説明

電路及び電気機器の漏洩電流測定装置及び方法

【課題】 200V級の3相3線式の配電系統における各相の合計漏れ電流Igrを測定し、対地静電容量を通じて流れる各相別の漏洩電流Igcを把握し、Igr測定値に含まれる対地静電容量のアンバランスに起因する誤差の量を知る。
【解決手段】 基準電圧としてR,S,Tの各相の各線間電圧のうちの1つを基本波処理部3に入力し、基準電圧Eに対して、零相電流Iを同相の有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bに分離して計測値を得て、これらの値と各成分を表す計算式とからR相、T相の合計の漏洩電流Igr及び各相のIgcを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電路及び電気機器の電圧印加部分から接地部分へ流れる漏洩電流を測定する漏洩電流の測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電路及び電気機器の絶縁状態を調べる方法として、被測定部分を停電させ、絶縁抵抗計で測定する方法が広く用いられている。このような方法は、停電が許されない配電線や連続操業の工場等に適用することができない。
【0003】
そこで、被測定電路や電気機器を停電させることなく、活線のまま電路及び電気機器の絶縁状態を調べる技術が提案され、用いられている。この種の技術として、零相変流器によって検出する電路及び電気機器の電圧印加部分から接地部分へ流れる電流である零相電流(以下Iという。)を検知するようにしたものがある。この零相電流Iは、電路及び電気機器の電圧印加部分と接地部分間の絶縁抵抗を介して流れる漏洩電流(以下Igrという。)と、この電圧印加部分と接地部分間に通常存在する対地静電容量を介して流れる漏洩電流(以下Igcという。)とのベクトル和で構成されている。
【0004】
ところで、現在一般に実用されている200Vの3相3線のうちの1線が接地されている配電方式で実用化されている漏洩電流を測定する技術においては、他の非接地相の対地静電容量の値が等しいとき、すなわちバランス状態のときには漏洩電流Igrの値を誤差なく測定可能であるが、これら他の非接地相の対地静電容量の値が等しくないときには、その値の差の度合いに応じた測定誤差を含む。近年の配電系統の大容量化、複雑化、単相負荷の混在等により、各相の対地静電容量の値が不一致状態にある系統が増大しており、この対地静電容量の不一致に基づく測定誤差は、漏洩電流Igrを正確に測定するためには無視できないものとなっている。また、近年増加したインバータ、サーボモータ等のスイッチング負荷は、その高調波電流のため、漏洩電流Igcの増大を引き起こし、漏電検出装置の誤動作を招いている。
【0005】
以上のような問題点を解決する手段として、特開2002−125313号公報(特許文献1)及び特開平3−179271号公報(特許文献2)において開示される技術がある。特許文献1に記載される技術にあっては、ここで述べたような問題点を解決するには至ってなく、従前の方法の単なる変更に過ぎない。また、特許文献2の技術は、構成が複雑であって、しかも測定プログラムも大容量であるので、簡便に漏洩電流Igrを測定することが困難となっている。また、その他の方法として、配電線に低周波の低電圧を供給して漏洩電流Igrを測定する方法があり、この方法は、全ての回路に適用可能ではあるが、設備が複雑であり、安価に提供することが困難である。
【特許文献1】特開平3−179271
【特許文献2】特開2002−125313
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、3つの単相電源をデルタ(Δ)結線した3相3線式の配電方式は、電源部を構成する変圧器の低圧側のΔ結線された3つの巻線の各接続端子のうちのある1つの相に接続される端子が直接接地されているので、50Hz又は60Hz(以下商用周波数という。)の商用電源が電源部に供給されたとき、各接続端子に接続されたR,S,Tの3相の配電線には、接地点の0電位に対し、種々の大きさで且つ位相差を異にする電圧が印加される。
【0007】
そして、Δ結線された3つの巻線の各接続端子には、配電線が接続されて、この配電線を介して電気機器などの負荷設備が接続される。このような配電方式を採用した配電系統において、接地されていない相の対地静電容量が同じ値のときつまりバランス状態のときは、各相を流れる電流Igcの合成値つまりベクトル加算値は、各相に流れる電流Igcの値つまり絶対値の加算値とは異なる。従って、ベクトル加算値の絶対値を、3線の配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iの値として検出する方法では、各相別に流れる電流Igcの検出は不可能である。
【0008】
