説明

電解パラジウム−リン合金めっき液、めっき被膜及びめっき製品

【課題】電気的接続部位等に設けられるNi/Pd/Au被膜を形成する際に好適に用いることができ、被膜特性の向上及びコスト削減を図ることのできる電解パラジウム−リン合金めっき液、めっき被膜及びめっき製品を提供する。
【解決手段】被めっき物100の表面に、電解めっきにより電解パラジウム−リン合金めっき被膜12を形成する際に用いる電解パラジウム−リン合金めっき液であって、パラジウム化合物と、次亜リン酸ナトリウム又は亜リン酸と、エチレンジアミン又はジエチレントリアミンとを含むことを特徴とする電解パラジウム−リン合金めっき液、該めっき液によるめっき被膜及びめっき製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、電解パラジウム−リン合金めっき液、これを用いて形成しためっき被膜及びめっき製品に関する。特に、Pd−PPFプロセス等に好適に用いることのできる電解パラジウム−リン合金めっき液、これを用いて形成しためっき被膜及びめっき製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体パッケージ分野における鉛フリー技術の一つとして、Pd−PPF(Pre Plated Frame)プロセスが注目されている。Pd−PPFプロセスとは、リードフレームを基材として、その全面に電解ニッケルめっき、電解パラジウムめっき、電解金めっきを順に行い、リードフレームの基材上にNi被膜と、Pd被膜と、Au被膜とを積層したNi/Pd/Au被膜から成るめっき被膜を形成する方法をいう(例えば、「特許文献1」参照)。
【0003】
このPd−PPFプロセスでは、Ni被膜と、Au被膜との間にPd被膜を設けることにより、優れた化学的安定性及び電気伝導性を維持した上で、Au層の厚みを削減することができる。これにより、Au使用量を削減することができ、コストを削減することができるという効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−262507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の貴金属価格の高騰に伴い、パラジウムの価格も高騰している。このため、金の使用量の削減だけではなく、パラジウムの使用量の削減も求められている。また、このようなPd−PPFプロセス等において、Ni/Pd/Au被膜は電子部品の電気的接続部位に設けられるため、はんだ濡れ広がり性、耐熱負荷性等の被膜特性の更なる向上が求められている。
【0006】
そこで、本件発明の課題は、電気的接続部位等にめっき被膜を形成する際に好適に用いることができ、当該めっき被膜の特性の向上及びコスト削減を図ることのできる電解パラジウム−リン合金めっき液、めっき被膜及びめっき製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究を行った結果、以下の電解パラジウム−リン合金めっき液、めっき被膜及びめっき製品に想到した。
【0008】
本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液は、被めっき物に電解めっきにより電解パラジウム−リン合金めっき被膜を形成する際に用いる電解パラジウム−リン合金めっき液であって、パラジウム化合物と、次亜リン酸ナトリウム又は亜リン酸と、エチレンジアミン又はジエチレントリアミンとを含むことを特徴とする。
【0009】
本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液は、エチレンジアミンを0.1mol/L〜0.3mol/L、又は、ジエチレントリアミンを0.05mol/L〜0.2mol/Lの範囲で含むことが好ましい。
【0010】
本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液は、次亜リン酸ナトリムを0.0025 mol/L〜 0.1mol/L、又は、亜リン酸を0.0025mol/L〜0.2mol/Lの範囲で含むことが好ましい。
【0011】
また、本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液において、無機硫黄化合物を0.09mol/L〜0.19mol/Lの範囲で含むことが好ましい。
【0012】
本件発明に係るめっき被膜は、被めっき物の表面に設けられるニッケルめっき被膜又はニッケル合金めっき被膜から成るNi被膜と、当該Ni被膜の表面に設けられる電解パラジウム−リン合金めっき被膜から成るPd−P合金被膜と、当該Pd−P合金被膜の表面に設けられる金めっき被膜又は金合金めっき被膜から成るAu被膜とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本件発明に係るめっき被膜において、前記Pd−P合金被膜は、上述した本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて形成されたものであることが好ましい。
【0014】
本件発明に係るめっき製品は、被めっき物の表面にめっき被膜を備えためっき製品であって、当該めっき被膜は、被めっき物の表面に設けられたニッケルめっき被膜又はニッケル合金めっき被膜から成るNi被膜と、当該Ni被膜の表面に設けられる電解パラジウム−リン合金めっき被膜から成るPd−P合金被膜と、当該Pd−P合金めっき被膜の表面に設けられる金めっき被膜又は金合金めっき被膜から成るAu被膜とを有することを特徴とする。
【0015】
本件発明に係るめっき製品において、前記Pd−P合金被膜は、上述した本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて形成された電解パラジウム−リン合金めっき被膜であることが好ましい。
