説明

静電モータ及びその製造方法

【課題】 高精度の工作機械を必要とせずに、固定子と可動子とを相互に正確に位置決めでき、高出力かつ高効率の静電モータを安価に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】 まず、絶縁基板12の表面12aに、複数の電極を形成すると同時にそれら電極から独立した所定輪郭の遮光性マーク30を局所的に形成して、固定子16を作製する。次に、基板表面12aの遮光性マーク30に隣接する絶縁基板の局所的領域52に光54を照射し、それにより局所的領域52を、遮光性マーク30の縁30aに沿って遮光性マークを実質的に損傷せずに除去して、取付凹部28を形成する。そして、固定子16に形成した取付凹部28に、第1支持部材の位置決めピン40を密に嵌入する。それにより、固定子16が正確に位置決めした状態で第1支持部材に取り付けられる。可動子も同様の手順で、正確に位置決めした状態で第2支持部材に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電モータに関する。本発明はまた、静電モータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電モータにおいて、絶縁基板の一表面に複数の電極を等間隔に配置してなる固定子と、他の絶縁基板の一表面に複数の電極を、固定子の電極と同一の間隔で等間隔に配置してなる可動子と、固定子を固定的に支持する第1支持部材と、可動子を固定子に対して移動可能に支持する第2支持部材とを備えたものが知られている。この種の静電モータは、固定子と可動子とを、それぞれの複数の電極(一般に帯状ないし線状電極)を互いに正対させて組み合わせ、両者の電極群に対し例えば並列する3個の電極に3相交流電圧を印加して、対向する電極間で正負の静電力を交番状に生じさせることにより、可動子に、その電極群の整列方向への駆動力を生じるものである。このとき、モータ単体の出力を高める目的で、複数の固定子と複数の可動子とを交互に積層して、対向電極を有する固定子と可動子との組を複数個備えるようにした積層型の構成も知られている。
【0003】
上記種類の静電モータでは、固定子と可動子とは、それぞれの電極群の互いに対向する領域の面積(以下、対向面積と略称する)が個々の電極において最大となるように、互いに正確に位置決めした状態で組み合わされることが、出力及び効率を向上させる点で肝要である。特に、積層型の静電モータでは、一般に固定子及び可動子の双方が薄いフィルム状の絶縁基板を有しているので、両者を互いに正確に位置決めした状態に安定的に支持できる支持機構を備えることが要求される。
【0004】
例えば、可動子が固定子に対して直線移動する直動型の静電モータでは、いずれも簾状の並列配置で形成される固定子の電極群と可動子(すなわち移動子)の電極群とが、互いに平行でかつ対向面積を最大にして正対するように、固定子及び可動子をそれぞれ正確に位置決めした状態で、高精度のリニアガイドにより可動子を固定子に対して案内支持する必要がある。また、可動子が固定子に対して軸線中心に回転する回転型の静電モータでは、いずれも放射状配置で形成される固定子の電極群と可動子(すなわち回転子)の電極群とが、互いに同心でかつ対向面積を最大にして正対するように、固定子及び可動子をそれぞれ正確に位置決めした状態で、高精度のベアリングにより可動子を固定子に対して同心に支持する必要がある。
【0005】
ここで、上記した静電モータの固定子及び可動子は、プリント基板作製技術を利用して作製することができる。つまり、表面に銅箔を張り合わせた絶縁基板の銅箔上に感光性のレジスト層を形成し、固定子又は可動子の電極パターンを描画した版フィルムをレジスト層に重ねて露光することによりパターニングし、露光パターンに従って銅箔の不要部分をエッチングにより除去して、所定パターンで整列した電極群を形成する。その後、絶縁基板の露出表面及び電極群の全体を覆うように、電気絶縁層を形成する。
【0006】
上記した固定子及び可動子の作製工程においては、パターニング前又はエッチング後の絶縁基板に、パンチやドリル等を用いた機械加工により、固定子及び可動子を第1及び第2支持部材に取り付けるための複数の貫通穴を形成することができる。そして、第1及び第2支持部材にはそれぞれ、所定位置に複数の位置決めピンを固定的に立設しておき、それら位置決めピンを対応の貫通穴に嵌入することにより、固定子及び可動子が第1及び第2支持部材に、所定位置に位置決めした状態で固定的に取り付けられる。なお、特許文献1には、位置決め用の複数の貫通穴を有する固定子と、個々の貫通穴に嵌入される複数の位置決めピンを有する支持部材とを備えた回転型の静電モータが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−149858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固定子や可動子に位置決め用の貫通穴を機械加工により形成する上記方法では、一般に、絶縁基板の所定の穴加工位置に予め印刷等によりマークを付与し、そのマークをCCD(電荷結合デバイス)カメラ等の視覚センサにより認識し、認識したマークに対し、ボール盤やプレス機械等の工作機械によりドリルやパンチ等の工具を正確に対向させて穴あけ加工を実施する。この機械加工工程においては、絶縁基板上でのマークの位置ずれ、工作機械の工具ホルダ上での工具の位置ずれ、工具のエッジの損耗、工作機械の送り動作精度の低さ、加工中の絶縁基板自体の変形等が、貫通穴の位置精度、すなわち固定子や可動子の位置決め精度を悪化させる要因となる。
【0009】
