説明

電線のコーティング装置及び電線のコーティング方法

【課題】電線の被覆部のみに確実にコーティング層を形成して電線の機械特性や導電性の低下を防止する電線のコーティング装置及び電線のコーティング方法を提供する。
【解決手段】電線のコーティング装置1は、電線2の外表面22aにコーティング層23を形成する。電線のコーティング装置1は、コーティング層23を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する一対のスポンジ部3と、一対のスポンジ部3を収容する収容槽4と、電線2を保持し且つ電線2と収容槽4とを電線2の長手方向に交差する方向に沿って相対的に接離させる接離手段5と、収容槽4に接離する電線2を収容槽4内に収容可能にする一対の切り欠き部6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の外表面にコーティング層を形成する電線のコーティング装置及び電線のコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体としての自動車等には、種々の電子機器が搭載される。このため、前記自動車等は、前記電子機器に電源等からの電力やコンピュータ等からの制御信号等を伝えるために、ワイヤハーネスを配索している。ワイヤハーネスは、複数の電線と、該電線の端末等に取り付けられたコネクタ等を備えている。
【0003】
電線は、所謂被覆電線であり、導電性の芯線と、該芯線を被覆する絶縁性の合成樹脂からなる被覆部とを備えている。コネクタは、導電性の端子金具と、絶縁性のコネクタハウジングとを備えている。端子金具は、電線の端末等に取りつけられて該電線の芯線と電気的に接続する。コネクタハウジングは箱状に形成され、内部に設けられた直線孔状の端子収容室に端子金具を収容する。
【0004】
前記ワイヤハーネスを組み立てる際には、まず電線を所定の長さに切断した後、該電線の端末に端子金具を取り付ける。必要に応じて複数の電線同士を接続する。その後、端子金具をコネクタハウジング内に挿入する。こうして、前述したワイヤハーネスを組み立てる。
【0005】
前述したワイヤハーネスの電線の端末には、例えば、該端末に取り付けられた端子金具をどのコネクタハウジング(の端子収容室)に収容するべきか等の作業指示情報を付加するためにマーキング(電線の外表面に着色材を塗布すること)が施されることがあるが(例えば、特許文献1参照)、このようなマーキングは経時的に劣化して剥離する虞があるので、該端末に予めアンダーコート剤でコーティング層を形成して着色材の接着力を向上させたり、該端末をマーキング後にその外表面にトップコート剤でコーティング層を形成したりする等して着色材の剥離を防止している。
【0006】
前述したようにマーキングが電線の端末のみに施されている場合には該端末のみに前述したコート剤によってコーティング層を形成すればよく、このような場合のコーティング方法としては、例えば、電線を鉛直方向に保持し該電線の端末をコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液に浸漬させてコーティング層を形成するディップコーティング法が用いられている。
【特許文献1】特開平5−217435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述のように電線を鉛直方向に保持して該電線の端末をコーティング液中に浸漬させると、該コーティング液が電線の芯線と被覆部との間に入り込んで該芯線に付着するので、電線の機械特性や導電性に悪影響を及ぼすといった問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、電線の被覆部のみに確実にコーティング層を形成して電線の機械特性や導電性の低下を防止する電線のコーティング装置及び電線のコーティング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、電線の外表面にコーティング層を形成する電線のコーティング装置において、前記コーティング層を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する多孔質部材と、前記多孔質部材を収容する収容槽と、前記電線を保持し且つ前記電線と前記収容槽とを前記電線の長手方向に交差する方向に沿って相対的に接離させる接離手段と、前記収容槽に接離する前記電線を前記収容槽内に収容可能にする電線収容部と、を備えたことを特徴とした電線のコーティング装置である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された電線のコーティング装置において、前記多孔質部材が、前記電線収容部に収容される前記電線を通す溝部を備えたことを特徴とした電線のコーティング装置である。