本発明は、3線のうち1線を直接接地した3相3線式の配電方式を採用した配電回路の対地静電容量に起因する接地相以外の各相及び合計の漏洩電流Igcの測定も同時に行い、各相の対地静電容量のアンバランスに起因する誤差を求めより正確な漏洩電流Igrを測定し、さらに、漏洩電流Igrの検出を可能し、さらに、各相及び合計の漏洩電流Igcの値から高調波電流の影響の程度を推定可能とする漏洩電流の測定装置及び測定方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したような技術課題を解決するために提案される本発明は、3相3線式配電系統における変圧器の2次側巻線のR,S,Tの3端子のうちのS端子側が接地された配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igr及び対地静電容量に起因する漏洩電流Igcの少なくとも一方を測定する漏洩電流の測定装置であって、上記2次側巻線の各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのいずれかを測定する電圧検出手段と、3相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出手段と、上記電圧検出手段によって検出された上記いずれかの電圧ESR,EST,ETRが入力され、この入力された電圧を基準電圧Eとし、当該基準電圧Eと上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較手段と、上記基準電圧Eに対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、T相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値と、R相、T相に存在する対地静電容量に起因する漏洩電流Igc、Igc及び漏洩電流IgcとIgcとの合計値を演算する演算手段とを備える。
【0010】
ここで、演算手段は、より具体的には、端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのうちの電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(2B/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(A+B/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(A−B/√3)の値を、上記R,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算する。
【0011】
さらに、上記演算手段は、上記電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B+A√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(2A/√3)の値を、上記R端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−B−A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B−A/√3)の値を、上記T端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B+A/√3)の値を、R端子及びT端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcと漏洩電流Igcの合計の値として演算する。
【0012】
さらに、本発明は、3相3線式配電系統における変圧器の2次側巻線のR,S,Tの3端子のうちのS端子側が接地された配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igr及び対地静電容量に起因する漏洩電流Igcの少なくとも一方を測定する漏洩電流の測定方法であって、上記2次側巻線の各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのいずれかを測定する電圧検出工程と、3相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出工程と、上記電圧検出手段によって検出された上記いずれかの電圧ESR,EST,ETRが入力され、この入力された電圧を基準電圧Eとし、当該基準電圧Eと上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較工程と、上記基準電圧Eに対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、T相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値と、R相、T相に存在する対地静電容量に起因する漏洩電流Igc、Igc及び漏洩電流IgcとIgcとの合計値を演算する演算工程とを備える。
【0013】
ここで、演算工程は、より具体的には、端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのうちの電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(2B/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(A+B/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(A−B/√3)の値を、上記R,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算する。
【0014】
