説明

非水電解液二次電池用負極集電体およびその製造方法

本発明の非水電解液二次電池用負極集電体は、非水電解液二次電池の集電体となり得る金属の箔からなり、該箔各面の粗度が10点平均表面粗さRzで表して3〜10μmであり、単位面積当たりの重量が40〜320g/mであり、負極活物質として、十分な充放電の可能な金属又は合金が両面又は片面に担持されることを特徴とする。前記金属としては銅、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛若しくは銀又はそれらの金属の合金が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は非水電解液二次電池用負極集電体に関し、更に詳しくは充放電に起因するスズやスズ合金などの負極活物質の集電体からの落剥を防止し得る非水電解液二次電池用負極集電体に関する。
【背景技術】
電解銅箔は、チタンやステンレス製のドラムを陰極とし、寸法安定化電極や鉛を陽極として用い、硫酸酸性の硫酸銅電解浴中で電解を行い、析出した銅を箔として巻き取って得られる。この場合、銅箔における、いわゆる光沢面と呼ばれているドラム対向面は、ドラム表面の平滑な状態が転写された平滑な形状となる。一方、いわゆるマット面と呼ばれている析出面は、浴組成や電解条件に応じ平滑な状態から粗度のある状態まで様々となる。つまり、電解銅箔は、必ず一方の面が平滑面となる。このような特徴を有する電解銅箔を更に電解槽中に誘導して、その両面に銅を電析させて両面とも粗面化させる方法が知られている(特開平6−260168号公報参照)。またキャリア箔として用いられる電解銅箔における光沢面に剥離層を形成し、その上に銅を電析させることで、表面が平滑な極薄銅箔を製造する方法も知られている(特開平11−317574号公報)。更に、銅からなるキャリア箔の表面に、有機系剤と金属粒子とが混合した接合界面層を形成し、その接合界面層上に電解銅箔層を形成してなるキャリア箔付電解銅箔も知られている(特開2001−140090号公報参照)。
ところで、電解銅箔を負極集電体として用いた非水電解液二次電池が種々提案されている。例えば厚み9μmの電解銅箔の光沢面の10点平均表面粗さRzを2.00μmとなし、マット面のRzを3.52となした集電体が知られている(特開平9−306504号公報参照)。この集電体には、負極活物質としてカーボンが担持される。この集電体は、一方の面のRzを3.0μmより小さくし且つ該面と他方の面とのRzの差を2.5μm以下とすることで、集電体と負極活物質との接触を良好にしようとするものである。つまり、集電体の各面のRzを小さくすることを発明の特徴としている。しかし、容量の高い負極活物質として近年注目されているスズやスズ合金を用いた場合の検討はなされていない。本発明者らの検討によれば、この集電体にスズやスズ合金を負極活物質として担持させて負極となした場合、該負極においては充放電によって負極活物質の体積膨張が起こり、落剥が生じてしまうことが判明している。
【発明の開示】
従って、本発明の目的は、スズやスズ合金を始めとする金属や合金からなる負極活物質が、充放電に起因して集電体から落剥することを防止し得る非水電解液二次電池用負極集電体を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討した結果、前記の特開平9−306504号公報に記載の知見と異なり、負極活物質としてスズやスズ合金を始めとする金属や合金を用いた場合には、集電体として用いられる箔の表面を平滑にするよりも或る程度粗くした方が好適であることを知見した。
本発明は前記知見に基づきなされたものであり、非水電解液二次電池の集電体となり得る金属の箔からなり、該箔各面の粗度が10点平均表面粗さRzで表して3〜10μmであり、単位面積当たりの重量が40〜320g/mであり、負極活物質として、十分な充放電の可能な金属又は合金が両面又は片面に担持されることを特徴とする非水電解液二次電池用負極集電体を提供することにより前記目的を達成したものである。
また本発明は、前記集電体の好ましい製造方法として、
電解によって陰極ドラム周面に前記金属を析出させ、析出した該金属を該周面から剥離してキャリア箔を得、該キャリア箔における析出面に剥離処理を施し、該剥離処理面上に電解によって前記金属を析出させ、析出した該金属を該キャリア箔から剥離してレプリカ箔を得ることを特徴とする非水電解液二次電池用負極集電体の製造方法を提供するものである。
