説明

非水電解液二次電池用負極

【課題】 高容量で且つサイクル特性が良好な非水電解液二次電池用負極を提供すること。
【解決手段】 非水電解液二次電池用負極10は、活物質層2と集電用表面層3a,3bとを備える。表面層3a,3bは、その表面において開孔し且つ活物質層2と通ずる多数の孔4を有している。活物質層2は、リチウム化合物の形成能が高く且つグラファイトよりも高容量を有する活物質の粒子2aと、炭素系材料又はゴム状材料の粒子2bとを含む。活物質層2中の粒子間に、リチウム化合物の形成能の低い材料5が浸透している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池に用いられる負極に関する。
【背景技術】
【0002】
集電体の各面に、シリコンを含む材料を導電性物質で被覆した粒子と、グラファイト等の炭素材料の粒子とを含むペーストを塗布し、ロールプレスして活物質層を形成した非水電解液二次電池用負極が知られている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、炭素材料の粒子を用いることで、充放電に伴ってシリコンを含む粒子が微粉化しても、炭素材料によって導電経路が確保されるので、集電力の低下が抑制されるとされている。集電力の低下を抑制させるために、この負極においては、シリコンを含む材料を導電性物質で被覆した粒子と、炭素材料の粒子との合計量に対して、シリコンを含む材料を導電性物質で被覆した粒子の量を1〜30重量%としている。
【0003】
しかし、この負極においては、活物質層が負極の表面に露出しているので、充放電に伴ってシリコンを含む粒子が微粉化すると、微粉化した粒子が負極から脱落してしまう。従って、炭素材料によって導電経路を確保しようとしてもそれには限度があり、サイクル特性を向上させることは容易ではない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−146292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る非水電解液二次電池用負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、活物質層と、その上に設けられた集電用表面層とを備え、
表面層は、その表面において開孔し且つ活物質層と通ずる多数の孔を有しており、
活物質層は、リチウム化合物の形成能が高く且つグラファイトよりも高容量を有する活物質の粒子と、炭素系材料又はゴム状材料の粒子とを含み、
活物質層中の粒子間に、リチウム化合物の形成能の低い材料が浸透していることを特徴とする非水電解液二次電池用負極を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の非水電解液二次電池用負極では、活物質が負極の表面に露出しておらず負極の内部に包埋されているので、活物質の脱落が防止される。また充放電を繰り返しても活物質の集電性が確保される。しかも、充放電に伴う体積変化の大きい物質である活物質の粒子を、直接充放電には実質的に関与せず且つ内部に微細空隙を有する炭素系材料の粒子、又は充放電に実質的に関与せず且つゴム弾性を有するゴム状材料の粒子と併用することで、負極の著しい変形を効果的に防止することができる。その結果、本発明の負極を用いた二次電池は、充放電の初期段階から充放電容量が高い。また、充放電を繰り返しても劣化率が低くサイクル寿命が大幅に長くなり、充放電効率も高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。先ず図1に示す第1の実施形態の負極について説明する。本実施形態の負極10は、電解液と接する表裏一対の面である第1の面1a及び第2の面1bを有している。電極10は、活物質層2を備えている。活物質層2は、該層2の各面にそれぞれ形成された一対の集電用表面層3a,3bによって連続的に被覆されている。各表面層3a,3bは、第1の面1a及び第2の面1bをそれぞれ含んでいる。また図1から明らかなように電極10は、従来の電極に用いられてきた集電体と呼ばれる、電解液を透過させない集電用の厚膜導電体(例えば厚み12〜35μm程度の金属箔やエキスパンドメタル)を有していない。
【0009】
集電用表面層3a,3bは、本実施形態の負極10における集電機能を担っている。また表面層3a,3bは、活物質層2に含まれる活物質が充放電に起因して体積変化し微粉化して脱落することを防止するためにも用いられている。
【0010】