さらに、上記演算工程は、上記電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B+A√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(2A/√3)の値を、上記R端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−B−A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B−A/√3)の値を、上記T端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B+A/√3)の値を、R端子及びT端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcと漏洩電流Igcの合計の値として演算する。
【発明の効果】
【0015】
近年、配電系統は大容量化多様化が進み、その絶縁測定では、対地静電容量のアンバランス状態に起因する測定誤差が存在し、信頼性がきわめて低かった対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrの測定で、これらの誤差値となる従来測定不能とされてきた各相毎の対地静電容量の概略の計測を可能にし、配電設備及び機器の絶縁状態を通電状態のまま連続的により正確に漏洩電流Igrの把握が可能となり、予防保全を通じて停電事故を防止し、保守管理費用を低減し、配電系統、設備全体の信頼性を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した漏洩電流測定装置及びその測定方法の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、3相3線の配電方式の配電系統に本発明に係る漏洩電流測定装置を適用した一例を示す概略系統図である。3相3線の配電方式は、変圧器の低圧側の3相巻線を三角形を構成するように結線した電源から給電される200V級の3相3線式の電路及び電気機器の絶縁状態を知るために用いられる。
【0018】
本発明に係る漏洩電流測定装置は、この3相3線の配電方式を用いた配電系統の電路又は電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igr及び対地静電容量に起因する漏洩電流Igcを測定する。
【0019】
本発明に係る漏洩電流の測定装置が適用される3相3線の配電方式を用いた配電系統は、図1に示すように、配電用の3相変圧器の低圧側の三角(Δ)結線されたΔ形巻線1を備える。このΔ形巻線1は、3相の接続線である配電線4により負荷設備5に接続されている。
【0020】
Δ形巻線1は、三角形を構成するように結線された3つの巻線を有し、これら巻線の接続端である3相端子R,S,Tをそれぞれ3相の配電線4(4,4,4)に接続している。また、Δ形巻線1は、R,S,Tの3相のうちS相の端子Sが接地線8を介して接地点Gに接続されている。
【0021】
そして、Δ形巻線1を構成する3つの巻線の接続点である3相の端子R,S,T間に、図2に示すように、3相の線間電圧ESR,EST,ETRが発生している。3相の各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRは、各配電線4,4,4を介して負荷設備5に印加される。
【0022】
また、3相の配電線4,4,4のうち、接地点Gに接続されていない端子R,Tに接続された配電線4,4及びそれらに接続された負荷設備5には、対地静電容量C,Cが存在する。具体的には、3相のうち端子Rと負荷設備5とを接続する配電線4及び負荷設備5のR相には、対地静電容量Cが生ずる。端子Tと負荷設備5とを接続する配電線4及び負荷設備5のT相には対地静電容量Cが生ずる。これらの対地静電容量C,Cには、常時、対地電流Igc,Igcが流れている。また、端子R,Tと負荷設備5を接続する配電線4及び負荷設備5には、漏洩抵抗r,rが生ずることがある。さらに、漏洩抵抗r,rには、漏洩電流Igr,Igrが流れる。また、接地相であるS相にも対地静電容量は存在するが、対地電圧がほぼ0であるため、対地漏洩電流は省略する。
【0023】
そして、本発明に係る漏洩電流測定装置は、図1に示すように、3線の各配電線4,4,4に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相変流器9と、3相の各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのうちのいずれかを基準電圧Eとして処理演算部16を構成する基本波処理部3に入力する。
【0024】
そして、配電線4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流Igc、配電線路4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流Igc及び配電線4及び負荷設備5に生じた漏洩抵抗rを流れる対地電流Igr、配電線4及び負荷設備5に生じた漏洩抵抗rを流れる対地電流Igrのベクトル和である零相電流Iが接地線8を経由してS相の端子Sに帰還されるとともに零相変流器9を介して基本波処理部3に入力される。
【0025】
ここで、Δ結線された3相3線の配電方式を用いた配電系統に発生する対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igr及び対地静電容量に起因する漏洩電流Igcを測定する測定方法及びその原理を説明する。
