説明

非接触給電システム

【課題】給電線に生じるジュール熱による損失を減らし、電力効率を向上させることができる非接触給電システムを提供する。
【解決手段】本発明の非接触給電システムは、搬送車1と、搬送車1に非接触で電力を供給可能な給電施設3とからなる。搬送車1は、整流回路13の出力電圧Vpを検出するデジタル電圧計27と、デジタル電圧計27の出力信号を高周波電源7に送信する光送信機23とを有している。また、給電施設3は、光送信機23からの送信により、予め設定された目標値Vmin’以上に出力電圧Vpを維持しながら、出力電圧Vpが目標値Vmin’に近づくように高周波電源7から出力する誘導電流を制御する制御回路9bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触給電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に従来の非接触給電システムが開示されている。これらの非接触給電システムは、工場、倉庫等で荷物を搬送する搬送車等の移動体と、この移動体に非接触で電力を供給可能な給電施設とからなる。給電施設は、移動体が移動しながら案内される軌道と、高周波電源と、軌道に沿って延びつつ高周波電源から誘導電流が出力され、軌道上の移動体に非接触で電力を供給する給電線とを備えている。
【0003】
特許文献1等で公知の移動体はピックアップコアを有しており、ピックアップコアによって給電線から電力を受けるようになっている。ピックアップコアは整流回路に接続されている。整流回路はピックアップコアで受電した交流電圧を直流電圧に整流する。整流回路は、インバータを介してモータに接続されているとともに、インバータと並列に制御電源に接続されている。
【0004】
また、移動体は、インバータ、制御電源、センサ及び光送信機と接続された移動側コントローラを有している。一方、給電施設は、高周波電源と接続されているとともに、光受信機を有する地上側コントローラを備えている。移動側コントローラは、制御電源から電力の供給を受けつつ、インバータ及び制御電源を制御するとともに、センサによって移動体の位置等を検出し、光送信機によって移動体の運転状態を示す運転情報を光受信機に送信するようになっている。地上側コントローラは、上位コンピュータからの指示又は手動操作による指示に基づき、光受信機の受信によって、移動体を軌道上で移動させながら、高周波電源が出力する誘導電流を制御し、移動体の運転情報による負荷に応じた電力を移動体に供給するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−184503号公報
【特許文献2】特開2001−19120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の非接触給電システムでは、軌道上の移動体に電力を供給しようとする場合、移動体の運転情報による負荷に応じた電力を移動体に供給することとしており、未だ移動体が必要とする以上の電力に相当する誘導電流を給電線に出力しなければならない。このため、従来の非接触給電システムは、電流の2乗に比例するジュール熱による損失が給電線に生じ、電力効率が低下してしまっている。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、給電線に生じるジュール熱による損失を減らし、電力効率を向上させることができる非接触給電システムを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の非接触給電システムは、移動体と、該移動体に非接触で電力を供給可能な給電施設とからなり、
該給電施設は、該移動体が移動しながら案内される軌道と、高周波電源と、該軌道に沿って延びつつ該高周波電源から誘導電流が出力され、該軌道上の該移動体に非接触で電力を供給する給電線とを備えた非接触給電システムにおいて、
前記移動体は、前記給電線から電力を受けるピックアップコアと、該ピックアップコアに接続され、該ピックアップコアで受電した交流電圧を直流電圧に整流する整流回路と、該整流回路の出力電圧を検出する検出手段と、該検出手段の出力信号を前記高周波電源に送信する送信手段とを有し、
該送信手段からの送信により、予め設定された目標値以上に該出力電圧を維持しながら、該出力電圧が該目標値に近づくように該高周波電源から出力する誘導電流を制御する制御手段を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の非接触給電システムにおいて、軌道上の移動体に電力を供給しようとする場合、高周波電源の周波数及び出力電流が一定であれば、整流回路の出力電圧は移動体の負荷によって変化する。すなわち、移動体の負荷が小さいほど整流回路の出力電圧は高く、移動体の負荷が大きいほど整流回路の出力電圧は低くなる。このため、本発明の非接触給電システムでは、検出手段によって整流回路の出力電圧を検出し、送信手段によって検出手段の出力信号を高周波電源に送信する。そして、制御手段は、送信手段からの送信により、予め設定された目標値以上に出力電圧を維持しながら、出力電圧が目標値に近づくように高周波電源から出力する誘導電流を制御する。これにより、本発明の非接触給電システムは、移動体の負荷に応じて誘導電流を出力していた従来の非接触給電システムに比べ、無駄な誘導電流の出力を抑制できる。
