説明

非水系二次電池用電極シート及びそれを用いた非水系二次電池

【課題】本発明は、優れた耐熱性及び発熱抑制機能を有し、さらに電池の耐久性も向上させることができる耐熱層一体型の非水系二次電池用電極シートを提供することを目的とする。
【解決手段】正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水系二次電池用電極シートであって、前記耐熱性多孔質層には、平均粒子径が0.01〜3.0μmであり、かつ、比表面積が1.0〜100m/gである水酸化マグネシウム粉末からなる無機フィラーが含まれていることを特徴とする非水系二次電池用電極シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層を有する非水系二次電池用電極シート、及び、それを用いた非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池は、一般に、正極活物質から構成された正極と、負極活物質から構成された負極と、これらの間に介在するシート状セパレータとを備えている。シート状セパレータは、正極と負極とを電気的に絶縁し、更に電解液を保持する役目を果たす。例えば、従来のリチウムイオン二次電池には、ポリオレフィンの微多孔膜がシート状セパレータとして多用されている。そして、ポリオレフィン樹脂にショート防止のために酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸カリウム等の無機粉体を含有させたシート状セパレータや(特許文献1)、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の固体微粒子を含む多孔質複合セパレータも提案されている(特許文献2)。また、耐熱性の芳香族ポリアミドの多孔膜を用い、これにホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、炭化ケイ素等の無機ウイスカーを添加混合した耐熱性のセパレータも知られている(特許文献3)。
【0003】
一方、非水系二次電池は、高容量化が進む中、応用分野が拡大しており、セパレータの更なる安全性の向上が望まれている。しかし、セパレータが電極又は電極シートと別体の構成の場合には、その製造工程が煩雑になるという欠点がある。そこで従来、例えば、耐熱性樹脂と無機フィラーからなる層を、電極シート上に直接形成する技術が提案されている。具体的には例えば、過充電時の熱的安定性を考慮して、正極活物質層又は負極活物質層の表面に、不織布とアルミナ粉末、シリカ粉末、ポリエチレン樹脂等の絶縁性微粒子からなる多孔性保護膜を形成させたもの(特許文献4)や、酸化チタン、酸化アルミ、酸化亜鉛、酸化ケイ素等の無機酸化物フィラーを含む多孔膜を設けたものも提案されている(特許文献5、特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−50287号公報
【特許文献2】特開平10−106530号公報
【特許文献3】国際公開第01/19906号パンフレット
【特許文献4】特開平7−220759号公報
【特許文献5】特開2006−12788号公報
【特許文献6】国際公開第05/78828号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非水系二次電池の安全性を確保するためには耐熱性は重要な要素であるが、それだけでは不十分であり、発火という観点に立てば、更に発熱自体を抑制する機能を有することも重要である。ところが、上述の特許文献に記載されているような金属酸化物からなる無機フィラーを用いた構成では、発熱抑制機能という観点においては殆ど効果がない。
【0006】
また、従来技術のように金属酸化物からなる無機フィラーを用いた構成では、無機フィラーが電池の耐久性を悪化させるおそれがある。すなわち、無機フィラーは、電池内に微量に存在するフッ化水素(HF)と反応して表面がフッ素化され、その際に水が生成される場合がある。そして、この水分が電解液や電極表面に形成されたSEI(Solid Electrolyte Interface)皮膜を分解する。このようにして電解液やSEI皮膜が分解すると、電池の内部抵抗が上昇したり、充放電に必要なリチウムが失活して、電池の耐久性が低下してしまう場合がある。また、このような分解反応が起こると電池内にガスが発生するため、このことによっても電池の耐久性が低下する。また、アラミド樹脂等の耐熱性樹脂は一般的に水分を吸着しやすい物質であるため、これらの問題はより発生しやすくなる。
【0007】
そこで本発明は、優れた耐熱性及び発熱抑制機能を有し、さらに電池の耐久性も向上させることができる耐熱層一体型の非水系二次電池用電極シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
1. 正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水系二次電池用電極シートであって、前記耐熱性多孔質層には、平均粒子径が0.01〜3.0μmであり、かつ、比表面積が1.0〜100m/gである水酸化マグネシウム粉末からなる無機フィラーが含まれていることを特徴とする非水系二次電池用電極シート。
