説明

静電荷像現像用トナーの製造方法

【課題】乳化重合凝集法の際により簡便に、低コストおよび短時間で重合体一次粒子を製造でき、さらに重合体一次粒子を構成する樹脂の分子量および構造などの精密な制御を行うことができ、高画質化および高速化に適した定着性などの特性を有する静電荷像現像用トナーの製造方法を提供する。
【解決手段】乳化重合法により重合体一次粒子を含有する分散液を製造する工程と、重合体一次粒子および着色剤を凝集させて粒子凝集体を得る工程と、粒子凝集体を融着させてトナー母粒子を製造する工程とを備え、乳化重合法において、少なくとも1種のモノマーを含む水溶液の連続乳化を行いながら、得られた乳化液を直接バッチ式反応器に連続的に供給して、モノマーの重合を行い、重合体一次粒子を含有する分散液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機やプリンター等の画像形成装置に用いられる静電荷像現像用トナーの製造方法および重合体一次粒子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真複写機などの画像形成装置の用途は拡大しており、それに伴い使用されるトナーの各種性能への要求はより高いものになってきている。
例えば、複写やプリントの高速化に伴い、トナーなどの定着速度の高速化が望まれている。定着工程が高速の場合は、低速時に比べて、送紙速度、定着部材の性質等によって、定着ローラ表面の温度ムラが発生しやすくなり、結果として画質(特に定着強度、光沢性)が影響を受ける。このような高速時の画像不良を改善する方法として、より精密な温度制御が可能な定着装置によって対応する方法も考えられるが、定着装置の複雑化、大型化、耐久性低下やコストアップなどの問題が発生する。そのため、高速での複写やプリントにおいて良好な画質を得るため、定着時にオフセットが発生しない、より広い定着温度範囲を有するトナーが望まれている。
【0003】
また、画像形成時に必要なエネルギーの削減の要求が高まり、大きなエネルギーを消費する定着工程の省電力化も求められている。このような省電力化への対応としては、トナーの定着温度をより低温化させる方法が提案されている。一般的に、トナーのガラス転移温度を下げることでトナーの低温定着を実現できるが、トナーの保存安定性との両立が困難となる。つまり、トナーの低温定着性と保存安定性との両立を図るためには、保存安定性を悪化させないガラス転移温度を保ちながら、高温領域においてトナーが十分大きい粘度低下を起こすことが望ましい。このような要望を満たすため、トナーを構成する樹脂の分子量分布を狭くする方法が提案されているが、このようなトナーは、定着時、高温領域でオフセットが発生しやすいという新たな問題が生じる。
【0004】
このように、高画質化や省電力化など求められている各種要求性能を満足するトナーを製造するためには、トナーを構成する樹脂の分子量や分子量分布、トナー中における樹脂分布、トナー粒子の構造など様々なパラメーターを精密に制御することが必要である。そこで、そのような各種パラメーターを精密に制御でき、種々の樹脂設計が可能なトナーの製造方法の開発が要求されている。
【0005】
従来、一般的に広く用いられてきた静電荷像現像用トナーの製造方法として、溶融混練粉砕法が挙げられる。この方法は、各種バインダー樹脂と着色剤と、必要に応じて帯電制御剤や磁性体などとを混合した後、押出機により溶融混練し、次いで粉砕・分級する方法である。しかし、この溶融混練粉砕法では、トナーの粒径制御に限界があり、実質的に10μm以下の平均粒径のトナーを歩留まり良く製造することは困難であった。そのため、電子写真に要求される高解像度化を達成するためには十分なものとはいえなかった。
【0006】
一方、近年、溶融混練粉砕法に代わる製造法として、乳化重合凝集法や懸濁重合法等の湿式重合法によるトナーの製造法が提案されている。特に、乳化重合凝集法では、得られるトナーの粒径、粒度分布、さらには形状の制御を比較的容易に行うことができる。
乳化重合凝集法によりトナーを製造する方法としては、まず、乳化重合により得られる粒子径0.05μm〜0.5μm程度の重合体一次粒子を含む分散液を製造する。次に、分散液に顔料や荷電制御剤等を加えて重合体一次粒子を凝集させ、さらに得られた凝集粒子を融着させてトナー母粒子を得ることができる。
この方法において、重合体一次粒子の性質は得られるトナーの性質に大きな影響を与えることから、所望の特性を有するトナーを製造するためには、この重合体一次粒子の構成樹脂やその構造を精密に制御する必要がある。
【0007】
従来、重合体一次粒子の製造の際には、回文式(バッチ式)の乳化槽で乳化液を製造した後、得られた乳化液を重合槽に移し、モノマーの重合を行う方法が主に実施されていた。
しかし、この方法では重合体一次粒子の製造毎に乳化槽を洗浄する必要があり作業性に劣ると共に、装置が大型化してしまいコスト面でも好ましくなく、生産性においても十分とはいえなかった。さらに、乳化液の組成が経時的に変化してしまうため、得られるトナーの品質が安定しないという問題もあった。
【0008】
一方で、従来、重合体一次粒子を構成する樹脂の分子量や分子量分布を制御するために、重合槽における重合の際に、連鎖移動剤や架橋剤の存在下で重合を行う方法が提案されている。しかしながら、この方法では樹脂の分子量や分子量分布、さらには重合体一次粒子中の樹脂の分布の制御などを精密に行うことは困難であり、結果として所望の要求特性を満たすトナーを安定的に製造することができなかった。
他の方法として、モノマー混合比率の異なるモノマー混合液を数種類準備して、重合の際に、各種モノマー混合液を段階的に重合槽に添加し、モノマーを重合する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、複数種類のモノマー混合液を準備する必要があるため大規模な設備が必要とされ、コスト面で好ましくない。さらには、設備の点から添加する段数に制限が生じるため、重合体一次粒子の精密な構造制御を行うという点では満足できるものではなかった。
【0009】
また、重合体一次粒子の他の製造方法として、所定の装置内にモノマーなどの原料液を流通させて、連続的に重合反応を行うことにより分子量分布や粒径分布がシャープな樹脂粒子を得る方法が開示されている(特許文献1)。この方法では連続重合を行うため生産性の向上は期待できる。しかしながら、この方法で品質の安定した粒子を得るためには通常供給されるモノマーなどの濃度は一定に保つ必要があり、結果として重合体一次粒子は特定の分子量を有する樹脂のみで構成されることになる。そのため、この方法では樹脂設計の自由度が低く、重合体一次粒子の性能を制御する上では必ずしも満足のいく方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−69266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、湿式重合法、特に乳化重合凝集法の際により簡便に、低コストおよび短時間で重合体一次粒子を製造でき、さらに重合体一次粒子を構成する樹脂の分子量および粒子の構造などの精密な制御を行うことができ、高画質化および高速化に適した定着性などの優れた諸特性を有するトナーの設計が可能な静電荷像現像用トナーの製造方法、および重合体一次粒子の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、重合体一次粒子の製造工程に着目し、鋭意検討を行った結果、乳化液の製造を連続的に行い、かつ、得られた乳化液を保存することなく直接バッチ式反応器に連続的に供給して、重合を行うことにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
<1> 乳化重合法により重合体一次粒子を含有する分散液を製造する工程と、
前記重合体一次粒子および着色剤を凝集させて粒子凝集体を得る工程と、
前記粒子凝集体を融着させてトナー母粒子を製造する工程とを備える静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記乳化重合法において、少なくとも1種のモノマーを含む水溶液の連続乳化を行いながら、得られた乳化液を直接バッチ式反応器に連続的に供給して、前記モノマーの重合を行い、前記重合体一次粒子を含有する分散液を製造することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
<2> 前記水溶液に、さらに界面活性剤が含まれることを特徴とする<1>に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
<3> 前記連続乳化において、2種以上のモノマーを混合してモノマー混合液を調製し、前記モノマー混合液と界面活性剤と水とを用いて前記水溶液を供給することを特徴とする<2>に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
<4> 前記連続乳化を少なくとも1段以上のインライン乳化機により行うことを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
<5> 前記乳化重合法において、ワックス存在下にて前記重合を行うことを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
<6> 前記乳化重合法において、さらに連鎖移動剤を含む前記水溶液の連続乳化を行うことを特徴とする<1>〜<5>のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
<7> 前記水溶液中における前記連鎖移動剤の濃度および/または種類を連続的または段階的に変動させて連続乳化を行うことを特徴とする<6>に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
<8> 前記乳化重合法において使用される前記モノマーの少なくとも1種がスチレンである<1>〜<7>のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
<9> <1>〜<8>のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法により得られる静電荷像現像用トナー。
<10> 静電荷像現像用トナーの製造に使用される重合体一次粒子の製造装置であって、モノマーを水中で連続的に乳化する連続乳化機と、
