説明

静圧流体軸受装置

【課題】可変絞り手段を有する静圧流体軸受装置において、絞り開度を増減させた際に発生する流体の流出層の厚さ(2部材の間隔)の変動を適切に抑制し、加工精度をより向上させることができる静圧流体軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受ポケットと、流体を圧送する流体供給手段と、流体流路と、絞り量を変更可能な可変絞り手段と、を備え、絞り量を直接的または間接的に検出可能な絞り量検出手段と、可変絞り手段56Vから軸受ポケット56Pまでの経路における、可変絞り手段56Vまたは流体流路56Hまたは軸受ポケット56Pの少なくとも一部に設けられて流体が充填されている部分の体積を増減可能な体積可変手段56Eと、絞り量検出手段にて検出した絞り量に応じた体積変化量を算出するとともに、算出した体積変化量を相殺するように体積可変手段56Eの体積を増減させる制御手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変絞り手段を有する静圧流体軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、静圧流体軸受装置は、工作機械等の種々の可動部に使用されている。例えば研削盤においては、砥石軸の軸受、スライドテーブルの案内面、スライドテーブルの送りねじ等に静圧流体軸受装置が用いられている。
静圧流体軸受装置は、相対移動(相対回転も含む)する2部材の対向面の一方に凹状の軸受ポケットを設けて軸受ポケットから空気や油等の流体を噴出させ、2部材の間に所定の厚さの流体の流出層を形成し、2部材を非接触に維持して摩擦を低減する軸受装置である。
流体の供給元から軸受ポケットまでの流体の通路である流体流路には、2部材に加えられる負荷の変動に対してより安定した流出層の厚さを維持するために、流体の通路の開度を部分的に小さくした、いわゆる「絞り」が流体流路の一部に設けられている。
なお、「絞り」には流体流路の開度が一定(固定)の「固定絞り」と、流体流路の開度が可変である「可変絞り」がある。「可変絞り」は、開度を増減させて流体の流量を増減させることで軸受の剛性を増減させることが可能であり、負荷の変動に対して流出層の厚さ(2部材の隙間)を安定的に維持することができる。
【0003】
例えば特許文献1に記載された従来技術では、軸受ポケット内に圧力センサを設け、負荷が増加して流出層の厚さが小さくなったことを圧力の増加にて検出し、圧力が増加した場合は圧電アクチュエータを縮小する側に制御して可変絞りの開度を大きくして流体の流量を増加させ、流出層の厚さ(浮遊距離)を元に戻す、流体軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−49415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された従来技術では、軸受ポケットに連通する流体流通孔と、当該流体流通孔に対向させたダイヤフラムとの隙間で絞り部を形成し、ダイヤフラムに接続した圧電アクチュエータを伸縮させることで可変絞りの開度を増減させている。なお、特許文献1では、「絞り」を構成している流体の充填空間である絞り空間と軸受ポケットが、流体流通孔にて連通されている。
特許文献1では、流出層の厚さ(浮遊距離)が小さくなって圧力の増加を検出した際に、圧電アクチュエータを用いてダイヤフラムを引き上げて開度を増大して流体の流量を増加させているが、可変絞りの開度を増大した瞬間は、軸受ポケットと流体流通孔で連通された絞り空間(ダイヤフラムと流体流通孔にて囲まれている空間)の体積が瞬間的に増加し、増加した体積分の充填に流体が消費され、軸受ポケットに到達する流体の量が一時的に減少し、流出層の厚さ(浮遊距離)が一時的に、更に小さくなる(いわゆるオーバーシュートが発生する)可能性がある。
この現象は、加工中の工作機械に対しては加工精度の低下を招くため、好ましくない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、可変絞り手段を有する静圧流体軸受装置において、絞り開度を増減させた際に発生する流体の流出層の厚さ(2部材の間隔)の変動を適切に抑制し、加工精度をより向上させることができる静圧流体軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの静圧流体軸受装置である。
