説明

電着工具

【課題】歯形の表面に砥粒層が形成された電着工具において、この砥粒層に研削油剤を確実に保持してワークの加工部位に供給し、加工時に発生する切粉や加工熱を効率的に除去することが可能な電着工具を提供する。
【解決手段】台金1に形成された歯形2の表面に砥粒3aが電着されて砥粒層3が形成されてなる電着工具であって、砥粒層3の表面に多数のディンプル4を形成する。ディンプル4は、砥粒3aの平均粒径よりも径Xが大きく、かつ深さYが浅く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台金に形成された歯形の表面に砥粒が電着された、電着ネジ状工具等の電着工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電着工具は、砥粒層が形成された歯形をワークとしての歯車や内歯車型砥石等の歯形に噛合させて回転することにより、歯車の歯を仕上げ加工したり内歯車型砥石等の歯形の砥粒層をドレッシングしたりするのに使用される。このうち、内歯車型砥石をドレッシングするドレスギアとしては例えば特許文献1に記載されているものなどが提案され、また円環状の台金の内周に上記歯形が形成された電着内歯車型砥石としては特許文献2に記載のようなものが、さらに台金の外周にネジ状の歯形が形成された電着ネジ状工具(ウォーム状工具)としては特許文献3に記載のようなものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−271127号公報
【特許文献2】特開平8−118145号公報
【特許文献3】特開2003−266241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような電着工具によってワークの仕上げ加工やドレッシングを行う際には、加工の際に生じる細かい切粉等の除去や加工部位の冷却のために研削油剤が供給されるが、上述のように台金に形成された歯形に砥粒層が形成された電着工具では、歯形の形状が複雑であるため、その表面の砥粒層に研削油剤を十分に保持して確実にワークに供給するとともに加工部位で生じた切粉や熱をこの研削油剤とともに効率的に除去することは容易ではない。このため、工具やワークの加工部位の冷却が不十分となって熱による損傷を生じたり、除去しきれずに残った切粉によりワークの歯面が傷つけられて加工品位が損なわれたりするおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のような歯形の表面に砥粒層が形成された電着工具において、この砥粒層に研削油剤を確実に保持してワークの加工部位に供給し、加工時に発生する切粉や加工熱を効率的に除去することが可能な電着工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、台金に形成された歯形の表面に砥粒が電着されて砥粒層が形成されている電着工具であって、前記歯形が1または複数状のネジ状に形成され、上記砥粒層の表面には開口部が円形をなす多数のディンプルが形成され、該ディンプルには複数の上記砥粒が固着されていることを特徴とする。従って、このような電着工具によれば、砥粒層表面に形成された多数のディンプルすなわち窪みに研削油剤を保持することができるので、そのままワークの加工部位に確実に研削油剤を供給し、ワークから除去された切粉や加工熱を効率的に加工部位から奪い取って排出、発散することができる。
【0007】
また、上記ディンプルを、上記砥粒の平均粒径よりも径が大きく、かつ深さが浅くなるように形成することにより、このディンプル内にも砥粒を電着して配設することができ、このときディンプル内の砥粒は、その突き出し量がディンプル外の砥粒よりもディンプル深さ分だけ大きくなる。従って、このディンプル外の砥粒が加工により摩耗したりした場合には、このディンプル内の砥粒が突出して砥粒層の切れ味を維持することができるので、長期に亙って鋭い切れ味を砥粒層に確保することができ、寿命の長い電着工具を提供することが可能となる。なお、このようにディンプル外の砥粒の摩耗を待たずに、上記砥粒層に、上記砥粒が電着された上でツルーイングを施した場合にも同様の効果を得ることができる。
【0008】
さらに、上記ディンプルは、例えば上記歯形の表面に凹凸を有する下地めっき層を形成し、その上に砥粒を分散しつつ電着めっき層を析出させて砥粒層を形成することにより、この下地めっき層の凹凸の凹部を該ディンプルとするような方法でも形成可能であるが、このような方法では、下地めっき層の有無によって砥粒や砥粒層の付着強度に部分的に相違が生じ、凸部で砥粒が脱落しやすくなったり、砥粒層が剥離しやすくなったりするおそれがある。また、特に本発明の電着工具のように複雑な形状の歯形の表面に所望の凹凸を有する下地めっき層を形成するのは困難でもある。
