説明

電磁式リニア弁

【課題】適切な差圧制御の実行を担保しつつ、自励振動を抑制可能な電磁式リニア弁を提供する。
【解決手段】(a)筒部28,82と、内部を第1液室と第2液室とに区画し、それらを連通する貫通穴が形成された区画部とを有するハウジングと、(b)軸線方向に移動可能かつ先端部が貫通穴の開口に着座可能に第1液室内に配設されたプランジャ22とを備える電磁式リニア弁10において、筒部の内周面とプランジャの外周面との間に介在させられ、それら2つの面の一方に軸線方向において互いに離間した状態で固定され、他方の面に摺接する2つの非磁性のライナ78,80を設け、2つのライナの間で筒部の内周面とプランジャの外周面とが接触することなく向かい合うように構成する。このような構成により、磁気密着を防止するとともに、電磁誘導に依拠して大きな起電力を発生させて、その起電力によってプランジャの自励振動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャとそのプランジャがそれの軸線方向に移動可能に設けられるハウジングとを備え、プランジャを移動させて弁を開閉する電磁式リニア弁に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁式リニア弁には、(a)筒状をなすハウジング筒部と、そのハウジング筒部の一端を塞ぐコア部と、ハウジング筒部の内部を第1液室と第2液室とに区画するとともに自身を貫通してそれら第1液室と第2液室とを連通させる貫通穴が形成された区画部とを有するハウジングと、(b)一端部がコア部と、他端部が貫通穴の開口と対向する状態で軸線方向に移動可能に第1液室内に配設され、その他端部において開口に着座可能なプランジャとを備える電磁式リニア弁がある。そのようなプランジャとハウジングとを備えた電磁式リニア弁は、弁体が弁座に着座している状態において、高圧側の作動液路から低圧側の作動液路への作動液の流れを禁止し、弁体が弁座から離れている状態において、高圧側の作動液路から低圧側の作動液路への作動液の流れを許容する。さらに、弁体が弁座に接近する方向と弁座から離間する方向との一方にプランジャを付勢する弾性体と、その弾性体がプランジャを付勢する方向とは反対の方向にプランジャを移動させるための磁界を形成するコイルとを備えており、コイルへの通電量を制御することで、高圧側の作動液路内の作動液の液圧(以下、「高圧側作動液圧」という場合がある)と低圧側の作動液路内の作動液の液圧(以下、「低圧側作動液圧」という場合がある)との差圧を制御可能に変更することが可能とされている。下記特許文献には、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧を制御可能な構造の電磁式リニア弁の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−39157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構造の電磁式リニア弁は、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧を制御する際にコイルへの通電量を制御して、プランジャに作用する力を制御する構造とされている。このため、例えば、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間に大きな摩擦力が生じると、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧制御を適切に実行できない虞がある。一方で、上記構造の電磁式リニア弁においては、プランジャがハウジング内で弾性体によって支持されていることから、プランジャの自励振動の問題があり、その自励振動を抑制するためにプランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる摩擦力が有効であることが知られている。このため、摩擦力を低減させることが望ましいが、摩擦力を低減させるだけでは、プランジャの自励振動を抑制し難くなる虞がある。本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、適切な差圧制御の実行を担保するとともに、プランジャの自励振動を抑制することが可能な電磁式リニア弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の電磁式リニア弁は、ハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面との間に介在させられ、それら2つの面の一方である一方面に軸線方向において互いに離間した状態で固定され、ハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面との他方である他方面に摺接する2つの非磁性のライナを備え、それら2つのライナの間で一方面と他方面とが接触することなく向かい合うように構成される。
【発明の効果】
【0006】
プランジャ内を磁束が流れている際にプランジャが移動すると、電磁誘導に依拠した起電力が生じる。この起電力は、プランジャ内を流れる磁束の密度が高いほど大きくなるものであり、プランジャの移動を妨げる方向に生じる。また、電磁誘導に依拠した起電力は、プランジャの移動速度に応じて変化するものであり、移動速度が高くなるほど大きくなるが、プランジャの停止時には、起電力は生じない。このため、プランジャの移動速度が高くなるほど大きくなる起電力は、プランジャの自励振動を減衰するのに適している。本発明の電磁式リニア弁においては、2つの非磁性のライナの間でハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面とが接触することなく向かい合っている。このため、プランジャとハウジング筒部との間を流れる磁束は、非磁性の2つのライナには殆ど流れず、それら2つのライナの間に集中して流れ、2つのライナの間を流れる磁束の密度は高くなる。これにより、大きな起電力を生じさせることが可能となり、効果的にプランジャの自励振動を抑制することが可能となる。