説明

露光装置、露光方法、及び表示用パネル基板の製造方法

【課題】パターンのエッジのぎざぎざを目立たなくし、またモアレの発生を抑制して、描画品質を向上させる。
【解決手段】光ビーム照射装置20の空間的光変調器(DMD25)は、複数のミラーを直交する二方向に配列して構成されている。描画制御部71は、露光領域の同じ位置の描画データを、光ビーム照射装置20の駆動回路(DMD駆動回路27)へ複数回供給し、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置20の駆動回路(DMD駆動回路27)へ供給する。光ビーム照射装置20から照射される光ビームの一部が露光領域の隣接する位置へずれ、描画されるパターンのエッジがぼやけて、エッジのぎざぎざが目立たなくなる。また、パターンの繰り返し模様の規則性が乱れ、モアレの発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ装置等の表示用パネル基板の製造において、フォトレジストが塗布された基板へ光ビームを照射し、光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置、露光方法、及びそれらを用いた表示用パネル基板の製造方法に係り、特に複数のミラーを直交する二方向に配列した空間的光変調器を用いて基板へ照射する光ビームを変調する露光装置、露光方法、及びそれらを用いた表示用パネル基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示用パネルとして用いられる液晶ディスプレイ装置のTFT(Thin Film Transistor)基板やカラーフィルタ基板、プラズマディスプレイパネル用基板、有機EL(Electroluminescence)表示パネル用基板等の製造は、露光装置を用いて、フォトリソグラフィー技術により基板上にパターンを形成して行われる。露光装置としては、従来、レンズ又は鏡を用いてマスクのパターンを基板上に投影するプロジェクション方式と、マスクと基板との間に微小な間隙(プロキシミティギャップ)を設けてマスクのパターンを基板へ転写するプロキシミティ方式とがあった。
【0003】
近年、フォトレジストが塗布された基板へ光ビームを照射し、光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置が開発されている。光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを直接描画するため、高価なマスクが不要となる。また、描画データ及び走査のプログラムを変更することにより、様々な種類の表示用パネル基板に対応することができる。この様な露光装置として、例えば、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−332221号公報
【特許文献2】特開2005−353927号公報
【特許文献3】特開2007−219011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ビームにより基板にパターンを描画する際、光ビームの変調には、DMD(Digital Micromirror Device)等の空間的光変調器が用いられる。DMDは、光ビームを反射する複数の微小なミラーを直交する二方向に配列して構成され、各ミラーの角度を変更することにより、基板へ照射する光ビームを変調する。現在市販されているDMDは、各ミラーの寸法が10〜15μm角程度であり、隣接するミラー間には1μm程度の隙間が設けられている。
【0006】
DMDにより変調された光ビームは、光ビーム照射装置の照射光学系を含むヘッド部から、基板へ照射される。DMDの各ミラーに対応する各光ビーム照射領域は、ミラーの形状と同じ正方形であり、基板に描画されるパターンは、微小な正方形のドットを重ねたものとなる。そのため、ディジタル化によりパターンのエッジ(縁)が階段状に規則的に変化するが、人間の目は規則的な変化に敏感であるため、エッジのぎざぎざが目立ってしまうという問題がある。また、各光ビーム照射領域が重なる際、解像度の影響によりモアレ(干渉縞)が発生するという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、パターンのエッジのぎざぎざを目立たなくし、またモアレの発生を抑制して、描画品質を向上させることである。また、本発明の課題は、高品質な表示用パネル基板を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の露光装置は、フォトレジストが塗布された基板を支持するチャックと、複数のミラーを直交する二方向に配列した空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する照射光学系を含むヘッド部を有する光ビーム照射装置と、チャックと光ビーム照射装置とを相対的に移動する移動手段とを備え、移動手段によりチャックと光ビーム照射装置とを相対的に移動し、光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置であって、露光領域の同じ位置の描画データを、光ビーム照射装置の駆動回路へ複数回供給し、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給する描画制御手段を備えたものである。
