説明

非水電解液二次電池用負極

【課題】サイクル特性が向上した非水電解液二次電池用負極を提供すること。
【解決手段】非水電解液二次電池用負極10は、活物質の粒子12aを含む活物質層12を備えている。粒子12aの表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料13で被覆されている。これと共に、該金属材料13で被覆された該粒子12aどうしの間に空隙が形成されている。金属材料13は、その結晶子の平均粒径が0.01〜1μmであり、且つ粒子12aの表面の5〜95%を被覆している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などの非水電解液二次電池用の負極に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、電解液と接し且つ導電性を有する表裏一対の面を含み、該面間に活物質の粒子を含む活物質層を備えた非水電解液二次電池用負極を提案した(特許文献1参照)。この負極の活物質層には、リチウム化合物の形成能の低い金属材料が浸透しており、浸透した該金属材料中に活物質の粒子が存在している。活物質層がこのような構造になっているので、この負極においては、充放電によって該粒子が膨張収縮することに起因して微粉化しても、その脱落が起こりづらくなる。その結果、この負極を用いると、電池のサイクル寿命が長くなるという利点がある。
【0003】
しかし本発明者らが更に検討を重ねたところ、前記の負極は、充放電の繰り返しに起因する活物質の粒子の脱落は防止できるものの、活物質層中への前記の金属材料の浸透の程度によっては、充放電を繰り返すことで活物質の粒子が電気的に孤立しやすくなる場合があることが判明した。即ち、前記の負極は、金属材料の結晶子サイズが5〜6μmと大きいものであった。そのため、充放電のサイクル進行に伴い活物質の粒子がサブミクロンにまで微粉化しても、金属材料の微粉化は結晶子サイズである5〜6μmまでしか進まなかった。その結果、活物質の粒子が電気的に孤立することで該粒子の電気的接触が絶たれてしまい、容量劣化を誘発することがあった。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/055345号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、前述した従来技術の電池よりも性能が一層向上した非水電解液二次電池用負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、活物質の粒子を含む活物質層を備え、該粒子の表面がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されていると共に、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されている非水電解液二次電池用負極であって、
前記金属材料は、その結晶子の平均粒径が0.01〜1μmであり、且つ前記粒子の表面の5〜95%を被覆している非水電解液二次電池用負極を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の負極によれば、充放電による体積変化に起因して活物質の粒子が微粉化してもその脱落が効果的に防止されると共に、電気的に孤立した活物質の粒子が発生することも効果的に防止される。即ち、充放電のサイクル進行に伴い、活物質の粒子の微粉化と共に前記金属材料も結晶子サイズにまで順次微粉化が進行し、やがて活物質の粒子と金属粒子との混合状態となる。このように、微粉化した活物質の粒子と金属粒子とが混合状態となることにより、活物質層の電子伝導性が確保される。その結果、本発明の負極を備えた非水電解液二次電池はサイクル特性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には本発明の非水電解液二次電池用負極の一実施形態の断面構造の模式図が示されている。本実施形態の負極10は、集電体11と、その少なくとも一面に形成された活物質層12を備えている。なお図1においては、便宜的に集電体11の片面にのみ活物質層12が形成されている状態が示されているが、活物質層は集電体の両面に形成されていてもよい。
【0009】
活物質層12は、活物質の粒子12aを含んでいる。活物質としては、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料が用いられる。そのような材料としては、例えばシリコン系材料やスズ系材料、アルミニウム系材料、ゲルマニウム系材料が挙げられる。スズ系材料としては、例えばスズと、コバルトと、炭素と、ニッケル及びクロムのうちの少なくとも一方とを含む合金が好ましく用いられる。負極重量あたりの容量密度を向上させる上では、特にシリコン系材料が好ましい。
【0010】
