説明

静電気放電発生箇所の検出方法及び検出装置

【課題】任意の被測定領域で発生した静電気放電の発生箇所と発生時刻を効率的に精度良く特定することのできる手段を提供する。
【解決手段】被測定領域周辺の任意の場所に、照射角度を調整可能な可視レーザー距離計を設置し、その距離計の測定基準点を検出基準点とし、距離計のレーザー光と距離情報を元に、検出基準点に対する角度と距離を高精度に定めた4カ所以上の場所に受信アンテナを配置する。そして、被測定領域内で発生した、静電気放電に伴う電磁波が各アンテナに到達した時間差を解析し、異なる平面上に設置した受信アンテナ間で得られた3つ以上の双曲線の交点を求め、検出基準点に対する静電気放電の発生箇所の位置情報を算出する。そして、検出基準点に設置した可視レーザー距離計の照射角度や、レーザー光反射板までの距離を調整して、レーザー光を、算出された静電気放電の発生箇所に到達させることで、静電気放電の発生箇所を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気放電に伴い発生する電磁波を、予め高精度に位置決めして設置した複数の受信アンテナで受信し、双曲線法を介して静電気放電の発生箇所の座標を算出し、その発生箇所を、効率的で高精度に特定するための検出方法及び検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の放電発生位置の探査方法及び探査装置には、広範囲に設けられた配線設備の部分放電発生箇所を短時間で、精度良く、しかも容易に探査することのできるものがある(特許文献1参照。)。
【0003】
以下、特許文献1で示した従来の配電線部分放電発生位置の探査方法及び探査装置について説明する。
【0004】
この方法は、「第1の測定点で部分放電による電波信号を2本1組となる複数組の受信アンテナで受信し、組を構成する2本の受信アンテナへの電波信号の各到達時間差より、双曲線法を介して部分放電発生源の方向を検出すると共に第1の測定点の緯度、経度情報をGPSにより取り込み、その後、第2の測定点に移動し、第2の測定点で同様の方法で部分放電発生源の方向を検出すると共に第2の測定点の緯度、経度情報をGPSにより取り込み、GPSから取り込んだ各測定点の位置情報と、各測定点で検出された各測定点からの部分放電発生源の方向とを利用して表示装置に表示された配電線路が記録された地図情報上に部分放電発生源の位置を特定し、配電線路と部分放電発生源の位置とを比較して配電線設備の部分放電か否かを判別することを特徴とする配電線部分放電発生位置の探査方法」であり、「移動体に測定点の緯度、経度情報を得るためのGPSアンテナと、部分放電により生じた電波信号を受信するための3本以上の受信アンテナが備えられており、組となる2本の受信アンテナの部分放電発生源からの電波信号の到達時間差を2組分求め、双曲線法を介して部分放電発生源の方向を検出する演算装置と、配電線路が記録された地図情報上に2カ所の各測定点から演算装置により得られた部分放電発生源方向へ伸ばした直線、又は該2本の直線の交点を表示可能な表示装置を備えていることを特徴とする配電線部分放電発生位置の探査装置」とされている。
【0005】
この方法の場合、探査で用いるアンテナの配置が自動車の天井に固定であるため、被測定領域の広さに対して、受信アンテナの配置を広く取れないため、1カ所の測定だけでは放電位置の算出誤差が大きくなるため、探索装置を搭載した自動車を移動し、2カ所で測定するようである。また、配電線路を記録された地図情報を予め準備し、地図情報上に放電源の位置が表示され、配電線路上であるか確認する。
【0006】
しかし、この方法及び装置を用いた静電気放電の発生箇所を検出では、複数箇所で静電気放電が不定期に発生していた場合、時間を変えて測定すると、測定する度に発生源の異なる静電気放電を検出し、発生箇所の特定を見誤ってしまう可能性がある。
また、放電箇所を特定するためには、被測定領域に設置されている機器や人体の位置情報を地図情報として探査装置に入力する必要があり、大変作業性が悪い。