請求項1に記載の静圧流体軸受装置は、軸受面に設けられた軸受ポケットと、前記軸受ポケットに供給する流体を圧送する流体供給手段と、前記流体供給手段から前記軸受ポケットに至る流体の通路を形成する流体流路と、前記流体流路の任意の個所に設けられて流体を流す通路の絞り量を変更可能な可変絞り手段と、を備え、前記可変絞り手段の構造が、前記絞り量を変更する際、前記絞り量とともに前記流体流路における流体が充填されている部分の体積が変動する静圧流体軸受装置である。
そして、前記絞り量を直接的または間接的に検出可能な絞り量検出手段と、前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路における、前記可変絞り手段または前記流体流路または前記軸受ポケットの少なくとも一部に設けられて流体が充填されている部分の体積を増減可能な体積可変手段と、前記絞り量検出手段にて検出した絞り量に応じた体積変化量を算出するとともに、算出した体積変化量を相殺するように前記体積可変手段の体積を増減させる制御手段と、を備えている。
【0007】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの静圧流体軸受装置である。
請求項2に記載の静圧流体軸受装置は、請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、前記可変絞り手段は、前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路内の流体の圧力に応じてダイヤフラムが可動して前記絞り量が増減されるダイヤフラム式絞り調整装置であり、前記絞り量検出手段は、前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路内の流体の圧力を検出可能な圧力検出手段、または前記ダイヤフラムの変位量を検出可能な変位検出手段であり、前記体積可変手段は、電圧に応じて体積が増減するピエゾ素子である。
【0008】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの静圧流体軸受装置である。
請求項3に記載の静圧流体軸受装置は、請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、前記可変絞り手段は、スプール駆動手段にてスプールを移動させるとともに前記スプールの位置に応じて前記絞り量が増減されるスプール式絞り調整装置であり、前記絞り量検出手段は、前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路内の流体の圧力を検出可能な圧力検出手段、または前記スプールの位置あるいは前記スプール駆動手段の駆動量を検出可能なスプール量検出手段であり、前記体積可変手段は、電圧に応じて体積が増減するピエゾ素子である。
【0009】
また、本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの静圧流体軸受装置である。
請求項4に記載の静圧流体軸受装置は、軸受面に設けられた軸受ポケットと、前記軸受ポケットに供給する流体を圧送する流体供給手段と、前記流体供給手段から前記軸受ポケットに至る流体の通路を形成する流体流路と、前記流体流路の任意の個所に設けられて流体を流す通路の絞り量を変更可能な可変絞り手段と、を備え、前記可変絞り手段の構造が、前記絞り量を変更する際、前記絞り量とともに前記流体流路における流体が充填されている部分の体積が変動する静圧流体軸受装置である。
そして、前記絞り量を直接的または間接的に検出可能な絞り量検出手段と、前記流体供給手段から圧送する流体の流量を調整可能な流体流量調整手段と、前記絞り量検出手段にて検出した絞り量に応じた体積変化量を算出するとともに、算出した体積変化量を相殺するように前記流体流量調整手段を制御して流体の流量を増減させる制御手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の静圧流体軸受装置を用いれば、可変絞り手段の絞り開度の増減に応じて増減した流体充填部分の体積を相殺するように、体積可変手段の体積を増減することで、軸受ポケットから流出させる流体の流出層の厚さ(2部材の間隔)の変動を抑制することができる。