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された電線のコーティング装置において、前記溝部の内面には凹部が複数設けられていることを特徴とした電線のコーティング装置である。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項2または請求項3に記載された電線のコーティング装置において、前記電線収容部の前記電線の長手方向の両端に位置する部分には、弾性を有し、且つ、前記電線が前記電線収容部に収容される際には弾性変形して前記溝部と連通して前記電線が通るのを許容するとともに、前記電線が前記電線収容部外に位置付けられると弾性復元力によって閉じるスリットを有した第二の多孔質部材を備えたことを特徴とした電線のコーティング装置である。
【0013】
請求項5に記載された発明は、請求項1ないし請求項4のうちいずれか一項に記載された電線のコーティング装置において、前記多孔質部材に前記コーティング液を供給する供給手段を備えたことを特徴とした電線のコーティング装置である。
【0014】
請求項6に記載された発明は、電線の外表面にコーティング層を形成する電線のコーティング方法において、前記電線と、前記コーティング層を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する多孔質部材を収容する収容槽とを相対的に接離させて、前記電線を前記収容槽内に出し入れして電線の外表面にコーティング層を形成することを特徴とした電線のコーティング方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明によれば、コーティング層を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する多孔質部材と、多孔質部材を収容する収容槽と、電線を保持し且つ電線と収容槽とを電線の長手方向に交差する方向に沿って相対的に接離させる接離手段と、収容槽に接離する電線を収容槽内に収容可能にする電線収容部と、を備えているので、電線の長手方向の所望の部位を収容槽内に収容して多孔質部材と接触させてコーティング層を形成することができ、よって、電線の先端にコーティング剤を付着させることがなく、電線の被覆部のみに確実にコーティング層を形成して電線の機械特性や導電性の低下を防止することができる。
【0016】
請求項2に記載された発明によれば、多孔質部材が、電線収容部に収容される電線を通す溝部を備えているので、電線を多孔質部材の溝部内を通して多孔質部材内に位置付けることができ、よって、電線をスムーズに多孔質部材内に位置付けることができる。
【0017】
請求項3に記載された発明によれば、溝部の内面には凹部が複数設けられているので、電線の外表面に付着した余分なコーティング液を凹部内へと流入させることができ、よって、コーティング液の使用量を低減させることができるとともに、コーティング層を電線の外表面に均一に形成することができる。
【0018】
請求項4に記載された発明によれば、電線収容部の電線の長手方向の両端に位置する部分には、弾性を有し、且つ、電線が電線収容部に収容される際には弾性変形して溝部と連通して電線が通るのを許容するとともに、電線が電線収容部外に位置付けられると弾性復元力によって閉じるスリットを有した第二の多孔質部材が設けられているので、多孔質部材に含浸されたコーティング液を電線収容部から収容槽外に流出するのを防止することができる。
【0019】
請求項5に記載された発明によれば、多孔質部材にコーティング液を供給する供給手段を備えているので、多孔質部材に自動的にコーティング液を供給することができ、よって、作業効率を向上させることができる。
【0020】
請求項6に記載された発明によれば、電線と、コーティング層を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する多孔質部材を収容する収容槽とを相対的に接離させて、電線を収容槽内に出し入れして電線の外表面にコーティング層を形成するので、電線の長手方向の所望の部位を収容槽内に収容して多孔質部材と接触させてコーティング層を形成することができ、よって、電線の先端にコーティング剤を付着させることがなく、電線の被覆部のみに確実にコーティング層を形成して電線の機械特性や導電性の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態にかかる電線のコーティング装置を図1ないし図7を参照して説明する。本発明の一実施形態にかかる電線のコーティング装置1は、電線2の外表面22aにコーティング層23を形成する。
