説明

電磁波用の光学素子

【課題】電磁波導波路を構成する半導体層のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長光であって導波路を伝搬するか導波路上に照射される電磁波に対して、外部からの操作によって比較的容易に伝搬状態を制御できる光学素子である。
【解決手段】光学素子は、一部に半導体層01を含んだ電磁波導波路04と、半導体層01のバンドギャップエネルギーより高い光子エネルギーを持つ波長の第1の電磁波06を、半導体層01上の任意の場所に任意のパターン08で照射する照射部05、07を有する。照射部による照射で生じた半導体層01表面近傍のフォトキャリアの濃度高低パターンが、半導体層01のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の電磁波09、10に対して複素屈折率の異なるパターンを生じさせることによって、導波路04を伝搬するかこのパターン08上に照射される電磁波09、10の伝搬状態が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝搬する電磁波の伝搬状態を制御・変化させる電磁波用の光学素子に関し、特に周波数30GHz〜30THz程度のいわゆるミリ波からテラヘルツ波と呼ばれる周波数領域の電磁波に対して機能する光学素子に関する。さらに特には、空間を伝播する電磁波を導波路に結合させたり、或いは導波路中を伝播する電磁波を空間に放射させたり、或いは導波路中を伝播する電磁波の伝播状態を変化させる光学素子、及び電磁波の伝搬状態制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるテラヘルツ波を応用した技術が注目されている。そして、テラヘルツ波を利用した分光分析やイメージングなどが、産業応用技術として期待されている。
【0003】
テラヘルツ波を実用的なシステムに応用するには、伝播するテラヘルツ波の伝播状態を制御する光学素子が必要である。特に、システムの小型化に貢献する光学素子が必要である。
【0004】
こうした状況において、例えば導波路を用いると、テラヘルツ波を用いたシステムを小型化することができる。その際、特に空間を伝播するテラヘルツ波を導波路に結合させたり、或いは導波路中を伝播するテラヘルツ波を空間に放射させたりする結合器や、或いは導波路中を伝播するテラヘルツ波の伝播状態を変化させる光学素子が必要である。
【0005】
結合器としては、一般に、コア層やクラッド層などの導波路の一部の屈折率を回折格子状に周期的に変化させたものが用いられている(特許文献1参照)。或いは、コア層やクラッド層などの導波路の一部に非線形媒質を周期的に埋設し、外部から光を照射することで非線形媒質の屈折率を変化させ、回折格子としての機能を発現させることで結合器としての機能をオン・オフさせるものが知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002-98848号公報
【特許文献2】特開平5-323393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、コア層やクラッド層などの導波路の一部にレーザ光を照射することで導波路を構成する材料の性質を変化させ、前記導波路を構成する材料の屈折率を回折格子状に周期的に変化させた構造を形成して、光結合器を作製する技術が開示されている。しかし特許文献1に開示されている方法では、レーザ光照射による材料の屈折率変化は不可逆変化であるため、結合器としての特性を変化させられなく、また結合器としての機能を任意の場所に任意に発現、消滅させることが出来ない。
【0007】
また、特許文献2に開示されているような、線形な屈折率を有する光透過媒質で構成された光導波路に、外部条件に応じて異なる屈折率を呈する非線形光透過媒質による回折格子を埋設・形成する構造の結合器は、結合器としての機能を任意に発現、消滅させることは出来るが、埋設・形成された回折格子の格子定数を加工後に変更することが出来ない。そのため、異なる入射角度からの電磁波を結合させたり、或いは異なる波長の電磁波を結合させたりするために必要な、回折格子型導波路結合器の格子定数に由来した光学特性を変化させることはできない。また、非線形光透過媒質を埋設・形成した場所以外の任意の場所に結合器としての機能を発現させることも出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の光学素子は、一部に半導体層を含んだ電磁波導波路と、半導体層のバンドギャップエネルギーより高い光子エネルギーを持つ波長の第1の電磁波(照射光)を、半導体層上の任意の場所に任意のパターンで照射する照射部を有し、照射部による照射で生じた半導体層表面近傍のフォトキャリアの濃度高低パターンが、半導体層のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の第2の電磁波に対して複素屈折率の異なるパターンを生じさせることによって、導波路を伝搬するかこのパターン上に照射される第2の電磁波(長波長光)の伝搬状態を制御することを特徴とする。