これにより、加工精度をより向上させることができる。
【0011】
また、請求項2に記載の静圧流体軸受装置によれば、可変絞り手段がダイヤフラム式絞り調整装置である場合に、絞り開度の増減による体積変化量を適切に検出して、体積変化量を適切に相殺する静圧流体軸受装置を実現することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の静圧流体軸受装置によれば、可変絞り手段がスプール式絞り調整装置である場合に、絞り開度の増減による体積変化量を適切に検出して、体積変化量を適切に相殺する静圧流体軸受装置を実現することができる。
【0013】
また、請求項4に記載の静圧流体軸受装置によれば、可変絞り手段の絞り開度の増減に応じて増減した流体充填部分の体積分の流体を相殺するように、流体流量調整手段を用いて流体の流量を増減することで、軸受ポケットから流出させる流体の流出層の厚さ(2部材の間隔)の変動を抑制することができる。
これにより、加工精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の静圧流体軸受装置を用いた研削盤1の一実施の形態を説明する平面図と側面図である。
【図2】砥石Tを含む砥石装置TSの外観の例と、砥石装置TSの移動を案内する案内装置60の例を説明する図である。
【図3】砥石装置TSと案内装置60との静圧流体軸受装置の構成の例を説明する図と、可変絞り手段の例を説明する図である。
【図4】体積可変手段の配置位置の例等を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の静圧流体軸受装置を適用した研削盤1の一実施の形態を示しており、図1(A)は研削盤1の平面図の例を示し、図1(B)は研削盤1の右側面図の例を示している。なお、図1(B)では、心押台の記載を省略している。
また、X軸、Y軸、Z軸が記載されている全ての図面において、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Y軸は鉛直上向きを示しており、Z軸とX軸は水平方向を示している。そしてZ軸はワーク回転軸方向を示しており、X軸方向は砥石TがワークWに切り込む方向を示している。
以下の説明では、静圧流体軸受装置を適用した研削盤1の例を説明するが、本発明の静圧流体軸受装置は研削盤に限定されず、種々の装置の静圧流体軸受装置に適用することが可能である。
●[研削盤1の全体構成(図1(A)、(B))]
図1(A)及び(B)に示すように、研削盤1は、ワーク回転軸WZ回りに回転しているワークWに対して、砥石回転軸TZ回りに回転している略円筒形状の砥石Tを相対移動させてワークWを研削する。なお、各可動体の位置等を検出して各駆動モータに制御信号を出力する制御手段(数値制御装置等)については、図示を省略する。なお、ワーク回転軸WZと砥石回転軸TZは、どちらもZ軸と平行である。
【0016】
主軸台は、基台BSに載置されたベースDLと、ベースDLに対してZ軸方向に往復移動可能な主軸ハウジングHLと、主軸ハウジングHL内でワーク回転軸WZ回りに回転可能に支持された主軸SLとを備えている。また、主軸SLの一端にはセンタ部材CLが設けられている。
主軸SLには図示しない駆動モータが設けられており、制御手段は、センタ部材CLの先端をとおるワーク回転軸WZ回りに主軸SLを、任意の角速度で任意の角度まで回転させることができる。
心押台は、基台BSに載置されたベースDRと、ベースDRに対してZ軸方向に移動可能な心押軸ハウジングHRと、心押軸ハウジングHR内でワーク回転軸WZ回りに回転可能または回転不能に支持され、主軸SLと同軸的に設けられた心押軸SRとを備えている。また、心押軸SRの一端にはセンタ部材CRが設けられている。
そしてワークWは、センタ部材CLを備えた主軸台と、センタ部材CRを備えた心押台に両端(または両端近傍)が支持されている(センタ部材の代わりにチャックであってもよい)。
【0017】
また、基台BSには、Z軸駆動モータMZにて制御されるボールねじNZの回転角度に応じて、ガイドGZに沿ってZ軸方向の任意の位置に位置決めされる砥石スライドテーブル40が載置されている。制御手段はエンコーダ等の位置検出手段EZからの信号を検出しながらZ軸駆動モータMZに制御信号を出力して、砥石スライドテーブル40のZ軸方向の位置を位置決めする。