シリコン系材料としては、リチウムイオンの吸蔵が可能で且つシリコンを含有する材料、例えばシリコン、シリコンと金属との合金、シリコン酸化物などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、或いはこれらを混合して用いることができる。前記の金属としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましく、特に電子伝導性に優れる点、及びリチウム化合物の形成能の低さの点から、Cu、Niを用いることが望ましい。また、負極を電池に組み込む前に、又は組み込んだ後に、シリコン系材料からなる活物質に対してリチウムを吸蔵させてもよい。特に好ましいシリコン系材料は、リチウムの吸蔵量の高さの点からシリコン又はシリコン酸化物である。
【0011】
活物質層12においては、粒子12aの表面が、リチウム化合物の形成能の低い金属材料13で被覆されている。図1中、金属材料13は、粒子12aの周囲を取り囲む太線として便宜的に表されている。この金属材料13は、粒子12aの構成材料と異なる材料である。金属材料13は粒子12a間に介在し、主として、粒子12a間の電子伝導性を確保する目的で、及び活物質層12内で粒子12aを保持する目的で用いられる。なお同図においては、活物質層12に含まれる粒子12aのうち、他の粒子との間に接触がないように描かれているものが存在するが、これは活物質層12を二次元的にみたことに起因するものであり、実際は各粒子は他の粒子と直接又は金属材料13を介して接触している。金属材料13の例としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。特に金属材料13は、活物質の粒子12aが膨張収縮しても該粒子12aの表面の被覆が破壊されにくい延性の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては銅を用いることが好ましい。「リチウム化合物の形成能の低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味する。
【0012】
金属材料13で被覆された粒子12aの間には空隙が形成されている。つまり金属材料13は、リチウムイオンを含む非水電解液が粒子12aへ到達可能なような隙間を確保した状態で該粒子12aの表面を被覆している。
【0013】
活物質層12においては、金属材料13は、活物質層12の厚み方向全域にわたって存在していることが好ましい。そして金属材料13のマトリックス中に活物質の粒子12aが存在していることが好ましい。これによって、後述するように、充放電によって該粒子12aが膨張収縮することに起因して該粒子12aが微粉化した場合でも、微粉化した該粒子12aの表面が金属材料13で被覆された状態が維持される。その結果、金属材料13を通じて活物質層12全体の電子伝導性が確保されるので、電気的に孤立した活物質の粒子12aが生成すること、特に活物質層12の深部に電気的に孤立した活物質の粒子12aが生成することが効果的に防止される。このことは、活物質として半導体であり電子伝導性の乏しい材料、例えばシリコン系材料を用いる場合に特に有利である。金属材料13が活物質層12の厚み方向全域にわたって活物質の粒子12aの表面に存在していることは、金属材料13を測定対象とした電子顕微鏡マッピングによって確認できる。
【0014】
金属材料13は、粒子12aの表面を不連続に被覆している。この場合、粒子12aの表面のうち、主として金属材料13で被覆されていない部位を通じて該粒子12aへ非水電解液が供給される。本実施形態においては、粒子12aの表面の被覆の程度を、粒子12aの表面の5〜95%に設定し、好ましくは50〜95%、更に好ましくは80〜90%に設定している。金属材料13による被覆の程度が95%超のときには、金属材料13が粒子12aの表面のほぼ全域を被覆していることに起因して初期充電時の分極が大きくなってしまう。金属材料13による被覆の程度が5%未満のときには、粒子12aの表面における金属材料13の存在量が乏しくなり、活物質層12全体の電子伝導性が不足してしまう。
【0015】
金属材料13による粒子12aの表面の被覆の程度は、本来であれば、粒子12aの表面積に対する金属材料13の被覆面積で評価されるべきものである。しかし、この観点から被覆の程度を測定することは測定技術上困難である。そこで本発明においては、活物質層12の断面をSEM観察して得られる粒子12aの断面の周長及び、金属材料13による粒子12aの被覆長から算出される値、つまり金属材料13による粒子12aの被覆長を粒子12aの断面の周長で除し、それに100を乗じた値(%)をもって、金属材料13による粒子12aの表面の被覆の程度と定義する。
【0016】
活物質の粒子12aの膨張収縮に金属材料13が首尾よく追従するためには、該金属材料13による被覆が変形しやすい構造であることが有利である。具体的には、粒子12aの表面に存在する金属材料13の被覆は、該金属材料13の結晶子の集合体からなることが有利である。この理由は、金属材料13の被覆が、結晶子単位で変形しやすくなるからである。なお先に述べた通り、金属材料13はリチウム化合物の形成能の低い材料であることから、金属材料13はリチウムイオンの吸蔵放出を行わず、従って該金属材料13には体積変化は生じない。