【0016】
本件発明に係るめっき製品において、前記被めっき物は、リードフレームであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本件発明の電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて、例えば、Pd−PPFプロセス等において、電気接続部位に設けられるNi/Pd/Au被膜を形成する際に、Ni被膜層と、Au被膜層との間に、純パラジウム被膜に代えて、電解パラジウム−リン合金めっき被膜(Pd−P合金被膜)を採用したNi/Pd−P/Au被膜を形成した場合、はんだ濡れ広がり性や、耐食性、電気特性等の被膜特性が良好なめっき被膜を得ることができる。また、純パラジウム被膜に代えて、電解パラジウム−リン合金めっき被膜を採用することにより、パラジウムの使用量を削減することができ、これによりコスト削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電解パラジウム−リン合金めっき液中の次亜リン酸ナトリウム濃度と、電解パラジウム−リン合金めっき被膜におけるリン含有率及び電流効率との関係を示す図である。
【図2】電解パラジウム−リン合金めっき液中の亜リン酸濃度と、電解パラジウム−リン合金めっき被膜におけるリン含有率及び電流効率との関係を示す図である。
【図3】本件発明に係るめっき被膜の層構成を示す模式図である。
【図4】比較例1で製造しためっき被膜に対して熱処理を施した後のNiの拡散状態を示した図である。
【図5】実施例1で製造しためっき被膜に対して熱処理を施した後のNiの拡散状態を示した図である。
【図6】実施例8で製造しためっき被膜に対して熱処理を施した後のNiの拡散状態を示した図である。
【図7】比較例、実施例1、実施例2、実施例8で得られためっき被膜のはんだ濡れ広がり性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液、めっき被膜及びめっき製品の実施の形態を順に説明する。
【0020】
1.本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液
本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液は、パラジウム化合物と、リン化合物と、アミン化合物とを含むことを特徴としている。
【0021】
(1)パラジウム化合物
パラジウム化合物は、本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液において必須の成分である。本件発明では、パラジウム化合物として、従来より電解純パラジウムめっき液においてバラジウム源として使用される化合物(パラジウム塩)であれば、特に限定されることなく用いることができる。具体的には、パラジウム化合物として、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウムアンモニウム、ジクロロパラジウムアンモニウム及びジニトロアミンパラジウム等を用いることができる。これらの中から一種を選択して用いてもよいし、これらの中から選択した二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液において、パラジウムの濃度が0.005mol/L〜0.1mol/Lの範囲内となるようにパラジウム化合物の含有量を調整することが好ましい。パラジウムの濃度が0.005mol/L未満である場合、当該電解パラジウム−リン合金めっき液中のパラジウムの濃度が低く、電解を行ってもパラジウムの析出速度が遅く、また析出量が少なくなるため好ましくない。一方、パラジウムの濃度が0.1mol/Lを超える場合、めっき液の安定性が低下するため好ましくない。これらの観点から、当該電解パラジウム−リン合金めっき液中のパラジウム化合物の含有量は、パラジウムの濃度が0.005mol/L〜0.05mol/Lとなるような範囲内であることがより好ましい。
【0023】
(2)リン化合物
次に、リン化合物について説明する。本件発明では、リン化合物として次亜リン酸ナトリウム又は亜リン酸を用いることを特徴とする。これらのリン化合物は、パラジウム化合物と同様、電解パラジウム−リン合金めっき被膜を形成するために必須となるめっき液成分である。本件発明者等は、複数種類のリン化合物を用いて鋭意研究を行った結果、リン化合物の中でも特に次亜リン酸ナトリム(NaHPO・HO)又は亜リン酸(HPHO)を用いることが好ましいことを見出し、本件発明に想到するに到った。また、次亜リン酸ナトリウムと亜リン酸とを比較すると、次亜リン酸ナトリウムをより好ましく用いることができる。次亜リン酸ナトリウムを用いた方が、亜リン酸を用いた場合に比して、電解パラジウム−リン合金めっき被膜におけるリン含有率が高くなるためである。
【0024】
次亜リン酸ナトリウム: リン化合物として次亜リン酸ナトリウムを用いる場合、その含有量が0.0025mol/L〜0.1 mol/Lの範囲内であることが好ましい。次亜リン酸ナトリウムの含有量が0.0025mol/L未満である場合、得られる電解パラジウム−リン合金めっき被膜中のリン含有率が2.0wt%未満となり、パラジウムの使用量の削減等によるコスト削減効果が低くなるため好ましくない。ここで、図1に示すように、電解パラジウム−リン合金めっき液中における次亜リン酸ナトリウムの含有量が増加する程、得られる電解パラジウム−リン合金めっき被膜中のリン含有率が増加する。また、次亜リン酸ナトリウムの濃度が高くなるにつれて、析出電位が卑にシフトし、微細で平滑なPd−P合金被膜が得られた。しかしながら、図1に示すように、当該次亜リン酸ナトリウムの含有量が増加するにつれて、電解時の電流効率が低下する傾向にある。適切な電流効率を維持して、工業的な生産効率を維持するという観点から、次亜リン酸ナトリウムの含有量の上限値は、上述した通り、0.1mol/Lであることが好ましい。例えば、次亜リン酸ナトリウムの含有量が上述の範囲内にある場合、めっき浴温50℃、めっき浴pH9.0という電解めっき条件で電解を行った場合、電解パラジウム−リン合金めっき被膜中のリン含有率は概ね2.4wt%〜3.8wt%の範囲内となり、電流効率を68%〜73%の範囲内とすることができる。但し、電解めっき条件が異なれば、これらの範囲も異なる値を示す。