例えば回転型の静電モータでは、固定子及び可動子(回転子)に形成した位置決め用の貫通穴の位置誤差により、固定子と可動子とが、両者の放射状電極群の中心点に径方向への位置ずれを有した状態で組み合わされる場合がある。この場合、固定子の個々の電極と可動子の個々の電極との対向面積が減少し、トルクが低下することが予測される。しかも、放射状電極群のピッチと位置ずれ距離との関係によっては、電極群の周方向位置に応じて正方向の静電力(すなわちトルク)と逆方向の静電力(すなわち制動力)とを生じることが危惧される。また、直動型の静電モータでは、固定子及び可動子(移動子)に形成した位置決め用の貫通穴の位置誤差により、固定子と可動子とが、両者の簾状電極群が互いに斜交するような回転方向への位置ずれを有した状態で組み合わされる場合がある。この場合、固定子の個々の電極と可動子の個々の電極との対向面積が減少し、推力が低下することが予測される。しかも、簾状電極群のピッチと位置ずれ角度との関係によっては、個々の電極の長手方向両端で、回転方向への位置ずれをさらに促進するような静電力(すなわち偶力)を生じることが危惧される。このような固定子と回転子との相対的位置ずれの問題を解決するために、穴あけ加工を実施する工作機械に高精度のものを使用することは、製造工程の複雑さと相乗して、静電モータの製造コストを高騰させる要因となる。
【0010】
本発明の目的は、静電モータの製造方法であって、高精度の工作機械を必要とせずに、固定子と可動子とを相互に正確に位置決めでき、高出力かつ高効率の静電モータを安価に製造できる製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、そのような製造方法によって安価に製造された高出力かつ高効率の静電モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、絶縁基板の一表面に複数の電極を等間隔に配置してなる固定子と、絶縁基板の一表面に複数の電極を、固定子の電極と同一の間隔で等間隔に配置してなる可動子と、固定子を固定的に支持する第1支持部材と、可動子を固定子に対して移動可能に支持する第2支持部材とを備えた静電モータの製造方法であって、絶縁基板の表面に、複数の電極を形成すると同時に、複数の電極から独立した所定輪郭の遮光性マークを局所的に形成して、固定子及び可動子の少なくとも一方を作製し、絶縁基板の表面に形成した遮光性マークに隣接する絶縁基板の局所的領域に光を照射し、それにより、局所的領域を、遮光性マークの縁に沿って遮光性マークを実質的に損傷せずに除去して、固定子及び可動子の少なくとも一方に取付凹部を形成し、固定子及び可動子の少なくとも一方に形成した取付凹部を用いて、固定子及び可動子の少なくとも一方を、対応の第1支持部材及び第2支持部材の少なくとも一方に取り付けること、を特徴とする静電モータの製造方法を提供する。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の静電モータの製造方法において、固定子及び可動子の少なくとも一方を作製するステップは、絶縁基板の表面に設けた金属皮膜から、パターニング及びエッチングにより、複数の電極及び遮光性マークを同時に形成するステップを含む製造方法を提供する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の静電モータの製造方法において、遮光性マークがレーザ光を反射する材料から形成され、取付凹部を形成するステップは、絶縁基板の局所的領域にレーザ光を照射することにより、局所的領域を熱的に除去するステップを含む製造方法を提供する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の静電モータの製造方法において、レーザ光を照射するステップは、レーザ光を反射するマスクを用いて、局所的領域を露出させる一方で遮光性マークの少なくとも一部分と絶縁基板の遮光性マークに隣接する他の領域とを保護した状態で行われる製造方法を提供する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の静電モータの製造方法において、レーザ光が炭酸ガスを媒質としたものである製造方法を提供する。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1又は2に記載の静電モータの製造方法において、絶縁基板が感光性材料から作製され、取付凹部を形成するステップは、遮光性マークをマスクとして絶縁基板の局所的領域を露光した後に、局所的領域を化学的に除去するステップを含む製造方法を提供する。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法において、固定子及び可動子の少なくとも一方を作製するステップは、絶縁基板の表面に形成した複数の電極及び遮光性マークを覆うように絶縁層を形成するステップを含み、取付凹部を形成するステップは、局所的領域の除去と同時に同一手法で、局所的領域に対応して絶縁層を局所的に除去するステップを含む製造方法を提供する。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法において、遮光性マークが環状の輪郭を有し、局所的領域が遮光性マークの内側の領域である製造方法を提供する。
【0019】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法において、遮光性マークが中実の輪郭を有し、局所的領域が遮光性マークの外側の領域である製造方法を提供する。
【0020】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法において、取付凹部が、絶縁基板を貫通する穴である製造方法を提供する。
【0021】
請求項11に記載の発明は、絶縁基板の一表面に複数の電極を等間隔に配置してなる固定子と、絶縁基板の一表面に複数の電極を、固定子の電極と同一の間隔で等間隔に配置してなる可動子と、固定子を固定的に支持する第1支持部材と、可動子を固定子に対して移動可能に支持する第2支持部材とを備えた静電モータであって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により製造されたことを特徴とする静電モータを提供する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の発明によれば、絶縁基板の局所的領域の除去に際して光の照射を利用したから、絶縁基板の表面に電極群と同時に形成した遮光性マークの縁が、実質的に変形することなく、絶縁基板に形成される取付凹部の輪郭を画定することになる。したがって、形成手法に依存した取付凹部の位置精度が向上し、固定子及び可動子の少なくとも一方を正確に位置決めした状態で、第1及び第2支持部材の少なくとも一方に取り付けることができる。光照射手法を採用することで、高精度の工作機械を用いる必要が無くなり、以って高出力かつ高効率の静電モータを安価に製造できるようになる。