また本発明は、非水電解液二次電池の集電体となり得る金属の箔からなる集電体の両面又は片面に、負極活物質として、十分な充放電の可能な金属又は合金が担持されている非水電解液二次電池用負極において、
前記箔はその各面の粗度が10点平均表面粗さRzで表して3〜10μmであり、単位面積当たりの重量が40〜320g/mであることを特徴とする非水電解液二次電池用負極を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
図1(a)〜図1(d)は、本発明の集電体を製造する方法を示す工程図である。
図2(a)〜図2(c)は、図1(a)〜図1(d)に示す製造方法における製造過程での銅箔の表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真像である。
図3(a)〜図3(c)は、本発明の集電体を製造する別の方法を示す工程図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の集電体は非水電解液二次電池の集電体となり得る金属から構成されている。特にリチウム二次電池の集電体となり得る金属から構成されていることが好ましい。そのような金属としては例えば銅、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛若しくは銀又はそれらの金属の合金などが挙げられる。これらの金属のうち銅又はその合金を用いることが特に好適である。従って、以下の説明は銅箔を中心に行うこととする。銅箔としては、電解銅箔及び圧延銅箔の何れもが用いられる。これらのうち、銅箔の表面粗さを後述する範囲にすることが容易であり、しかも銅箔を極薄にすることが容易な電解銅箔を用いることが好ましい。電解銅箔は一般に、回転ドラムを陰極として、硫酸酸性の硫酸銅電解浴中で電解を行いドラム周面に銅を析出させ、析出した銅を剥離して得られる。
本発明において用いられる銅箔はその各面の粗度が10点平均表面粗さRz(JIS B0601)で表して3〜10μmという比較的粗いものとなっている。10点平均表面粗さRzとは、銅箔の縦断面曲線から基準長さLだけ抜き取った部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の深さの絶対値の平均値との差を求めたものである。本発明においてはRzを株式会社小坂研究所製表面粗さ・輪郭形状測定器SEF−30Dを用いて測定した。
前述した通り、銅箔の各面はRzが3〜10μm、好ましくは4〜7μmという比較的粗いものとなっている。本発明者らの検討によれば、負極活物質としてスズやスズ合金を用いた場合には、カーボン等を負極活物質として用いた場合と異なり、銅箔の各面が比較的粗い方が好ましいことが判明した。この理由は次の通りであると本発明者らは推測している。スズやスズ合金等の負極活物質は一般に電解によって銅箔からなる集電体上に担持される。或いは該負極活物質の粒子を含むペーストを集電体上に塗布することによって担持される。従って、銅箔の表面が平滑であると活物質の電析層も平滑に形成される。この状態下に電池の充放電に起因して活物質の体積膨張が起こると、体積膨張分の活物質の行き場がなくなり活物質の層にクラックが生じたり、引いては活物質の微粉化や落剥が起こってしまう。これに対して銅箔の表面が比較的粗い場合には、銅箔の表面が平滑な場合に比べて活物質の電析層が粗く形成される。つまり該電析層の表面は比較的凹凸となる。この凹凸は、電池の充放電に起因して活物質の体積膨張が起こった場合に、体積膨張分の活物質の逃げ場を提供することになる。その結果、活物質の微粉化や落剥が起こりにくくなり、電池の寿命が長くなる。
銅箔の各面におけるRzは同じ値である必要はなく、何れの面もが前記範囲内にあればよい。また、銅箔の各面における凹凸状態(表面プロファイル)も同様である必要はない。しかし、各面ともに出来るだけ同様の表面プロファイルを有していることが電池の性能向上の点から好ましい。このような表面プロファイルを有する銅箔の製造方法については後述する。