【0026】
図1に示すΔ結線された3相3線の配電方式を用いた配電系統図において、接地線8を介して接地点Gに端子Sを接続した接地相であるS相に対する各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRをベクトルによって図2のように示すことができる。
【0027】
ここで、漏洩電流Igr及びIgcの測定の際、計測器に入力される測定の基準になる基準電圧を横軸である実数軸上の基準ベクトルEで表す。
【0028】
まず、端子Tと端子Rとの間に発生する電圧ETRを基準電圧Eとするときには、対地電圧ESR,ESTは、下記の式(1)、式(2)のようにベクトル記号法により示すことができる。
【0029】
SR=0.5E+j0.5√3E ・・・(1)
ST=−0.5E+j0.5√3E ・・・(2)
R相の配電線4及び負荷設備5、T相の配電線4及び負荷設備5にそれぞれ対地静電容量C、Cが存在するとき、それらに流れる対地電流Igc,Igcは、2π×商用周波数(50Hz又は60Hz)を角周波数ωとすると、下記の式(3)、(4)で示すことができる。
【0030】
Igc=−0.5√3ωCE+j0.5ωCE ・・・(3)
Igc=−0.5√3ωCE−j0.5ωCE ・・・(4)
そして、端子Rに接続されたR相の配電線4及び負荷設備5、T相の配電線4及び負荷設備5にぞれぞれに対地漏洩抵抗r,rが存在するとき、対地漏洩抵抗r,r中を流れる漏洩電流Igr,Igrは、下記の式(5)、(6)で示される。
【0031】
Igr=−0.5E/r+j0.5√3E/r ・・・(5)
Igr=−0.5E/r+j0.5√3E/r ・・・(6)
端子Sと接地点Gとの間を接続する接地線8に流れる電流である零相電流Iは、R,S,Tの各相の配電線4,4,4に流れる電流のベクトル和、つまり前記式(3)、(4)、(5)、(6)を加えたものであり、下記の式(7)で表すことができる。
【0032】
={−0.5√3(ωC+ωC)+0.5(1/r−1/r)}E
+j{0.5(ωC−ωC)+0.5(1/r+1/r)}E ・・・(7)
ここで、EωCはR相の対地静電容量Cの中を流れる漏洩電流Igcであり、EωC はT相の対地静電容量Cの中を流れる漏洩電流Igcであり、E/r及びE/rは対地漏洩抵抗r及びr中を流れる漏洩電流Igr及びIgrとなるので、基準電圧Eと同位相の有効成分Aは、下記の式(8)により示すことができる。
【0033】
A=−0.5√3(Igc+Igc)+0.5(Igr−Igr) ・・・(8)
上記基準電圧Eより90度位相が進んだ零相電流Iの無効成分Bは、下記の式(9)により示すことができる。
【0034】
B=0.5(Igc−Igc)+0.5√3(Igr+Igr) ・・・(9)
そして、漏洩電流IgrとIgrとの合計である漏洩電流Igrの測定の際、後述するように、基本処理部3の電圧検出器21に入力される測定の基準になる基準電圧E、零相電流I、基準電圧Eと同位相の零相電流Iの有効成分A、基準電圧Eより90度位相が進んだ零相電流Iの無効成分Bの関係は、図3のベクトル図のように表される。
【0035】
ここで、上記有効成分AはIcosθで表され、無効成分BはIsinθで表される。
【0036】
ところで、零相電流Iの有効成分A、無効成分Bの値を実際に測定して求めるにあっては、処理演算部16の基本波処理部3へ入力される基準電圧Eと零相電流Iの波形から、図5に示すように、基準電圧Eと零相電流Iとの間の位相の遅れを測定し、演算部14で零相電流Iを基準電圧Eと同位相の有効成分Aと基準電圧Eより90度位相が進んだ無効成分Bとに分解して出力する。すなわち、演算部14は、基準電圧Eと零相電流Iとの位相角θに基づいて、上記有効成分Aと無効成分Bとを検出する。
【0037】
次に、
IG=2B/√3 ・・・(10)
IR=B−A√3 ・・・(11)
IT=−B−A√3 ・・・(12)
IC=−2A/√3 ・・・(13)
とおき、上記氏(10)〜(13)を前記式(8)、(9)のA,Bを代入すると次式が得られる。
【0038】
IG=Igr+Igr+(Igc−Igc)/√3 ・・・(14)
IR=Igc+(Igr+2Igr)/√3 ・・・(15)
IT=Igc−(2Igr+Igr)/√3 ・・・(16)
IC=Igc+Igc+(Igr−Igr)/√3 ・・・(17)
前記式(14)から、Igc=Igcのとき、すなわち、R相とT相の対地静電容量が等しいバランス状態では、IGの値はR相及びT相の対地漏洩電流IgrとIgrとの合計値とあるので、IGの値を漏洩電流Igrの値とする。この値は、従来提案されている漏電計測器の指示値と同様に、前記対地漏洩電流IgcとIgcの差であるアンバランス量に比例した誤差を含む。
【0039】
また、通常、漏電故障なく運転している系統では、前記式(15)、(16)のIgr、Igrの値が小さいので、式(15)のIRの値がIgcの概略値を、式(16)のITの値がIgcの概略値を示し、式(17)のICの値がIgr、Igrの影響を軽減したIgcとIgcの合計値を示す。このように、配電系統のアンバランスの程度を示すIgcとIgcの差を知ることができるので、故障発生時の実際の故障電流の概略の値を式(14)のIG指示値から知ることができる。
【0040】