【0009】
また、本発明の露光方法は、フォトレジストが塗布された基板をチャックで支持し、チャックと、複数のミラーを直交する二方向に配列した空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する照射光学系を含むヘッド部を有する光ビーム照射装置とを、相対的に移動し、光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光方法であって、露光領域の同じ位置の描画データを、光ビーム照射装置の駆動回路へ複数回供給し、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給するものである。
【0010】
露光領域の同じ位置の描画データを、光ビーム照射装置の駆動回路へ複数回供給して、光ビーム照射装置からの光ビームを、露光領域の同じ位置へ複数回照射する。そして、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給するので、光ビーム照射装置から照射される光ビームの一部が露光領域の隣接する位置へずれ、描画されるパターンのエッジがぼやけて、エッジのぎざぎざが目立たなくなる。また、露光領域の同じ位置に光ビームの照射領域が重なる際、露光領域の隣接する位置へ照射されるはずの光ビームが混じって、パターンの繰り返し模様の規則性が乱れ、モアレの発生が抑制される。
【0011】
さらに、本発明の露光装置は、描画制御手段が、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給する描画データを記憶する第1のメモリと、描画データの座標を補正するための補正値を記憶する第2のメモリと、第2のメモリに記憶された補正値に応じて、第1のメモリから読み出す描画データの座標を補正する手段とを備えたものである。また、本発明の露光方法は、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給する描画データを第1のメモリに記憶し、描画データの座標を補正するための補正値を第2のメモリに記憶し、第2のメモリに記憶した補正値に応じて、第1のメモリから読み出す描画データの座標を補正するものである。第2のメモリに記憶した補正値に応じて、第1のメモリから読み出す描画データの座標を補正することにより、描画データの変更を事前に行う必要なく、リアルタイムで、描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給することができる。
【0012】
本発明の表示用パネル基板の製造方法は、上記のいずれかの露光装置又は露光方法を用いて基板の露光を行うものである。上記の露光装置又は露光方法を用いることにより、パターンのエッジのぎざぎざが目立たなくなり、またモアレの発生が抑制されて、描画品質が向上するので、高品質な表示用パネル基板が製造される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の露光装置及び露光方法によれば、露光領域の同じ位置の描画データを、光ビーム照射装置の駆動回路へ複数回供給し、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給することにより、パターンのエッジのぎざぎざを目立たなくし、またモアレの発生を抑制して、描画品質を向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明の露光装置及び露光方法によれば、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給する描画データを第1のメモリに記憶し、描画データの座標を補正するための補正値を第2のメモリに記憶し、第2のメモリに記憶した補正値に応じて、第1のメモリから読み出す描画データの座標を補正することにより、描画データの変更を事前に行う必要なく、リアルタイムで、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給することができる。
【0015】
本発明の表示用パネル基板の製造方法によれば、パターンのエッジのぎざぎざを目立たなくし、またモアレの発生を抑制して、描画品質を向上させることができるので、高品質な表示用パネル基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態による露光装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態による露光装置の側面図である。