【0025】
上述の観点から、次亜リン酸ナトリウムの含有量は、0.0025mol/L〜0.1 mol/Lの範囲内であることが好ましい。当該範囲内であれば、例えば、めっき浴温50℃、めっき浴pH9.0という電解めっき条件において、電解パラジウム−リン合金めっき被膜中のリン含有率を2.4wt%以上とすることができ、パラジウムの使用量の削減等によるコスト削減効果がより高くすることができ、好ましい。また、次亜リン酸の含有量を0.1mol/L以下とすることにより、68%以上の電流効率を維持することができ、好ましい。
【0026】
亜リン酸: リン化合物として亜リン酸を用いる場合、その含有量が0.0025mol/L〜0.2mol/Lの範囲内であることが好ましい。亜リン酸の含有量が0.0025mol/L未満である場合、得られる電解パラジウム−リン合金めっき被膜中のリン含有率が2.0wt%未満となり、パラジウムの使用量の削減等によるコスト削減効果が低くなるため好ましくない。また、次亜リン酸ナトリウムの場合と同様に、電解パラジウム−リン合金めっき液中における亜リン酸の含有量が増加する程、得られる電解パラジウム−リン合金めっき被膜中のリン含有率が増加する(図2参照)。しかしながら、その一方で、電解パラジウム−リン合金めっき液中における亜リン酸の含有量が増加する程電解パラジウム−リン合金めっき液の電流効率が低下する傾向にある(図2参照)。適切な電流効率を維持して、工業的な生産効率を維持するという観点から、亜リン酸含有量の上限値は、上述した通り、0.2mol/Lであることが好ましい。
【0027】
ここで、上述した通り、本件発明ではリン化合物として、次亜リン酸ナトリウムをより好ましく用いることができる。リン化合物の含有量(モル濃度)を一定とした場合に、次亜リン酸ナトリウムを用いた方が電解パラジウム−リン合金めっき被膜中のリン含有率の高いものが得られるためである。また、次亜リン酸ナトリウムを用いた場合の方が、亜リン酸を用いる場合に比して、所定のリン含有率の電解パラジウム−リン合金めっき被膜を得る場合に、電解パラジウム−リン合金めっき液中に添加するリン化合物のモル濃度を低くすることができ、その結果、電流効率の低下を防止することができるためである。
【0028】
(3)アミン化合物
次に、アミン化合物について説明する。本件発明では、アミン化合物として、次亜リン酸ナトリウム又は亜リン酸と、エチレンジアミン(HNCHCHNH)又はジエチレントリアミン((HNCHCHNH)とを含むことを特徴とする。本件発明者等の鋭意研究の下、めっき浴の安定性を維持するには、当該電解パラジウム−リン合金めっき液にアミン化合物を添加することが有効であることを見出した。特に、エチレンジアミン又はジエチレントリアミンを添加することにより、アンミン−パラジウム錯体が形成されることなどにより、めっき浴の安定性が極めて良好になることを見出した。これらの知見に基づき、本件発明者等は上記本件発明に想到するに到った。以下、各アミン化合物について説明する。
【0029】
エチレンジアミン: アミン化合物としてエチレンジアミンを用いる場合、その含有量が、0.1mol/L〜0.3mol/Lの範囲内であることが好ましい。エチレンジアミンの含有量が0.1mol/L未満である場合、電解パラジウム−リン合金めっき液の安定性を維持することができる時間が短く、連続操業を行うことが困難になり、工業生産上の観点から好ましくない。一方、エチレンジアミンの含有量が増加するにつれて、電解パラジウム−リン合金めっき液の安定性を長期に亘って維持可能となり好ましい。しかしながら、当該電解パラジウム−リン合金めっき液中のエチレンジアミンの含有量が増加するにつれて、電解めっき時の電流効率が低下する傾向にある。当該観点から、電解パラジウム−リン合金めっき液中のエチレンジアミンの含有量が0.3mol/Lを超える場合、電解時の電流効率が低く、工業的な生産効率を維持することができず、好ましくない。
【0030】
ジエチレントリアミン: アミン化合物としてジエチレントリアミンを用いる場合、その含有量が、0.05mol/L〜0.2mol/Lの範囲内であることが好ましい。ジエチレントリアミンの含有量が0.05mol/L未満である場合、電解パラジウム−リン合金めっき液の安定性を維持することができる時間が短く、連続操業を行うことが困難になる。従って、工業生産効率上の観点から好ましくない。一方、ジエチレントリアミンの含有量が増加するにつれて、電解パラジウム−リン合金めっき液の安定性を長期に亘って維持可能となり好ましい。しかしながら、エチレンジアミンの場合と同様に、当該電解パラジウム−リン合金めっき液中のジエチレントリアミンの含有量が増加するにつれて、電解めっき時の電流効率が低下する傾向にある。当該観点から、電解パラジウム−リン合金めっき液中のジエチレントリアミンの含有量が0.2mol/Lを超える場合、電解時の電流効率が低く、工業的な生産効率を維持することができず、好ましくない。
【0031】
