説明

静脈表示装置

【課題】赤外線を生体に照射して撮像手段及び表示手段によって静脈を表示させる際に、表示手段に表示された所定部位と実際のドナーの所定部位との位置関係を明確にする。
【解決手段】静脈表示装置10は、ドナーの腕12に対して近赤外線領域の波長を含む光を照射する近赤外線LED38と、近赤外線領域及び可視光領域の波長を含む光を照射するランプ40と、腕12に対して光をスポット形状のスポット照射部100に照射させるレンズ42と、腕12を撮像する近赤外線カメラ34と、近赤外線カメラ34の前面に設けられて可視光を遮蔽する赤外線フィルター36と、近赤外線カメラ34で撮像された画像を表示するモニタ20とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナーの所定部位の静脈を画像として表示する静脈表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
輸液セット等の注射針や血液バッグ等の採血針は、ドナーの静脈に対して穿刺をして、薬剤を注入し又は採血をする。通常、これらの針はドナーの腕における肘の内側部分において静脈に穿刺するが、ドナーによってはこの部分で静脈の位置が不明確な場合がある。このような場合には、ゴムバンドを上腕に巻いて適度に締め付けることにより静脈を浮かび上がらせてその位置を把握するが、この操作は締め付け度合い等に熟練を要するものであり、簡便ではない。
【0003】
近時、近赤外線を用いた静脈検出手段の研究開発がなされており、特許文献1には、近赤外線レーザと近赤外線反射波測定手段からなる血管検出手段と、可視光レーザを用いた血管表示手段とを有する血管投影機が記載されている。
【0004】
特許文献2には、特定波長の照明光を照射する照明手段と、撮影映像情報に基づいて血管位置等の情報を強調した強調画像を生成する手段と、得られた強調画像を腕に投影する投影手段とを有する生体情報提示装置が記載されている。
【0005】
特許文献3には、第1の白熱灯を、890nmの光を透過する光源用特定波長フィルターを通して腕に照射するとともに、第2の白熱灯を直接に腕に照射し、別の特定波長フィルターを通して照射部を目視することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、対象に対して赤外線光源と可視光線光源による照射を行い、赤外線透過フィルターを備える近赤外線カメラで撮像することについて記載されている。可視光線光源は、装置の下が暗くなることを防ぎ、手技の妨げにならないように、対象を明るく照らすためのものであり、相当の広範囲を相当に明るく照射していると考えられる。また、可視光線光源は、対象部を直接に観察する場合に必要となるものであって、近赤外線カメラの画像を観察する場合にはノイズとして作用することからむしろ不要になり、可視光線光源には赤外線が発生しないものを選択するか、赤外線を通過させないフィルターを利用するのがよい、としている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−329786号公報
【特許文献2】特開2006−102360号公報
【特許文献3】特開2002−345953号公報
【特許文献4】特開2004−267534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近赤外線を用いて生体の静脈を表示させる場合に、表示装置上のモニタにおいては、生体のいずれの部分が表示されているのか位置関係が不明確である。例えば、モニタ上で穿刺に適した太い静脈が認識できた場合であっても、実際の腕に穿刺しようとした場合にその静脈の位置が不明確になり得るし、逆に、穿刺に適した肘内側部分をモニタ上に表示させようとした場合に腕の位置決め手段がなく、ずれた位置をモニタに表示させてしまうことが起こりうる。
【0009】
特許文献3及び4記載の装置においても、可視光線を腕の広い範囲に照射させているだけであり、位置関係を規定する手段にはなり得ない。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、近赤外線をドナーの所定部位に照射して撮像手段及び表示手段によって静脈を表示させる際に、表示手段に表示された所定部位と実際のドナーの所定部位との位置関係が明確になる静脈表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る静脈表示装置は、ドナーの所定部位に対して近赤外線領域の波長を含む光を照射する第1照射手段と、可視光領域の波長を含む光を照射する第2照射手段と、前記第2照射手段により照射される光の照射範囲を、前記第1照射手段により照射される光の照射範囲内で所定形状に制限する光学手段と、前記所定部位のうち、前記光学手段により制限された前記所定形状の制限照射部を含む範囲を撮像する撮像手段と、前記所定部位と前記撮像手段との間に設けられ、可視光領域の波長をカットオフする光フィルターと、前記撮像手段により撮像された画像を表示する表示手段とを有することを特徴とする。
