説明

電線に対する端子の圧着方法

【課題】バネ性に富む銅端子を使用しながら、ヒートサイクルやサーマルショック条件のもとであっても、圧着部の接触抵抗の安定化を図り得る、単純作業化の可能な端子の圧着方法を提供する。
【解決手段】銅端子10の圧着部12をアルミニウム電線1の導体2に、外側から包み込むように圧着する方法において、圧着後の製品の使用が想定される温度域の下限値(例えば、−40℃)以下の温度雰囲気で、端子10を電線1の導体2に圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属で構成された電線と端子の接続方法に係り、特に、アルミニウム電線に対して銅端子を圧着接続する場合に有効な圧着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のワイヤーハーネスに使用されている電線は、従来では一般的に銅電線であったが、最近では、軽量性やリサイクル性の良さからアルミニウム電線に置き換える動きがある。
【0003】
アルミニウムは、銅に比べて、導電率が60%程度であるが、重さが1/3ですむので、大幅な軽量化が期待できる。また、銅の融点は1083℃であるのに対し、アルミニウムの融点は660℃であるので、金属回収しやすい利点もある。
【0004】
自動車のワイヤーハーネスの電線をアルミニウム電線にした場合、圧着端子に銅端子を用いると、次の問題がある。アルミニウムは銅より線膨張係数が大きい。アルミニウムの線膨張係数は23.5×10−6/℃、銅の線膨張係数は17.0×10−6/℃であるから、アルミニウムは銅の1.4倍くらい温度変化に応じて伸び縮みしやすい。従って、銅端子をアルミニウム電線に圧着した場合、ヒートサイクルあるいはサーマルショック条件下において、アルミニウム導体と銅端子との間の接触抵抗が安定しなくなるという問題が生じる。
【0005】
その点について詳しく説明する。
【0006】
図2は、アルミ電線用圧着端子をアルミ電線の導体に圧着する場合の一般的な例を示している。アルミ電線用圧着端子としての端子10は、前部に孔11a付きの接続板部11を持ち、後部に圧着部12を持つ。圧着部12は、底板13と、該底板13の幅方向両側縁から上に延設された一対の圧着片14、14とを持つU字形状をなしており、内面にセレーション15を有する。電線1は、撚線等よりなる導体2の外周を絶縁被覆3で覆ったもので、端子10を圧着する際には、皮剥きした電線1の端末の露出導体2を底板13の上に挿入し、両側の圧着片14を加締装置で内側に曲げて、導体2を包み込むように加締める。それにより、導体2に端子10を圧着接続することができる。
【0007】
ところで、端子10に銅端子を使用し、電線1にアルミニウム電線を使用して、常温(23℃)で圧着を行った場合、圧着部12の断面は、図3(b)に示すようになる。この状態の断面において、導体2と端子10の界面には、互いの厚みの中心に向かって反力が作用して釣り合っている。しかし、この釣り合いは、導体2に端子10を圧着した温度における体積比率によるものであり、温度変化があった場合、体積膨張により界面の接触状態が変化する。具体的には、室温23℃で圧着された時の界面は、ワイヤーハーネスの使用が想定される温度域−40℃〜120℃における体積変化の影響を受ける。
【0008】
例えば、図3(c)に示すように、常温より高温側に周囲温度が上昇した場合は、外側の銅製の端子10よりも内側のアルミニウム製の導体2の方が体積膨張が大きくなるので、外側の銅製の端子10からの反力がアルミニウム製の導体2に作用することになり、端子10と導体2の界面に隙間が生じるようなことはない。この場合、銅製の端子10の方がアルミニウム製の導体2よりも硬度が高いので、導体2に矢印方向の応力が作用する。因みに、120℃に温度上昇した場合、熱膨張による歪みは約0.06%であり、耐力は僅かに低下するが、弾性変形の範囲にとどまる。
【0009】
一方、図3(b)に示すように、常温より低温側に周囲温度が下降した場合は、外側の銅製の端子10よりも内側のアルミニウム製の導体2の方が体積収縮が大きくなるので、外側の銅製の端子10とアルミニウム製の導体2の界面の接触圧が低下し、最悪の場合は、図示のように端子10と導体2の界面に隙間5が生じるおそれがある。隙間5が生じると、接触抵抗が大きくなる。従って、特に低温条件において、電気接続性能が大幅に低下することになる。
【0010】
そこで、従来では、そのような問題を回避するために、アルミニウム電線を使用する場合は、端子もアルミニウム端子を使用するようにしている(特許文献1、2参照)。あるいは、銅端子とアルミニウム端子を接続する必要がある場合は、超音波を用いた固相接合により、銅(銅合金も含む)とアルミニウム(アルミニウム合金も含む)を金属結合させていた。