前記連続乳化機により得られる乳化液中に含まれるモノマーの重合が行われるバッチ式反応器と、
前記連続乳化機と前記バッチ式反応器とを連通する配管とを備える重合体一次粒子の製造装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、湿式重合法、特に乳化重合凝集法の際により簡便に、低コストおよび短時間で重合体一次粒子を製造でき、さらに重合体一次粒子を構成する樹脂の分子量および粒子の構造などの精密な制御を行うことができ、凝集および粒子凝集体の融着の各工程が良好に進行し、高画質化および高速化に適した優れた定着性などの諸特性を有するトナーの設計が可能な静電荷像現像用トナーの製造方法、および重合体一次粒子の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の重合体一次粒子の製造装置の一実施例を示す模式的概略図である。
【図2】比較例1で使用する重合体一次粒子の製造装置の一実施例を示す模式的概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、主に以下の3つの工程を備え、乳化重合法において、少なくとも1種のモノマーを含む水溶液の連続乳化を行いながら、得られた乳化液を直接バッチ式反応器に連続的に供給してモノマーの重合を行い、重合体一次粒子を含有する分散液を製造することを特徴とする。
<乳化重合工程> 乳化重合法により重合体一次粒子を含有する分散液を製造する工程
<凝集工程> 重合体一次粒子および着色剤を凝集させて粒子凝集体を得る工程
<熟成工程> 粒子凝集体を融着させてトナー母粒子を製造する工程
以下に、各工程で使用される材料およびその手順について説明する。
【0017】
<乳化重合工程>
乳化重合工程は、乳化重合法により重合体一次粒子を含有する分散液を製造する工程である。より具体的には、乳化重合法において、少なくとも1種のモノマーを含む水溶液を後述する連続乳化機に供給して連続乳化を行いながら、得られた乳化液を連続乳化機から抜き出して、保存することなく直接バッチ式反応器に連続的に供給してモノマーの重合を行い、重合体一次粒子を製造する。
一般的な乳化重合の場合は、一旦、回文式(バッチ式)の乳化槽でモノマーと界面活性剤とを用いて乳化液を製造し、次に、得られた乳化液を重合槽に移して、モノマーの重合を行う。この方法では、乳化槽が別途必要になり、コスト面および生産性の点で問題がある。さらに、乳化液製造後から重合槽に移す間に、一旦製造したモノマー乳化液の組成や粒径が経時に変化する恐れがあり、結果として最終生成物の品質に大きく影響を与えることがある。
本発明のようにモノマーを含む水溶液の連続乳化を行いながら、乳化直後に得られた乳化液を直接反応系に添加し、モノマーを重合させる場合は、乳化液の経時変化の恐れがほとんどない。また、原料の安定供給を行うことにより、同じ組成の乳化液を安定的に重合槽中に添加することができる。また、連続乳化において供給される各原料混合量はリアルタイムで制御できるので、所望のタイミングで原料混合比率の調整も簡単にできる。さらに、配管内で連続混合乳化もできるため、専用の混合/乳化用容器も不要で、多大な設備投資が不要であり工業的な価値は非常に大きい。さらに、製造にかかる時間も大幅に短縮することができ、生産性の点からもその価値は非常に大きい。
【0018】
<連続乳化>
乳化重合法において、まず、少なくとも1種のモノマーを含む水溶液の連続乳化を行う。
連続乳化の方法は、原料(モノマー、水)を連続的に供給でき、かつ、乳化液を連続的に抜き出すことができれば特に制限されず、市販の連続乳化機を使用することができる。連続乳化機の構成について、特に制限されないが、生産性、設備面の点から、乳化機にモノマーや任意成分である界面活性剤を供給する配管を繋げて、乳化液を直接抜き出しできる構造となることが好ましい。連続乳化機の好適な態様については後述する。
連続乳化は一つ以上の乳化機を接続して行われ、多段で行ってもよい。具体的には、複数(好ましくは2個以上、また、好ましくは5個以下、より好ましくは3個以下)の連続乳化機を接続して、数段で乳化を行ってもよい。連続乳化を多段で行うことにより、乳化液の組成の均一性がより向上する。また、連続乳化機の個数は、装置の乳化能力に依るが、複数個であると、凝集等の後工程に影響を与える乳化液の粒径分布がシャープになるため好ましい。一方で、上記範囲を超えると、ラインが複雑になり、コストも増加するため現実的ではなく好ましくない。
【0019】
連続乳化の際には、モノマー、水を別々に連続的に連続乳化機へ供給してもよいし、事前に混合して混合液を連続的に供給してもよい。
また、界面活性剤を含む水溶液とモノマーとを供給してもよい。
【0020】
2種以上のモノマーを使用する場合は、上記連続乳化を行う前にモノマー類を混合する工程(モノマー混合工程)を実施してもよい。より具体的には、2種以上のモノマーを混合槽などで混合してモノマー混合液を調製し、得られたモノマー混合液とその他任意成分(例えば、界面活性剤)とを用いて連続乳化される水溶液を調製してもよい。モノマー類を混合して、均一なモノマー混合液を製造しておけば、モノマーの比重が異なり分離しやすい場合等においても、乳化粒子の成分を均一とすることができ好ましい。
混合する方法は特に限定されず、市販の混合装置を使用することができる。なかでも、混合の連続性と効率性の点から、バッチで混合できる混合装置より送液と同時に連続的混合ができるインライン式混合装置が望ましい。
なお、モノマー混合工程は、混合するモノマー種類により、多段で混合してもよい。
【0021】
<重合>
本発明の乳化重合法において、上記の連続乳化により得られた乳化液を、保存することなく直接バッチ式反応器に連続的に供給(添加)しながら、反応器内でモノマーの重合を行う。
バッチ式反応器は、反応をバッチ式で撹拌しながら実施する単一反応器であれば特に制限されない。
重合の条件は、使用するモノマーなどに合わせて適宜最適な条件が選択されるが、重合温度は好ましくは50℃以上で、より好ましくは70℃以上で、また、好ましくは100℃以下で、より好ましくは95℃以下である。
なお、バッチ式反応器には後述する重合開始剤や、ワックスなどを適宜添加することもできる。
【0022】
本発明によれば上記の乳化重合工程の連続乳化において、原料であるモノマーの供給量(水溶液中における濃度)および/または使用するモノマー種類を、連続的または段階的に変動させることができる。結果として、簡便に、組成の異なる乳化液を連続的にバッチ式反応器に添加することができる。なお、変動させる際は、例えば、供給量を連続的または段階的に増加させてもよいし、減少させてもよい。また、供給量を周期的に変動させてもよい。
従来、一般的なトナー製造における乳化重合の場合は、特定の組成のモノマー乳化液を一旦製造した後に重合体一次粒子の製造に使用するため、重合前後における反応系に添加するモノマー乳化液の組成は同じである。そのため、反応系中における各モノマー成分の添加比率は重合中同じであり、結果として反応各段階で得られる重合体一次粒子の組成もおおよそ同じである。
一方、本発明では、連続乳化により乳化液を製造し、かつ得られた乳化液を保存などすることなく直接バッチ式反応器へ添加する方法を採用する。そのため、このモノマー連続混合/乳化方法により、反応途中のモノマー類の成分量や混合比率などをリアルタイムで制御でき、より精密な重合制御を行うことができる。
さらに、連続乳化において、モノマー供給量および/または使用するモノマー種類のみならず、後述する界面活性剤の供給量(水溶液中における濃度)および/または使用する界面活性剤の種類も併せて連続的または段階的に変動させることができる。
【0023】
上記のようにモノマーや界面活性剤の供給量および種類を制御することにより、様々な構造を有する重合体一次粒子の設計が可能となる。例えば、乳化重合途中でモノマー混合比率を変化させることにより、コア部とシェル部を構成する樹脂の成分が異なるカプセル構造を有する重合体一次粒子を製造することができる。つまり、同一粒子中に、分子量や分子量分布などの特性の異なる樹脂を任意の分布状態で含ませることができる。
また、2種のモノマーを使用して、その供給量の混合比率を変動させることにより、共重合物である樹脂のTgのより精密な制御が可能となる。具体的には、重合体一次粒子を構成するポリマー成分の粒子中での分布制御が可能となり、粒子中にTgが連続的に変化する層構造を製造することができる。さらには、トナーの性能目標に合わせて、粒子内部に柔らかいポリマー成分(低Tgポリマー)が存在し、粒子外側部に硬いポリマー成分(高Tgポリマー)が存在する重合体一次粒子や、粒子内部に硬いポリマー成分(高Tgポリマー)が存在し、粒子外側部に柔らかいポリマー成分(低Tgポリマー)が存在する重合体一次粒子、さらには、柔らかいポリマー成分と硬いポリマー成分が粒子中心から交互に分布する重合体一次粒子を設計することができる。
【0024】
また、乳化重合法において後述する連鎖移動剤や架橋剤を使用することにより、より精密な重合体一次粒子の設計が可能となる。特に、連鎖移動剤を連続乳化の際に使用し、その供給量を段階的に増加させて重合体一次粒子を製造して、この重合体一次粒子を用いることにより定着性がより向上されたトナーを製造することが可能となる。
連鎖移動剤や架橋剤は連続乳化の際に、モノマーおよび界面活性剤とともに供給されて乳化液成分として使用されて、バッチ式反応器へ供給されてもよい。また、あらかじめバッチ式反応器中に添加しておくこともできる。樹脂設計がより容易な点で、連続乳化の際に使用されることが好ましい。
なお、連続乳化の際に連鎖移動剤、架橋剤を使用する場合は、上述したモノマーや界面活性剤と同様に、それらの供給量および/またはそれらの種類を連続的または段階的に変動させることができる。
【0025】
以下に、乳化重合工程で使用されるモノマー、界面活性剤、その他の成分(重合開始剤、連鎖移動剤、架橋剤、ワックス)について説明する。
【0026】
<モノマー>
本発明で使用されるモノマーは、特に制限されず、目的とするトナーの性質に応じて適宜選択される。
モノマーとしては、例えば、ブレンステッド酸性基(以下、単に酸性基と称することもある)を有するモノマー、ブレンステッド塩基性基(以下、単に塩基性基と称することもある)を有するモノマー、並びに、ブレンステッド酸性基およびブレンステッド塩基性基をいずれも有さないモノマー(以下、その他のモノマーと称することもある)などが挙げられる。なかでも、これらのモノマーを併用することが好ましい。
【0027】