【図3】本発明の一実施の形態による露光装置の正面図である。
【図4】光ビーム照射装置の概略構成を示す図である。
【図5】レーザー測長系の動作を説明する図である。
【図6】描画制御部の概略構成を示す図である。
【図7】補正値の一例を示す表である。
【図8】補正後の描画データの位置を示す図である。
【図9】図9(a)は補正前の描画データにより描画されるパターンを示す図、図9(b)は補正後の描画データにより描画されるパターンを示す図である。
【図10】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図11】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図12】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図13】光ビームによる基板の走査を説明する図である。
【図14】液晶ディスプレイ装置のTFT基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図15】液晶ディスプレイ装置のカラーフィルタ基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態による露光装置の概略構成を示す図である。また、図2は本発明の一実施の形態による露光装置の側面図、図3は本発明の一実施の形態による露光装置の正面図である。露光装置は、ベース3、Xガイド4、Xステージ5、Yガイド6、Yステージ7、θステージ8、チャック10、ゲート11、光ビーム照射装置20、リニアスケール31,33、エンコーダ32,34、レーザー測長系、レーザー測長系制御装置40、ステージ駆動回路60、及び主制御装置70を含んで構成されている。なお、図2及び図3では、レーザー測長系のレーザー光源41、レーザー測長系制御装置40、ステージ駆動回路60、及び主制御装置70が省略されている。露光装置は、これらの他に、基板1をチャック10へ搬入し、また基板1をチャック10から搬出する基板搬送ロボット、装置内の温度管理を行う温度制御ユニット等を備えている。
【0018】
なお、以下に説明する実施の形態におけるXY方向は例示であって、X方向とY方向とを入れ替えてもよい。
【0019】
図1及び図2において、チャック10は、基板1の受け渡しを行う受け渡し位置にある。受け渡し位置において、図示しない基板搬送ロボットにより基板1がチャック10へ搬入され、また図示しない基板搬送ロボットにより基板1がチャック10から搬出される。チャック10は、基板1の裏面を真空吸着して支持する。基板1の表面には、フォトレジストが塗布されている。
【0020】
基板1の露光を行う露光位置の上空に、ベース3をまたいでゲート11が設けられている。ゲート11には、複数の光ビーム照射装置20が搭載されている。なお、本実施の形態は、8つの光ビーム照射装置20を用いた露光装置の例を示しているが、光ビーム照射装置の数はこれに限らず、本発明は1つ又は2つ以上の光ビーム照射装置を用いた露光装置に適用される。
【0021】
図4は、光ビーム照射装置の概略構成を示す図である。光ビーム照射装置20は、光ファイバー22、レンズ23、ミラー24、DMD(Digital Micromirror Device)25、投影レンズ26、及びDMD駆動回路27を含んで構成されている。光ファイバー22は、レーザー光源ユニット21から発生された紫外光の光ビームを、光ビーム照射装置20内へ導入する。光ファイバー22から射出された光ビームは、レンズ23及びミラー24を介して、DMD25へ照射される。DMD25は、光ビームを反射する複数の微小なミラーを直交する二方向に配列して構成された空間的光変調器であり、各ミラーの角度を変更して光ビームを変調する。DMD25により変調された光ビームは、投影レンズ26を含むヘッド部20aから照射される。DMD駆動回路27は、主制御装置70から供給された描画データに基づいて、DMD25の各ミラーの角度を変更する。
【0022】
図2及び図3において、チャック10は、θステージ8に搭載されており、θステージ8の下にはYステージ7及びXステージ5が設けられている。Xステージ5は、ベース3に設けられたXガイド4に搭載され、Xガイド4に沿ってX方向へ移動する。Yステージ7は、Xステージ5に設けられたYガイド6に搭載され、Yガイド6に沿ってY方向へ移動する。θステージ8は、Yステージ7に搭載され、θ方向へ回転する。Xステージ5、Yステージ7、及びθステージ8には、ボールねじ及びモータや、リニアモータ等の図示しない駆動機構が設けられており、各駆動機構は、図1のステージ駆動回路60により駆動される。
【0023】