【特許文献1】特開2001−33510公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、任意の被測定領域で発生した静電気放電の発生箇所と発生時刻を、被測定領域にある機器や人体などの位置を計測したり、検出装置に入力する必要なく、効率的に精度良く特定することのできる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電気放電発生箇所の検出方法は、被測定領域周辺の任意の場所に、照射角度を調整可能な可視レーザー距離計を設置し、その可視レーザー距離計の測定基準点を検出基準点とし、角度を調整して照射したレーザー光と、レーザー距離計で得られる距離情報を元に、検出基準点に対する角度と距離を高精度に定めた4カ所以上の場所に受信アンテナを1台ずつ配置する。設置する受信アンテナの内、少なくとも1台の受信アンテナは、別の受信アンテナとは異なる平面上に設置する。設置した全ての受信アンテナは、それぞれ同軸ケーブルなどの高周波伝達経路を介して、全ての受信アンテナで受信した電磁波の電圧レベルの時間的変化を同じ時間軸でデジタルデータとして記録できる計測器の4つ以上のチャンネルにそれぞれ接続する。そして、被測定領域内で発生した、静電気放電に伴い発生する電磁波の電圧レベルの時間的変化を、その計測器で記録する。そして、記録された各チャンネルのデータをもとに、設置した受信アンテナの中の任意の2本のアンテナにおける、静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差を算出し、到達時間差とアンテナの設置位置との関係から、その2本のアンテナに対する双曲線を求める。ここで得られた双曲線上の何れかの点に静電気放電の発生源が存在する。そこで、双曲線を求める作業を、他の組み合わせの任意の2本の受信アンテナ間でも繰り返し行う。その際、異なる平面上に設置した受信アンテナ間で得られた双曲線を含む、3つ以上の双曲線の交点を求めることで、検出基準点に対する静電気放電の発生箇所の位置情報(角度(方位、仰角)、直線距離、XYZ座標)を算出する。そして、検出基準点に設置した可視レーザー距離計の照射角度や、レーザー光反射板までの距離を調整して、レーザー光を、算出された静電気放電の発生箇所に到達させることで、静電気放電の発生箇所を特定することを特徴とする。
【0009】
これによれば、測定領域の広さや受信アンテナを設置可能なスペースの状態、静電気放電以外の外来電磁波の発生状況などに応じて、受信アンテナの設置場所を柔軟に選定し、検出基準点に設けた可視レーザー距離計から照射されるレーザー光の照射角度と、距離を調整することにより、検出基準点に対する角度と距離を高精度に定めた場所に各受信アンテナを効率的に設置することができる。
【0010】
そして、設置した各アンテナで静電気放電に伴い発生する電磁波を受信し、双曲線法によって、検出基準点に対する静電気放電の発生箇所の位置情報(角度(方位、仰角)、直線距離、XYZ座標)を正確に得ることができる。
【0011】
そして、得られた静電気放電の発生箇所の位置情報をもとに、検出基準点に設置した可視レーザー距離計の照射角度や、レーザー光反射板の設置位置を調整して、レーザー光を、算出された静電気放電の発生箇所に到達させることで、静電気放電の発生箇所を特定することができるため、被測定領域に存在している機器や人体などの位置情報を予め測定したり、検知装置に入力する必要がなく、非常に効率的であり、静電気放電の発生箇所の検出精度も高い。
【0012】
請求項2の静電気放電発生箇所の検出装置は、静電気放電に伴い発生する電磁波を受信するための複数の受信アンテナと、各受信アンテナの位置決めや算出された静電気放電の発生箇所を特定するための、照射角度を調整可能な可視レーザー距離計やレーザー光反射板と、各受信アンテナで受信された電磁波を計測器に伝搬するための同軸ケーブルなどの高周波伝達経路と、全ての受信アンテナで受信した電磁波の電圧レベルの時間的変化を同じ時間軸でデジタルデータとして記録できる計測器と、計測器の制御や計測器で記録したデータを読み込み、双曲線法を用いて、検出基準点に対する静電気放電の発生箇所の位置情報を算出、記録、表示する演算装置を備えていることを特徴とする。