2. 前記無機フィラーは、少なくとも表面の一部がフッ化マグネシウムで被覆されていることを特徴とする上記1に記載の非水系二次電池用電極シート。
3. 前記無機フィラーはシランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする上記1または2に記載の非水系二次電池用電極シート。
4. 前記耐熱性樹脂が芳香族ポリアミドであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の非水系二次電池用電極シート。
5. リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池において、上記1〜4のいずれかに記載の非水系二次電池用電極シートを用いることを特徴とする非水系二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐熱性及び発熱抑制機能を有し、さらに電池の耐久性も向上させることができる耐熱層一体型の非水系二次電池用電極シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】活物質層の上に、無機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された本発明の電極シートを正負極として用いた、リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図2】活物質層の上に、無機フィラーと有機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された本発明の電極シートを正負極として用いた、リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図3】正極として、有機フィラーが無機フィラーを含む耐熱性多孔質層の片面に偏在したものを用いた、本発明のリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図4】活物質層の上に、無機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された本発明の電極シートを正負極として用い、その間に、熱可塑性樹脂からなる多孔質膜をセパレータとして挟み込んだ、リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[非水系二次電池用電極シート]
本発明は、正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水系二次電池用電極シートであって、前記耐熱性多孔質層には、平均粒子径が0.01〜3.0μmであり、かつ、比表面積が1.0〜100m/gである水酸化マグネシウム粉末からなる無機フィラーが含まれていることを特徴とする非水系二次電池用電極シートである。
【0012】
一般に非水系二次電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっている。ところが、本発明においては、非水系二次電池用電極シート自体がセパレータと電極の双方の機能を有しているため、一般的なポリエチレン微多孔膜等のセパレータを用いずとも電池を構成することができ、電池の製造工程を大幅に簡素化することができる。
【0013】
そして、本発明によれば、耐熱性樹脂および無機フィラーを含む耐熱性多孔質層により、耐熱性を確保することができる。さらに、本発明の最大の特徴は、無機フィラーに平均粒子径が0.01〜3.0μmであり、かつ、比表面積が1.0〜100m/gである水酸化マグネシウム粉末を適用している点である。このような本発明によれば、高温下において水酸化マグネシウムの脱水反応が生じることで、発熱抑制機能が発揮される。
【0014】
また、当該無機フィラーにより、ガス発生等の要因による電池の耐久性低下の問題も解決することができる。すなわち、従来の無機フィラーを適用した系では、電池内に微量に存在する水分やHFが無機フィラーの表面と反応することで、電解液や電極表面に形成されているSEI皮膜の分解が促進してしまい、その結果、電池の耐久性を低下させていた。特に、耐熱性多孔質層を構成する耐熱性樹脂は一般的に水分を吸着しやすい物質であるため、耐熱性多孔質層には水分が比較的多く含まれやすく、無機フィラーとHFの反応が生じ易い構成となっていた。ところが、本発明では、所定の平均粒径および比表面積を有した水酸化マグネシウム粉末を適用することで、電池内に微量に存在する水分やHFの活性を著しく低下させ、電解質の分解等によるガス発生を抑制することができる。このため、電池の耐久性を大幅に改善することが可能となる。
【0015】
本発明の電極シートでは、正極は、正極活物質、導電助剤およびバインダーからなる正極合剤(活物質層)が集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePOが用いられる。
【0016】
負極は、負極活物質、導電助剤およびバインダーからなる負極合剤(活物質層)が集電体(銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等)上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズが用いられる。
