説明

非水電解液電池の製造方法

【課題】安全性を確保しつつ高率放電性能を向上させることができる非水電解液電池の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、正極板と負極板とがセパレータを介し捲回された電極群を備えている。正極板は、アルミニウム箔の両面に正極合剤を塗布、乾燥させた後、第1プレス処理を施し正極合剤層を形成する正極合剤層形成ステップと、正極合剤層にホスファゼン化合物を含む難燃合剤を塗布、乾燥させた後、第2プレス処理を施し難燃化剤層を形成する難燃化剤層形成ステップとを経て作製する。第2プレス処理では、第2プレス圧を難燃化剤層形成ステップにおける第1プレス圧に対して1/3倍以下に設定する。第2プレス処理で、乾燥に伴い難燃化剤層に形成される細孔を残しつつ厚み調整される。正極板のイオン移動性が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池の製造方法に係り、特に、正極活物質を含む正極合剤層を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極板とを備えた非水電解液電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される非水電解液電池は、高電圧・高エネルギー密度であり、かつ、貯蔵性能や低温作動性能に優れるため、電源の小型化や軽量化が可能となる。このため、広く民生用の携帯型電気製品に使用されている。また、携帯用の小型電源に止まらず、電気自動車用の電源や家庭用の夜間電力貯蔵装置、さらには、太陽光や風力などの自然エネルギーの有効活用、電力使用の平準化、無停電電源装置および建設機械に用いる産業用の電源についても開発が展開されている。
【0003】
ところが、非水電解液電池に用いられる電解液には、ジメチルエーテル等の有機溶媒が含まれている。有機溶媒が可燃性を有するため、短絡等の電池異常時や火中投下時のように、充電状態で異常な高温環境下にさらされたときや過充電状態に達し電池温度が上昇したときは、非水電解液等の電池構成材料が燃焼する現象が起こることがある。また、電池温度の上昇により、正負極板を隔離するセパレータが溶解し内部短絡が発生すると、電池温度のさらなる上昇が起こるとともに非水電解液の分解によるガス発生で電池内圧が上昇し、電池容器ないし電池蓋に設けられた開裂弁から外部へのガス噴出を招く。さらに、温度上昇が続くと、正極活物質が熱分解することで熱暴走を引き起こし、電池挙動が激しくなるおそれがある。
【0004】
このような事態を回避し電池の安全性を確保するために種々の安全化技術が提案されている。例えば、非水電解液に難燃化剤(難燃性付与物質)を溶解させて非水電解液を難燃化する技術(特許文献1参照)、セパレータに難燃化剤を分散させてセパレータを難燃化する技術(特許文献2参照)が開示されている。また、本出願人らは、正極板上に固体難燃化剤層を設ける技術を開示している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】特開2006−127839号公報
【特許文献3】WO/2010/101180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の技術では、難燃化剤を含有させた非水電解液やセパレータの電池構成材料自体を難燃化する技術であり、含有させる難燃化剤の量により非水電解液やセパレータに難燃性を付与することも可能となる。これらの技術をリチウムイオン電池に適用する場合は、正極活物質の熱分解反応による発熱が大きくなるため、温度上昇の抑制に多量の難燃化剤を要する。多量の難燃化剤を含有させたセパレータでは、セパレータとして本来求められる強度を保つことが難しくなる。また、非水電解液に多量の難燃化剤を添加すると、非水電解液中でのイオン伝導が不十分となり出力や容量を低下させることがある。換言すれば、電池の安全性向上を図ることにより、電池性能の低下を招く場合がある。一方、特許文献3の技術では、正極活物質の近傍に難燃化剤が存在することで安全性は向上するものの、高率放電性能の低下を招く可能性がある。すなわち、正極板上に固体難燃化剤層を設けることでイオンや電子の移動性が妨げられることから、大電流で放電した場合は、小電流で放電した場合と比べて電圧降下が大きくなるため、大電流放電時の容量が小電流放電時の容量より小さくなる。このような高率放電性能は、電池の使用用途によっても要求度が異なっている。例えば、非常用電源の中でも、携帯電話の無線基地局での用途では要求度が小さいものの、無停電電源装置(UPS)の用途では重要な性能の1つとなる。従って、安全性を確保することはもちろん、高率放電時の容量低下を抑制することができれば、非水電解液電池の用途拡大ないし普及に期待することができる。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、安全性を確保しつつ高率放電性能を向上させることができる非水電解液電池および正極板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、正極活物質を含む正極合剤層を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極板とを備えた非水電解液電池の製造方法であって、前記正極板を構成する正極集電体の片面または両面に、前記正極活物質を含む正極合剤を塗布し乾燥させた後、第1のプレス処理を施し前記正極合剤層を形成する正極合剤層形成ステップと、前記正極合剤層形成ステップで形成された正極合剤層に、ホスファゼン化合物を含む難燃合剤を塗布し乾燥させた後、第2のプレス処理を施し難燃化剤層を形成する難燃化剤層形成ステップと、を含み、前記難燃化剤層形成ステップにおいて、前記第1のプレス処理のプレス圧に対して1/3倍以下のプレス圧で前記第2のプレス処理を施すことを特徴とする。