【0009】
そこで、このような問題を解消するには、上記ディンプルを、上記歯形の表面に成形された多数の凹部によって形成するようにして、すなわちこの歯形表面の凹部がそのまま砥粒層表面のディンプルとなるように砥粒を電着するのが望ましい。なお、このように台金の歯形表面に多数の凹部を成形するには、例えばドリルやエンドミル等の工具によって所望の位置に所望の大きさ、深さの凹部を直接的に形成してもよいが、成形すべき凹部の大きさや深さに応じた径の粒子(メディア)を台金の歯形表面に所定の圧力の流体によって吹きつけることにより、サンドブラスト等の方法によって成形するようにすれば、複雑な形状の歯形の表面にも確実に所望の凹部を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、歯形の形状が複雑であっても、その砥粒層表面に形成されたディンプルに研削油剤を保持して確実に加工部位に供給することができ、加工時に発生する熱や切屑を除去して効率的に排出、発散することが可能となる。そして、これにより、加工熱によってワークや電着工具に損傷が生じたりするのを防ぐことができるとともに、切粉によってワークの仕上げ面が傷つけられたりするのも防ぐことができ、加工品位の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態のドレスギアAを示す斜視図である。
【図2】図1に示すドレスギアAの歯形2の展開斜視図である。
【図3】図1に示すドレスギアAのツルーイングを施していない砥粒層23の拡大断面図である。
【図4】図1に示すドレスギアAのツルーイングを施した砥粒層23の拡大断面図である。
【図5】図1に示すドレスギアAにより電着内歯車型砥石Bにドレッシングを施す場合を示す斜視図である。
【図6】図5に示す内歯車型砥石Bの歯形22の断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の電着ネジ状工具Cを示す一部破断した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1ないし図4は、本発明の第1の実施形態を示すものであって、本発明をドレスギアに適用した場合を示すものである。本実施形態のドレスギアAにおいて、台金1は鋼材等の金属材料により概略円板状に形成されており、その外周部には、この台金1の周方向を向く一対の歯面2aと外周側を向く歯先面2bとを備えた複数条の歯形2が、周方向に等間隔をなして突出するように、かつこの台金の軸線O方向に向けて螺旋状に捩れるようにして、該軸線Oに直交する断面において歯車形をなすように形成されている。そして、少なくともこれらの歯形2の表面には、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒等の超砥粒3aをNiめっき等のめっき層3bに分散して固着した砥粒層3が形成されており、さらにこの砥粒層3の表面には多数のディンプル4が形成されている。
【0013】
図2は、台金1に形成された歯形2の1つを、その捩れを解くように展開して図示したものであるが、この図2に示すように本実施形態におけるディンプル4は、歯形2の上記両歯面2aと歯先面2bとに満遍なく形成されており、その砥粒層3表面への開口部の形状は概ね円形をなすとともに、この円の直径Xに沿って該表面に直交する断面では図3や図4に示すように上記直径Xよりも小さい(浅い)深さYの凹円弧状をなすような、概略凹球面状の窪みとして形成されている。ここで、これら図2から図4では個々のディンプル4は互いに独立して不連続となるように、すなわち互いに重なり合わないように形成されているが、部分的に、あるいは全体的に連続して重なり合うように形成されていてもよい。
【0014】
このようなディンプル4は、本実施形態では砥粒層3を形成する前の台金1の歯形2の表面(一対の歯面2aと歯先面2b)に、ドリルやエンドミル等による穴明け加工を施したり、あるいはディンプル4がなす凹球面と略等しい径の球形をなす硬質粒子をメディアとして高圧の圧縮空気等の流体により吹き付けるサンドブラストを施したりすることにより、図3および図4に示すような凹部5を多数成形し、こうして成形した凹部5も含めて歯形2の表面に、必要に応じて均一な厚さの下地めっきを施した上で、超砥粒3aを分散しためっき液中に台金1を浸漬して通電することにより略均一な厚さの砥粒層3を形成することで、凹部5の凹みの形状がそのまま砥粒層3の表面に窪みとして表れるようにして形成される。