ここで、本件発明者等は、アミン化合物として、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、エチレンジアミン四酢酸、グリシンについても検討を行った。しかしながら、これらのアミン化合物を用いた場合は、アミン化合物としてエチレンジアミン又はジエチレントリアミンを用いた場合とは異なり、いずれも浴の安定性を確保することができなかった。具体的には、表1に示すように、これらをそれぞれ0.45mol/Lの割合で添加した電解パラジウム−リン合金めっき液を調製した場合、建浴後、3時間でめっき浴が分解し、浴を安定させることはできなかった。これに対して、エチレンジアミン又はジエチレントリアミンを0.45mol/Lの割合で添加した電解パラジウム−リン合金めっき液の場合は、建浴後、24時間経過してもめっき浴は良好であり、浴安定性に優れていた。
【0032】
また、エチレンジアミンとジエチレントリアミンとを比較すると、エチレンジアミンに比してジエチレントリアミンは、より低い含有量で、電解パラジウム−リン合金めっき液の安定性を長期に亘って維持することが可能である。しかしながら、エチレンジアミンと、ジエチレントリアミンとを比較すると、電解パラジウム−リン合金めっき液中のこれらの濃度を一定にした場合、エチレンジアミンを用いた場合の方が、高い電流効率を維持することができた。従って、工業的な生産効率を考慮すると、ジエチレントリアミンに比してエチレンジアミンを用いることがより好ましい。
【0033】
【表1】

【0034】
(4)その他
その他の成分: 本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液において、例えば、従来公知の電解純パラジウムめっき液に添加されている浴安定化剤、pH調整剤、結晶調整剤等の各種添加剤を含む構成としてもよい。例えば、浴安定化剤として、無機硫黄化合物が挙げられる。また、無機硫黄化合物としては、硫酸アンモニウム、チオグリコール酸、チオジグリコール酸、チオ硫酸ソーダ、亜硫酸ソーダ等を用いることができる。例えば、結晶調整剤として、セレン、を用いることができる。これらは、それぞれ0.01mol/L〜10mol/Lの範囲で用いることができ、0.03mol/L〜5mol/Lの範囲で用いることがより好ましい。また、pH調整剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水溶液、硫酸、リン酸等を用いて調整することができる。但し、これらの各種添加剤の添加量は目的とする効果を達成可能な程度に適宜調製することができる。
【0035】
調製方法: 本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液を調製する際には、上述したパラジウム化合物、リン化合物及びアミン化合物と、必要に応じて各種の添加剤をそれぞれ所定量用いて、水等の溶媒に所定の順序等で添加し、適宜混合することにより調製することができる。また、例えば、従来公知の電解純パラジウムめっき液に対して、上述した次亜リン酸ナトリウム又は亜リン酸と、エチレンジアミン又はジエチレントリアミンとをそれぞれ上述した範囲内で添加し、適宜混合することにより調製してもよい。
【0036】
(5)電解条件
本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて、電解パラジウム−リン合金めっき被膜を形成する際には、当該電解パラジウム−リン合金めっき浴のpHを7.5〜9.5の範囲に調製することが好ましい。また、浴温を40℃〜60℃の範囲内とすることが好ましい。また、電流密度は、0.5A/dm〜2.0A/dmとすることが好ましい。
【0037】
(6)具体的組成例
本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液の好ましい組成例を以下に示す。本件発明の好ましい組成例では、リン化合物として次亜リン酸ナトリウム(NaHPO・HO)を用い、且つ、アミン化合物としてエチレンジアミン(HNCHCHNH)を用い、これらの含有量はそれぞれ上述の範囲とすることが好ましい。また、本件発明において、パラジウム供給源としてのパラジウム化合物は特に限定されるものではないが、例えば、ジアンミン第一パラジウム塩化物(Pd(NHCl)を用いることができ、当該ジアンミン第一パラジウム塩化物の含有量は以下の範囲内とすることができる。その他、本件発明においては、任意の成分であるが、浴安定化剤としての硫酸アンモニウム((NHSO)、表面改質剤としての1,3,6−ナフタレントリスルホン酸ナトリウム水和物(C10Na)、を含む組成とすることができ、これらの含有量は以下の範囲内とすることができる。
【0038】
Pd(NHCl :0.005mol/L〜0.1mol/L
(NHSO :0.05mol/L〜0.5mol/L
10Na :0.01mol/L〜0.5mol/L
【0039】
上記組成を有する電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて、上記電解条件の下で電解を行うことにより、電解パラジウム−リン合金めっき被膜を良好に形成することができる。但し、本件発明は、上記組成例に限定されるものではなく、パラジウム化合物は他のものを用いてもよい。また、各種添加剤は適宜選択することができ、それぞれ適切な量とすることができる。上記組成例では、リン化合物として次亜リン酸ナトリウム、アミン化合物としてエチレンジアミンを用いたが、上述した通り、亜リン酸、ジエチレントリアミンをそれぞれ用いてもよい。
【0040】
2. めっき被膜
次に、本件発明に係るめっき被膜について説明する。本件発明に係るめっき被膜10は、図3に示すように、被めっき物100の表面に形成されるめっき被膜(複層めっき被膜)10であって、被めっき物100の表面に形成されるニッケルめっき被膜又はニッケル合金めっき被膜から成るNi被膜11と、当該Ni被膜11の表面に形成される電解パラジウム−リン合金めっき被膜から成るPd−P合金被膜12と、当該Pd−P合金被膜12の表面に形成される金めっき被膜又は金合金めっき被膜から成るAu被膜13とを備えることを特徴とする。当該めっき被膜10は、リードフレーム等の電気的接続部位に好適に設けることができる。例えば、従来、Pd−PPFプロセス等において形成されるNi/Pd/Au被膜に代えて、本件発明に係るNi/Pd−P/Au被膜を好適に採用することができる。