また、本発明の電磁式リニア弁においては、プランジャの外周面とハウジング筒部の内周面との間に2つの非磁性のライナが介在させられることで、プランジャとハウジング筒部との磁気密着を防止することが可能となり、摩擦力を低減させることが可能となる。したがって、本発明の電磁式リニア弁によれば、適切な差圧制御の実行を担保するとともに、プランジャの自励振動を抑制することが可能となる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(3)項および(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項2または請求項3に(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(7)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項6に(8)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項7に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)(a)筒状をなすハウジング筒部と、(b)そのハウジング筒部の一端を塞ぐコア部と、(c)前記ハウジング筒部の内部を前記コア部の側に位置する第1液室と前記コア部とは反対側に位置する第2液室とに区画し、それら第1液室と第2液室とを連通するように自身を貫通する貫通穴が形成された区画部と、(d)前記第1液室と連通する流出ポートと、(e)前記第2液室と連通する流入ポートとを有するハウジングと、
一端部が前記コア部と、他端部が前記貫通穴の開口と対向する状態で軸線方向に移動可能に前記第1液室内に配設され、その他端部において前記開口に着座可能なプランジャと、
そのプランジャの他端部が前記貫通穴の前記開口に接近する方向と前記開口から離間する方向との一方に前記プランジャを付勢する弾性体と、
前記ハウジングの周りに設けられ、前記弾性体が前記プランジャを付勢する方向とは反対の方向に前記プランジャを移動させるための磁界を形成するコイルと
を備えた電磁式リニア弁であって、
当該電磁式リニア弁が、
前記ハウジング筒部の内周面と前記プランジャの外周面との間に介在させられ、それら2つの面の一方である一方面に軸線方向において互いに離間した状態で固定され、前記ハウジング筒部の内周面と前記プランジャの外周面との他方である他方面に摺接する2つの非磁性のライナを備え、それら2つのライナの間で前記一方面と前記他方面とが接触することなく向かい合う電磁式リニア弁。
【0010】
電磁式リニア弁において、プランジャの外径は、ハウジング筒部の内径より僅かに小さくされており、プランジャのハウジング内での円滑な移動が担保されている。ただし、プランジャは、通常、ハウジング筒部の内周面に摺接した状態で移動しており、プランジャの外周面とハウジング筒部の内周面との間には摩擦力が生じる。ただし、電磁式リニア弁は、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧制御時にコイルへの通電量を制御して、プランジャに作用する力を制御する構造とされているため、そのような摩擦力が大きくなると、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧制御を適切に実行できない虞がある。特に、強磁性のプランジャが、ハウジングの強磁性部材と接触すると、磁気密着が生じ、上記摩擦力は相当大きくなる。一方で、電磁式リニア弁では、プランジャがハウジング内で弾性体によって支持されていることから、プランジャの自励振動の問題があり、その自励振動を抑制するために摩擦力が有効であることが知られている。このため、摩擦力を低減させることが望ましいが、その摩擦力を低減させるだけでは、プランジャの自励振動を抑制し難くなる虞がある。
【0011】
以上のことに鑑みて、本項に記載された電磁式リニア弁においては、ハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面との間に2つの非磁性のライナを介在させ、それら2つのライナは、ハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面との一方である一方面に軸線方向において互いに離間した状態で固定され、ハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面との他方である他方面に摺接する。そして、それら2つのライナの間で一方面と他方面とが接触することなく向かい合うように構成される。このような構成により、プランジャとハウジング筒部との磁気密着を防止するとともに、2つのライナの間を流れる磁束の密度を高くすることが可能となる。詳しく言えば、プランジャの外周面とハウジング筒部の内周面との間に2つの非磁性のライナが介在させられることで、プランジャとハウジング筒部とは接触しなくなり、磁気密着が防止される。また、2つの非磁性のライナの間でハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面とが接触することなく向かい合っている。このため、プランジャとハウジング筒部との間を流れる磁束は、非磁性の2つのライナには殆ど流れず、それら2つのライナの間に集中して流れ、2つのライナの間を流れる磁束の密度が高くなる。
【0012】
プランジャ内を流れる磁束の密度は、後に詳しく説明するが、プランジャの移動時に生じる電磁誘導に依拠した起電力と大きく関係しており、プランジャ内を流れる磁束の密度が高くなれば、その起電力も大きくなる。その起電力は、プランジャの移動を妨げる方向に生じるものであり、プランジャの移動速度が高くなるほど大きくなる。つまり、プランジャの停止時には、その起電力は生じない。このことから、電磁誘導に依拠した起電力によれば、プランジャの自励振動を効果的に減衰することが可能となる。本項に記載の電磁式リニア弁では、上述したように、2つのライナの間を流れる磁束の密度が高くされており、効果的にプランジャの自励振動を抑制することが可能となる。また、本項に記載の電磁式リニア弁では、プランジャとハウジング筒部との磁気密着が防止されることで、差圧制御の妨げとなる摩擦力を低減させることが可能となる。したがって、本項に記載の電磁式リニア弁によれば、適切な差圧制御の実行を担保するとともに、プランジャの自励振動を抑制することが可能となる。