酸性基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸等のカルボキシル基を有するモノマー、スルホン化スチレン等のスルホン酸基を有するモノマー、ビニルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド基を有するモノマー等が挙げられ、中でもカルボキシル基を有するモノマーが好ましく、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0028】
塩基性基を有するモノマーとしては、アミノスチレン等のアミノ基を有する芳香族ビニル化合物、ビニルピリジン、ビニルピロリドン等の窒素含有複素環含有モノマー、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これら酸性基を有するモノマーおよび塩基性基を有するモノマーは、それぞれ対イオンを伴って塩として存在していてもよい。
【0029】
乳化重合に供するモノマー全量に対する酸性基を有するモノマーと塩基性基を有するモノマーとの合計量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、また、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下で含有することが望ましい。酸性基を有するモノマーと塩基性基を有するモノマーとの合計量を上記範囲とすることにより、粒径制御が容易となるため好ましい。更に、重合体一次粒子を構成する全モノマー中における酸性基を有するモノマーの含有量は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下で含有することが望ましい。酸性基を有するモノマーの含有量を上記範囲とすることにより、粒径制御が容易となるため好ましい。
通常、酸性基を有するモノマーの量が多いと重合体一次粒子の水に対する分散安定性が良好であり、凝集工程における粒径制御性に優れているが、逆に酸性基を有するモノマーの量が少なすぎると重合体一次粒子の粒径制御が困難となる場合がある。
【0030】
また、その他のモノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−n−ノニルスチレン等のスチレン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジプロピルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド等のアクリル酸アミド類等を挙げることができる。この中では特にスチレン、ブチルアクリレート等が好ましい。
【0031】
乳化重合工程で使用されるモノマーとしては、スチレンを用いることが好ましい。さらに、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルから選ばれる少なくともいずれかを共重合成分として用いることが、性能面でバランスのとれたトナーを得る上で好ましい。
【0032】
<水>
連続乳化を行う際に、上記モノマーとともに水が供給される。
水はモノマーと別々に供給されてもよく、モノマーを含む水溶液の形態で供給してもよい。また、水は後述する界面活性剤を含む水溶液の形態で供給してもよい。
なお、モノマーを水溶液の形態で供給する場合は、その濃度は特に限定されないが、全水溶液重量に対して、10重量%以上が好ましく、40重量%以下が好ましい。
【0033】
<界面活性剤>
乳化重合を行う際に、必要に応じて、界面活性剤を使用してもよい。なお、自己乳化能力のあるモノマーを用いる場合には、界面活性剤は必須ではない。
本発明で使用される界面活性剤(乳化剤)は、特に制限されず、公知のカチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は2種以上を併用してもよい。モノマー連続乳化で使う界面活性剤の量は一定でもよいが、重合進行によって変動してもよい。
【0034】
乳化重合工程で界面活性剤(乳化剤)として用いられるカチオン界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムクロリド、ドデシルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリド、ドデシルピリジニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
また、アニオン界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム等の脂肪酸石鹸、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
更に、ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートエーテル、モノデカノイル蔗糖等が挙げられる。
【0035】
界面活性剤の使用量は、目的とするトナーの性質などに応じて適宜最適な量が選択されるが、なかでもモノマー100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、また、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましい。上記範囲内であれば、重合体一次粒子の安定性に優れ、凝集させる場合においても、凝集しやすいため好ましい。使用量が上記範囲より多いと、重合体一次粒子としては安定するが、凝集しにくくなるため好ましくない。また、使用量が上記範囲より少ないと、重合体一次粒子の安定性に問題が生じ、凝集力が強くなりすぎて、粗粉が発生することがあり好ましくない。
【0036】
<重合開始剤>
乳化重合を行う際に、必要に応じて、重合開始剤を使用してもよい。
本発明で使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤(例えば、水溶性重合開始剤)を用いることができ、重合開始剤を1種または2種以上組み合わせて使用する事ができる。例えば、過酸化水素;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の有機過酸化物類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物類等が用いられる。
また、これらの重合開始剤に、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸等の還元性有機化合物類、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物類等の還元剤を併用したレドックス系開始剤とすることもできる。中でも、開始剤としては過酸化水素、有機過酸化物類、アゾ系化合物類が好ましい。
【0037】
重合開始剤の使用量は、目的とするトナーの性質などに応じて適宜最適な量が選択される。
なお、重合開始剤は上述した連続乳化の際にモノマーおよび界面活性剤などと共に供給されて乳化液中に含有され、バッチ式反応器に供給されてもよい。
また、直接バッチ式反応器に供給されてもよい。その場合、重合開始剤は一括で供給されてもよく、また、所定量に分割して連続的または段階的に供給されてもよい。
【0038】
<連鎖移動剤>
乳化重合を行う際に、必要に応じて、公知の連鎖移動剤を使用することもできる。上記のように連鎖移動剤を使用することにより、重合体一次粒子を構成する樹脂の分子量や分子量分布などのより精密な制御が可能となり、所望のトナーを容易に製造することができる。
連鎖移動剤の具体的な例としては、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、ジイソプロピルキサントゲン、四塩化炭素、トリクロロブロモメタン等が挙げられる。
連鎖移動剤は単独でも2種類以上の併用でもよい。なお、その含有量は、モノマー100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上であり、また、好ましくは5重量部以下であり、より好ましくは3重量部以下である。
【0039】
<架橋剤>
乳化重合を行う際に、必要に応じて、架橋剤として作用する少なくとも2つの官能基を有するモノマー(多官能性モノマー)を使用することもできる。
多官能性モノマーとしては、特に制限されないが、通常、ラジカル重合性を有するものが用いられる。例えば、ジビニルベンゼン、ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジアリルフタレート等が挙げられる。また、反応性基をペンダントグループとして有するモノマー、例えば、グリシジルメタクリレート、メチロールアクリルアミド、アクロレイン等を用いることも可能である。
【0040】
多官能性モノマーを用いる場合の含有量は、重合体一次粒子を構成する全モノマー中に好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.05重量%以上であり、また、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。
また、得られるトナーの性能などが優れる点で、重合体一次粒子のテトラヒドロフラン(THF)不溶分が15重量%〜80重量%となるように上記の多官能性モノマーを含有することが好ましい。
【0041】
<ワックス>
トナー中にワックスを含有させる場合、ワックスは後述する凝集工程で添加してもよいが、重合体一次粒子内にワックスを含むように乳化重合工程で添加してもよい。
乳化重合工程で使用する場合は、ワックス存在下で重合を行う方法が挙げられる。より具体的には、乳化剤の存在下で乳化させて得られたワックス微粒子を乳化重合工程で添加し、ワックス微粒子をシードとしてモノマーを乳化重合する方法や、モノマーにワックスを溶解しておき、それを乳化重合する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、乳化剤の存在下でステアリルアクリレートのような長鎖重合性単量体と共にワックスを乳化したワックス微粒子を乳化重合工程で添加する方法が、特に好ましい。このような方法で乳化重合工程においてワックスを添加することにより、トナー中でのワックスの分散が良好になり、また多量に添加することが可能となる。それにより、得られるトナーの離型性、耐フィルミング性が良好となり、ワックス漏出抑制の観点からも好ましい場合がある。