【0009】
上記構成で第2の電磁波(長波長光)の伝搬状態を制御できる原理は以下の通りである。
前記半導体層表面の照射光パターンが照射された部分(半導体層表面照射光明暗パターン部分)のうち、明部分すなわち照射光が半導体層表面に入射した部分にはフォトキャリアが発生し、半導体層表面照射光明暗パターン部分のうち、暗部分すなわち照射光が陰になった部分にはフォトキャリアが発生しないか少ししか発生しない。ゆえに、照射光明暗パターンに略一致したフォトキャリアの濃度高低パターンが半導体層表面照射光明暗パターン部分に形成される。
【0010】
フォトキャリア濃度の高い部分は、第2の電磁波(長波長光)に対して金属のように振舞い、フォトキャリアが無い部分は長波長光に対して誘電体のように振舞うことが知られている。よって、半導体層表面照射光明暗パターン部分は、長波長光に対して金属と誘電体のパターンのように振舞って、光学素子として機能する。
【0011】
ここにおいて、波長の充分長い電磁波(長波長光)の伝搬状態の制御を対象とするので、フォトキャリアが発生して消滅するまでに動く距離に比べて、上記パターンのサイズは充分大きく、半導体層表面照射光明暗パターン部分は、長波長光に対して金属と誘電体のパターンのように確実に振舞って、光学素子として機能する。また、半導体層の抵抗率は充分大きいことが好ましい。なぜなら、高抵抗半導体は、テラヘルツ波などの長波長光に対して吸収および分散が小さい誘電体であって、この吸収および分散が充分小さいと、フォトキャリアの濃度高低パターンのコントラストが充分シャープにできるからである。
【0012】
上記構成において、前記半導体層上の照射光の明暗パターンを回折格子状にすることで、半導体層表面照射光明暗パターン部分は長波長光に対し回折格子のように振舞う。すなわち、照射光の明暗パターンを適切に選ぶことで、半導体層表面照射光明暗パターン部分は長波長光に対し回折を生じせしめることが出来、これを利用して導波路中を伝播する長波長光を導波路外に放射させたり、或いは空間を伝播する長波長光を導波路に結合させたりすることが出来、光結合器として機能する。
【0013】
また、照射光の明暗パターン形状を変更することによって、長波長光に対する上記機能および光学特性を変化させることができる。さらに、照射光を遮ることで半導体層表面上の照射光明暗パターンは消失し、よって半導体層上のフォトキャリア濃度高低パターンも消失し、半導体層は長波長光に対し一様な誘電体として振舞うことから、長波長光に対する光結合器としての機能は消失する。
【0014】
本発明による光結合器などの光学素子は、導波路そのものに対しては何ら加工を要しないので、導波路上の任意の場所にある高抵抗半導体層上に照射光を照射することで、任意の場所に光結合器などの光学素子としての機能を発現させることが出来る。したがって、照射光明暗パターンをオン・オフさせたり、照射光明暗パターン形状を変化させることで、導波路上の任意の場所で長波長光に対する光結合器などの光学素子としての機能をオン・オフさせたり、その光学特性を変化させることができる。
【0015】
半導体層上の任意の場所に任意のパターンで光照射する方法としては、任意のパターンの形成されたパターン形成部材を用いる方法、2つ以上のレーザ光などの光束を干渉させる方法などがある。前記パターン形成部材としては、第1の電磁波に対して透明もしくは吸収の小さい媒質に第1の電磁波に対して不透明もしくは吸収の大きい物質(すなわち不透明もしくは半透明)を任意のパターンで施した部材、第1の電磁波に対する反射率が異なるものによって任意のパターンを施した第1の電磁波を反射する部材(例えば、低反射率な物質上に照射光に対して高反射率な物質を施した部材)、或いは第1の電磁波に対して透明な媒質上に第1の電磁波に対して不透明もしく吸収が大きい物質を任意のパターンで施した部材としての液晶表示装置またはガラス上にクロムなどの金属を施した部材などが挙げられる。
【0016】
また、上記課題に鑑み、本発明の分光器ないしモノクロメータは、上記の光学素子を回折格子として用い、回折格子の格子定数を変更することが出来る様に構成されたことを特徴とする。さらに、本発明の装置は、上記の光学素子を含み、前記照射部が導波路に沿って移動することが出来、前記半導体層上の任意の場所に第1の電磁波を任意のパターンで照射する様に構成されたことを特徴とする。