銅箔の各面のRz値は前述した範囲であることが必要であり、それに加えて各面においては凹凸の大きさ(高さや深さ)が比較的揃っており、例外的に極めて高い凸部や深い凹部が存在しないことが好ましい。これによっても電池の充放電に起因する活物質の微粉化や落剥が起こりにくくなり、電池の寿命が長くなる。このような表面形状を表すパラメータとしては最大高さRmaxが適切である。Rmaxは、粗さ曲線を等分し、各区間毎に最高山頂と最深谷底との間隔を求めたときの5個の値のうち最大の値で定義される。本発明においては銅箔の各面のRmaxが3.3〜11.5μm、特に4.5〜8μmであることが好ましい。
集電体を構成する銅箔はその厚みが小さいことが電池の性能向上の点から好ましい。具体的には銅箔の厚みは5〜20μm、特に8〜15μm程度の極薄状態であることが好ましい。しかし、このような極薄状態の銅箔において、先に述べたRzの値が3〜10μmという比較的大きな値であるということは、銅箔の厚みの定義を不明確にするおそれがある。そこで本発明においては銅箔の厚みに代えて銅箔の単位面積当たりの重量をもって厚みの尺度とすることとする。そして、銅箔はその単位面積当たりの重量が40〜320g/m、特に44〜180g/mであることが好ましい。単位面積当たりの重量と厚みとの変換に際しては銅の密度として8.96g/cmを用いた。
集電体を構成する銅箔はその抗張力が25kgf/mm以上、特に35kgf/mm以上であることが電池組立時の加工性が良好となる点から好ましい。同様の理由により、銅箔はその伸度が2%超20%以下、特に4%以上15%以下であることが好ましい。抗張力及び伸度は、株式会社島津製作所製のオートグラフAG−Iを用い、標点間距離50mm、引張速度50mm/minの条件で測定される。このような機械的特性を有する銅箔は、例えば電解浴中に添加される塩素や膠などの各種添加剤の種類及び/又は濃度を適宜調整することで得られる。
次に本発明の集電体の好ましい製造方法を、引き続き銅箔を例にとり図面を参照しながら説明する。先ず電解によってキャリア銅箔を製造する。電解の方法は既に述べた通りである。即ち、回転ドラムを陰極として用い、硫酸酸性の硫酸銅電解浴中で電解を行いドラム周面に銅を析出させる。析出した銅をドラム周面から剥離することでキャリア銅箔が得られる。このキャリア銅箔は、目的とする銅箔に対する鋳型として用いられるものである。従って、その厚みを比較的大きくして十分な強度を付与することが好ましい。図1(a)に示すように、キャリア銅箔1の断面はその一方の面が平滑な光沢面となっており、他方の面が凹凸のあるマット面1aとなっている。光沢面はドラム周面に対向していた面であり、マット面1aは析出面である。マット面1aは、電解の条件を適宜調整することでRzが3〜10μm程度となるようにしておく。マット面1aの表面状態の一例の電子顕微鏡写真を図2(a)に示す。
次に、キャリア銅箔1のマット面1を剥離処理する。剥離処理剤としては、例えば先に述べた特開平11−317574号公報の段落〔0037〕〜〔0038〕に記載の窒素含有化合物や硫黄含有化合物、特開2001−140090号公報の段落〔0020〕〜〔0023〕に記載の窒素含有化合物や硫黄含有化合物と銅微細粒との混合物などが挙げられる。また剥離処理として、クロメート処理やニッケルめっき処理を行ってもよい。
マット面1に剥離処理を施した後、その上に電解によって銅を析出させる。この電解によって図1(b)に示すように、キャリア銅箔1のマット面上にレプリカ銅箔2が形成される。レプリカ銅箔2はその単位面積当たりの重量が40〜320g/mとなるように形成されるようにする。レプリカ銅箔2におけるキャリア銅箔対向面、つまり、マット面に対向する面(以下、この面を下面という)2bの表面形状は、マット面と相補形状となる。またレプリカ銅箔2における上面2aの表面形状は、電解の条件を適宜調整することでRzが3〜10μm程度となるようにしておく。このような表面形状を得るための電解条件としては、電解浴に例えば硫酸銅系溶液を用いる場合には、例えば銅の濃度を30〜100g/l、硫酸の濃度を50〜200g/l、塩素の濃度を30ppm以下とし、液温を30〜80℃、電流密度を1〜100A/dmとすればよい。電解浴にピロ燐酸銅系溶液を用いる場合には、銅の濃度10〜50g/l、ピロ燐酸カリウムの濃度100〜700g/lとし、液温を30〜60℃、pHを8〜12、電流密度を1〜10A/dmとすればよい。
