説明

電着超砥粒工具およびその製造方法

【課題】めっき厚を確実に測定することが可能な電着超砥粒工具を提供することを目的とする。
【解決手段】すなわち、CMPコンディショナ1は、台金10と、台金10の表面に形成された超砥粒層20とを備え、超砥粒層20ではダイヤモンド砥粒22がニッケルめっき層21により台金10に固定されており、さらに超砥粒層20のめっき厚を測定するために台金10の表面に設けられためっき厚測定部30を備える。めっき厚測定部30は、ニッケルめっき層31のみで構成されている。めっき厚測定部30は、超砥粒層20から離隔して設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着超砥粒工具およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、電着超砥粒工具の超砥粒層のめっき厚みを精度良く管理することにより、めっき厚みのバラツキが極めて少ない、性能の安定した超砥粒工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電着超砥粒工具とは、所要の形状に加工された鋼、超硬合金、銅合金などの台金の表面に電気めっき法及び/又は化学めっき法によってダイヤモンド又はCBN等の超砥粒を保持し、固定した工具のことである。
【0003】
電着超砥粒工具は、超砥粒の突出が良好で極めて切れ味に優れており、焼き入れ鋼のような金属材料、非鉄金属材料、超硬合金、サーメット、半導体材料、セラミックス、ガラス、カーボン、ゴム、プラスチック、FRPの他、各種材料の研削加工に用いられる。さらに、極めて切れ味に優れる特性を有するので、CMP(ケミカル・メカニカル・ポリシング)、その他のポリシングなどに用いられる発泡ポリウレタン製などの研磨パッドをコンディショニングするパッドドレッサ、CMPコンディショナにも用いられる。
【0004】
さらに、所要の形状に加工された台金さえ準備出来れば、総型ホイール等の複雑形状な工具であっても容易にしかも短期間で製造できる特長がある。
【0005】
電気めっき法とは、電解液中で台金を陰極、ニッケル板を陽極にして電解液中で両極間に適切な電流を通じ、台金表面にニッケル層を析出させることによって、超砥粒を保持し、固定する電着超砥粒工具の製造方法をいう。
【0006】
化学めっき法とは、めっき液中に含まれる還元剤によってニッケルイオンを還元析出させることによって、超砥粒を保持し、固定する電着超砥粒工具の製造方法をいう。
【0007】
電着超砥粒工具において、超砥粒層のめっき厚測定方法に関する先行技術文献は、本件出願時において、知られていない。
【0008】
さらに、めっき厚測定方法としては、JIS H 8501「めっきの厚さ試験方法」(非特許文献1)において規定されている。
【0009】
このJISには、めっき厚測定方法として、顕微鏡断面試験方法、電解式試験方法、渦電流式試験方法、磁力式試験方法、蛍光X線式試験方法、β線式試験方法、多重干渉式試験方法、走査電子顕微鏡試験方法、側微器による試験方法、質量計測によるめっき付着量試験方法、が規定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本規格協会 JIS H 8501「めっきの厚さ試験方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電着超砥粒工具のダイヤモンド電着部のめっきの厚みを測定するには、ダミーチップを用いる方法がある。この方法では、電着超砥粒工具のめっき工程で台金にめっきをすると同時にダミーチップにもめっきし、そのめっき厚みを測定する方法を用いると、電着超砥粒工具とは異なる固体のため代用特性としての信頼性が低い。
【0012】
電着超砥粒工具の完成時点において、目視によるダイヤモンドの埋まり検査をすることによりめっきの厚みを推定する方法もあるが、人の目に頼る検査方法であるため定量化は不可能であり、検査結果に個人差も生じやすい。
【0013】
そこで、この発明は上記の問題点を解決するためなされたものであり、電着超砥粒工具の台金部でめっきの厚みを測定して、固体別に正確な測定値を得られる電着超砥粒ホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に従った電着超砥粒工具は、台金と、台金の表面に形成された超砥粒層とを備え、超砥粒層では超砥粒がめっきにより台金に固定されており、さらに超砥粒層のめっき厚を測定するために台金の表面に設けられた測定部とを備える、電着超砥粒工具。