【0013】
これによれば請求項1の検出方法を実施するために必要な、静電気放電に伴い発生する電磁波を受信するための複数の受信アンテナの設置や、双曲線法による静電気放電の発生箇所の座標の算出や、検出基準点に対する放電位置の特定が容易であるので、請求項1に記載の検出方法を容易に行うことができる。
【0014】
なお、双曲線法とは、請求項1にも記載したとおり、静電気放電に伴う電磁波を、設置場所の異なる4台以上のアンテナで受信し、各アンテナに電磁波が到達する時間差とアンテナの設置位置の関係から、組み合わせの異なる任意の2本の受信アンテナ間における双曲線をそれぞれ算出し、それらの双曲線の交点を求めることで、電磁波の発生源の位置を特定する手法である。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように本発明により、任意の被測定領域で発生した静電気放電の発生箇所と発生時刻を、被測定領域にある機器や人体などの位置情報を計測したり検出装置に入力する必要なく、効率的に精度良く特定することのできる手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1と図2は、被測定領域に対して検出装置を設置する方法を示す。
図1などにおいて、aは静電気放電の発生箇所を特定したい被測定領域を示しており、その領域に存在するベルトコンベアで部品を搬送中に静電気放電bが発生している様子を表している。その被測定領域a周辺の任意の位置に照射角度を調整可能な可視レーザー距離計21を設置し、その可視レーザー距離計の測定基準点を検出基準点cとする。
【0018】
なお、可視レーザー距離計の測定基準点とは、可視レーザー距離計において、距離を測定する際の基準点を示す。
【0019】
図1の場合、レーザー光の照射角度の調整は、方位及び仰角を精密に調整可能な2軸の回転ステージに可視レーザー距離計を取り付けて行う。この際、可視レーザー距離計の測定基準点が、方位及び仰角の回転軸の中心と一致するように取り付ける。
【0020】
なお、レーザー光の照射角度を調整する機構については、可視レーザー距離計の測定基準点を中心にレーザー光の角度調整が可能なものであれば良く、2軸の回転ステージに限定するものではない。例えば、可視レーザー距離計自体に照射角度の調整機能を有するものでも良い。
【0021】
照射角度を調整可能な可視レーザー距離計21は、高さ調整のために三脚11に取り付けているが、同じ働きをするものであれば三脚以外のものでも構わないし、必要がなければ、三脚を使用せず、直接、床などに設置してもよい。
【0022】
次に、検出基準点cを原点として、被測定領域aの周辺の空間をXYZ軸の3次元空間に見立てる。図1の場合、図面横方向をX軸、奥行き方向をY軸、高さ方向をZ軸としているが、被測定領域の方位と検出装置の方位を一致させる必要はない。
【0023】
次に、被測定領域aの周辺で、検出基準点cとは異なる任意の場所に受信アンテナ2を設置する。図1の場合、検出基準点cに対してX軸線上の任意の位置に受信アンテナ2を設置するため、検出基準点cに設置した可視レーザー距離計21の照射角度の方位を+X軸線上、仰角を水平に調整して照射し、そのレーザー光軸上の任意の位置にレーザー光反射板23を三脚12に取り付けた状態で設置する。この際、検出基準点cに設置した可視レーザー距離計21に表示されたレーザー光反射板23との角度及び距離を記録する。
【0024】
その後、図2のとおり、レーザー光反射板23の代わりに受信アンテナ2を三脚12に取り付ける。なお、レーザー光反射板23と受信アンテナ2の取り付け位置は同じになるよう位置合わせしておく。
【0025】
同じ要領で、検出基準点cに対してY軸線上の任意の場所に受信アンテナ3を設置し、検出基準点cに対してZ軸線上の任意の場所に受信アンテナ4を設置し、それぞれ、検出基準点cに設置した可視レーザー距離計21との角度及び距離を記録する。
【0026】