【0017】
本発明において、活物質層上に積層された耐熱性多孔質層は、耐熱性樹脂と無機フィラーを含んで構成されており、内部に多数の空孔ないし空隙を有し、かつ、これら空孔等が互いに連結された多孔質構造となっている。かかる耐熱性多孔質層は、無機フィラーが耐熱性樹脂中に分散・結着した状態で、活物質層上に直接固着された態様であることが、ハンドリング性の観点から好ましい。
【0018】
本発明における耐熱性樹脂としては、融点が200℃以上の樹脂、あるいは、実質的に融点が存在しない樹脂についてはその熱分解温度が200℃以上の樹脂であれば好適に用いることができる。このような耐熱性樹脂としては、例えば、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、これらの2種以上の組合せ等が挙げられる。中でも、多孔質層の形成しやすさ、無機フィラーとの結着性、それに伴う多孔質層の強度、耐酸化性などの耐久性の観点において、芳香族ポリアミドが好ましい。また、芳香族ポリアミドにおいても、パラ型に比べメタ型は成形が容易という観点で、メタ型芳香族ポリアミドが好適であり、特にメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
【0019】
本発明において、耐熱性多孔質層の構成は、重量比で耐熱性樹脂:無機フィラー=10:90〜80:20の範囲が好適であり、さらに10:90〜50:50の範囲が好適である。無機フィラーの含有量が20重量%より少なくなると前記無機フィラーの特徴を十分に得ることが困難となる。また、無機フィラーの含有量が90重量%を超えると成形が困難となり好ましくない。一方、無機フィラーが50重量%以上含まれるものは熱収縮の抑制効果などの耐熱特性が向上するため好適である。耐熱性多孔質層の空孔率は30〜80%の範囲が好適である。
【0020】
本発明では、無機フィラーとして水酸化マグネシウム粉末を用いることが大きな特徴である。かかる水酸化マグネシウムを用いることで、発熱抑制機能を得ることができ、電池全体の安全性を著しく高めることが可能となる。具体的には、水酸化マグネシウムを加熱すると概ね350〜400℃の温度範囲で脱水反応が起こり酸化物となり、水が放出される。更に、この脱水反応は大きな吸熱を伴う反応である。この脱水反応時に水を放出することと、この反応の吸熱により、発熱抑制機能が得られる。また、水を放出するため可燃性である電解液を水で希釈し、耐熱性多孔質層だけでなく電解液にも効果があり、電池そのものを難燃化する上で有効である。なお、非水系二次電池では正極の分解反応に伴う発熱が最も危険と考えられており、この分解反応は300℃近傍で起こる。このため、脱水反応の発生温度が概ね350〜400℃である水酸化マグネシウムであれば、電池の発熱を有効に防ぐことができる。また、水酸化マグネシウムはアルミナのような金属酸化物と比較して軟らかいため、耐熱性多孔質層に含まれる無機フィラーによって、製造時の各工程にて使用する部品が磨耗してしまうといったハンドリング性に関する問題も発生しない。
【0021】
本発明において、水酸化マグネシウム粉末の平均粒子径は0.01〜3.0μmであることが必要である。平均粒子径が0.01μmより小さくなると、耐熱性多孔質層の成形が困難となったり、該多孔質層のすべり性が悪化しハンドリングが困難となる場合があるため好ましくない。平均粒子径が3.0μmより大きくなると、比表面積を本発明の範囲内に収めることが困難となり、また、耐熱性多孔質層を薄く成形する場合に表面粗さの観点から成形が困難となるため好ましくない。
【0022】
本発明において、水酸化マグネシウム粉末の比表面積は1.0〜100m/gであることが必要である。比表面積が1.0m/g未満であると水分やHFの活性を十分に低下させることができないので好ましくない。また、100m/gより大きくなると水分の吸着が多くなり乾燥工程が必要になる。そのような場合、コスト高となるためあり好ましくない。ここで、比表面積は窒素ガス吸着法で測定された吸着等温線をBET式で解析することにより求めたものである。
【0023】
また、本発明においては、無機フィラーは、少なくとも表面の一部がフッ化マグネシウムで被覆されていることが好ましい。フッ化マグネシウムはHFに対する反応性が極めて低いため、このようなフッ化マグネシウムを有した無機フィラーを用いれば、電池の耐久性をより向上させることができる。水酸化マグネシウム粉末の表面にフッ化マグネシウムを形成する方法としては、不活性ガスにて希釈したフッ素ガス中に無機フィラーを暴露して表面をフッ素化する方法や、六フッ化リン酸リチウム塩を溶解した有機溶剤中に無機フィラーを浸漬して表面をフッ素化する方法、セパレータを電池に組み込んだ状態で水酸化マグネシウムをフッ素化合物と反応させる方法等が挙げられる。
【0024】
また、本発明においては、無機フィラーはシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。水酸化マグネシウムはスラリー中での凝集力が高く、耐熱性多孔質層中に凝集物が形成され易いため、このようなシランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウム粉末を用いれば、スラリー中に無機フィラーを均一に分散することができ、高品質の耐熱性多孔質層を形成することができる。
