説明

露点計

【課題】構成の簡素化、サイズの小型化、及び測定精度の向上を図った露点計を提供する。
【解決手段】本発明の露点計は、少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を有した圧電性基材1と、円環状表面を伝搬路2として基材1の周囲を周回する弾性表面波を発生させるとともに、周回する弾性表面波を検出し、検出した弾性表面波の強度に応じた電気信号を出力するすだれ状電極4と、伝搬路2の表面温度を測定する温度計13と、すだれ状電極4からの電気信号に基づいて、ある周回時における弾性表面波の強度が、1周前の周回時に比べて所定割合以上減衰している場合には、伝搬路2の周囲環境に含まれる被測定気体12の分子が伝搬路2に結露したものと判定し、結露と判定した時点に温度計13によって測定された伝搬路2の表面温度を、被測定気体12の露点として出力する制御解析及び表示部11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水やアルコール等の気体の露点を検出する露点計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、気体中に含まれる水蒸気等の溶存ガスが液化する温度を、その気体の露点と呼ぶ。露点は気体中に含まれる溶存ガスの量によって変化する。主成分の気体に比較して溶存ガスの露点が低い場合、温度を下げると、気体として存在していた溶存ガスが固体表面で液化する。露点は、気体中に含まれる溶存ガスの量を示す指標としても用いられている。
【0003】
このような露点を計測するための露点計の従来技術としては、様々なものがある。そのうちの一つとして、例えば、レーザ光を用いた光学式の露点計がある。これは、レーザ光源から発せられたレーザを、鏡によって反射させた後に受光して、レーザの強度を測定する構成になっている。このような構成の露点計では、露点に達すると鏡の表面に溶存ガスが結露し、レーザ光を散乱するために、受光されるレーザの強度が低下する。この時点における温度を露点と判定することができる。
【0004】
また、例えば、非特許文献1に示すように、弾性表面波を利用した露点計も利用されている。弾性表面波とは、固体表面上を表面付近にエネルギーを集中した形で伝搬する音波のことをいう。このような弾性表面波は、そのエネルギーが露によって散乱吸収される。したがって、弾性表面波を利用した露点計50では、図8にその構成例を示すように、例えば、一方が高周波電源52に接続され、他方が接地された一対の電極を対向させてなるすだれ状電極54から発生させた弾性表面波Wを、直線状の伝搬路56に沿って伝搬させ、例えば、一方が高周波電源58に接続され、他方が接地された一対の電極を対向させてなるすだれ状電極60において弾性表面波Wの強度を測定する構成になっている。そして、露点に達し伝搬路56に溶存ガスが結露すると、伝搬路56に沿って伝搬する弾性表面波Wのエネルギーが、この露によって吸収され、すだれ状電極60によって測定され信号出力強度が低下するために、この時点における温度を露点と判定することができる。
【0005】
このような弾性表面波を利用した露点計50では、光学式の露点計が検出可能な量よりも1/10以下の結露であっても検出することができる。したがって、光学式の露点計よりも、結露の検出に対する応答時間が短く、かつより優れた測定精度(±0.1℃)を実現することができる。
【非特許文献1】ヴァイサラ株式会社 SAW露点計 DM500 カタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザ光などを鏡面部分に反射させてその強度を測定することで結露を検出する方法は、小型化が難しくたとえば光の行路や鏡面の大きさを小さくすることに難がある。また、鏡面の高精度の温度計測が高精度化に重要だが、鏡面の温度を正確に計測する際に温度計の熱容量に起因する誤差によって難しさが伴う。
【0007】
次に、従来の弾性表面波を利用した露点計では、以下のような問題がある。
【0008】
すなわち、弾性表面波を利用した露点計50は、すだれ状電極54のような弾性表面波Wを発生させる部位と、すだれ状電極60のような弾性表面波Wを検出する部位との両方を備えねばならない。また、基材端部で、弾性表面波が反射されて雑音として検出されないように吸収体を設ける必要もある。このため、大型になるという問題がある。
