インクジェット法、バルブジェット(登録商標)法、エレクトリックスプレー法)がある。
【0022】
図2に、本実施の形態において使用するグライディングアーク(GA)法を用いたプラズマ生成装置の概略構成図を示す。
グライディングアーク法は、(1)最短ギャップでアーク放電を開始し、(2)アーク陽光柱をガス流で押し出し、(3)対流で熱拡散して非熱平衡状態に移行し、(4)熱損失が入力を超えると陽光柱が消滅する、という(1)〜(4)の動作を繰り返して行うもので、大面積処理が可能という特徴を有している。また、どの様なガスでもプラズマ化するため、作動ガスとして空気を使用することが可能である。
【0023】
プラズマ生成装置200から照射されたプラズマ261により陰極基板100上部表面(カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103が被着された面)を処理する。プラズマ生成装置200は、プラズマ発生部210、作動ガス供給路221、電圧供給用電源251を備えている。電源251は、一般的な高電圧直流電源、高電圧交流電源、高電圧パルス電源などを使用できる。
【0024】
作動ガス供給路221がノズル部材231に形成され、プラズマ発生部210がノズル部材231内に配設されている。作動ガス供給手段により大気圧以上又は大気圧近傍の作動ガス271が供給管241を通して作動ガス供給路221に導入され、作動ガス271は作動ガス供給路221を流通して末広がりの電極211、211が配設されたプラズマ発生部210に供給される。前記作動ガス供給手段としては、市販のガスボンベ、コンプレッサ、ブロア、窒素ガス供給装置などを利用できる。
【0025】
電極211、211は、作動ガス271の進行方向に沿って電極間の距離が増大するようにプラズマ発生部210に配設されている。電源251による印加電圧が電極211、211間最短ギャップの絶縁破壊電圧に達すると、電極211、211間に供給された作動ガス271は、最短ギャップ位置にスパークを生じてプラズマ261が発生する。
プラズマ261は、電流路部分のプラズマであるアークコラムと弱電離プラズマ状態のプルームから構成される。
【0026】
前記アークコラムは、供給される作動ガス271のガス流により押し出されて電極211、211に沿って下流へと移動する。前記アークコラムが所定長さまで伸長すると、アークコラムの放電維持電圧が印加電圧を超え、前記アークコラムは自己消弧する。
このとき、前記プルームも作動ガス271のガス流により押し出され、射出口の方向へ進行する。
【0027】
電極211、211の先端が前記射出口より内側に位置しているので、前記射出口における高速のガス流速によってアークコラムが冷却されるため、前記射出口より外にアークコラムが出にくくなり、前記アークコラムの到達範囲が縮小される。したがって、前記アークスポットの発生を防止して、陰極基板100表面に弱電離プラズマ状態であるプルームを高効率に照射することができる。
【0028】
よって、陰極基板100上に形成された電界電子放出材料103に含まれるカーボンナノツイストの良好な表面処理(起毛処理)を行うことができ又、有機バインダの除去処理等を行うことができ、電子放出ムラが少なく、電子放出特性に優れた電界電子放出源を製造することができる。
【0029】
図3は、本実施の形態において使用するスプリットグライディングアーク(SGA)法を用いたプラズマ生成装置300の部分構成図で、同図(a)は正面図、同図(b)はブロック部材301の底面図である。尚、図2と同一部分には同一符号を付している。304は電源からの電力を供給するためのケーブルである。
スプリットグライディングアーク法は、アークスポットの発生を良好に抑制できるため、処理対象物表面にダメージを与えないという特質を有している。
【0030】
図3に示したプラズマ生成装置300は、図2に示したプラズマ生成装置200の射出口前面に複数のジェット噴き出し口である貫通孔302を有するブロック部材301を配置した構成である。ブロック部材301には複数の円柱状の貫通孔302が等間隔に形成されている。大気圧プラズマが、円筒または円錐状のジェット状になるように、ジェット噴出し口である貫通孔302の直径は2mm以下に設定されている。
【0031】
このようにして、前記ブロック部材301によりプラズマの電流路であるアークコラムを遮断して、弱電離プラズマであるプルーム303のみを被処理物表面に照射する。
よって、アークスポットの発生が防止され、陰極基板100上に形成された炭素物質に含まれるカーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103の良好な表面処理(カーボンナノツイストの起毛処理)や有機バインダの除去処理等を行うことができ、電子放出特性に優れた電界電子放出源を製造することができる。
【0032】
本実施の形態では、ブロック部材301から陰極基板100までの距離を5mm、消費電力を200〜250W、駆動電力波形をパルス30kHz、ガス流量を40L/minとし、陰極基板100に対して、図3に示すスプリットグライディングアーク処理を行い、電界電子放出源を作成した。
【0033】
図4に本実施の形態におけるスプリットグライディングアーク処理前後の基板表面状態の比較を示す。
未処理の状態では、カーボンナノツイストは有機バインダの残渣分と一体となっており、表面に起毛したカーボンナノツイストはほとんど見られない(同図4(a))。