【0017】
また、上記課題に鑑み、本発明の電磁波の伝搬状態制御方法は、一部に半導体層を含んだ電磁波導波路の半導体層上の任意の場所に、半導体層のバンドギャップエネルギーより高い光子エネルギーを持つ波長の第1の電磁波を任意のパターンで照射し、この照射で生じた半導体層表面近傍のフォトキャリアの濃度高低パターンが、半導体層のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の第2の電磁波に対して複素屈折率が異なるパターンを生じさせることによって、導波路を伝搬するかこのパターン上に照射される第2の電磁波の伝搬状態を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光結合器などの光学素子においては、電磁波導波路を構成する半導体層のバンドギャップエネルギーより高い光子エネルギーを持つ波長の前記第1の電磁波を、半導体層上の任意の場所に任意のパターンで照射することで、導波路を伝搬するかこのパターン上に照射される前記第2の電磁波の伝搬状態を制御するので、外部からの操作によって比較的容易に光学素子の光学特性、機能等を変更でき、また光学素子を導波路の任意の場所において任意に発現させたり消滅させたりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明による電磁波用光学素子及び電磁波の伝搬状態制御方法の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で示す周波数や角度、波長など具体的な数字および具体的物質名等はあくまで一例であって、本発明の趣旨を限定するものではない。また図は模式的に描かれたものであり、正確な寸法を示すものではない。
【0020】
(実施形態1)
本発明の第1の実施の形態を、図1を参照しながら説明する。本実施形態において、導波路04は、高抵抗Si層01をコア層とし、空気層02と溶融石英基板03をクラッド層とした三層非対称導波路である。テラヘルツ波に対して高抵抗Siは吸収が十分小さく、誘電体として振舞い、その屈折率は約3.4である。一方、溶融石英のテラヘルツ波に対する屈折率は約1.95であることが知られている。したがって、上記導波路04はテラヘルツ波に対して光導波機能を有する。
【0021】
クラッド層には、テラヘルツ波に対して低損失で、かつ屈折率が高抵抗Siより小さい有機物層を用いてもよい。半導体層としての前記高抵抗Si層の抵抗率は、100Ωcm以上であることが好ましく、500Ωcm以上であることがより好ましく、1kΩcm以上であることが更に好ましい。理由は上記した通りである。
【0022】
一方、光源(図示せず)から出射した照射光06は、結像光学系07によりフォトマスク05(パターン形成部材)の像08を高抵抗Si層01の表面上に結像する。照射光06の波長は、コア層である高抵抗Si層01のバンドギャップエネルギーより高い光子エネルギーを持つものを選ぶ。例えば、1060nmのレーザ光を用い、強度は1Wとする。
【0023】
本実施形態において、前記光源から出射した照射光06は、例えば、拡大光学系(図示せず)によってビーム径が縦10mm×横20mm程度に拡大される。フォトマスク05は、1060nmの照射光06に対して透明な材質の板に、照射光06に対して不透明な物質を用いて所望のパターンを描いたものである。パターンの描画には、市販のプリンタなどを用いてもよい。または、フォトマスク05に液晶表示装置を用い、1060nmの照射光06に対して透明な部分と照射光06に対し不透明な部分を電気的駆動により任意に表示できるものを使用してもよい。また、1060nmの照射光06に対して高反射率な材質の板に、照射光06に対して低反射率な物質を用いて所望のパターンを描いたものを用いてもよい。図1では、細長い明暗パターンが描かれたフォトマスク05の例が模式的に示されている。
【0024】
結像光学系07は、フォトマスク05の像を高抵抗Si層01上に投影する。このとき、縮小投影光学系、等倍投影光学系、拡大投影光学系のいずれを用いてもよい。光学系の投影倍率が容易に変更できるズームレンズを用いるのもよい。また、2つ以上のレーザ光の光束を干渉させることで、高抵抗Si層01上に明暗パターンを照射するのもよい。
【0025】