【0010】
したがって、本発明の非接触給電システムによれば、給電線に生じるジュール熱による損失を減らし、電力効率を向上させることができる。
【0011】
目標値は移動体に最大の負荷が作用したと仮定した場合の出力電圧の下限値よりやや大きく設定され得る。これにより、軌道上における移動体の正常な動作は保証される。
【0012】
地上側コントローラが制御手段を有し得る。移動体の送信手段は、地上側コントローラを介して検出手段の出力信号を高周波電源に送信することも可能である。
【0013】
制御手段は、出力電圧をフィードバック制御することが好ましい(請求項2)。この場合、無駄な誘導電流の出力を確実に抑制することができる。
【0014】
送信手段によって検出手段の出力信号を送信すると、制御手段によって誘導電流を制御するまでに時間的な遅れを生じる。また、軌道上の異物等により移動体に急激な負荷変動を生じる場合もある。これらの場合、出力電圧が目標値を下回ってしまうおそれがある。このため、移動体は、整流回路の出力部に補助給電手段を有することが好ましい(請求項3)。この場合、補助給電手段によって移動体の不具合を補償することができる。補助給電手段としては、コンデンサ、キャパシタ、バッテリ等を採用することができる。
【0015】
送信手段は、制御手段を介して出力信号を高周波電源に送信するとともに、移動体の運転状態を示す運転情報を制御手段に送信することが好ましい(請求項4)。この場合、従来の地上側コントローラ、光送信機及び光受信機を使用することができ、別個の送信手段を省くことで低コスト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の非接触給電システムの全体構造図である。
【図2】実施例の非接触給電システムに係り、ピックアップコア等の断面図である。
【図3】実施例の非接触給電システムに係り、搬送車の制御盤の構成図である。
【図4】実施例の非接触給電システムに係り、地上側コントローラの制御ブロック図である。
【図5】図(A)は搬送車の速度のタイミングチャート、図(B)は出力電圧のタイミングチャート、図(C)は誘導電流のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
実施例の非接触給電システムは、図1に示すように、工場、倉庫等で荷物を搬送する搬送車1と、この搬送車1に非接触で電力を供給可能な給電施設3とからなる。搬送車1が移動体である。
【0019】
給電施設3は、搬送車1が移動しながら案内される軌道5と、高周波電源7と、地上側コントローラ9とを備えている。高周波電源7からは軌道5に沿って給電線(リッツ線)11が延出されている。地上側コントローラ9は光受信機9aを有している。地上側コントローラ9は高周波電源7と接続されている。
【0020】
搬送車1は2個のピックアップコア1a、1bを有している。各ピックアップコア1a、1bは、図2に示すように、内部に給電線11を挿通させており、各ピックアップコア1a、1bに巻かれたコイル1c(図3参照)によって給電線11から電磁誘導によって電力を受けるようになっている。図3に示すように、ピックアップコア1a、1bの両コイル1cは、制御盤内において、整流回路13に接続されている。整流回路13はピックアップコア1a、1bで受電した交流電圧を直流電圧に整流する。整流回路13は、インバータ15を介してモータ17に接続されているとともに、インバータ15と並列に制御電源19に接続されている。
【0021】
また、搬送車1は、インバータ15、制御電源19、センサ21及び光送信機23と接続された移動側コントローラ25を有している。移動側コントローラ25は、制御電源19から電力の供給を受けつつ、インバータ15及び制御電源19を制御するとともに、センサ21によって搬送車1の位置等を検出し、光送信機23によって搬送車1の運転状態を示す運転情報を光受信機9aに送信するようになっている。
【0022】
整流回路13の出力部には、出力電圧Vpを検出するデジタル電圧計27と、デジタル電圧計27のインバータ15側にコンデンサ29とが設けられている。デジタル電圧計27は移動側コントローラ25に接続されており、移動側コントローラ25は光送信機23によってデジタル電圧計27の出力信号を光受信機9aに送信するようになっている。デジタル電圧計27が検出手段であり、光送信機23が送信手段である。コンデンサ29が補助給電手段である。
【0023】
図1に示す地上側コントローラ9は、図示しない上位コンピュータからの指示又は手動操作による指示に基づき、光受信機9aの受信によって、搬送車1を軌道5上で移動させている搬送車1の運転状態を把握するようになっている。また、この地上側コントローラ9は、図4に示すように、目標値Vmin’に基づいて、高周波電源7から出力する誘導電流をフィードバック制御する制御回路9bを有している。制御回路9bが制御手段である。目標値Vmin’は搬送車1に最大の負荷が作用したと仮定した場合の出力電圧Vpの下限値Vminよりやや大きく設定されている。これにより、軌道5上における搬送車1の正常な動作は保証される。
【0024】