【0012】
このように、第1照射手段によって近赤外光を所定部位に照射して撮像手段で撮像することにより、静脈を表示させることができるとともに、第2照射手段によって可視光を照射させることにより所定部位の撮像位置を目視で確認することができ、特に、光学手段によって所定形状に照射するので、所定部位の位置決めが容易である。また、表示手段に表示された所定部位と実際のドナーの所定部位との位置関係が明確になる。
【0013】
さらにまた、光フィルターにより余分な可視光が遮蔽されるため、撮像手段では静脈を鮮明に撮像することができる。
【0014】
前記表示手段は、前記制限照射部又はその中心を示す参照マークを有すると、位置関係が明確になる。すなわち、ドナーの所定部位と表示手段における所定部位との位置関係が明確になる。
【0015】
前記第2照射手段が照射する光は、近赤外領域の波長を含んでいると、表示手段にも所定形状の制限照射部が表示され、所定部位の制限照射部との位置対応が容易に分かり、ドナーの所定部位と表示手段における所定部位との位置関係が明確になる。
【0016】
前記第1照射手段は、750nm〜950nmの波長を含む光を照射し、前記第2照射手段は、380nm〜900nmの波長を含む光を照射し、前記光フィルターのカットオフ波長は、740nm〜800nmであるとよい。
【0017】
前記制限照射部はスポット形状であってもよい。このように、第2照射手段の光をスポット形状に照射することにより、撮像位置の特定が一層容易になり、所定部位の位置を合わせやすい。
【0018】
スポット形状の前記制限照射部の径を調整する径調整機構を有し、ドナーや手技に応じて径を調整するとよい。
【0019】
前記所定形状は十字形状であると、位置の特定が容易である。
【0020】
前記所定形状は多角形状又は多角枠形状であると、表示装置の表示範囲を容易に把握することができる。
【0021】
前記第1照射手段及び前記第2照射手段により各々照射される光の光量を調整する光量調整機構を有すると、第1照射手段と第2照射手段との相対的な光量調整や、周辺光に対する光量を調整することができて好適である。
【0022】
前記第1照射手段、前記第2照射手段、前記光学手段及び前記撮像手段が設けられた撮像ユニットと前記所定部位との距離を調整する距離調整機構を有すると、撮像範囲の調整や焦点調整等を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る静脈表示装置によれば、赤外線をドナー所定部位に照射して撮像手段及び表示手段によって静脈を表示させる際に、表示手段に表示された所定部位と実際のドナーの所定部位との位置関係が明確になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る静脈表示装置について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図10を参照しながら説明する。本実施の形態に係る静脈表示装置10は、例えば、ドナー(患者や被験者を含む)から採血や注射をする際に、医療従事者がドナーの腕(所定部位)12に針13を穿刺することに用いられる。
【0025】
図1に示すように、静脈表示装置10は、ドナーの腕12を置くアームレスト14と、アームレスト14の側方端部に接続されて立設する支柱16と、支柱16の途中に昇降自在に設けられた撮像ユニット18と、支柱16の上部に回動自在に設けられたモニタ(表示手段)20とを有する。アームレスト14に置く腕12は、右腕又は左腕のどちらでもよい。アームレスト14の上面は、腕12を置きやすいように適度に柔らかい材質で構成されている。
【0026】