なお、本明細書で「取付凹部」という用語で規定される構成要件は、後述するように、絶縁基板を厚み方向へ貫通する穴、絶縁基板の表面に凹設される有底の窪み、絶縁基板の縁から所望長さに切り込まれるスリット等、絶縁基板の他部分に対し段差を形成し得るあらゆる形態の凹部を含むものである。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、パターニング及びエッチングの技術的限界により、絶縁基板の輪郭に対する電極及び遮光性マークの位置に誤差が含まれていたとしても、電極と遮光性マークとの間の相対位置誤差を可及的に低減でき、したがって取付凹部の位置精度を確保できる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、絶縁基板の局所的領域を迅速かつ正確に除去することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、局所的領域に対するレーザ光の照射位置に誤差が含まれている場合にも、絶縁基板の局所的領域以外の領域を損傷することなく、局所的領域を正確に除去することができる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、高効率の熱的除去を実現できる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、遮光性マークの損傷を確実に防止して絶縁基板の局所的領域を正確に除去することができる。
【0028】
請求項7に記載の発明によれば、静電モータの固定子及び可動子の少なくとも一方において、絶縁破壊を確実に防止した状態で、位置決め精度を向上させることができる。
【0029】
請求項8に記載の発明によれば、取付凹部の形状を正確に制御できるとともに、遮光性マークの識別が容易になる。
【0030】
請求項9に記載の発明によれば、遮光性マークの形状に制限されること無く取付凹部を形成できる。
【0031】
請求項10に記載の発明によれば、第1及び第2支持部材の少なくとも一方に、取付凹部に対応して形成される位置決め要素の構成を簡略化しつつ、安定した位置決め機能を発揮させることができる。
【0032】
請求項11に記載の発明によれば、固定子と可動子とを相互に正確に位置決めした高出力かつ高効率の静電モータが安価に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図面を参照すると、図1は、本発明の一実施形態による静電モータ10の基本構成を示す分解斜視図、図2及び図3は、静電モータ10の2つの構成要素をそれぞれに示す平面図、図4及び図5は、静電モータ10を製造するための本発明の第1の実施形態による製造方法を模式図的に示す図である。
【0034】
図1に示すように、静電モータ10は、絶縁基板12の一表面12aに複数の電極14を等間隔に配置してなる固定子16と、他の絶縁基板18の一表面18aに複数の電極20(図3)を等間隔に配置してなる可動子22と、固定子16を固定的に支持する第1支持部材24と、可動子22を固定子16に対して移動可能に支持する第2支持部材26とを備える。固定子16の各電極14と可動子22の各電極20とは互いに同一の形状及び寸法を有し、前者の電極群14と後者の電極群20とは、互いに同一の間隔(或いはピッチ)で同一の配列形態に配置される。静電モータ10は、可動子22が固定子16に対して軸線中心に回転する回転型の構成を有する。
【0035】
図2に示すように、固定子16は、略円形の内周縁16aと略正方形の外周縁16bとを軸線16cに関して同心に有する環状のフィルム状部材であり、内周縁16aに近接して、複数の帯状の電極14が軸線16cを中心に放射状に設けられる。固定子16の外周縁16b近傍の四隅には、固定子16を第1支持部材24に固定的に取り付けるための取付凹部28が、軸線16cから等距離の位置にそれぞれ形成される。各取付凹部28は、略円形の開口を有して絶縁基板12を貫通する穴の形態を有する。また、個々の取付凹部28は、絶縁基板12の表面12aに電極群14から独立して局所的に形成された環状輪郭の遮光性マーク30によってそれぞれ囲繞されている。固定子16の絶縁基板12は、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等からなる可撓性樹脂フィルムであり、公知のプリント基板作製方法に準じた後述する手順により、基板表面12aに、多数の箔状の電極14と複数(図では4個)の箔状の遮光性マーク30とが形成される。
【0036】
図3に示すように、可動子(すなわち回転子)22は、略円形の内周縁22aと略円形の外周縁22bとを軸線22cに関して同心に有する環状のフィルム状部材であり、外周縁22bに近接して、複数の帯状の電極20が軸線22cを中心に放射状に設けられる。可動子22の内周縁22a近傍の対称4箇所には、可動子22を第2支持部材26に固定的に取り付けるための取付凹部32が、軸線22cから等距離の位置にそれぞれ形成される。各取付凹部32は、略円形の開口を有して絶縁基板18を貫通する穴の形態を有する。また、個々の取付凹部32は、絶縁基板18の表面18aに電極群20から独立して局所的に形成された環状輪郭の遮光性マーク34によってそれぞれ囲繞されている。回転子22の絶縁基板18は、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等からなる可撓性樹脂フィルムであり、公知のプリント基板作製方法に準じた後述する手順により、基板表面18aに、多数の箔状の電極20と複数(図では4個)の箔状の遮光性マーク34とが形成される。
【0037】
なお、図示しないが、固定子16及び回転子22にはそれぞれ、絶縁基板12、18の表面12a、18aの全体及びその反対側の裏面の全体に渡って、表面12a、18aに形成した複数の電極14、20及び遮光性マーク30、34を覆うように、電極間の電気的絶縁性を確保するための絶縁層が形成されている。これらの絶縁層は、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等からなる可撓性樹脂フィルムから構成され、例えば接着剤層を介して基板表面12a、18aに固着される。そして図示実施形態では、固定子16及び回転子22の各取付凹部28、32は、これら絶縁層及び接着剤層を貫通して形成されている。