【0042】
上記のワックス微粒子の平均粒径は、シードとして用いる場合も、共凝集用として用いる場合も特に制限されないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μ以上であり、また、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、特に好ましくは1.5μm以下である。なお、平均粒径は、例えば、ホリバ社製LA−500を用いて測定することができる。平均粒径が3μmよりも大きい場合には、凝集時の粒径制御が困難となる場合がある。また、平均粒径が0.01μmよりも小さい場合には、分散液を作製するのが困難となる場合がある。
【0043】
本発明におけるワックスとしては、公知のワックス類を使用することができる。具体的には、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、共重合ポリエチレン等のオレフィン系ワックス;パラフィンワックス;ベヘン酸ベヘニル、モンタン酸エステル、ステアリン酸ステアリル等の長鎖脂肪族基を有するエステル系ワックス;水添ひまし油、カルナバワックス等の植物系ワックス;ジステアリルケトン等の長鎖アルキル基を有するケトン;アルキル基を有するシリコーン系ワックス;ステアリン酸等の高級脂肪酸;エイコサノール等の長鎖脂肪族アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと長鎖脂肪酸とから得られる多価アルコールカルボン酸エステル、または部分エステル;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド;低分子量ポリエステル等が挙げられる。
【0044】
なかでも、トナーの定着性をより改善するためには、ワックスの融点は30℃以上が好ましく、40℃以上が更に好ましく、50℃以上が特に好ましい。また、100℃以下が好ましく、90℃以下が更に好ましく、80℃以下が特に好ましい。融点が低すぎると定着後にワックスが表面に露出し、べたつきを生じやすく、融点が高すぎると低温での定着性が劣る場合がある。
【0045】
ワックスは1種類で用いてもよいし、数種類を用いてもよい。トナー中のワックスの使用量は、特に制限されないが、トナー全重量に対して、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、特に好ましくは5重量%以上、最も好ましくは7重量%以上であり、また、好ましくは40重量%以下、より好ましくは35重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。
【0046】
<重合体一次粒子>
上記の工程で得られた重合体一次粒子の体積中位径は、目的とするトナーの性質に応じて適宜最適な大きさが選択されるが、後述の工程での取扱やすさなどの点で、0.02μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。また、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。重合体一次粒子の体積中位径は、乳化剤やモノマー、開始剤等の原料濃度や、重合条件等によって制御することができる。
【0047】
体積中位径は、実施例記載の方法で測定することができる。重合体一次粒子の体積中位径が上記範囲より小さい場合は、凝集速度の制御が困難となることがある。また、上記範囲より大きい場合は、凝集して得られるトナー母粒子の粒径が大きくなり過ぎるため、トナーとして高解像度を要求される用途には不適当なことがある。
【0048】
<凝集工程>
凝集工程では、上記乳化重合工程で得られた重合体一次粒子と着色剤と、必要に応じて使用される帯電制御剤、ワックス、他の成分とを凝集させる工程である。凝集工程では、後述する熟成工程に先立って、ほぼトナー粒子の大きさまで凝集を行う。
凝集工程においては、重合体一次粒子、着色剤、必要に応じて添加される帯電制御剤、ワックス等の配合成分は、同時にまたは逐次に混合することができる。また、組成の均一性および粒径の均一性の観点から、予めそれぞれの成分の分散液、即ち、重合体一次粒子分散液、着色剤分散液、帯電制御剤分散液、ワックス微粒子分散液を作製しておき、これらを混合して混合分散液としてから凝集させることが好ましい。
まず、以下に凝集工程で使用される材料について詳述する。
【0049】
<着色剤>
着色剤は、無機顔料または有機顔料、有機染料のいずれでもよく、またはこれらの組み合わせでもよい。また、着色剤は有彩色でも無彩色でもよい。
【0050】
着色剤の具体例としては、無彩色着色剤として、カーボンブラックが挙げられる。また、有彩色着色剤として、シアン系着色剤、イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤などが挙げられる。具体的には、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ハンザイエロー、ローダミン系染顔料、クロムイエロー、キナクリドン、ベンジジンイエロー、ローズベンガル、トリアリルメタン系染料、モノアゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系染顔料等、公知の任意の染顔料を単独または混合して用いることができる。
【0051】
フルカラートナーの場合、イエロー系着色剤としてはベンジジンイエロー、モノアゾ系、縮合アゾ系染顔料が挙げられ、マゼンタ系着色剤としてはキナクリドン、モノアゾ系染顔料が挙げられ、シアン系着色剤としてはフタロシアニンブルーをそれぞれ用いるのが好ましい。
具体的には、シアン系着色剤としては、C.I.ピグメントブルー15:3、イエロー系着色剤としてはC.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、マゼンタ系着色剤としては、C.I.ピグメントレッド238、C.I.ピグメントレッド269、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド48:2、C.I.ピグメントレッド122が特に好ましく用いられる。
【0052】
着色剤は、乳化剤の存在下で水中にサンドミル、ビーズミルなどの機械的手段により乳化させた状態で用いることが好ましく、より具体的には、実質的に水に不溶である有機顔料を界面活性剤の存在下で水中に微細に分散したものが好ましい。この際、着色剤分散液は、水100重量部に対して、着色剤10〜30重量部、乳化剤を1〜15重量部加えるのがよい。なお、分散剤中の着色剤の体積中位径は、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上であり、また、3μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以下である。
着色剤の使用量は特に制限されないが、重合体一次粒子100重量部に対して3重量部以上、20重量部以下となるように用いることが好ましい。
【0053】
<帯電制御剤>
本発明に用いられるトナーには、帯電量、帯電安定性付与のために、帯電制御剤を添加してもよい。帯電制御剤としては、公知の任意のものを単独または併用して用いることができる。例えば、正帯電性帯電制御剤としては、4級アンモニウム塩、塩基性・電子供与性の金属物質が挙げられ、負帯電性帯電制御剤としては、金属キレート類、有機酸の金属塩、含金属染料、ニグロシン染料、アミド基含有化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物およびそれらの金属塩、ウレタン結合含有化合物、酸性若しくは電子吸引性の有機物質が挙げられる。
【0054】
また、本発明の製造方法で得られる静電荷像現像用トナーをカラートナーまたはフルカラートナーにおける黒色トナー以外のトナーとして使用する場合には、トナーへの色調障害がない無色または淡色の帯電制御剤を用いることが好ましい。例えば、正帯電性帯電制御剤としては4級アンモニウム塩化合物が、負帯電性帯電制御剤としてはサリチル酸若しくはアルキルサリチル酸のクロム、亜鉛、アルミニウム等との金属塩、金属錯体や、ベンジル酸の金属塩、金属錯体、アミド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、フェノールアミド化合物、4,4’−メチレンビス〔2−〔N−(4−クロロフェニル)アミド〕−3−ヒドロキシナフタレン〕等のヒドロキシナフタレン化合物が好ましい。
【0055】
本発明において、乳化重合凝集法でトナー中に帯電制御剤を含有させる場合は、乳化重合時に重合性単量体等とともに帯電制御剤を添加するか、重合体一次粒子及び着色剤等とともに凝集工程で添加するか、重合体一次粒子及び着色剤等を凝集させてほぼ目的とする粒径となった後に添加する等の方法によって配合することができる。これらのうち、界面活性剤を用いて帯電制御剤を水中で分散させ、体積平均粒径0.01μm以上、3μm以下の分散液として凝集工程に添加することが好ましい。
帯電制御剤の使用量はトナーに所望の帯電量により決定すればよいが、通常は重合体一次粒子100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、また、好ましくは10重量部以下である。
【0056】
<ワックス>
本発明に用いられるトナーには、定着性改良のためワックスを用いることができる。使用されるワックスとしては、上記の乳化重合工程で説明したワックスを使用することができる。
【0057】
<凝集方法>
凝集処理の方法としては、攪拌槽内で、加熱する方法、電解質を加える方法、またはこれらを組み合わせる方法などがある。重合体一次粒子を攪拌下で凝集させる場合、粒子同士の凝集力と攪拌による剪断力とのバランスから粒子凝集体の粒径が制御されるが、加熱するまたは電解質を加えることによって凝集力を調整し、目的とする粒径とすることができる。
【0058】
電解質を添加して凝集を行う場合の電解質としては、有機塩、無機塩の何れでもよい。具体的には、NaCl、KCl、LiCl、NaSO、KSO、LiSO、CHCOONa、CSONa等の1価の金属カチオンを有する無機塩;MgCl、CaCl、MgSO、CaSO、ZnSO等の2価の金属カチオンを有する無機塩;Al(SO、Fe(SO等の3価の金属カチオンを有する無機塩等が挙げられる。電解質を使用することによって、凝集粒子の平均粒径および粒径分布の制御が容易となり、得られるトナーの帯電量分布がシャープになり、カブリのない画像を得ることができる。