例えば、フォトマスク05のパターンとして、縦10mm、横20mm程度の領域に、横幅0.1mm〜1.0mm程度の細長い黒線を適当間隔で多数平行に並べたものを描いたとする。結像光学系07に倍率4分の1の縮小投影光学系を用いた場合、高抵抗Si層01上には、更に細長い明線が更に狭い間隔で多数平行に並び、これが前記フォトマスク05の像08である。
【0026】
上記原理説明のところで述べたように、像08の明線部分には、照射光06によって励起されたフォトキャリアが存在し、それ以外の部分はフォトキャリアが存在しないか、或いは非常に少ない。フォトキャリア濃度の高い部分はテラヘルツ波に対し金属様に振舞い、フォトキャリア濃度の低い部分はテラヘルツ波に対し誘電体として振舞う。こうして、周期的にフォトキャリア濃度が変化した高抵抗Si層01上の像08部分は、複素屈折率が周期的に変化していることとなり、テラヘルツ波に対して回折格子として機能する。例えば、前記像08部分は格子定数約100μmの回折格子として機能する。
【0027】
ここで、高抵抗Si層01上の像08部分に周波数1THzのテラヘルツ波を入射長波長光09として垂直に入射させるとする。このとき、入射テラヘルツ波の偏光面を、位相板などを用いて適切に調節する。高抵抗Si層01上の像08部分は入射長波長光09に対して回折格子型光結合器として機能し、例えば、このときのコア層である高抵抗Si層01の厚さが約60μmであれば、導波長波長光10としてTE0次モードの導波光が励起される。
【0028】
上に述べた構成では、1THz以外の任意の周波数のテラヘルツ波を導波路04にTE0次モードで結合することは出来ない。例えば、0.1THzのテラヘルツ波をTE0次モードで導波路04に結合することは出来ない。
【0029】
しかし本実施形態では、コア層である高抵抗Si層01上の像08の明暗パターンを変化させることで、0.1THzのテラヘルツ波も導波路04にTE0次モードで結合させることが出来る。例えば、像08の明暗パターンを、幅が約260μmの明線と暗線を交互に並べたパターンにすることによって、高抵抗Si層01上の像08部分は、0.1THzのテラヘルツ波に対して、導波路04にTE0次モードで結合する回折格子型結合器として機能する。
【0030】
像08のパターンを変更する方法としては、結像光学系07の投影倍率を変更することが挙げられる。また、フォトマスク05に、照射光06に対して透明な材質の板に照射光06に対して不透明な物質を用いて所望のパターンを描いたものを用いている場合、または照射光06に対して高反射率な材質の板に照射光06に対して低反射率な物質を用いて所望のパターンを描いたものを用いている場合などは、別の所望のパターンを描いたフォトマスクと交換するのもよい。また、フォトマスク05として液晶表示装置を用いている場合は、表示するパターンを電気的駆動により変更させるのもよい。
【0031】
また、2つ以上のレーザ光の光束を干渉させて明暗パターンを照射する場合は、光束が交わる角度を変更することで、干渉による明暗パターンの間隔を変えられる。
【0032】
以上により、光結合器の格子定数を外部からの操作によって変更させることによって、任意の周波数のテラヘルツ波09を導波路04に結合させることが出来るという効果が奏される。また、導波路04を伝播するテラヘルツ波10を外部に放射させることもできる。この例を以下に説明する。
【0033】
図2に示すように、例えば前記フォトマスク05のパターンとして、上記と同様な細長い黒線を適当間隔で多数平行に並べたものを用いたとする。結像光学系07に倍率4分の1の縮小投影光学系を用いた場合、高抵抗Si層01上には更に細くて短い細長い明線が更に狭い間隔で多数平行に並び、これが前記フォトマスク05の像08である。これは、上記の説明と同様の原理で、例えば格子定数100μmの回折格子として機能する。
【0034】
高抵抗Si層01上のこの像08部分は、導波路04中を伝搬している周波数1THzのテラヘルツ波である導波長波長光10を導波路04外へ放射させる回折格子型光結合器として機能する。このとき、像08の明暗パターンの100μmの明線と暗線が交互に並んでいる時は、放射されるテラヘルツ波である放射長波長光11は導波路04に対して垂直方向に放射される。
【0035】
コア層である高抵抗Si層01上の像08の明暗パターンを変化させることで、放射長波長光11の放射角(コア層01の法線と放射長波長光11のなす角度)を変更することが出来る。例えば、像08の明暗パターンを、幅が約70μmの明線と暗線を交互に並べたパターンにすることによって、放射長波長光11の放射角は60°となる。よって、放射テラヘルツ波11のビーム偏向が出来る。像08のパターンを変更する方法は、上で説明した通りである。
【0036】
