説明

電磁石を兼ねる摩擦材及び該摩擦材を組込んだ摩擦係合装置

【課題】電磁石機能を有する摩擦材と小型軽量でトルクの容量が大きい電磁ブレーキ又はクラッチを提供すること。
【解決手段】摩擦材1は、好適には、磁性材料の粉体に無機系繊維が配合された鉄90wt%以上、ケイ素0〜8wt%と耐熱性樹脂0〜4wt%の割合でなり、軟磁性材料を圧縮成形し、耐熱性樹脂を硬化させて作製される。摩擦材1の側面に絶縁被膜処理された銅線3を巻く。銅線3に通電すると、電磁力が生じて、摩擦材1とプレートが係合するため、摩擦材1自体が電磁石の役割を果たす。従って、電磁石を別途設ける必要がないため、電磁ブレーキ5の小型軽量化が実現できる。また、摩擦面の極近傍で磁界が発生するため、エネルギーロスが少なく、摩擦材1の係合に十分な磁力が得られるため、小型軽量化により、トルクの容量が減少することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石を兼ねる摩擦材及び該摩擦材を組込んだ摩擦係合装置に関する。摩擦係合装置とは、摩擦式ブレーキ及びクラッチの総称である。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁クラッチのトルク容量の大きさは、電磁石や摩擦クラッチの大きさに比例していた。
従って、電磁クラッチのトルク容量を大きくするために、電磁石や摩擦クラッチを大型化すると、電磁クラッチ全体も大型で重くなり、消費電力が増大する、という問題があった。
そこで、小型軽量でトルク容量が大きい電磁クラッチとして、特許文献1のものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−58346号公報
【0004】
特許文献1の電磁クラッチは、摩擦クラッチの伝達トルクをスラスト力に変換するスラスト力発生手段(ヘリカルスプライン)を具える。スラスト力発生手段により、摩擦クラッチの締結力が増幅されるため、電磁石や摩擦クラッチを大型にせずに、大きなトルク容量が得られ、消費電力も少なくてよいとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明は、電磁石や摩擦クラッチを大型にした場合よりは、電磁クラッチの重量化問題が軽減されるものの、スラスト力発生手段を新たに設けなければならないため、電磁クラッチの重量増加を完全に回避することはできず、根本的な解決にはなっていない。また、電磁クラッチの構造が複雑になり、製造工数が増大するという問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、摩擦材に電磁石を兼ねさせることを可能にし、そのことにより、構造が単純で小型軽量な摩擦係合装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、軟磁性材料を圧縮成形してなり、
側面に巻かれた銅線に通電されることにより電磁石を兼ねることを特徴とする摩擦材によって前記課題を解決した。
請求項2のように、軟磁性材料には炭素繊維又は鉄系繊維が配合されていることが望ましい。
なお、請求項3のように、軟磁性材料が、磁性材料の粉体を含む鉄90wt%以上、ケイ素0〜8wt%、及び耐熱性樹脂0〜4wt%の割合でなるのがよい。
耐熱性樹脂としては、合成樹脂の中でも、特に、耐熱性、難燃性に優れたフェノール樹脂が好ましい。
本発明の摩擦材は、摩擦係合装置に組込まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、軟磁性材料からなる摩擦材に銅線を巻き、銅線に通電することにより、電磁力が生じて、摩擦材が摩擦相手材と係合する。従って、摩擦材そのものが電磁石の役割を果たすため、電磁石を別途設ける必要がない。従って、このような摩擦材を摩擦係合装置に用いれば、新たな手段を設けることなく、トルクの容量を保持したまま、摩擦係合装置の小型軽量化を実現できる。