各表面層3a,3bは、従来の電極に用いられている、電解液を通過させない集電用の厚膜導電体よりもその厚みが薄いものである。具体的には0.3〜10μm程度、特に0.4〜8μm程度、とりわけ0.5〜5μm程度の薄層であることが好ましい。これによって、必要最小限の厚みで活物質層2をほぼ満遍なく連続的に被覆することができる。その結果、活物質の脱落を防止することができる。またこの程度の薄層とすること、及び集電用の厚膜導電体を有していないことで、負極全体に占める活物質の割合が相対的に高くなり、単位体積当たり及び単位重量当たりのエネルギー密度を高めることができる。従来の電極では、電極全体に占める集電用の厚膜導電体の割合が高かったので、エネルギー密度を高めることに限界があった。前記範囲の表面層3a,3bは、後述するように電解めっきによって形成されることが好ましい。なお2つの表面層3a,3bはその厚みが同じでもよく、或いは異なっていてもよい。
【0011】
先に述べた通り、2つの表面層3a,3bは第1の面1a及び第2の面1bをそれぞれ含んでいる。本実施形態の負極10が電池に組み込まれた場合、第1の面1a及び第2の面1bは電解液と接する面となる。これとは対照的に、従来の電極における集電用の厚膜導電体は、その両面に活物質層が形成されている場合には電解液と接することはなく、また片面に活物質層が形成されている場合であっても一方の面しか電解液と接しない。つまり本実施形態の負極10には、従来の電極で用いられていた集電用の厚膜導電体が存在せず、電極の最外面に位置する層、即ち表面層3a,3bが電解液の通過に関与すると共に集電機能と活物質の脱落を防止する機能とを兼ねている。
【0012】
第1の面1a及び第2の面1bをそれぞれ含む各表面層3a,3bは何れも集電機能を有しているので、本実施形態の負極10を電池に組み込んだ場合には、何れの表面層3a,3bにも電流取り出し用のリード線を接続することができるという利点がある。
【0013】
各表面層3a,3bは、非水電解液二次電池の集電体となり得る金属から構成されている。特にリチウムイオン二次電池の集電体となり得る金属から構成されていることが好ましい。そのような金属としては例えば、リチウム化合物の形成能の低い元素が挙げられる。リチウム化合物の形成能の低い元素としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。これらの金属のうち銅若しくはニッケル又はそれらの合金を用いることが特に好適である。2つの表面層3a,3bは、その構成材料が同じであってもよく、或いは異なっていてもよい。「リチウム化合物の形成能が低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味する。
【0014】
図1に示すように負極10は、各表面層3a,3bはそれらの表面である第1の面1a及び第2の面1bにおいて開孔し且つ活物質層2と通ずる多数の孔4を有している。孔4は各表面層3a,3bの厚み方向へ延びるように該表面層3a,3b中に存在している。孔4は電解液の流通が可能なものである。孔4が形成されていることで、電解液が活物質層2へ十分に浸透することができ、活物質との反応が十分に起こる。孔4は、表面層3a,3bを断面観察した場合にその幅が約0.1μmから約10μm程度の微細なものである。微細であるものの、孔4は電解液の浸透が可能な程度の幅を有している。尤も非水電解液は水系の電解液に比べて表面張力が小さいことから、孔4の幅が小さくても十分に浸透が可能である。孔4は、好ましくは表面層3a,3bを電解めっきで形成する際に同時に形成される。
【0015】
第1の面1a及び第2の面1bを電子顕微鏡観察により平面視したとき、少なくとも一方の面における孔4の平均開孔面積は、0.1〜50μm2であり、好ましくは0.1〜20μm2、更に好ましくは0.5〜10μm2程度である。この範囲の開孔面積とすることで、電解液の十分な浸透を確保しつつ、活物質の脱落を効果的に防止することができる。また充放電の初期段階から充放電容量を高めることができる。
【0016】
第1の面1a及び第2の面1bのうち、平均開孔面積が前記の範囲を満たす面を電子顕微鏡観察により平面視したときに、観察視野の面積に対する孔4の開孔面積の総和の割合(この割合を開孔率という)は、好ましくは0.1〜20%であり、更に好ましくは0.5〜10%である。この理由は孔4の開孔面積を前記の範囲内とすることと同様の理由である。更に同様の理由により、第1の面1a及び第2の面1bのうち、平均開孔面積が前記の範囲を満たす面を電子顕微鏡観察により平面視したときに、どのような観察視野をとっても、1cm×1cmの正方形の視野範囲内に1個〜2万個、特に10個〜1000個、とりわけ30個〜500個の孔4が存在していることが好ましい(この値を分布率という)。
【0017】