【0038】
図1に示すように、固定子16を支持する第1支持部材24は、固定子16の外周縁16bの輪郭に対応する平面視で略正方形の輪郭を有した無蓋箱状部材であり、底壁36と、底壁36の外周縁に沿って延設される周壁38とを一体的に有する。第1支持部材24の底壁36の周壁38に近接した四隅には、固定子16の取付凹部28に個別に受容される位置決めピン40が、それぞれ直立状に立設される。各位置決めピン40は、対応の取付凹部28の略円形開口に実質的に隙間無く嵌入される略円筒形状を有する。対応の取付凹部28に適正に嵌入された複数(4個)の位置決めピン40は、可撓性を有するフィルム状の固定子16を、本来の平坦形状に一様に広げた様態で固定的に支持する。
【0039】
また、可動子22を支持する第2支持部材26は、可動子22の内周縁22aが画定する略円形空洞に好ましくは実質的に隙間無く受容される略円筒状の軸部42と、軸部42の軸線方向一端で径方向外方へ環状に延設されるフランジ部44とを一体的に有する。第2支持部材26のフランジ部44には、軸部42の周囲の対称4箇所に、可動子22の取付凹部32に個別に受容される位置決めピン46が、それぞれ直立状に立設される。各位置決めピン46は、対応の取付凹部32の略円形開口に実質的に隙間無く嵌入される略円筒形状を有する。対応の取付凹部32に適正に嵌入された複数(4個)の位置決めピン46は、可撓性を有するフィルム状の可動子22を、本来の平坦形状に一様に広げた様態で固定的に支持する。
【0040】
第1支持部材24は、底壁36と周壁38とによって画定される凹所に、位置決めピン40に取り付けた固定子16と、第2支持部材26の位置決めピン46に取り付けた可動子22との、双方を収容する。第2支持部材26は、第1支持部材24の底壁36の中央領域に、フランジ部44を底壁36に近接させた姿勢で、軸受装置(図示せず)を介して回動自在に搭載される。第2支持部材26は、軸部42及び複数(4個)の位置決めピン46が、第1支持部材24に支持された固定子16の内周縁16aが画定する略円形空洞を非接触に貫通して可動子22に取り付けられた状態で、第1支持部材24及び固定子16に対し、可動子22と一体的に軸線26aを中心に回転することができる。
【0041】
上記構成を有する静電モータ10では、取付凹部28、32と位置決めピン40、46とからなる取付機構により、固定子16及び可動子22は、両者の軸線16c、22cが第2支持部材26の回転軸線26aに合致し、かつ前者の電極群14と後者の電極群20とが互いに同心で対向面積を最大にして正対するように、それぞれ正確に位置決めした状態で、第1及び第2支持部材24、26に支持される。したがって、固定子16及び可動子22のそれぞれの電極群14、20に対し、例えば並列する3個の電極に3相交流電圧を印加して、対向する電極14、20の間で正負の静電力を交番状に生じさせることにより、可動子22に、その電極群20の整列方向への駆動力を高出力かつ高効率で生じさせることができる。
【0042】
静電モータ10における固定子16及び可動子22の上記した取付機構による高精度の位置決め機能は、主として取付凹部の形成手順に顕著な特徴を有する本発明の静電モータ製造方法を採用することにより、確保されるものである。以下、図4及び図5を参照して、本発明の第1の実施形態による静電モータ製造方法を、図1に示す静電モータ10の固定子16の構成に関連して説明する。なお、図示実施形態による静電モータ製造方法は、図1に示す静電モータ10の可動子22に対しても同様に適用できるものである。
【0043】
まず、絶縁基板12の表面12aに、複数の電極14を形成すると同時に、それら電極14から独立した遮光性マーク30を局所的に形成して、固定子16を作製する(図1)。この固定子作製ステップでは、絶縁基板12の表面12aの全体に一様な厚みに設けた金属皮膜から、公知のプリント基板製造方法に準じるパターニング(写真法又はスクリーン印刷法による)及びエッチングの技術により、それぞれに所定輪郭を有する箔状の複数の電極14及び遮光性マーク30を同時に形成することができる。このような手法によれば、パターニング及びエッチングの技術的限界により、絶縁基板12の輪郭に対する電極14及び遮光性マーク30の位置に誤差が含まれていたとしても、電極14と遮光性マーク30との間の相対位置誤差を可及的に低減することができる。図4(a)及び図5(a)は、このようにして作製した固定子16の、遮光性マーク30の周辺部分を拡大して示す。なお、図4には、絶縁基板12の表面12a及び裏面12bの双方に接着剤層48を介して被着される絶縁層50が示されている。また図5は、表面12a側の接着剤層48及び絶縁層50を省略して示す。
【0044】
次に、絶縁基板12の表面12aに形成した遮光性マーク30に隣接する絶縁基板12の局所的領域52に光54を照射し(図4(b)及び図5(b))、それにより、局所的領域52を、遮光性マーク30の縁30aに沿って遮光性マーク30を実質的に損傷せずに除去して、固定子16に取付凹部28を形成する(図4(c)及び図5(c))。図示実施形態では、絶縁基板12の局所的領域52は、環状の輪郭を有する遮光性マーク30の内側の領域である。この取付凹部形成ステップでは、図4(b)及び図5(b)に示すように、絶縁基板12の局所的領域52に、表面12aに対し略鉛直方向へ所要出力のレーザ光54を照射することにより、局所的領域52を熱的に除去することができる。このとき、絶縁基板12の局所的領域52の除去と同時に同一手法(レーザ光照射)で、局所的領域52に対応して、絶縁基板12の両面の絶縁層50及び接着剤層48も局所的に除去することができる。
【0045】
