説明

電線保持構造および電線保持方法

【課題】溶着接合作業を煩雑にすることなく複数の電線の接合強度の低下を防止することができる電線保持構造および電線保持方法を提供すること。
【解決手段】延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体である矩形状導体部14を端部に形成された複数の電線10を有し、該複数の電線10が超音波振動によって各電線10の前記矩形状導体部14を溶着接合された電線保持構造1において、前記複数の電線10の矩形状導体部14が、煉瓦積み状に積み重ねて溶着接合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電線の電線保持構造および電線保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体部を端部に形成された複数の電線を有し、これら複数の電線が超音波振動によって各電線の矩形状導体部を溶着接合された電線保持構造がある。この電線保持構造は、より具体的には、ほぼ等しいサイズの矩形状に形成された導体部を縦横方向で整列して溶着接合したものである。
ところで、超音波の振動方向が接合面に対して平行である場合、振動方向に平行な接合面が隣接する面を互いに摺動させて振動が伝達されるので、超音波振動は振動方向に平行な接合面の影響を受けて減衰し易い。このため、超音波振動は超音波振動の発生源である超音波ホーンから離れるにともない減衰し易い。
一方、超音波の振動方向が接合面に対して垂直である場合、接合面が振動方向に振動されて振動が伝達されるため、超音波振動は超音波ホーンから離れても減衰し難い。
【0003】
このため、超音波の振動方向に対して垂直な平面で接合する部分については、超音波ホーンからの距離が離れても接合強度が低下し難いものの、超音波の振動方向に対して平行な平面で接合する部分の接合強度は、超音波ホーンからの距離から離れると低下しやすい。
【0004】
そこで、縦横方向で整列して溶着接合された複数の電線に対して90度回転した位置から超音波振動を再度付与することによって、複数の電線の縦横両方向での接合強度を低下させないようにした電線保持方法が用いられる。
また、特許文献1には複数の電線の接合強度を低下させないようにした電線保持方法が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の電線保持方法は、複数の電線のうち2本の電線の芯線を一対の型間に挟んだ状態で前記一対の型の一方に超音波振動を付与して前記2本の電線の芯線同士を接合し、前記接合された2本の電線の芯線からなる第1接合芯線束に他の電線の芯線を1本ずつ重ねて、1本ずつ重ねる毎に前記第1接合芯線束及び該第1接合芯線束に重ねた他の電線の芯線を前記一対の型間に挟みこんだ状態で前記一対の型の一方に超音波振動を付与して前記第1接合芯線束に前記他の電線の芯線を1本ずつ接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−185706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した電線保持方法は、溶着処理を繰り返し行う必要があるので、作業が煩雑であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、溶着接合作業を煩雑にすることなく複数の電線の接合強度の低下を防止することができる電線保持構造および電線保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる電線保持構造は、延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体である矩形状導体部を端部に形成された複数の電線を有し、該複数の電線が超音波振動によって各電線の前記矩形状導体部を溶着接合された電線保持構造において、前記複数の電線の矩形状導体部が、煉瓦積み状に積み重ねて溶着接合していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる電線保持構造は、上記の発明において、前記矩形状導体部は、積み重ね方向の厚みが等しいことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる電線保持構造は、上記の発明において、前記矩形状導体部は、前記断面の外形が長方形状であり、該断面の短手方向を積み重ね方向としていることを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる電線保持方法は、延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体である矩形状導体部を複数の電線の端部に形成し、超音波振動によって各電線の前記矩形状導体部を溶着接合する電線保持方法において、前記複数の電線の矩形状導体部を煉瓦積み状に積み重ねる積