【0017】
金属材料13の被覆が結晶子の集合体からなることは、充放電の進行に伴い粒子12aが微粉化していくと共に、金属材料13も結晶子単位で微粉化して結晶子となる点から有利である。充放電の進行に伴い、粒子12aと結晶子とが混合状態となることにより粒子12aが電気的に孤立することが防止され、電子伝導性が確保されるからである。
【0018】
金属材料13の被覆が、該金属材料13の結晶子の集合体から構成されていても、該結晶子のサイズが大きい場合には、金属材料13による粒子12aの表面の被覆の割合が上述の範囲内であっても、粒子12aの膨張収縮に起因して、金属材料13の被覆が粒子12aの表面から剥離しやすくなる。この理由は、結晶子のサイズが大きいことに起因して、金属材料13の被覆が変形するときの自由度が損なわれるからである。その結果、電気的に孤立した粒子12aが発生しやすくなり、サイクル特性を向上させづらくなる。この観点から、結晶子の平均粒径は0.01〜1μm、特に0.05〜0.4μmであることが好ましい。結晶子の平均粒径は活物質層12の断面をSEM観察又はSIM観察することで測定される。なお先に述べた通り、金属材料13は、その構成材料の性質に起因して、充放電によって体積変化を生じるものではないので、その結晶子の大きさは、充放電サイクルの全体にわたって実質的に変化しない。
【0019】
金属材料13の被覆が変形するときの自由度を高め、粒子12の膨張収縮に金属材料13を首尾良く追従させるためには、金属材料13の被覆の厚みが薄いことが好ましい。具体的には、活物質の粒子12aの表面を被覆している金属材料13は、その厚みの平均が0.05〜2μm、特に0.1〜0.25μmという薄いものであることが好ましい。この範囲の厚みとすることで、粒子12a間の電気的接触を確実に保った上で、金属材料13の被覆が無理なく変形しやすくなる。金属材料13の被覆の厚みは、活物質層12の断面をSEM観察することで測定される。ここでいう「厚みの平均」とは、活物質の粒子12aの表面のうち、実際に金属材料13が被覆している部分に基づき計算された値である。従って活物質の粒子12aの表面のうち金属材料13で被覆されていない部分は、平均値の算出の基礎にはされない。
【0020】
上述の構造を有する金属材料13の被覆を形成するためには、例えば後述する条件に従う電解めっきによって金属材料13を粒子12aの表面に析出させればよい。
【0021】
サイクル特性を一層向上させるためには、活物質層12の厚み方向の全域にわたって活物質の粒子12aを電極反応に利用することが有利である。このためには、活物質層12の厚み方向の全域にわたって均一にリチウムイオンの吸蔵放出が行われる必要がある。この観点から、活物質層12は、厚み方向の全域にわたってリチウムイオンを含む非水電解液が円滑に流通可能な空隙を有していることが好ましい。非水電解液が活物質の粒子12aへ容易に到達することは、初期充電の過電圧を低くすることができるという点からも有利である。負極の表面でリチウムのデンドライトが発生することが防止されるからである。デンドライトの発生は両極の短絡の原因となる。過電圧を低くできることは、非水電解液の分解防止の点からも有利である。非水電解液が分解すると不可逆容量が増大するからである。更に、過電圧を低くできることは、正極がダメージを受けにくくなる点からも有利である。
【0022】
活物質層12は、後述するように、好適には粒子12a及び結着剤を含むスラリーを集電体上に塗布し乾燥させて得られた塗膜に対し、所定のめっき浴を用いた電解めっきを行い、粒子12a間に金属材料13を析出させることで形成される。
【0023】
非水電解液の流通が可能な空隙を活物質層内に必要且つ十分に形成するためには、前記の塗膜内にめっき液を十分浸透させることが好ましい。これに加えて、該めっき液を用いた電解めっきによって金属材料13を析出させるための条件を適切なものとすることが好ましい。めっきの条件にはめっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。めっき浴のpHに関しては、7.1〜11に調整することが好ましい。pHをこの範囲内とすることで、活物質の粒子12aの溶解が抑制されつつ、該粒子12aの表面が清浄化されて、粒子表面へのめっきが促進され、同時に粒子12a間に適度な空隙が形成される。pHの値は、めっき時の温度において測定されたものである。
【0024】
先に述べた金属材料13の結晶子のサイズを小さくするためには、めっき核を多量に発生させることが好ましい。そのためには、電解めっきの条件として、多量のめっき核が発生する条件、例えば電流密度を高くしたり、温度を低くしたりすればよい。また粒子12aとして粒径が大きいものを用いればよい。
【0025】
