説明

非接触シール付き転がり軸受

【課題】ラビリンス隙間を有する非接触シール付き転がり軸受において、ラビリンス隙間のわずかなリング状の開口部分から、微小な塵埃や液体などの微粒子が侵入しないものとし、これによってさらに密封度の改善された非接触シール付き転がり軸受を得ようとするものである。
【解決手段】シール4は、回転する外輪1に外周縁4aが固定され、かつ内周縁4bは非回転の内輪2の外周に形成された周溝2aの内側に非接触に近接してラビリンス隙間6を形成する。リング状のシール4の外側面4cには転がり軸受のラビリンス隙間6の開口に沿って、軸受内部側に凹んだ段差面4dを形成し、この段差面4dから軸受外側に突出しラビリンス隙間6に向かって延びる送風用ブレード8を設ける。送風用ブレード8で周方向に送られる空気が、外径方向へ逃げずに効率よく内径側へ流れ、ラビリンス隙間6の開口に沿う空気流が生じ、その圧力によって開口付近の異物を充分に吹き飛ばすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受空間を密封する非接触シール付き転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受の内部に保持される潤滑グリースの漏れを少なくすると共に、グリース内部に塵埃や液体などの異物が入り込まないように、軸受空間を密封する非接触シールが装着されている。
【0003】
図9に示すように、転がり軸受の非接触シール20は、環状の芯金21とこの芯金21に一体に固着されるゴム状部材20aとが複合したリング状のものであり、外輪1の内周面に形成された周溝に外周部が嵌合されて固定されている。
【0004】
内輪2にはリング状のシール20の内径部が対向する位置に、周溝2aからなるシール用溝が形成され、シール20の内径側と内輪2の周溝2aとの間にラビリンスシール隙間23が形成されている。このラビリンスシール隙間23には、隙間寸法の広狭があり、狭まり部が1以上形成されている。
このようなラビリンス隙間23を介した非接触の状態で、潤滑グリースを保持した転がり軸受の軸受空間はある程度の密封状態が保たれている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−337426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来の非接触シール付き転がり軸受では、リング状のシールの内径側と内輪との間に、ラビリンス隙間のわずかなリング状の開口部分を有しており、微小な塵埃や液体などの微粒子がラビリンス隙間から軸受内部に侵入する可能性がある。
【0007】
また、転がり軸受の外輪回転によって回転するリング状シールによって、粘性流れが生じてラビリンス隙間の周囲に気流の生じる場合があるが、そのような気流は、転がり軸受の側面における環境雰囲気中の漂流微粒子の運動に与える影響は少なく、前記微粒子の軸受内部への侵入を防止することはできない。
【0008】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、ラビリンス隙間を有する非接触シール付き転がり軸受において、ラビリンス隙間のわずかなリング状の開口部分から、微小な塵埃や霧(ミスト)状の潤滑油や水などの液体その他の微粒子が侵入しないものとし、これによってさらに密封度の改善された非接触シール付き転がり軸受を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、転がり軸受の内部に潤滑グリースを保持すると共に対向する一対の軌道輪の隙間をリング状シールで密封した転がり軸受からなり、前記リング状シールは回転する軌道輪に一方の周縁部が固定され、かつ他方の周縁部は非回転の軌道輪に非接触に近接してラビリンス隙間を形成しているシールであり、このシールの外側面のラビリンス隙間の開口に沿って軸受内部側に凹んだ段差面を形成すると共に、この段差面から軸受外側に突出してラビリンス隙間に向かって延びる送風用ブレードを設けてなる非接触シール付き転がり軸受としたのである。
【0010】
上記したように構成されるこの発明の非接触シール付き転がり軸受は、シールの段差面から軸受外側に突出してラビリンス隙間に向かって延びる送風用ブレードが、回転する外輪、すなわち外輪と一体に回転するシールの回転によって軸受外側の段差面上の空気をシールの翼面の面積だけ回転方向に押し流す。
その際に発生する空気流は、ラビリンス隙間の開口に沿って起こると共に、その圧力によって開口付近の異物を吹き飛ばすことができる。そのため、ラビリンス隙間のわずかなリング状の開口部分から、微小な塵埃や液体などの微粒子が侵入しない。