また、本発明の摩擦材は、乾式、湿式を問わず、様々な摩擦係合装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は、本発明の摩擦材を有する摩擦板の上面概略図、(b)は、本発明の摩擦材の側面図、(c)は、本発明の電磁ブレーキの概略図。
【図2】(a)は、本発明の第1実施形態の摩擦材をコアプレートに固着させた摩擦板の上面図、(b)は、その側面図。
【図3】(a)は、本発明の第1実施形態の電磁ブレーキに用いる鉄プレートの上面図と側面図、(b)は、本発明の第1実施形態の電磁ブレーキに用いるハブの上面図と側面図。
【図4】(a)は、本発明の第1実施形態の電磁ブレーキの上面図、(b)は、その縦断面図。
【図5】本発明の第2実施形態の摩擦材をコアプレートに固着させた摩擦板の上面図。
【図6】本発明の第2実施形態の電磁ブレーキの縦断面図。
【図7】(a)は、本発明に使用される戻しばねの上面図、(b)は、その縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の摩擦材と電磁ブレーキの概略について、図1を参照しながら説明する。
摩擦材1は、軟磁性材料を圧縮成形させたものでよいが、摩擦相手材と係合する際の剪断力に耐えられるようにしたい場合は、軟磁性材料には無機系繊維を配合して、摩擦材1の強度を向上させる。
軟磁性材料とは、硬磁性材料と対比される概念で、比較的小さな磁場でも容易に磁化され、ヒステリシスが比較的小さく、保持力も比較的小さな高透磁率磁性材料を言う。
軟磁性材料には、磁性材料を粉砕して粉体にし、圧縮形成して得たものを使用するが、必要に応じて、前記粉体に、無機系繊維を配合する。
無機系繊維としては、炭素繊維や鉄系繊維が使用される。炭素繊維には、繊維径5〜10μm、カット長1〜5mmのものを用いるのが好適である。鉄系繊維を用いる場合は、繊維径3〜15μm、カット長1〜5mmのステンレス鋼繊維が好ましい。
なお、好適には、摩擦材1は、磁性材料の粉体に無機系繊維が配合された鉄90wt%以上、ケイ素0〜8wt%と耐熱性樹脂0〜4wt%の割合でなる軟磁性材料を圧縮成形し、耐熱性樹脂を硬化させることにより、作製される。
ケイ素は、鉄損の低下を目的として配合される。ケイ素が多く含まれると、鉄が脆くなるため、ケイ素の割合は、特に4〜5wt%とするのが好適である。
また、耐熱性樹脂が多ければ材料強度が増すが、その分、鉄の割合が低くなるため、磁束密度の低下を招く。従って、耐熱性樹脂の割合は最大で4%とするのが望ましい。
耐熱性樹脂には、合成樹脂の中でも特に耐熱性、難燃性に優れたフェノール樹脂が使用され、粉末状、液状の各タイプを用途に応じて使い分けるのが好適である。
なお、湿式摩擦材として用いる場合は、冷却効果や摩擦特性を変えるために、摩擦材の表面に溝を設けたり、気孔を有するものにするのがよい。
気孔は、粉体の粒径を大きくして粒子間に隙間を設けることにより、形成される。また、鉄粉に炭素繊維や鉄系繊維を混合すると、繊維同士が絡むため、プレス成型時に繊維の間に粉体が入りにくくなる。その結果、空隙ができるため、粉体同士が互いに付着せず、気孔が形成される。
【0011】
摩擦材1の側面には、絶縁被膜処理された銅線3を巻く。これにより、銅線3に電気を流せば、電磁力が発生し、摩擦材1が電磁石としての役割を果たすことができる。
図1(b)左図に示すように、摩擦材1の側面はフランジ形状としている。これは、コアプレート4から一定の高さまで銅線3を巻くことを考慮したものである。銅線3を巻くと、摩擦材1の形状は、直方体となる(図1(b)右図参照)。
銅線3は、絶縁被膜処理されているため、摩擦材1が湿式摩擦材として使用された場合でも、油により銅線3の機能が損なわれることはないが、必要に応じて、摩擦材1の銅線3が巻かれた部分を、耐熱性や耐薬品性に優れたフェノール樹脂やエポキシ樹脂で覆って、保護してもよい。
銅線3を巻いた摩擦材1をコアプレート4に接着し、図1(a)の摩擦板2が作製される。
【0012】
図1(c)は、摩擦板2を具えた電磁ブレーキ5の概略図である。
摩擦板2は、固定子側に設けられ、回転軸7、回転軸7の外周に設けられたハブ8とともにプレート9が回転する。