【0009】
また、±0.1℃程度の測定精度を実現するためには、ある程度の伝搬路56の長さが必要となる。このように、必要な伝搬路56の直線距離を確保する必要性から、伝搬に要する時間が温度依存性を持つことを利用して温度測定を行う場合にも、露点計50のサイズを小型化することに限界があるという問題がある。
【0010】
更には、露点計測においては、±0.1℃程度よりも厳しい測定精度を要求されている場合もあり、そのような場合には、使用することができないという問題がある。
【0011】
また、大型化は、昇温と降温により大きなエネルギーを必要とする難点を持つという問題がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、構成の簡素化と、サイズの小型化と、測定精度の向上とを図ることが可能な露点計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0014】
すなわち、本発明の露点計は、少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を有した基材と、円環状表面を伝搬路として基材の周囲を周回する弾性表面波を発生させるとともに、周回する弾性表面波を検出し、検出した弾性表面波の伝搬状態に応じた電気信号を出力する発生検出手段と、伝搬路の表面温度を測定する表面温度測定手段と、伝搬路の表面温度を変化させる表面温度制御手段とを備えている。
【0015】
発生検出手段としては、例えば、伝搬路に沿って設けられ、電源が供給されると、圧電性を有する円環状表面に電圧を印加して弾性表面波を励起することによって弾性表面波を発生させるとともに、周回する弾性表面波に伴う電界を検出することによって弾性表面波を検出し、検出した電界の強度に応じた電気信号を出力するすだれ状電極を用いる。
【0016】
表面温度測定手段は、例えば、発生検出手段によって出力される電気信号から求められる弾性表面波の周回時間の変化に基づいて表面温度を測定する。
【0017】
表面温度制御手段は、例えば、弾性表面波が伝搬路に沿って周回する際に、伝搬路に吸収される弾性表面波のエネルギーによって、伝搬路の表面を加熱することによって伝搬路の表面温度を変化させる。
【0018】
本発明の露点計は更に、発生検出手段からの電気信号に基づいて、ある周回時における弾性表面波の強度が、前記表面温度の低下に従って低下する場合には、伝搬路の周囲環境に含まれるガス分子が伝搬路に結露したものと判定する判定手段と、判定手段によって結露と判定された時点に表面温度測定手段によって測定された伝搬路の表面温度を、ガス分子の露点として出力する出力手段とを備えている。ここで、弾性表面波の強度が、表面温度の低下に従って低下する場合とは、発生検出手段によって出力される電気信号の値が、1周回あたり例えば更に20%以上小さくなる場合である。通常も1周回する度に一定の割合で減衰するが、結露しない状態から結露すると強度が大きく減衰する。温度を変化させた場合に、信号が含む異なる周波数成分間の干渉によって強度変化をきたす事があるが、20%以上の減衰を新たに発生することは通常起きていない。
【0019】
また、判定手段は、発生検出手段からの電気信号に基づいて、ある周回時における弾性表面波の周回速度が、急激に変化するなど不連続に低下する場合に、伝搬路の周囲環境に含まれるガス分子が伝搬路に結露したものと判定するようにしても良い。
【0020】
従って、本発明の露点計においては、少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を伝搬路として有した圧電性材料からなる基材を用い、この伝搬路を周回する弾性表面波の発生と検出とを一つの手段によって実現することができる。これによって、構成を簡素化することができる。
【0021】
また、本発明の露点計は、伝搬路を円環状表面に沿って設けていることから、同じ距離の伝搬路を直線的に設けた露点計よりも、サイズを小型化することができる。
【0022】
更には、弾性表面波が、伝搬路に沿って基材の周囲を周回することから、結露が生じた場合には、それに伴って生じる弾性表面波のエネルギー減衰を確実に検知することができ、もって、従来の弾性表面波を利用した露点計よりも、測定精度を10倍以上向上させることができる。
【0023】