θステージ8のθ方向への回転により、チャック10に搭載された基板1は、直交する二辺がX方向及びY方向へ向く様に回転される。Xステージ5のX方向への移動により、チャック10は、受け渡し位置と露光位置との間を移動される。露光位置において、Xステージ5のX方向への移動により、各光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射された光ビームが、基板1をX方向へ走査する。また、Yステージ7のY方向への移動により、各光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射された光ビームによる基板1の走査領域が、Y方向へ移動される。図1において、主制御装置70は、ステージ駆動回路60を制御して、θステージ8のθ方向へ回転、Xステージ5のX方向への移動、及びYステージ7のY方向への移動を行う。
【0024】
なお、本実施の形態では、Xステージ5によりチャック10をX方向へ移動することによって、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査を行っているが、光ビーム照射装置20を移動することにより、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査を行ってもよい。また、本実施の形態では、Yステージ7によりチャック10をY方向へ移動することによって、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査領域を変更しているが、光ビーム照射装置20を移動することにより、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査領域を変更してもよい。
【0025】
図1及び図2において、ベース3には、X方向へ伸びるリニアスケール31が設置されている。リニアスケール31には、Xステージ5のX方向への移動量を検出するための目盛が付けられている。また、Xステージ5には、Y方向へ伸びるリニアスケール33が設置されている。リニアスケール33には、Yステージ7のY方向への移動量を検出するための目盛が付けられている。
【0026】
図1及び図3において、Xステージ5の一側面には、リニアスケール31に対向して、エンコーダ32が取り付けられている。エンコーダ32は、リニアスケール31の目盛を検出して、パルス信号を主制御装置70へ出力する。また、図1及び図2において、Yステージ7の一側面には、リニアスケール33に対向して、エンコーダ34が取り付けられている。エンコーダ34は、リニアスケール33の目盛を検出して、パルス信号を主制御装置70へ出力する。主制御装置70は、エンコーダ32のパルス信号をカウントして、Xステージ5のX方向への移動量を検出し、エンコーダ34のパルス信号をカウントして、Yステージ7のY方向への移動量を検出する。
【0027】
図5は、レーザー測長系の動作を説明する図である。なお、図5においては、図1に示したゲート11、及び光ビーム照射装置20が省略されている。レーザー測長系は、公知のレーザー干渉式の測長系であって、レーザー光源41、レーザー干渉計42,44、及びバーミラー43,45を含んで構成されている。バーミラー43は、チャック10のY方向へ伸びる一側面に取り付けられている。また、バーミラー45は、チャック10のX方向へ伸びる一側面に取り付けられている。
【0028】
レーザー干渉計42は、レーザー光源41からのレーザー光をバーミラー43へ照射し、バーミラー43により反射されたレーザー光を受光して、レーザー光源41からのレーザー光とバーミラー43により反射されたレーザー光との干渉を測定する。この測定は、Y方向の2箇所で行う。レーザー測長系制御装置40は、主制御装置70の制御により、レーザー干渉計42の測定結果から、チャック10のX方向の位置及び回転を検出する。
【0029】
一方、レーザー干渉計44は、レーザー光源41からのレーザー光をバーミラー45へ照射し、バーミラー45により反射されたレーザー光を受光して、レーザー光源41からのレーザー光とバーミラー45により反射されたレーザー光との干渉を測定する。レーザー測長系制御装置40は、主制御装置70の制御により、レーザー干渉計44の測定結果から、チャック10のY方向の位置を検出する。
【0030】
図4において、主制御装置70は、光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ描画データを供給する描画制御部を有する。図6は、描画制御部の概略構成を示す図である。描画制御部71は、メモリ72,76、バンド幅設定部73、中心点座標決定部74、座標決定部75、及び補正回路77を含んで構成されている。メモリ72は、各光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給する描画データを、そのXY座標をアドレスとして記憶している。
【0031】
バンド幅設定部73は、メモリ72から読み出す描画データのY座標の範囲を決定することにより、光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射される光ビームのY方向のバンド幅を設定する。
【0032】