次に、図1(c)に示すように、剥離処理面においてキャリア銅箔1からレプリカ銅箔2を剥離する。このようにして得られたレプリカ銅箔2においてはその各面のRzが3〜10μmとなる。このレプリカ銅箔2を集電体として用いる。
レプリカ銅箔2における下面2bは、キャリア銅箔1のマット面1aの相補形状となっていることから、下面2bの表面形状は整っておらずスズやスズ合金などの活物質を電析するには多少不適切な場合がある。下面2bの表面状態の一例の電子顕微鏡写真を図2(b)に示す。従って、後加工として、レプリカ銅箔2の下面2b、即ちレプリカ銅箔2におけるキャリア銅箔対向面に、図1(d)に示すように電解によって少量の銅3を析出させて薄層3を形成し、下面2bの表面凹凸形状を整えることが好ましい。また薄層3の形成によって、下面2bの表面凹凸形状が上面2aのそれに近くなるという利点もある。銅の析出の程度は、下面2bの表面に極く薄く且つ均一に薄層3が形成され、しかもRzの値に影響を与えない範囲である2μm又はそれ以下程度とすることが好ましい。このようにして表面形状が整えられた下面2bの状態の一例の電子顕微鏡写真を図2(c)に示す。この後加工されたレプリカ銅箔2を集電体として用いることもできる。
本発明の集電体の別の好ましい製造方法を図3(a)〜図3(c)に示す。この製造方法においては、レプリカ銅箔2を得るまでは先に述べた製造方法に関して説明した図1(a)〜(c)と同様の操作が行われる。但し、レプリカ銅箔2の厚みは数十μm程度としておく。レプリカ銅箔2が得られたら、図3(a)に示すように、レプリカ銅箔2の下面に剥離処理を施す。剥離処理は、キャリア銅箔1のマット面1aに対して行った剥離処理と同様とすることができる。
下面2bに剥離処理を施した後、その面上に電解によって銅を析出させる。この電解によって図3(b)に示すように、レプリカ銅箔2の下面2b上に第2レプリカ銅箔4が形成される。第2レプリカ銅箔4はその単位面積当たりの重量が40〜320g/mとなるように形成されるようにする。第2レプリカ銅箔4におけるレプリカ銅箔対向面、つまり、下面2bに対向する面の表面形状は、下面2bと相補形状となる。換言すれば第2レプリカ銅箔4の上面4aの表面形状は、最初に製造したキャリア銅箔1のマット面1aの形状と同一となる。キャリア銅箔1の製造に関して既に述べた通り、そのマット面1aはRzが3〜10μmとなっているので、第2レプリカ銅箔4の上面4aのRzも3〜10μmとなる。
一方、第2レプリカ銅箔4における下面4aの表面形状は、電解の条件を適宜調整することでRzが3〜10μm程度となるようにしておく。このような表面形状を得るための電解条件は、先に製造してあるレプリカ銅箔2の電解条件と同様とすることができる。
次に、図3(c)に示すように、剥離処理面においてレプリカ銅箔2から第2レプリカ銅箔4を剥離する。このようにして得られた第2レプリカ銅箔4においてはその各面のRzが3〜10μmとなる。また、各面はその表面凹凸形状が近似したものとなる。従って各面はスズやスズ合金を電析するのに適した表面状態となっている。この第2レプリカ銅箔4を集電体として用いることもできる。
本発明の製造方法の更に別法として、図1(c)若しくは図1(d)で得られたレプリカ銅箔2又は図3(c)で得られた第2レプリカ銅箔4の表面に、粗化処理及び/又は防錆処理を施す方法が挙げられる。これらの処理を施すことで、得られた箔の表面に、後述する負極活物質を担持させた場合に、箔と負極活物質との密着性が高まり、電池特性が向上するという利点がある。
粗化処理としては、箔の表面に粒粉状金属を形成するめっき処理を施した後、該粒粉状金属による凹凸形状を損なわないように該粒粉状金属を緻密なめっき層で被覆するめっき処理が挙げられる。前段のめっき処理はいわゆるヤケめっきと呼ばれるものであり、後段のめっき処理はいわゆる被せめっきと呼ばれるものである。このような粗化処理はプリント回路用銅箔の表面を粗化する方法として知られており、例えば特公昭53−39376号公報に開示されている。やけめっきは、限界電流密度近傍の電流により、粒粉状金属を析出させるめっきであり、被せめっきは、限界電流密度程度またはそれ以下の電流によって、粒状ではない緻密なめっき層を、粒粉状金属を被覆するように析出させるめっきである。