よって、機械的駆動部分なしに簡単な構成で容易に放射テラヘルツ波11のビーム偏向が出来る。また、照射光06をオン・オフすることで、回折格子型光結合器としての機能をオン・オフ出来、放射テラヘルツ波11のスイッチングや変調が可能になる。例えば、照射光06のオン・オフを利用して情報通信を行う場合、照射光06の情報を放射テラヘルツ波11のオン・オフに変換することが可能となる。
【0037】
以上の構成を有する本実施形態は、外部からの操作によって(例えば、パターンを半導体基板に結像するための結像光学系07の投影倍率を変更したり、第1の電磁波06をオン・オフしたり、第1の電磁波06の強度または波長を変調したり、パターン形成部材05を交換したりする操作によって)容易に回折格子の格子定数に由来する光学特性を変更でき、また光結合器としての機能を任意の場所に任意に発現・消滅させることが出来、すなわちスイッチング・変調が出来、かつ光学調整が容易で構成が簡単であるという効果を有する。
【0038】
ところで、本実施形態におけるパターン形成部材は任意のパターンを有し得るので、本発明の光学素子の機能は種々多様であり得る。上記機能の他に、半導体層のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の電磁波に対して、例えば、強度変調、フィルタリング等の機能も有し得る。
【0039】
(実施形態2)
本発明の第2の実施に形態を、図3を参照しながら説明する。本実施形態の導波路04は、実施形態1のものと同じである。
【0040】
本実施形態では、クラッド層である空気層02に、テラヘルツ帯の周波数領域の周波数分散を持つ物質13を置く。物質13は液体(溶液)・固体・気体を問わない。ここにおいて、コア層01を伝搬する導波長波長光10であるテラヘルツ波は、一部がクラッド層02に染み出す。クラッド層02に染み出したテラヘルツ波10と物質13の相互作用により、導波長波長光10の伝搬状態が変化する。したがって、この伝搬状態の変化を観察することで、物質13のセンシングが出来る。
【0041】
物質13と相互作用した後の導波長波長光10を検出するために、実施形態1の図2で述べた構成で導波長波長光10を外部に放射させる。このとき、高抵抗Si層01上の像08部分の光結合器によって放射される放射長波長光11は、波長によって放射角が異なるが、導波長波長光10が幅広い周波数範囲にわたっている時(例えば、0.1THz〜3THz)は、すべての周波数成分を外部に放射させることは出来ない。
【0042】
しかし、コア層である高抵抗Si層01上に照射された明暗パターン08の明線と暗線の間隔を変更することで、順次全周波数にわたって外部に放射し、検出器12で検出することが可能である。すなわち、本実施形態によって、より幅広い周波数の導波長波長光10を外部に放射することが可能であり、好適にセンシング・分析装置を構成できる。
【0043】
(実施形態3)
本発明の第3の実施の形態について、図4を参照しながら説明する。本実施形態では、導波長波長光10であるテラヘルツ波が、コア層として高抵抗半導体層01を持つ導波路04中を伝搬している。そして、高抵抗半導体層01上に任意の明暗パターンを照射できる照射部と、空間に放射された放射長波長光11を検出する検出部12を備え、かつ導波路04に沿って移動できる移動装置14が設けられている。これは、導波路04上の任意の位置の高抵抗半導体層01上に、任意の格子定数の回折格子状明暗パターン08を投影する。
【0044】
既に説明した如く、高抵抗半導体層01上の像08は、回折格子型光結合器として機能し、導波長波長光10を、空間を伝搬する放射長波長光11として取り出す。そして、検出部12で放射長波長光11を検出することで、移動装置14周辺の大気等の分光分析・センシングが可能となる。
【0045】
例えば、高速道路などに導波路04を設置し、その始点にテラヘルツ波発生装置を設置し、発生したテラヘルツ波を導波路04に導波させ、移動装置14を高速道路の導波路04に沿って移動させながら任意の場所でテラヘルツ波10を導波路04より取り出し、検出部12で検出する。このことで、高速道路上任意の場所における大気成分などのセンシングが可能となる。
【0046】
(実施形態4)
本発明の第4の実施の形態を、図5を参照しながら説明する。本実施形態では、導波路として、基板15上に金属層16を有し、金属層16の上に高抵抗Si層01を絶縁体として用い、高抵抗Si層01上に金属線であるストリップライン17を有する構造の金属導波路を用いる。基板15には、例えば石英基板などを用いる。金属層16およびストリップライン17には、例えば金などを用いる。
【0047】