レーザー測長系制御装置40は、露光位置における基板1の露光を開始する前のチャック10のXY方向の位置を検出する。中心点座標決定部74は、レーザー測長系制御装置40が検出したチャック10のXY方向の位置から、基板1の露光を開始する前のチャック10の中心点のXY座標を決定する。図1において、光ビーム照射装置20からの光ビームにより基板1の走査を行う際、主制御装置70は、ステージ駆動回路60を制御して、Xステージ5によりチャック10をX方向へ移動させる。基板1の走査領域を移動する際、主制御装置70は、ステージ駆動回路60を制御して、Yステージ7によりチャック10をY方向へ移動させる。図6において、中心点座標決定部74は、エンコーダ32,34からのパルス信号をカウントして、Xステージ5のX方向への移動量及びYステージ7のY方向への移動量を検出し、チャック10の中心点のXY座標を決定する。
【0033】
座標決定部75は、中心点座標決定部74が決定したチャック10の中心点のXY座標に基づき、各光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給する描画データのXY座標を決定する。
【0034】
メモリ76には、メモリ72から読み出す描画データの座標を補正するための補正値が記憶されている。図7は、補正値の一例を示す表である。本例は、光ビーム照射装置20からの光ビームによる基板1の走査をX方向に左から右へ行い、走査領域の移動をY方向に下から上へ行う場合において、描画制御部71が、露光領域の同じ位置の描画データを、DMD駆動回路27へ32回供給し、光ビーム照射装置20からの光ビームが、露光領域の同じ位置へ32回照射される例を示している。
【0035】
図6において、補正回路77は、座標決定部75が決定した各光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給する描画データのX座標及びY座標に、メモリ76に記憶された補正値をそれぞれ加算して、メモリ72から読み出す描画データの座標を補正する。メモリ72は、補正回路77が補正したXY座標をアドレスとして入力し、入力したXY座標のアドレスに記憶された描画データを、各光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ出力する。
【0036】
図8は、補正後の描画データの位置を示す図である。メモリ76に記憶された補正値が図7に示した例の場合、メモリ72から読み出される32回分の描画データの内、16回分の描画データは、補正回路77により座標が補正されず、元の位置の描画データとなる。また、7回分の描画データは、補正回路77により座標が補正されて、元の位置の右側(走査方向側)に隣接する位置の描画データとなる。また、3回分の描画データは、補正回路77により座標が補正されて、元の位置の左上側に隣接する位置の描画データとなる。また、5回分の描画データは、補正回路77により座標が補正されて、元の位置の上側(走査領域移動方向側)に隣接する位置の描画データとなる。また、1回分の描画データは、補正回路77により座標が補正されて、元の位置の右上側に隣接する位置の描画データとなる。
【0037】
このとき、図7に示した補正値の例では、描画データの座標の補正が照射回数の1回飛びに行われ、描画データの位置が1回飛びに元に戻るので、描画データの位置が同じ方向へ連続して移動することがなく、描画されるパターンが全体的に自然にぼかされる。
【0038】
なお、描画データの座標を補正するための補正値は、図7の例に限るものではなく、描画データを露光領域の隣接する各位置へ移動させる回数は、適宜決定することができる。また、メモリ76に記憶する補正値は、露光条件に応じて適宜変更することができる。
【0039】
図9(a)は補正前の描画データにより描画されるパターンを示す図、図9(b)は補正後の描画データにより描画されるパターンを示す図である。図9(a)に示す様に、補正前の描画データにより描画されるパターン2は、ディジタル化によりパターン2のエッジ(縁)が階段状に規則的に変化して、エッジのぎざぎざが目立ったものとなる。また、露光領域の同じ位置に光ビームの照射領域が重なる際、解像度の影響によりモアレが発生する。図9(b)に示す様に、補正後の描画データにより描画されるパターン2’は、光ビーム照射装置20から照射される光ビームの一部が露光領域の隣接する位置へずれ、描画されるパターン2’のエッジがぼやけて、エッジのぎざぎざが目立たなくなる。また、露光領域の同じ位置に光ビームの照射領域が重なる際、露光領域の隣接する位置へ照射されるはずの光ビームが混じって、パターンの繰り返し模様の規則性が乱れ、モアレの発生が抑制される。
【0040】
図10〜図13は、光ビームによる基板の走査を説明する図である。図10〜図13は、8つの光ビーム照射装置20からの8本の光ビームにより、基板1のX方向の走査を4回行って、基板1全体を走査する例を示している。図10〜図13においては、各光ビーム照射装置20のヘッド部20aが破線で示されている。各光ビーム照射装置20のヘッド部20aから照射された光ビームは、Y方向にバンド幅Wを有し、Xステージ5のX方向への移動によって、基板1を矢印で示す方向へ走査する。