アームレスト14は、腕12の肘21よりも先の部分を載置するのに適度な長さを有し、ドナーは手のひらの側を上に向けて腕12をアームレスト14に置く。撮像ユニット18は水平な板形状であり、支柱16の内側面のガイド22に沿って、高さつまみ(距離調整機構)24の操作によって昇降が可能であり、アームレスト14の上部に張り出している。撮像ユニット18はガイド22に対して適度な摩擦があり、ストッパを設けることなく、高さの維持が可能である。撮像ユニット18には、モニタ20への表示範囲との関係から推奨される基準高さが規定されており、所定のマークに合わせることや、インデックス機構により該基準高さに設定可能である。このように、高さつまみ24によれば、近赤外線カメラ34による撮像範囲の調整や焦点調整等を行うことができる。また、高さつまみ24によれば、後述する近赤外線カメラ34、ランプ40及びレンズ42を一体的に動かすことができて簡便である。以下の説明では理解を容易にするため、特に断らない限り撮像ユニット18は基準高さに固定されているものとする。
【0027】
アームレスト14に腕12を置くことにより、該腕12の位置及び上面高さは略規定される。
【0028】
モニタ20は、例えば液晶形式であって、撮像ユニット18の上方に配置され、支柱16の内側面から突出した回転軸26を中心として矢印Aで示すように適度な範囲(例えば、±180°)で向きを調整可能である。モニタ20は、過度に回転することがないように、回転軸26のストッパ26aによって回動範囲が制限されており、少なくとも、アームレスト14の延在する方向で腕12を置いたとき手のひらの方向(X方向)と、上方(Y方向)とを含む90°の範囲で回動可能である。回転軸26は、モニタ20の側面における中央部に設けられておりバランスがよい。
【0029】
モニタ20の回動機構には、安定しやすいように適当な角度インデックス機構を設けて所定角度で保持するようにしてもよい。モニタ20は、横型の汎用品(又はその改造品)であるが、腕12のより長い範囲を表示させるためには、縦型を用いてもよい。アームレスト14の内部には設けられた全体的な制御を行う制御部28が設けられている。
【0030】
図2及び図3に示すように、撮像ユニット18の下面には、近赤外線カメラ(撮像手段)34と、該近赤外線カメラ34の前面に設けられた赤外線フィルター(光フィルター)36と、4つの近赤外線LED(第1照射手段)38と、ランプ(第2照射手段)40と、該ランプ40の前面に設けられたレンズ(光学手段)42が設けられている。撮像ユニット18のX方向の側面には、近赤外線LED38及びランプ40が照射する光の光量を調整する光量調整つまみ(光量調整機構)44及び46と、スポット径調整つまみ(径調整機構)48が設けられている。
【0031】
近赤外線LED38は、近赤外線を腕12における肘21の反対面で、針13を穿刺する箇所及びその周辺に照射する。ここで、近赤外線とは、波長が780nm〜2500nmの光であり、近赤外線LED38では、特に750nm〜950nmの波長の光を照射するとよい。4つの近赤外線LED38は近赤外線カメラ34を中心として等角度間隔(90°)に設けられており、腕12に対して広範囲に且つ偏りなく照射できる。4つの近赤外線LED38は全てが単一波長の光源でもよいし、複数の波長の光源が組み合わされていてもよい。
【0032】
ランプ40は、例えば赤色LEDである。レンズ42は、近赤外線LED38の照射範囲内で、ランプ40の可視光を腕12に対して照射範囲が制限されたスポット形状に照射させる。
【0033】
図3に示すように、ランプ40はレンズ42の背面側で、基本的には該ランプ40の焦点距離Fの近傍位置に設けられ、ランプ40が発生する光は、レンズ42を通して緩やかな拡大光となって腕12における近赤外線LED38の照射範囲における中央部又はその近傍に照射され、スポット照射部(制限照射部)100を形成する。このスポット照射部100はレンズ42により丸いスポット形状に制限されており、撮像位置の特定が一層容易になり、腕12の位置を合わせやすい。スポット照射部100は、腕12における位置の特定のために用いられるものであり、例えば前記の特許文献3及び4のように腕を照明するためのものではなく、不必要に広範囲に照射する必要はない。ランプ40の位置は、スポット径調整つまみ48に連動する進退機構50により適度に進退可能であり、ドナーや手技に応じてスポット照射部100の径Rを調整可能である。
【0034】
近赤外線カメラ34は、腕12のうち、スポット照射部100を中心として、近赤外線LED38により近赤外線が照射される箇所を連続的に撮像する。撮像した画像は制御部28を介してモニタ20に供給及び表示される。設計条件により、撮像した画像は制御部28を介さずに、モニタ20に直接供給してもよい。近赤外線カメラ34としては、例えばCCD式又はCMOS式を挙げることができる。近赤外線カメラ34にはズーム機能や感度調整機能等が設けられていてもよい。