【0011】
このような作用をより充分に奏させるには、少なくとも送風用ブレードが、2以上設けられている上記の非接触シール付き転がり軸受であることが好ましい。
【0012】
また、送風用ブレードが、回転軸の周囲に等角度間隔で設けられているものであれば、シールの重心が、軸心に一致するため、回転時に生じる振動の少ない非接触シール付き転がり軸受になる。
【0013】
送風用ブレードが、段差面に直立する方形状の翼面を有する送風用ブレードであれば、気流を発生させる翼面が広く採れ、しかも成形容易な形状で非接触シールを設けることができる。
【0014】
また、軸受の回転によって発生する気流をできるだけ多く内径方向に、すなわちラビリンス隙間の開口に向けて発生させるためには、送風用ブレードが、外径側部分が軌道輪の回転する方向に倒れるように屈曲または湾曲した翼面を有する送風用ブレードであることが好ましい。
【0015】
送風用ブレードが、軌道輪の回転する方向と反対側に凹んでいる翼面を有する送風用ブレードを採用することにより、上記同様に軸受の回転によって発生する気流をできるだけ多くラビリンス隙間の開口に向けて発生させることができる。
【0016】
また、送風用ブレードの対向する一対の翼面が、翼厚を二等分する平面について面対称に形成されている非接触シール付き転がり軸受は、軸受の内輪の回転方向が正方向、逆方向のいずれであってもラビリンス隙間の開口に向け、所要圧力の空気流を発生させることができる。
【0017】
送風用ブレードが、外径側をシール本体と連続して設けた送風用ブレードであるものは、シールの外側面のラビリンス隙間の開口に沿って軸受内部側に凹んだ段差面と、この段差面から軸受外側に突出するシール本体を周壁として、軸受の回転時に発生する気流を周辺に逃がさないようにしてラビリンス隙間の開口に向けて発生させることができるため、比較的気流の発生効率が良い。
【0018】
また、送風用ブレードが、外径側をシール本体から間隔を開けて設けた送風用ブレードを設けた非接触シール付き転がり軸受は、特に外径側部分が軌道輪の回転する方向に倒れるように屈曲した翼面を有する送風用ブレードや、軌道輪の回転する方向と反対側に凹んでいる湾曲面からなる翼面を有する送風用ブレードについて、開放された翼面の外径側からも空気の供給が可能であり、ラビリンス隙間の開口に向けて効率よく所要圧力の空気流を発生させることができる。
【0019】
このようなリング状シールは、合成樹脂で成型されたリング状シールを採用することにより、軌道輪の回転時の遠心力にも充分に耐える剛性を有し、軽量で軸受に負担が少なく、効率よく気流を発生させるものになる。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、接触シール付き転がり軸受におけるリング状シールの外側面のラビリンス隙間の開口に沿って、軸受内部側に凹んだ段差面を形成すると共に、この段差面から軸受外側に突出してラビリンス隙間に向かって延びる送風用ブレードを設けたので、発生する空気の流れが、ラビリンス隙間の開口に沿って起こり、空気流の圧力によって開口付近の異物を吹き飛ばし、除去するため、ラビリンス隙間のわずかなリング状の開口部分からも、微小な塵埃や液体などの微粒子が侵入しないものとなり、これによって密封度の改善された非接触シール付き転がり軸受となる利点がある。
【0021】
また、送風用ブレードが、回転軸の周囲に等角度間隔で設けられているものであれば、シールの重心が、軸心に一致するため、回転時に生じる振動の少ない非接触シール付き転がり軸受になる。
【0022】
外径側部分が軌道輪の回転する方向に倒れるように屈曲した翼面、または湾曲面からなる翼面を有する送風用ブレードを採用したものでは、ブレードの外径側が開放されていても上記同様に軸受の回転によって発生する気流をできるだけ多くラビリンス隙間の開口に向けて発生させることができる利点がある。
合成樹脂で成型されたリング状シールであるものを採用することにより、所要の剛性を有し、軽量で軸受に負担が少なく、効率よく気流を発生させるものとなる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1〜4に示すように、第1実施形態は、転がり軸受の代表例として深溝玉軸受を示し、このものは回転する外輪1と固定されている内輪2の軌道面間にボールからなる転動体3を介在させ、これを回転自在に保持器5で保持している。そして、軸受の内部には潤滑グリース(図示せず。)を保持すると共に、外輪1と内輪2からなる対向する一対の軌道輪の隙間をリング状のシール4で密封し、シール4は、回転する外輪1に一方の周縁部(外周縁)4aが固定され、かつ他方の周縁部(内周縁)4bは非回転の内輪2の外周に形成された周溝2aに近接してラビリンス隙間6を形成しているシールである。