み重ねステップと、該煉瓦積み状に積み重ねた矩形状導体部に超音波振動を付与して溶着接合する溶着接合ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる電線保持方法は、上記の発明において、前記矩形状導体部は、前記断面の外形が長方形状であり、前記積み重ねステップは、該矩形状導体部の断面の短手方向を積み重ね方向とすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる電線保持方法は、上記の発明において、前記溶着接合ステップは、前記矩形状導体部の積み重ね方向と平行な振動方向の超音波振動を付与することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる電線保持構造は、延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体である矩形状導体部を端部に形成された複数の電線を有し、該複数の電線が超音波振動によって各電線の前記矩形状導体部を溶着接合された電線保持構造において、前記複数の電線の矩形状導体部が、煉瓦積み状に積み重ねて溶着接合しているので、縦方向の接合部分となる前記矩形状導体部の上面あるいは底面が横方向の接合部分にまたがって配置され、前記矩形状導体部の側面と平行な振動方向の超音波振動を付与した場合、接合強度が低下し難い縦方向の接合部分によって横方向の接合部分の接合強度を補強することができる。このため、溶着接合作業を煩雑にすることなく複数の電線の接合強度の低下を防止することができる。
【0016】
本発明にかかる電線保持方法は、延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体である矩形状導体部を複数の電線の端部に形成し、超音波振動によって各電線の前記矩形状導体部を溶着接合する電線保持方法において、前記複数の電線の矩形状導体部を煉瓦積み状に積み重ねる積み重ねステップと、該煉瓦積み状に積み重ねた矩形状導体部に超音波振動を付与して溶着接合する溶着接合ステップと、を含むので、縦方向の接合部分となる前記矩形状導体部の上面あるいは底面が横方向の接合部分にまたがって配置され、前記溶着接合ステップにおいて、前記矩形状導体部の側面と平行な振動方向の超音波振動を付与した場合、縦方向の接合部分が横方向の接合部分の接合強度を補強することができる。このため、溶着接合作業を煩雑にすることなく複数の電線の接合強度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造を示した斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した電線保持構造の要部拡大図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造を用いた電線保持方法の手順を示した図である。
【図4】図4は、図1に示した電線保持構造の溶接接続状態について説明するための図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造の変形例1を示した図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造の変形例2を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明にかかる電線保持構造および電線保持方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造1を示した斜視図である。図2は、図1に示した電線保持構造1の要部拡大図である。電線保持構造1は、図1に示すように、10本の電線10が積み重ねて溶着接合されている。各電線10は、導体部11および導体部11を被覆して絶縁保護する絶縁部12を有する。なお、図中の矢印Yは電線10の延在方向を示している。また、矢印Xは、矢印Yに直交する方向を示している。さらに、矢印Zは、XY平面に直交する方向を示している。
【0020】
導体部11は、アルミニウム等の導体からなる複数の芯線13を束にしたものである。導体部11は、その先端部に矩形状導体部14を有する。矩形状導体部14は、電線10の先端の絶縁部12が剥がされ、電線10の延在方向に直交する断面の外形が長方形状に形成されている部分である。矩形状導体部14は、例えば、圧縮加工によって形成される。
【0021】
電線保持構造1は、複数の電線10の矩形状の矩形状導体部14が、煉瓦積み状に積み重ねて溶着接合している。電線保持構造1は、矩形状導体部14の断面短手方向を積み重ね方向(Z方向)とし、複数の電線10が矩形状導体部14の上面S1、底面S2、あるいは側面S3,S3を接合面として互いに溶着接合するものである。