【0015】
このように構成された電着超砥粒工具においては、超砥粒層とは別の測定部が台金の表面に設けられており、この測定部において、めっきの厚さを測定することができる。その結果、正確なめっきの厚みを測定することができる。
【0016】
好ましくは、測定部はめっきを含む。
好ましくは、測定部のめっきは超砥粒層のめっきと同一工程で製造される。
【0017】
好ましくは、測定部はめっきのみで構成される。
好ましくは、測定部は超砥粒を含む。
【0018】
好ましくは、測定部は超砥粒層と同一工程で製造される。
好ましくは、測定部は超砥粒層から離隔して設けられる。
【0019】
好ましくは、電着超砥粒工具は、超砥粒ホイール、ロータリードレッサ、パッドドレッサおよびCMPコンディショナのいずれかから選択される一つである。
【0020】
好ましくは、超砥粒層では超砥粒が1層のみ固定されている。
この発明に従った電着超砥粒工具の製造方法は、上記のいずれかの電着超砥粒工具の製造方法であって、測定部と超砥粒層とが設けられる台金の部分を露出させるマスキングを形成する工程と、マスキング上からめっきにより台金上に測定部と超砥粒層とを同時に形成する工程とを備える。
【0021】
これにより、電着超砥粒工具の台金部でめっきの厚みを測定して、固体別に正確な測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1に従った電着超砥粒工具としてのCMPコンディショナの断面図である。
【図2】図1で示す実施の形態1に従ったCMPコンディショナの製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図3】図1で示す実施の形態1に従ったCMPコンディショナの製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図4】図1で示す実施の形態1に従ったCMPコンディショナの製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2に従った電着超砥粒工具としてのCMPコンディショナの断面図である。
【図6】この発明の実施の形態3に従った電着超砥粒工具としての砥石の断面図である。
【図7】この発明の実施の形態4に従った電着超砥粒工具としての砥石の断面図である。
【図8】この発明の実施の形態5に従った電着超砥粒工具としての砥石の断面図である。
【図9】試作品1における超砥粒層の表面を示す写真である。
【図10】試作品2における超砥粒層の表面を示す写真である。
【図11】試作品3における超砥粒層の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明を実施するための最良の形態については、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に従った電着超砥粒工具としてのCMPコンディショナの断面図である。図1を参照して、CMPコンディショナ1は、回転軸2を中心に回転する工具である。
【0024】
金属製の台金10は、中央部11と、その中央部11を取り囲むドーナツ形状の外周部12とを有する。中央部11の厚みは、外周部12よりも薄く構成されている。そのため、台金10は、中央部が凹んだ構造を有する。
【0025】
中央部11には島状のめっき厚測定部30が設けられる。めっき厚測定部30はニッケルめっき層31を有する。この実施の形態では、めっき厚測定部30は、ニッケルめっき層31のみで構成されている。
【0026】
外周部12には、超砥粒層20が設けられている。超砥粒層20は、ニッケルめっき層
21と、ニッケルめっき層21に保持されている超砥粒としてのダイヤモンド砥粒22とを有する。ニッケルめっき層21は、ニッケルめっき層31と同一工程で製造される。超砥粒としては、ダイヤモンドだけでなくCBNを用いることができる。
【0027】
すなわち、CMPコンディショナ1は、台金10と、台金10の表面に形成された超砥粒層20とを備え、超砥粒層20ではダイヤモンド砥粒22がニッケルめっき層21により台金10に固定されており、さらに超砥粒層20のめっき厚を測定するために台金10の表面に設けられためっき厚測定部30を備える。めっき厚測定部30は、ニッケルめっき層31のみで構成されている。めっき厚測定部30は、超砥粒層20から離隔して設けられる。
【0028】