【0022】
電線のコーティング装置1は、図1に示すように、コーティング層23を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する一対のスポンジ部(多孔質部材に相当する)3と、一対のスポンジ部3を収容する収容槽4と、電線2を保持し且つ電線2と収容槽4とを電線2の長手方向に交差する方向に沿って相対的に接離させる接離手段5と、収容槽4に接離する電線2を収容槽4内に収容可能にする切り欠き部(電線収容部に相当する)6と、一対のスポンジ部3にコーティング液を供給する供給手段7(図4等)とを備えている。
【0023】
電線2は、移動体としての自動車等に配索されるワイヤハーネスを構成する。電線2は、図2及び図3に示すように、導電性の芯線21と、絶縁性の被覆部22とを備えている。芯線21は、複数の素線が撚られて形成されている。芯線21を構成する素線は、導電性の金属材料からなる。また、芯線21は、一本の素線から構成されていてもよい。
【0024】
被覆部22は、例えば、ポリ塩化ビニル(Polyvinylchloride:PVC)等の合成樹脂からなる。被覆部22は、芯線21を被覆している。芯線21とこの芯線21を被覆する被覆部22とで、電線2は断面形状が円形に形成されている。本実施形態の電線のコーティング装置1は、電線2の外表面22a、即ち、被覆部22の外表面22aにコーティング層23を形成する。
【0025】
コーティング層23は、コート剤としてのメタクリル樹脂やアクリル樹脂等からなる。図示例では、コート剤は、ポリメタクリル酸メチル(Polymethylmethacrylate:PMMA)からなる。本明細書に記したメタクリル樹脂とは、メタクリル酸又はメタクリル酸エステルを重合して得られる樹脂である。また、本明細書に記したアクリル樹脂とは、アクリル酸又はアクリル酸エステルを重合して得られる樹脂である。
【0026】
特に、メタクリル酸メチル重合体は透明性、耐候性の点ですべてのプラスチックの中で最も優れ、建築、照明、看板、雑貨、その他の工業部品に広く用いられている。また、各種メタクリル酸エステル、例えばメタクリル酸エチル、n−ブチル、iso−ブチル、ヘキシル、ラウリルなどは、塗料、接着剤、繊維や皮革及び紙の仕上げ用として需要が伸びている。更にメタクリル酸を共重合してカボキシル基をポリマーに導入すると、接着性の向上、水溶性、架橋性などの特性が付与されるので広く行われている。
【0027】
このようなコート剤からなるコーティング層23は、電線2の被覆部22を全周に亘って被覆している。コーティング層23は、電線2の先端2bを除いた一端部2aに形成されている。コーティング層23の厚さTは均一であり、約50μm〜200μmである。このため、電線2とこの電線2の被覆部22の外表面22aに形成されたコーティング層23とで、これらの断面形状が円形に形成されている。
【0028】
前述した構成のコーティング層23の外表面23aが着色材によって着色される。着色材は、コーティング層23によって確実にコーティング層23の外表面23aに保持される。このような着色材は、例えば、該端末に取り付けられた端子金具がどのコネクタハウジング(の端子収容室)に収容されるべきか等の作業指示情報を付加する。
【0029】
着色材は、色材(工業用有機物質)が水またはその他の溶媒に溶解、分散した液状物質である。有機物質としては、染料、顔料(大部分は有機物であり、合成品)があり、時には染料が顔料として、顔料が染料として用いられることがある。より具体的な例として、本明細書でいう着色材とは、着色液と塗料との双方を示している。
【0030】
着色液とは、溶媒中に染料が溶けているもの又は分散しているものを示しており、塗料とは、分散液中に顔料が分散しているものを示している。このため、着色液でコーティング層23が形成された電線2を着色すると、染料がコーティング層23内に染み込み、塗料でコーティング層23が形成された電線2を着色すると、顔料がコーティング層23内に染み込むことなくコーティング層23の外表面23aに接着する。
【0031】