【0041】
図10は、1回目の走査を示し、X方向への1回目の走査により、図10に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われる。1回目の走査が終了すると、Yステージ7のY方向への移動により、基板1がY方向へバンド幅Wと同じ距離だけ移動される。図11は、2回目の走査を示し、X方向への2回目の走査により、図11に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われる。2回目の走査が終了すると、Yステージ7のY方向への移動により、基板1がY方向へバンド幅Wと同じ距離だけ移動される。図12は、3回目の走査を示し、X方向への3回目の走査により、図12に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われる。3回目の走査が終了すると、Yステージ7のY方向への移動により、基板1がY方向へバンド幅Wと同じ距離だけ移動される。図13は、4回目の走査を示し、X方向への4回目の走査により、図13に灰色で示す走査領域でパターンの描画が行われ、基板1全体の走査が終了する。
【0042】
複数の光ビーム照射装置20からの複数の光ビームにより基板1の走査を並行して行うことにより、基板1全体の走査に掛かる時間を短くすることができ、タクトタイムを短縮することができる。
【0043】
なお、図10〜図13では、基板1のX方向の走査を4回行って、基板1全体を走査する例を示したが、走査の回数はこれに限らず、基板1のX方向の走査を3回以下又は5回以上行って、基板1全体を走査してもよい。
【0044】
以上説明した実施の形態によれば、露光領域の同じ位置の描画データを、光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ複数回供給し、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給することにより、パターンのエッジのぎざぎざを目立たなくし、またモアレの発生を抑制して、描画品質を向上させることができる。
【0045】
さらに、光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給する描画データを第1のメモリ72に記憶し、描画データの座標を補正するための補正値を第2のメモリ76に記憶し、第2のメモリ76に記憶した補正値に応じて、第1のメモリ72から読み出す描画データの座標を補正することにより、描画データの変更を事前に行う必要なく、リアルタイムで、描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置20のDMD駆動回路27へ供給することができる。
【0046】
本発明の露光装置又は露光方法を用いて基板の露光を行うことにより、パターンのエッジのぎざぎざを目立たなくし、またモアレの発生を抑制して、描画品質を向上させることができるので、高品質な表示用パネル基板を製造することができる。
【0047】
例えば、図14は、液晶ディスプレイ装置のTFT基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。薄膜形成工程(ステップ101)では、スパッタ法やプラズマ化学気相成長(CVD)法等により、基板上に液晶駆動用の透明電極となる導電体膜や絶縁体膜等の薄膜を形成する。レジスト塗布工程(ステップ102)では、ロール塗布法等によりフォトレジストを塗布して、薄膜形成工程(ステップ101)で形成した薄膜上にフォトレジスト膜を形成する。露光工程(ステップ103)では、露光装置を用いて、フォトレジスト膜にパターンを形成する。現像工程(ステップ104)では、シャワー現像法等により現像液をフォトレジスト膜上に供給して、フォトレジスト膜の不要部分を除去する。エッチング工程(ステップ105)では、ウエットエッチングにより、薄膜形成工程(ステップ101)で形成した薄膜の内、フォトレジスト膜でマスクされていない部分を除去する。剥離工程(ステップ106)では、エッチング工程(ステップ105)でのマスクの役目を終えたフォトレジスト膜を、剥離液によって剥離する。これらの各工程の前又は後には、必要に応じて、基板の洗浄/乾燥工程が実施される。これらの工程を数回繰り返して、基板上にTFTアレイが形成される。
【0048】
また、図15は、液晶ディスプレイ装置のカラーフィルタ基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。ブラックマトリクス形成工程(ステップ201)では、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、剥離等の処理により、基板上にブラックマトリクスを形成する。着色パターン形成工程(ステップ202)では、染色法や顔料分散法等により、基板上に着色パターンを形成する。この工程を、R、G、Bの着色パターンについて繰り返す。保護膜形成工程(ステップ203)では、着色パターンの上に保護膜を形成し、透明電極膜形成工程(ステップ204)では、保護膜の上に透明電極膜を形成する。これらの各工程の前、途中又は後には、必要に応じて、基板の洗浄/乾燥工程が実施される。