以上の結果、本発明の露点計は、構成の簡素化と、サイズの小型化と、測定精度の向上とを図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、構成の簡素化と、サイズの小型化と、測定精度の向上とを図ることが可能な露点計を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る露点計の構成例を示す概念図である。
【0027】
すなわち、本実施の形態に係る露点計は、少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を有した圧電性材料である水晶球からなる基材1を備えている。この基材1は、水晶の結晶軸のZ方向を地軸として配置することにより、赤道方向が弾性表面波の伝搬路2となるようにしている。水晶球の直径は例えば1mmである。
【0028】
そして、この伝搬路2に沿って、すだれ状電極4を配置している。すだれ状電極4は、図2に示すような一対の櫛形形状をした電極4a,4b同士を対向させてなる構成をしており、一方の電極4aが高周波バースト信号発生部7に接続され、他方の電極4bが接地されている。電極4a及び電極4bは、クロムと金の例えば3000×10−8cmの厚さの蒸着の後に、フォトリソグラフィー手法に従ってレジストをパターニングした後にエッチングを施すことによって行った。電極4a及び電極4bを形成している電極片4a1,4a2,4a3及び電極片4b1,4b2,4b3のうち、隣接する電極片のピッチPは一定であり、例えば21μmである。また、電極4aの電極片と、電極4bの電極片との重なり幅Hは一定であり、例えば1.2mmである。すだれ状電極4には、電極4aに高周波バースト信号発生部7から、高周波バースト信号が供給されると、基材1の円環状表面に電圧を印加して弾性表面波を励起することによって弾性表面波を発生させる。高周波バースト信号発生部7から、例えば周波数150MHz、持続時間0.5μ秒の高周波バースト信号が供給されると、30μm程度の波長の弾性表面波が発生する。このように発生した弾性表面波は、伝搬路2に沿って、基材1の周囲を周回する。すだれ状電極4は、このように周回した弾性表面波に伴う電界を検出する検出手段も兼ねている。そして、この電界を検出すると、検出した電界の強度に応じた電気信号をデジタルオシロスコープ10に出力する。
【0029】
また、本明細書において弾性表面波とは、境界波、回廊波、内郭を周回する表面波、弾性表面波、漏洩弾性表面波、擬似弾性表面波、擬似漏洩弾性表面波等、球形表面にエネルギーを集中させて伝搬する全ての弾性波を称している。
【0030】
また、本発明の第1の実施の形態に係る露点計は、基材1の下部形状にあわせて凹面を形成し、銀ペーストによって基材1の下部に接着された熱伝導板3を備えている。更に、熱伝導板3の下部には、伝搬路2の温度を制御するためのペルチェ素子5を備えている。ペルチェ素子5は、温度制御部9から印加される電流の方向及びその値に応じて温度が増減する周知の素子であるので、ここでは詳細な説明を省略する。熱伝導板3は、表面をクロムめっきした銅材によって構成され、ペルチェ素子5の熱を効率良く基材1に伝達する。このような構成とすることによって、伝搬路2の温度を制御できるようにしている。なお、伝搬路2を昇温する場合、このようなペルチェ素子5を用いて行うのみならず、弾性表面波が伝搬路2に沿って周回する際に、伝搬路2に吸収される弾性表面波のエネルギーによって、伝搬路2の表面を加熱することによって行っても良い。基材1は、例えば直径1mmの小さな球とすることができるので、昇温、降温何れの場合であっても、小さな電力によって実現可能である。
【0031】
デジタルオシロスコープ10は、すだれ状電極4から出力された電気信号を表示するとともに、表示結果を制御解析及び表示部11に出力する。弾性表面波は、伝搬路2に沿って帯状に多重周回し、周回する毎にすだれ状電極4によって検出され、電気信号が出力される。例えば基材1が直径1mmの水晶球である場合、弾性表面波が伝搬路2を1周するのに要する時間は約1μ秒である。したがって、例えば図3及び図4に示すように、デジタルオシロスコープ10からは、1μ秒毎に発生する電気信号が表示される。
【0032】