孔4は、各表面層3a,3bを貫通し、更にその延長として活物質層2の厚み方向に延びていることが好ましい(図示せず)。特に、孔は、負極10の厚み方向に貫通していることが好ましい。この状態の活物質層2においては、孔の壁面において活物質層2が露出している。活物質層2の厚み方向に延びる孔の役割は大別して次の2つである。
【0018】
一つは、孔の壁面において露出した活物質層2を通じて電解液を活物質層内に供給する役割である。この場合、孔の壁面において活物質層2が露出しているが、活物質層内に、後述するリチウム化合物の形成能の低い材料5が浸透しているので、該粒子2aの脱落が防止されている。
【0019】
もう一つは、充放電に起因して活物質層内の活物質の粒子2aが体積変化した場合、その体積変化による応力を緩和する役割である。体積変化による応力の緩和は、主として負極10の平面方向に生ずる。即ち、充電によって体積が増加した活物質の粒子2aの体積の増加分が、空間となっている孔に吸収される。その結果、負極10の著しい変形が効果的に防止される。
【0020】
活物質層内に電解液を十分に供給する観点及び活物質の粒子2aの体積変化による応力を効果的に緩和する観点から、孔が表面層及び活物質層の厚み方向に延びて形成されている場合には、負極10の表面において開孔している孔の開孔率、即ち孔の面積の総和を、負極10の表面の見掛けの面積で除して100を乗じた値は、0.3〜30%、特に2〜15%であることが好ましい。同様の理由により、孔が表面層及び活物質層の厚み方向に延びて形成されている場合には、負極10の表面において開孔している孔の開孔径は5〜500μm、特に20〜100μmであることが好ましい。また、負極10の表面における任意の部分に着目したとき、1cm×1cmの正方形の観察視野内に平均して100〜40000個、特に1000〜20000個の孔が開孔していることが好ましい。
【0021】
本実施形態の負極10においては、孔は、表面層及び活物質層の厚み方向に延びて、負極10の厚み方向に貫通していることが好ましい。しかし、活物質層内に電解液を十分に供給し、また活物質の粒子2aの体積変化による応力を緩和するという孔の役割に鑑みると、孔は負極10の厚み方向に貫通している必要はなく、負極10の少なくとも一方の表面において開孔し且つ表面層及び活物質層の厚み方向に延びていればよい。尤も、孔は負極10の厚み方向に貫通している方が、活物質の粒子2aの体積変化による応力の緩和には効果が高い。
【0022】
各表面層3a,3b間に位置する活物質層2は、活物質の粒子2a及び炭素系材料又はゴム状材料の粒子2bを含んでいる。活物質層2は例えば、活物質の粒子2a及び炭素系材料又はゴム状材料の粒子2bを含む導電性スラリーを塗布して形成されている。
【0023】
活物質の粒子2aは、リチウム化合物の形成能の高い物質を含むものである。リチウム化合物の形成能の高い物質としては、例えばグラファイト、シリコン、スズ、アルミニウム、ゲルマニウムなどが挙げられるが、本実施形態においては、グラファイトよりも高容量の物質を用いる。本明細書において「グラファイトよりも高容量」とは、リチウムと金属間化合物又は固溶体を形成したとき、単位重量及び単位体積あたりの含有Li量が、グラファイトよりも多いことをいう。そのような物質としては、例えばシリコン、スズ、アルミニウム、ゲルマニウム、それらを含む合金、それらを混合したもの、又はそれらをグラファイトと混合したものなどが挙げられる。
【0024】
グラファイトよりも高容量の活物質は、充放電に伴う体積変化が著しく大きく、それに起因して微粉化しやすい。また、負極の著しい変形が起こりやすい。この微粉化や負極の著しい変形を防止するため、本実施形態においては、活物質の粒子と共に、直接充放電には実質的に関与せず且つ内部に微細空隙を有する炭素系材料の粒子、又は充放電に実質的に関与せず且つゴム弾性を有するゴム状材料の粒子を用いている。グラファイトよりも高容量の活物質と、炭素系材料又はゴム状材料との併用によって充放電に起因する活物質の粒子の微粉化を防止し、また体積変化に起因する応力の緩和により負極の著しい変形を効果的に防止することができる。両者の併用は、活物質として、体積変化が極めて大きい材料であるシリコン系材料を用いた場合に特に効果的である。
【0025】
更に、炭素系材料の粒子又はゴム状材料の粒子を活物質層2に配合することで、負極10のフレキシビリティが向上するという付加的効果もある。負極10のフレキシビリティが向上することは、ジェリー・ロール・タイプの電池を作製する場合に有利である。
【0026】