ここにおいて、導波長波長光は、金属層16とストリップライン17によって挟まれた高抵抗Si層01に閉じ込められ、またストリップライン17によって、横方向(高抵抗Si層01に平行で、かつ導波長波長光の伝搬方向と垂直な方向)にも閉じ込められる。
【0048】
ここで、図5に示すように、照射光(図示せず)による明暗パターン08を、高抵抗Si層01上に照射する。このとき、導波長波長光の伝搬経路近傍であるストリップライン17近傍に照射する。図5のように、ストリップライン17を跨ぐように照射してもよい。ここでも、実施形態1で説明したように、半導体層01のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の第2の電磁波に対して伝搬状態を制御することができる。第2の電磁波は横方向にも閉じ込められているので、有効に利用でき、また照射光による比較的幅の狭いパターンにより効率的に制御できる。
【0049】
(実施形態5)
本発明の第5の実施の形態を、図6を参照しながら説明する。本実施形態では、導波路として、溶融石英基板03上に高抵抗Si層01を持ち、高抵抗Si層01上に有機物(例えばポリシラン)の線18を持つ構造のものを用いる。有機物18には、テラヘルツ波に対して低損失で、かつ高抵抗Si01より屈折率の低い物を用いる。
【0050】
ここにおいても、導波長波長光は、溶融石英基板03と有機物線18によって高抵抗Si層01に閉じ込められる。このとき、高抵抗Si層01に垂直な方向と、高抵抗Si層01に平行でかつ導波長波長光の伝搬方向に垂直な方向(横方向)の、両方向で閉じ込められる。
【0051】
ここで、図6に示すように、照射光(図示せず)による明暗パターンを有機物線18近傍の高抵抗Si層01上に照射する。このとき、図6のように有機物のストリップライン18を跨ぐように照射してもよいし、有機物のストリップライン18が照射光に対して透明であれば、高抵抗Si層01の有機物線18直下の部分のみを照射してもよい。導波長波長光は上記横方向に閉じ込められているからである。ここでも、実施形態1で説明したように、半導体層01のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の第2の電磁波に対して伝搬状態を制御することができる。また、実施形態4と同様な効果を有する。
【0052】
(実施形態6)
次に、本発明の第6の実施の形態を、図7を参照して説明する。図7は、実施形態5の導波路である図6の有機物のストリップライン18方向に沿った方向で、かつ高抵抗Si層01に垂直な方向の断面図である。
【0053】
こうした構成の本実施形態では、溶融石英基板03上に高抵抗Si層01があり、高抵抗Si層01上に有機物のストリップライン18がある。導波長波長光10は有機物のストリップライン18近傍の高抵抗Si層01中を導波する。
【0054】
ここで、照射光06で、高抵抗Si層01上でかつ有機物のストリップライン18の直下およびその近傍を、照射する。このとき、照射パターンとして、明部のみからなり、導波長波長光10(これは横方向にも閉じ込められている)の導波経路を覆うようなスポットパターン19を用いる。
【0055】
照射光06の照射によって高抵抗Si層に生じたフォトキャリア20によって、導波長波長光10は減衰するため、高抵抗Si層01上の照射光06の照射部分は導波長波長光10の減衰器として機能する。また、照射光06によって生じたフォトキャリアが十分多く、導波長波長光10を十分減衰せしめることができるときは、照射光06を制御光として導波長波長光10をオン・オフでき、スイッチとして機能する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態であって、テラヘルツ波を導波路に結合させる電磁波用光学素子及び電磁波の伝搬状態制御方法を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であって、導波路を導波するテラヘルツ波を空間に放射させる電磁波用光学素子及び電磁波の伝搬状態制御方法を説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施形態である電磁波用光学素子ないし分光器を説明する図である。
【図4】本発明の第3の実施形態である電磁波用光学素子及び電磁波の伝搬状態制御方法を説明する図である。
【図5】本発明の第4の実施形態である電磁波用光学素子ないし移動装置を説明する図である。
【図6】本発明の第5の実施形態である電磁波用光学素子及び電磁波の伝搬状態制御方法を説明する図である。
【図7】本発明の第6の実施形態である電磁波用光学素子及び電磁波の伝搬状態制御方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