図1中において基材1の左側から右側方向に被測定気体12を供給した場合、図3は、伝搬路2の温度が、被測定気体12の露点よりも高く、伝搬路2の表面に結露しない場合に得られる電圧の発生パターンを、図4は、伝搬路2の温度が、被測定気体12の露点以下であり、伝搬路2の表面に結露している場合に得られる電圧の発生パターンを示している。
【0033】
図3では、弾性表面波が基材1の周囲を1周回する毎に電圧強度が約10%毎に減衰している。この減衰は、主に基材1へ弾性表面波のエネルギーが漏出する効果や、弾性表面波のエネルギーが伝搬路2において熱に変換される効果や、すだれ状電極4において僅かに反射されることによって、見かけの振幅が小さくなる効果等によるものである。これらの効果によって、弾性表面波によって検出される電圧は、1周回毎に、更に1回前の周回時よりも約10%ずつ減衰する。
【0034】
一方、図4でも、弾性表面波が基材1の周囲を1周回する毎に電圧強度が減衰しているが、減衰の割合が図3に示す場合よりも大きく、弾性表面波によって検出される電圧は、更に1周回毎に、1回前の周回時よりも20%以上減衰する。このため、図4に示す例では、5周目以降は電圧が検出されなくなっている。このように周回毎に電圧強度が大きく減衰するのは、伝搬路2の表面に被測定気体12が結露し、被測定気体12の液滴によって、弾性表面波が散乱あるいは吸収されるためである。
【0035】
温度計13は、伝搬路2の表面温度を測定し、測定結果を制御解析及び表示部11に出力する。
【0036】
したがって、被測定気体12の露点を計測する場合、はじめは図3に示すような周回毎に約10%程度ずつ減衰する電圧強度パターンが得られていた状態、つまり露点より高い温度から、温度制御部9によってペルチェ素子5を冷却することによって伝搬路2の表面温度を徐々に下げて行き、図4に示すように周回毎に電圧強度が50%以上減衰するようになった時点、つまり結露が始まった時点において温度計13が示す値を露点とすればよい。前述したように、高周波バースト信号発生部7から、周波数150MHz、持続時間0.5μ秒の高周波バースト信号を供給した場合、弾性表面波の波長は30μm程度となる。したがって、非常に小さな液滴が存在する場合であっても、電圧強度は敏感に反応する。この結果、露点の計測精度としては、±0.01℃程度を実現する。
【0037】
図5は、同じ周回時(例えば50周目)において得られた電圧強度を、温度制御部9による設定温度毎に示す図の一例である。温度制御部9によってペルチェ素子5を冷却することによって伝搬路2の表面温度を、露点以上である33℃から徐々に降下して行くと、すだれ状電極4からの電圧強度は徐々に低下して行く。そして、伝搬路2の表面温度を更に冷却して行くと、やがて露点に達し、伝搬路2が結露するので、すだれ状電極4からの電圧強度が急激に低下することを示している。
【0038】
制御解析及び表示部11は、デジタルオシロスコープ10からの表示結果に基づいて、ある周回時における電圧強度が、1周前の周回時に比べて20%以上減衰している場合には、被測定気体12の露点に達したものと判定し、その時点における温度計13による測定結果を被測定気体12の露点として表示する。なお、液滴の発生による強度低下から露点と判定する条件は、実際に使用する基材1の周囲の構造によって一定とは限らず、任意の条件に設定しても動作することは明らかである。
【0039】
ただし、被測定気体12の流速が変わると、温度制御部9によって設定した温度と、伝搬路2上の実際の温度とが乖離することによって正確な露点計測が困難になる場合もある。また、この乖離の挙動は、被測定気体12の種類にも依存する。そこで、温度計13として、例えば図6に示すように、伝搬路2上に、弾性表面波の周回を阻害しないように白金抵抗体等の、温度によって抵抗値が変化する測温抵抗パターン15を配置しても良い。そして、測温抵抗パターン15の抵抗値を測定し、測定した抵抗値を温度に変換することによって伝搬路2の温度を測定するようにしても良い。
【0040】
次に、以上のように構成した本実施の形態に係る露点計の作用について説明する。
【0041】
すなわち、本実施の形態に係る露点計では、少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を有した水晶球からなる基材1が用いられている。そして、この基材1は、水晶の結晶軸のZ方向を地軸として配置することにより、赤道方向が弾性表面波の伝搬路2となっている。水晶球の直径は例えば1mmである。
【0042】