炭素系材料としては、充放電に実質的に関与しない材料が好ましく、更に導電性を持つ材料であることが望ましい。そのような材料としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックが挙げられる。これらの炭素系材料は、内部に微細空隙を有するものであることから、非水電解液の含浸保持が可能であり、負極と非水電解液との接触を促進する働きがある。またこれらの炭素系材料は、直接充放電に実質的に関与しないので、活物質層において所定の空間を提供し、活物質の粒子の体積変化に起因する応力を緩和する働きも有する。一方、ゴム状材料としては、ゴム弾性を有し、かつ結着力の強い材料であることが望ましい。そのような材料としては、スチレン−ブタジエンラバーが挙げられる。ゴム状材料は、充放電に実質的に関与せず、また、外力に対して変形可能なので、活物質の粒子の体積変化に起因する応力を緩和する働きを有する。炭素系材料とゴム状材料とは、両者を併用することもできる。
【0027】
充放電に起因する活物質の粒子2aの体積変化による応力を効果的に緩和する観点から、活物質層2においては、活物質の粒子2aと、炭素系材料又はゴム状材料の粒子2bとの合計体積に対して、活物質の粒子2aの割合を10〜80体積%、特50〜70体積%とすることが好ましく、炭素系材料又はゴム状材料の粒子2bの割合を20〜90体積%、特30〜50体積%とすることが好ましい。
【0028】
活物質の粒子2aは、その平均粒径をD50値で表すと0.1〜8μm、特に0.2〜5μmであることが好ましい。一方、炭素系材料の粒子は、その平均粒径をD50値で表0.01〜8μm、特に0.03〜3μmであることが好ましい。ゴム状材料の粒子は、その平均粒径をD50値で表0.05〜8μm、特に0.08〜3μmであることが好ましい。
【0029】
活物質層2には、上述の粒子に加えて、例えばポリフッ化ビニリデンなどのバインダが含まれていてもよい。
【0030】
活物質層2においては、図1に示すように、該層中に含まれる粒子間に、リチウム化合物の形成能の低い材料5が浸透している。当該材料5は、活物質層2の厚み方向全域に亘って浸透していることが好ましい。そして浸透した当該材料中に活物質の粒子2aが存在していることが好ましい。つまり活物質の粒子2aは負極10の表面に実質的に露出しておらず表面層3a,3bの内部に包埋されていることが好ましい。これによって、活物質層2と表面層3a,3bとの密着性が強固なものとなり、活物質の脱落が一層防止される。また活物質層2中に浸透した前記材料5を通じて表面層3a,3bと活物質との間に電子伝導性が確保されるので、電気的に孤立した活物質が生成すること、特に活物質層2の深部に電気的に孤立した活物質が生成することが効果的に防止され、集電機能が保たれる。その結果、負極としての機能低下が抑えられる。更に負極の長寿命化も図られる。このことは、活物質として半導体であり電子伝導性の乏しい材料、例えばシリコン系材料を用いる場合に特に有利である。
【0031】
活物質層2中に浸透しているリチウム化合物の形成能の低い材料5は導電性を有するものであり、その例としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などの金属材料が挙げられる。当該材料は、表面層3a,3bを構成する材料と同種の材料であってもよく、或いは異種の材料であってもよい。
【0032】
活物質層2中に浸透しているリチウム化合物の形成能の低い材料5は、活物質層2をその厚み方向に貫いていることが好ましい。それによって2つの表面層3a,3bは前記材料を通じて電気的に導通することになり、負極全体としての電子伝導性が一層高くなる。つまり本実施形態の負極10は、その全体が一体として集電機能を有する。リチウム化合物の形成能の低い材料5が活物質層2の厚み方向全域に亘って浸透していることは、該材料を測定対象とした電子顕微鏡マッピングによって確認できる。リチウム化合物の形成能の低い材料5を、活物質層2中に浸透させるための好ましい方法は後述する。
【0033】
次に本実施形態の負極10の好ましい製造方法を、図2を参照しながら説明する。本製造方法では、電解めっきによって表面層3bを形成し、次いでその上に活物質層2を形成し、更にその上に電解めっきによって表面層3aを形成するという工程が行われる。先ず図2(a)に示すようにキャリア箔11を用意する。キャリア箔11は、負極10を製造するための支持体として用いられるものである。また製造された負極10をその使用の前まで、或いは電池組立加工の最中に支持しておき、負極10の取り扱い性を向上させるために用いられるものである。これらの観点から、キャリア箔11は、負極10の製造工程において及び製造後の搬送工程や電池組立工程等においてヨレ等が生じないような強度を有していることが好ましい。従ってキャリア箔11は、その厚みが10〜50μm程度であることが好ましい。
【0034】