金属材料13として銅を用いる場合には、ピロリン酸銅浴を用いることが好ましい。また該金属材料としてニッケルを用いる場合には、例えばアルカリニッケル浴を用いることが好ましい。特に、ピロリン酸銅浴を用いると、活物質層12を厚くした場合であっても、該層の厚み方向全域にわたって、前記の空隙を容易に形成し得るので好ましい。また、活物質の粒子12aの表面には金属材料13が析出し、且つ該粒子12a間では金属材料13の析出が起こりづらくなるので、該粒子12a間の空隙が首尾良く形成されるという点でも好ましい。ピロリン酸銅浴を用いる場合、その浴組成、電解条件及びpHは次の通りであることが好ましい。
・ピロリン酸銅三水和物:85〜120g/l
・ピロリン酸カリウム:300〜600g/l
・硝酸カリウム:15〜65g/l
・浴温度:45〜50℃
・電流密度:4〜7A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH7.1〜9.5になるように調整する。
【0026】
ピロリン酸銅浴を用いる場合には特に、P27の重量とCuの重量との比(P27/Cu)で定義されるP比が5〜12、とりわけ8〜11であるものを用いることが好ましい。P比がこの範囲のものを用いることで、粒子12aの表面を被覆する金属材料13の割合を上述の範囲内とすることが容易となる。また該金属材料13の結晶子のサイズを上記の範囲内とすることが容易となる。
【0027】
アルカリニッケル浴を用いる場合には、その浴組成、電解条件及びpHは次の通りであることが好ましい。
・硫酸ニッケル:100〜250g/l
・塩化アンモニウム:15〜30g/l
・ホウ酸:15〜45g/l
・浴温度:45〜50℃
・電流密度:4〜7A/dm2
・pH:25重量%アンモニア水:100〜300g/lの範囲でpH8〜11となるように調整する。
このアルカリニッケル浴と前述のピロリン酸銅浴とを比べると、ピロリン酸銅浴を用いた場合の方が、活物質の粒子12aの表面を金属材料13(この場合は銅)で首尾良く被覆することができ、また活物質層12内に適度な空隙を形成しやすいので、負極の長寿命化を図りやすいので好ましい。
【0028】
前記の各種めっき浴に、タンパク質、活性硫黄化合物、セルロース等の銅箔製造用電解液に用いられる各種添加剤を加えることにより、金属材料13の特性を適宜調整することも可能である。
【0029】
上述の各種方法によって形成される活物質層12における空隙の割合、つまり空隙率は、15〜45体積%程度、特に20〜40体積%程度であることが好ましい。空隙率をこの範囲内とすることで、非水電解液の流通が可能な空隙を活物質層12内に必要且つ十分に形成することが可能となる。空隙率は次の(1)〜(7)の手順で測定される。
(1)前記のスラリーの塗布によって形成された塗膜の単位面積当たりの重量を測定し、粒子12aの重量及び結着剤の重量を、スラリーの配合比から算出する。
(2)電解めっき後の単位面積当たりの重量変化から、析出しためっき金属種の重量を算出する。
(3)電解めっき後、負極の断面をSEM観察することで、活物質層12の厚さを求める。
(4)活物質層12の厚さから、単位面積当たりの活物質層12の体積を算出する。
(5)粒子12aの重量、結着剤の重量、めっき金属種の重量と、それぞれの配合比から、それぞれの体積を算出する。
(6)単位面積当たりの活物質層12の体積から、粒子12aの体積、結着剤の体積、めっき金属種の体積を減じて、空隙の体積を算出する。
(7)このようにして算出された空隙の体積を、単位面積当たりの活物質層12の体積で除し、それに100を乗じた値を空隙率(%)とする。
【0030】
活物質の粒子12aの粒径を適切に選択することによっても、粒子12aの表面を被覆する金属材料13の割合を上述の範囲内とすることが容易となる。この観点から、粒子の粒径は、これをD50値で表すと1.0〜4.0μm、特に1.5〜3.0μmであることが好ましい。また、粒子12aはその最大粒径が好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは10μm以下である。粒子の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定、電子顕微鏡観察(SEM観察)によって測定される。
【0031】
本実施形態においては、負極全体に対する活物質の量が少なすぎると電池のエネルギー密度を十分に向上させにくく、逆に多すぎると強度が低下し活物質の脱落が起こりやすくなる傾向にある。これらを勘案すると、活物質層の厚みは10〜40μm、好ましくは15〜30μm、更に好ましくは18〜25μmである。
【0032】
本実施形態の負極10においては、活物質層12の表面に薄い表面層(図示せず)が形成されていてもよい。また負極10はそのような表面層を有していなくてもよい。表面層の厚みは、0.25μm以下、好ましくは0.1μm以下という薄いものである。表面層の厚みの下限値に制限はない。
【0033】