【0009】
この場合において、正極合剤層形成ステップで、正極合剤層に形成される細孔の平均径が2.1μm以下となるように第1のプレス処理を施すようにしてもよい。正極合剤層形成ステップで、正極合剤を塗布した後、温度100℃〜125℃の範囲で乾燥させることができる。また、難燃化剤層形成ステップで、難燃合剤を塗布した後、難燃化剤の融点より低い温度で乾燥させることが好ましい。このとき、難燃化剤層形成ステップで、難燃合剤が正極活物質の質量に対して2%〜8%の範囲の難燃化剤を含むようにしてもよい。また、難燃化剤層が多孔質化されていることが好ましい。このとき、難燃化剤層が、正極合剤層の厚さに対して1/4倍以下の厚さに形成されていてもよい。正極活物質を、リチウムおよびマンガンを含みマンガンサイトの一部がマンガン以外の遷移金属で置換されたリチウムマンガン遷移金属複酸化物とすることができる。このとき、負極活物質を、黒鉛を主体とする炭素材としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極合剤層に、ホスファゼン化合物を含む難燃化剤層を形成することで、電池異常時に発熱量が大きくなりやすい正極板の近傍に難燃化剤層が存在するので、電池異常で温度上昇しても電池挙動を穏やかにし安全性を確保することができるとともに、難燃化剤層形成ステップで、乾燥させた後、第1のプレス処理のプレス圧に対して1/3倍以下のプレス圧で第2のプレス処理を施すことで、乾燥に伴い形成される細孔が塞がれることなく難燃化剤層が形成されるため、正極板の全体としてイオンの移動性が確保されるので、高率放電時でも容量低下を抑制することができる、という効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した実施形態の円筒形リチウムイオン二次電池を模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の円筒形リチウムイオン二次電池の製造方法の概略を示す工程図である。
【図3】円筒形リチウムイオン二次電池における正極板に形成された正極合剤層の平均細孔径と高率放電性能との相関関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を円筒形リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。
【0013】
<構成>
本実施形態の円筒形リチウムイオン二次電池20は、図1に示すように、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器7を有している。電池容器7には、ポリプロピレン製で中空円筒状の軸芯1に帯状の正極板Pおよび負極板NがセパレータW5を介して断面渦巻状に捲回された電極群6が収容されている。
【0014】
電極群6の上側には、軸芯1のほぼ延長線上に正極板Pからの電流を集結し、正極板Pへの電流を分配するためのアルミニウム製の正極集電リング4が配置されている。正極集電リング4は、軸芯1の上端部に固定されている。正極集電リング4の周囲から一体に張り出している鍔部周縁(外周面)には、正極板Pから導出された正極リード片2の端部が超音波溶接で接合されている。正極集電リング4の上方には、安全弁を内蔵し正極外部端子を兼ねる円盤状の電池蓋11が配置されている。正極集電リング4の上部(上面)には正極リード9の一端が固定されており、正極リード9の他端が電池蓋11の下面に溶接されている。正極リード9は、複数枚のアルミニウム製リボンを重ね合わせて構成した2本のリードの端部同士が溶接で接合され形成されている。
【0015】
一方、電極群6の下側には負極板Nからの電流を集結し、負極板Nへの電流を分配するための銅製の負極集電リング5が配置されている。負極集電リング5の内周面には軸芯1の下端部外周面が固定されている。負極集電リング5の外周縁には、負極板Nから導出された負極リード片3の端部が超音波溶接で接合されている。負極集電リング5の下部(下面)には電気的導通のための銅製の負極リード板8が溶接されており、負極リード板8は電池容器7の内底部に抵抗溶接で接合されている。電池容器7は、本例では、外径40mm、内径39mmに設定されている。
【0016】
電池蓋11は、絶縁性および耐熱性のEPDM樹脂製ガスケット10を介して電池容器7の上部にカシメ固定されている。このため、正極リード9は電池容器7内に折りたたむようにして収容されており、リチウムイオン二次電池20は密封されている。なお、リチウムイオン二次電池20は、所定電圧および電流で初充電を行うことで、電池機能が付与される。
【0017】
電極群6は、正極板Pと負極板Nとがこれら両極板が直接接触しないように、厚さ30μmでリチウムイオンが通過可能なポリエチレン製微多孔膜のセパレータW5を介し、軸芯1の周囲に捲回されている。正極リード片2および負極リード片3は、それぞれ電極群6の互いに反対側に配設されている。電極群6の直径は、正極板P、負極板N、セパレータW5の長さを調整することで、38±0.5mmに設定されている。電極群6と電池容器7との電気的接触を防止する為に絶縁被覆が施されている。絶縁被覆には、ポリイミド製の基材の片面にヘキサメタアクリレートの粘着剤が塗布された粘着テープが用いられている。粘着テープは鍔部周面から電極群6外周面に亘って一重以上巻かれている。電極群6の最大径部が絶縁被覆存在部となるように巻き数が調整され、該最大径が電池容器7の内径より僅かに小さく設定されている。