キャリア箔11としては導電性を有するものを用いることが好ましい。この場合、導電性を有していれば、キャリア箔11は金属製でなくてもよい。しかし金属製のキャリア箔11を用いることで、負極10の製造後にキャリア箔11を溶解・製箔してリサイクルできるという利点がある。金属製のキャリア箔11を用いる場合、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Ag、Au、Al及びTiのうちの少なくとも1種類の金属を含んでキャリア箔11が構成されていることが好ましい。
【0035】
キャリア箔11としては、例えば圧延箔や電解箔などの各種方法によって製造された箔を特に制限なく用いることができる。キャリア箔11上に形成される表面層3b中の孔の孔径や存在密度をコントロールする観点から、キャリア箔11の表面は、或る程度凹凸形状になっていることが好ましい。圧延箔は、その製造方法に起因して各面が平滑になっている。これに対して電解箔は一面が粗面であり、他面が平滑面になっている。粗面は、電解箔を製造する際の析出面である。そこで、電解箔からなるキャリア箔11における粗面上に表面層3bを形成すれば、別途キャリア箔に粗化処理をする手間が省けるので簡便である。粗面を用いる利点については後述する。かかる粗面上に表面層3bを形成する場合、その表面粗さRa(JIS B 0601)は0.05〜5μm、特に0.2〜0.8μmであることが、所望の径及び存在密度を有する孔を容易に形成し得る点から好ましい。
【0036】
次にキャリア箔11の一面に剥離剤を施して剥離処理を行う。剥離剤はキャリア箔11における粗面に施すことが好ましい。剥離剤は、後述する剥離工程において、キャリア箔11から負極10を首尾良く剥離するために用いられる。剥離剤としては有機化合物を用いることが好ましく、特に窒素含有化合物又は硫黄含有化合物を用いることが好ましい。窒素含有化合物としては、例えばベンゾトリアゾール(BTA)、カルボキシベンゾトリアゾール(CBTA)、トリルトリアゾール(TTA)、N’,N’−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア(BTD−U)及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール(ATA)などのトリアゾール系化合物が好ましく用いられる。硫黄含有化合物としては、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、チオシアヌル酸(TCA)及び2−ベンズイミダゾールチオール(BIT)などが挙げられる。剥離性は、剥離剤の濃度や塗布量によって制御できる。剥離剤を施す工程は、あくまでも、後述する剥離工程(図2(f))において、キャリア箔11から負極10を首尾良く剥離するために行われるものである。従って、この工程を省いても表面層3bに孔を形成することができる。
【0037】
次に図2(b)に示すように、剥離剤(図示せず)を施した上に、導電性ポリマーを含む塗工液を塗工し乾燥させて塗膜12を形成する。塗工液はキャリア箔11の粗面に塗工されるので、該粗面における凹部に溜まりやすくなる。この状態で溶媒が揮発すると、塗膜12の厚みは不均一になる。つまり粗面の凹部に対応する塗膜の厚みは大きく、凸部に対応する塗膜の厚みは小さくなる。本製造方法においては、塗膜12の厚みの不均一性を利用して、表面層3bに多数の孔を形成する。
【0038】
導電性ポリマーとしては、その種類に特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)等が挙げられる。特に、リチウムイオン伝導性ポリマーを用いることが好ましい。また、導電性ポリマーはフッ素含有の導電性ポリマーであることが好ましい。フッ素含有ポリマーは、熱的及び化学的安定性が高く、機械的強度に優れているからである。これらのことを考慮すると、リチウムイオン伝導性を有するフッ素含有ポリマーであるポリフッ化ビニリデンを用いることが特に好ましい。
【0039】
導電性ポリマーを含む塗工液は、導電性ポリマーが揮発性の有機溶媒に溶解してなるものである。有機溶媒としては、導電性ポリマーとして例えばポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、N−メチルピロリドンなどを用いることができる。
【0040】