砥石スライドテーブル40には、ガイド61〜63に沿ってX軸方向の任意の位置に位置決めされる砥石進退テーブル41(砥石装置TS)が載置されている。制御手段は位置検出手段からの信号を検出しながらX軸駆動手段に制御信号を出力して、砥石進退テーブル41(砥石装置TS)のX軸方向の位置を位置決めする。
【0018】
なお、本実施の形態にて説明する研削盤1では、砥石Tの支持方法が片持ち式の例を示しているが、両持ち式で砥石Tを支持してもよい。
また、図1(B)に示すように、砥石回転軸TZとワーク回転軸WZは仮想平面MF上に位置している。この状態で砥石TをワークWに対して相対的に近づけていき、ワークWと砥石Tとが接触した位置における砥石Tの側の点を砥石研削点TPとする。そして、研削盤1には、砥石研削点TPの近傍にクーラントを供給するクーラントノズルが設けられているが、図示省略する。
また、図1(A)及び(B)の例に示す研削盤1では、砥石Tのドレッシングを行うドレッシング手段TRが、主軸ハウジングHLに取り付けられている。
【0019】
本実施の形態にて説明する研削盤1では、ポンプ等の流体供給手段を用いて流体を供給し、砥石装置TSを静圧流体軸受装置にて支持している。そして静圧流体軸受装置で使用した流体を回収及び冷却してポンプ等に戻し、流体を循環させている。
本発明の静圧流体軸受装置は、静圧流体軸受装置による2部材の間隔の変動をより小さくする構成を有し、加工精度をより向上させることができる静圧流体軸受装置である。
【0020】
●[砥石装置TSと案内装置60の外観(図2)]
次に図2(A)及び(B)を用いて砥石装置TSと案内装置60の外観について説明する。
砥石装置TSは、砥石進退テーブル41と、被案内部材50と、砥石Tと、砥石軸受25と、砥石駆動モータMT、リニアモータMX(X軸駆動手段)等にて構成されており、砥石駆動モータMTの回転動力が、駆動プーリ21、ベルト22、従動プーリ24を介して砥石Tに伝達される。
また被案内部材50は、案内装置60の各ガイド(センタガイド61、左ガイド62、右ガイド63)と嵌合する形状を有しており、各ガイドのガイド面と対向する一部の面には、軸受ポケット51P、56P等が設けられている。
【0021】
図2及び図3に示すように、センタガイド61の左側面61L(図2(B)参照)に対向する被案内部材50の面である静圧面51(図2(A)参照)には軸受ポケット51P(図3(A)参照)が設けられており、センタガイド61の右側面61R(図2(B)参照)に対向する被案内部材50の面である静圧面52(図2(A)参照)には軸受ポケット52P(図3(A)参照)が設けられている。
また、左ガイド62の上面62Uと下面62B(図2(B)参照)に対向する被案内部材50の静圧面55、53(図2(A)参照)には、軸受ポケット55P、53P(図3(A)参照)が設けられており、右ガイド63の上面63Uと下面63B(図2(B)参照)に対向する被案内部材50の静圧面56、54(図2(A)参照)には、軸受ポケット56P、54P(図3(A)参照)が設けられている。
本実施の形態では、被案内部材50がリニアモータMXを有する構造の例を示したが、リニアモータMXの代わりにサーボモータとボールねじを用いてもよい。砥石装置TSを進退させる駆動装置は、特に限定されない。
【0022】
●[静圧流体軸受装置の構造と可変絞り手段の構造の例(図3)]
次に図3(A)及び(B)を用いて、静圧流体軸受装置の構成と、可変絞り手段56Vの構成の例について説明する。静圧流体軸受装置は、流体供給手段(ポンプP等)と、流体流路HPと、可変絞り手段51V〜56Vと、軸受ポケット51P〜56P等にて構成されている。
タンクTK内の流体はポンプP(流体供給手段に相当)にて流体流路HPを経由して可変絞り手段51V〜56Vに圧送される。
可変絞り手段51Vと軸受ポケット51P、可変絞り手段52Vと軸受ポケット52P、可変絞り手段53Vと軸受ポケット53P、可変絞り手段54Vと軸受ポケット54P、可変絞り手段55Vと軸受ポケット55P、可変絞り手段56Vと軸受ポケット56P、はそれぞれの流体流路(図3(A)中にて点線にて示している)にて接続されている。
これにより、ポンプPから各軸受ポケットまでの流体流路において任意の個所に可変絞り手段が設けられている。