最後に、検出基準点cに設置した可視レーザー距離計21を三脚11から取り外し、代わりに受信アンテナ1を三脚11に取り付け、図2に示すように、検出装置の設置が完了する。この際、受信アンテナ1の取り付け位置は検出基準点cと一致するように位置合わせされている。
【0027】
なお、図2の場合、アンテナ1の頭上にアンテナ4を設置するため、アンテナ1とともに三脚11に治具で固定しているが、もちろん別の三脚などでアンテナ4を設置しても構わない。
【0028】
なお、受信アンテナを設置する場所や角度については、検出基準点cに対する角度及び距離を正確に把握できれば良く、特に限定されないが、全ての受信アンテナを同一平面上に設置した場合、静電気放電の発生箇所を2次元的にしか算出できないので、静電気放電の発生箇所を3次元的に算出するためには、少なくとも1本の受信アンテナを、他の受信アンテナとは異なる平面に設置する必要がある。
【0029】
そして、受信アンテナ1から受信アンテナ4は、高周波伝達経路である同軸ケーブル31〜34を介して、4チャンネル入力のデジタルオシロスコープ6の入力チャンネル1から4に、それぞれ接続する。このとき各同軸ケーブルの長さや電気的特性を同一にしておくと、受信アンテナからデジタルオシロスコープまで電気信号が到達する時間が同じになり、各チャンネル間で静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差を算出する際に、時間軸の補正が不要である。
【0030】
一方、各アンテナからデジタルオシロスコープ6への電気信号の伝達時間が異なる場合、その差分をなくすために、各アンテナからデジタルオシロスコープへの電気信号の到達時間の差分を予め明らかにしておき、各チャンネル間で静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差を算出する際に、各チャンネルにおける、各アンテナからデジタルオシロスコープ6への電気信号の到達時間の差分を補正する。
【0031】
デジタルオシロスコープ6は制御用コンピュータ7とGPIBインターフェースで接続され、制御用コンピュータ7でデジタルオシロスコープ6の初期化と測定条件の設定を行う。なお、制御用コンピュータ7とデジタルオシロスコープ6とを接続する方法はGPIBに限らず、RS−232C、LAN、USB等、デジタルオシロスコープの制御やデータの受け渡しができるものであればそれに限らない。
【0032】
その上で、静電気放電に伴い発生する電磁波を受信アンテナ1から受信アンテナ4で受信するとデジタルオシロスコープ6のトリガが掛かる状態にして静電気放電の発生を監視する。デジタルオシロスコープ6のトリガ機能には、ある一定電位を超える入力があった場合にトリガの掛かるエッジトリガや、入力信号のパルス幅がある一定以内であるときにトリガが掛かるパルス幅トリガ、それらを複数の入力チャンネルで組み合わせたパターントリガなどがあり、どのようなトリガ条件にするかは、測定現場の状況に応じて調整する。
【0033】
例えば、微弱な静電気放電を検出したい場合には、トリガの掛かる電位を下げ、周囲の静電気放電以外の電磁ノイズの影響を軽減したい場合には、静電気放電に伴い発生する電磁波がGHz帯にまで及ぶ高周波成分を含んでいることを利用して、パルス幅トリガの設定でトリガの掛かるパルス幅を極力狭くする方法や、バンドパスフィルタ等をデジタルオシロスコープ6の入力部に取り付けてもよい。
【0034】
受信アンテナの種類や仕様については特に限定しないが、アンテナの設置位置の誤差を少なくするには、物理的なサイズがなるべく小さい方が好ましい。
【0035】
静電気放電に伴い発生する電磁波を受信してデジタルオシロスコープ6のトリガが掛かると、受信アンテナ1から受信アンテナ4で受信した静電気放電に伴い発生する電磁波の電圧的変化が、デジタルオシロスコープ6のチャンネル1から4のデジタルデータとして記録される。
【0036】
デジタルオシロスコープ6において記録されるデジタルデータとは、デジタルオシロスコープ6において、その各チャンネルに入力された電圧の時間的変化を離散的に高速AD(アナログ値からデジタル値へ)変換して得られた電圧値を、設定したポイントの数だけ時系列に記録したデータ群のことである。
