説明

電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法

【課題】硬化時間を短縮することで作業性を良好にできるとともに無駄がなく高い効率で作成することができリサイクル性に富む電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法を提供する。
【解決手段】被覆部11内に素線12を内装した電線10の素線12間を止水する電線素線間止水構造であって、被覆部11を除去した素線12を、発熱源が混入され赤外線光の照射に伴い溶着可能な樹脂材料に浸漬させた後に、樹脂材料の所定位置に赤外線光を照射させてなる電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の被覆部に内装される素線間を止水する電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線素線間止水構造の一例として、図5に示すように、電線51の端末芯線52を抵抗溶接で固着して電線端末接続部53を形成し、電線端末接続部53から端末芯線52および電線51に熱収縮チューブ54を被せてから、熱可塑性樹脂55に漬け込むことで、端末芯線52間に熱可塑性樹脂55を浸透させるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−341841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1に開示された電線素線間止水構造においては、熱可塑性樹脂55を硬化させるための硬化時間を多く必要とするために、工数を削減することが難い。また、熱可塑性樹脂55の硬化中に熱可塑性樹脂55が他の部材に付着する虞があるために、作業中の汚れが懸念されるとともに、熱可塑性樹脂55に無駄がでる。さらに、リサイクル時の分別作業において、銅部品である電線51と樹脂部品である熱収縮チューブ54とを分別しなければならないので、リサイクル性が良好ではない。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、硬化時間を短縮することで作業性を良好にできるとともに無駄がなく高い効率で作成することができリサイクル性に富む電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1)本発明に係る電線素線間止水構造は、被覆部内に素線を内装した電線の該素線間を止水する電線素線間止水構造であって、前記被覆部を除去した素線を、発熱源が混入され光の照射に伴い溶着可能な樹脂材料に浸漬させた後に、該樹脂材料の所定位置に光を照射させてなることを特徴とする。
【0007】
上記1)に記載の発明によれば、光(例えば、赤外線光)が照射されることで溶着可能な樹脂材料を用いることで、溶着が必要な、素線間と、素線と被覆部との間と、のみを短時間で溶着させて止水を施すことができる。これにより、多くの硬化時間を必要としないので、硬化時間を短縮することで作業性を良好にできる。また、短時間で止水処理を行えるので、無駄がなく高い効率で止水構造を得ることができる。そして、リサイクル時に、樹脂材料を溶解するだけで、銅部品である電線のみを抽出できるために、リサイクル性に富むものとなる。
【0008】
2)また、本発明に係る電線素線間止水方法は、被覆部内に素線を内装した電線の該素線間を止水する電線素線間止水方法であって、前記被覆部を除去した素線を、発熱源が混入され光の照射に伴い溶着可能な樹脂材料に浸漬させる工程と、前記樹脂材料の所定位置に光を照射させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記2)に記載の発明によれば、樹脂材料の所定位置に光(例えば、赤外線光)を照射させる工程を行うことで、溶着が必要な素線間と、素線と被覆部との間と、のみを短時間で溶着させて止水を施すことができる。これにより、多くの硬化時間を必要としないので、硬化時間を短縮することで作業性を良好にできる。また、短時間で止水処理を行えるので、無駄がなく高い効率の止水方法を実行することができる。そして、リサイクル時に、樹脂材料を溶解するだけで、銅部品である電線のみを抽出できるために、リサイクル性に富むものとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法によれば、硬化時間を多く必要とするために工数を削減することがし難い、作業中の汚れが懸念される、無駄がでる、リサイクル性が良好ではない、という問題を解決でき、これにより、硬化時間を短縮することで作業性を良好にできるとともに無駄がなく高い効率で作成することができ、リサイクル性に富むという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る複数の好適な実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1及び図2は本発明に係る電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法の第1実施形態を示すもので、図1は本発明の第1実施形態に係る電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法における電線素線間止水方法の第1工程の正面図、図2は電線素線間止水方法の第2工程の正面図である。