【0035】
図4に示すように、近赤外線LED38のスペクトル60は、750nm〜950nmの範囲で略正規分布形状となっており、そのほとんどは近赤外線領域(前記の通り780nm〜2500nm)の光である。ランプ40のスペクトル62は、600nm〜800nmの範囲で略正規分布形状となっており、大部分は可視光領域であるが、一部の近赤外光領域の光を含んでいる。ランプ40のスペクトル62のうち最も強度が高いの波長700nmの部分は赤色の領域であることから、該ランプ40によるスポット照射部100は赤色に照射される。赤色は、近赤外領域に隣接する光であることから、連続的なスペクトルを形成すやすく、しかも一般的に人間に対して注意喚起を促す心理的作用があって好適である。
【0036】
ランプ40が含む近赤外光は、近赤外線LED38の近赤外光と比較して光量が適度に小さく、モニタ20の画像上でハレーションの発生を防止できる。
【0037】
ランプ40の光は、可視光領域の波長と赤外領域の波長の光を含んでおり、例えば、380nm〜900nmの波長を含むようにするとよい。スペクトル60及び62は連続スペクトルでなくてもよい。
【0038】
赤外線フィルター36は、波長760nm(図4の破線64参照)以下の光をカットオフ(遮断)するように設定された光フィルターであり(つまりカットオフ波長が760nmであり)、近赤外線LED38の光はほぼ全て透過させるが、ランプ40について近赤外光のうち760nm以上の波長の光については透過し、可視光線のほとんどを遮蔽する。
【0039】
赤外線フィルター36のカットオフは、ランプ40の照射する光の最大波長(図4のように、800nm)よりも低く、且つ740nmより高い波長に設定しておくとよい。赤外線フィルター36が設けられる位置は、腕12と近赤外線カメラ34との間に設けられていればよいが、ランプ40の投光の障害とならないように、近赤外線カメラ34の直前に設けることが望ましい。
【0040】
ランプ40と近赤外線カメラ34とは、実際にはかなり接近した位置に配置され、撮像ユニット18の高さが変わっても、ランプ40及びレンズ42によるスポット照射部100と近赤外線カメラ34の光軸とのずれはわずかであり、スポット照射部100に光軸Cが含まれるようにしておくとよい。さらに、スポット照射部100の中央に光軸Cが配置されるように設定しておくとよい。これにより、スポット照射部100に対応するスポット部対応像102(図7参照)がモニタ20の画像の中央となって、扱いやすい。また、撮像ユニット18の高さに連動して照射部の照射方向を自動的に調整するようにしてもよい。腕12に照射する場合には、腕12の幅がおおよそ100mm程度であることを考慮すると、ランプ40で照射されるスポット形状の径Rは15mm〜50mm程度に調整可能にするとよい。径Rは、実際上の厳密な計測は困難な場合もあるが、光学的な設計寸法上で、標準的な高さの腕12に対して15mm〜50mm程度に調整可能にすればよい。
【0041】
針13は、例えば輸液セットにおける注射針であり、輸液チューブが接続されている。針13は採血針等でもよい。
【0042】
撮像ユニット18は支柱16から取り外した状態で使用可能で、小児や動けない患者に対しては、該撮像ユニット18を該患者の腕12の近傍まで接近させて使用し、適切な静脈70を確認(選択)することができる。この場合、撮像ユニット18と本体部との通信には無線を用いてもよい。
【0043】
ところで、図5に示すように、静脈70は皮膚に近い浅い箇所に多く存在する。静脈70に流れている赤血球の中のヘモグロビンは酸素を失った還元ヘモグロビンの量が多い。還元ヘモグロビンは近赤外線を吸収する性質があるため、腕12に近赤外線LED38により近赤外線を照射すると、静脈70の存在する箇所だけ反射が少なくなり、近赤外線カメラ34による影像上では暗くなり、静脈70の撮像が可能となる。図5で実線矢印は適度に強い近赤外線を示し、破線矢印はエネルギーが減衰した近赤外線を示す。
【0044】
次に、このように構成される静脈表示装置10の作用について説明する。
【0045】
先ず、図6に示すように、近赤外線LED38を点灯させて近赤外線を下方に照射するとともに、ランプ40を点灯させてスポット照射部100をアームレスト14上に形成し、近赤外線カメラ34により当該箇所を連続的に撮像する。撮像された画像は制御部28を介してモニタ20に表示される。アームレスト14におけるスポット照射部100の明るさが適当でないときには、光量調整つまみ46を操作して調整する。