図1で示すCMPコンディショナの製造方法について説明する。図2から4は、図1で示す実施の形態1に従ったCMPコンディショナの製造方法を示す断面図である。図2を参照して、台金10の表面にマスキング層51を形成する。マスキング層51には、めっき厚測定部30および超砥粒層20が形成される部分の台金10を露出させる開口52,53が設けられる。
【0029】
図3を参照して、開口53を覆うように別のマスキング層61を形成する。
図4を参照して、外周部12にダイヤモンド砥粒22を仮固定する。その後、マスキング層61を除去する。
【0030】
図1を参照して、マスキング層51で覆われていない部分にニッケルめっき層21,31を形成する。これにより、ダイヤモンド砥粒22がニッケルめっき層21により固定される。さらに、ニッケルめっき層31によりめっき厚測定部30が形成される。
【0031】
(実施の形態2)
図5は、この発明の実施の形態2に従った電着超砥粒工具としてのCMPコンディショナの断面図である。実施の形態2に従ったCMPコンディショナ1では、超砥粒であるダイヤモンド砥粒32がめっき厚測定部30に設けられている点で、実施の形態1に従ったCMPコンディショナ1と異なる。
【0032】
このようなCMPコンディショナ1を形成するには、図3で示す工程においてマスキング層61を設けずに、開口53にもダイヤモンド砥粒32を仮固定し、その後、ダイヤモンド砥粒32をニッケルめっき層31で固定する。
【0033】
(実施の形態3)
図6は、この発明の実施の形態3に従った電着超砥粒工具としての砥石の断面図である。図6を参照して、電着ホイール3の外周部が尖った形状をしており、その部分において、台金10上に超砥粒層20が設けられる。台金10には、めっき厚測定部30が設けられている。
【0034】
(実施の形態4)
図7は、この発明の実施の形態4に従った電着超砥粒工具としての砥石の断面図である。図7を参照して、電着ホイール3の外周部が凹んだ形状をしており、その部分において、台金10上に超砥粒層20が設けられる。台金10には、めっき厚測定部30が設けられている。
【0035】
(実施の形態5)
図8は、この発明の実施の形態5に従った電着超砥粒工具としての砥石の断面図である。図8を参照して、電着ホイール3の外周部が凸形状をしており、その部分において、台金10上に超砥粒層20が設けられる。台金10には、めっき厚測定部30が設けられている。
【0036】
上記の実施の形態に従った電着超砥粒工具では、超砥粒層20とは別にめっき厚測定部30を設けているため、このめっき厚測定部30の厚みを測定することで、超砥粒層20のニッケルめっき層21の厚みを推測することができる。
【0037】
さらに、めっき厚測定部30にダイヤモンド砥粒32を保持することにより、電着超砥粒工具を使用した後であっても、ダイヤモンド砥粒22,32の品質を検査することができる。
【0038】
次に、この発明の実施例を以下に示す。
(実施例1)
以下のような本発明の実施例1のCMPコンディショナを実施の形態1に従って製作して、本発明の効果を実験により確認した。
【0039】
外径(D寸法)φ100mm、超砥粒層の幅(W寸法)10mm、全体厚み(T寸法)20mm、取り付け部の厚み(E寸法)15mm、穴径(H寸法)25.4mmのステンレス製の台金(JIS B 4140 カップ形ホイール相当)10を準備した。
【0040】
次に、この台金10を超音波洗浄機で洗浄し、さらに脱脂処理をしてマスキング前の台金処理を完了した。
【0041】
次に、台金10にマスキング用粘着テープ等を用いて、マスキング(マスキング層51)を施した。ただし、ダイヤモンド電着部とめっき厚測定部位にはマスキングを施さず、台金が露出したままの状態とした。
【0042】
次に、めっき厚測定部位は、直径5mmの円内の台金10表面が露出するようにし、ダイヤモンド電着部との最小すき間を10mmとった位置に設けた。
【0043】
次に、台金10表面が露出しためっき測定部位を、ダイヤモンドが通過しない大きさの気孔が形成されたスポンジ(マスキング層61)で表面を覆い、ダイヤモンドを電着固定する工程で、ダイヤモンドがめっき測定部位に固着されないようにした。その後、ダイヤモンド砥粒22を台金10に仮固定した。
【0044】
次に、台金10に電極を取り付け、電気めっき法により、めっき液中で台金10を陰極、ニッケル板を陽極にしてめっき液中で両極間に最適な電流を所定時間だけ通じ、台金10表面にニッケルめっき層21,31を析出させることによって、ダイヤモンド砥粒22を台金10に固着した。
【0045】
次に、台金10をめっき液から取り出してマスキングを除去した。