【0049】
図14に示したTFT基板の製造工程では、露光工程(ステップ103)において、図15に示したカラーフィルタ基板の製造工程では、ブラックマトリクス形成工程(ステップ201)及び着色パターン形成工程(ステップ202)の露光処理において、本発明の露光装置又は露光方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 基板
2,2’ パターン
3 ベース
4 Xガイド
5 Xステージ
6 Yガイド
7 Yステージ
8 θステージ
10 チャック
11 ゲート
20 光ビーム照射装置
20a ヘッド部
21 レーザー光源ユニット
22 光ファイバー
23 レンズ
24 ミラー
25 DMD(Digital Micromirror Device)
26 投影レンズ
27 DMD駆動回路
31,33 リニアスケール
32,34 エンコーダ
40 レーザー測長系制御装置
41 レーザー光源
42,44 レーザー干渉計
43,45 バーミラー
60 ステージ駆動回路
70 主制御装置
71 描画制御部
72,76 メモリ
73 バンド幅設定部
74 中心点座標決定部
75 座標決定部
77 補正回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトレジストが塗布された基板を支持するチャックと、
複数のミラーを直交する二方向に配列した空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する照射光学系を含むヘッド部を有する光ビーム照射装置と、
前記チャックと前記光ビーム照射装置とを相対的に移動する移動手段とを備え、
前記移動手段により前記チャックと前記光ビーム照射装置とを相対的に移動し、前記光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光装置であって、
露光領域の同じ位置の描画データを、前記光ビーム照射装置の駆動回路へ複数回供給し、複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、前記光ビーム照射装置の駆動回路へ供給する描画制御手段を備えたことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記描画制御手段は、
前記光ビーム照射装置の駆動回路へ供給する描画データを記憶する第1のメモリと、
描画データの座標を補正するための補正値を記憶する第2のメモリと、
前記第2のメモリに記憶された補正値に応じて、前記第1のメモリから読み出す描画データの座標を補正する手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
フォトレジストが塗布された基板をチャックで支持し、
チャックと、複数のミラーを直交する二方向に配列した空間的光変調器、描画データに基づいて空間的光変調器を駆動する駆動回路、及び空間的光変調器により変調された光ビームを照射する照射光学系を含むヘッド部を有する光ビーム照射装置とを、相対的に移動し、
光ビーム照射装置からの光ビームにより基板を走査して、基板にパターンを描画する露光方法であって、
露光領域の同じ位置の描画データを、光ビーム照射装置の駆動回路へ複数回供給し、
複数回供給する描画データの一部を、露光領域の隣接する位置の描画データとして、光ビーム照射装置の駆動回路へ供給することを特徴とする露光方法。
【請求項4】
光ビーム照射装置の駆動回路へ供給する描画データを第1のメモリに記憶し、
描画データの座標を補正するための補正値を第2のメモリに記憶し、
第2のメモリに記憶した補正値に応じて、第1のメモリから読み出す描画データの座標を補正することを特徴とする請求項3に記載の露光方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の露光装置を用いて基板の露光を行うことを特徴とする表示用パネル基板の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載の露光方法を用いて基板の露光を行うことを特徴とする表示用パネル基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−180297(P2011−180297A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43296(P2010−43296)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】