【0059】
電解質の添加量は、電解質の種類、目的とする粒径等によって異なるが、混合分散液の固形成分100重量部に対して、通常0.05重量部以上であり、好ましくは0.1重量部以上であり、また、通常25重量部以下であり、好ましくは15重量部以下であり、より好ましくは10重量部以下である。添加量が上記範囲より少ない場合は、凝集の進行が遅くなり凝集処理後も1μm以下の微粉が残ったり、得られた粒子凝集体の平均粒径が目的の粒径に達しない等の問題を生じる場合がある。また、添加量が上記範囲よりも多い場合は、凝集が急速に進行しやすく粒径の制御が困難となり、得られた粒子凝集体中に粗粉や不定形のものが含まれる等の問題を生じる場合がある。
電解質を加えて凝集を行う場合の凝集温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であり、また、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。
【0060】
電解質を用いずに加熱のみによって凝集を行う場合の凝集温度は、低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度を「Tg」とすると、好ましくは(Tg−20℃)以上、より好ましくは(Tg−10℃)以上であり、また、好ましくはTg以下、より好ましくは(Tg−5℃)以下である。温度が上記範囲未満である場合は、目標粒径に達しないことがあり、上記範囲超過である場合は、目標粒径より大きくなることがある。
【0061】
凝集に要する時間は、装置形状や処理スケールにより最適化されるが、目的とする体積中位径に到達するためには、上述の所定の温度で通常、少なくとも30分以上保持することが望ましい。所定の温度へ到達するまでの昇温は、一定速度で昇温してもよいし、段階的に昇温することもできる。
本工程で得られる凝集体の体積中位径は特に限定されないが、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、また、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下である。
【0062】
<粒子凝集体の表面に付着または固着させる樹脂微粒子>
得られるトナーの帯電性や耐熱性等の性能を保持または向上させるために、必要に応じて、樹脂微粒子を上記凝集工程で得られた粒子凝集体の表面に付着または固着させ、粒子凝集体の表面を部分的にまたは全面にわたって被覆することができる。
樹脂微粒子は、通常、凝集工程以降、好ましくは熟成工程以前または熟成工程中の段階で、粒子凝集体含有分散液に樹脂微粒子を添加することで粒子凝集体表面に供給される。樹脂微粒子は、通常、界面活性剤を含有する水を主体とする液中に分散して用いられる。なかでも、乳化重合によって得られたものが好ましく、上記の帯電制御剤を凝集処理後に加える場合には、粒子凝集体を含む分散液に帯電制御剤を加えた後に樹脂微粒子を加えることが好ましい。
【0063】
樹脂微粒子として重合体一次粒子のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂微粒子を用いた場合、定着性を損なうことなく、耐ブロッキング性の一層の向上が実現できるので好ましい。該樹脂微粒子の体積平均粒径は、0.02μm以上が好ましく、0.05μm以上が更に好ましい。また、3μm以下が好ましく、さらに1.5μm以下が好ましい。樹脂微粒子としては、前述の重合体一次粒子製造における乳化重合で用いられるモノマーと同様なモノマーを重合して得られたもの等を用いることができる。また、樹脂微粒子として架橋されている樹脂を用いてもよい。架橋剤としては、上述の重合体に用いられる多官能性モノマーが使用できる。
樹脂微粒子が架橋樹脂である場合の架橋度は、テトラヒドロフラン不溶分として、通常5重量%以上であり、10重量%以上が好ましく、15重量%以上が更に好ましく、20重量%以上が特に好ましい。また、通常70重量%以下である。
樹脂微粒子は、通常、界面活性剤により水または水を主体とする液中に分散した分散液として用いるが、帯電制御剤を凝集処理後に加える場合には、粒子凝集体を含む分散液に帯電制御剤を加えた後に樹脂微粒子を加えることが好ましい。
【0064】
また、樹脂微粒子は実質的にワックスを含まないものが好ましく、樹脂微粒子中のワックス含有量が通常1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以下であることが望ましい。樹脂微粒子が実質的にワックスを含まない場合は、複写機やプリンター等での画像形成の際に、トナーが定着される前にはトナー表面部にワックスが浸出しにくく、画像形成装置の汚れを防ぐことができ、また、保存安定性も良好となるため好ましい。
【0065】
<熟成工程>
熟成工程は、上記凝集工程で得られた凝集体を加熱することにより、重合体一次粒子および着色剤、必要により添加されるワックス、帯電制御剤、他の成分などを互いに融着し、物理的に1つの粒子(トナー母粒子)とする工程である。
【0066】
熟成工程の温度は、好ましくは粒子凝集体を構成する重合体一次粒子のガラス転移温度(Tg)以上、より好ましくはTgより5℃高い温度以上であり、また、好ましくはTgより80℃高い温度以下、より好ましくはTgより50℃高い温度以下である。
また、熟成工程に要する時間は、目的とする形状により異なるが、粒子凝集体を構成する重合体一次粒子のガラス転移温度以上に到達した後、通常0.1時間〜10時間、好ましくは1時間〜6時間保持することが望ましい。
【0067】
熟成工程での加熱処理により、粒子凝集体における重合体一次粒子同士の融着一体化がなされ、粒子凝集体は球形に近い形状となる。熟成工程前の粒子凝集体は、重合体一次粒子を主構成成分とした静電的または物理的凝集による集合体であると考えられる。熟成工程後は、粒子凝集体を構成する重合体一次粒子は互いに融着しており、球状に近い形状のトナー母粒子を得ることが可能となる。このような熟成工程によれば、熟成工程の温度および時間等を制御することにより、重合体一次粒子が凝集した形状である葡萄型、融着が進んだジャガイモ型、更に融着が進んだ球状等、目的に応じて様々な形状(円形度)のトナー母粒子を製造することができる。
【0068】
乳化重合凝集法においては、上記凝集工程以降、好ましくは熟成工程以前または熟成工程中の段階で、界面活性剤を添加するか、凝集液のpH値を上げることが好ましい。ここで用いられる界面活性剤としては、上述の重合体一次粒子を製造する際に用いることのできる界面活性剤から1種以上を選択して用いることができる。特に、重合体一次粒子を製造した際に用いた界面活性剤と同じものを用いることが好ましい。
界面活性剤を添加する場合の添加量は限定されないが、混合分散液の固形成分100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは3重量部以上であり、また、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。
凝集工程以降、熟成工程の完了前の間に界面活性剤を添加するか、凝集液のpH値を上げることにより、凝集工程で凝集した粒子凝集体同士の凝集等を抑制することができ、粗大粒子が生じることを抑制できる場合がある。
【0069】
<洗浄・乾燥工程>
上記の各工程を経ることにより得たトナー母粒子(融着粒子)は、公知の方法に従って固液分離し、トナー母粒子を回収し、次いで、これを必要に応じて洗浄した後、乾燥することにより目的とするトナー母粒子を得ることができる。
【0070】
<外添工程>
本発明の静電荷像現像用トナーは、上記工程で得られるトナー母粒子のままであってもよいが、流動性や現像性を制御する為に、トナー母粒子に公知の外添剤が添加されたものでもよい。
外添剤としては、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、タルク、ハイドロタルサイト等の金属酸化物や水酸化物、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸金属塩、窒化チタン、窒化珪素等の窒化物、炭化チタン、炭化珪素等の炭化物、アクリル系樹脂やメラミン樹脂等の有機粒子等が挙げられ、複数組み合わせることが可能である。中でも、シリカ、チタニア、アルミナが好ましく、また、例えばシランカップリング剤やシリコーンオイル等で表面処理されたものがより好ましい。その平均粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上であり、また、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下である。また、上記粒径範囲において小粒径のものと大粒径のものとを併用することも好ましい。外添剤の添加量の総量は、トナー母粒子100重量部に対して、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、また、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部である。
【0071】
トナー母粒子の表面に、外添剤を添加する方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)等の高速流動式混合機において、羽根形状、回転数、時間、駆動−停止の回数等を適宜設定して均一に攪拌、混合することによりなされる。また、圧縮剪断応力を加えることの出来る装置によって固着することもできる。
【0072】
<静電荷像現像用トナー>
本発明の静電荷像現像用トナーは、体積中位径が好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、また、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下である。
また、体積中位径5.04μm以下の微粉粒子の含有割合は、全トナー体積に対して、好ましくは0.1体積%以上であり、より好ましくは0.5体積%以上であり、特に好ましくは1体積%以上である。一方、上限としては、好ましくは10体積%以下、より好ましくは7体積%以下、特に好ましくは5体積%以下である。また、体積中位径12.7μm以上の粗粉粒子の含有割合は、全トナー体積に対して、好ましくは2体積%以下、より好ましくは1体積%以下、特に好ましくは0.5体積%以下である。体積中位径5.04μm以下のトナーおよび体積中位径12.7μm以上のトナー、特に体積中位径12.7μm以上の粗粉粒子は、本来は全く存在しないのが最も好ましいが、実際の製造上は困難であり、除去工程に設備も要することから、上記範囲に制御することが望ましい。体積中位径や粒子含有割合が上記範囲を逸脱する場合は、高解像度の画像形成に適さないことがあり、上記範囲未満では粉体としての取り扱いが困難な傾向にある。