【0013】
図1に示すように、本発明の第1実施形態である電線素線間止水構造には、樹脂製の被覆部11内に導電部材である素線12を内装した2本の電線10が用いられる。
【0014】
図1に示す電線素線間止水方法の第1工程では、電線10の被覆部11がそれぞれ除去され、それぞれの素線12が束ねられてから、樹脂材料30に漬け込まれる。樹脂材料30は、発熱源であるカーボン等が混入されており、多波長の図2に示す光(例えば、赤外線光40等)の照射に伴い溶着されるゲル状の樹脂であって、貯蔵容器31に貯蔵されている。樹脂材料30へのどぶ漬けにより、露出している素線12と、被覆部11と、に樹脂材料30が浸透される。
【0015】
図2に示す電線素線間止水方法の第2工程では、電線10が樹脂材料30から引き上げられてから、樹脂材料30に赤外線光40が照射される。赤外線光40は、多波長であって、レーザー照射口41から照射される。レーザー照射口41は、不図示のレーザー発生手段に電気的に接続されているとともに、不図示の照射口移動手段によって、溶着が必要な素線12間と、素線12と被覆部11との間と、である位置A1から位置A2までに赤外線光40を照射する。赤外線光40の照射は、例えば数秒〜数十秒程度の短時間である。
【0016】
素線12間と、素線12と被覆部11との間と、である位置A1から位置A2までに赤外線光40が照射されることで、素線12間に浸透されている樹脂材料30は、溶融されてから素線12のそれぞれに溶着されるとともに、素線12と被覆部11との間に浸透されている樹脂材料30は、溶融されてから被覆部11と素線12とを覆って溶着された後に硬化される。これにより、素線12間と、素線12と被覆部11と、の間を止水処理した電線素線間止水構造を得ることができる。
【0017】
なお、電気的な接続を行う素線12の先端部のジョイント部13に樹脂材料30が付着しないようにするために、どぶ漬けに代えて、ノズル等を用いて、溶着が必要な、素線12間と、素線12と被覆部11との間と、だけに樹脂材料30を塗布するようにしても良い。
【0018】
上述したように、本実施形態の電線素線間止水構造によれば、赤外線光40が照射されることで溶着可能な樹脂材料30を用いることで、溶着が必要な、素線12間と、素線12と被覆部11との間と、のみを短時間で溶着させて止水を施すことができる。これにより、多くの硬化時間を必要としないので、硬化時間を短縮することで作業性を良好にできる。また、短時間で止水処理を行えるので、無駄がなく高い効率で止水構造を得ることができる。そして、リサイクル時に、樹脂材料30を溶解するだけで、銅部品である電線10のみを抽出できるために、リサイクル性に富むものとなる。
【0019】
また、本実施形態の電線素線間止水方法によれば、樹脂材料30の所定位置に赤外線光40を照射させる工程を行うことで、溶着が必要な、素線12間と、素線12と被覆部11との間と、のみを短時間で溶着させて止水を施すことができる。これにより、多くの硬化時間を必要としないので、硬化時間を短縮することで作業性を良好にできる。また、短時間で止水処理を行えるので、無駄がなく高い効率の止水方法を実行することができる。そして、リサイクル時に、樹脂材料30を溶解するだけで、銅部品である電線10のみを抽出できるために、リサイクル性に富むものとなる。
【0020】
(第2実施形態)
次に、図3及び図4を参照して、本発明の電線止水構造及び電線止水方法の第2実施形態について説明する。図3は本発明の第2実施形態に係る電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法における電線素線間止水方法の第1工程の正面図、図4は電線素線間止水方法の第2工程の正面図である。なお、以下の第2実施形態において、上述した第1実施形態と重複する構成要素や機能的に同様な構成要素等については、図中に同一符号あるいは相当符号を付すことによって説明を簡略化あるいは省略する。
【0021】
図3に示すように、本発明の第2実施形態である電線素線間止水構造は、被覆部11の所定の中間部分が除去された電線14と、被覆部11の端部が除去された電線15と、が用いられる。
【0022】
図3に示す電線素線間止水方法の第1工程では、電線14の被覆部11の中間部分が除去された素線16と、電線15の被覆部11の端部が除去された素線17と、が樹脂材料30に漬け込まれる。樹脂材料30へのどぶ漬けにより、電線14の被覆部11の中間部分が除去されて露出している素線16間と、素線16と被覆部11との間と、電線15の被覆部11の端部が除去されて露出されている素線17間と、素線17と被覆部11との間と、に樹脂材料30がそれぞれ浸透される。