なお、煉瓦積み状とは、図2(a)に示すように、一対の矩形状導体部14,14の側面S3を介して接合する接合部分が、この一対の矩形状導体部14,14の下方に配置された矩形状導体部14の上面S1の直上に配置されている積み重ね状態、あるいは図2(b)に示すように、一対の矩形状導体部14,14の側面S3を介して接合する接合部分が、一対の矩形状導体部14,14の上方に配置された矩形状導体部14の底面S2の直下に配置されている積み重ね状態である。
すなわち、煉瓦積み状とは、矩形状導体部14の積み重ね方向(Z方向)に直交する方向での結合部分が、積み重ね方向でずらして配置された積み重ね状態である。
【0022】
次に、図3を用いて本発明の実施の形態にかかる電線保持構造1を用いた電線保持方法について説明する。図3は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造1を用いた電線保持方法の手順を示した図である。
なお、この電線保持方法では、超音波ホーン20およびアンビル21を用いる。超音波ホーン20とは、図示しない超音波振動子を有し、この超音波振動子によって超音波振動を発生するものである。また、アンビル21とは、超音波ホーン20によって煉瓦積み体140に超音波振動を付与する際、煉瓦積み体140の受け具となるものである。
【0023】
まず、作業者は、各電線10の先端部の絶縁部12を剥がして、導体部11を露出させる(図3(a)参照)。
その後、作業者は、各電線10の露出した導体部11を所定形状に形成する(図3(b)参照)。より具体的には、各電線10の先端の露出した導体部11を電線10の延在方向に直交する断面の外形が矩形状になるように圧縮加工する。この導体部が接合面を形成された矩形状導体部14となる。
【0024】
その後、作業者は、矩形状導体部14の上面S1、底面S2あるいは側面S3が接するように各電線10の矩形状導体部14を煉瓦積み状に積み重ねる(図3(c))。この煉瓦積み状の積み重ねにおいて、矩形状導体部14の側面S3を介して接合する接合部分が、一対の矩形状導体部14,14の下方に配置された矩形状導体部14の上面S1の直上に配置される。あるいは、一対の矩形状導体部14,14の上方に配置された矩形状導体部14の底面S2の直下に配置される。
ここで、この煉瓦積み状に積み重ねられた矩形状導体部14(以下、「煉瓦積み体140」という。)の積み重ね状態を保持するために、保持手段によって煉瓦積み体140を保持させるようにするとよい。
【0025】
その後、作業者は、超音波ホーン20およびアンビル21を用いて煉瓦積み体140に超音波振動を付与することによって複数の電線10を溶着接合する(図3(d)参照)。より具体的には、煉瓦積み体140をアンビル21にセットし、煉瓦積み体140の上方から超音波ホーン20を押しあて、超音波ホーン20とアンビル21とで煉瓦積み体140を挟圧しつつ、超音波ホーン20によって超音波振動を付与する。この超音波振動が各接合面S1,S2,S3に伝達され、各矩形状導体部14が過熱溶着されることによって各接合面S1,S2,S3が接合される。なお、超音波ホーン20から発せられる超音波の振動方向は、図3(d)中に矢印Fで示すように矩形状導体部14の側面S3と平行となるようにしている。すなわち、超音波の振動方向Fは、積み重ね方向(Z方向)と同一方向である。
【0026】
ここで、図4を用いて電線保持構造1の溶接接続状態について説明する。図4は、図1に示した電線保持構造の溶接接続状態について説明するための図である。
電線保持構造1では、図4に示すように、煉瓦積みの矩形状導体部14の横方向(X方向)の接合部分C1となる一対の矩形状導体部14,14の側面S3,S3が振動方向Fに平行である。このため、接合部分C1の接合強度は低下し易い。そこで、電線保持構造1は、縦方向(Z方向)の接合部分C2となる矩形状導体部14の上面S1あるいは底面S2が接合部分C1にまたがって配置されるようにしているため、縦方向の接合部分C2が横方向の接合部分C1の接合強度を補強している。
【0027】
本発明の実施の形態の電線保持構造1では、複数の電線10が煉瓦積み状に積み重ねて溶着接合しているので、縦方向(Z方向)の接合部分C2となる矩形状導体部14の上面S1あるいは底面S2が横方向(X方向)の接合部分C1にまたがって配置され、矩形状導体部14の側面S3と平行な振動方向の超音波振動を付与した場合、接合強度が低下し難い縦方向の接合部分C2によって横方向の接合部分C1の接合強度を補強することができる。このため、溶着接合作業を煩雑にすることなく複数の電線10の接合強度の低下を防止することができる。
【0028】
また、本発明の実施の形態の電線保持構造1では、矩形状導体部14の断面短手方向を積み重ね方向(Z方向)としているので、縦方向の接合部分C2の面積を横方向の接続部分C1に比して大きくすることができる。このため、矩形状導体部14の断面長手方向を積み重ね方向とした場合に比してより確実に接合部分C2によって接合部分C1の接合強度を補強することができる。
【0029】
(変形例1)