【0013】
本項に記載された「ライナ」は、ハウジング筒部の内周面とプランジャの外周面との間に介在させられ、ハウジング筒部とプランジャとの接触を防止するものであればよく、例えば、筒状の部材のように、1つの部材によって構成されるものであってもよく、ハウジング筒部の内周面およびプランジャの外周面に沿うように湾曲する板状の部材を複数組み合わされることで構成されるものであってもよい。また、本項に記載の「一方面」と「他方面」とは、2つのライナの間で接触することなく向かい合っていればよいが、そられ2つの面の間の距離、つまり、そられ2つの面の間のクリアランスは、2つのライナの間の磁束密度を効果的に高くするべく、2つのライナの間において最も小さいことが望ましい。
【0014】
(2)前記2つのライナが、それぞれ、筒状とされた(1)項に記載の電磁式リニア弁。
【0015】
本項に記載の電磁式リニア弁によれば、ライナの形状をシンプルなものとすることが可能となる。
【0016】
(3)前記2つのライナが前記他方面に摺接した状態において前記2つのライナの間で向かい合う前記一方面と前記他方面との間の離間距離が、前記2つのライナの径方向の厚さより小さい(2)項に記載の電磁式リニア弁。
【0017】
(4)前記離間距離が、前記2つのライナの厚さの1/600以上、かつ、1/10以下である(3)項に記載の電磁式リニア弁。
【0018】
上記2つの項に記載の電磁式リニア弁においては、プランジャとハウジング筒部との間を流れる磁束の密度を2つのライナの間で効果的に高くすることが可能となる。上記2つの項に記載の電磁式リニア弁では、「離間距離」をライナの厚さより小さくするべく、一方面と他方面との一方が他方に向かって全周にわたって突出していてもよく、また、その突出する部分、つまり、筒状の部分を1つの強磁性の部材とし、その筒状の強磁性の部材の内周面若しくは外周面が一方面の一部を構成してもよい。なお、後者の項に記載の「離間距離」は、2つのライナの厚さの1/100以上、かつ、1/20以下であることが望ましく、さらに言えば、1/60以上、かつ、1/20以下であることが望ましい。
【0019】
(5)前記一方面を有する前記ハウジング筒部と前記プランジャとの一方が、
本体と、その本体に固定的に嵌められる筒状部材とによって形成され、段付形状とされており、前記筒状部材の前記本体に接している面とは反対側の面が前記一方面の一部として機能するとともに、前記2つのライナが前記筒状部材を挟むように前記本体に固定的に嵌められた(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【0020】
本項に記載の電磁式リニア弁においては、少なくとも本体と筒状部材とが一体化されることで、プランジャ、若しくは、ハウジング筒部が構成されている。つまり、例えば、本体として円筒状の部材、若しくは、円柱状の部材を採用し、その部材に筒状部材が嵌められることで、それら2つの部材が一体化されたものの内周面、若しくは、外周面が一方面として機能している。本項に記載の「筒状部材」は、他方面との接触を回避するべく、ライナの厚さを超えない厚さとされることが望ましく、ライナの厚さと同じ厚さとされた場合には、他方面に、後に詳しく説明するように、周方向に凹んだ部分を形成する必要がある。
【0021】
(6)前記一方面が、
前記2つのライナの間において、前記他方面に向かって全周にわたって突出している(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【0022】
本項に記載の電磁式リニア弁では、一方面に全周にわたって径方向に突出する凸部が形成されており、その凸部を挟むようにして2つのライナが配設されている。その凸部の突出量は、他方面との接触を回避するべく、ライナの厚さを超えないようにされることが望ましく、ライナの厚さに相当する量とされた場合には、他方面に、後に詳しく説明するように、周方向に凹んだ部分を形成する必要がある。
【0023】
(7)前記他方面が、
前記一方面の前記2つのライナの間の部分に向かい合う位置において、全周にわたって凹んでいる(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【0024】
本項に記載の電磁式リニア弁においては、他方面に全周にわたってへこむ凹部が形成されており、その凹部が一方面の2つのライナの間の部分と向かい合っている。このような構成によれば、例えば、上記凸部の突出量、若しくは、上記筒状部材の厚さをライナの厚さと同じとされた場合であっても、一方面と他方面との接触を確実に回避することが可能となる。
【0025】
(8)当該電磁式リニア弁が、
前記他方面の全周にわたって凹んでる部分に配設され、非磁性、かつ、導電性の高い材料により形成された導電性非磁性部材を備えた(7)項に記載の電磁式リニア弁。
【0026】
プランジャの自励振動を効果的に抑制可能な電磁誘導に依拠した起電力が生じる際には、導電性の高い箇所において渦状に電流、所謂、渦電流が流れる。本項に記載の電磁式リニア弁では、磁束が密集して流れる箇所に導電性非磁性部材が配設されるため、その部材内に渦電流を生じさせ、より大きな起電力を生じさせることが可能となる。したがって、本項に記載の電磁式リニア弁によれば、より効果的にプランジャの自励振動を抑制することが可能となる。なお、本項に記載の「導電性非磁性部材」は、非磁性、かつ、導電性の高い材料により形成されるものであればよく、その材料として、例えば、金,銅,アルミ等,種々のものを採用することが可能である。
【0027】
(9)前記一方面が、前記ハウジング筒部の内周面であり、
前記他方面が、前記プランジャの外周面である(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【0028】