【特許文献1】特開2003−249284号公報(図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、アルミニウム端子を使用する場合は、銅と比較してアルミニウムの方がバネ性に劣るので、端子にバネ部がある場合、その部分がへたりやすいという問題がある。また、銅端子を用いて、超音波により端子と導体を固相接合する場合は、圧着作業が面倒になるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記事情を考慮し、バネ性に富む銅端子を使用しながら、ヒートサイクルやサーマルショック条件のもとであっても、圧着部の接触抵抗の安定化を図り得る、単純作業化の可能な端子の圧着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明の電線に対する端子の圧着方法は、第1の金属材料よりなる端子の圧着部を、前記第1の金属材料よりも線膨張係数の大きい第2の金属材料よりなる電線の導体に対して、外側から包み込むように圧着する電線に対する端子の圧着方法において、常温より低い温度雰囲気で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴としている。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、圧着後の製品の使用が想定される温度域の下限値以下の温度雰囲気で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴としている。
【0015】
請求項3の発明は、請求項2に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、前記端子を構成する第1の金属材料が銅あるいは銅合金であり、前記電線の導体を構成する第2の金属材料がアルミニウムあるいはアルミニウム合金であることを特徴としている。
【0016】
請求項4の発明は、請求項3に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、前記電線が自動車のワイヤーハーネス用の電線であり、その使用が想定される温度域が−40℃〜120℃の範囲であり、その下限値である−40℃以下の温度雰囲気で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴としている。
【0017】
請求項5の発明は、請求項4に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、液体炭酸ガス、液体窒素、液体ヘリウムのうち少なくともいずれか一つを冷媒体として使用した雰囲気中で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、常温より低い温度条件の下で端子を電線の導体に圧着するので、少なくとも圧着時の温度まで周囲温度が低下した場合にも、圧着箇所において端子と導体の界面に、体積膨張差による隙間が生じることはなく、端子と導体の接触抵抗の安定を図ることができる。また、たとえ圧着時の温度以下の温度まで周囲温度が低下した場合であっても、端子と導体の界面に生じる隙間を小さく抑えることが可能であるから、常温で圧着を行った場合よりも、端子と導体の接触抵抗の安定を図ることができる。また、圧着時の温度以上に周囲温度が上昇した場合には、常に外側を包んでいる端子よりも内側の導体の方が大きく膨張することになるので、端子と導体の界面に隙間が生じることはない。また、超音波設備等が不要であるから、作業の単純化が可能である。
【0019】
請求項2の発明によれば、圧着後の製品の使用が想定される温度域の下限値以下の温度条件の下で端子を電線の導体に圧着するので、通常の使用想定温度域において、端子と導体の界面に、体積膨張差による隙間が生じる心配は全くなく、端子と導体の接触抵抗の安定を図ることができる。従って、予想されるヒートサイクルあるいはサーマルショック条件下においても、安定した性能を発揮することができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、線膨張係数の大きいアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いた導体に対して、線膨張係数の小さい銅あるいは銅合金を用いた端子を圧着により接続した場合であっても、安定した接触抵抗を得ることができるため、バネ接点部を持つ端子のバネ性能を維持しつつ、銅端子とアルミニウム電線の接続信頼性を高めることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、自動車のワイヤーハーネスの使用想定温度域の全域において、端子と導体の界面に、体積膨張差による隙間が生じるのを防止することができ、端子と導体の接触抵抗の安定を図ることができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、液体炭酸ガス、液体窒素、液体ヘリウムのうち少なくともいずれか一つを冷媒体として使用した雰囲気中で、端子を電線の導体に圧着するので、特に極寒地での使用に際しても、アルミニウム電線と銅端子の圧着部の接続信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図1を参照して説明する。なお、端子の圧着部の構成については、図2を参照する。
【0024】