防錆処理としては、(i)金属めっき処理、(ii)クロメート処理、(iii)シランカップリング処理などが挙げられる。金属めっき処理では、亜鉛、ニッケル、コバルト又はそれらの合金を箔の表面にめっきして、箔の腐食(本実施形態では銅の腐食)を防止する。銅の腐食の防止の観点からは、亜鉛又は亜鉛合金めっきを行うことが好ましい。具体的には、亜鉛−銅、亜鉛−ニッケル、亜鉛−コバルト、亜鉛−ニッケル−銅、亜鉛−ニッケル−コバルト、亜鉛−銅−錫などの合金めっきが挙げられる。
クロメート処理では、クロム酸又は二クロム酸塩を主成分とする溶液で箔を処理して表面に防錆被膜を形成する。この処理により形成される防錆被膜は、例えば、クロムを含む金属層、銅クロム合金などからなるクロム合金層又は酸化クロム層からなる。クロメート処理は例えばJIS Z 0103に規定されている。
シランカップリング処理では、箔の表面を、シランカップリング剤として一般的に知られているケイ素含有化合物で処理する。例えば、一般式R−SiX(Xはアルコキシ基やハロゲンなどの加水分解性の置換基、Rは有機質と反応し易いビニル基、エポキシ基、アミノ基などの官能基を有する置換基である。)で表される化合物をシランカップリング剤として用いることができる。
粗化処理と防錆処理の順序に特に制限はない。例えば粗化処理のみを行っても良く、或いは前記(i)〜(iii)の何れか一つの防錆処理のみを行ってもよい。また、前記(i)〜(iii)の二つ以上を組み合わせてもよい。例えば金属めっき処理後にクロメート処理又はシランカップリング処理を行うことができる。また、金属めっき処理後にクロメート処理及びシランカップリング処理をこの順で行うこともできる。更に、先ずクロメート処理を行い、次いでシランカップリング処理を行うこともできる。
粗化処理と防錆処理とを組み合わせることもできる。例えば、先ず粗化処理を行い、次いで防錆処理を行うことができる。防錆処理の順序は前述した通りとすることができる。
以上の各方法によって製造された銅箔のそれぞれの面又は片面には負極活物質が担持され非水電解液二次電池用負極となされる。負極活物質としては、十分な充放電の可能な金属又は合金が用いられる。そのような金属又は合金としては、周期律表の第13族元素や第14族元素が挙げられる。例えば、スズ、アルミニウム若しくはゲルマニウム又はそれらの金属の合金が挙げられる。これらのうち、特にスズ又はスズ合金を用いることが好ましい。スズ合金としてはスズ−銅、スズ−ビスマス、スズ−鉄、スズ−コバルト等が挙げられる。これらの金属又は合金は、電解によって銅箔上に析出されることで担持される。或いはこれらの金属又は合金の粒子を含むペーストを集電体上に塗布することによって担持される。かかる負極を備えた非水電解液二次電池は、該負極の他に正極、セパレータ、非水系電解液を含んでいる。電池の形態は円筒型、角形、コイン型、ボタン型等のいずれでもよい。このようにして得られた二次電池においては、充放電を繰り返しても負極における活物質の落剥が防止され、電池の寿命が大幅に長くなる。
本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、非水電解液二次電池の集電体となり得る金属として、好適な一例である銅を中心に説明したが、本発明は銅に限られず、例えば鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛若しくは銀又はそれらの金属の合金などの他の金属や合金にも同様に適用できる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
図1(a)〜(c)に示す方法に従い銅箔を製造した。製造過程におけるキャリア銅箔のマット面のRzは3.2μmであり厚みは18μmであった。得られた銅箔(レプリカ銅箔)の単位面積当たりの重量並びに各面のRz及びRmaxは表1に示す通りである。また同表には銅箔の抗張力及び伸度も併せて記載されている。
【実施例2】
製造過程におけるキャリア銅箔のマット面のRzを4.7μmとし且つ厚みを35μmとする以外は実施例1と同様にして銅箔を得た。得られた銅箔(レプリカ銅箔)の単位面積当たりの重量並びに各面のRz及びRmaxは表1に示す通りである。また同表には銅箔の抗張力及び伸度も併せて記載されている。
【実施例3】