【0037】
デジタルオシロスコープ6のトリガが掛かかると、そのことを制御用コンピュータ7で検知し、静電気放電の発生時刻として記録する。そして、デジタルオシロスコープ6で記録された4チャンネル分のデジタルデータを制御用コンピュータ7で読み込み、各チャンネルにおける電磁波到達基準点を見つけだす。
【0038】
電磁波到達基準点とは、静電気放電に伴い発生する電磁波が各アンテナに到達した時刻を比較するための基準点のことで、図3に示すように、デジタルオシロスコープ6に記録されたデータの中で、静電気放電に伴い発生する電磁波によって発生した最初の電圧パルスのピークを示す測定ポイントを電磁波到達基準点とする。
【0039】
測定ポイントとは、デジタルオシロスコープ6において時系列に記録されたデジタルデータの中の何番目のデータであるかを示すものである。
【0040】
もし、その電圧パルスのピーク部分がデジタルオシロスコープ6の表示画面を超えていた場合、超えていた区間の中間の測定ポイントを電磁波到達基準点とする。
【0041】
そして、ある任意の2つの受信アンテナ間において、電磁波到達基準点を示す測定ポイントの差分に、計測時のデジタルオシロスコープ6のサンプリングレートの逆数を掛けると、その2つの受信アンテナ間での、静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差が算出される。
【0042】
サンプリングレートとは、デジタルオシロスコープ6において電圧等の時間的変化を離散的に測定する際の、1秒間に測定する回数のことであり、サンプリングレートの逆数とは、離散的に測定する間隔の時間を意味する。
【0043】
受信アンテナ1と受信アンテナ2での、静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差とアンテナ配置から、受信アンテナ1と受信アンテナ2に対する双曲線21が得られる。ここで得られた双曲線上の何れかの点に静電気放電の発生源が存在する。同様に、受信アンテナ3と受信アンテナ1に対する双曲線31、受信アンテナ4と受信アンテナ1に対する双曲線41が得られる。
【0044】
これら3つの双曲線の交点の座標を計算して求めることで、検出基準点cに対する静電気放電の発生箇所の位置情報(角度(方位、仰角)、直線距離、XYZ座標)を算出し、制御用コンピュータ7の表示画面などに表示する。
【0045】
なお、制御用コンピュータ7がなくても、デジタルオシロスコープ6を手動で操作し、トリガ条件の設定や、静電気放電に伴い発生する電磁波の検出、任意の2つの受信アンテナ間の静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差の算出を行い、各アンテナの配置情報と、それらの受信アンテナ間で得られる複数の双曲線の交点を計算で求めることで、静電気放電の発生箇所の座標を算出することもできる。
【0046】
また、2チャンネル入力のデジタルオシロスコープを用いて、受信アンテナ1と受信アンテナ2、受信アンテナ1と受信アンテナ3、受信アンテナ1と受信アンテナ4の計3回、静電気放電に伴い発生する電磁波の検出を行うことで、3本の双曲線の情報を得て、検出基準点cに対する静電気放電の発生箇所dを算出することも可能であるが、作業性が悪く、発生源の異なる静電気放電を検出してしまう可能性もある等の問題もある。
【0047】
静電気放電の発生箇所の座標が算出されたら、図4に示すように、受信アンテナ1を三脚11から取り外し、代わりに可視レーザー距離計21を三脚11に取り付ける。そして、算出された静電気放電の発生箇所dに対して可視レーザー距離計21の照射角度(方位及び仰角)を調整後、レーザーを照射し、レーザーの光軸上にレーザー光反射板25を合わせ、可視レーザー距離計21から除々に離していく。
【0048】
そして可視レーザー距離計21の表示が、算出された静電気放電の発生箇所dまでの距離と一致した場所が、算出された静電気放電の発生箇所dとなり、算出された静電気放電の発生箇所dを容易に特定することができる。