これに対して、大気又はN2に1%のH2を混合したガスでスプリットグライディングアーク処理した後は、表面の有機バインダ残渣分が除去され又、カーボンナノツイストが基板面から起立(起毛)していることが確認できる(同図(b)、(c))。同図(b)、(c)から解るように、有機バインダの除去効果や起毛効果の程度はガス種に依存しない。
【0034】
次に、前記電界電子放出源の電子放出特性について説明する。
図5に、前記電界電子放出源の電子放出特性を測定する測定装置の概要を示す。
図5において、カーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103、陰極電極102及びガラス基板101が積層された電界電子放出源501と、陽極電極502を有しガラス基板101に対向する位置に配設されたガラス基板503とをスペーサ504、504によって所定間隔に保持した状態で真空チャンバ505内に収容した。
この状態で、陰極電極102と陽極電極502間に電源506から電圧を印加して、電流計507に流れる電流を側定した。
【0035】
図6は、本発明の実施の形態によって製造した電界電子放出源の印加電圧に対するエミッション電流の比較(I-V特性)を示す特性図で、複数の処理速度について、スプリットグライディングアーク処理前後の特性を示している。
処理前の特性では850V程度でエミッションが確認されたのに対し、処理後の特性では500V程度でエミッションが確認できた。
【0036】
また、エミッション確認後の電圧に対するエミッション増加率も処理後の方が格段に向上している。また、粘着テープを使用した起毛方法に比べてムラが少ないという効果がみられた。
尚、前記実施の形態では大気開放でプラズマ処理を行ったが、大気圧の1/10〜数気圧までは、類似形態のプラズマが発生することは一般的に予想され、0.1atmから2atmの圧力範囲では同様に処理が可能である。
【0037】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。誘電体バリア放電は2つの電極のうち少なくとも片方の電極が誘電体で部分的に覆われた電極間にストリーマ状の放電を巨視的時間軸で(肉眼で判断できる時間で見て)複数個(2個以上)同時に発生させるものである。
プラズマとして、誘電体バリア放電(平衡平板電極、同軸円筒電極などの少なくとも一方の電極に誘電体を配し、電極間に交流又はパルス電圧を印加すると誘電体バリア放電が発生する。)、ストリーマ放電(一般的な誘電体バリア放電の形態であり、細い放電柱(フィラメント)が電極全面に単数または多数現れる。ガス種はヘリウム以外が使用される。)、グロー放電(誘電体バリア放電部に大気圧のヘリウムを導入して交流電圧またはパルス電圧を印加すると均一な放電が容易に得られる。)がある。
【0038】
前記いずれの場合も使用可能であり、ここでは、誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでプラズマ処理を行うことによって電界電子放出源を製造する方法について説明する。
誘電体バリア放電は、2つの電極のうち少なくとも片方の電極が誘電体で部分的に覆われた電極間に発生させるものであり、誘電体バリア放電ストリーマ放電モードは、電極間にグロー状でなく、ストリーマ状の放電が発生するものである。
【0039】
図7は、誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでのプラズマ処理を行うプラズマ生成装置の概略構成図である。
図7において、対向配設された2つの電極701、702には、各々、両電極701、702の対向面側に誘電体(例えばガラスあるいはセラミック)703、704が設けられている。一方の誘電体704上には、導電性シリコン基板101、陰極電極102及びカーボンナノツイストを含む電界電子放出材料103が積層された陰極基板100が配設されている。
【0040】
本実施の形態では、誘電体703、704間のギャップを1mm、導電性シリコン基板101の厚さを0.38mm、電子放出源膜厚を50μm、電極701、702間の印加電圧を9kV、周波数30MHz、パルス幅2〜3μsec、作動ガスとしてN2、前記ガスの流量を2L/min、処理時間を10秒として、陰極基板100に対して、誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでのプラズマ処理を行った。
【0041】
バリア放電において、ストリーマ状のプラズマを発生させるためには、作動ガスとして空気又は窒素ガスを用いるのがよい。また、それらに水素を微量(10%以下)混ぜてもよい。
尚、このとき、放電状態がグロー状でなく、ストリーマ状であり、そのストリーマ705の直径が2mm以下になるように大気圧プラズマを発生させることにより、電界電子放出源に良好な電子放出能力を与えることができる。
【0042】
図8は、前述した誘電体バリア放電(DBD)ストリーマ放電モードでプラズマ処理を行う前後の、カーボンナノツイストを含む炭素物質の走査型電子顕微鏡写真である。
プラズマ処理前はカーボンナノツイストが固まりになっているが(同図(a))、プラズマ処理後は起毛効果が現れている(同図(b))。また、粘着テープを使用した起毛方法に比べてムラが少ない。
【0043】
図9に、前記DBDストリーマ放電処理前後の印加電圧に対するエミッション電流の比較(I-V特性)を示す。
前記I−V特性は図5の測定装置を用いて測定した。測定は真空チャンバ505内の真空度10−4〜10−5Pa、電極間のギャップ長100μm、陰極電極面積12.5mm2として行った。