軸受ポケット51P〜56Pから噴出された流体は、軸受ポケット51P〜56Pのそれぞれと対向している面との間に所定の厚さの流出層を形成し、軸受ポケットと対向面との間隔を一定に保持するとともに非接触状態を保持する。
また、軸受ポケット51P〜56Pから噴出された流体は、図示しない経路にて回収され、タンクTKに戻される。
なお図3(A)に示す例では、軸受ポケット51P〜56P内の流体の圧力を検出可能な圧力検出手段51S〜56S(絞り量検出手段に相当)が、軸受ポケット51P〜56Pのそれぞれに対応させて設けられている。
【0023】
次に図3(B)及び(C)を用いて可変絞り手段56Vの構造の例について説明する。
図3(B)は、可変絞り手段56Vがダイヤフラム式絞り調整装置の場合の例を示しており、図3(C)は、可変絞り手段56Vがスプール式絞り調整装置の場合の例を示している。
図3(B)に示すダイヤフラム式絞り調整装置は、流入口56inから供給された流体を、開度56Bの絞り部を経由させて流出口56outから軸受ポケットに向けて流出する。そして軸受ポケット内の流体の圧力が上昇すると、軸受ポケットに連通している流出口56out、及び流体充填室56Aに充填されている流体の圧力が上昇し、ダイヤフラム56Dを押し上げ、開度56B(絞り量に相当)が56BLから56BHに変化し、開度が増加する。なお、この場合、ダイヤフラム56Dの変形により、流体が充填されている部分において変動体積56C分の体積が増加する(流体が充填される領域の体積が増加する)ので、体積増加時には充填されている流体の圧力が一時的に低下する。
【0024】
また、図3(C)に示すスプール式絞り調整装置は、流入口56inから供給された流体を、開度56Bの絞り部を経由させて流出口56outから軸受ポケットに向けて流出する。そして軸受ポケット内の流体の圧力が上昇すると(圧力検出手段等にて検出すると)、制御手段等にてスプール駆動手段56Mを制御してスプール56Sの位置を移動させて開度56B(絞り量に相当)を56BLから56BHに変化させ、開度を増加させる。なお、この場合、スプール56Sの移動により、流体が充填されている部分において体積が増加する(流体が充填される領域の体積が増加する)ので、体積増加時には充填されている流体の圧力が一時的に低下する。
【0025】
このように、本実施の形態にて説明する可変絞り手段は、流体を流す通路の絞り量を変更する際、絞り量とともに流体流路における流体が充填されている部分の体積が変動する(変動してしまう)構造を有しており、体積の変動時に一時的に流体の圧力も変動する。
本発明は、この体積の変動時に発生する流体の一時的な圧力の変動の変動量と変動時間をより小さくするために、体積変化量(体積変動量)を相殺する体積可変手段を備え、加工精度をより向上させるものである。
【0026】
●[体積可変手段56Eの構造と配置位置の例(図4)]
次に図4(A)〜(C)を用いて、体積可変手段56Eの構造と配置位置の例について説明する。
図4(A)に示す体積可変手段56Eは、可変絞り手段56V内に体積可変手段56Eを備えている。体積可変手段56Eは電圧に応じて体積が増減するピエゾ素子56Xにて構成され、所定の電圧が印加されると膨張量56Z分、体積が増加する。
また図4(B)に示す体積可変手段56Eは、可変絞り手段56Vから軸受ポケット56Pまでの流体流路56Hの一部に接続されている。そして体積可変手段56Eはピエゾ素子56Xにて構成され、所定の電圧が印加されると膨張量56Z分、体積が増加する。
また図4(C)に示す体積可変手段56Eは、軸受ポケット56P内に設けられている。そして体積可変手段56Eはピエゾ素子56Xにて構成され、所定の電圧が印加されると膨張量56Z分、体積が増加する。
【0027】
可変絞り手段がダイヤフラム式絞り調整装置の場合、図4(A)〜(C)に示すいずれかの体積可変手段56Eを備える。そして絞り量検出手段として、可変絞り手段から軸受ポケットまでの経路内(可変絞り手段内、または流体流路内、または軸受ポケット内)の流体の圧力を検出可能な圧力検出手段を設け、絞り量を間接的に検出する。あるいは、ダイヤフラム56Dの変位量を検出可能な変位検出手段を設け、絞り量を直接的に検出する。