本項に記載の態様においては、ハウジング筒部の内周面に2つのライナが固定され、それら2つのライナおよびハウジング筒部の内部にプランジャが挿入される。このため、例えば、上述したように、他方面に全周にわたって凹部を形成する場合には、プランジャの外周面に全周にわたって凹部が形成される。一方、本項に記載の態様と反対の態様では、他方面に全周にわたって凹部を形成する場合に、ハウジング筒部の内周面に全周にわたって凹部を形成する必要がある。そのような凹部を、筒状の部材の内周面に形成することは困難であるが、円筒状の部材の外周面であれば容易に形成することが可能である。したがって、本項に記載の態様によれば、電磁式リニア弁の製造工程を簡素化することが可能となる。
【0029】
(10)前記弾性体が、前記プランジャの他端部が前記貫通穴の前記開口に接近する方向に前記プランジャを付勢するものである(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【0030】
本項に記載の電磁式リニア弁は、常閉弁の電磁式リニア弁に限定されている。プランジャの自励振動の発生頻度は、一般的に、常開弁の電磁式リニア弁より、常閉弁の電磁式リニア弁のほうが高いことが知られている。したがって、本項に記載の電磁式リニア弁では、プランジャの自励振動を抑制する効果が充分に活かされる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】請求可能発明の実施例である電磁式リニア弁を示す概略断面図である。
【図2】図1の電磁式リニア弁の拡大図である。
【図3】請求可能発明の第1の変形例である電磁式リニア弁を示す概略拡大断面図である。
【図4】請求可能発明の第2の変形例である電磁式リニア弁を示す概略断面図である。
【図5】請求可能発明の第3の変形例である電磁式リニア弁を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、請求可能発明の実施例および変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0033】
<電磁式リニア弁の構成>
図1に、本発明の実施例の電磁式リニア弁10を示す。本電磁式リニア弁10は、高圧側の作動液路12および低圧側の作動液路14に接続されており、通常、弁体が弁座を塞ぐことで、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを禁止している。一方、弁体と弁座との間に隙間が生じることで、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを許容し、作動液の流れを許容する際の高圧側の作動液路12内の作動液の液圧と低圧側の作動液路14内の作動液の液圧との差圧を制御可能に変更することが可能とされている。
【0034】
電磁式リニア弁10は、図1に示すように、中空形状のハウジング20と、そのハウジング20内に自身の軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ22と、ハウジング20の外周に設けられた円筒状のコイル24とを備えている。ハウジング20は、上端部に設けられた円柱状のコア部としてのコア26と、壁面を構成する概して円筒状の壁部材28と、その壁部材28の下端部に嵌入された有蓋円筒状の弁部材30とを有している。コア26と壁部材28とは、強磁性材料により形成されており、それらコア26と壁部材28とは、非磁性材料により形成された円筒状のスリーブ32を介して、離間した状態で連結されている。
【0035】
壁部材28は、それの内部が段付形状とされており、上端部に位置する上端部50と、下端部に位置する下端部52と、上端部50と下端部52との間に位置するとともに、上端部50および下端部52の内径より小さい内径の中間部54とに区分けすることができる。壁部材28の下端部52には、区画部としての弁部材30が固定的に嵌入されており、その弁部材30によってハウジング20内が、第1液室58と第2液室60とに区画されている。第2液室60はハウジング20の下端面に開口しており、その開口が流入ポートとして機能することで、高圧側の作動液路12が第2液室60に接続されている。また、弁部材30には軸線方向に貫通する貫通穴62が形成されている。その貫通穴62の上方の開口64はテーパ状に形成され、その開口64が弁座として機能している。
【0036】
プランジャ22は、強磁性材料により形成されており、コア26と壁部材28と弁部材30とによって区画された第1液室58内に、軸線方向に移動可能に配設されている。プランジャ22は、外径の最も大きい第1円柱部70と、第1円柱部70の下方に位置するとともに、第1円柱部70の外径より小さい外径の第2円柱部72と、その第2円柱部72の下方に位置するとともに、第2円柱部72の外径より小さい外径の第3円柱部74と、その第3円柱部74の下方に位置するとともに、第3円柱部74の外径より小さい外径のロッド部76とによって構成されており、段付形状とされている。
【0037】
プランジャ22の第1円柱部70は、コア26と対向するように設けられるとともに、壁部材28の上端部50に挿入されており、第2円柱部72および第3円柱部74は中間部54に挿入されている。プランジャ22の第3円柱部74と壁部材28の中間部54との間には、3つの円筒状の部材が軸線方向に並んで介在させられている。詳しく言えば、壁部材28の中間部54の内周面に、非磁性材料により形成された円筒状の2つのライナとしての非磁性円筒部材78,80が軸線方向に離間した状態で固定的に嵌合されるとともに、強磁性材料により形成された円筒状の強磁性円筒部材82が2つの非磁性円筒部材78,80の間において固定的に嵌合されている。それら2つの非磁性円筒部材78,80と強磁性円筒部材82とは、径方向における厚さが同じとされており、それら2つの非磁性円筒部材78,80と強磁性円筒部材82との内周面は面一とされている。それら3つの円筒状の部材78,80,82の内部には、プランジャ22の第3円柱部74が挿入されており、それら3つの円筒状の部材78,80,82の面一とされた内周面の内径は、第3円柱部74の外径より僅かに大きくされている。また、壁部材28の上端部50の内径は、プランジャ22の第1円柱部70の外径よりわずかに大きくされるとともに、中間部54の内径は、第2円柱部72の外径よりわずかに大きくされており、プランジャ22は、ハウジング20内を軸線方向に円滑に移動できるようになっている。
【0038】