【0023】
図4に示す電線素線間止水方法の第2工程では、電線14と電線15とが樹脂材料30から引き上げられてから、電線14の素線17に電線15の素線17が束ねられ、それぞれの樹脂材料30に光(例えば、赤外線光40等)が照射される。赤外線光40を照射するレーザー照射口41は、不図示の照射口移動手段によって、溶着が必要な一方側の素線16間と、一方側の素線16と被覆部11との間と、である位置A3から位置A4までに赤外線光40を照射させる。また、素線17間と、素線17と被覆部11との間と、他方側の素線16間と、他方側の素線16と被覆部11との間と、である位置A5から位置A6までに赤外線光40を照射させる。赤外線光40の照射は、例えば数秒〜数十秒程度の短時間である。
【0024】
一方側の素線16間と、一方側の素線16と被覆部11と、の間である位置A3から位置A4までと、素線17間と、他方側の素線16間と、他方側の素線16と被覆部11と、の間である位置A5から位置A6までに赤外線光40が照射される。これにより、素線16間及び素線17間にそれぞれ浸透されている樹脂材料30は、溶融されてから素線16及び素線17のそれぞれに溶着されるとともに、素線16と被覆部11と、素線17と被覆部11と、の間に浸透されている樹脂材料30は、溶融されてから、素線16と被覆部11と、素線17と被覆部11と、を覆って溶着された後に硬化される。したがって、一方側の素線16間と、一方側の素線16と被覆部11と、素線17間と、他方側の素線16間と、他方側の素線16と被覆部11と、の間を止水処理した電線素線間止水構造を得ることができる。
【0025】
なお、電気的な接続を行う、素線16の中央部のジョイント部18と、素線17の先端部のジョイント部19と、に樹脂材料30が付着しないようにするために、どぶ漬けに代えて、ノズル等を用いて、溶着が必要な、一方側の素線16間と、一方側の素線16と被覆部11との間と、素線17間と、素線17と被覆部11との間と、他方側の素線16間と、他方側の素線16と被覆部11との間と、だけに樹脂材料30を塗布するようにしても良い。
【0026】
本実施形態は、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏するために、それらの説明は省略するが、特に、本実施形態によれば、中間部分が除去された電線14と、端部が除去された電線15との素線16,17のみを集中的に止水処理することができる。また、止水処理が施された電線14,15は、樹脂材料30により一体的に形成されているために、他の工程への搬送等を1個の部品単位で行うことができる。
【0027】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0028】
例えば、電線は図示した2本に代えて、3本や4本等、複数の電線においても溶着の必要な部分だけを止水することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法における電線素線間止水方法の第1工程の正面図である。
【図2】電線素線間止水方法の第2工程の正面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電線素線間止水構造及び電線素線間止水方法における電線素線間止水方法の第1工程の正面図である。
【図4】電線素線間止水方法の第2工程の正面図である。
【図5】従来の電線素線間止水構造の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10,14,15 電線
11 被覆部
12,16,17 素線
30 樹脂材料
40 赤外線光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆部内に素線を内装した電線の該素線間を止水する電線素線間止水構造であって、
前記被覆部を除去した素線を、発熱源が混入され光の照射に伴い溶着可能な樹脂材料に浸漬させた後に、該樹脂材料の所定位置に光を照射させてなることを特徴とする電線素線間止水構造。
【請求項2】
被覆部内に素線を内装した電線の該素線間を止水する電線素線間止水方法であって、
前記被覆部を除去した素線を、発熱源が混入され光の照射に伴い溶着可能な樹脂材料に浸漬させる工程と、
前記樹脂材料の所定位置に光を照射させる工程と、
を含むことを特徴とする電線素線間止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−117615(P2008−117615A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299285(P2006−299285)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】