【0049】
また、検出基準点cと算出された静電気放電の発生箇所dとの直線上に障害物があって、直接、静電気放電の発生箇所dに対して可視レーザー距離計21のレーザー光を照射できない場合、図5に示すように、障害物を避けるようにレーザー光反射板を設置し、静電気放電の発生箇所dにレーザー光を到達させる。
【0050】
例えば、検出基準点cに対し、算出された静電気放電の発生箇所dの座標を(x1,y1,z1)とする(x1,y1,z1は全て正の値とする)と、まず最初に、図1に示すように、検出基準点cに設置した可視レーザー距離計21の照射角度の方位を+X軸線上、仰角を水平に合わせ、レーザーを照射状態にする。そして三脚12に取り付けたレーザー光反射板23を、レーザーの光軸に合わせた状態で可視レーザー距離計21から除々に離してゆき、可視レーザー距離計21に表示される距離の値がx1になった地点にレーザー光反射板23を固定する。
【0051】
続いて、図5に示すように、レーザー光反射板23の角度を調整し、レーザー光を+Z軸線上へ反射させる。その光軸に合わせた状態でレーザー光反射板24をレーザー光反射板23から除々に離してゆき、可視レーザー距離計21に表示される距離の値がx1+z1の値になった地点にレーザー光反射板24を固定する。
【0052】
続いて、レーザー光反射板24の角度を調整し、レーザー光を+Y軸線上へ反射させる。その光軸に合わせた状態でレーザー光反射板25をレーザー光反射板24から除々に離してゆき、可視レーザー距離計21に表示される距離の値がx1+y1+z1の値になった地点が、算出された静電気放電の発生箇所dの位置となる。
【0053】
障害物の形状によってレーザー光を90度反射させる順番は臨機応変に変えてもいいし、障害物の形状により、レーザー光を反射させる工程を複数回繰り返してもよい。
【0054】
なお、同様に、検出基準点cと算出された静電気放電の発生箇所dとの直線上に障害物があって、算出された静電気放電の発生箇所dまで直接レーザー光が到達できない場合の別な方法として、例えば、検出基準点cに対し、算出された静電気放電の発生箇所dの座標を(x2,y2,z2)とする(x2,y2,z2は全て正の値とする)と、まず最初に、図1に示すように、検出基準点cに設置した可視レーザー距離計21の照射角度の方位を+X軸線上、仰角を水平に合わせ、レーザーを照射状態にする。
【0055】
そして三脚12に取り付けたレーザー光反射板23を、レーザーの光軸に合わせた状態で可視レーザー距離計21から除々に離してゆき、可視レーザー距離計21に表示される距離の値がx2になった地点にレーザー光反射板23を固定する。
【0056】
次に、三脚12からレーザー光反射板23を取り外し、代わりに可視レーザー距離計21を取り付ける。
【0057】
そして、図6に示すように、三脚12の高さをz2分高くし、可視レーザー距離計21の照射角度の方位を+Y軸線上、仰角を水平に合わせ、レーザーを照射状態にして、レーザー光反射板25をその光軸に合わせた状態で可視レーザー距離計21から除々に離してゆき、可視レーザー距離計21に表示される距離の値がy2の値になった地点が、算出された静電気放電の発生箇所dの位置となる。
【0058】
この場合も、検出基準点cから算出された静電気放電の発生箇所dへ辿る順番は、被測定領域aの障害物の形状などに応じて順番を変えてもよい。
【0059】
このように、本発明を用いることで、任意の被測定領域で発生した静電気放電の発生箇所と発生時刻を、被測定領域にある機器や人体などの位置情報を計測したり検出装置に入力する必要なく、効率的に精度良く特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例において、可視レーザー距離計21を用いて、レーザー光反射板23を任意の場所に設置している様子を示した図。
【図2】実施例において、検出装置を被測定領域周辺に設置し終えた際の配置を示した図。
【図3】電磁波到達基準点や到達時間差の算出方法について説明した図。