【0025】
なお、無機フィラーには、上述した水酸化マグネシウム粉末に加えて、α-アルミナ等の金属酸化物や、水酸化アルミニウム等の他の金属水酸化物、金属窒化物、ゼイオライトや活性アルミナ等の多孔質フィラーなど、その他の種類の無機フィラーを適宜加えてもよい。
【0026】
また、本発明においては、耐熱性多孔質層に、熱可塑性樹脂からなる有機フィラーが含まれているか、あるいは、耐熱性多孔質層の表面上に当該有機フィラーが層状に形成されていても良い。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のポリオレフィンを挙げることができ、これらは単独で用いることもできるし、これらを混合して用いてもよい。この中でも、電池が異常発熱した場合、融解熱により熱を奪い発熱を抑制する効果が優れていること、また、場合によっては、溶融した熱可塑性樹脂が耐熱性多孔質層の孔を塞いでイオンの移動を防ぐ、いわゆるシャットダウン機能が発現され、電池の更なる発熱を防止することができる点で、PETとPEが好適である。なお、前記有機フィラーの形状は特に限定されるものではなく、例えば微粒子状や繊維状のフィラーを用いることができ、微粒子状の場合は平均粒径が0.1〜5μmのものが好ましい。
【0027】
本発明では、耐熱性多孔質層の膜厚は、1〜50μmが好ましく、更に好ましくは5〜30μmである。厚さが50μmを超えると、電極シートとして用いたときに電池容量密度が不十分となったり、イオン伝導度、充電効率が低下することがある。一方、厚さが1μm未満であると、耐熱性や難燃性、サイクル特性が不十分であることがある。この厚さは、2〜6μmであるのが更に好ましい。本発明の電極シートは、全体の厚さが10〜150μmあるのが好ましく、更に好ましくは14〜80μmである。
【0028】
[非水系二次電池用電極シートの製造方法]
本発明の非水系二次電池用電極シートの製造方法は特に限定されないが、好ましい製造方法の一つ(第一の製造方法)としては、以下の(i)〜(ii)の工程によって製造する方法が挙げられる。すなわち、(i)正極活物質又は負極活物質を含む活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、耐熱性樹脂と、水溶性有機溶剤と、上記の無機フィラーとを含むドープを塗工する工程と、(ii)塗工されたシートを乾燥させ、前記水溶性有機溶剤を除去し耐熱性多孔質層を形成させる工程と、を実施するものである。
【0029】
そして、もう一つの好ましい製造方法(第二の製造方法)としては、(i)正極活物質又は負極活物質を含む活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に、耐熱性樹脂と、水溶性有機溶剤と、上記の無機フィラーとを含むドープを塗工する工程と、(ii)塗工されたシートを、水又は水と前記有機溶剤の混合液からなる凝固液中に浸漬し、前記耐熱性樹脂を凝固させ耐熱性多孔質層を形成させる工程と、(iii)シート上に形成された耐熱性多孔質層を水洗及び乾燥する工程と、を実施する方法が挙げられる。
【0030】
前記塗工工程(工程(i))においては、前記したような耐熱性樹脂(約10重量%以下の耐熱性樹脂以外のポリマーを含んでいても良い)を、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の水溶性有機溶剤に溶解し、得られた溶液に、上記の無機フィラーを分散させてスラリー(ドープ)を作成し、これを正極活物質又は負極活物質を含む活物質層が形成されたシートの当該活物質層上に塗工する。
【0031】
ここで、非水系二次電池の場合、通常、リチウム含有遷移金属酸化物等の正極活物質、アセチレンブラック等の導電助剤、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーからなる正極合剤を、N−メチル−2ピロリドン等の溶媒を用いて混練しスラリーを作製し、得られたスラリーをアルミ箔等の上に塗布し、乾燥し、その後プレスして、正極活物質を含む活物質層が形成されたシート(正極又は正極シート)を得る。また、炭素材料等の負極活物質、アセチレンブラック等の導電助剤、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーからなる負極合剤を、N−メチル−2ピロリドン等の溶媒を用いて混練しスラリーを作製し、得られたスラリーを銅箔等の上に塗布し、乾燥し、その後プレスして、負極活物質を含む活物質層が形成されたシート(負極又は負極シート)を得る。本発明において、耐熱性樹脂等を含むスラリーは、前記活物質層の塗布後完全に乾燥した状態で、その活物質層上に塗工してもよい。あるいは、前記活物質層の塗布後、まだ活物質層がペーストの状態となっているときに、その活物質層上に耐熱性樹脂等を含むスラリーを塗工してもよい。後者の場合には、耐熱性多孔質層の乾燥又は凝固・乾燥と同時に活物質層の乾燥又は凝固・乾燥を行うことができるので、製造工程を簡略化できる利点がある。
【0032】