また、前記溶媒と分散液は、コーティング層23を構成するコート剤と親和性の高いものが好ましい。この場合、染料がコーティング層23内に確実にしみ込んだり、顔料がコーティング層23の外表面23aに確実に接着したりすることとなる。
【0032】
コーティング液は、前述したコート剤と、このコート剤を溶かす溶媒とからなる。溶媒としては、周知のアルコール、多価アルコール、ケトン、エステルを用いることができる。溶媒としては、常温で蒸発するものが望ましい。図示例では、溶媒としてケトンの一例としてのアセトンを用いている。
【0033】
一対のスポンジ部3は、例えば、ポリウレタン等のプラスチックやゴム等を発泡成形した合成スポンジ等の多孔質材料からなる。スポンジ部3の内部には微細な孔が無数に形成されており、スポンジ部3がコーティング液に浸漬されると孔内の空気がコーティング液と置換されてスポンジ部3内にコーティング液が含浸されるとともに、該コーティング液は外部からの力によって容易に放出される。このようなスポンジ部3は、コーティング液との反応性が低い多孔質材料から形成されることが好ましい。
【0034】
また、一対のスポンジ部3は、それぞれ、同一形状の略直方体状に形成されている。一対のスポンジ部3は、収容槽4の後述する一対の切り欠き部6を互いの間に位置付けるように収容槽4内に配されている。一対のスポンジ部3は、少なくとも弾性変形させて収容槽4内に収容される大きさであるとともに、収容槽4内に収容された際に互いの間(即ち、後述する溝部32)に電線2を通すことができるような大きさに形成されている。
【0035】
一対のスポンジ部3は、一対の切り欠き部6内に収容される電線2を通す溝部32を備えている。溝部32は、前述のように収容槽4内に配された一対のスポンジ部3の間に形成される。溝部32は、後述する収容槽本体41の底壁41aの長手方向全体に亘って形成されている。また、溝部32の幅は、電線2の太さより狭くなるように設けられている。なお、一対のスポンジ部3が一つのスポンジ部からなり、このスポンジ部の中央に溝部32が設けられていてもよい。
【0036】
前述した構成の溝部32内には、図5ないし図7に示すように、電線2の一端部2aが挿入される。電線2の一端部2aは、接離手段5によって溝部32内に通されて溝部32内を往復移動する際に溝部32の内面32aと接触して溝部32を弾性変形させる(図7においては、溝部32の内面32aは弾性変形する前の状態で描画されている)。溝部32を弾性変形させるとスポンジ部3に含浸されたコーティング剤が放出されて、電線2の外表面22aにはスポンジ部3に保持されたコーティング剤が塗布される。
【0037】
溝部32の内面32aには、凹部33が複数設けられている。凹部33は、溝部32の長手方向に対して直交する方向に延設されている。複数の凹部33は互いに間隔をあけて設けられ、互いに平行に設けられている。凹部33内には、溝部32内に挿入された電線2の一端部2aが溝部32から出される際に電線2の外表面22aに塗布された余分なコーティング液が流れ込んで、電線2の外表面22aからこの余分なコーティング剤を取り除く。
【0038】
収容槽4は、図6等に示すように、有底筒状に設けられた収容槽本体41と、取付部42とを備えている。収容槽本体41は、矩形平板状の底壁41aと、底壁41aの長手方向の両端から立設した一対の周壁41bと、底壁41aの幅方向の両端から立設し且つ一対の周壁41bに連なる一対の第二の周壁41cとを備え、上方に開口している。一対の周壁41bは、互いに間隔をあけて相対し、互いに平行に設けられている。一対の第二の周壁41cは、互いに間隔をあけて相対し、互いに平行に設けられている。一対の周壁41bと一対の第二の周壁41cとは、互いに直交するように設けられている。一対の周壁41bには、それぞれ、切り欠き部6が設けられている。なお、切り欠き部6については、後で詳細に説明する。
【0039】
取付部42は、図1及び図7に示すように、一対の切り欠き部6のそれぞれの切り欠き部6の内縁全体に亘って設けられている。取付部42は、切り欠き部6の内縁全体に連なり周壁41bに対して直交する方向に周壁41bの両面側に向かって立設した直交部42aと、直交部42aの幅方向の両端から切り欠き部6の内側に向かって立設した一対の縁部42bとを備え、切り欠き部6の内縁に沿った断面コ字状の溝状に形成されている。そして、この溝状の取付部42内に後述する第二のスポンジ部43が取り付けられる。
【0040】