【0073】
更に、体積中位径(Dv50)を個数中位径(Dn50)で除した値(Dv50/Dn50)は、好ましくは1.25以下、より好ましくは1.20以下、特に好ましくは1.15以下であり、下限としては1.0が好ましい。静電荷像現像用トナーの粒度分布がシャープなものの方が粒子間の帯電性が均一になる傾向にあるので、高画質および高速化を達成するための静電荷像現像用トナーの(Dv50/Dn50)は上記範囲であることが好ましい。体積中位径(Dv50)、数中位径(Dn50)は、実施例記載の方法で測定し定義される。
【0074】
また、得られる静電荷像現像用トナーの形状は出来るだけ球形に近いものが好ましく、平均円形度は、0.90以上が好ましく、0.92以上がより好ましく、0.95以上が特に好ましい。球形に近いほど粒子内での帯電量の局在化が起こりにくく、現像性が均一になる傾向にあるが、完全な球状トナーを作ることは製造上困難であるので、平均円形度は、好ましくは0.995以下、より好ましくは0.990以下である。平均円形度は、実施例記載の方法で測定し、そのように測定して得た値として定義される。
【0075】
本発明の静電荷像現像用トナーの帯電性は、正帯電性であっても負帯電性であってもよいが、負帯電性トナーとして用いることが好ましい。トナーの帯電性の制御は、帯電制御剤の選択および含有量、外添剤の選択および添加量等によって調整することができる。また、本発明の静電荷像現像用トナーは、黒色トナー用、カラートナー用、フルカラートナー用の何れにも好適に用いることができる。
【0076】
本発明の静電荷像現像用トナーは、トナーを磁力により静電潜像部に搬送するためのキャリアを共存させた磁性二成分現像剤用、または、磁性粉をトナー中に含有させた磁性一成分現像剤用、または、現像剤に磁性粉を用いない非磁性一成分現像剤用の何れに用いてもよいが、本発明の効果を顕著に発現するためには、特に非磁性一成分現像方式用の現像剤として用いるのが好ましい。
【0077】
上記の磁性二成分現像剤として用いる場合には、トナーと混合して現像剤を形成するキャリアとしては、公知の鉄粉系、フェライト系、マグネタイト系キャリア等の磁性物質、または、それらの表面に樹脂コーティングを施したものや磁性樹脂キャリアを用いることができる。キャリアの被覆樹脂としては、一般的に知られているスチレン系樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が利用できるが、これらに限定されるものではない。キャリアの平均粒径は、特に制限はないが10μm〜200μmの平均粒径を有するものが好ましい。これらのキャリアは、トナー1重量部に対して5重量部〜100重量部使用する事が好ましい。
【0078】
<重合体一次粒子製造装置>
上述した本発明のトナー製造方法に使用される重合体一次粒子の製造装置(以下、粒子製造装置ともいう。)は、本製造方法により重合体一次粒子を製造可能な装置であれば特に制限はないが、モノマーを連続的に乳化する連続乳化機と、連続乳化機により得られる乳化液中に含まれるモノマーの重合が行われるバッチ式反応器と、連続乳化機とバッチ式反応器とを連通する配管とを備える重合体一次粒子の製造装置が好ましい。
以下、本発明の重合体一次粒子の製造装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の重合体一次粒子の製造プロセスを実施する製造装置10の一実施例を示す模式的概略図である。図1に示す重合体一次粒子の製造装置10は、原料モノマーを貯蔵するモノマータンク12および14と、モノマータンク12および14より供給されるモノマーを混合してモノマー混合液を製造する混合槽16と、界面活性剤を含む水溶液を貯蔵する原料タンク18と、モノマーと界面活性剤とを水中で連続的に乳化する連続乳化機20と、連続乳化機20から供給される乳化液中に含まれるモノマーの重合が行われるバッチ式反応器24と、連続乳化機20とバッチ式反応器24とを連通する配管22とを備える。なお、モノマータンク12および14、混合槽16、原料タンク18は、本発明の重合体一次粒子の製造装置10においては、含まれていなくてもよい。
図1中、連続乳化機20に設けられた原料供給口から原料が供給され、連続乳化機20内において連続乳化により乳化液が連続的に製造される。連続乳化機20中で連続乳化を行いながら、連続乳化機20に設けられた乳化液排出口から乳化液の一部を連続的に抜き出す。抜き出された乳化液は配管22を通してバッチ式反応器24へ連続的に供給され、バッチ式反応器24内でモノマーの重合が行われる。
以下、図1に示されるトナー製造装置について、構成要素毎にさらに詳述する。
【0079】
<連続乳化機>
連続乳化機20は、モノマーとその他任意成分(例えば、界面活性剤)とを水中で連続的に乳化できる装置であれば装置構成は特に限定されず、公知の乳化機を使用することができる。なお、本発明の連続乳化機20には、主に、モノマーや界面活性剤などを供給するための原料供給口と、得られた乳化液を排出する乳化液排出口と、攪拌翼とが備えられている。原料供給口および乳化液排出口の位置は特に限定されないが、原料供給口は連続乳化機20の上部に、乳化液排出口は連続乳化機20の下部に設置されることが好ましい。
連続乳化機20の具体例としては、例えば、スタチックミキサー、高剪断ミキサーなどのインラインミキサー、パイプラインホモミキサー、ホモミックラインフローなどを挙げることができる。なかでも、液全体に同じ攪拌効果が与えられ、エマルション粒径の部分的なムラが発生しにくい点で、インライン乳化機が好ましい。
【0080】
連続乳化機20へのモノマー、水、および任意成分(例えば、界面活性剤)の供給方法は、特に限定されない。
供給方法の一実施態様として2種のモノマーを使用する場合は、まず、図1に示すように異なるモノマーが貯蔵されるモノマータンク12とモノマータンク14から混合槽16にモノマーを供給して、モノマー混合液を製造する。なお、モノマータンク12およびモノマータンク14から混合槽16への送液手段は特に限定されず、例えば、図1に示すように定量ポンプ30および32を用いて行われる。
次に、定量ポンプ34を用いて、混合槽16からモノマー混合液を、連続乳化機20の原料供給口へ連通する配管を通して連続的に連続乳化機20へ供給する。同時に、定量ポンプ36を用いて、原料タンク18から界面活性剤を含む水溶液を、連続乳化機20の原料供給口へ連通する配管を通して連続的に連続乳化機20へ供給することによって、原料の供給が行われる。
【0081】
上記の混合槽16へモノマーを供給するモノマータンクの数は特に限定されず、モノマーを3種以上使用する場合は、3つ以上のモノマータンクを使用してもよい。
また、上記の混合槽16の構成は特に限定されず、混合の連続性と効率性を考慮して、連続混合と連続乳化機20への送液を同時に行うことができるインライン式混合装置が好ましい。
また、定量ポンプ30、32、34および36としては、例えば、チューブポンプ、ギアポンプ、ロータリーポンプ、シリンジポンプなど公知のポンプが使用できる。また、圧縮空気などによって加圧し送液するタイプのポンプであってもよい。
【0082】
連続乳化機20への原料の供給方法の他の実施態様としては、混合槽16で得られたモノマー混合液を、界面活性剤および水とともに別の混合槽に供給して原料混合液を製造した後に、得られた原料混合液を連続乳化機20へ連続的に供給してもよい。
また、他の実施形態としては、モノマー、水、その他任意成分(例えば、界面活性剤)を別々の原料供給口を介して連続乳化機20へ連続的に供給してもよい。
なお、連続乳化機20の原料供給口の数は特に限定されず、図1に示すように使用される原料(モノマー、界面活性剤、水)毎に2つ以上の原料供給口を備えていてもよい。
【0083】
モノマー、界面活性剤、水等の連続乳化機20への供給速度は、トナー設計、装置の規模などに依るため特に限定されないが、その添加速度によってエマルションの特性を変更することができる。
例えば、モノマーの供給速度を早くすると、変化させる前と比較して、分散液中のモノマー量が多くなり、重合体一次粒子の分子量が大きくなる。また、モノマーの供給速度を遅くすると、変化させる前と比較して、分散液中のモノマー量が少なくなり、重合体一次粒子の分子量が小さくなる。
界面活性剤の供給速度を早くすると、変化させる前と比較して、分散液中の粒径が小さくなり、さらにその後の工程において、凝集し難くなる場合がある。また、界面活性剤の供給速度を遅くすると、変化させる前と比較して、分散液中の粒径が大きくなり、不安定となる場合がある。
【0084】
攪拌翼の形状は、乳化を起こすことができれば特に限定されず、プロペラ翼、タービン翼、アンカー翼等いずれであってもよく、また、1段のほか複数段に設けたものであってもよい。
攪拌条件(攪拌速度・攪拌時間)は、使用する原料(モノマー、界面活性剤)や攪拌翼の形状により適宜最適な条件が選択される。
【0085】
乳化の均一性がより向上する点から、2以上の複数の連続乳化機を連結して使用してもよい。
【0086】
<配管>
配管22は、連続乳化機20の乳化液排出口と後述するバッチ式反応器24の乳化液供給口を連通する配管であり、上記の連続乳化機20により得られる乳化液を後述するバッチ式反応器24に送出するための配管である。配管の長さや材質は、特に限定されず、使用される材料に応じて適宜選択される。
バッチ式反応器24への乳化液の供給量を制御する方法としては、特に制限されず、図1に示すように配管22の途中に定量ポンプ38が設けられていてもよい。定量ポンプ38により、バッチ式反応器24への乳化液の供給量を制御することもできる。使用されるポンプは特に制限されず、上記で例示したポンプなどが挙げられる。
また、供給量を制御する他の方法として、配管22の太さによって流量を制御する方法や、連続乳化機20とバッチ式反応器24との水頭差によって制御する方法などが挙げられる。
さらに、他の方法として、配管22の途中に、バッチ式反応器24へ乳化液の供給量を制御するための流量制御ユニットが設けられてもよい。流量制御ユニットとしては、乳化液が通過する管の断面積を制御する方法(例えば、流量制御弁を用いる)などが挙げられる。