01 半導体層(高抵抗Si層)
04 電磁波導波路
05、07 照射部
05 パターン形成部材(フォトマスク、液晶表示装置)
06 第1の電磁波(照射光、レーザ光)
07 結像光学系
08 複素屈折率が異なるパターン(明暗パターン像)
09、10 第2の電磁波(入射長波長光、導波長波長光)
12 検出器
14 移動装置
20 フォトキャリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部に半導体層を含んだ電磁波導波路と、前記半導体層のバンドギャップエネルギーより高い光子エネルギーを持つ波長の第1の電磁波を、前記半導体層上の任意の場所に任意のパターンで照射する照射部を有し、前記照射部による照射で生じた前記半導体層表面近傍のフォトキャリアの濃度高低パターンが、前記半導体層のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の第2の電磁波に対して複素屈折率の異なるパターンを生じさせることによって、前記導波路を伝搬するかこのパターン上に照射される前記第2の電磁波の伝搬状態を制御することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記照射部は、前記第1の電磁波を出射する光源と、任意のパターンの形成されたパターン形成部材と、前記パターン形成部材のパターンを第1の電磁波の明暗パターンとして前記半導体層に結像する結像系とを有する請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記パターン形成部材は、前記第1の電磁波に対して透明もしくは吸収の小さい媒質に前記第1の電磁波に対して不透明もしくは吸収の大きい物質を任意のパターンで施した部材、前記第1の電磁波に対する反射率が異なるものによって任意のパターンを施した前記第1の電磁波を反射する部材、或いは前記第1の電磁波に対して透明な媒質上に前記第1の電磁波に対して不透明もしく吸収が大きい物質を任意のパターンで施した部材としての液晶表示装置またはガラス上に金属を施した部材である請求項1または2記載の光学素子。
【請求項4】
前記照射部において、前記第1の電磁波のパターンを任意に変化させることによって、前記半導体層の前記第2の電磁波の伝搬制御特性を変更できる様に構成された請求項1乃至3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記半導体層に照射される任意のパターンが、回折格子状の明暗パターンであり、前記半導体層表面近傍の前記照射部による照射で生じた明暗パターン部分のフォトキャリアの濃度高低パターンが、前記第2の電磁波に対して、格子定数が一定或いは変更できる回折格子型光結合器として機能する請求項1乃至4のいずれかに記載の光学素子。
【請求項6】
前記半導体層表面に第1の電磁波が照射されることによって生ずるフォトキャリアによって、前記導波路を伝搬する前記第2の電磁波が吸収されることを利用して、前記第2の電磁波に対して減衰器または変調器として機能する様に構成された請求項1記載の光学素子。
【請求項7】
請求項5記載の光学素子を回折格子として用い、前記回折格子の格子定数を変更することが出来る様に構成されたことを特徴とする分光器ないしモノクロメータ。
【請求項8】
請求項1記載の光学素子を含み、前記照射部が前記導波路に沿って移動することが出来、前記半導体層上の任意の場所に第1の電磁波を任意のパターンで照射する様に構成されたことを特徴とする装置。
【請求項9】
一部に半導体層を含んだ電磁波導波路の半導体層上の任意の場所に、前記半導体層のバンドギャップエネルギーより高い光子エネルギーを持つ波長の第1の電磁波を任意のパターンで照射し、前記照射で生じた前記半導体層表面近傍のフォトキャリアの濃度高低パターンが、前記半導体層のバンドギャップエネルギーより低い光子エネルギーを持つ波長の第2の電磁波に対して複素屈折率が異なるパターンを生じさせることによって、前記導波路を伝搬するかこのパターン上に照射される前記第2の電磁波の伝搬状態を制御することを特徴とする電磁波の伝搬状態制御方法。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−71801(P2006−71801A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252881(P2004−252881)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】