レーザ光54の照射により絶縁基板12の局所的領域52を除去する上記手法では、遮光性マーク30は、例えば電極14と同一の金属材料(例えば銅)等の、レーザ光54に対して電磁的に反射性の高い材料から形成される。また、絶縁基板12は、前述したポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等の、レーザ光54に対し吸収率の高い材料から形成される。同様の観点で、絶縁基板12の両面に被着される絶縁層50を例えばポリイミド樹脂から形成し、接着剤層48を例えばエポキシ樹脂から形成する。換言すれば、レーザ光54の媒質として例えば、銅による反射性が高く、かつポリイミド樹脂やエポキシ樹脂による吸収率が高い媒質(例えば炭酸ガス)を使用することができる。
【0046】
レーザ光54は、絶縁基板12の局所的領域52だけでなく、縁(内周縁)30aを越えて遮光性マーク30の一部分に至る範囲56に照射することが好ましい(図4(b)及び図5(b))。このようにすれば、絶縁基板12に対するレーザ光54の照射位置に誤差が含まれていた場合にも、遮光性マーク30の縁30aに沿って局所的領域52を正確に除去することができる。この場合、絶縁基板12の表面12a側の接着剤層48及び絶縁層50は、レーザ光54の照射範囲まで除去されるが、遮光性マーク30によって覆われた絶縁基板12の領域は、その裏面12b側の接着剤層48及び絶縁層50と共に、除去されずに残留する(図4(c))。つまり、上記手法によれば、絶縁基板12の表面12aにパターニング及びエッチングにより形成した遮光性マーク30の縁30aが、実質的に変形することなく、絶縁基板12(並びに裏面12b側の接着剤層48及び絶縁層50)を貫通する取付凹部28の円筒状輪郭を画定する。なお、レーザ光54を遮光性マーク30の一部分まで照射する場合には、遮光性マーク30の位置とレーザ光54の照射位置との間に生じ得る相対誤差を予め想定して、遮光性マーク30の寸法(環の幅)を余裕を持って設計することが望ましい。
【0047】
最後に、上記した手法で所要個数の取付凹部28を形成した固定子16を、その取付凹部28を用いて、第1支持部材24に取り付ける。つまり、第1支持部材24に設けた所要個数の位置決めピン40を、固定子16の対応の取付凹部28に、実質的に隙間無く嵌入する(図4(d))。それにより固定子16は、その軸線16cが第2支持部材26の回転軸線26aに合致するように正確に位置決めした状態(図1)で、第1支持部材24に支持される。なお、位置決めピン40は、その寸法及び形状を、一般的な機械加工により高精度に仕上げることができる。また図示実施形態では、絶縁基板12の裏面12b側に被着した絶縁層50が、遮光性マーク30の領域における絶縁基板12の機械的補強層としても機能するから、固定子16を位置決めピン40上で安定的に保持することができる。
【0048】
可動子22に関しても、上記と同様の手順により、絶縁基板18の局所的領域を遮光性マーク34の縁に沿って正確に除去することにより、取付凹部32が高精度に形成される。そして、第2支持部材26の位置決めピン46を対応の取付凹部32に密に嵌入することにより、可動子22は、その軸線22cが第2支持部材26の回転軸線26aに合致するように正確に位置決めした状態(図1)で、第2支持部材26に支持される。このようにして、固定子16と可動子22とを、前者の電極群14と後者の電極群20とが互いに同心で対向面積を最大にして正対するように、それぞれ正確に位置決めした状態で第1及び第2支持部材24、26に支持してなる静電モータ10が完成する。
【0049】
上記したレーザ光照射ステップに際しては、図5(b)に示すように、絶縁基板12の局所的領域52の全体を一度に照射する手法だけでなく、図6に示すように、さらに集束させたレーザ光54により局所的領域52内をスポット的に照射して照射点を走査することにより、局所的領域52を除去することもできる。この照射手法によれば、レーザ装置の出力が低い場合にも、集束した高エネルギーのレーザ光54により局所的領域52を迅速に除去することができ、結果として、除去対象でない周囲材料(絶縁基板12や遮光性マーク30)への熱的影響を低減できる。また、後述するように種々の輪郭を有する遮光性マーク30を用いる場合に、レーザ光54の集束点の走査により遮光性マーク30の多様な縁30aに沿って局所的領域52を確実に除去することができる。
【0050】
さらに、レーザ装置の出力は高いが集束率が低い場合や、レーザ装置と固定子16又は可動子22との相対位置合せ精度が低い場合には、図7に示すように、レーザ光54を反射する別体のマスク58を用いて、局所的領域52を露出させる一方で遮光性マーク30の少なくとも一部分と絶縁基板12の遮光性マーク30に隣接する他の領域とを保護した状態で、レーザ光照射を実行することが有利である。この場合、マスク58は、金属等のレーザ光54に耐性のある材料から作製され、絶縁基板12の表面12a(又はその上の絶縁層50(図4))に密着又は近接させて配置される。図示の例では、マスク58は略円形の開口58aを有し、局所的領域52の全体及び遮光性マーク30の縁30aの近傍部分を開口58a内に露出させる一方で、遮光性マーク30の他部分及び遮光性マーク30の外側の絶縁基板12の一部分を被覆する。この構成では、遮光性マーク30に対するレーザ光54の実際の照射範囲を予め想定してマスク58の寸法を設計するとともに、マスク58と絶縁基板12との間の位置ずれを遮光性マーク30の遮光部分の寸法(環の幅)以内に抑えることにより、レーザ光54の照射範囲が遮光性マーク30に対しずれていたりさらに広範囲であったりした場合にも、局所的領域52を正確に除去することができる。
【0051】
取付凹部28の形成手段としてレーザ光54を用いる上記手法においては、絶縁基板12の局所的領域52を、遮光性マーク30の縁30aに沿って遮光性マーク30を実質的に損傷せずに除去できるように、レーザ光54の出力等の加工条件を調整する必要がある。一例として、スポット照射したレーザ光54を適当に走査して局所的領域52を除去する手法(図6)では、内径3mmの円環状の銅箔からなる遮光性マーク30を有する厚さ25μmのポリイミド製絶縁基板12の両面に、厚さ12.5μmのポリイミド製絶縁層50をエポキシ系接着剤層48で貼り合わせて作製した固定子16に対し、波長10.6μmの炭酸ガスレーザ光54を、直径100μmに集光した約3×109W/m2のエネルギー密度で、絶縁基板12の局所的領域52及び遮光性マーク30の一部分を含む範囲56に毎秒100mmで走査式に照射したところ、遮光性マーク30の縁30aの内径は、レーザ光照射前の内径に比べて、最大10μmの拡張を示した。本発明において、絶縁基板12の局所的領域52を除去する際の、「遮光性マーク30の縁30aに沿って遮光性マーク30を実質的に損傷せずに」という要件は、この程度の損傷までを許容するものとする。遮光性マーク30の縁30aの内径(すなわち取付凹部28の内径)のこの程度の損傷ないし拡張は、機械的な切削除去工程に依存して絶縁基板12の局所的領域52を除去する構成に比較して、格段に微少なものであって、固定子16の高精度の位置決め並びにそれによる静電モータ10の高出力化及び高効率化に十分に寄与するものである。