本製造方法において、キャリア箔11上に多数の孔を有する表面層3bが形成されるメカニズムは次のように考えられる。塗膜12が形成されたキャリア箔11は電解めっき処理に付されて、図2(c)に示すように塗膜12上に表面層3bが形成される。この状態を図2(c)の要部拡大図である図3に示す。塗膜12を構成する導電性ポリマーは、金属ほどではないが電子伝導性を有する。従って塗膜12はその厚みに応じて電子伝導性が異なる。その結果、導電性ポリマーを含む塗膜12の上に電解めっきによって金属を析出させると、電子伝導性に応じて電析速度に差が生じ、その電析速度の差によって表面層3bに孔4が形成される。つまり、電析速度の小さい部分、換言すれば塗膜12の厚い部分が孔4になりやすい。
【0041】
キャリア箔11の粗面の表面粗さRaによって孔4の孔径や存在密度をコントロールできることは先に述べた通りであるが、これに加えて塗工液に含まれる導電性ポリマーの濃度によっても孔4の孔径や存在密度をコントロールできる。例えば導電性ポリマーの濃度が薄い場合には孔径は小さくなる傾向にあり、存在密度も小さくなる傾向にある。逆に、導電性ポリマーの濃度が濃い場合には孔径は大きくなる傾向にある。この観点から、塗工液における導電性ポリマーの濃度は0.05〜5重量%、特に1〜3重量%であることが好ましい。
【0042】
表面層3bを形成するためのめっき浴やめっき条件は、表面層3bの構成材料に応じて適切に選択される。表面層3bを例えば銅から構成する場合には、めっき浴として以下の組成を有する硫酸銅浴やピロリン酸銅浴を用いることができる。これらのめっき浴を用いる場合の浴温は40〜70℃程度であり、電流密度は0.5〜50A/dm2程度であることが好ましい。
・CuSO4・5H2O 150〜350g/l
・H2SO4 50〜250g/l
【0043】
次に図2(d)に示すように表面層3b上に、活物質の粒子及び炭素系材料又はゴム状材料の粒子を含む導電性スラリーを塗布して活物質層2を形成する。スラリーは、これらの粒子の他に結着剤及び希釈溶媒などを含んでいる。なお、ゴム状材料、例えばスチレン−ブタジエンラバーの粒子を用いる場合は、それ自体が結着剤としての機能を有するので、別途結着剤を添加しなくてもよい。結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などが用いられる。希釈溶媒としてはN−メチルピロリドン、シクロヘキサンなどが用いられる。スラリー中における結着剤の量は0.4〜4重量%程度とすることが好ましい。また希釈溶媒の量は60〜85重量%程度とすることが好ましい。
【0044】
スラリーの塗膜を乾燥させて活物質層2を形成する。形成された活物質層2は、粒子間に多数の微小空間を有する。活物質層2が形成されたキャリア箔11を、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を含むめっき浴中に浸漬して電解めっきを行う。めっき浴への浸漬によって、めっき液が活物質層2内の前記微小空間に浸入して、活物質層2と表面層3bとの界面にまで達する。その状態下に電解めっきが行われる。その結果、(a)活物質層2の内部、及び(b)活物質層2の内面側(即ち集電用表面層3bと対向している面側)において、リチウム化合物の形成能の低い金属材料が析出して、該材料が活物質層2の厚み方向全域に亘って浸透する。
【0045】
電解めっきの条件は、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を活物質層2中に析出させるために重要である。例えばリチウム化合物の形成能の低い金属材料として銅を用いる場合、硫酸銅系溶液を用いるときには、銅の濃度を30〜100g/l、硫酸の濃度を50〜200g/l、塩素の濃度を30ppm以下とし、液温を30〜80℃、電流密度を1〜100A/dm2とすればよい。ピロ燐酸銅系溶液を用いる場合には、銅の濃度2〜50g/l、ピロ燐酸カリウムの濃度100〜700g/lとし、液温を30〜60℃、pHを8〜12、電流密度を1〜10A/dm2とすればよい。これらの電解条件を適宜調節することで、リチウム化合物の形成能の低い金属材料が活物質層2の厚み方向全域に亘って析出する。特に重要な条件は電解時の電流密度である。電流密度が高すぎると、活物質層2の内部での析出が起こらず、活物質層2の表面でのみ析出が起こってしまう。
【0046】
次に、活物質層2の上に表面層3aを形成する。ところで、活物質層2は、活物質の粒子2a等を含むものであるから、その表面は粗面となっている。従って、表面層3aを形成するために、電解箔からなるキャリア箔11の粗面上に表面層3bを形成した手段と同様の手段を採用すれば、表面層3aにも多数の孔4を形成することができる。即ち、活物質層2の表面に導電性ポリマーを含む塗布液を塗工し乾燥させて塗膜を形成する。次いで、表面層3bを形成したときの条件と同様の条件を用い、図2(e)に示すように、該塗膜の上に電解めっきによって表面層3aを形成する。
【0047】