また、壁部材28の上端部50の内周面とプランジャ22の第1円柱部70の外周面との間のクリアランスおよび、壁部材28の中間部54の内周面とプランジャ22の第2円柱部72の外周面との間のクリアランスは、上記3つの円筒状の部材78,80,82の面一とされた内周面とプランジャの第3円柱部74の外周面との間のクリアランスより大きくされている。そのプランジャ22の第3円柱部74の他方面としての外周面には、図2に示すように、強磁性円筒部材82と向かい合う位置において、全周にわたって凹んでいる周方向凹部84が形成されている。このため、プランジャ22の軸線とハウジング20の軸線とがズレた場合には、プランジャ22は、2つの非磁性円筒部材78,80にだけ接触するようになっている。つまり、プランジャ22の軸線とハウジング20の軸線とがズレても、プランジャ22は、壁部材28と強磁性円筒部材82とによって構成されるハウジング筒部に接触しないようになっている。
【0039】
ちなみに、図2は、プランジャ22の軸線とハウジング20の軸線とがズレた状態を示しており、この図から、プランジャ22は2つの非磁性円筒部材78,80に接触するが、筒状部材としての強磁性円筒部材82に接触しないことがわかる。なお、上記3つの円筒状の部材78,80,82の径方向における厚さαは250μmとされ、周方向凹部84の径方向における深さβは7μmとされている。つまり、周方向凹部84の径方向における深さβ、言い換えれば、周方向凹部84の底面と強磁性円筒部材82の内周面との間の最短距離は、上記3つの円筒状の部材78,80,82の厚さαの約1/35とされているが、図2では、プランジャ22と強磁性円筒部材82とが接触しないことを明確にするべく、周方向凹部84の深さβを実際のものより深く図示している。
【0040】
また、2つの非磁性円筒部材78,80の各々の外周面には、図2に示すように、軸線方向での両端部において全周にわたって1対の溝86,88が形成されており、各非磁性円筒部材78,80は、軸線方向において左右対称な構造とされている。一方、強磁性円筒部材82の外周面にも、軸線方向での両端部において全周にわたって1対の溝90が形成されており、その強磁性円筒部材82も、軸線方向において左右対称な構造とされている。各円筒部材78,80,82に形成された溝86,88,90は、電磁式リニア弁10の製造時において、各円筒部材78,80,82が本体としての壁部材28の中間部54に圧入される際に生じる虞のある圧入バリを内部に封じ込めるために形成されたものである。このため、電磁式リニア弁10の製造時に、各円筒部材78,80,82の両端のうちのいずれからでも壁部材28の中間部54に圧入することが可能となっており、電磁式リニア弁10の製造工程を簡易なものとすることが可能となっている。さらに、2つの非磁性円筒部材78,80は同じ寸法のもの、つまり、1種類の部材とされており、電磁式リニア弁10の部品の種類が低減されている。
【0041】
また、プランジャ22のロッド部76の下端は、半球状とされており、弁部材30に形成された貫通穴62の開口64と向かい合うようにされている。そのロッド部76の下端は、開口64に着座するようにされており、弁体として機能するものとされている。その弁体として機能するロッド部76の下端が、弁座として機能する開口64に着座することで、貫通穴62を塞ぐことが可能とされている。なお、ロッド部76の周囲に位置する第1液室58、詳しく言えば、弁部材30と壁部材28の下端部52と非磁性円筒部材80とによって区画される弁室92は壁部材28の下端部52の外壁面に開口しており、その開口が流出ポートとして機能することで、低圧側の作動液路14が弁室92、つまり、第1液室58に接続されている。
【0042】
また、ハウジング20のコア26の下端面には、プランジャ22の上端面に形成された凸部100と対向するように凹部102が形成されており、その凹部102に、プランジャ22の軸線方向への移動に伴って、プランジャ22の凸部100が進入するようになっている。そのプランジャ22の凸部100の上端面には、有底穴104が形成されており、その有底穴104には圧縮コイルスプリング106が挿入されている。圧縮コイルスプリング106の上端部はプランジャ22の上端面から突出しており、圧縮コイルスプリング106は、コア26に形成された凹部102の底面と有底穴104の底面とによって圧縮された状態で配設されている。このため、プランジャ22は、弾性体としての圧縮コイルスプリング106の弾性力によってコア26から離れる方向に付勢されている。つまり、プランジャ22のロッド部76の先端が開口64に接近する方向(以下、「接近方向」という場合がある)に付勢されている。なお、有底穴104には、圧縮コイルスプリング106に囲まれるようにして棒状のストッパ108が挿入されており、そのストッパ108によって、プランジャ22の上方への移動量が制限されている。
【0043】
また、コイル24は、樹脂製の保持部材110によってハウジング20の外周部において保持されており、その保持部材110とともに、強磁性材料によって形成されたコイルケース112によって覆われている。コイルケース112は、上端部においてコア26に固定されるとともに、下端部において壁部材28に固定されている。このため、コイル24による磁界の形成に伴って、コイルケース112,コア26,プランジャ22,壁部材28に磁路が形成されるようになっている。
【0044】
<電磁式リニア弁の作動>
上述した構造によって、電磁式リニア弁10は、コイル24に電流が供給されていないときには、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを禁止しており、コイル24に電流を供給することによって、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを許容するとともに、作動液の流れが許容される際の高圧側の作動液路12内の作動液の液圧と低圧側の作動液路14内の作動液の液圧との差圧を制御可能に変化させる構造とされている。
【0045】