前記塗工工程において、水溶性有機溶剤に耐熱性樹脂に対して貧溶剤又は非溶剤となる溶剤も一部混合して用いることもできる。このような溶剤を適用することで、ミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤又は非溶剤としては、水又はアルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。なお、有機フィラーを無機フィラーと共に耐熱性多孔質層中に含有させる場合には、この段階で有機フィラーをスラリーに溶解又は分散させればよい。
【0033】
本発明においては、スラリーの固形分全体の濃度は、3〜30重量%程度が好ましい。塗工する方法は、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。塗膜を均一に塗布するという観点において、特にリバースロールコーター法が好適である。
【0034】
前記凝固工程(第二の製造方法の工程(ii))では、塗工されたシートを、そのまま水又は水と前記有機溶剤の混合液からなる凝固液中に浸漬し、シート上で前記耐熱性樹脂を凝固させることによって、耐熱性多孔質層を形成させる。凝固液中に浸漬させる方法としては、凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。凝固液は、耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水又は塗工のためのスラリーに用いた有機溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は、凝固液に対して40〜80重量%が好適である。水の量が40重量%より少ないと耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間が長くなったり、凝固が不十分になるという問題が生じる。また、80重量%より多いと溶剤回収においてコスト高となったり、凝固液と接触する表面の凝固が速すぎ表面が十分に多孔化されないという問題が生じ得る。
【0035】
水洗及び乾燥工程(第二の製造方法の工程(iii))は、前記凝固工程に引き続き、シート上に形成された耐熱性多孔質層を、水洗及び乾燥する工程である。先ず、耐熱性多孔質層から水洗で凝固液を除去し、次いで乾燥する。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥温度は50〜80℃が適当であり、高い乾燥温度を適用する場合は、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするために、ロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。第一の製造方法の場合には、塗工工程に引き続いて、直接、前記の乾燥工程を実施すればよい。
【0036】
なお、耐熱性多孔質層の表面部分に有機フィラーを偏在させる態様の場合には、前記耐熱性多孔質層の凝固工程後又は凝固・水洗・乾燥後の耐熱性多孔質層の表面に、有機フィラーの溶液又は分散液を塗布する方法等で、有機フィラーが層の表面部分に偏在した非水系二次電池用電極シートが得られる。
【0037】
[非水系二次電池]
本発明の非水系二次電池用電極シートは、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池に適用できるが、特にリチウムイオン二次電池への適用が好ましい。
【0038】
本発明の非水系二次電池において、正極および負極の構成については上述の通りである。電解液としては、リチウム塩、例えば、LiPF、LiBF、LiClOを非水系溶媒に溶解したものと用いることができる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。外装材は金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがある。本発明の電極シートはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【0039】
ここで、本発明の非水系二次電池用電極シートを、リチウムイオン二次電池に適用した場合の電池構成について、図1〜4に例示した。図1は、活物質層の上に、無機フィラーを含む耐熱性多孔質層が積層された電極シートを、正負極として用いた構成を示している。具体的には、図1に示すリチウムイオン二次電池は、負極集電シート1上に負極活物質層2が形成された負極シート3と、正極集電シート4上に正極活物質層5が形成された正極シート6と、これらシート3,6の対向面上のそれぞれに形成された無機フィラーを含む耐熱性多孔質層7と、を備えた構造となっている。図2は、図1の耐熱性多孔質層7の中に有機フィラー8を分散させた構成を示している。図3は、図1の正極活物質層5の上に形成された耐熱性多孔質層7の上に、さらに有機フィラーを含む層9が積層された構成を示している。図4は、図1の一対の耐熱性多孔質層7の間に熱可塑性樹脂からなる多孔質膜10を配置した構成を示している。
【0040】