【0052】
図8は、本発明の第2の実施形態による静電モータ製造方法を示す。この実施形態では、固定子及び可動子の少なくとも一方に取付凹部を形成するステップにおいて、前述したレーザ光照射による熱的除去手法に代えて、フォトリソグラフィの技術を採用している。他の構成は、前述した第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。また図8においては、図4で説明した各構成要素に対応する構成要素に、共通の参照符号を付す。
【0053】
第2の実施形態では、固定子16の絶縁基板12並びに接着剤層48及び絶縁層50は、ポジ型感光性を有する材料から作製される。そして、取付凹部28を形成するステップは、遮光性マーク30をマスクとして絶縁基板12の局所的領域52を光60により露光し(図8(b))、その後、特定の現像液(図示せず)を用いて局所的領域52を化学的に除去する(図8(c))ことにより行われる。ここで、局所的領域52を露光する光60としては、絶縁基板12等の感光性材料に対して光子吸収効率が高い紫外線を使用することができる。或いは、露光時間を短縮するために、アルゴンイオンレーザ、エキシマレーザ等のレーザ光を用いたり、電子ビームを用いたりすることもできる。いずれの場合も、光60は第1実施形態におけるレーザ光54と異なり、感光性材料を光化学反応により除去するためのものであるから、遮光性マーク30を熱的に損傷することは無い。つまり、この手法によっても、絶縁基板12の表面12aにパターニング及びエッチングにより形成した遮光性マーク30の縁30aが、実質的に変形することなく、絶縁基板12(並びに裏面12b側の接着剤層48及び絶縁層50)を貫通する取付凹部28の円筒状輪郭を画定する。
【0054】
上記手法においても、絶縁基板12の局所的領域52を遮光性マーク30の縁30aに沿って正確に除去するために、局所的領域52と遮光性マーク30の一部分とを含む範囲56に渡って、光60を照射することが有利である(図8(b))。ここで、露光後に絶縁基板12を現像液に浸す前に、絶縁基板12(並びに接着剤層48及び絶縁層50)にポストベーキング処理を施して、現像液(アルカリ剤)との反応時の触媒となる酸やラジカルを感光性材料の露光部分に発生させることが有効である。また、露光時に、図7に示すようなマスク58を用いて、局所的領域52以外の感光性材料を確実に露光させないようにすることもできる。
【0055】
最後に、上記した手法で所要個数の取付凹部28を形成した固定子16を、その取付凹部28を用いて、第1支持部材24に取り付ける。つまり、第1支持部材24に設けた所要個数の位置決めピン40を、固定子16の対応の取付凹部28に、実質的に隙間無く嵌入する(図8(d))。それにより固定子16は、その軸線16cが第2支持部材26の回転軸線26aに合致するように正確に位置決めした状態(図1)で、第1支持部材24に支持される。なお、この取付作業の前に、絶縁基板12並びに接着剤層48及び絶縁層50にポストキュア処理を施して、特に遮光性マーク30の周辺の材料を硬化させることにより、位置決め精度をさらに向上させることもできる。
【0056】
本発明において、絶縁基板(12、18)の表面(12a、18a)に形成される遮光性マーク(30、34)は、様々な輪郭形状を有するものを、適宜選択して採用できる。例えば、上記した各実施形態におけるように、円環状の輪郭形状を有する遮光性マーク30(図9(a)参照)を採用した場合には、その内周縁30aに沿って形成される取付凹部28に円筒形状が付与されるので、支持部材24、26側には機械加工が容易な円柱形の位置決めピン40(図1)を採用できる。しかもその場合には、取付凹部28と位置決めピン40との間の隙間を可及的に削減できるから、位置決めピン40によって絶縁基板12の取付凹部28の周辺部分に及ぼされる変形(応力)を低減することができる。また、例えばCCDカメラで遮光性マーク30の位置を検出する際に、円環状の輪郭形状は一般に最も検出し易い形状である。
【0057】
また、図9(b)に示すように、矩形又は多角形状の環状輪郭を有する遮光性マーク30を採用することもできる。この場合には、遮光性マーク30の多角形の一辺に相当する部分を、固定子16と可動子22との間で駆動力を生じる方向に対して直交するように方向付けることにより、静電モータ10の動作中に生じる遮光性マーク30の周辺部分への応力集中を軽減できる利点がある。また、オペレータが目視で直接的に遮光性マーク30を認識する際には、円形輪郭よりも多角形輪郭の方が認識し易い傾向がある。
【0058】
また、図10及び図11に示すように、中空環状の輪郭に限らず、中実の輪郭を有する遮光性マーク30を採用することもできる。この場合には、除去対象となる絶縁基板12の局所的領域52は、遮光性マーク30の外側の領域となる。例えば図10(a)に示すように、それぞれに中実矩形輪郭を有する複数の遮光性マーク30を、互いに離間して環状に配置することができる。この場合、それら遮光性マーク30によって囲繞される局所的領域52を、熱的又は化学的手法により除去することにより、図10(b)に示すような、隣り合う遮光性マーク30の間の領域で縁30aに沿って僅かに拡張した略円形輪郭の取付凹部28を形成することができる。この構成によれば、取付凹部28の内周面に露出する絶縁基板12の縁部分に除去材料の残滓が残留している場合にも、取付凹部28に位置決めピン40を嵌入したときに、そのような残滓が隣り合う遮光性マーク30の間の拡張領域に押しやられるので、取付凹部28と位置決めピン40との密着性を向上させて、固定子16及び可動子22の位置決め精度を一層向上させることができる。
【0059】