【0015】
ここで、凹部5をドリルやエンドミルによる穴明け加工によって形成した場合には、図2ないし図4に示したように、少なくとも一部あるいはすべてのディンプル4を互いに独立して形成することができ、また上記サンドブラストによって形成した場合には、ディンプル4は上述したように少なくとも一部あるいは全部が互いに連続して重なり合うように形成される。また、本実施形態では、図3および図4に示すようにディンプル4および凹部5の大きさは、その上記直径Xが超砥粒3aの平均粒径よりも大きく、かつその上記深さYはこの超砥粒3aの平均粒径よりも小さくなるようにされていて、ディンプル4および凹部5内にも望ましくは複数個の超砥粒3aが固着され、かつこのディンプル4および凹部5内に固着された超砥粒3aが、砥粒層3のめっき層3b表面から突き出すようにされている。
【0016】
なお、図3はこうして歯形2の表面に超砥粒3aを固着して砥粒層3を形成したままの状態を示しているが、特に凹部5をサンドブラストによって形成したりしてディンプル4を部分的にでも連続するように形成した場合には、図4に示すように砥粒層3の表面にツルーイングを施して、特にディンプル4の外に固着された超砥粒3aの突き出し量を均一にし、ディンプル4内を除いた砥粒層3の外形形状、寸法を、加工すべきワークに応じたものに整形してもよい。
【0017】
このように構成された本実施形態のドレスギアAは、例えば図5に示すように、内歯車型砥石Bの円環状をなす台金11の内周部に形成された歯形12と互いの軸線O,Pが所定の軸交差角をもつようにして噛合させられ、これらの軸線O,P回りに互いに回転させられることにより、上記歯形12の表面に形成された砥粒層13のドレッシング(目立て)を行うのに使用される。なお、この内歯車型砥石Bにおいても、その歯形12は円環状をなす台金11の軸線P方向に向けて螺旋状に捩れるように形成されている。ただし、その周方向を向く両歯面12aは、当該内歯車型砥石Bにより加工されるワークである被削歯車の歯形形状に応じて図6に示すように断面凹曲面状に形成され、この両歯面12aおよび歯底面12cとに上記砥粒層13が形成されている。
【0018】
このようにして本実施形態のドレスギアAによりドレッシングを行う際には、ワークである内歯車型砥石Bの歯形12と噛合するその歯形2に向けて、研削油剤が図示されないノズル等から供給されるが、このとき本実施形態によれば、この歯形2の歯面2aおよび歯先面2bに形成された砥粒層3の表面に多数のディンプル4が形成されているので、研削油剤がこれらのディンプル4内に保持されることにより、このように歯形2と歯形12が噛み合うために研削油剤を直接的に供給することが困難な加工部位に対しても確実な研削油剤の供給を図ることができる。従って、加工時に発生する細かい切粉や熱を該研削油剤によって加工部位から効率的に除去して排出、発散させることができ、ドレスギアAやワークとしての内歯車型砥石Bの損傷を防いで、工具寿命の延長を図ることができる。
【0019】
また、本実施形態では、上記ディンプル4の直径Xが砥粒層3に固着される超砥粒3aの平均粒径よりも大きく、かつディンプル4の深さYが平均粒径よりも小さく(浅く)なるようにされており、これによりディンプル4内にも超砥粒3aを固着することができるとともに、このディンプル4内の超砥粒3aの突き出し量を図3や特に図4に示すようにディンプル4外の超砥粒3aの突き出し量よりも大きくすることができる。従って、図3に示したようにこのディンプル4外の超砥粒3aにツルーイングを施していない場合は勿論、図4に示したようにディンプル4外の超砥粒3aにツルーイングを施した場合でも、これらディンプル4外の超砥粒3aに摩耗が生じた場合にはディンプル4内の超砥粒3aが突き出して、砥粒層3の切れ味を維持することができる。このため、図3や図4に示したように超砥粒3aが単層で固着された砥粒層3においても、鋭い切れ味を長期に亙って確保することができ、これによっても寿命の長い工具を提供することが可能となる。
【0020】
さらに、本実施形態では、これらのディンプル4が、台金1における歯形2の歯面2aおよび歯先面2bに凹部5を形成して、その上に超砥粒3aをめっき層3bで固着した砥粒層3を形成することで、該砥粒層3の表面に形成されるようになされており、台金1の表面からの砥粒層3の厚さが均一となるため、部分的に超砥粒3aが脱落し易くなったり、砥粒層3が剥離しやすくなったりするようなこともない。また、上述のような形状、寸法のディンプル4を画成する凹部5を形成するのも比較的容易である。
【0021】