【0087】
<バッチ式反応器>
バッチ式反応器24は、上記の配管22より連続的に供給される乳化液中のモノマーを重合するための装置である。バッチ式反応装置は特に制限がなく、撹拌装置を具備し、重合装置として用いることができる構造を有するものであれば何でもよい。
配管22の連結位置は特に限定されないが、バッチ式反応器24の上部に連結されることが好ましい。
なお、バッチ式反応器は、乳化液供給口に連結した配管22以外に、開始剤、連鎖移動剤などの成分を供給できる添加物供給配管26を有していてもよい。なお、添加物供給配管26を通して原料を供給する方法は特に限定されず、例えば、図1に示すように定量ポンプ40を用いて行われる。
【0088】
上述した凝集工程および熟成工程で使用される装置は、特に制限されることなく、例えば、攪拌翼と加熱冷却装置を備えた混合槽などが使用される。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の例で「部」とあるのは「重量部」を意味する。また、実写試験は以下の方法により行った。
【0090】
各粒子径、平均円形度、電気伝導度、熱特性等は次のように測定した。
【0091】
<体積中位径の測定方法>
1μm以上の体積中位径を有する粒子の体積中位径は、ベックマン・コールター社製マルチサイザーII(アパーチャー径100μm:以下、マルチサイザーと略す)を用い、同社アイソトンIIを分散媒として、分散質濃度0.03重量%になるように分散させて測定した。
【0092】
<体積中位径の測定方法>
また、1μm未満の体積中位径を有する粒子の体積中位径は、日機装株式会社製型式Microtrac Nanotrac150(以下ナノトラックと略す)および同社解析ソフトMicrotrac Particle Analyzer Ver10.1.2−019EEを用い、電気伝導度が0.5μS/cmのイオン交換水を溶媒とし、溶媒屈折率:1.333、測定時間:600秒、測定回数:1回の測定条件で取り扱い説明書に記載された方法で測定した。その他の設定条件は、粒子屈折率:1.59、透過性:透過、形状:真球形、密度:1.04とした。
【0093】
<平均円形度の測定方法と定義>
平均円形度は、分散質を分散媒(セルシース:シスメックス社製)に、5720〜7140個/μLの範囲になるように分散させ、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社(旧東亜医用電子社)製、FPIA2100)を用いて、以下の装置条件にて測定を行い、得られた値を「平均円形度」と定義する。本発明においては、同様の測定を3回行い、3個の「平均円形度」の相加平均値を、「平均円形度」として採用する。
・モード :HPF
・HPF分析量 :0.35μL
・HPF検出個数:2000個〜2500個
【0094】
以下の「円形度」は、上記装置で測定され、上記装置内で自動的に計算されて表示されるものであり、「円形度」は下記式で定義される。
[円形度]=[粒子投影面積と同じ面積の円の周長]/[粒子投影像の周長]
そして、HPF検出個数である2000個〜2500個を測定し、この個々の粒子の円形度の算術平均(相加平均)が「平均円形度」として装置に表示される。
【0095】
<電気伝導度の測定方法>
電気伝導度の測定は、導電率計(アズワン株式会社製のCyberScanCON100)を用いて行なった。
【0096】
<熱特性>
パーキンエルマー社製熱分析装置DSC7を用い、同社の取り扱い説明書に記載された方法で10℃から110℃まで10℃/分の速度で昇温させた際の吸熱曲線より、融点・融解熱量・融解ピーク半値幅を測定した。さらに、続いて110℃から10℃まで10℃/分の速度で降温させた際の発熱曲線より、結晶化温度・結晶化ピーク半値幅を測定した。
【0097】
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製の示差走査熱量計DSC6220を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。ガラス転移温度は、装置付属の解析ソフト(EXSTAR6000熱分析レオロジーシステム)を用い、DSC曲線のベースラインの延長線と吸熱カーブで最大傾斜を示す接線との交点から求めた。なお、ガラス転移温度が樹脂以外の他の成分、例えば、ワックス等の熱量変化のために明確に判断が出来ない場合には、上記のガラス転移温度として理論ガラス転移温度を採用する代わりに、ワックス等の示差走査熱量計の測定の障害となる成分を除いて作製した樹脂について測定する。
【0098】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
測定試料の0.1重量%THF溶液を調液し、4時間静置してから、クラボウ製GLクロマトディスク(サンプル前処理用フィルター)13Pを使って濾過した。THF可溶成分を、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
装置:東ソー社製GPC装置 HLC−8020、
カラム:ポリマーラボラトリー社製 PL−gel Mixed−B 10μ、
溶媒:THF、
試料濃度:0.1重量%、
検量線:標準ポリスチレンを用いて作製
【0099】
<実施例1>
<ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1の調製>
パラフィンワックス(日本精蝋社製HNP−9、表面張力23.5mN/m、熱特性:融点82℃、融解熱量220J/g、融解ピーク半値幅8.2℃、結晶化温度66℃、結晶化ピーク半値幅13.0℃)27部(270g)、ステアリルアクリレート(東京化成社製)2.8部、20重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(第一工業製薬社製、ネオゲンS20A、以下20%DBS水溶液とも略す)1.9部、脱塩水68.3部を90℃に加熱して、ホモミキサー(特殊機化工業社製 マークIIfモデル)を用い10分間攪拌した。次いで、90℃加熱下で、ホモジナイザー(ゴーリン社製、LAB60−10TBS型)を用いて25MPaの加圧条件で循環乳化を開始し、ナノトラックで粒子径を測定し体積中位径が250nmになるまで分散させ、ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1(エマルション固形分濃度(体積%)=30.2%)を作製した。
【0100】
<重合体一次粒子分散液B1の調製>
攪拌装置(3枚翼)、加熱冷却装置、および各原料・助剤仕込み装置を備えたバッチ式反応器(内容積5L)に、ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1を35.6部、脱塩水257部を仕込み、攪拌しながら窒素気流下で90℃に昇温した。なお、バッチ式反応器と後述する連続乳化機とは、配管により連結されている。
次に、下記の各モノマー類を定量ポンプより、第一混合槽(内容積10ml)に添加し、攪拌装置(アンカー翼)内(攪拌条件:200rpm)で混合した。混合を行いながら同時に得られたモノマー混合液を攪拌装置から抜き出し、定量ポンプよりインライン連続乳化機(ホモミキサー、内容積:10ml)に送液した。同時に、下記所定量の0.3重量%DBS水溶液を定量ポンプよりインライン連続乳化機に添加し、モノマー混合液と一緒に装置(アンカー翼)内(攪拌条件:600rpm)で混合して連続乳化を行い、モノマー類・乳化剤(界面活性剤)の乳化液を得た。
さらに、連続乳化を行いながら、インライン連続乳化機の下部に連結してある配管から得られた乳化液を抜き出し、定量ポンプより乳化液を連続的にワックス・長鎖重合性単量体分散液A1が含まれるバッチ式反応器に添加した。このモノマー類・乳化剤の乳化液を滴下開始した時間を重合開始とし、下記の開始剤水溶液1を別の供給口から重合開始30分後から3.5時間かけてバッチ式反応器に添加し、その後更に下記の開始剤水溶液2を2時間かけて添加した。その後、攪拌下で内温90℃のまま1時間保持した。なお、モノマー類の第一混合槽への添加開始から、上述のように内温90℃の一時間保持して、重合体一次粒子を得るまでに、7時間を要した。
重合反応終了後に冷却し、乳白色の重合体一次粒子分散液B1を得た。これを、ナノトラックを用いて測定した体積中位径は250nmであり、重量平均分子量(Mw)は、70,100であった。Sp値(軟化点)は107℃であった。
なお、フローテスター((株)島津製作所製CFT−500)において、試料1gをノズル1mm×10mmのダイ、荷重2kg、余熱時間60℃で5分、昇温速度を6℃/分の条件下で行い、フロー開始から終了までの距離の中間点の温度を軟化点とした。
[モノマー類](部数/添加時間)
スチレン 76.8部/4時間
アクリル酸ブチル 23.2部/4時間
アクリル酸 0.85部/4時間
ヘキサンジオールジアクリレート 0.7部/4時間
ブロモトリクロロメタン 1.0部/4時間
[乳化剤水溶液]
0.3重量%DBS水溶液 1.0部/4時間
[開始剤水溶液1]
8重量%過酸化水素水溶液 15.5部
8重量%L−(+)アスコルビン酸水溶液 15.5部
[開始剤水溶液2]
8重量%L−(+)アスコルビン酸水溶液 14.2部
【0101】
<トナー母粒子C1の製造>
攪拌装置(ダブルヘリカル翼)、加熱冷却装置、および各原料・助剤仕込み装置を備えた混合器(内容積2L)に重合体一次粒子分散液B1を100部(固形分)(1200g)仕込み、内温8℃として、20重量%DBS水溶液0.05部(固形分)を加えて均一に混合した。更に、第一硫酸鉄の5%水溶液(FeSO・7HOとして0.12部)を5分かけて添加した。続けて、シアン顔料分散液(大日精化社製 EP750)4.4部(固形分)を5分かけて添加して均一に混合した後、脱塩水22部を滴下した。その後、1時間かけて内温54℃に昇温した。ここでマルチサイザーを用いて体積中位径を測定したところ、7.3μmであった。
【0102】
続いて20重量%DBS水溶液6部(固形分)を添加し、96℃まで昇温し、そのまま保持した。フロー式粒子分析装置で平均円形度を測定し、0.96になったら、その後30分かけて30℃まで冷却してスラリーを得た。冷却後の体積中位径は7.4μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.97であった。
【0103】