また、図11(a)に示すように、中実矩形輪郭を有する1つの遮光性マーク30の両側の局所的領域52を、熱的又は化学的手法により除去することにより、遮光性マーク30を中心として一対の取付凹部28を形成することもできる。この場合、取付凹部28の形状は、遮光性マーク30によって覆われる絶縁基板12の部分が脱落しないような形状であれば、別体のマスク等を用いて自由に設計することができる。このような取付凹部28に対しては、図11(b)に示すような二股状先端40aを有する位置決めピン40を用意して、絶縁基板12の遮光性マーク30を有する部分を二股状先端40aの間に嵌入することにより、固定子16又は可動子22を第1又は第2支持部材24、26に取り付けることができる。この構成においても、取付凹部28の内面に露出する絶縁基板12の縁部分に除去材料の残滓が残留している場合に、取付凹部28に位置決めピン40を嵌入することにより、そのような残滓を取付凹部28内の二股状先端40aの外側の隙間に押しやって、絶縁基板12の遮光性マーク30を有する部分と位置決めピン40との密着性を向上させ、固定子16及び可動子22の位置決め精度を一層向上させることができる。
【0060】
さらに、上記各実施形態では、遮光性マーク30の縁30aに沿って形成される取付凹部28は、いずれも絶縁基板12を貫通する穴の形態を有するものとして説明したが、本発明では、貫通穴以外の様々な凹状形態を有する取付凹部を採用することができる。例えば、固定子16に関連して図12(a)に示すように、絶縁基板12の表面12aに局部的に凹設される有底の窪みからなる取付凹部28を採用することもできる。そのような有底窪状の取付凹部28(32)は、取付凹部の形成ステップにおける熱的又は化学的除去手法の加工条件を適当に調整することにより、実現できる。またこの場合、支持部材24(26)には、位置決めピン40(46)に代えて、有底窪状の取付凹部28(32)に安定的に係合可能な位置決め突起を設けることができる。さらに、可動子22に関連して図12(b)、(c)に示すように、絶縁基板18の縁(図では可動子22の内周縁22a)から所望長さに切り込まれる細長いスリットからなる取付凹部32を採用することもできる。この場合、遮光性マーク34(30)は、支持部材26(24)の位置決めピン46(40)を最終的に受容する取付凹部32(28)のスリット終端領域のみに設けておく(図12(b))こともできるし、取付凹部32(28)の全体に渡って設けておく(図12(c))こともできる。
【0061】
本発明に係る静電モータ製造方法は、モータ単体の出力を高める目的で複数の固定子と複数の可動子とを交互に積層してなる積層型の静電モータにも適用できる。図13は、そのような本発明の他の実施形態による積層型の静電モータ100を示す。静電モータ100は、複数の固定子と複数の可動子との積層構造とした点以外は、図1の静電モータ10と実質的同一の構成を有するので、対応する構成要素には共通の参照符号を付してその説明を省略する。
【0062】
静電モータ100では、互いに積層される固定子16同士の間に可動子22を挿入する隙間を維持するとともに、互いに積層される可動子22同士の間に固定子16を挿入する隙間を維持するための、スペーサ構造が設けられる。図示実施形態では、そのようなスペーサ構造は、各固定子16の絶縁基板12に、放射状電極群14の配置領域の外側に形成される肉厚部分102と、各可動子22の絶縁基板18に、放射状電極群14の配置領域の内側に形成される肉厚部分104(図14)とから構成される。各固定子16には、複数の取付凹部28が、絶縁基板12の肉厚部分102を貫通する穴として、前述した本発明に係る取付凹部形成手法によって、遮光性マーク30の内側に形成される。同様に、各可動子22には、複数の取付凹部32が、絶縁基板18の肉厚部分104を貫通する穴として、前述した本発明に係る取付凹部形成手法によって、遮光性マーク34の内側に形成される(図14)。
【0063】
上記構成においても、複数の固定子16と複数の可動子22とは、互いに交互に積層した配置で、第1支持部材24の複数の位置決めピン40を各固定子16の対応の取付凹部28に密に嵌入するとともに、第2支持部材26の複数の位置決めピン46を各可動子22の対応の取付凹部32に密に嵌入することにより、それぞれの軸線16c、22cが第2支持部材26の回転軸線26aに合致するように正確に位置決めした状態で、第1及び第2支持部材24、26に支持される。したがって、個々の固定子16及び可動子22のそれぞれの電極群14、20に対し、例えば並列する3個の電極に3相交流電圧を印加して、対向する電極14、20の間で正負の静電力を交番状に生じさせることにより、複数の可動子22に、その電極群20の整列方向への駆動力を高出力かつ高効率で生じさせることができる。
【0064】
以上、本発明の幾つかの好適な実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲の記載範囲内で様々な修正を施すことができる。例えば、可動子が固定子に対して直線移動する直動型の静電モータにも、本発明に係る製造方法及びそれによって実現される機械構成を適用することができる。また、固定子及び可動子の少なくとも一方に前述した光照射手法によって取付凹部を形成する構成も、本発明の範囲内であり、そのような構成によっても、機械的な切削除去工程に依存して絶縁基板の局所的領域を除去する構成に比較すれば、固定子と可動子との相対的な位置決め精度を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態による静電モータの基本構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1の静電モータの一構成要素である固定子の平面図である。
【図3】図1の静電モータの一構成要素である可動子の平面図である。
【図4】(a)〜(d)はそれぞれ、図1の静電モータを製造するための、本発明の第1の実施形態による製造方法の主要ステップを、断面図で模式図的に示す。
【図5】(a)〜(c)はそれぞれ、図4の(a)〜(c)に対応する主要ステップを斜視図で模式図的に示す。
【図6】図4の製造方法におけるレーザ光照射ステップの変形例を模式図的に示す図である。