接離手段5は、図1等に示すように、電線2を保持する保持部材としてのクランプ51と、収容槽4を保持する第二の保持部材52と、駆動機構(図示せず)とを備えている。クランプ51は、電線2の先端2bから収容槽本体41の長手方向の長さ以上に離れた部分(以下、被挟持部とよぶ)2cを挟持して、先端2bから被挟持部2cまでの一端部2aを水平になるように保持する。なお、電線2が自重等によって撓んでクランプ51のみでは電線2の一端部2aを水平に保持できない場合等には、電線2の先端2bを挟持する第二のクランプ51を設けてもよい。
【0041】
第二の保持部材52は、例えば、平板状に形成され、上面側に収容槽4が固定されている。第二の保持部材52は、クランプ51の下方に配されている。第二の保持部材52は、後述するように第二の保持部材52が上方へ移動した際に収容槽4の一対の切り欠き部6にクランプ51に保持された電線2の一端部2aが通されるように固定されている。
【0042】
駆動機構は、例えば、伸縮自在なロッドを有するエアシリンダ等やレバー等を備えている。駆動機構は、より下方に配された第二の保持部材52を上方に配されたクランプ51に向かって変位させる。即ち、駆動機構は、クランプ51に対して第二の保持部材52を接離させることによって、電線2に対して収容槽4を接離させる。
【0043】
切り欠き部6は、図1等に示すように、一対設けられ、収容槽4の一対の周壁41bのそれぞれの周壁41bの幅方向の中央に設けられている。切り欠き部6は、周壁41bの上端から底壁41aに近づく方向に沿って周壁41bを直線状に切り欠いて形成されて、この直線状の一対の切り欠き部6は、互いに平行に形成されている。一対の切り欠き部6は、第二の周壁41cに対して平行な方向に沿って並んで設けられている。そして、一対の切り欠き部6を結ぶ直線上に溝部32が配される。切り欠き部6の幅は電線2の太さより広く設けられている。切り欠き部6の長さは、底壁41a寄りの奥部6aがスポンジ部3の上面31aよりも下方に位置するように設けられている。
【0044】
前述した構成の一対の切り欠き部6内には、それぞれ、電線2が通される。電線2が両方の切り欠き部6を通ることによって、電線2はそれぞれの切り欠き部6を通って収容槽4内から収容槽4外へと配されるので、電線2の先端2bが収容槽4内に配されることがなく、電線2の先端2bにコーティング剤が付着することがない。
【0045】
一対の切り欠き部6の電線2の長手方向の両端に位置する部分には、それぞれ、弾性を有する第二のスポンジ部(第二の多孔質部材に相当する)43を備えている。第二のスポンジ部43は、長尺な角柱状に形成され、多孔質材料からなり内部にコーティング液を含浸可能である。なお、多孔質材料は前述したスポンジ部3と同様の多孔質材料であるので、詳細な説明は省略する。第二のスポンジ部43の長さは、切り欠き部6の長さの略2倍である。第二のスポンジ部43は、長手方向の一端部43aと他端部43bとが接触するように長手方向の中心で折り曲げられた後に取付部42内に押し込んで弾性変形させて取付部42内に挿入され、弾性復元して取付部42内に保持される。第二のスポンジ部43は、それぞれ、切り欠き部6を塞ぐように配されている。第二のスポンジ部43は、スリット45を有している。
【0046】
スリット45は、前述のように折り曲げられた第二のスポンジ部43の一端部43aと他端部43bとの間に形成される。スリット45は、切り欠き部6の略全長に亘って、切り欠き部6と平行に設けられている。スリット45は、電線2が一対の切り欠き部6に収容される際には前述した第二のスポンジ部43の一端部43aと他端部43bとが離れる方向に弾性変形して溝部32と連通し、内部に電線2が通るのを許容する。また、スリット45は、電線2が一対の切り欠き部6外に位置付けられると第二のスポンジ部43が弾性復元して第二のスポンジ部43の一端部43aと他端部43bとが接触して閉じる。
【0047】
供給手段7は、収容槽4内のスポンジ部3にコーティング液を供給する。供給手段7は、図4等に示すように、ディスペンサ71と、一端がディスペンサ71と連結され且つ他端が収容槽本体41内と連結されたバレル72とを備えている。ディスペンサ71内とバレル72内、及び、バレル72内と収容槽本体41内とは、ホース73等の連結部材によって互いに連結されている。
【0048】
ディスペンサ71は、制御装置(図示せず)と接続されており、制御装置からの制御信号に従って所定のタイミングで一定量の空気を吐出する。吐出された空気はホース73内を通ってバレル72内に流入する。バレル72には、コーティング液が収容されている。バレル72に収容されたコーティング液は、ディスペンサ71から吐出される空気によって押し出されてホース73内を通って収容槽本体41内に流入する。