詳しく説明すれば、コイル24に電流が供給されていない場合には、圧縮コイルスプリング106の弾性力によって、プランジャ22のロッド部76の先端が高圧側の作動液路12に繋がる貫通穴62の開口64を塞ぐことで、電磁式リニア弁10は、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを禁止している。この際、ロッド部76の先端には、高圧側の作動液路12内の作動液の液圧(以下、「高圧側作動液圧」という場合がある)と低圧側の作動液路14内の作動液の液圧(以下、「低圧側作動液圧」という場合がある)との差に基づく力F1が作用している。この圧力差に基づく力F1と圧縮コイルスプリング106の弾性力F2とは互いに逆向きに作用するが、弾性力F2は圧力差に基づく力F1と比較してある程度大きくされているため、電磁式リニア弁10は、コイル24への電流非供給時には開弁しないようになっている。
【0046】
一方、コイル24に電流が供給されると、磁界の形成に伴って、磁束が、コイルケース112,コア26,プランジャ22,壁部材28を通過する。そして、ロッド部76の先端が貫通穴62の開口64から離間する方向(以下、「離間方向」という場合がある)にプランジャ22を移動させようとする磁気力が生じる。コイル24に電流が供給されて磁界が形成されている際に、プランジャ22には、圧力差に基づく力F1と磁気力によってプランジャ22が上方に付勢される力F3との和と、圧縮コイルスプリング106の弾性力F2とが互いに逆向きに作用する。この際、圧力差に基づく力F1と磁気力による付勢力F3との和が、弾性力F2より大きい間は、ロッド部76の先端によって塞がれていた開口64が開き、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14へ作動液が流れる。
【0047】
そして、高圧の作動液が低圧側の作動液路14へ流れることで、低圧側作動液圧が増加し、圧力差に基づく力F1が減少する。その圧力差に基づく力F1が減少することで、圧力差に基づく力F1と磁気力による付勢力F3との和が、弾性力F2より小さくなれば、電磁式リニア弁10は閉弁され、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れが阻止される。このため、低圧側作動液圧は、圧力差に基づく力F1と磁気力による付勢力F3との和が、弾性力F2より小さくなった時点の低圧側作動液圧に維持される。つまり、コイル24への通電量を制御することで、低圧側作動液圧と高圧側作動液圧との圧力差を制御することが可能となり、低圧側作動液圧を目標とする作動液圧まで増加させることが可能となっている。
【0048】
上述したように、電磁式リニア弁10においては、プランジャ22を移動させようとする磁気力F3、つまり、コイルケース112,コア26,プランジャ22,壁部材28を通過する磁束の量を制御することで、低圧側作動液圧と高圧側作動液圧との差圧が制御されている。この差圧制御時には、プランジャ22と壁部材28との間を磁束が流れ、プランジャ22と壁部材28との間に吸引力が生じ、プランジャ22は、上述したように、それの外周面において、2つの非磁性円筒部材78,80とだけ摺接するようになっている。つまり、プランジャ22は、壁部材28の内周面と強磁性円筒部材82の内周面とによって構成される一方面に摺接しないようになっており、強磁性のものには接触しないようになっている。このため、電磁式リニア弁10においては、差圧制御時にプランジャ22とハウジング20との磁気密着を防止することが可能となっており、それらの間に生じる摩擦力を低減させることが可能となっている。
【0049】
電磁式リニア弁10は、プランジャ22を上方に付勢する力と下方に付勢する力とのバランスを制御することで、差圧制御を実行するものであり、そのような摩擦力が大きくなると、差圧制御に影響を及ぼす虞がある。つまり、本電磁式リニア弁10では、2つの非磁性円筒部材78,80によって、適切な差圧制御の実行を担保することが可能となっている。さらに、本電磁式リニア弁10は、図1から判るように、それの軸線を中心として左右対称な構造とされている。このため、プランジャ22と壁部材28との間を流れる磁束によるプランジャ22と壁部材28との間の吸引力は、プランジャ22の周方向において概ね均一となり、上記摩擦力を低減させることが可能となっている。このことからも、適切な差圧制御の実行を担保することが可能となっている。
【0050】
一方で、電磁式リニア弁には、プランジャの自励振動の問題があり、その自励振動を抑制するためにプランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる摩擦力が有効であることが知られている。このため、上記摩擦力を低減させるだけでは、プランジャの自励振動を抑制し難くなる虞がある。そこで、本電磁式リニア弁10においては、摩擦力を低減させるための2つの非磁性円筒部材78,80の間に強磁性円筒部材82を配設することで、電磁誘導によって大きな起電力を生じさせ、その起電力によってプランジャの自励振動を抑制している。
【0051】
詳しく言えば、磁束が流れる状況下において導体が移動すると、電磁誘導効果によって、その導体の移動を阻止しようとする力、つまり、起電力が生じる。電磁誘導によって生じる起電力は、導体の移動速度が高くなるほど、大きくなるものであり、導体が停止している場合には発生しない。このため、電磁式リニア弁においても、コイルへの通電時に磁束がプランジャ,ハウジング等に流れている際に、プランジャが移動すれば、上記起電力が生じる。ただし、電磁誘導によって生じる起電力は、プランジャ停止時には発生せず、プランジャが低速で移動する場合には相当小さなものとなるため、差圧の制御への影響は小さいと考えることができる。つまり、上記電磁誘導によって生じる起電力は、差圧制御の実行を担保しつつ、自励振動を好適に減衰することができるのである。
【0052】
その電磁誘導によって生じる起電力は、プランジャの移動速度に依拠するが、プランジャとハウジングとの間を流れる磁束の密度にも依拠する。本電磁式リニア弁10においては、上述したように、2つの非磁性円筒部材78,80の間に強磁性円筒部材82が配設されており、プランジャ22とハウジング20の壁部材28との間を流れる磁束は、強磁性円筒部材82を介して流れるが、非磁性円筒部材82を介しては、殆ど流れない。つまり、プランジャ22とハウジング20の壁部材28との間を流れる磁束は、強磁性円筒部材82に密集して流れることになる。このため、強磁性円筒部材82が配設されている位置において、磁束密度を高くすることが可能となり、大きな起電力を生じさせることが可能となっている。したがって、本電磁式リニア弁10によれば、差圧制御の実行を担保しつつ、自励振動を好適に減衰することが可能となっている。