【図7】図4の製造方法におけるレーザ光照射ステップの他の変形例を模式図的に示す。
【図8】(a)〜(d)はそれぞれ、図1の静電モータを製造するための、本発明の第2の実施形態による製造方法の主要ステップを、断面図で模式図的に示す。
【図9】(a)及び(b)はそれぞれ、本発明に係る製造方法で採用可能な種々の遮光性マークを示す。
【図10】(a)本発明に係る製造方法で採用可能な他の遮光性マークを示す図、及び(b)その遮光性マークを用いて形成した取付凹部を示す図である。
【図11】(a)本発明に係る製造方法で採用可能なさらに他の遮光性マーク及びそれを用いて形成した取付凹部を示す図、並びに(b)その取付凹部に嵌入可能な位置決めピンを模式図的に示す図である。
【図12】(a)本発明に係る静電モータで採用可能な他の取付凹部を示す図、(b)本発明に係る静電モータで採用可能なさらに他の取付凹部を示す図、及び(c)異なる形状の遮光性マークによって形成された(b)の取付凹部を示す図である。
【図13】本発明に係る製造方法によって製造される本発明の他の実施形態による静電モータの分解斜視図である。
【図14】図13の静電モータの一構成要素である可動子の平面図である。
【符号の説明】
【0066】
10、100 静電モータ
12、18 絶縁基板
14、20 電極
16 固定子
22 可動子
24 第1支持部材
26 第2支持部材
28、32 取付凹部
30、34 遮光性マーク
40、46 位置決めピン
48 接着剤層
50 絶縁層
52 局所的領域
54 レーザ光
58 マスク
60 光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一表面に複数の電極を等間隔に配置してなる固定子と、絶縁基板の一表面に複数の電極を、該固定子の該電極と同一の間隔で等間隔に配置してなる可動子と、該固定子を固定的に支持する第1支持部材と、該可動子を該固定子に対して移動可能に支持する第2支持部材とを備えた静電モータの製造方法であって、
前記絶縁基板の前記表面に、前記複数の電極を形成すると同時に、該複数の電極から独立した所定輪郭の遮光性マークを局所的に形成して、前記固定子及び前記可動子の少なくとも一方を作製し、
前記絶縁基板の前記表面に形成した前記遮光性マークに隣接する該絶縁基板の局所的領域に光を照射し、それにより、該局所的領域を、該遮光性マークの縁に沿って該遮光性マークを実質的に損傷せずに除去して、前記固定子及び前記可動子の少なくとも一方に取付凹部を形成し、
前記固定子及び前記可動子の少なくとも一方に形成した前記取付凹部を用いて、該固定子及び該可動子の少なくとも一方を、対応の前記第1支持部材及び前記第2支持部材の少なくとも一方に取り付けること、
を特徴とする静電モータの製造方法。
【請求項2】
前記固定子及び前記可動子の少なくとも一方を作製するステップは、前記絶縁基板の前記表面に設けた金属皮膜から、パターニング及びエッチングにより、前記複数の電極及び前記遮光性マークを同時に形成するステップを含む、請求項1に記載の静電モータの製造方法。
【請求項3】
前記遮光性マークがレーザ光を反射する材料から形成され、前記取付凹部を形成するステップは、前記絶縁基板の前記局所的領域に、前記光として該レーザ光を照射することにより、該局所的領域を熱的に除去するステップを含む、請求項1又は2に記載の静電モータの製造方法。
【請求項4】
前記レーザ光を照射するステップは、該レーザ光を反射するマスクを用いて、前記局所的領域を露出させる一方で前記遮光性マークの少なくとも一部分と前記絶縁基板の該遮光性マークに隣接する他の領域とを保護した状態で行われる、請求項3に記載の静電モータの製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光が炭酸ガスを媒質としたものである、請求項3又は4に記載の静電モータの製造方法。
【請求項6】
前記絶縁基板が感光性材料から作製され、前記取付凹部を形成するステップは、前記遮光性マークをマスクとして該絶縁基板の前記局所的領域を前記光により露光した後に、該局所的領域を化学的に除去するステップを含む、請求項1又は2に記載の静電モータの製造方法。
【請求項7】
前記固定子及び前記可動子の少なくとも一方を作製するステップは、前記絶縁基板の前記表面に形成した前記複数の電極及び前記遮光性マークを覆うように絶縁層を形成するステップを含み、前記取付凹部を形成するステップは、前記局所的領域の除去と同時に同一手法で、該局所的領域に対応して該絶縁層を局所的に除去するステップを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法。
【請求項8】
前記遮光性マークが環状の輪郭を有し、前記局所的領域が該遮光性マークの内側の領域である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法。
【請求項9】
前記遮光性マークが中実の輪郭を有し、前記局所的領域が該遮光性マークの外側の領域である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法。
【請求項10】
前記取付凹部が、前記絶縁基板を貫通する穴である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の静電モータの製造方法。
【請求項11】
絶縁基板の一表面に複数の電極を等間隔に配置してなる固定子と、絶縁基板の一表面に複数の電極を、該固定子の該電極と同一の間隔で等間隔に配置してなる可動子と、該固定子を固定的に支持する第1支持部材と、該可動子を該固定子に対して移動可能に支持する第2支持部材とを備えた静電モータであって、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により製造されたことを特徴とする静電モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−101631(P2006−101631A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284386(P2004−284386)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】