本実施形態の圧着方法は、自動車に使用するワイヤーハーネス用のアルミニウム電線1に対してアルミ電線用圧着端子としての銅端子10を圧着する場合の方法である。自動車のワイヤーハーネスの使用想定温度域は−40℃〜120℃の範囲である。アルミニウム電線1の導体2の材料(第2の金属材料)はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、銅端子10の材料(第1の金属材料)は銅または銅合金である。従って、導体2の線膨張係数は、端子10の線膨張係数よりも大きい。
【0025】
圧着の際には、端子10の圧着部12を、電線1の導体2に対して、外側から包み込むように圧着する。その場合、本実施形態の方法では、図1(a)に示すように、前記の温度域の下限値である−40℃以下の温度雰囲気で圧着を行う。例えば、液体炭酸ガス、液体窒素、液体ヘリウムの極低温雰囲気中で圧着を行う。
【0026】
このように、常温よりかなり低い温度条件の下で端子10を電線の導体2に圧着すると、少なくとも圧着時の温度まで周囲温度が低下した場合にも、圧着箇所において端子10と導体2の界面に、体積膨張差による隙間が生じることはなくなるので、端子10と導体2の接触抵抗の安定を図ることができる。
【0027】
特に、本実施形態では、圧着後の製品の使用が想定される温度域の下限値(−40℃)以下の温度条件の下で端子10を電線の導体2に圧着するので、通常の使用想定温度域において、端子10と導体2の界面に、体積膨張差による隙間が生じる心配は全くなく、端子10と導体2の接触抵抗の安定を図ることができる。従って、予想されるヒートサイクルあるいはサーマルショック条件下においても、安定した性能を発揮することができる。また、液体炭酸ガス、液体窒素、液体ヘリウムのうち少なくともいずれか一つを冷媒体として使用した雰囲気中で、端子10を電線の導体2に圧着した場合は、極寒地での使用に際しても、アルミニウム電線と銅端子の圧着部の接続信頼性の向上を図ることができる。
【0028】
また、圧着時の温度以上に周囲温度が上昇した場合、例えば図1(b)のように常温の23℃になった場合や、図1(c)のようにそれ以上の120℃に温度上昇した場合にも、常に外側を包んでいる端子10よりも内側の導体2の方が大きく膨張することになるので、端子10と導体2の界面に隙間が生じることはない。
【0029】
また、銅端子を用いることによって、バネ接点部を持つ端子のバネ性能を維持しつつ、銅端子とアルミニウム電線の接続信頼性を高めることができる。
【0030】
なお、−40℃以下という厳しい条件までいかなくても、常温よりもかなり低い温度雰囲気で圧着を行うことによって、端子10と導体2の界面に生じる隙間を小さく抑えることが可能であるから、常温で圧着を行った場合よりも、端子10と導体2の接触抵抗の安定を図ることができる。また、接触抵抗を少なくするために、端子10に錫メッキや金メッキを施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態の説明図で、(a)は低温での圧着時の状態、(b)は常温時の状態、(c)は120℃に温度上昇した時の状態をそれぞれ示す圧着部の模式断面図である。
【図2】一般的な端子の圧着方法の説明図である。
【図3】従来の圧着方法の説明図で、(a)は常温での圧着時の状態、(b)は低温になった時の状態、(c)は120℃に温度上昇した時の状態をそれぞれ示す圧着部の模式断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 電線
2 導体
10 圧着端子(端子)
12 圧着部
14 圧着片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属材料よりなる端子の圧着部を、前記第1の金属材料よりも線膨張係数の大きい第2の金属材料よりなる電線の導体に対して、外側から包み込むように圧着する電線に対する端子の圧着方法において、
常温より低い温度雰囲気で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、
圧着後の製品の使用が想定される温度域の下限値以下の温度雰囲気で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、
前記端子を構成する第1の金属材料が銅あるいは銅合金であり、前記電線の導体を構成する第2の金属材料がアルミニウムあるいはアルミニウム合金であることを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、
前記電線が自動車のワイヤーハーネス用の電線であり、その使用が想定される温度域が−40℃〜120℃の範囲であり、その下限値である−40℃以下の温度雰囲気で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、
液体炭酸ガス、液体窒素、液体ヘリウムのうち少なくともいずれか一つを冷媒体として使用した雰囲気中で、前記端子を前記電線の導体に圧着することを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−238384(P2009−238384A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79078(P2008−79078)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】