【0041】
従来、Pd−PPFプロセス等において形成されるNi/Pd/Au被膜では、中間層を純Pd被膜としていた。この中間層を上述した電解パラジウム−リン合金めっき被膜(Pd−P合金被膜12)とし、従来のNi/Pd/Au被膜に代えて、本件発明に係るめっき被膜(Ni/Pd−P/Au被膜)を採用することにより、貴金属であるパラジウムの使用量を削減して、原料コストを低減することができる。また、合金成分として、リンを採用することにより、原料の安価で、安定的な供給を見込むことができる。また、無電解で電解パラジウム−リン合金めっき被膜を得た場合、当該無電解パラジウム−リン合金めっき被膜は、得られた被膜中のリン含有率が増加するにつれて非晶質になることが知られている。従って、電解パラジウム−リン合金めっき被膜(Pd−P合金被膜12)についても、被膜中のリン含有率を増加させることにより、非晶質の被膜が得られることが想定される。これにより、下地被膜としてのNi被膜11の酸化防止を図ると共に、熱処理後にNiがPd−P合金被膜12やAu被膜13に拡散することを防止することができる。また、当該めっき被膜10のはんだ濡れ広がり性も良好なものとすることができる。
【0042】
ここで、当該めっき被膜において、Pd−P合金被膜中のリン含有率は2.0wt%〜4.0wt%であることが好ましい。Pd−P合金被膜中のリン含有率が2.0wt%未満の場合、リンの含有量が低く、パラジウムの使用量削減効果によるコスト低減効果が低くなるため好ましくない。一方、リン含有率が高いほど、当該コスト低減効果が高くなるため好ましい。
【0043】
また、当該Pd−P合金被膜中のリン含有率が増加するに伴い、Niの熱拡散を防止することができて好ましい。ここで、具体的な測定結果を図4〜図6に示す。図4〜図6は、Pd−P合金被膜(Pd被膜)におけるリン含有率が0%、1.6質量%、3.8質量%のめっき被膜に対して、400℃で30秒間熱処理を施した後の各層(Ni被膜層、Pd−P合金被膜層、Au被膜層)におけるNi、Pd、P、Auの拡散率(%)を示したものである。但し、当該測定には、オージェ分光分析装置(日本電子株式会社製のJAMP−7 810)を用いた。
【0044】
図4〜図6に示すように、当該めっき被膜において、Pd−P合金被膜中のリン含有率が高い程、NiのPd−P合金被膜、Au被膜側への熱拡散を防止する効果が高いことが分かる。従って、Niの熱拡散防止効果が高くなるという観点においても、Pd−P合金被膜中のリン含有率が高い方が好ましいことが分かる。
【0045】
また、当該電解パラジウム−リン合金めっき被膜において、熱負荷後においてもはんだ濡れ性を維持できるという観点からも、リン含有率の下限値は2.0%程度であることが好ましい。
【0046】
一方、当該電解パラジウム−リン合金めっき被膜におけるリン含有率を高くするには、電解パラジウム−リン合金めっき液中のリン化合物の含有量を高くする必要がある。電解パラジウム−リン合金めっき液中のリン化合物の含有量を高くした場合、上述した通り、電流効率が低下し、生産効率が低下する。従って、工業的な生産効率を維持するという観点から、当該電解パラジウム−リン合金めっき被膜におけるリン含有率の上限値は、4.0%程度が好ましい。但し、工業的生産効率を考慮しない場合、或いは、他の添加剤等を用いることにより、電流効率を増加させることが可能になった場合などは、この限りではない。
【0047】
Ni被膜及びAu被膜: 本件発明に係るめっき被膜において、Pd−P合金被膜として、電解パラジウム−リン合金めっき被膜を採用する点を除いては、Ni被膜、Au被膜に特に限定はない。Ni被膜は、Ni含有量が99.9%を超えるニッケルめっき被膜であってもよいし、Ni−P合金、Ni−B合金等から成るニッケル合金被膜であってもよい。同様に、Au被膜は、Au含有量が99.9%を超える金めっき被膜であってもよいし、Au−Co合金、Au−Ni合金、Au−Fe合金等の金合金めっき被膜であってもよい。
【0048】
各層の膜厚: Ni被膜、Pd−P合金被膜及びAu被膜の膜厚は、それぞれ要求される特性に応じて、適宜、適切な厚さとすることができる。例えば、リードフレーム等の電気的接続部位に当該めっき被膜を適用する場合、Ni被膜の膜厚を3.0μm〜5.0μm、Pd−P合金被膜の膜厚を0.05μm〜0.1μm、Au被膜の膜厚を、0.005μm〜0.1μmとすることができる。本件発明のめっき被膜では、Pd−P合金被膜の膜厚0.1μm、Au被膜の膜厚0.1μmとした場合にも優れた耐食性及び電気特性を維持することができることが本件発明者等により確認されている。
【0049】
3.めっき製品
次に、本件発明に係るめっき製品について説明する。本件発明に係るめっき製品は、被めっき物の表面に、ニッケルめっき被膜又はニッケル合金めっき被膜から成るNi被膜と、パラジウム合金めっき被膜から成るPd−P合金被膜と、金めっき被膜又は金合金めっき被膜から成るAu被膜とを順次積層した三層構造を有するめっき被膜を備えためっき製品であって、当該Pd−P合金被膜は、電解パラジウム−リン合金めっき被膜であることを特徴とする。また、本件発明に係るめっき製品は、半導体パッケージ基板のリードフレームであることが特に好ましい。
【0050】