スラリーを抜き出し、5種C(東洋濾紙株式会社製 No.5C)の濾紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過をした。濾紙上に残ったケーキを、攪拌機(プロペラ翼)を備えた内容積10Lのステンレス容器に移し、電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgを加え、50rpmで攪拌して均一に分散させ、その後30分間攪拌した。
【0104】
その後、再度5種Cの濾紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過し、再度ろ紙上に残った固形物を、攪拌機(プロペラ翼)を備え、電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgの入った内容積10Lのステンレス容器に移し、50rpmで攪拌して均一に分散させ、30分間攪拌した。ろ液の電気伝導度が2μS/cmとなるまで、この工程を繰り返した。
【0105】
最終的に得られたケーキをステンレス製バットに高さ20mmとなる様に敷き詰め、40℃に設定された送風乾燥機内で48時間乾燥することにより、トナー母粒子C1を得た。
【0106】
<現像用トナーD1の製造>
協立理工株式会社サンプルミルKR−3内に、トナー母粒子C1を100部投入し、続いてシリコーンオイルで疎水化処理された体積平均一次粒径0.015μmのシリカ微粒子1.5部を添加し、攪拌・混合して篩別することにより現像用トナーD1を得た。
【0107】
<実施例2>
<重合体一次粒子分散液B2の調製>
連続乳化の際に供給されるブロモトリクロロメタンの添加速度を以下のように段階的に変動させた以外は、実施例1と同様の調製方法により、重合体一次粒子分散液B2を調製した。なお、実施例1と同様に、モノマー類の第一混合槽への添加開始から、重合体一次粒子を得るまでに7時間を要した。
重合反応終了後冷却し、乳白色の重合体一次粒子分散液B2を得た。これを、ナノトラックを用いて測定した体積中位径は250nmであり、重量平均分子量(Mw)は、37,800であった。Sp値は115℃であった。
[ブロモトリクロロメタン](部数/添加時間)
0〜1時間目:0部/時間
1〜2時間目:0.11部/時間
2〜3時間目:0.28部/時間
3〜4時間目:0.61部/時間
【0108】
<トナー母粒子C2の製造>
重合体一次粒子分散液B1の代わりに重合体一次粒子分散液B2を用いた以外はトナー母粒子C1と同様の方法により、トナー母粒子C2を調製した。
冷却後のトナー母粒子C2の体積中位径は7.5μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.962であった。
【0109】
<現像用トナーD2の製造>
トナー母粒子C1の代わりにトナー母粒子C2を用いた以外は現像用トナーD1と同様の調製方法により、現像用トナーD2を得た。
【0110】
<比較例1>
<重合体一次粒子分散液B3の調製>
図2に比較例1で使用する装置について示す。矢印aに示すように実施例1に記載のモノマー類の混合液と、矢印bに示すように実施例1に記載の乳化剤水溶液とを攪拌装置100(アンカー翼)に入れ、攪拌条件:600rpmで1時間混合し、乳化液を製造した。攪拌終了後、矢印cに示すように、得られた乳化液を、定量ポンプを用いてバッチ式反応器110に連続的に添加する以外は、重合体一次粒子分散液B1と同様の方法で、重合体一次粒子分散液B3を調製した。矢印dは、開始剤水溶液の添加を表している。なお、攪拌装置100でのモノマー類の混合開始から、重合体一次粒子を得るまでに8時間を要した。
重合反応終了後に冷却し、乳白色の重合体一次粒子分散液B3を得た。これを、ナノトラックを用いて測定した体積中位径は260nmであり、重量平均分子量(Mw)は、82,400であった。Sp値は110℃であった。
【0111】
<トナー母粒子C3の製造>
重合体一次粒子分散液B1の代わりに重合体一次粒子分散液B3を使用する以外はトナー母粒子C1と同様の調製方法で、トナー母粒子C3を調製した。
冷却後のトナー母粒子C3の体積中位径は7.4μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.968であった。
【0112】
<現像用トナーD3の製造>
トナー母粒子C1の代わりにトナー母粒子C3を用いた以外は現像用トナーD1と同様の調製方法で、現像用トナーD3を調製した。
【0113】
以下に、実施例1および2と、比較例1で得られた重合体一次粒子の製造方法、得られた粒子の特徴について、表1にまとめて示す。なお、表1中「Mp」は分子量のピークトップを表す。また、表1中「重合体一次粒子調製時間」は、モノマー混合開始時から重合体一次粒子が得られる重合終了時までに要した時間を表す。
表1に示すように、本発明の連続乳化法を使用することにより、従来の一括乳化法と比較して、より短時間で重合体一次粒子を調製することができた。また、本発明の方法によれば、連鎖移動剤などの各種成分の供給量を連続的または段階的に変動させることができ、それによって得られる重合体一次粒子のより精密な構造制御が可能となった。
【0114】
【表1】

【0115】
<定着試験>
未定着のトナー像を担持した記録紙を用意し、加熱ローラの表面温度を100℃から210℃まで5℃刻みで変化させ、定着ニップ部に搬送し、120mm/秒の速度で排出されたときの定着状態を観察した。定着時に加熱ローラにトナーのオフセットまたは用紙巻き付きが生じず、定着後の記録紙上のトナーが十分に記録紙に接着している温度領域を定着温度領域とする。定着機の加熱ローラは、離型層がPFA(テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)でできており、シリコーンオイルの塗布なしで評価した。実施例1および2と比較例1で製造した現像用トナーを用いた測定結果を、以下の表2に示す。実用上、○または◎であることが好ましい。
◎:定着温度領域は50℃以上である。
○:定着温度領域は35℃以上50℃未満である。
△:定着温度領域は25℃以上35℃未満である。
×:定着温度領域は25℃未満である。
【0116】
【表2】

【0117】
表2で示すように、連続乳化を行った実施例1および2では、より短時間で定着特性に優れたトナーを製造することができた。特に、実施例2で示すように、連鎖移動剤の添加速度(添加量)を段階的に変動させることにより、同じ連鎖移動剤添加量を使用している実施例1と比較しても、より定着特性の優れたトナーを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の製造方法を用いたトナーは、定着性をはじめ、トナーの性能に優れているため、一般のプリンター、複写機等への利用はもちろんのこと、近年開発がなされてきた高解像度、高寿命、高速印刷による画像形成方法等にも広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0119】
10 重合体一次粒子の製造装置
12、14 モノマータンク
16 混合槽
18 原料タンク
20 連続乳化機
22 配管
24 バッチ式反応器
26 添加物供給配管
30、32、34、36、38、40 定量ポンプ
100 攪拌装置
110 バッチ式反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合法により重合体一次粒子を含有する分散液を製造する工程と、
前記重合体一次粒子および着色剤を凝集させて粒子凝集体を得る工程と、
前記粒子凝集体を融着させてトナー母粒子を製造する工程とを備える静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記乳化重合法において、少なくとも1種のモノマーを含む水溶液の連続乳化を行いながら、得られた乳化液を直接バッチ式反応器に連続的に供給して、前記モノマーの重合を行い、前記重合体一次粒子を含有する分散液を製造することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項2】
前記水溶液がさらに界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項3】
前記連続乳化において、2種以上のモノマーを混合してモノマー混合液を調製し、前記モノマー混合液と界面活性剤と水とを用いて前記水溶液を供給することを特徴とする請求項2に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項4】
前記連続乳化を少なくとも1段以上のインライン乳化機により行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項5】
前記乳化重合法において、ワックス存在下にて前記重合を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項6】
前記乳化重合法において、さらに連鎖移動剤を含む前記水溶液の連続乳化を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項7】
前記水溶液中における前記連鎖移動剤の濃度および/または種類を連続的または段階的に変動させて連続乳化を行うことを特徴とする請求項6に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項8】
前記乳化重合法において使用される前記モノマーの少なくとも1種がスチレンである請求項1〜7のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法により得られる静電荷像現像用トナー。
【請求項10】
静電荷像現像用トナーの製造に使用される重合体一次粒子の製造装置であって、
モノマーを水中で連続的に乳化する連続乳化機と、
前記連続乳化機により得られる乳化液中に含まれるモノマーの重合が行われるバッチ式反応器と、
前記連続乳化機と前記バッチ式反応器とを連通する配管とを備える重合体一次粒子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−197954(P2010−197954A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45766(P2009−45766)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】