【0049】
前述した構成の電線のコーティング装置1を用いて電線2の外表面22aにコーティング層23を形成する際には、まず、電線2の一端部2aをクランプ51で保持し、収容槽4を第二の保持部材52に固定する。そして、収容槽4内のスポンジ部3に供給手段7からコーティング剤を供給してスポンジ部3にコーティング剤を含浸させる。次いで、駆動機構によって収容槽4が固定された第二の保持部材52をクランプ51に近づけていく。
【0050】
すると、電線2の一端部2aは、一対の切り欠き部6に設けられたスリット45内を通って収容槽4内に挿入されていく。そして、スポンジ部3の溝部32内に挿入されていき、スリット45の下端、即ち、切り欠き部6の奥部6a付近に到達する。この間に、スポンジ部3に含浸されたコーティング剤が電線2の外表面22aに塗布される。
【0051】
その後、駆動機構が第二の保持部材52をクランプ51から離していき、電線2は収容槽4外へと位置づけられる。この間に、溝部32の内面32aに設けられた凹部33によって余分なコーティング剤が取り除かれる。このように、外表面22aにコーティング剤が塗布された電線2を乾燥させてコーティング液中の溶媒を蒸発させ、電線2の外表面22aにコート剤によるコーティング層23が形成される。
【0052】
本実施形態によれば、コーティング層23を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する一対のスポンジ部3と、一対のスポンジ部3を収容する収容槽4と、電線2を保持し且つ電線2と収容槽4とを電線2の長手方向に交差する方向に沿って相対的に接離させる接離手段5と、収容槽4に接離する電線2を収容槽4内に収容可能にする一対の切り欠き部6と、を備えているので、電線2の長手方向の所望の部位を収容槽4内に収容して一対のスポンジ部3と接触させてコーティング層23を形成することができ、よって、電線2の先端2bにコーティング剤を付着させることがなく、電線2の被覆部22のみに確実にコーティング層23を形成して電線2の機械特性や導電性の低下を防止することができる。
【0053】
一対のスポンジ部3が、一対の切り欠き部6に収容される電線2を通す溝部32を備えているので、電線2を溝部32内を通して一対のスポンジ部3内に位置付けることができ、よって、電線2をスムーズに一対のスポンジ部3内に位置付けることができる。
【0054】
溝部32の内面32aには凹部33が複数設けられているので、電線2の外表面22aに付着した余分なコーティング液を凹部33内へと流入させることができ、よって、コーティング液の使用量を低減させることができるとともに、コーティング層23を電線2の外表面22aに均一に形成することができる。
【0055】
一対の切り欠き部6の電線2の長手方向の両端に位置する部分には、弾性を有し、且つ、電線2が一対の切り欠き部6に収容される際には弾性変形して溝部32と連通して電線2が通るのを許容するとともに、電線2が一対の切り欠き部6外に位置付けられると弾性復元力によって閉じるスリット45を有した第二のスポンジ部43が設けられているので、一対のスポンジ部3に含浸されたコーティング液を一対の切り欠き部6から収容槽4外に流出するのを防止することができる。
【0056】
一対のスポンジ部3にコーティング液を供給する供給手段7を備えているので、一対のスポンジ部3に自動的にコーティング液を供給することができ、よって、作業効率を向上させることができる。
【0057】
電線2と、コーティング層23を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する一対のスポンジ部3を収容する収容槽4とを相対的に接離させて、電線2を収容槽4内に出し入れして電線2の外表面22aにコーティング層23を形成するので、電線2の長手方向の所望の部位を収容槽4内に収容して一対のスポンジ部3と接触させてコーティング層23を形成することができ、よって、電線2の先端2bにコーティング剤を付着させることがなく、電線2の被覆部22のみに確実にコーティング層23を形成して電線2の機械特性や導電性の低下を防止することができる。
【0058】
本実施形態においては、電線のコーティング装置1は、着色材が塗布される前の電線2の被覆部22の外表面22aにコート剤(即ち、所謂アンダーコート剤)によってコーティング層23を形成していた。しかしながら本発明では、着色材が塗布された後の被覆部22の外表面にコート剤(即ち、所謂トップコート剤)によってコーティング層23を形成してもよい。