図1(a)〜図1(c)に示す工程は実施例2と同様にした。その後、後工程として、レプリカ銅箔の下面に電解によって銅を析出させ薄層を形成した。得られた銅箔(下面に銅の薄層を形成したレプリカ銅箔)の単位面積当たりの重量並びに各面のRz及びRmaxは表1に示す通りである。また同表には銅箔の抗張力及び伸度も併せて記載されている。
【実施例4】
図1(a)〜図1(c)に示す工程は実施例2と同様にした。但し、レプリカ銅箔の単位面積当たりの重量は98.6g/mとした。その後、レプリカ銅箔に対して図3(a)〜図3(c)に示す方法に従い第2レプリカ銅箔を得た。得られた銅箔(第2レプリカ銅箔)の単位面積当たりの重量並びに各面のRz及びRmaxは表1に示す通りである。また同表には銅箔の抗張力及び伸度も併せて記載されている。
【実施例5〜8】
図1(a)〜図1(c)に示す工程は実施例2と同様にした。その後、後工程として、粗化処理及び防錆処理をこの順で行った。防錆処理は、亜鉛めっき処理、クロメート処理及びシランカップリング処理をこの順で行った(実施例5)。なお粗化処理におけるヤケめっきは、硫酸:硫酸銅=4:5(重量比)の組成のめっき液を用い、10A/dmの電流密度で10秒間行った。ヤケめっき後、水洗し、被せめっきを行った。被せめっきは、硫酸:硫酸銅=1:4(重量比)の組成のめっき液を用い、5A/dmの電流密度で1分間行った。実施例6は、シランカップリング処理を行わない以外は実施例5と同様である。実施例7は、クロメート処理及びシランカップリング処理を行わない以外は実施例5と同様である。実施例8は、すべての防錆処理を行わない以外は実施例5と同様である。得られた銅箔(レプリカ銅箔)の単位面積当たりの重量並びに各面のRz及びRmaxは表1に示す通りである。また同表には銅箔の抗張力及び伸度も併せて記載されている。
〔比較例1〕
実施例1におけるキャリア銅箔をそのまま用いた。
〔比較例2〕
実施例2におけるキャリア銅箔をそのまま用いた。
〔性能評価〕
実施例1〜4並びに比較例1及び2で得られた銅箔の表面に、電解によってスズを析出させ、電極を作製した。スズの析出量は14.6g/mとした。また実施例5〜8で得られた銅箔の表面に、スズペーストを塗布して電極を作成した。スズの担持量は44.5g/mとした。得られた電極を用いて以下の通り非水電解液二次電池を作製した。以下の方法で、不可逆容量(%)、初期容量(mAh/g)、20サイクル容量維持率(%)及び10サイクル時の充放電効率(%)を評価した。結果を表1及び2に示す。
<非水電解液二次電池の作製>
対極として金属リチウムを用い、また作用極として前記で得られた電極を用い、両極をセパレーターを介して対向させた。更に非水電解液としてLiPF/エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶液(1:1容量比)を用いて通常の方法によって非水電解液二次電池を作製した。
<不可逆容量>
〔1−(初回放電容量/初回充電容量)〕×100
すなわち、充電したが放電できず、活物質に残存した容量を示す。
<初期容量>
初回の放電容量を示す。
<20サイクル容量維持率>
(20サイクル容量維持率)={(20サイクル目の放電容量)/(最大放電容量)}×100
<10サイクル時の充放電効率>
(10サイクル時の充放電効率)={(10サイクル目の放電容量)/(10サイクル目の充電容量)}×100


表1及び表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた銅箔を負極の集電体として用いた二次電池は、比較例の銅箔を負極の集電体として用いた二次電池と同程度の不可逆容量及び初期容量を示し、更に20サイクル容量維持率及び充放電効率が比較例の二次電池よりも向上していることが判る。特に、銅箔にスズめっきを施して負極を作製した実施例1〜4と、銅箔にスズペーストを塗布して負極を作製した実施例5〜8とで、20サイクル容量維持率がほぼ同等であること、即ちサイクル特性がほぼ同等であることに留意すべきである。スズをペーストで塗布すると、めっきする場合に比較してスズと銅箔との密着性が低下しやすい、つまりサイクル特性が低下しやすい。しかし実施例5〜8では、粗化処理を行っており、それによって銅箔とスズとの密着性が高まっているので、実施例1〜4とほぼ同等のサイクル特性を達成している。