このように、基本的な測定によって得られた上記有効成分Aと無効成分Bの値をデータ処理することにより、測定の精度を向上し、配電系統の信頼性を著しく高めることができる。
【0041】
ここで、入力電圧相と、適用される計算式との関係を整理して図4に示す。
【0042】
次に、図1に示す基本波処理部3の具体的な構成を図6を参照して説明する。この基本波処理部3は、電圧検出器21と、第1の増幅器22と、第1のローパスフィルタ(LPF)23と、第1の実効値変換器28と、零相電流(I)検出器24と、第2の増幅器25と、第2のローパスフィルタ(LPF)26と、第2の実効値変換器29と、位相差計測器27とを備える。
【0043】
図6において、電圧検出器21には、R,S,Tの各相の各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのいずれかが基準電圧Eとして入力される。なお、図1に示す系統図においては、電圧ETRが入力されている。そして、第1の増幅器22は、電圧検出器21の検出感度に応じて、電圧検出器21から出力される基準電圧Eを適切な値になるまで増幅する。第1のローパスフィルタ23は、基準電圧Eとして入力される電圧の基本周波数を超える周波数成分を減衰させて基本周波数波形を取り出す。
【0044】
そして、零相電流検出器24には、R,S,Tの各相の配電線4,4,4に流れる電流のベクトル和である零相電流Iが入力される。第2の増幅器25は、零相電流検出器24の検出感度に応じて、零相電流検出器24から出力される零相電流Iを適切な値になるまで増幅する。第2のローパスフィルタ26は、零相電流Iの基本周波数を超える周波数成分を減衰させて基本周波数波形を取り出す。
【0045】
そして、位相差計測器27は、基準電圧Eとして入力される各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRと零相電流Iとの位相差を計測する。ここで、基準電圧Eとして入力される各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRと零相電流Iの位相差を図5に示す。基本波処理部3において、第1のローパスフィルタ23は出力されたいずれかの相間に発生した基準電圧Eの波形と、第2のローパスフィルタ26から出力された零相電流Iの波形を、例えばオペアンプゼロクロッシング回路に入力すると、それらの出力波形は、図5に示すように、基準電圧Eに対してはEz、零相電流Iに対してはIzとなる。基準電圧E及び零相電流Iの出力波形の波高値を一致させてEzとIzの差を求める。その差の絶対波形は、図5中に示す|Ez−Iz|波形になる。図5に示すように、|Ez−Iz|波形及びIz波形の突出部分の面積をそれぞれS、Sとすれば、S、は基準電圧Eと零相電流Iとの位相差角θに比例し、Sは位相差180度に比例する。このS、Sに比例した電圧は、演算部14に出力される。
【0046】
そして、第1の実効値変換器28は、基準電圧Eの基本周波数波形を両波整流して実効値に比例したアナログ値に変換し、演算部14に入力する。第2の実効値変換器29は、零相電流Iの基本周波数波形を両波整流して実効値に変換したアナログ値に変換して演算部14に入力する。
【0047】
そして、演算部14は、位相差計測器27が計測した基準電圧Eと零相電流Iとの位相差角θを用いて、零相電流Iを基準電圧Eと同位相の有効成分Aと基準電圧Eより90度位相が進んだ無効成分Bとに分解して出力する。
【0048】
なお、位相差計測器27が検出する基準電圧Eと零相電流Iとの位相差角θは、次の式(18)から算出される。
【0049】
θ=180S ÷S ・・・(18)
ここで、演算部14は、Icosθの値を零相電流Iの有効成分Aの値として、Isinθの値を零相電流Iの無効成分Bの値として演算し出力する。これら零相電流Iと、零相電流Iの有効成分A及び無効成分Bの関係は、前述したように、図3のベクトル図に示すように表される。
【0050】
そして、演算部14において、上述したような演算処理が行われ測定されたR相の対地静電容量Cの中を流れる漏洩電流Igc、T相の対地静電容量Cの中を流れる漏洩電流Igcの値を測定してこの値を表示部15に表示し、又は上記Igc、Igcの値に変えてこれらの合計値である漏洩電流Igcの値を表示部15に表示する。さらに、演算部14において、R相及びT相の対地漏洩抵抗r,r中を流れる漏洩電流Igr,Igrの合計値であるIgrの値を測定し、この値を表示部15で表示する。
【0051】
本発明においては、前述の零相電流Iの有効成分Aと無効成分Bを前記式(10)〜(13)に代入する演算処理を行うことにより、R相の対地静電容量Cの中を流れる漏洩電流Igc、T相の対地静電容量Cの中を流れる漏洩電流Igc、又は上記Igc、Igcの合計値であるIgc、さらに、R相及びT相の対地漏洩抵抗r、r中を流れる漏洩電流Igr,Igrの合計値であるIgrの値の測定が実現される。
【0052】
また、本発明に係る漏洩電流測定装置は、配電線4の途中に遮断器を設け、演算部14の演算の結果により、遮断器の遮断を制御する構成としてもよい。
【0053】
つまり、本発明に係る漏洩電流測定装置は、演算部14を用いた制御により、対地静電容量の中を流れる漏洩電流Igc、Igc、又は両者の合計値であるIgc、対地漏洩抵抗中を流れる漏洩電流Igrの測定結果によって配電線及び負荷設備5を遮断器により遮断する。これにより、3相3線配電回路及び負荷設備を絶縁不良に伴う重大事故から守ることができる。