【0059】
また、本実施形態においては、駆動機構は、電線2に対して収容槽4を接離させていたが、収容槽4に対して電線2を接離させてもよい。また、図8に示すように、電線2を保持する保持部材55が、帯板状の保持部本体56と、該保持部本体56に固定された複数のクランプ51とを備えて保持部材55が複数の電線2を保持するとともに、複数の電線2を順次収容槽4の上方に位置付けるように保持部材55もしくは第二の保持部材52を変位させる第二の駆動機構(図示せず)を設けてもよい。
【0060】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電線のコーティング装置の一部を示す斜視図である。
【図2】本発明の電線のコーティング装置でコーティング層が形成された電線の斜視図である。
【図3】図2中のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図1に示された電線のコーティング装置の正面図である。
【図5】図4に示された電線が収容槽内に収容された状態を示す正面図である。
【図6】図5に示された電線のコーティング装置の図5の紙面と平行な面に沿った断面図である。
【図7】図5に示された電線のコーティング装置の上面図である。
【図8】本発明の他の実施形態にかかる電線のコーティング装置の一部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1 電線のコーティング装置
2 電線
3 一対のスポンジ部(多孔質部材)
4 収容槽
5 接離手段
6 切り欠き部(電線収容部)
7 供給手段
22a 外表面
23 コーティング層
32 溝部
32a 内面
33 凹部
43 第二のスポンジ部(第二の多孔質部材)
45 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の外表面にコーティング層を形成する電線のコーティング装置において、
前記コーティング層を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する多孔質部材と、
前記多孔質部材を収容する収容槽と、
前記電線を保持し且つ前記電線と前記収容槽とを前記電線の長手方向に交差する方向に沿って相対的に接離させる接離手段と、
前記収容槽に接離する前記電線を前記収容槽内に収容可能にする電線収容部と、を備えたことを特徴とする電線のコーティング装置。
【請求項2】
前記多孔質部材が、前記電線収容部に収容される前記電線を通す溝部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電線のコーティング装置。
【請求項3】
前記溝部の内面には凹部が複数設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電線のコーティング装置。
【請求項4】
前記電線収容部の前記電線の長手方向の両端に位置する部分には、弾性を有し、且つ、前記電線が前記電線収容部に収容される際には弾性変形して前記溝部と連通して前記電線が通るのを許容するとともに、前記電線が前記電線収容部外に位置付けられると弾性復元力によって閉じるスリットを有した第二の多孔質部材を備えたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電線のコーティング装置。
【請求項5】
前記多孔質部材に前記コーティング液を供給する供給手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか一項に記載の電線のコーティング装置。
【請求項6】
電線の外表面にコーティング層を形成する電線のコーティング方法において、
前記電線と、前記コーティング層を形成するコート剤とこのコート剤を溶かす溶媒とからなるコーティング液を内部に含浸し且つ弾性を有する多孔質部材を収容する収容槽とを相対的に接離させて、前記電線を前記収容槽内に出し入れして電線の外表面にコーティング層を形成することを特徴とする電線のコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−26475(P2009−26475A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185400(P2007−185400)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】