基材1には、伝搬路2に沿ってすだれ状電極4が設けられており、このすだれ状電極4に高周波バースト信号発生部7から高周波バースト信号が供給されると、基材1の表面に電圧が印加され、弾性表面波が発生する。高周波バースト信号発生部7から、例えば周波数150MHz、持続時間0.1μ秒の高周波バースト信号が供給されると、30μm程度の波長の弾性表面波が発生する。
【0043】
このように発生した弾性表面波は、伝搬路2に沿って、基材1の周囲を周回する。そして、弾性表面波に伴う電界は、周回する毎にすだれ状電極4によって検出され、検出した電界の強度に応じた電気信号がデジタルオシロスコープ10に出力される。例えば基材1が直径1mmの水晶球である場合、弾性表面波が伝搬路2を1周するのに要する時間は約1μ秒である。したがって、例えば図3に示すように、デジタルオシロスコープ10からは、1μ秒毎に発生する電圧の発生パターンが表示される。
【0044】
図3は、図1中において基材1の左側から右側方向に被測定気体12を供給した場合、伝搬路2の温度が、被測定気体12の露点よりも高く、伝搬路2の表面に結露していない状態においてデジタルオシロスコープ10から表示された電圧の発生パターンを示している。伝搬路2の温度が、被測定気体12の露点よりも高く、伝搬路2の表面に結露していない場合には、弾性表面波が基材1の周囲を1周回する毎に電圧強度が約10%毎に減衰している。この減衰は、主に基材1へ弾性表面波のエネルギーが漏出する効果や、弾性表面波のエネルギーが伝搬路2において熱に変換される効果や、すだれ状電極4において僅かに反射されることによって、見かけの振幅が小さくなる効果等による。
【0045】
被測定気体12の露点を計測する場合には、このように露点よりも高い温度にある状態から、温度制御部9によってペルチェ素子5を冷却することによって伝搬路2の表面温度を徐々に降下させる。これによって露点に達し、被測定気体12が伝搬路2に結露すると、被測定気体12の液滴によって、弾性表面波が散乱あるいは吸収される。
【0046】
したがって、図3に示すような電圧強度パターンから、図4に示すような電圧強度パターンに変化した時点が、露点に達した状態であると判定することができる。
【0047】
制御解析及び表示部11では、デジタルオシロスコープ10からの図4のような結果に基づいて、ある周回時における電圧強度が、1周前の周回時に比べて50%以上減衰するようになった場合には、被測定気体12の露点に達したものと判定され、その時点における温度計13による測定結果が被測定気体12の露点として表示される。
【0048】
前述したように、高周波バースト信号発生部7から、周波数150MHz、持続時間0.1μ秒の高周波バースト信号を供給した場合、弾性表面波の波長は30μm程度となる。したがって、伝搬路2に非常に小さな液滴が存在する場合であっても、弾性表面波は、敏感に散乱あるいは吸収される。このため、本実施の形態に係る露点計では、±0.01℃程度という極めて精度の高い露点計測が実現される。
【0049】
上述したように、本実施の形態に係る露点計においては、上記のような作用により、少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を伝搬路2として有した水晶からなる基材1を用い、すだれ状電極4によって、伝搬路2を周回する弾性表面波の発生と検出との両方を行うことができる。これによって、構成を簡素化することが可能となる。
【0050】
また、本実施の形態に係る露点計は、伝搬路2を円環状表面に沿って設けていることから、同じ距離の伝搬路を直線的に設けた従来技術による露点計よりも、サイズを小型化することが可能となる。
【0051】
更には、弾性表面波が、伝搬路2に沿って基材1の周囲を周回することから、結露が生じた場合には、それに伴って生じる弾性表面波のエネルギー減衰を確実に検知することができ、もって、従来の弾性表面波を利用した露点計よりも、測定精度を10倍以上向上させることが可能となる。
【0052】
また、上記は、時間的に限られたバースト信号を球状弾性表面波素子に印加して、弾性表面波を励起し、周回ごとの強度変化の直接測定を行ったが、一般に良く知られる弾性波素子を使用した共振回路(たとえばQCM、あるいは平面型のSAW共振回路)を使用してデバイスの周波数特性の変化を追う方法で、素子表面を伝搬する弾性表面波の伝搬速度の変化を正確に測定することが出来る。