【図4】可視レーザー距離計21を用いて、直接、算出された静電気放電の発生箇所を特定する方法を示した図。
【図5】可視レーザー距離計21と算出された静電気放電の発生箇所dとの間に障害物があった場合に、算出された静電気放電の発生箇所dを特定するための方法を示した図。
【図6】可視レーザー距離計21と算出された静電気放電の発生箇所dとの間に障害物があった場合に、算出された静電気放電の発生箇所dを特定するための別の方法を示した図。
【符号の説明】
【0061】
1〜4 受信アンテナ
5 受信アンテナ4の固定治具
6 デジタルオシロスコープ
7 制御用コンピュータ
8 台車
11〜13 三脚
21 角度調整が可能な可視レーザー距離計
22 レーザー光
23〜25 レーザー光反射板
26 レーザー光反射板23、24の固定治具
31〜34 同軸ケーブル
a 被測定領域
b 静電気放電の発生箇所
c 検出基準点
d 算出された静電気放電の発生箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定領域周辺の任意の場所に、照射角度を調整可能な可視レーザー距離計を設置し、その可視レーザー距離計の測定基準点を検出基準点とし、角度を調整して照射したレーザー光と、レーザー距離計で得られる距離情報を元に、検出基準点に対する角度と距離を高精度に定めた4カ所以上の場所に受信アンテナを1台ずつ配置する。設置する受信アンテナの内、少なくとも1台の受信アンテナは、別の受信アンテナとは異なる平面上に設置する。設置した全ての受信アンテナは、それぞれ同軸ケーブルなどの高周波伝達経路を介して、全ての受信アンテナで受信した電磁波の電圧レベルの時間的変化を同じ時間軸でデジタルデータとして記録できる計測器の4つ以上のチャンネルにそれぞれ接続する。そして、被測定領域内で発生した、静電気放電に伴い発生する電磁波の電圧レベルの時間的変化を、その計測器で記録する。そして、記録された各チャンネルのデータをもとに、設置した受信アンテナの中の任意の2本のアンテナにおける、静電気放電に伴い発生する電磁波の到達時間差を算出し、到達時間差とアンテナの設置位置との関係から、その2本のアンテナに対する双曲線を求める。ここで得られた双曲線上の何れかの点に静電気放電の発生源が存在する。そこで、双曲線を求める作業を、他の組み合わせの任意の2本の受信アンテナ間でも繰り返し行う。その際、異なる平面上に設置した受信アンテナ間で得られた双曲線を含む、3つ以上の双曲線の交点を求めることで、検出基準点に対する静電気放電の発生箇所の位置情報(角度(方位、仰角)、直線距離、XYZ座標)を算出する。そして、検出基準点に設置した可視レーザー距離計の照射角度や、レーザー光反射板までの距離を調整して、レーザー光を、算出された静電気放電の発生箇所に到達させることで、静電気放電の発生箇所を特定することを特徴とする静電気放電発生箇所の検出方法。
【請求項2】
静電気放電に伴い発生する電磁波を受信するための複数の受信アンテナと、各受信アンテナの位置決めや算出された静電気放電の発生箇所を特定するための、照射角度を調整可能な可視レーザー距離計やレーザー光反射板と、各受信アンテナで受信された電磁波を計測器に伝搬するための同軸ケーブルなどの高周波伝達経路と、全ての受信アンテナで受信した電磁波の電圧レベルの時間的変化を同じ時間軸でデジタルデータとして記録できる計測器と、計測器の制御や計測器で記録したデータを読み込み、双曲線法を用いて、検出基準点に対する静電気放電の発生箇所の位置情報を算出、記録、表示する演算装置を備えていることを特徴とする静電気放電発生箇所の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43992(P2010−43992A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209056(P2008−209056)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(591155242)鹿児島県 (56)
【Fターム(参考)】