つぎに、本発明の実施の形態の変形例1について説明する。図5は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造1の変形例1を示した図である。本発明の実施の形態の電線保持構造1は、複数の電線10の矩形状導体部14が同サイズに圧縮加工されているものを例示したが、積み重ね方向(Z方向)の厚さT1が等しければよい。このため、この変形例1の電線保持構造2は、図5に示すように、積み重ね方向に直交する方向の厚さT2が異なる矩形状導体部14aを混在させて矩形状導体部14,14aを煉瓦積み状に積み重ねている。この変形例1の電線保持構造2についても、縦方向の接合部分C2が横方向の接合部分C1の接合強度を補強しているので、本発明の実施の形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、溶着接合作業を煩雑にすることなく複数の電線10の接合強度の低下を防止することができる。
【0030】
(変形例2)
つぎに、本発明の実施の形態の変形例2について説明する。図6は、本発明の実施の形態にかかる電線保持構造1の変形例2を示した図である。本発明の実施の形態では、矩形状導体部14の断面短手方向を積み重ね方向(Z方向)としているものを例示したが、この変形例2の電線保持構造3は、図6に示すように、矩形状導体部14の断面長手方向を積み重ね方向としている。この変形例1の電線保持構造3についても、縦方向の接合部分C2が横方向の接合部分C1の接合強度を補強しているので、本発明の実施の形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、溶着接合作業を煩雑にすることなく複数の電線10の接合強度の低下を防止することができる。
【0031】
なお、本発明の実施の形態では、10本の電線10を積み重ねて溶着するものを例示したが、溶着接合する電線10の本数はこれに限らない。すなわち、複数の電線10の矩形状導体部14が、煉瓦積み状に積み重ねて溶着接合されていればよい。例えば、3本の電線10のうち2本を側面S1で接合させ、残りの1本の電線10の底面S1が側面接合部分の直上に位置するように、あるいは、残りの1本の電線10の上面S1が側面接合部分の直下に位置するようにしてもよい。すなわち、電線10の本数は少なくとも3本以上であればよい。
【0032】
また、本発明の実施の形態では、電線10の延在方向に直交する断面の外形が長方形状に形成されている矩形状導体部14を例示したが、これに限らない。すなわち、電線10の延在方向に直交する断面の外形が矩形状に形成されていればよい。例えば、矩形状導体部14の外形が正方形状であってもよい。
【0033】
なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0034】
1、2、3 電線保持構造
10 電線
11 導体部
12 絶縁部
13 芯線
14 矩形状導体部
20 超音波ホーン
21 アンビル
140 煉瓦積み体
S1,S2,S3 面
F 振動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体である矩形状導体部を端部に形成された複数の電線を有し、該複数の電線が超音波振動によって各電線の前記矩形状導体部を溶着接合された電線保持構造において、
前記複数の電線の矩形状導体部が、
煉瓦積み状に積み重ねて溶着接合していることを特徴とする電線保持構造。
【請求項2】
前記矩形状導体部は、
積み重ね方向の厚みが等しいことを特徴とする請求項1に記載の電線保持構造。
【請求項3】
前記矩形状導体部は、
前記断面の外形が長方形状であり、該断面の短手方向を積み重ね方向としていることを特徴とする請求項1または2に記載の電線保持構造。
【請求項4】
延在方向に直交する断面の外形が矩形状の導体である矩形状導体部を複数の電線の端部に形成し、超音波振動によって各電線の前記矩形状導体部を溶着接合する電線保持方法において、
前記複数の電線の矩形状導体部を煉瓦積み状に積み重ねる積み重ねステップと、
該煉瓦積み状に積み重ねた矩形状導体部に超音波振動を付与して溶着接合する溶着接合ステップと、
を含むことを特徴とする電線保持方法。
【請求項5】
前記矩形状導体部は、
前記断面の外形が長方形状であり、
前記積み重ねステップは、
該矩形状導体部の断面の短手方向を積み重ね方向とすることを特徴とする請求項4に記載の電線保持方法。
【請求項6】
前記溶着接合ステップは、
前記矩形状導体部の積み重ね方向と平行な振動方向の超音波振動を付与することを特徴とする請求項4または5に記載の電線保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−100403(P2012−100403A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244977(P2010−244977)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】