負極10が前記の厚みの薄い表面層を有するか又は該表面層を有していないことによって、負極10を用いて二次電池を組み立て、当該電池の初期充電を行うときの過電圧を低くすることができる。このことは、二次電池の充電時に負極10の表面でリチウムが還元することを防止できることを意味する。リチウムの還元は、両極の短絡の原因となるデンドライトの発生につながる。
【0034】
負極10が表面層を有している場合、該表面層は活物質層12の表面を連続又は不連続に被覆している。表面層が活物質層12の表面を連続に被覆している場合、該表面層は、その表面において開孔し且つ活物質層12と通ずる多数の微細空隙(図示せず)を有していることが好ましい。微細空隙は表面層の厚さ方向へ延びるように表面層中に存在していることが好ましい。微細空隙は非水電解液の流通が可能なものである。微細空隙の役割は、活物質層12内に非水電解液を供給することにある。微細空隙は、負極10の表面を電子顕微鏡観察により平面視したとき、金属材料13で被覆されている面積の割合、即ち被覆率が95%以下、特に80%以下、とりわけ60%以下となるような大きさであることが好ましい。
【0035】
表面層は、リチウム化合物の形成能の低い金属材料から構成されている。この金属材料は、活物質層12中に存在している金属材料13と同種でもよく、或いは異種でもよい。また表面層は、異なる2種以上の金属材料からなる2層以上の構造であってもよい。負極10の製造の容易さを考慮すると、活物質層12中に存在している金属材料13と、表面層を構成する金属材料とは同種であることが好ましい。
【0036】
本実施形態の負極における集電体としては、非水電解液二次電池用負極の集電体として従来用いられているものと同様のものを用いることができる。集電体は、先に述べたリチウム化合物の形成能の低い金属材料から構成されていることが好ましい。そのような金属材料の例は既に述べた通りである。特に、銅、ニッケル、ステンレス等からなることが好ましい。また、コルソン合金箔に代表されるような銅合金箔の使用も可能である。更に集電体として、常態抗張力(JIS C 2318)が好ましくは500MPa以上である金属箔、例えば前記のコルソン合金箔の少なくとも一方の面に銅被膜層を形成したものを用いることもできる。更に集電体として常態伸度(JIS C 2318)が4%以上のものを用いることも好ましい。抗張力が低いと活物質が膨張した際の応力によりシワが生じ、伸び率が低いと該応力により集電体に亀裂が入ることがあるからである。集電体の厚みは本実施形態において臨界的ではない。負極の強度維持と、エネルギー密度向上とのバランスを考慮すると、9〜35μmであることが好ましい。なお、集電体11として銅箔を使用する場合には、クロメート処理や、トリアゾール系化合物及びイミダゾール系化合物などの有機化合物を用いた防錆処理を施しておくことが好ましい。
【0037】
次に、本実施形態負極の好ましい製造方法について、図2を参照しながら説明する。本製造方法では、活物質の粒子及び結着剤を含むスラリーを用いて集電体上に塗膜を形成し、次いでその塗膜に対して電解めっきが行われる。
【0038】
先ず図2(a)に示すように集電体11を用意する。そして集電体11上に、活物質の粒子12aを含むスラリーを塗布して塗膜15を形成する。スラリーは、活物質の粒子の他に、結着剤及び希釈溶媒などを含んでいる。またスラリーはアセチレンブラックやグラファイトなどの導電性炭素材料の粒子を少量含んでいてもよい。特に、活物質の粒子12aがシリコン系材料から構成されている場合には、該活物質の粒子12aの重量に対して導電性炭素材料を1〜3重量%含有することが好ましい。導電性炭素材料の含有量が1重量%未満であると、スラリーの粘度が低下して活物質の粒子12aの沈降が促進されるため、良好な塗膜15及び均一な空隙を形成しにくくなる。また導電性炭素材料の含有量が3重量%を超えると、該導電性炭素材料の表面にめっき核が集中し、良好な被覆を形成しにくくなる。結着剤としてはスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などが用いられる。希釈溶媒としてはN−メチルピロリドン、シクロヘキサンなどが用いられる。スラリー中における活物質の粒子12aの量は30〜70重量%程度とすることが好ましい。結着剤の量は0.4〜4重量%程度とすることが好ましい。これらに希釈溶媒を加えてスラリーとする。
【0039】
形成された塗膜15は、粒子12a間に多数の微小空間を有する。塗膜15が形成された集電体11を、リチウム化合物の形成能の低い金属材料13を含むめっき浴中に浸漬する。めっき浴への浸漬によって、めっき液が塗膜15内の前記微小空間に浸入して、塗膜15と集電体11との界面にまで達する。その状態下に電解めっきを行い、めっき金属種を粒子12aの表面に析出させる(以下、このめっきを浸透めっきともいう)。浸透めっきは、集電体11をカソードとして用い、めっき浴中にアノードとしての対極を浸漬し、両極を電源に接続して行う。
【0040】