【0046】
次いで、図1に示すように、医療従事者の指示に基づいてドナーは腕12をアームレスト14上に置く。このとき、医療従事者の判断により、針13を穿刺しようとする目安となる箇所、又は特にモニタ20上で静脈位置を確認したい箇所をスポット照射部100に合わせて腕12の位置を決める。基本的には、肘21の内側部分にスポット照射部100が形成されるように腕12の位置決めを行う。この位置決めは、医療従事者とドナーの目視により、極めて簡便に行われることは理解されよう。仮に、スポット照射部100が存在しないと、腕12をアームレスト14におけるどの位置に置けばよいか分からなくなるのである。
【0047】
ここで、近赤外線カメラ34には、前面に赤外線フィルター36が設けられていることから、可視光はほとんど遮蔽されて760nm以上の波長の光に基づいて撮像されることから、静脈70(図7参照)の明瞭な画像が得られる。
【0048】
次に、医療従事者は、モニタ20に表示される画像から静脈位置を確認する。この際、静脈表示装置10が設置された環境や時間帯によって、窓ガラスを通して入る太陽光や、蛍光灯の光量が異なることにより、モニタ20に表示される画像に明るさに影響があるため、必要に応じて、近赤外線LED38の光量を調整する。光量の調整は、光量調整つまみ44の操作に基づき、モニタ20を目視により確認して手動で調整してもよいし、又は、所定のセンサにより近赤外線の照射部位又はそれに相当する箇所の光量を測定して、測定値に合わせて近赤外線LED38の光量を調整する光量調整機構を設けて、自動的に光量を調整するようにしてもよい。近赤外線LED38の光量を調整に合わせてランプ40の光量を再調整してもよい。
【0049】
このように光量調整つまみ44及び46によれば、近赤外線LED38とランプ40との相対的な光量調整や、周辺光に対する光量を調整することができて好適である。
【0050】
このとき、腕12は目視によるスポット照射部100に基づく位置決めが適切になされていることから、図7に示すように、モニタ20に表示される画像には、最初から肘21の内側部分が撮像されている。したがって、この時点ではモニタ20の画像範囲に肘21の内側部分が入るように試行錯誤的に腕12を動かす位置決め動作が不要となる。
【0051】
ところで、スポット照射部100の照射元であるランプ40は、760nm以上の波長の光もある程度含んでおり、赤外線フィルター36を透過して近赤外線カメラ34で撮像されることから、モニタ20の画像上にスポット部対応像102として、周辺部よりやや明るく(図7においては、粗いハッチングで示している。)表示される。モニタ20の画像上における腕12に対するスポット部対応像102の相対的位置、形状及び大きさは、当然に、実際の腕12に対するスポット照射部100のそれに等しく、相互の対応関係を容易に把握できる。
【0052】
次いで、医療従事者は、モニタ20に表示される画像から、針13の穿刺をするのに適する静脈及びその穿刺箇所Pを選択する。図7に示すように、この穿刺箇所Pは、当初のスポット照射部100による腕12の位置決めによって、該スポット部対応像102の近傍に見つかる可能性が相当に高い。図7では、穿刺箇所Pは、スポット部対応像102の右端に存在することから、実際の腕12においてもスポット照射部100の右端に存在していることが分かり、針13を穿刺しやすい。
【0053】
また、図8Aに示すように、腕12の位置を微調整して、穿刺箇所Pをモニタ20の画像におけるスポット部対応像102の中心となるように設定すると、図8Bに示すように、実際の腕12において、スポット照射部100の中心に針13を穿刺すればよいから、手技が一層簡便となる。
【0054】
スポット照射部100の径Rは、レンズ42によって15mm〜50mmに集光されていることから適度に明るく、しかも適度に大きいことから視認性が高い。また、過度に大きくないことから、モニタ20の画像におけるスポット部対応像102との位置関係の特定が容易である。
【0055】
上述したように、静脈表示装置10によれば、近赤外線LED38によって近赤外線を腕に照射して近赤外線カメラ34で撮像することにより、モニタ20に静脈70を表示させることができるとともに、ランプ40によって可視光を照射させることにより腕の撮像位置を目視で確認することができ、特に、レンズ42によってスポット形状に照射するので、腕12の位置決めが容易である。また、モニタ20に表示された所定部位と実際のドナーの所定部位との位置関係が明確になる。