摩擦板2とプレート9の間には、それぞれ、戻しばね6が設けられている。銅線3に通電すると、各戻しばね6の弾性反発力よりも大きい電磁力が生じてプレート9が摩擦材1に引き寄せられて軸方向に移動し、摩擦材1とプレート9が密着係合し、隙間なく一体となる。これにより、回転軸7の回転が摩擦力によって停止するため、電磁ブレーキとして機能する。電気を止めると、戻しばねの弾性反発力により摩擦材1とプレート9が離れ、回転軸7の回転が再開する。従って、摩擦材1そのものが電磁石にもなるので、別途電磁石を設ける必要がない。なお、軸方向移動を可能にするため、図示は省略するが、摩擦板2の外周と、プレート9の内周には、スプラインが設けてある。
なお、戻しばね6としては、図7に示すような、波形座金を使用するのが好適である。
【0013】
以下、図2〜6を参照しながら、本発明の具体的な実施形態を説明する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
まず、本発明の第1実施形態について、図2〜4を参照して説明する。
鉄とケイ素の重量成分比率が95:5である粉体90wt%、繊維径6μm、カット長1mmのステンレス鋼繊維8wt%とフェノール樹脂2wt%の割合でなる組成物を面圧100kgf/cm2でプレス成型した後、250℃、1時間 の環境下で、樹脂を硬化させ、摩擦材10Aを得た。なお、ステンレス鋼繊維中の鉄成分を85wt%とすると、全体における鉄成分は、粉体90%×0.95+繊維8wt%×0.85=92.3wt%となる。
ステンレス鋼繊維には、日本精線株式会社から市販されている「ナスロン」(型式:NASRON CHOP 6/1 CMC)を使用した。
摩擦材10Aの大きさは、縦10mm、横10mm、高さ5mmであり、側面は、図2(b)に示した形状とし、下部から4mm分絶縁被膜処理された0.3φの銅線12を巻いた。銅線12が巻かれた摩擦材10Aをコアプレート14の上下に接着し、摩擦板20Aを作製した(図2(a)参照)。
【0015】
図3(b)のハブ34に、図3(a)の鉄プレート32をスプライン結合させ、スナップリング33で固定した。2枚の鉄プレート32の間に摩擦板20Aを1枚配設し、鉄プレート32とコアプレート14の間に戻しばね38を1枚ずつ設けて、電磁ブレーキ50Aを作製した(図4(a)(b)参照)。
摩擦材10Aの銅線12に通電すると、摩擦材10Aに磁力が発生し、鉄プレート32が引き寄せられ、摩擦材10Aと鉄プレート32が摩擦係合した。これにより、ハブ34の回転が止まった。
通電を止めると、戻しばね38により、摩擦材10Aから鉄プレート32が離れ、再び、鉄プレート32とハブ34は回転可能となった。
表1に、電磁ブレーキ50Aと従来品の性能を比較した結果を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1のとおり、本発明の電磁ブレーキ50Aは、従来品に比べ、大きさが約60%にも拘らず、トルク容量は1.2倍となっており、小型軽量でトルク容量が大きい電磁ブレーキであることが分かる。
【実施例2】
【0018】
次に、図5と6を参照して、本発明の第2実施形態について、第1実施形態と異なる部分を説明する。
鉄とケイ素の重量成分比率が95:5である粉体100wt%を面圧100kgf/cm2でプレス成型した後、1200℃で焼結し、摩擦材10Bを得た。 摩擦材10Bの表面には幅0.5mmの溝16を切った。
摩擦材10Bを使用して、摩擦板20Bを作製後、図3(b)のハブ34に図3(a)の鉄プレート32を3枚スプライン結合させ、スナップリング33で固定した。鉄プレート32の間に摩擦板20を1枚ずつ配設し、鉄プレート32とコアプレート14の間に戻しばね38を1枚ずつ設けて、電磁ブレーキ50Bを作製した(図6参照)。
本実施形態おいても、摩擦材10Bの銅線に通電すると、摩擦材10Bと鉄プレート32の係合により、ハブ34の回転が止まることが確認できた。
通電を止めると、摩擦材10Aから鉄プレート32が離れ、再び、鉄プレート32とハブ34は回転可能となった。
この場合、摩擦材10Bの表面に溝16を切ることにより、冷却効果を高めることができる。