本件発明に係るめっき製品において、上記Pd−P合金被膜を成す電解パラジウム−リン合金めっき被膜は、上述した本件発明に係る電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて形成されたものであることが好ましい。本件発明に係るめっき被膜は、上述した通り、電気的接続部位のめっき被膜として好適に用いることができ、半導体パッケージ基板のリードフレームにより好適に用いることができるためである。リードフレームに従来設けられたNi/Pd/Au被膜に対して、本件発明では、Ni被膜とAu被膜との間にPd−P合金被膜を設けて、Ni/Pd−P/Au被膜とすることにより、金に加えて、貴金属でパラジウムの使用量をも削減することができ、更なるコスト低減を図ることができる。また、リンを用いることにより原料を安価に、且つ、安定的な供給を受けることができる。また、上述した通り、Pd−P合金被膜中のリン含有率を増加させることにより非晶質の電解パラジウム−リン合金めっき被膜を得ることができ、Ni被膜の酸化防止と共に、Au被膜及び当該Pd−P合金被膜に対するNiの熱拡散防止効果の向上を図ることができる。
【0051】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であるのは勿論である。また、以下、実施例及び比較例を挙げて、本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
1.電解パラジウム−リン合金めっき液の調製
実施例1では、リン化合物として次亜リン酸ナトリウム(NaHPO・HO)を採用し、アミン化合物としてエチレンジアミンを採用した。また、本実施例1では、下記に示すように次亜リン酸ナトリウム濃度が0.001mol/Lになるように電解パラジウム−リン合金めっき液を調製した。但し、具体的な組成は以下の通りとし、下記組成を有する電解パラジウム−リン合金めっき液を「Pd−P液」とする。
【0053】
Pd(NHCl :10.0g/L(0.05 mol/L)
(NHSO :25.0g/L(0.19 mol/L)
10Na :35.0g/L(0.08 mol/L)
NaHPO・HO :0.13g/L(0.001mol/L)
NCHCHNH:13.5g/L(0.225 mol/L)
【0054】
2.めっき被膜の作製
次に、銅板を基板として、当該基板上にNi被膜/Pd−P合金被膜/Au被膜から成るめっき被膜を作製した。具体的な作製手順は以下の通りである。
【0055】
前処理工程: まず、基板の表面に、内側の面積(めっき面積)が2.0cm×2.5cmとなるようにレジストテープを貼り付け、矩形の被めっき部を形成した。次に、60℃のアルカリ溶液(NaOH8g/L、クエン酸三ナトリウム10g/L、ナロアクティ− N−1202g/L)に3分間浸漬し、アルカリ脱脂を行った。次いで、湯洗、水洗を行った後、基板を室温の10vol%の硫酸水溶液に1分間浸漬して中和した。そして、水洗を経た後、エッチング溶液(過硫酸ナトリウム125g/L、硫酸 10ml/L)を用いて、ソフトエッチングした。その後、水洗を経た後、基板を室温の10vol%の硫酸水溶液に1分間浸漬して、酸活性した。その後、再度水洗した。
【0056】
Ni被膜形成工程: 以上の前処理が終了した基板に対して、基板の表面(被めっき部の表面)上に膜厚が5.0μmになるようにNi被膜を形成した。Ni被膜の形成には、スルファミン酸ニッケルめっき浴を用いた。また、浴温は50℃、浴pHは4.0電流密度は2.0A/dmとした。なお、膜厚の測定には、蛍光X線分析装置(エスエスアイナノテクノロジー社製 SEA−5220)を用いた(以下、同じ)。
【0057】
Pd−P合金被膜形成工程: Pd−P合金被膜形成工程では、上述したPd−P液を用いて、Ni被膜の表面に膜厚が50nmになるようにしてPd−P合金めっき被膜を形成した。このとき、浴温50℃、浴pHは9.0、電流密度は1.0A/dmとし、スターラー(500rpm)により緩やかに浴を撹拌しながら電解を行った。このとき、得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、1.6wt%であった。また、リン含有率は、電子線プローブマイクロアナライザー(日本電子株式会社製:JXA−8900R)により測定した(以下、同じ)。
【0058】
Au被膜形成工程: Au被膜形成工程では、Pd−P合金被膜の表面に、膜厚が50nmになるようにしてAu被膜を形成した。このとき、純Auめっき浴を用い、浴温50℃、浴pH5.0、電流密度0.3 A/dmで電解を行った。
【0059】
なお、Ni被膜形成工程と、当該Pd−P合金被膜形成工程との間、Pd−P合金被膜形成工程と、Au被膜形成工程との間にはそれぞれ水洗を行った。以上の工程を経て、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。
【実施例2】
【0060】
実施例2では、次亜リン酸ナトリウムの濃度を0.0025mol/Lとした以外は、実施例1で調製した電解パラジウム−リン合金めっき液と同様にして、実施例2の電解パラジウム−リン合金めっき液として、「Pd−P液」を調製した。また、このPd−P液を用いた以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。なお、実施例2で得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、2.4質量%であった。
【実施例3】
【0061】
実施例3では、次亜リン酸ナトリウムの濃度を0.005mol/Lとした以外は、実施例1で調製した電解パラジウム−リン合金めっき液と同様にして、実施例3の電解パラジウム−リン合金めっき液として、「Pd−P液」を調製した。また、このPd−P液を用いた以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。なお、実施例3で得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、2.5質量%であった。
【実施例4】
【0062】