【変形例】
【0053】
上記電磁式リニア弁10においては、電磁誘導によって大きな起電力を生じさせるべく、2つの非磁性円筒部材78,80の間に強磁性円筒部材82が配設されている。変形例の電磁式リニア弁では、その強磁性円筒部材82とプランジャ22との間に非磁性、かつ導電性の高い部材を介在させることで、より大きな起電力を生じさせることができるようにされている。変形例の電磁式リニア弁は、上記電磁式リニア弁10のプランジャ22の周方向凹部84に新たな部材を配設したものであるため、変形例の電磁式リニア弁の説明については、図2に相当する拡大図である図3のみを用い、その新たに配設された部材を中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0054】
変形例の電磁式リニア弁120の備えるプランジャ22の周方向凹部84には、非磁性かつ導電性の高い部材、具体的には、銅が蒸着されており、導電性非磁性部材としての円筒状の銅薄膜122が固着されている。この銅薄膜122の表面とプランジャ22の外周面とは段差の無い状態、つまり、面一とされており、プランジャ22が移動する際には、非磁性の銅薄膜122が強磁性円筒部材82に摺接するようになっている。このため、変形例の電磁式リニア弁120においても、プランジャ22は、強磁性のものには接触しないようにされており、プランジャ22とハウジング20との磁気密着を防止することで、差圧制御の実行を担保することが可能となっている。さらに、変形例の電磁式リニア弁120では、強磁性円筒部材82を介してプランジャ22とハウジング20の壁部材28との間に高密度に流された磁束が、導電性の高い銅薄膜122をも介して流れるようになっている。このため、電磁誘導に依拠した電流がその銅薄膜122に流れ、より大きな起電力が生じ易くなっている。したがって、変形例の電磁式リニア弁170によれば、より効果的に自励振動を抑制することが可能となっている。
【0055】
図4に、上記電磁式リニア弁10を変形したもう1つ別の変形例の電磁式リニア弁130を示す。変形例の電磁式リニア弁130は、壁部材132を除いて、上記電磁式リニア弁10と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0056】
変形例の電磁式リニア弁130の備える壁部材132は、それの内部が段付形状とされており、上端部に位置する上端部134と、下端部に位置する下端部136と、上端部134と下端部136との間に位置するとともに、上端部134および下端部136の内径より小さい内径の中間部138とに区分けすることができる。さらに、その中間部138は、上端部134の下方に位置する第1中間部140と、下端部136の上方に位置するとともに、第1中間部140の内径と同じ内径の第2中間部142と、第1中間部140と第2中間部142との間に位置するとともに、第1中間部140および第2中間部142の内径より小さい内径の第3中間部144とに区分けすることができる。つまり、変形例の電磁式リニア弁130の壁部材132は、上記電磁式リニア弁10の壁部材28の中間部54の内周面が全周にわたって突出したような形状とされている。
【0057】
その壁部材132の第1中間部140に非磁性円筒部材78が固定的に嵌合され、第2中間部142に非磁性円筒部材80が固定的に嵌合されている。また、第3中間部144の第1中間部140および第2中間部142の内周面からの突出量、つまり、第1中間部140および第2中間部142の内径と第3中間部144の内径との差の半分は、非磁性円筒部材78,80の厚さと同じとされており、第3中間部144の内周面と非磁性円筒部材78,80の内周面とは面一とされている。その面一とされた第3中間部144の内周面と非磁性円筒部材78,80の内周面との内部に、プランジャ22の第3円柱部74が挿入されている。このような構造によって、変形例の電磁式リニア弁130では、プランジャ22の第3円柱部74が非磁性円筒部材78,80の内周面に摺接するとともに、第3中間部144の内周面とプランジャ22の第3円柱部74に形成された周方向凹部84の底面とが、隙間のある状態で向かい合っている。つまり、変形例の電磁式リニア弁130では、第3中間部144が、上記電磁式リニア弁10の強磁性円筒部材82として機能しており、上記電磁式リニア弁10と同様に、差圧制御の実行を担保しつつ、自励振動を好適に減衰することが可能となっている。さらに、変形例の電磁式リニア弁130では、上記電磁式リニア弁10と比較して、強磁性円筒部材82が必要ないため、電磁式リニア弁の構成部品を1つ減らすことが可能となっている。
【0058】
図5に、上記変形例の電磁式リニア弁130をさらに変形した電磁式リニア弁150を示す。その変形例の電磁式リニア弁150は、壁部材152およびプランジャ154を除いて、上記変形例の電磁式リニア弁130と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0059】
変形例の電磁式リニア弁150の備える壁部材152は、第3中間部156を除いて、上記電磁式リニア弁130の壁部材132と同じ形状とされており、その壁部材152の第3中間部156の内径が、上記電磁式リニア弁130の壁部材132の第3中間部144の内径より僅かに大きくされている。また、壁部材152には、上記電磁式リニア弁130の壁部材132と同様に、2つの非磁性円筒部材78,80が固定的に嵌合されている。これにより、第3中間部156の内周面が、図5に示すように、2つの非磁性円筒部材78,80の内周面より凹んだ状態となっている。
【0060】