【0024】
図1及び図2に示すように、シール4は、環状の鋼板製芯金7を支持材とし、その周囲を合成樹脂または合成ゴムで成型されたシール部材で覆われ、これらは一体化されている。
【0025】
図2及び図3に示すように、リング状のシール4の外側面4cには転がり軸受のラビリンス隙間6の開口6aに沿って、軸受内部側に凹んだ段差面4dを形成している。そして、この段差面4dから軸受外側に突出しラビリンス隙間6aに向かって延びる送風用ブレード8を設けている。
【0026】
送風用ブレード8は、回転軸の周囲、すなわちリング状のシール4の内周縁に等角度間隔で複数個(図中8箇所)設けているので、転がり軸受の回転によって、リング状のシール4の各部に遠心力が均等に作用し、振動が起こらない。
【0027】
図2〜4に示す送風用ブレード8は、段差面に直立する方形状の翼面8aを有するものであり、このような形状であれば成形やその後の加工も容易であり、かつ回転時に空気流を起こす作用面積も大きく効率が良いものになる。
【0028】
図4に示すように、この送風用ブレード8は、外径側をシール4の本体部分と連続して設けている。このようにするとシール4の回転時に送風用ブレード8で周方向に送られる空気が、外径方向へ逃げずに効率よく内径側へ流れ、ラビリンス隙間6(図2参照)の開口6aに沿う空気流が生じ、その圧力によって開口付近の異物を充分に吹き飛ばすことができる。
【0029】
前記した段差面4dの位置、すなわちリング状シールの外側面からの段差は、転がり軸受の設計的事情に合せて適宜に変更することができるが、段差は大きい方が翼面8aの面積の広い送風用ブレードを設けることができ、空気流の発生効率も向上させることができる。
【0030】
また、図5〜8に示す送風用ブレード9、10、11、12の他の形態に示すように、これらの送風用ブレードが、軌道輪の回転する方向に倒れるように屈曲した翼面を有する送風用ブレードであることは、軸受の回転によって発生する気流をできるだけ多く内径方向に、すなわちラビリンス隙間の開口に向けて発生させるために好ましい形態である。
【0031】
個別に説明すると、図5に示す第2実施形態では、送風用ブレード9の長手方向の外径側の半分に、軌道輪の回転する方向に倒れるように屈曲した翼面9aを形成しており、内径側の半分は軌道輪の回転する方向にとは反対方向に倒れるように屈曲した翼面9bを形成し、全体として「く」の字型に屈曲した翼面形状に形成している。これによってリング状のシール13の回転時に送風用ブレード9で周方向に送られる空気が、翼面9a中央部分に集められて外径方向へ逃げ難く、外径側をシール13の本体と連続して設けていることからも、より効率よく空気流を内径側へ流すことができ、ラビリンス隙間の開口に対する所期した微粒子侵入防止作用を奏することができる。
【0032】
また、第2実施形態では、送風用ブレード9の対向する翼面(9a、9b)と翼面(9c、9d)が、翼厚を二等分する平面A(図中、鎖線で示す。)について面対称に形成されているため、軸受の内輪の回転方向が正逆いずれの方向であっても、ラビリンス隙間の開口に向け、所要圧力の空気流を発生させることができる。
【0033】
図6に示す第3実施形態は、送風用ブレード10の全体に軌道輪の回転する方向に倒れるように湾曲した翼面10aを形成した非接触シールであり、また送風用ブレード10の対向する一対の翼面10a、10bが、翼厚を二等分する平面について面対称に形成されており、軸受の回転方向に関わらず作用する。さらにこの実施形態では、送風用ブレードの外径側をシール14の本体から間隔を開けて設けている。このものでは、開放された翼面10cの外径側からも空気の供給が可能であり、ラビリンス隙間の開口に向けて効率よく所要圧力の空気流を発生させることができる。
【0034】
図7に示す第4実施形態は、送風用ブレード11が、外径側をシール15の本体から間隔を開けて不連続に設けていると共に、軌道輪の正逆双方に回転する方向に倒れるように湾曲した翼面を有する送風用ブレードである。このようにすると、軌道輪の回転する方向に拘わらず、開放された翼面11aの外径側からも空気の供給が可能であり、効率よく空気流を内径側へ流すことができる。
【0035】
図8に示す第5実施形態は、段差面16dに直立する方形状の翼面12a、12bを有する送風用ブレードであり、径方向に沿って延びる翼面12aと周方向に沿って延びる翼面12bを直交させて設け、全体的には軌道輪の回転する正逆両方向に倒れるように屈曲した翼面を有する送風用ブレードである。このような形態であっても前記した実施形態と同様に、外径側からも空気の供給が可能であり、回転方向にかかわらず、効率よくラビリンス隙間の開口に対する所期した微粒子侵入防止作用を奏することができる。