浸透めっきによる金属材料13の析出は、塗膜15の一方の側から他方の側に向かって進行させることが好ましい。具体的には、図2(b)ないし(d)に示すように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するように電解めっきを行う。図2(b)ないし(d)においては、析出した金属材料13が、粒子12aの周囲を取り囲む太線として便宜的に表されている。金属材料13をこのように析出させることで、上述した範囲の被覆の程度で、活物質の粒子12aの表面を金属材料13によって首尾よく被覆することができる。また、金属材料13の結晶子のサイズを、容易に上述した範囲内とすることができる。更に、金属材料13で被覆された粒子12a間に空隙を首尾よく形成することができる。しかも、該空隙の空隙率を前述した好ましい範囲にすることが容易となる。
【0041】
前述のように金属材料13を析出させるための浸透めっきの条件には、めっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。このような条件については既に述べた通りである。特に、金属材料13による活物質の粒子12aの表面の被覆の程度を先に述べた好ましい範囲にするために、めっき時の電流密度及び温度を調整することが好ましい。
【0042】
図2(b)ないし(d)に示されているように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するようにめっきを行うと、析出反応の最前面部においては、ほぼ一定の厚みで金属材料13のめっき核からなる微小粒子13aが層状に存在している。金属材料13の析出が進行すると、隣り合う微小粒子13aどうしが結合して更に大きな粒子となり、更に析出が進行すると、該粒子どうしが結合して活物質の粒子12aの表面を被覆するようになる。
【0043】
浸透めっきは、塗膜15の厚み方向全域に金属材料13が析出した時点で終了させる。めっきの終了時点を調節することで、活物質層12の上面に表面層(図示せず)を形成することができる。このようにして、図2(d)に示すように、目的とする負極が得られる。
【0044】
このようにして得られた負極10は、例えばリチウム二次電池等の非水電解液二次電池用の負極として好適に用いられる。この場合、電池の正極は、正極活物質並びに必要により導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁し、正極合剤を作製し、これを集電体に塗布、乾燥した後、ロール圧延、プレスし、更に裁断、打ち抜きすることにより得られる。正極活物質としては、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物等の含リチウム金属複合酸化物を始めとする従来公知の正極活物質が用いられる。また、正極活物質として、LiCoO2に少なくともZrとMgの両方を含有させたリチウム遷移金属複合酸化物と、層状構造を有し、少なくともMnとNiの両方を含有するリチウム遷移金属複合酸化物と混合したものも好ましく用いることができる。かかる正極活物質を用いることで充放電サイクル特性及び熱安定性の低下を伴うことなく、充電終止電圧を高めることが期待できる。正極活物質の一次粒子径の平均値は5μm以上10μm以下であることが、充填密度と反応面積との兼ね合いから好ましく、正極に使用する結着剤の重量平均分子量は350,000 以上2,000,000以下のポリフッ化ビニリデンであることが好ましい。低温環境での放電特性を向上させることが期待できるからである。
【0045】
電池のセパレータとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリテトラフルオロエチレンの多孔質フイルム等が好ましく用いられる。特にセパレータとして、例えば多孔性ポリオレフィンフィルム(旭化成ケミカルズ製;N9420G)が好ましく使用できる。電池の過充電時に生じる電極の発熱を抑制する観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面にフェロセン誘導体の薄膜が形成されてなるセパレータを用いることが好ましい。セパレータは、突刺強度が0.2N/μm厚以上0.49N/μm厚以下であり、巻回軸方向の引張強度が40MPa以上150MPa以下であることが好ましい。充放電に伴い大きく膨張・収縮する負極活物質を用いても、セパレータの損傷を抑制することができ、内部短絡の発生を抑制することができるからである。
【0046】
非水電解液は、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。リチウム塩としては、LiClO4、LiA1Cl4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiSCN、LiCl、LiBr、LiI、LiCF3SO3、LiC49SO3等が例示される。有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。特に、非水電解液全体に対し0.5 〜5重量%のビニレンカーボネート及び0.1〜1重量%のジビニルスルホン、0.1〜1.5重量%の1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを含有させることが充放電サイクル特性を更に向上する観点から好ましい。その理由について詳細は明らかでないが、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートとジビニルスルホンが段階的に分解して、正極上に被膜を形成することにより、硫黄を含有する被膜がより緻密なものになるためであると考えられる。