なお、本発明の非水系二次電池においては、正極と負極の少なくとも一方に本発明の電極シートを用いる必要があるが、両極とも本発明の電極シートを用いるのが好ましい。また、前記正極シートと負極シートの間に、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂からなる多孔質膜をセパレータとして追加して用いて、電池を組み立ててもよい。この場合、例えば、電池が異常発熱して生じる高い温度で、熱可塑性樹脂が溶融又は変形して多孔質膜の孔を閉塞する、いわゆるシャットダウン機能を発現することができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの例により何らの限定されるものではない。なお、この明細書で記述する諸特性は、下記の方法により求めたものである。
【0042】
[平均粒子径]
レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製;SALD−2000J)により測定した。分散媒としては水を用い、分散剤として非イオン性界面活性剤「Triton X−100」を微量用いた。得られた体積粒度分布における中心粒子径(D50)を平均粒子径とした。
【0043】
[比表面積]
JIS K 8830に準じて測定した。NOVA−1200(ユアサアイオニクス社製)を用い、窒素ガス吸着法によりBET式で解析し求めた。測定の際のサンプル重量は0.1〜0.2gとした。解析は3点法にて実施し、BETプロットから比表面積を求めた。
【0044】
[膜厚]
接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0045】
[空孔率]
それぞれの構成材料の重量(Wi:g/m2)を真密度(di:g/cm)で割り、これらの和(Σ(Wi/di))を求める。これを膜厚(μm)で割り、1から引いた値に100をかけることで空孔率(%)を算出した。
【0046】
[実施例1]
1)正極シートの作製
以下のようにして正極シートを作製した。コバルト酸リチウム(LiCoO;日本化学工業社製)粉末89.5重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)4.5重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)6重量部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
【0047】
2)負極シートの作製
負極シートは、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪瓦斯化学社製)粉末87重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製;商品名デンカブラック)3重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10重量部となるようにN−メチル−2ピロリドン溶媒を用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、全体の厚さが90μmの負極を得た。
【0048】
3)本発明の正負電極シートの作製
メタ型全芳香族ポリアミドとしてパラメタフェニレンイソフタルアミドであるコーネックス(登録商標;帝人テクノプロダクツ社製)を用いた。このメタ型全芳香族ポリアミドとN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、それぞれ10:90の重量比で混合して溶液とし、これに、無機フィラーとして平均粒子径0.8μm、比表面積6.1m/gの水酸化マグネシウム(キスマ5;協和化学工業社製)を、ポリマーとの重量比が25:75となるように添加し攪拌して塗工用のスラリーを作製した。そして、このスラリーを、前記正極シートおよび負極シートのそれぞれの活物質層表面に、塗工厚20μmで塗工、乾燥し、耐熱性多孔質層を形成した。次いで、この耐熱性多孔質層が表面に形成された活物質層を、ローラプレス機により圧縮成形して、帯状の正極シート及び負極シートを作成した。正極シートの厚みは114μm、多孔質層の空孔率は75%であり、負極シートの厚みは104μm、多孔質層の空孔率は75%であった。
【0049】
4)リチウムイオン二次電池の作製
上記3)で得られた正極シート及び負極シートを対向させ、これに電解液を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入してリチウムイオン二次電池を作製した。ここで、電解液には1M LiPF エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7重量比)(キシダ化学社製)を用いた。
なお、この試作電池の正極面積は2×1.4cm、負極面積は2.2×1.6cmで、設定容量は8mAh(4.2V−2.75Vの範囲)である。
【0050】
[実施例2]
無機フィラーとして平均粒子径0.8μm、比表面積6.1m/gの水酸化マグネシウム(キスマ5;協和化学工業社製)をフッ素ガス濃度20%の常圧アルゴン中に室温で1時間暴露して表面をフッ素化したものを用いた点以外は、実施例1と同様にして、本発明の電極シートおよび非水系二次電池を得た。
【0051】
[実施例3]
無機フィラーとして平均粒子径0.8μm、比表面積6.2m/gのシランカップリング剤処理された水酸化マグネシウム(キスマ5L;協和化学工業社製)を用いた点以外は、実施例1と同様にして、本発明の電極シートおよび非水系二次電池を得た。この場合、無機フィラーはスラリー中に均一に分散され、形成された耐熱性多孔質層を目視で確認しても、無機フィラーの凝集物は見当たらなかった。