【0036】
なお、上述した実施形態は、一対の軌道輪となる部材としてラジアル型軸受の外輪および内輪について説明したが、一対の軌道輪となる部材はこれに限定されるものではなく、たとえばスラスト型軸受の軌道盤であってもよい。また、実施形態は、転動体として玉以外のころなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1実施形態の断面図
【図2】送風用ブレードを示す図1の拡大断面図
【図3】第1実施形態に用いたリング状シールの平面図
【図4】第1実施形態に用いるリング状シールの要部を示す拡大斜視図
【図5】第2実施形態に用いるリング状シールの要部を示す拡大斜視図
【図6】第3実施形態に用いるリング状シールの要部を示す拡大斜視図
【図7】第4実施形態に用いるリング状シールの要部を示す拡大斜視図
【図8】第5実施形態に用いるリング状シールの要部を示す拡大斜視図
【図9】従来例の断面図
【符号の説明】
【0038】
1 外輪
2 内輪
2a 周溝
3 転動体
4 シール
4a 外周縁
4b 内周縁
4c 外側面
4d、14d 段差面
5 保持器
6 ラビリンス隙間
7 芯金
8、9、10、11、12 送風用ブレード
8a、9a、9b、10a、10b、10c、12a、12b 翼面
13、14、15、16 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の内部に潤滑グリースを保持すると共に対向する一対の軌道輪の隙間をリング状シールで密封した転がり軸受からなり、前記リング状シールは回転する軌道輪に一方の周縁部が固定され、かつ他方の周縁部は非回転の軌道輪に非接触に近接してラビリンス隙間を形成しているシールであり、このリング状シールの外側面のラビリンス隙間の開口に沿って軸受内部側に凹んだ段差面を形成すると共に、この段差面から軸受外側に突出してラビリンス隙間に向かって延びる送風用ブレードを設けてなる非接触シール付き転がり軸受。
【請求項2】
送風用ブレードが、2以上設けられている請求項1に記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項3】
送風用ブレードが、回転軸の周囲に等角度間隔で設けられている請求項2に記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項4】
送風用ブレードが、段差面に直立する方形状の翼面を有する送風用ブレードである請求項1〜3のいずれかに記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項5】
送風用ブレードが、軌道輪の回転する方向に倒れるように屈曲または湾曲した翼面を有する送風用ブレードである請求項1〜3のいずれかに記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項6】
送風用ブレードが、軌道輪の回転する方向と反対側に凹んでいる湾曲した翼面を有する送風用ブレードである請求項1〜3のいずれかに記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項7】
送風用ブレードの対向する一対の翼面が、翼厚を二等分する平面について面対称に形成されている請求項4〜6のいずれかに記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項8】
送風用ブレードが、外径側をシール本体と連続して設けた送風用ブレードである請求項1〜3のいずれかに記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項9】
送風用ブレードが、外径側をシール本体から間隔を開けて設けた送風用ブレードである請求項1〜3のいずれかに記載の非接触シール付き転がり軸受。
【請求項10】
リング状シールが、合成樹脂で成型されたリング状シールである請求項1〜3のいずれかに記載の非接触シール付き転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−91052(P2010−91052A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262954(P2008−262954)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】