【0054】
さらに、本発明に係る漏洩電流測定装置では、演算部14の演算の結果により、対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrや対地静電容量に起因する漏洩電流Igc、Igc、又は両者の合計値であるIgcの値が所定の値より大きくなったことが判定された場合には、音や発光等の警報手段を用いて警報を発するようにしてもよい。このような警報手段を設けることにより、漏電起因する事故を確実に防止することができる。
【0055】
さらにまた、本発明に係る漏洩電流測定装置は、配電線4の途中に遮断器を設け、演算部14の演算の結果により、遮断器の遮断を制御する構成としてもよい。すなわち、漏洩電流測定装置は、演算部14を用いた制御により、対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrや対地静電容量に起因する漏洩電流Igc、Igcの測定結果で配電線4及び負荷設備5を遮断器により遮断する。これにより、漏洩電流測定装置は、3相3線配電回路及び負荷設備を絶縁不良に伴う重大事故から守ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
電気災害予防の目的から、配電系統や電気機器の絶縁測定が法律により要請されている。従来、絶縁測定は、配電系統への電力の供給を停止した停電の状態で絶縁測定を行っていたが、近年は停電が制限されている。本発明に係る漏洩電流測定装置及び測定方法はこの要求に適合しており、広く配電系統や電気機器における絶縁測定において利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】3相3線の配電方式に本発明の漏洩電流測定装置を適用した構成を示す概略系統図である。
【図2】3相の各相間の電圧相互の関係を表すベクトル図である。
【図3】基準電圧と零相電流Iの有効成分および無効成分の関係を表すベクトル図である。
【図4】入力電圧相と、適用される計算式との関係を示す図である。
【図5】電圧と電流の位相差の関係を示す図である。
【図6】基本処理部の具体的構成を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 配電用3相変圧器の低圧側の巻線、3 基本波処理部、4 配電線、5 負荷設備、8 接地線、9 零相変流器、14 演算部、15 表示部、21 電圧検出器、24 零相電流検出器、22,25 増幅器、23,26 ローパスフィルタ、27 位相差計測器、 28,29 実効値変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相3線式配電系統における変圧器の2次側巻線のR,S,Tの3端子のうちのS端子側が接地された配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流
Igr及び対地静電容量に起因する漏洩電流Igcの少なくとも一方を測定する漏洩電流の測定装置において、
上記2次側巻線の各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのいずれかを測定する電圧検出手段と、
3相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出手段と、
上記電圧検出手段によって検出された上記いずれかの電圧ESR,EST,ETRが入力され、この入力された電圧を基準電圧Eとし、当該基準電圧Eと上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較手段と、
上記基準電圧Eに対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、T相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値と、R相、T相に存在する対地静電容量に起因する漏洩電流Igc、Igc及び漏洩電流IgcとIgcとの合計値を演算する演算手段と
を備えることを特徴とする漏洩電流の測定装置。
【請求項2】
上記演算手段は、上記端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのうちの電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(2B/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(A+B/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(A−B/√3)の値を、上記R,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流の測定装置。
【請求項3】