【0052】
[比較例1]
無機フィラーとして平均粒子径0.6μm、比表面積6.0m/gのα-アルミナ(昭和電工製:AL160SG−3)を適用した点以外は、実施例1と同様にして、電極シートおよび非水系二次電池用を作製した。
【0053】
[比較例2]
無機フィラーとして平均粒子径3.0μm、比表面積290m/gのゼオライト(HSZ−500KOA;東ソー社製)を適用した点以外は、実施例1と同様にして、電極シートおよび非水系二次電池を作製した。
【0054】
[オーブンテスト]
上記のような方法で作製した実施例及び比較例の電池を、4.2Vまで充電した。そして、電池をオーブンに入れ、5kgの錘をのせた。この状態で電池温度が2℃/分で昇温するようにオーブンを設定し電池を200℃まで加熱した。200℃まで加熱してもほとんど電圧降下が認められず、耐熱性に優れているものについては○と判断し、耐熱性に劣っている場合は×と判断した。結果を表1に示す。
【0055】
[発熱抑制機能の有無]
発熱抑制機能の有無は、DSC(示差走査熱量測定)により分析した。DSC測定装置にはTAインスツルメントジャパン株式会社製のDSC2920を用いた。測定サンプルは、上記の実施例および比較例で作製した正極シートをアルミパンに入れてかしめることにより作製した。測定は、窒素ガス雰囲気下で、昇温速度5℃/min、温度範囲30〜500℃で行った。200℃以上において有意な吸熱ピークが観察された場合は○、観察されなかった場合は×と評価した。結果を表1に示す。
【0056】
[ガス発生量]
上記の実施例および比較例で作製した正極シートを110cm切り出し、これを85℃で16時間真空乾燥した。これを露点−60℃以下の環境でアルミパックに入れ、さらに電解液を注入し、アルミパックを真空シーラーで封止し、測定セルを作製した。ここで電解液は1M LiPF エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(重量比)(キシダ化学社製)とした。測定セルを85℃にて3日間保存し、保存前後の測定セルを測定した。保存後の測定セルの体積から保存前の測定セルの体積を引いた値をガス発生量とした。ここで、測定セルの体積測定は23℃で行い、アルキメデスの原理に従い電子比重計(アルファミラージュ株式会社製;EW−300SG)を用いて行った。結果を表1に示す。
【0057】
[サイクル特性評価]
上記の実施例および比較例で作製した電池を用いて、電池の耐久性の指標となるサイクル特性評価を実施した。先ず、1.6mA、4.2Vで8時間定電流・定電圧充電、1.6mA、2.75Vで定電流放電という充放電サイクルを10サイクル実施し、10サイクル目に得られた放電容量をこの電池の放電容量とした。続いて、同様の充放電サイクルを100サイクル繰り返し、このときの放電容量の低下が10%以下のものを○、10〜20%のものを△、20%以上のものを×とした。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【符号の説明】
【0059】
1 負極集電シート
2 負極活物質層
3 負極シート
4 正極集電シート
5 正極活物質層
6 正極シート
7 耐熱性多孔質層
8 有機フィラー
9 有機フィラーを含む層
10 熱可塑性樹脂からなる多孔質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質又は負極活物質を含む活物質層と、この活物質層の上に積層された耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層とを備えた非水系二次電池用電極シートであって、
前記耐熱性多孔質層には、平均粒子径が0.01〜3.0μmであり、かつ、比表面積が1.0〜100m/gである水酸化マグネシウム粉末からなる無機フィラーが含まれていることを特徴とする非水系二次電池用電極シート。
【請求項2】
前記無機フィラーは、少なくとも表面の一部がフッ化マグネシウムで被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用電極シート。
【請求項3】
前記無機フィラーはシランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系二次電池用電極シート。
【請求項4】
前記耐熱性樹脂が芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水系二次電池用電極シート。
【請求項5】
リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池において、請求項1〜4のいずれかに記載の非水系二次電池用電極シートを用いることを特徴とする非水系二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−108516(P2011−108516A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262912(P2009−262912)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】