圧力検出手段を設けた場合、制御手段は、圧力検出手段からの信号に基づいて圧力を検出し、圧力−絞り量特性(予め制御手段に記憶させておく)から絞り量を求める。そして求めた絞り量に応じた体積変化量を算出(予め、絞り量−体積変化量特性を記憶させておく)し、算出した体積変化量を相殺するように体積可変手段を制御する(予め、体積変化量−制御電圧特性を記憶させておく)。なお、圧力検出手段にて検出した圧力から体積可変手段への制御量(制御電圧)を求めるようにしてもよい(予め、圧力−制御電圧特性を記憶させておく)。
変位検出手段を設けた場合、制御手段は、変位検出手段からの信号に基づいてダイヤフラムの変位量を検出し、絞り量を求める。そして求めた絞り量に応じた体積変化量を算出する。以降の処理は上記と同様であるので省略する。
【0028】
可変絞り手段がスプール式絞り調整装置の場合、図4(B)または(C)に示すいずれかの体積可変手段56Eを備える。そして絞り量検出手段として、可変絞り手段から軸受ポケットまでの経路内(可変絞り手段内、または流体流路内、または軸受ポケット内)の流体の圧力を検出可能な圧力検出手段を設け、絞り量を間接的に検出する。あるいは、スプール56Sの位置またはスプール駆動手段56Mの駆動量を検出可能なスプール量検出手段を設け、絞り量を直接的(スプール位置より)または間接的(スプール駆動量より)に検出する。
圧力検出手段を設けた場合は、上記と同様、制御手段にて体積可変手段を制御する。
スプール量検出手段を設けた場合、制御手段は、スプール量検出手段からの信号に基づいて絞り量を求め(予め、スプール量−絞り量特性を記憶させておく)、求めた絞り量に応じた体積変化量を算出(予め、絞り量−体積変化量特性を記憶させておく)し、算出した体積変化量を相殺するように体積可変手段を制御する(予め、体積変化量−制御電圧特性を記憶させておく)。なお、スプール量検出手段にて検出した絞り量から体積可変手段への制御量(制御電圧)を求めるようにしてもよい(予め、スプール量−制御電圧特性を記憶させておく)。
【0029】
以上により、図4(D)に示すように、本実施の形態にて説明した静圧流体軸受装置は、圧力増加等が発生しても、2部材間の距離(軸受ポケットと対向面との間の距離)の変動量をより小さくし、変動時間をより短くすることができるので、加工精度をより向上させることができる。
【0030】
以上の説明では、絞り量(開度)の増加によって流体が充填される部分の体積が増加する場合に対する動作を説明したが、絞り量が開度(大)の状態から開度(小)の状態に変化(減少)した場合は、流体が充填される部分の体積が増加状態から減少する。この場合は流体が充填される部分の体積の減少分を相殺するように、制御手段にて体積可変手段(ピエゾ素子)の膨張量56Zを減少させるように制御する。
【0031】
●[体積可変手段を用いない例]
上記の説明では、絞り量の増減による体積変動分を、体積可変手段を用いて相殺したが、体積可変手段を用いることなく、流体の流量を増減することで体積変動分を相殺することもできる。
例えば、流体供給手段から圧送する流体の流量を調整可能な流体流量調整手段を、流体供給手段(ポンプP)から可変絞り手段までの経路に設ける。
そして制御手段は、上記の圧力検出手段、または変位検出手段、またはスプール量検出手段からの信号から絞り量、体積変化量を求め、求めた体積変化量を相殺するように流体流量調整手段を制御して流体の流量を増減させる。
【0032】
本発明の静圧流体軸受装置は、本実施の形態で説明した外観、構成、構造、処理等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
本実施の形態の説明では、流体の例として油を用いた例を説明したが、エア等の流体を用いてもよい。
本実施の形態の説明では、スライド部の静圧流体軸受装置を例として説明したが、本発明の静圧流体軸受装置はスライド部に限定されず、ジャーナル軸受、スラスト軸受、静圧ネジ等、種々の流体軸受装置に適用することができる。
本実施の形態の説明では、絞り量検出手段として、圧力検出手段、変位検出手段、スプール量検出手段を用いる例を説明したが、他の検出手段を用いて絞り量を求めてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 研削盤
25 砥石軸受
40 砥石スライドテーブル
41 砥石進退テーブル
50 被案内部材
51P〜56P 軸受ポケット
51S〜56S 圧力検出手段(絞り量検出手段)