【0056】
さらに、ランプ40は近赤外光の760nm以上の波長を含む光を照射することから、モニタ20にもスポット部対応像102が表示され、腕12のスポット照射部100との位置対応が容易に分かる。すなわち、実際の腕12とモニタ20に表示された腕12との位置関係が明確になる。さらにまた、赤外線フィルター36により余分な可視光が遮蔽されるため、モニタ20では静脈を鮮明に撮像することができる。
【0057】
スポット照射部100は、ランプ40及びレンズ42により簡便に形成され、しかもスポット形状に基づいて撮像位置の特定が容易であり、腕12の位置を合わせやすい。
【0058】
スポット照射部100は、モニタ20における表示範囲の中心に相当する箇所を含んでおり、腕12を適正な位置に配置させることができる。
【0059】
モニタ20は、基本的にはドナーとは逆の方向(X方向)で、医療従事者がいる方向を指向していることから、医療従事者にとって見やすい。また、モニタ20、支柱16及び撮像ユニット18は穿刺箇所を遮ることがなく、医療従事者が視認しやすい。もちろん、手技に応じてモニタ20を上方(Y方向)等に調整してもよい。
【0060】
上記の例では、ランプ40及びレンズ42によって形成される制限照射部はスポット形状であるが、これに限らず、直接的目視によるアームレスト14における腕12の位置決め、及びモニタ20の画像との位置関係確認が把握できる他の所定形状であってもよい。
【0061】
例えば、図9Aに示すように、腕12に照射される制限照射部104は縦横に延在する十字形状であってもよい。この場合、図9Bに示すように、モニタ20に表示される対応像106も十字形状になり、位置の一層正確な特定が容易である。十字の交差部分はモニタ20の表示範囲の中央に配置しておくとよい。モニタ20の画像上で、十字の交差部分に穿刺箇所Pが配置されるように腕12を微調整すると、実際の腕12では、図9Bに示すように、針13を制限照射部104の交差部分に穿刺すればよいことから、手技が一層容易になる。また、静脈70の向きと十字の縦線とを一致させておくと、針13の向きを静脈70に合わせやすい。この場合、図10に示すように、ランプ40とレンズ42との間に十字スリット(光学手段)72を設けるとよい。
【0062】
一方、腕12に照射される制限照射部をモニタ20の表示範囲に合わせた四角枠形状(多角枠形状)にしてもよい。これにより、実際の腕12におけるどの範囲がモニタ20に表示されるかが容易に把握できる。モニタ20における表示範囲を明確にするためには、四角枠形状に限らず、中実の四角形状(多角形状)であってもよい。
【0063】
ランプ40、レンズ42による所定形状の制限照射部は、上記のスポット形状、十字形状及び四角枠形状等から選んだ2以上の組合わせでもよい。この場合、必要に応じて、複数のランプ40を設けて異なる形状の制限照射部を照射してもよい。
【0064】
また、ランプ40が照射する光は、必ずしも近赤外線領域の光を含んでいなくてもよい。この場合、そのままではモニタ20の画像上にスポット部対応像102は表示され得ないが、少なくともドナーの所定部位には可視光でスポット照射部100が形成されていることから、モニタ20に表示される所定部位と実際のドナーの所定部位との位置関係が明確である。
【0065】
この場合、図11に示すように、モニタ20は、スポット照射部100に相当する箇所を示す参照マーク120又はその中心を示す参照マーク122を有すると、ドナーの所定部位とモニタ20における所定部位との位置関係が一層明確になる。参照マーク120及び122は、モニタ20の画面上に設けた有色半透明のフィルムや、又は、所定の画像処理で合成表示される像である。参照マーク120及び122は、所定の操作によって非表示状態に切り換え可能であってもよい。
【0066】
さらに、ドナーの皮膚からの反射光を遮断するために近赤外線カメラ34の前に偏向フィルターを設置してもよい。さらにまた、撮像ユニット18は、上下方向だけでなく、前後方向や左右方向に移動可能にしてもよい。ランプ40によって照射される可視光は赤色に限らず、紫色、青色、緑色等であってもよく、380nm〜900nmの波長を含む光であれると好適である。近赤外線LED38に適当なレンズが設けられていてもよい。
【0067】
本発明に係る静脈表示装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施の形態に係る静脈表示装置の斜視図である。
【図2】撮像ユニットを斜め下からみた斜視図である。