実施例4では、次亜リン酸ナトリウムの濃度を0.0075mol/Lとした以外は、実施例1で調製した電解パラジウム−リン合金めっき液と同様にして、実施例4の電解パラジウム−リン合金めっき液として、「Pd−P液」を調製した。また、このPd−P液を用いた以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。なお、実施例4で得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、2.5質量%であった。
【実施例5】
【0063】
実施例5では、次亜リン酸ナトリウムの濃度を0.025mol/Lとした以外は、実施例1で調製した電解パラジウム−リン合金めっき液と同様にして、実施例5の電解パラジウム−リン合金めっき液として、「Pd−P液」を調製した。また、このPd−P液を用いた以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。なお、実施例5で得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、3.1質量%であった。
【実施例6】
【0064】
実施例6では、次亜リン酸ナトリウムの濃度を0.050mol/Lとした以外は、実施例1で調製した電解パラジウム−リン合金めっき液と同様にして、実施例6の電解パラジウム−リン合金めっき液として、「Pd−P液」を調製した。また、このPd−P液を用いた以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。なお、実施例6で得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、3.1質量%であった。
【実施例7】
【0065】
実施例7では、次亜リン酸ナトリウムの濃度を0.075mol/Lとした以外は、実施例1で調製した電解パラジウム−リン合金めっき液と同様にして、実施例7の電解パラジウム−リン合金めっき液として、「Pd−P液」を調製した。また、このPd−P液を用いた以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。なお、実施例7で得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、3.6質量%であった。
【実施例8】
【0066】
実施例8では、次亜リン酸ナトリウムの濃度を0.100mol/Lとした以外は、実施例1で調製した電解パラジウム−リン合金めっき液と同様にして、実施例8の電解パラジウム−リン合金めっき液として、「Pd−P液」を調製した。また、このPd−P液を用いた以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd−P/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。なお、実施例5で得られたPd−P合金被膜のリン含有率は、3.8質量%であった。
【比較例】
【0067】
比較例では、次亜リン酸ナトリウム及びエチレンジアミンを添加しなかった以外は、実施例1で調製した「Pd−P液」と同様にして、「Pd液」を調製した。また、このPd1液を用いて、Pd−P合金被膜の代わりに、Pd被膜(リン含有率0%)を形成した以外は、実施例1と同様にして、基板上にNi/Pd/Au被膜から成るめっき被膜を形成した。
【0068】
上記実施例1〜実施例8では、電解パラジウム−リン合金めっき液中の次亜リン酸ナトリウムの濃度が高くなるにつれて、図1に示したように、得られるPd−P合金被膜中のリン含有率が増加した。
【0069】
[評価]
次に、上記実施例及び比較例で形成しためっき被膜を用いて、(1)熱処理後のNiの拡散状態、(2)はんだ濡れ広がり性についてそれぞれ評価した。以下、1.評価方法、2.評価結果の順に説明する。
【0070】
1.評価方法
(1)Niの拡散状態
実施例1、実施例8、及び比較例でそれぞれ製造しためっき被膜に対して、400℃で30秒間熱処理を施し、その後、オージェ電子分光分析装置(AES)(日本電子株式会社製のJAMP−7810)を用いて、NiのPd−P合金被膜(又はPd被膜)、Au被膜への拡散状態を観察した。
【0071】
(2)はんだ濡れ広がり性
上記実施例1〜実施例8と、比較例とにおいてそれぞれ形成しためっき被膜に対して、400℃で30秒間熱処理を施したものと、熱処理を施していないものとをそれぞれ評価基板として用いた。各評価基板の表面に、それぞれロジン系不活性フラックス(千住金属工業株式会社製)を塗布し、直径0.6mmのハンダボール(千住金属工業株式会社製、Sn−3.0Ag−0.5Cu)を付着させ、250℃で60秒間、はんだ溶融を行った。
【0072】
2.評価結果
(1)Niの拡散状態
図4〜図6に、それぞれ比較例、実施例1、実施例8で得られためっき被膜において、熱処理後の各層(Ni被膜層、Pd−P合金被膜層、Au被膜層)におけるNi、Pd、P、Auの拡散率(質量%)を示す。上述した通り、当該めっき被膜において、Pd−P合金被膜中のリン含有率が高い程、NiのPd−P合金被膜、Au被膜に対する熱拡散を防止する効果が高いことが分かる。これは、Pd−P合金被膜は、例えば、比較例で形成したリン含有率が0%の純Pd被膜よりも、析出粒子が微細であり、且つ、表面がより平滑であるなど、Pd−P合金被膜の表面形態によるのではないかと考えられる。
【0073】
(2)はんだ濡れ広がり性
図7に、比較例、実施例1、実施例2、実施例8で得られためっき被膜において、熱処理前後におけるはんだ濡れ広がり性を対比して示す。図7に示すように、熱処理前の各めっき被膜におけるはんだ濡れ広がり性には大きな差異はないが、熱処理後の各めっき被膜については、Pd−P合金めっき被膜中のリン含有率が高いほど、当該めっき被膜の表面におけるはんだ濡れ広がり性が良好であることが確認された。これは、上述した様に、Pd−P合金めっき被膜中のリン含有率が高いほど、熱処理に伴うNiの拡散を抑制できたためではないかと考えられる。