上記演算手段は、上記電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B+A√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(2A/√3)の値を、上記R端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−B−A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B−A/√3)の値を、上記T端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B+A/√3)の値を、R端子及びT端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcと漏洩電流Igcの合計の値として演算することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流の測定装置。
【請求項4】
当該漏洩電流の測定装置は、さらに、表示手段を備え、当該表示手段には、前記演算手段によって演算された結果が表示されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項5】
当該漏洩電流の測定装置は、さらに、前記演算手段において求められる値のいずれかが所定の値を超えたときに警報を発する警報手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項6】
当該漏洩電流の測定装置は、さらに、前記演算手段において求められる値のいずれかが所定の値を超えたときに電路を遮断する遮断手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項7】
3相3線式配電系統における変圧器の2次側巻線のR,S,Tの3端子のうちのS端子側が接地された配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流
Igr及び対地静電容量に起因する漏洩電流Igcの少なくとも一方を測定する漏洩電流の測定方法において、
上記2次側巻線の各端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのいずれかを入力する工程と
上記入力工程で入力された上記いずれかの電圧ESR,EST,ETRを測定する電圧検工程と、
3相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出工程と、
上記電圧検出工程において検出された上記いずれかの電圧ESR,EST,ETRを基準電圧Eとし、当該基準電圧Eと上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較工程と、
上記基準電圧Eに対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、T相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値と、R相、T相に存在する対地静電容量に起因する漏洩電流Igc、Igc及び漏洩電流IgcとIgcとの合計値を演算する演算工程と
を備えることを特徴とする漏洩電流の測定方法。
【請求項8】
上記演算工程は、上記端子R,S,T間に発生する電圧ESR,EST,ETRのうちの電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(2B/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(A+B/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(A−B/√3)の値を、上記R,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算することを特徴とする請求項6記載の漏洩電流の測定方法。
【請求項9】
上記演算工程は、上記電圧ETRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B+A√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(2A/√3)の値を、上記R端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−B−A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B−A/√3)の値を、上記T端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcとして演算し、上記電圧ETRを基準電圧としたとき、式(−2A/√3)の値を、上記電圧ESRを基準電圧Eとしたとき、式(B−A/√3)の値を、上記電圧ESTを基準電圧としたとき、式(B+A/√3)の値を、R端子及びT端子に接続される電路及び電気機器の対地静電容量に起因する漏洩電流Igcと漏洩電流Igcの合計の値として演算することを特徴とする請求項6記載の漏洩電流の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−60329(P2010−60329A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223947(P2008−223947)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(309040790)パトックス.ジャパン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】