【0047】
特に非水電解液としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン ,4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン或いは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどのハロゲン原子を有する環状の炭酸エステル誘導体のような比誘電率が30以上の高誘電率溶媒を用いることも好ましい。耐還元性が高く、分解されにくいからである。また、上記高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、或いはメチルエチルカーボネートなどの粘度が1mPa・s以下である低粘度溶媒を混合した電解液も好ましい。より高いイオン伝導性を得ることができるからである。更に、電解液中のフッ素イオンの含有量が14質量ppm以上1290質量ppm以下の範囲内であることも好ましい。電解液に適量なフッ素イオンが含まれていると、フッ素イオンに由来するフッ化リチウムなどの被膜が負極に形成され、負極における電解液の分解反応を抑制することができると考えられるからである。更に、酸無水物及びその誘導体からなる群のうちの少なくとも1種の添加物が0.001質量%〜10質量%含まれていることが好ましい。これにより負極の表面に被膜が形成され、電解液の分解反応を抑制することができるからである。この添加物としては、環に−C(=O)−O−C(=O)−基を含む環式化合物が好ましく、例えば無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水2−スルホ安息香酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、無水ヘキサフルオログルタル酸、無水3−フルオロフタル酸、無水4−フルオロフタル酸などの無水フタル酸誘導体、又は無水3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、無水1,8−ナフタル酸、無水2,3−ナフタレンカルボン酸、無水1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などの無水1,2−シクロアルカンジカルボン酸、又はシス−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物或いは3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物などのテトラヒドロフタル酸無水物、又はヘキサヒドロフタル酸無水物(シス異性体、トランス異性体)、3,4,5,6−テトラクロロフタル酸無水物、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、二無水ピロメリット酸、又はこれらの誘導体などが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0049】
〔実施例1〕
厚さ18μmの電解銅箔からなる集電体を室温で30秒間酸洗浄した。処理後、15秒間純水洗浄した。集電体上にSiの粒子を含むスラリーを膜厚15μmになるように塗布し塗膜を形成した。スラリーの組成は、粒子:スチレンブタジエンラバー(結着剤):アセチレンブラック=100:1.7:2(重量比)であった。Siの粒子の平均粒径D50は2.5μmであった。平均粒径D50は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置(No.9320−X100)を使用して測定した。
【0050】
塗膜が形成された集電体を、以下の浴組成を有するピロリン酸銅浴に浸漬させ、電解により、塗膜に対して銅の浸透めっきを行い、活物質層を形成した。電解の条件は以下の通りとした。陽極にはDSEを用いた。電源は直流電源を用いた。
・ピロリン酸銅三水和物:105g/l
・ピロリン酸カリウム:450g/l
・硝酸カリウム:30g/l
・P比:7
・浴温度:50℃
・電流密度:4A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH8.2になるように調整した。
【0051】
浸透めっきは、塗膜の厚み方向全域にわたって銅が析出した時点で終了させた。このようにして目的とする負極を得た。活物質層の縦断面のSEM観察から、活物質層においては、活物質の粒子は平均厚み1.5μmの銅の被膜で被覆されていることが確認された。銅の被膜の被覆の程度は、Si粒子の表面の93%であった。銅の結晶子の大きさは0.6〜1.0μmであった。