【図3】静脈表示装置のブロック構成図である。
【図4】近赤外線LED及びランプのスペクトル分布図である。
【図5】静脈に対する近赤外線の反射及び吸収の様子を示す説明図である。
【図6】アームレストに腕を置く前の静脈表示装置の斜視図である。
【図7】モニタに表示された腕、静脈及びスポット部対応像を含む画像である。
【図8】図8Aは、スポット部対応像の中心に静脈が配置されるように腕の位置を微調整したときの画像であり、図8Bは、図8Aに対応して針を腕に穿刺する様子を示した図である。
【図9】図9Aは、十字形状の制限照射部を含む腕の画像であり、図9Bは、図9Aに対応して針を腕に穿刺する様子を示した図である。
【図10】十字形状の制限照射部が形成された腕、及び該照射部を形成するためのランプ、十字スリット、レンズを示す図である。
【図11】モニタに参照マークが表示されている静脈表示装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
10…静脈表示装置 12…腕
13…針 14…アームレスト
16…支柱 18…撮像ユニット
20…モニタ(表示手段) 34…近赤外線カメラ(撮像手段)
36…近赤外線フィルター(光フィルター) 38…近赤外線LED(第1照射手段)
40…ランプ(第2照射手段) 42…レンズ(光学手段)
60、62…スペクトル 70…静脈
100…スポット照射部 102…スポット部対応像
104…制限照射部 106…対応像
120、122…参照マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーの所定部位に対して近赤外線領域の波長を含む光を照射する第1照射手段と、
可視光領域の波長を含む光を照射する第2照射手段と、
前記第2照射手段により照射される光の照射範囲を、前記第1照射手段により照射される光の照射範囲内で所定形状に制限する光学手段と、
前記所定部位のうち、前記光学手段により制限された前記所定形状の制限照射部を含む範囲を撮像する撮像手段と、
前記所定部位と前記撮像手段との間に設けられ、可視光領域の波長をカットオフする光フィルターと、
前記撮像手段により撮像された画像を表示する表示手段と、
を有することを特徴とする静脈表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の静脈表示装置において、
前記表示手段は、前記制限照射部又はその中心を示す参照マークを有することを特徴とする静脈表示装置。
【請求項3】
請求項1記載の静脈表示装置において、
前記第2照射手段が照射する光は、近赤外領域の波長を含むことを特徴とする静脈表示装置。
【請求項4】
請求項3記載の静脈表示装置において、
前記第1照射手段は、750nm〜950nmの波長を含む光を照射し、
前記第2照射手段は、380nm〜900nmの波長を含む光を照射し、
前記光フィルターのカットオフ波長は、740nm〜800nmであることを特徴とする静脈表示装置。
【請求項5】
請求項1記載の静脈表示装置において、
前記制限照射部はスポット形状であることを特徴とする静脈表示装置。
【請求項6】
請求項5記載の静脈表示装置において、
スポット形状の前記制限照射部の径を調整する径調整機構を有することを特徴とする静脈表示装置。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の静脈表示装置において、
前記制限照射部は十字形状であることを特徴とする静脈表示装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の静脈表示装置において、
前記第1照射手段及び前記第2照射手段により各々照射される光の光量を調整する光量調整機構を有することを特徴とする静脈表示装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の静脈表示装置において、
前記第1照射手段、前記第2照射手段、前記光学手段及び前記撮像手段が設けられた撮像ユニットと前記所定部位との距離を調整する距離調整機構を有することを特徴とする静脈表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−218(P2010−218A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161326(P2008−161326)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】