孔4を、表面層及び活物質層の厚み方向に延びるように形成する場合には、表面層3aの形成後、所定の孔あけ加工によって両表面層3a,3b及び活物質層2を貫通させる。孔の形成方法に特に制限はない。例えばレーザー加工によって孔を形成することができる。或いは針やポンチによって機械的に穿孔を行うこともできる。孔は、実質的に等間隔に存在するように形成されることが好ましい。そうすることによって、電極全体が均一に反応を起こすことが可能となるからである。この方法によれば、先に表面層にのみ形成された孔と、表面層及び活物質層の双方に形成された孔の2種類の孔が形成される。
【0048】
最後に、図2(f)に示すようにキャリア箔11を表面層3bから剥離分離する。これによって負極10が得られる。なお、図2(f)においては導電性ポリマーの塗膜12が表面層3b側に残るように描かれているが、該塗膜12はその厚みや導電性ポリマーの種類によってキャリア箔11側に残る場合もあれば、表面層3b側に残る場合もある。或いはこれら双方に残る場合もある。なお、先に述べた通り、負極10をその使用の前まではキャリア箔11から剥離せず、キャリア箔11に支持させておいてもよい。
【0049】
このようにして得られた本実施形態の負極は、公知の正極、セパレータ、非水系電解液と共に用いられて非水電解液二次電池となされる。正極は、正極活物質並びに必要により導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁し、正極合剤を作製し、これを集電体に塗布、乾燥した後、ロール圧延、プレスし、さらに裁断、打ち抜きすることにより得られる。正極活物質としては、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物等の従来公知の正極活物質が用いられる。セパレーターとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレン又はポリプロピレン多孔質フイルム等が好ましく用いられる。非水電解液は、リチウム二次電池の場合、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。リチウム塩としては、例えば、LiC1O4、LiA1Cl4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiSCN、LiC1、LiBr、LiI、LiCF3SO3、LiC49SO3等が例示される。
【0050】
次に、本発明の負極の第2の実施形態を図4を参照しながら説明する。第2の実施形態に関し特に説明しない点については、第1の実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、図4において、図1〜図3と同じ部材に同じ符号を付してある。
【0051】
本実施形態の負極10においては、集電用の厚膜導電体20上に活物質層2が設けられており、その上に表面層3が設けられている。厚膜導電体20はその厚みが12〜35μm程度であり、金属箔やエキスパンドメタルから構成されている。厚膜導電体20の材料は、表面層3の材料と同様のものを用いることができる。
【0052】
本実施形態の負極10によっても、活物質が負極の表面に露出しておらず負極の内部に包埋されているので、活物質の脱落が防止されるという効果が奏される。また、充放電に伴う体積変化の大きい物質である活物質の粒子を、直接充放電には実質的に関与せず且つ内部に微細空隙を有する炭素系材料、又は充放電に実質的に関与せず且つゴム弾性を有するゴム状材料の粒子と併用することで、活物質の体積変化による応力が緩和され、活物質の粒子の微粉化及び負極の著しい変形を効果的に防止することができるという効果も奏される。尤も、本実施形態の負極10は、第1の実施形態の負極と異なり厚膜導電体20を有しているので、その分だけ単位体積当たり及び単位重量当たりのエネルギー密度が第1の実施形態の負極よりも相対的に低くなる。エネルギー密度を高めるためには、厚膜導電体20の各面に活物質層2及び表面層3を形成することが好ましい。
【0053】
なお本実施形態の負極10も、先に述べた実施形態の負極と同様に、孔4は表面層にのみ形成されているだけではなく、表面層及び活物質層に形成されていてもよい。更に、孔は、負極10の厚み方向に貫通していてもよい。
【0054】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されず種々の変更が可能である。例えば前記実施形態においては表面層3a,3bは単層構造であったが、これに代えて、材料の異なる2種以上の層からなる多層構造にしても良い。例えば表面層3a,3bをニッケルからなる下層と銅からなる上層の2層構造とすることで、活物質の体積変化に起因する負極の著しい変形を一層効果的に防止することができる。