次に、めっき厚測定部30に析出したニッケルめっき層31の厚みを測定した。触針が被測定物の表面を倣って走行する方式の表面形状測定器のテーブル上に、めっきを完了した上記の台金10を乗せて、台金10露出部とめっき厚測定部30の段差を計測して、この段差をめっきの厚みとした。なお、ダイヤモンド電着部(超砥粒層20)にも同じ条件でめっきが施されているので、めっき測定部位のめっき厚みと、ダイヤモンド電部位のめっきの厚みは同じと考えられる。実際にめっきの完了した台金を切断して、その断面から、ダイヤモンド電着部とめっき厚測定部30のめっきの厚みをそれぞれ測定して、その数値を比較したが厚みに差が認められなかった。以下に本発明品である試作品1から3の電気めっきを継続した時間と、めっき厚測定部30のめっき厚みを示す。
【0046】
試作品1 めっきを継続した時間:T1時間、めっきの厚み:0.128mm
試作品2 めっきを継続した時間:T2時間、めっきの厚み:0.118mm
試作品3 めっきを継続した時間:T3時間、めっきの厚み:0.104mm
ただし、T1>T2>T3である。
【0047】
このように、めっきの厚みを0.01mmの単位で制御することが容易であるので、電着超砥粒工具のダイヤモンド電着部のめっきの厚みを極めて精度良く制御することが可能である。これにより、特に、電着超砥粒工具のダイヤモンドがめっき層から突出する高さを精度良く制御することが出来る。従って、電着超砥粒工具の完成時点における切れ味を制御することが出来る。特に、完成時点において、研磨パッドをドレッシングするドレッシング速度のバラツキを無くすことが要求される、パッドドレッサ、CMPコンディショナに本発明を用いると顕著な効果が得られる。
【0048】
試作品1から3の超砥粒層20の表面を観察した結果を図9から図11で示す。図9から図11で示すように、いずれのサンプルであっても、ニッケルめっき層21からダイヤモンド砥粒22が露出している。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、各種の電着超砥粒工具に用いられる。
【符号の説明】
【0050】
1 CMPコンディショナ、2 回転軸、3 電着ホイール、10 台金、11 中央部、12 外周部、20 超砥粒層、21,31 ニッケルめっき層、22,32 ダイヤモンド砥粒、51,61 マスキング層、52,53 開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台金と、
前記台金の表面に形成された超砥粒層とを備え、前記超砥粒層では超砥粒がめっきにより前記台金に固定されており、さらに
前記超砥粒層のめっき厚を測定するために前記台金の表面に設けられた測定部とを備えた、電着超砥粒工具。
【請求項2】
前記測定部はめっきを含む、請求項1に記載の電着超砥粒工具。
【請求項3】
前記測定部のめっきは前記超砥粒層のめっきと同一工程で製造される、請求項2に記載の電着超砥粒工具。
【請求項4】
前記測定部はめっきのみで構成される、請求項2または3に記載の電着超砥粒工具。
【請求項5】
前記測定部は超砥粒を含む、請求項2または3に記載の電着超砥粒工具。
【請求項6】
前記測定部は前記超砥粒層と同一工程で製造される、請求項5に記載の電着超砥粒工具。
【請求項7】
前記測定部は前記超砥粒層から離隔して設けられる、請求項1から6のいずれか1項に記載の電着超砥粒工具。
【請求項8】
前記電着超砥粒工具は、超砥粒ホイール、ロータリードレッサ、パッドドレッサおよびCMPコンディショナのいずれかから選択される一つである、請求項1から7のいずれか1項に記載の電着超砥粒工具。
【請求項9】
前記超砥粒層では超砥粒が1層のみ固定されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の電着超砥粒工具。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電着超砥粒工具の製造方法であって、
前記測定部と前記超砥粒層とが設けられる前記台金の部分を露出させるマスキングを形成する工程と、
前記マスキング上からめっきにより前記台金上に前記測定部と前記超砥粒層とを同時に形成する工程とを備えた、電着超砥粒工具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−111707(P2013−111707A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260386(P2011−260386)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】