この非接触給電システムにおいて、軌道5上の搬送車1に電力を供給しようとする場合、高周波電源7の周波数及び出力電流が一定であれば、整流回路13の出力電圧Vpは搬送車1の負荷によって変化する。すなわち、搬送車1の負荷が小さいほど整流回路13の出力電圧Vpは高く、搬送車1の負荷が大きいほど整流回路13の出力電圧Vpは低くなる。このため、この非接触給電システムでは、デジタル電圧計27によって整流回路13の出力電圧Vpを検出し、光送信機23によってデジタル電圧計27の出力信号を光受信機9aに送信する。そして、制御回路9bは、光受信機9aの受信により、予め設定された目標値Vmin’以上に出力電圧Vpを維持しながら、出力電圧Vpが目標値Vmin’に近づくように高周波電源7から出力する誘導電流を制御する。そして、搬送車1は電力が供給される。
【0025】
電力効率を実施例の非接触給電システムと比較例の非接触給電システムとで比較する。比較例の非接触給電システムは、搬送車の運転情報による負荷に応じた電力を搬送車に供給するものである。例えば、図5(A)に示すように、搬送車が軌道上で徐々に速度を上げ、一定速度で走行した後、徐々に速度を落としていくと仮定する。
【0026】
この間、比較例の非接触給電システムにおける出力電圧Vpは、図5(B)に示すように、搬送車が無負荷に近い状態の上限値Vmaxと、搬送車が最大負荷に近い状態の下限値Vminとの間で大きく変動する。しかし、実施例の非接触給電システムにおける出力電圧Vpは、下限値Vminよりやや大きい目標値Vmin’に制御される。このため、比較例の非接触給電システムと実施例の非接触給電システムとでは、出力電圧Vpにハッチングで示した量の差を生じることとなる。
【0027】
このため、比較例の非接触給電システムと実施例の非接触給電システムとでは、図5(C)に示すように、誘導電流の強さにハッチングで示した量の差を生じることとなる。つまり、実施例の非接触給電システムは、比較例の非接触給電システムに比べ、無駄な誘導電流の出力を確実に抑制できることがわかる。
【0028】
したがって、実施例の非接触給電システムによれば、給電線11に生じるジュール熱による損失を減らし、電力効率を向上できることがわかる。
【0029】
また、実施例の非接触給電システムでは、整流回路13の出力部にコンデンサ29を有するため、制御回路9bによるフィードバック制御の時間的な遅れや搬送車1に生じる急激な負荷変動を補償し、搬送車1の動作を安定させることもできる。
【0030】
さらに、実施例の非接触給電システムでは、光送信機23が光受信機9aを介して出力信号を高周波電源7に送信するとともに、搬送車1の運転情報を光受信機9aに送信しているため、従来の地上側コントローラ9、光送信機23及び光受信機9aを使用することができ、別個の装置を省くことで低コスト化を実現している。
【0031】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は物流システム等に利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…移動体(搬送車)
3…給電施設
5…軌道
7…高周波電源
11…給電線
1a、1b…ピックアップコア
13…整流回路
Vp…出力電圧
27…検出手段(デジタル電圧計)
23…送信手段(光送信機)
Vmin’…目標値
9b…制御手段(制御回路)
29…補助給電手段(コンデンサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と、該移動体に非接触で電力を供給可能な給電施設とからなり、
該給電施設は、該移動体が移動しながら案内される軌道と、高周波電源と、該軌道に沿って延びつつ該高周波電源から誘導電流が出力され、該軌道上の該移動体に非接触で電力を供給する給電線とを備えた非接触給電システムにおいて、
前記移動体は、前記給電線から電力を受けるピックアップコアと、該ピックアップコアに接続され、該ピックアップコアで受電した交流電圧を直流電圧に整流する整流回路と、該整流回路の出力電圧を検出する検出手段と、該検出手段の出力信号を前記高周波電源に送信する送信手段とを有し、
該送信手段からの送信により、予め設定された目標値以上に該出力電圧を維持しながら、該出力電圧が該目標値に近づくように該高周波電源から出力する誘導電流を制御する制御手段を備えていることを特徴とする非接触給電システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記出力電圧をフィードバック制御する請求項1記載の非接触給電システム。
【請求項3】
前記移動体は、前記整流回路の出力部に補助給電手段を有する請求項1又は2記載の非接触給電システム。
【請求項4】
前記送信手段は、前記制御手段を介して前記出力信号を前記高周波電源に送信するとともに、前記移動体の運転状態を示す運転情報を前記制御手段に送信する請求項1乃至3のいずれか1項記載の非接触給電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−172172(P2010−172172A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14819(P2009−14819)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】