図9に示すように、エミッションの立ち上がり電圧がプラズマ処理前は約800Vであるのに対し、プラズマ処理後は約300Vに低下しており、優れた電子放出能力が得られている。
【0044】
以上述べたように、本実施の形態に係る電子放出源の製造方法では、ナノ繊維を含む電界電子放出材料(例えば炭素物質)を陰極に用いた電界電子放出源において、陰極表面に大気圧プラズマを照射することによってナノ繊維の起毛処理を行い、電界放出能力を改善した電界電子放出源を製造するようにしている。
【0045】
また、基板上に有機バインダ層とともに形成したナノ繊維に大気圧プラズマを照射することで、基板面に対してナノ繊維を上向きに起毛(起毛効果)のみならず、有機バインダの除去処理、プラズマ圧によるカーボンナノツイスト等のナノ繊維集合の破裂的ほぐし(ほぐし効果)、及び、ナノ繊維間の密着性を低下させる効果(焼成効果)を同時に実現するので、カーボンナノツイスト等のナノ繊維の先端部により電界が集中して電子放出特性を増大させる効果が得られる。
また、ストリーマ放電を用いることにより、より優れた電子放出能力を得ることが可能になる。
【0046】
尚、前記実施の形態ではナノ繊維としてカーボンナノツイストの例を挙げたが、必ずしもこれに限定されない。炭素繊維系のナノ繊維として、単層又は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、ヘリカルカーボンナノファイバ(カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンナノロープ)又はグラファイトナノファイバが使用できる。
【0047】
また、ナノ繊維は、必ずしも炭素繊維である必要はなく、電子放出が可能なナノサイズ(例えば、繊維径が0.5nm〜500nm)の繊維状の材料であればよい。
また、前述したバリア放電法では室温〜100℃の範囲でプラズマを発生することができ(低温プラズマ)、PENジェット法、グライディングアーク法、スプリットグライディングアーク法では100℃〜500℃の範囲でもプラズマを発生することが可能である(中温プラズマ)。例えば、Co、Fe、Cu、Zn等のナノ金属繊維やこれらの金属酸化物、金属窒化物、ZnO、GaN、BN、Si、TiO2等の半導体材料のナノ繊維でもよい。
【0048】
また、前記大気圧プラズマは、交流もしくはパルス状電力によって発生させられたプラズマであり、バリア放電、グライディングアーク、スプリットグライディングアーク、ペンジェットのいずれでも可能である。
また、前記大気圧プラズマの照射は大気開放下で行うようにしても前記同様の効果が得られる。
【0049】
また、前記大気圧プラズマの作動ガスとして、空気、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、水素、一酸化炭酸、二酸化酸素のいずれか、もしくは、それらの2種以上の混合ガスを使用して良好な電子放出能力を得ることができる。
また、前記ナノ繊維が前記炭素繊維系の材料の場合、アーク放電法、CVD法、あるいは、レーザ蒸発法によって形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ナノ繊維を含む電界電子放出材料を陰極に用いた各種用途の電界電子放出源の製造方法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る電界電子放出源の製造方法の手順を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態において使用するプラズマ生成装置の概略構成図である。
【図3】本発明の実施の形態において使用するプラズマ生成装置の部分構成図である。
【図4】プラズマ処理前後の基板表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施の形態において電界電子放出源の電子放出特性を測定する測定装置の概略図である。
【図6】スプリットグライディングアーク処理前後の印加電圧に対するエミッション電流(I-V特性)を示す特性図である。
【図7】誘電体バリア放電ストリーマ放電モードでのプラズマ処理を行うプラズマ生成装置の概略構成図である。
【図8】誘電体バリア放電ストリーマ放電モードでプラズマ処理を行う前後のカーボンナノツイストを含む炭素物質の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】ストリーマ放電処理前後の印加電圧に対するエミッション電流(I-V特性)を示す特性図である。
【符号の説明】
【0052】
100・・・陰極基板
101・・・ガラス基板
102・・・陰極電極
103・・・電界電子放出材料
104・・・枠
105・・・粘着テープ
200、300・・・プラズマ生成装置
210・・・プラズマ発生部
211・・・電極
221・・・作動ガス供給路
231・・・ノズル部材
241・・・供給管
251・・・電源
261・・・プラズマ
271・・・作動ガス
301・・・ブロック部材
302・・・貫通孔
303・・・プルーム
304・・・ケーブル
501・・・電界電子放出源
502・・・陽極電極
503・・・ガラス基板
504・・・スペーサ
505・・・真空チャンバ
506・・・電源
507・・・電流計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ繊維を含む電界電子放出材料を陰極に用いた電界電子放出源の製造方法において、