また、プランジャ154は、第3円柱部158を除いて、上記電磁式リニア弁130のプランジャ22と同じ形状とされており、第3円柱部158の外径は均一とされている。つまり、プランジャ154は、周方向凹部84が形成されていないプランジャ22と同じ形状とされている。そして、そのプランジャ154の第3円柱部158が、第3中間部156の内周面と非磁性円筒部材78,80の内周面との内部に挿入されている。このような構造によって、変形例の電磁式リニア弁150では、プランジャ154の第3円柱部158が非磁性円筒部材78,80の内周面に摺接するとともに、壁部材152の第3中間部156の内周面とプランジャ154の第3円柱部158の外周面とが、隙間のある状態で向かい合っている。ちなみに、その隙間、つまり、第3中間部156の内周面とプランジャ154の第3円柱部158の外周面との間の最短距離は、上記電磁式リニア弁130のプランジャ22に形成された周方向凹部84の深さと同じとされており、図5では、プランジャ154と壁部材152とが接触しないことを明確にするべく、その隙間を誇張して図示している。このような構造によって、変形例の電磁式リニア弁150でも、上記電磁式リニア弁130と同様に、差圧制御の実行を担保しつつ、自励振動を好適に減衰することが可能となっている。さらに、変形例の電磁式リニア弁150では、上記電磁式リニア弁130と比較して、プランジャの外周面に周方向凹部を形成する必要がないため、電磁式リニア弁の製造工程を簡便にすることが可能となっている。
【0061】
ちなみに、上述した実施例および変形例の電磁式リニア弁10,120,130,150では、2つの非磁性円筒部材78,80を、ハウジング20の壁部材28,132,152の内周面に固定していたが、プランジャ22,154の外周面に固定することでも、上記電磁式リニア弁10,120,130,150と同様に、差圧制御の実行を担保しつつ、自励振動を好適に減衰することが可能である。なお、そのように構成する場合には、強磁性円筒部材82をプランジャ22の外周面に固定し、壁部材132,152の径方向に突出する部分144,156に相当するものを、プランジャ22,154の外周面に形成する必要がある。また、プランジャ22の外周面に形成されている周方向凹部84に相当するものを、ハウジング20の壁部材28,132の内周面に形成する必要がある。
【符号の説明】
【0062】
10:電磁式リニア弁 20:ハウジング 22:プランジャ 24:コイル 26:コア(コア部) 28:壁部材(ハウジング筒部)(本体) 30:弁部材(区画部) 58:第1液室 60:第2液室 62:貫通穴 64:開口 78:非磁性円筒部材(ライナ) 80:非磁性円筒部材(ライナ) 82:強磁性円筒部材(ハウジング筒部)(筒状部材) 106:圧縮コイルスプリング(弾性体) 120:電磁式リニア弁 122:銅薄膜(導電性非磁性部材) 130:電磁式リニア弁 132:壁部材(ハウジング筒部) 150:電磁式リニア弁 152:壁部材(ハウジング筒部) 154:プランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)筒状をなすハウジング筒部と、(b)そのハウジング筒部の一端を塞ぐコア部と、(c)前記ハウジング筒部の内部を前記コア部の側に位置する第1液室と前記コア部とは反対側に位置する第2液室とに区画し、それら第1液室と第2液室とを連通するように自身を貫通する貫通穴が形成された区画部と、(d)前記第1液室と連通する流出ポートと、(e)前記第2液室と連通する流入ポートとを有するハウジングと、
一端部が前記コア部と、他端部が前記貫通穴の開口と対向する状態で軸線方向に移動可能に前記第1液室内に配設され、その他端部において前記開口に着座可能なプランジャと、
そのプランジャの他端部が前記貫通穴の前記開口に接近する方向と前記開口から離間する方向との一方に前記プランジャを付勢する弾性体と、
前記ハウジングの周りに設けられ、前記弾性体が前記プランジャを付勢する方向とは反対の方向に前記プランジャを移動させるための磁界を形成するコイルと
を備えた電磁式リニア弁であって、
当該電磁式リニア弁が、
前記ハウジング筒部の内周面と前記プランジャの外周面との間に介在させられ、それら2つの面の一方である一方面に軸線方向において互いに離間した状態で固定され、前記ハウジング筒部の内周面と前記プランジャの外周面との他方である他方面に摺接する2つの非磁性のライナを備え、それら2つのライナの間で前記一方面と前記他方面とが接触することなく向かい合う電磁式リニア弁。
【請求項2】
前記2つのライナが、それぞれ、筒状とされた請求項1に記載の電磁式リニア弁。
【請求項3】
前記2つのライナが前記他方面に摺接した状態において前記2つのライナの間で向かい合う前記一方面と前記他方面との間の離間距離が、前記2つのライナの径方向の厚さの1/600以上、かつ、1/10以下である請求項2に記載の電磁式リニア弁。
【請求項4】
前記一方面を有する前記ハウジング筒部と前記プランジャとの一方が、
本体と、その本体に固定的に嵌められる筒状部材とによって形成され、段付形状とされており、前記筒状部材の前記本体に接している面とは反対側の面が前記一方面の一部として機能するとともに、前記2つのライナが前記筒状部材を挟むように前記本体に固定的に嵌められた請求項2または請求項3に記載の電磁式リニア弁。
【請求項5】
前記一方面が、
前記2つのライナの間において、前記他方面に向かって全周にわたって突出している請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【請求項6】
前記他方面が、
前記一方面の前記2つのライナの間の部分に向かい合う位置において、全周にわたって凹んでいる請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【請求項7】
当該電磁式リニア弁が、
前記他方面の全周にわたって凹んでる部分に配設され、非磁性、かつ、導電性の高い材料により形成された導電性非磁性部材を備えた請求項6に記載の電磁式リニア弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−167766(P2012−167766A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30346(P2011−30346)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】