【0052】
〔実施例2〕
浸透めっきのP比、浴温度及び電流密度を以下の通りとする以外は実施例1と同様にして負極を得た。
・P比:8.2
・浴温度:48℃
・電流密度:4A/dm2
【0053】
〔実施例3〕
浸透めっきのP比、浴温度及び電流密度を以下の通りとする以外は実施例1と同様にして負極を得た。
・P比:8.9
・浴温度:48℃
・電流密度:5.5A/dm2
【0054】
〔比較例1〕
浸透めっきの浴としてピロリン酸銅浴を用いることに代えて、前記の特許文献1を参考に以下の組成を有する硫酸銅の浴を用いた。電流密度は5A/dm2、浴温は40℃であった。陽極にはDSE電極を用いた。電源は直流電源を用いた。これ以外は実施例1と同様にして二次電池を得た。
・CuSO4・5H2O 250g/l
・H2SO4 70g/l
【0055】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた負極を用いてリチウム二次電池を製造した。正極としてはLiCo1/3Ni1/3Mn1/32を用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積%混合溶媒に1mol/lのLiPF6を溶解した溶液に対して、ビニレンカーボネートを2体積%外添したものを用いた。セパレータとしては、20μm厚のポリプロピレン製多孔質フィルムを用いた。得られた二次電池について容量維持率が80%となるサイクル数を測定した。容量維持率は、各サイクルの放電容量を測定し、それらの値を初期放電容量で除し、100を乗じて算出した。充電条件は0.5C、4.2Vで、定電流・定電圧とした。放電条件は0.5C、2.7Vで、定電流とした。但し、1サイクル目は0.05Cとし、2〜4サイクル目は0.1C、5〜7サイクル目は0.5C、8〜10サイクル目は1Cとした。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示す結果から明らかなように、実施例は比較例に比べてサイクル特性が良好であることが判る。特に、結晶子の粒径が小さくなるほど、サイクル特性が良好になることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の非水電解液二次電池用負極の一実施形態の断面構造を示す模式図である。
【図2】図1に示す負極の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0059】
10 非水電解液二次電池用負極
11 集電体
12 活物質層
12a 活物質の粒子
13 金属材料
15 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質の粒子を含む活物質層を備え、該粒子の表面がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されていると共に、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されている非水電解液二次電池用負極であって、
前記金属材料は、その結晶子の平均粒径が0.01〜1μmであり、且つ前記粒子の表面の5〜95%を被覆している非水電解液二次電池用負極。
【請求項2】
前記粒子の表面を被覆する前記金属材料の厚みが平均して0.05〜2μmである請求項1記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項3】
前記金属材料が、前記活物質層の厚み方向全域にわたって前記粒子の表面に存在している請求項1又は2記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項4】
pHが7.1〜11であるめっき浴を用いた電解めっきによって前記粒子の表面を前記金属材料で被覆してある請求項1ないし3の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項5】
前記粒子が、シリコンを含み且つリチウムイオンの吸蔵放出可能な材料からなり、
前記金属材料が、P27の重量とCuの重量との比(P27/Cu)が5〜12であるピロリン酸銅浴を用いた電解めっきによって析出して前記粒子の表面を被覆している請求項1ないし4の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れかに記載の非水電解液二次電池用負極を備えた非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−16198(P2008−16198A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182852(P2006−182852)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】