【産業上の利用可能性】
本発明の非水電解液二次電池用負極集電体によれば、スズやスズ合金を始めとする金属や合金からなる負極活物質が、充放電に起因して集電体から落剥することを防止することができる。従って、この集電体を用いた二次電池は充放電を繰り返しても劣化率が低く寿命が大幅に長くなる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液二次電池の集電体となり得る金属の箔からなり、該箔各面の粗度が10点平均表面粗さRzで表して3〜10μmであり、単位面積当たりの重量が40〜320g/mであり、負極活物質として、十分な充放電の可能な金属又は合金が両面又は片面に担持されることを特徴とする非水電解液二次電池用負極集電体。
【請求項2】
抗張力が25kgf/mm以上であり、伸度が2%超20%以下である請求の範囲第1項記載の非水電解液二次電池用負極集電体。
【請求項3】
前記負極活物質が、スズ、アルミニウム若しくはゲルマニウム又はそれらの金属の合金からなる請求の範囲第1項記載の非水電解液二次電池用負極集電体。
【請求項4】
前記金属又は合金が、銅又はその合金からなる請求の範囲第1項記載の非水電解液二次電池用負極集電体。
【請求項5】
前記金属又は合金が、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛若しくは銀又はそれらの金属の合金からなる請求の範囲第1項記載の非水電解液二次電池用負極集電体。
【請求項6】
請求の範囲第1項記載の非水電解液二次電池用負極集電体の製造方法であって、
電解によって陰極ドラム周面に前記金属を析出させ、析出した該金属を該周面から剥離してキャリア箔を得、該キャリア箔における析出面に剥離処理を施し、該剥離処理面上に電解によって前記金属を析出させ、析出した該金属を該キャリア箔から剥離してレプリカ箔を得ることを特徴とする非水電解液二次電池用負極集電体の製造方法。
【請求項7】
前記レプリカ箔を得た後、該レプリカ箔における前記キャリア箔対向面に、電解によって少量の前記金属を析出させて該キャリア箔対向面の表面凹凸形状を整える請求の範囲第6項記載の非水電解液二次電池用負極集電体の製造方法。
【請求項8】
前記レプリカ箔を得た後、該レプリカ箔における前記キャリア箔対向面に剥離処理を施し、該剥離処理面上に電解によって前記金属を析出させ、析出した該金属を該レプリカ箔から剥離して第2レプリカ箔を得る請求の範囲第6項記載の非水電解液二次電池用負極集電体の製造方法。
【請求項9】
非水電解液二次電池の集電体となり得る金属の箔からなる集電体の両面又は片面に、負極活物質として、十分な充放電の可能な金属又は合金が担持されている非水電解液二次電池用負極において、
前記箔はその各面の粗度が10点平均表面粗さRzで表して3〜10μmであり、単位面積当たりの重量が40〜320g/mであることを特徴とする非水電解液二次電池用負極。
【請求項10】
前記負極活物質が、スズ、アルミニウム若しくはゲルマニウム又はそれらの金属の合金からなる請求の範囲第9項記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項11】
前記金属又は合金が、銅又はその合金からなる請求の範囲第9項記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項12】
前記金属又は合金が、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛若しくは銀又はそれらの金属の合金からなる請求の範囲第9項記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項13】
請求の範囲第9項記載の非水電解液二次電池用負極を備えてなることを特徴とする非水電解液二次電池。

【国際公開番号】WO2004/049476
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555039(P2004−555039)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015043
【国際出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】