51V〜56V 可変絞り手段
56B 開度
56D ダイヤフラム
56E 体積可変手段
56M スプール駆動手段
56S スプール
56X ピエゾ素子
56Z 膨張量
60 案内装置
BS 基台
CL、CR センタ部材
MT 砥石駆動モータ(回転駆動手段)
P ポンプ
SL 主軸
SR 心押軸
T 砥石
TS 砥石装置
TZ 砥石回転軸
W ワーク
WZ ワーク回転軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受面に設けられた軸受ポケットと、
前記軸受ポケットに供給する流体を圧送する流体供給手段と、
前記流体供給手段から前記軸受ポケットに至る流体の通路を形成する流体流路と、
前記流体流路の任意の個所に設けられて流体を流す通路の絞り量を変更可能な可変絞り手段と、を備え、
前記可変絞り手段の構造が、前記絞り量を変更する際、前記絞り量とともに前記流体流路における流体が充填されている部分の体積が変動する静圧流体軸受装置において、
前記絞り量を直接的または間接的に検出可能な絞り量検出手段と、
前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路における、前記可変絞り手段または前記流体流路または前記軸受ポケットの少なくとも一部に設けられて流体が充填されている部分の体積を増減可能な体積可変手段と、
前記絞り量検出手段にて検出した絞り量に応じた体積変化量を算出するとともに、算出した体積変化量を相殺するように前記体積可変手段の体積を増減させる制御手段と、を備えている、
静圧流体軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、
前記可変絞り手段は、前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路内の流体の圧力に応じてダイヤフラムが可動して前記絞り量が増減されるダイヤフラム式絞り調整装置であり、
前記絞り量検出手段は、前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路内の流体の圧力を検出可能な圧力検出手段、または前記ダイヤフラムの変位量を検出可能な変位検出手段であり、
前記体積可変手段は、電圧に応じて体積が増減するピエゾ素子である、
静圧流体軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載の静圧流体軸受装置であって、
前記可変絞り手段は、スプール駆動手段にてスプールを移動させるとともに前記スプールの位置に応じて前記絞り量が増減されるスプール式絞り調整装置であり、
前記絞り量検出手段は、前記可変絞り手段から前記軸受ポケットまでの経路内の流体の圧力を検出可能な圧力検出手段、または前記スプールの位置あるいは前記スプール駆動手段の駆動量を検出可能なスプール量検出手段であり、
前記体積可変手段は、電圧に応じて体積が増減するピエゾ素子である、
静圧流体軸受装置。
【請求項4】
軸受面に設けられた軸受ポケットと、
前記軸受ポケットに供給する流体を圧送する流体供給手段と、
前記流体供給手段から前記軸受ポケットに至る流体の通路を形成する流体流路と、
前記流体流路の任意の個所に設けられて流体を流す通路の絞り量を変更可能な可変絞り手段と、を備え、
前記可変絞り手段の構造が、前記絞り量を変更する際、前記絞り量とともに前記流体流路における流体が充填されている部分の体積が変動する静圧流体軸受装置において、
前記絞り量を直接的または間接的に検出可能な絞り量検出手段と、
前記流体供給手段から圧送する流体の流量を調整可能な流体流量調整手段と、
前記絞り量検出手段にて検出した絞り量に応じた体積変化量を算出するとともに、算出した体積変化量を相殺するように前記流体流量調整手段を制御して流体の流量を増減させる制御手段と、を備えている、
静圧流体軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99463(P2011−99463A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252820(P2009−252820)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】