【0055】
また表面層3a,3bの材料と、活物質層2中に浸透しているリチウム化合物の形成能の低い材料とが異なる場合には、活物質層2中に浸透しているリチウム化合物の形成能の低い材料は、活物質層2と表面層3a,3bとの境界部まで存在していてもよい。或いは、リチウム化合物の形成能の低い材料は、当該境界部を越えて表面層3a,3bの一部を構成していてもよい。逆に、表面層3a,3bの構成材料が、当該境界部を越えて活物質層2内に存在していてもよい。
【0056】
また、図1に示す実施形態の負極10を2個一組で用い、負極10,10間に導電性金属箔を挟み込んで三者を接合一体化させてたものを負極として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の負極の一実施形態の断面構造を示す模式図である。
【図2】図1に示す負極の製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】表面層及び孔が形成される状態を示す模式図である。
【図4】本発明の負極の別の実施形態の断面構造を示す模式図(図1相当図)である。
【符号の説明】
【0058】
1a 第1の面
1b 第2の面
2 活物質層
2a 活物質の粒子
2b 炭素系材料又はゴム系材料の粒子
3a,3b 集電用表面層
4 孔
5 リチウム化合物の形成能の低い材料
10 負極
11 キャリア箔
12 導電性ポリマーの塗膜
20 厚膜導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質層と、その上に設けられた集電用表面層とを備え、
表面層は、その表面において開孔し且つ活物質層と通ずる多数の孔を有しており、
活物質層は、リチウム化合物の形成能が高く且つグラファイトよりも高容量を有する活物質の粒子と、炭素系材料又はゴム状材料の粒子とを含み、
活物質層中の粒子間に、リチウム化合物の形成能の低い材料が浸透していることを特徴とする非水電解液二次電池用負極。
【請求項2】
活物質層において、活物質の粒子と炭素系材料又はゴム状材料の粒子との合計体積に対して、活物質の粒子の割合が10〜80体積%であり、炭素系材料又はゴム状材料の粒子の割合が20〜90体積%である請求項1記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項3】
一対の前記表面層と、両表面層間に介在配置された活物質層とを備え、また集電用の厚膜導電体を有していない請求項1又は2記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項4】
集電用の厚膜導電体上に設けられた活物質層と、その上に設けられた前記表面層とを備えた請求項1又は2記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項5】
活物質の粒子が、シリコン、スズ、アルミニウム又はゲルマニウムを含む粒子である請求項1ないし4の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項6】
炭素材料の粒子がアセチレンブラックまたはケッチェンブラックの粒子であり、ゴム状材料の粒子がスチレン−ブタジエンラバーの粒子である請求項1ないし5の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項7】
前記表面層に形成された前記孔が、更に前記活物質層の厚み方向に延びている請求項1ないし6の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項8】
前記負極の表面において開孔している前記孔の開孔率が0.3〜30%である請求項7記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項9】
前記負極の表面において開孔している前記孔の開孔径が5〜500μmである請求項7又は8記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れかに記載の負極を備えた非水電解液二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−147316(P2006−147316A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335064(P2004−335064)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】