【実施例3】
【0019】
最後に、本発明の第3実施形態について、第1実施形態と異なる部分を説明する。なお、本実施形態の外観は、第1実施形態と同じであるため、図示は省略する。
鉄とケイ素の重量成分比率が95:5である粉体86wt%、ステンレス鋼繊維10wt%とフェノール樹脂4wt%の割合でなる組成物を面圧30kgf/cm2でプレス成型した後、250℃、1時間の環境下で、樹脂を硬化させ、摩
擦材を得た。この摩擦材は、気孔を10vol%有するものとなったので、油を吸収でき、冷却効果が向上する。
得られた摩擦材を使用して、第1実施形態と同様に摩擦板、電磁ブレーキを作製したところ、本実施形態においても、摩擦材の銅線に通電すると、摩擦材と鉄プレートの係合により、ハブ34の回転が止まることが確認できた。
また、通電を止めると、摩擦材10Aから鉄プレート32が離れ、再び、鉄プレート32とハブ34は回転可能となった。
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、軟磁性材料からなる摩擦材に銅線を巻くことにより、銅線に電流が流れると、摩擦材が電磁石の役割を果たすため、電磁石を別途設ける必要がない。これにより、摩擦係合装置を小型軽量にすることができる。また、このような構造とすることで、摩擦面の極近傍で磁界が発生するため、エネルギーロスが少なく、摩擦材の係合に十分な磁力が得られるため、小型軽量化により、トルク容量が減少することはない。
さらに、摩擦材の材料として、鉄系繊維や耐熱性に優れた樹脂を付加することにより、摩擦材とプレートの係合時の摩擦熱に加え、電磁力による熱が発生しても、摩擦面の温度上昇を抑制することができ、熱劣化による摩擦機能の低下を防止できる。特に、湿式摩擦材として用いた場合は、摩擦面に油が介在して、油による冷却効果を奏することができる。また、摩擦材は、分割型として配置することにより、摩擦面の温度上昇を抑えることができる。
以上に説明したような粉体を主とする軟磁性材料の圧縮成型によって得られる電磁石は、摩擦材として見た場合も、適度の表面粗度と強度を具えており、成型後に格別の加工を施さなくても、十分に、摩擦材として機能することが分かった。
【0021】
なお、前述した実施形態では、電磁ブレーキの例で説明したが、これを、電磁クラッチに適用したとしても、基本構成、動作原理は同様であり、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0022】
電磁クラッチの場合は、摩擦板も回転するが、従来と同様に、摺動部にブラシ等による給電方式を用いて、銅線に通電すればよい。
【符号の説明】
【0023】
1、10A、10B 摩擦材
3、12 銅線
4、14 コアプレート
2、20A、20B 摩擦板
5、50A、50B 電磁ブレーキ
32 鉄プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性材料を圧縮成形してなり、
側面に巻かれた銅線に通電することにより電磁石を兼ねることを特徴とする、
摩擦材。
【請求項2】
前記軟磁性材料に炭素繊維又は鉄系繊維が配合されている、請求項1の摩擦材。
【請求項3】
前記軟磁性材料が、磁性材料の粉体を含む鉄90wt%以上、ケイ素0〜8wt%、及び耐熱性樹脂0〜4wt%の割合でなる、請求項1の摩擦材。
【請求項4】
前記耐熱性樹脂がフェノール樹脂である、請求項3の摩擦材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの摩擦材が組込まれた摩擦係合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−21573(P2012−21573A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159322(P2010−159322)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000204882)株式会社ダイナックス (31)
【Fターム(参考)】