【0074】
(3)その他
実施例8で調製したPd−P液と、比較例で調製したPd液とを用いて、得られたPd−P合金被膜及びPd被膜の表面平滑性について評価した。比較例で調製したPd液を用いて、0.01μm、0.05μmの膜厚のPd被膜を形成した場合、その表面の10点平均粗さ(Rz jis)は、それぞれ57.2nm、46.3nmであった。これに対して、Pd−P液を用いて、0.01μm、0.05μmの膜厚のPd−P合金被膜を形成した場合、その表面の10点平均粗さ(Rz jis)は25.0nm、36.3nmであった。すなわち、Pd−P液を用いる場合の方が、初期析出状態において、より表面がより平滑な被膜を得ることができることが確認された。また、結晶粒子についても、Pd−P液を用いた場合の方がより微細になることが確認された。従って、このようにPd−P合金めっき被膜は、Pd被膜に対して、微細な結晶粒子を有し、表面がより平滑であることが、Niの熱拡散防止に寄与し、また、はんだ濡れ広がり性にも寄与することが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本件発明の電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて、例えば、Pd−PPFプロセス等において、電気接続部位に設けられるNi/Pd/Au被膜を形成する際に、Ni被膜層と、Au被膜層との間に、純パラジウム被膜に代えて、電解パラジウム−リン合金めっき被膜(Pd−P合金被膜)を形成した場合、はんだ濡れ広がり性や、耐食性、電気特性等の被膜特性が良好なめっき被膜(Ni/Pd−P/Au被膜)を得ることができる。また、純パラジウム被膜に代えて、電解パラジウム−リン合金めっき被膜を採用することにより、パラジウムの使用量を削減することができ、これによりコスト削減を図ることができる。本件発明によれば、Pd−P合金被膜の膜厚及びAu被膜の膜厚をそれぞれ0.1μmとした場合においても、良好な耐食性、電気特性を維持することができるため、コストを大きく低減することが可能になる。
【符号の説明】
【0076】
10・・・めっき被膜
11・・・Ni被膜
12・・・Pd−P合金被膜
13・・・Au被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき物の表面に、電解めっきにより電解パラジウム−リン合金めっき被膜を形成する際に用いる電解パラジウム−リン合金めっき液であって、
パラジウム化合物と、次亜リン酸ナトリウム又は亜リン酸と、エチレンジアミン又はジエチレントリアミンとを含むことを特徴とする電解パラジウム−リン合金めっき液。
【請求項2】
前記電解パラジウム−リン合金めっき液は、エチレンジアミンを0.1mol/L〜 0.3mol/L、又は、ジエチレントリアミンを0.05mol/L〜0.2mol/Lの範囲で含む請求項1に記載の電解パラジウム−リン合金めっき液。
【請求項3】
前記電解パラジウム−リン合金めっき液は、次亜リン酸ナトリムを0.0025mol/L〜0.1mol/L、又は、亜リン酸を0.0025mol/L〜0.2mol/Lの範囲で含む請求項1又は請求項2に記載の電解パラジウム−リン合金めっき液。
【請求項4】
被めっき物の表面に設けられるめっき被膜であって、
被めっき物の表面に設けられるニッケルめっき被膜又はニッケル合金めっき被膜から成るNi被膜と、
当該Ni被膜の表面に設けられる電解パラジウム−リン合金めっき被膜から成るPd−P合金被膜と、
当該Pd−P合金被膜の表面に設けられる金めっき被膜又は金合金めっき被膜から成るAu被膜と、
を備えたことを特徴とするめっき被膜。
【請求項5】
前記Pd−P合金被膜は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて形成された電解パラジウム−リン合金めっき被膜である請求項4に記載のめっき被膜。
【請求項6】
被めっき物の表面にめっき被膜を備えためっき製品であって、
当該めっき被膜は、
被めっき物の表面に設けられたニッケルめっき被膜又はニッケル合金めっき被膜から成るNi被膜と、
当該Ni被膜の表面に設けられる電解パラジウム−リン合金めっき被膜から成るPd−P合金被膜と、
当該Pd−P合金めっき被膜の表面に設けられる金めっき被膜又は金合金めっき被膜から成るAu被膜と、
を有することを特徴とするめっき製品。
【請求項7】
前記Pd−P合金被膜は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電解パラジウム−リン合金めっき液を用いて形成された電解パラジウム−リン合金めっき被膜である請求項6に記載のめっき製品。
【請求項8】
前記被めっき物は、リードフレームである請求項6又は請求項7に記載のめっき製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−241260(P2012−241260A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114862(P2011−114862)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月8日〜10日 社団法人エレクトロニクス実装学会主催の「第25回 エレクトロニクス実装学会 春季講演大会(CD−ROM)」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月17日〜18日 一般社団法人表面技術協会主催の「表面技術協会 第123回講演大会 講演要旨集」において文書をもって発表
【出願人】(599141227)学校法人関東学院 (14)
【Fターム(参考)】