前記ナノ繊維を含む電界電子放出材料及びバインダの混合物を基板上に設けた後に、その表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマを照射して前記バインダを除去すると共に前記ナノ繊維の起毛処理を行うことを特徴とする電界電子放出源の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ繊維が、単層又は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、ヘリカルカーボンナノファイバ又はグラファイトナノファイバであることを特徴とする請求項1記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ繊維が、金属又は半導体材料から成ることを特徴とする請求項1記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項4】
前記大気圧プラズマの照射が大気開放下で行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項5】
前記大気圧プラズマが交流もしくはパルス状電力によって発生させられたプラズマであり、誘電体バリア放電、グライディングアーク、スプリットグライディングアーク、ペンジェットのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項6】
前記大気圧プラズマが直径が2mm以下のジェット噴出し口から出力された円筒または円錐状のジェット状であることを特徴とする請求項5記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項7】
前記大気圧プラズマが誘電体バリア放電の場合、放電状態がグロー状でなく、2個以上のストリーマ状であり、そのストリーマの直径が2mm以下であることを特徴とする請求項5記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項8】
前記大気圧プラズマの作動ガスが空気、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、水素、一酸化炭酸、二酸化酸素のいずれか、もしくは、それらの2種以上の混合ガスであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一に記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項1】
ナノ繊維を含む電界電子放出材料を陰極に用いた電界電子放出源の製造方法において、
前記ナノ繊維を含む電界電子放出材料及びバインダの混合物を基板上に設けた後に、その表面に0.1atmから2atmの圧力範囲で発生させた大気圧プラズマを照射して前記バインダを除去すると共に前記ナノ繊維の起毛処理を行うことを特徴とする電界電子放出源の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ繊維が、単層又は多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、ヘリカルカーボンナノファイバ又はグラファイトナノファイバであることを特徴とする請求項1記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ繊維が、金属又は半導体材料から成ることを特徴とする請求項1記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項4】
前記大気圧プラズマの照射が大気開放下で行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項5】
前記大気圧プラズマが交流もしくはパルス状電力によって発生させられたプラズマであり、誘電体バリア放電、グライディングアーク、スプリットグライディングアーク、ペンジェットのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項6】
前記大気圧プラズマが直径が2mm以下のジェット噴出し口から出力された円筒または円錐状のジェット状であることを特徴とする請求項5記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項7】
前記大気圧プラズマが誘電体バリア放電の場合、放電状態がグロー状でなく、2個以上のストリーマ状であり、そのストリーマの直径が2mm以下であることを特徴とする請求項5記載の電界電子放出源の製造方法。
【請求項8】
前記大気圧プラズマの作動ガスが空気、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、水素、一酸化炭酸、二酸化酸素のいずれか、もしくは、それらの2種以上の混合ガスであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一に記載の電界電子放出源の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−59526(P2009−59526A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224313(P2007−224313)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
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