【0053】
共振回路の構成についてはATカットを用いたQCMによる表面分析方法として一般によく知られているのでここで詳しい説明を行わないが、共振周波数を用いて温度を計測できることは明らかである。一方、素子表面に結露による強度低下を検出するためには、一定の共振の強度を維持する為に投入し続けなくてはならないエネルギーをモニターすることでなすことが出来る。バースト信号を用いた方法に比較して減衰量を検出する感度は低くなるが、温度計測は比較的簡単で、回路自体が安価に出来る利点を有しており、本発明はこのような共振回路を形成してそのエネルギー吸収を計測して結露を判断する方法を除外するものではない。
【0054】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る露点計は、第1の実施の形態に係る露点計の変形例である。したがって、ここでは、異なる点について説明する。
【0055】
第1の実施の形態に係る露点計は、制御解析及び表示部11が、図4に示すように周回毎に電圧強度が20%以上減衰するようになった時点において温度計13が示す値を露点としていた。しかしながら、図5に示すように、伝搬路2を33℃から徐々に冷却して行き、一旦露点になってしまうと、電圧強度が急激に低下してしまう。したがって、温度計13による温度計測値のみからでは、どの温度が露点であるのかを精度良く判定することが容易ではない場合がある。
【0056】
そこで、本実施の形態に係る露点計は、制御解析及び表示部11が、露点になった時点における温度を、温度計13による温度計測値に加えて、弾性表面波の伝搬速度を用いて換算することにより、より精度良く求めるようにしている。
【0057】
図7に示す図は、横軸に伝搬路2の温度を、左縦軸にデジタルオシロスコープ10に表示される電圧強度を、右縦軸に弾性表面波の伝搬速度変化をそれぞれ示している。図5と同様、図7においても、線Aに示すように、電圧強度は、伝搬路2を33℃から徐々に冷却して行き、一旦露点になってしまうと、電圧強度が急激に低下することを示している。
【0058】
また、図7の右縦軸に示す弾性表面波の伝搬速度変化は、伝搬路2の温度が33℃における伝搬速度を基準として、そこからの変化割合を示している。水晶球である基材1の場合、弾性表面波の伝搬速度は、温度が低下すると25ppm/℃の割合で遅くなる。温度に対する伝搬速度変化は、例えば、伝搬路2に沿って周回する弾性表面波が、50周目に到着するまでに要する時間(例えば約50μ秒)を、異なる温度において比較することによって求めることができる。図中の直線Bの傾きは、25ppm/℃に一致している。一方、実際に測定された伝搬速度変化を示す線Cは、伝搬路2を33℃から冷却して行き、伝搬速度変化が−45ppmになるまではほぼ直線Bに一致しているものの、E点以降は、伝搬速度変化の傾きが急激に大きくなっている。
【0059】
伝搬路2に液滴が付着すると、質量負荷効果によって、弾性表面波の伝搬速度が低下することが知られている。つまり、このように伝搬速度変化の割合が、直線Bの傾きから乖離して急激に大きくなったのは、露点に達し、伝搬路2が結露したからである。したがって、本実施の形態に係る露点計は、制御解析及び表示部11が、図7中に示すE点が露点であると判定する。更に、下記の式に従って、点Eにおける伝搬路2の温度を計算し、計算結果である31.2℃を、この場合における被測定気体12の露点として表示する。
【0060】
伝搬路2の温度=33(℃)−45(ppm)/25(ppm/℃)=31.2℃
以上のように構成した本実施の形態に係る露点計によれば、露点になった時点における温度を、温度計13による温度計測値に加えて、弾性表面波の伝搬速度を用いて換算することができる。これにより、露点をより精度良く求めることが可能となる。
【0061】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1の実施の形態に係る露点計の構成例を示す概念図。
【図2】すだれ状電極の詳細構成例を示す平面図。
【図3】デジタルオシロスコープから表示される電圧強度の時間変化例を示す図(露点よりも高い温度の場合)。
【図4】デジタルオシロスコープから表示される電圧強度の時間変化例を示す図(露点の場合)。
【図5】同じ周回時において得られた電圧強度の温度依存性の一例を示す図。