なお、このような凹部5を形成するのに際して、上述のようなドリルやエンドミルによる穴明け加工による場合には、個々の凹部5の形成自体は容易であるものの、複数の歯形2に多数の凹部5を形成するには多くの時間を要することになる。ただし、その反面、複数のディンプル4を独立して形成することが可能であって、逆にディンプル4外にも十分な面積を歯形2の表面全体に亙って確保することができるので、この表面の砥粒層3の外形形状、寸法を、ディンプル4が形成されていない場合との誤差が少なくなるようにすることができるという効果が得られる。
【0022】
これに対して、上述のようなサンドブラストによる場合には、逆に凹部5の形成は短時間でより簡単に行うことができる反面、凹部5が連続してしまう可能性が大きいため複数のディンプル4も連続してしまい、これらのディンプル4が連続する部分では超砥粒3aの突き出し量も小さくなるため、ディンプル4が形成されていない場合の砥粒層3の外形形状、寸法との誤差が、穴明け加工の場合よりも大きくなるおそれがある。ただし、このようにディンプル4が連続することにより、連続したディンプル4間で研削油剤の流動を促すことができて、一層確実な研削油剤の供給および切粉や加工熱の排出、発散を図ることができるという利点を得ることができるので、ディンプル4をどのように形成するかは、上述した凹凸する下地めっき層を形成する場合も含めて、当該電着工具の用途に応じて決定するのが望ましい。
【0023】
次に、図7は、本発明の第2の実施形態を示すものであって、本発明を電着ネジ状工具に適用した場合を示している。すなわち、この第2の実施形態である電着ネジ状工具Cは、軸線Qを中心とした外形略円筒状をなす台金21の外周に、この軸線Q回りに螺旋状に捩れる1または複数条のネジ状の歯形22が形成され、この歯形22の表面に超砥粒等の砥粒が電着により固着されて砥粒層23が形成されてなるものであり、上記軸線Q回りに回転されつつ、この歯形22をワークとしての被削歯車にウォーム状に噛合させることにより、この被削歯車の歯面の仕上げ加工等を行う。そして、この歯形22の上記軸線Q方向を向く両歯面22aと外周側を向く歯先面22bには、第1の実施形態と同様の多数のディンプルが第1の実施形態と同様の方法で形成されている。
【0024】
従って、この第2の実施形態の電着ネジ状工具Cによれば、第1の実施形態と同様の効果が得られる上、ワークが被削歯車であるのに対し、上述のように切粉の円滑な排出を促すことができるので、かかる切粉によって被削歯車の歯面等が傷つけられたりするのも防ぐことが可能となり、これにより高品位の加工が可能になるという効果を得ることができる。なお、これらの実施形態においてディンプルは歯形2,22の表面全体に形成されていてもよく、また例えば歯面2a,22aについては歯先面2b,22b側だけに形成するなど、逆に加工に供される部分だけにディンプルを形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1,11,21 台金
2,12,22 歯形
2a 歯面
2b 歯先面
2c 歯底面
3,13,23 砥粒層
3a 超砥粒(砥粒)
3b めっき層
4 ディンプル
5 凹部
X ディンプル4(凹部5)の直径
Y ディンプル4(凹部5)の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台金に形成された歯形の表面に砥粒が電着されて砥粒層が形成されている電着工具であって、
前記歯形が1または複数状のネジ状に形成され、
上記砥粒層の表面には開口部が円形をなす多数のディンプルが形成され、
該ディンプルには複数の上記砥粒が固着されていることを特徴とする電着工具。
【請求項2】
上記ディンプルは、上記砥粒の平均粒径よりも径が大きく、かつ深さが浅く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電着工具。
【請求項3】
上記ディンプルは、上記歯形の表面に成形された多数の凹部によって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電着工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−148404(P2012−148404A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110626(P2012−110626)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2007−232886(P2007−232886)の分割
【原出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】