【図6】伝搬路上に配置された測温抵抗パターンの一例を示す概念図。
【図7】伝搬路2の温度に対する電圧強度、及び弾性表面波の伝搬速度変化をそれぞれ示す図。
【図8】従来技術による弾性表面波を利用した露点計の構成例を示す概念図。
【符号の説明】
【0063】
1…基材、2…伝搬路、3…熱伝導板、4…すだれ状電極、4a,4b…電極、5…ペルチェ素子、7…高周波バースト信号発生部、9…温度制御部、10…デジタルオシロスコープ、11…制御解析及び表示部、12…被測定気体、13…温度計、15…測温抵抗パターン、52…高周波電源、54…すだれ状電極、56…伝搬路、58…高周波電源、60…すだれ状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を有した圧電性材料からなる基材と、
前記円環状表面を伝搬路として前記基材の周囲を周回する弾性表面波を発生させるとともに、前記周回する弾性表面波を検出し、検出した弾性表面波の強度に応じた電気信号を出力する発生検出手段と、
前記伝搬路の表面温度を測定する表面温度測定手段と、
前記伝搬路の表面温度を変化させる表面温度制御手段と、
前記発生検出手段からの電気信号に基づいて、ある周回時における前記弾性表面波の強度が、前記表面温度の低下に従って低下する場合には、前記伝搬路の周囲環境に含まれるガス分子が前記伝搬路に結露したものと判定する判定手段と、
前記判定手段によって結露と判定された時点に前記表面温度測定手段によって測定された前記伝搬路の表面温度を、前記ガス分子の露点として出力する出力手段と
を備えた露点計。
【請求項2】
前記弾性表面波の強度が、前記表面温度の低下に従って低下する場合とは、前記発生検出手段によって出力される電気信号の値が、更に1周回あたり20%以上小さくなる場合である請求項1に記載の露点計。
【請求項3】
少なくとも球面の一部で形成されており円環状に連続している円環状表面を有した圧電性材料からなる基材と、
前記円環状表面を伝搬路として前記基材の周囲を周回する弾性表面波を発生させるとともに、前記周回する弾性表面波を検出し、検出した弾性表面波の強度に応じた電気信号を出力する発生検出手段と、
前記伝搬路の表面温度を測定する表面温度測定手段と、
前記発生検出手段からの電気信号に基づいて、ある周回時における前記弾性表面波の周回速度が、不連続に低下する場合には、前記伝搬路の周囲環境に含まれるガス分子が前記伝搬路に結露したものと判定する判定手段と、
前記判定手段によって結露と判定された時点に前記表面温度測定手段によって測定された前記伝搬路の表面温度を、前記ガス分子の露点として出力する出力手段と
を備えた露点計。
【請求項4】
前記表面温度測定手段は、前記発生検出手段によって出力される電気信号から求められる弾性表面波の周回時間の変化に基づいて前記表面温度を測定する請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の露点計。
【請求項5】
前記表面温度制御手段は、前記弾性表面波が前記伝搬路に沿って周回する際に、前記伝搬路に吸収される前記弾性表面波のエネルギーによって、前記伝搬路の表面を加熱することによって前記伝搬路の表面温度を変化させる請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の露点計。
【請求項6】
前記伝搬路に沿って設けられ、電気信号が印加されると、前記円環状表面に電界を発生して弾性歪みを励起することによって前記弾性表面波を発生させるとともに、前記周回する弾性表面波に応じた電気信号を出力するすだれ状電極を、前記発生検出手段として備えた請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の露点計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−225509(P2007−225509A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48745(P2006−48745)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(503416870)ボール・セミコンダクター・インコーポレーテッド (5)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】