【0018】
電極群6を構成する正極板Pは、正極集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔W1を有している。アルミニウム箔W1の両面には、正極活物質として、スピネル結晶構造を有しており、結晶中のマンガンサイトの一部が遷移金属であるマグネシウムで置換されたリチウムマンガンマグネシウム複酸化物(LiMn2−xMg、0<x≦0.1)粉末を含む正極合剤が実質的に均等かつ均質に塗着され、正極合剤層W2が形成されている。すなわち、正極合剤層W2の厚さがほぼ一様であり、かつ、正極合剤層W2内では正極合剤がほぼ一様に分散されている。正極合剤には、例えば、正極活物質に、導電剤として鱗片状黒鉛およびアセチレンブラック、バインダ(結着剤)としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)が配合されている。アルミニウム箔W1の長手方向に沿う一側の側縁には、幅30mmの正極合剤の無塗着部が形成されている。無塗着部は櫛状に切り欠かれており、切り欠き残部で正極リード片2が形成されている。本例では、隣り合う正極リード片2の間隔が20mm、正極リード片2の幅が5mmに設定されている。アルミニウム箔W1に塗着された正極合剤は、乾燥後、プレス加工され、正極合剤層W2における細孔(正極活物質や導電剤間に形成される空隙)の平均径が2.1μm以下に形成されている。正極合剤層W2は、本例では、幅80mm、厚さ80μm(片面)に調整されている。
【0019】
また、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板Pの両面には、難燃化剤を含む難燃化剤層W6が形成されている。難燃化剤には、リンおよび窒素を基本骨格とし、125℃以下の温度環境で固体状のホスファゼン化合物が用いられている。難燃化剤は、本例では、正極活物質の質量に対して2〜8%(wt%)の範囲の割合に設定されている。難燃化剤層W6では、ホスファゼン化合物間に空隙が形成され、多孔質化されている。難燃化剤層W6の厚さは、5〜10μm(片面)の範囲となるように調整されている。
【0020】
ホスファゼン化合物は、一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物である。一般式中のRは、フッ素や塩素等のハロゲン元素または一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。このようなホスファゼン化合物は、電池異常時等の高温環境下で、あらかじめ発火することを防止する作用や消火作用を発揮する。また、ホスファゼン化合物は、置換基Rの種類により固体状または液体状となるが、難燃化剤層W6には固体状のホスファゼン化合物が用いられている。
【0021】
一方、負極板Nは、負極集電体として厚さ10μmの圧延銅箔W3を有している。圧延銅箔W3の両面には、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材を含む負極合剤が実質的に均等かつ均質に塗着され、負極合剤層W4が形成されている。すなわち、負極合剤層W4の厚さがほぼ一様であり、かつ、負極合剤層W4内では負極合剤がほぼ一様に分散されている。負極活物質の炭素材には、黒鉛を主体とする炭素材を用いることができる。負極合剤には、例えば、炭素材に、バインダとしてPVDFが配合されている。圧延銅箔W3の長手方向に沿う一側の側縁には、正極板Pと同様に、幅30mmの負極合剤の無塗着部が形成されており、負極リード片3が形成されている。本例では、隣り合う負極リード片3の間隔が20mm、負極リード片3の幅が5mmに設定されている。負極板Nは、乾燥後、プレス加工され、幅86mmに裁断されている。負極合剤層W4の厚さは、本例では、60μm(片面)に調整されている。なお、負極板Nの長さは、正極板Pおよび負極板Nを捲回したときに、捲回最内周および最外周で捲回方向に正極板Pが負極板Nからはみ出すことがないように、正極板Pの長さより120mm長く設定されている。また、負極合剤塗布部の幅は、捲回方向と交差する方向において正極合剤塗布部が負極合剤塗布部からはみ出すことがないように、正極合剤塗布部の幅より6mm長く設定されている。
【0022】
また、電池容器7内には、図示しない非水電解液が注液されている。非水電解液には、例えば、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を含む混合溶媒にリチウム塩(電解質)として4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)を添加したものを用いることができる。本例では、ECとDMCとが体積比2:3で混合された混合溶媒中に、4フッ化ホウ酸リチウムが0.8〜1.0モル/リットル(M)の範囲の割合で添加されている。
【0023】
<製造>
リチウムイオン二次電池20は、図2に示すように、正極板Pおよび負極板Nをそれぞれ作製した後、作製した正負極板をセパレータW5を介して捲回し電極群6を作製する。電極群6に正極集電リング4、負極集電リング5をそれぞれ取り付け、正極リード9、負極リード8をそれぞれ接続した後、電池容器7に収容し、電池を組み立てる。以下、工程順に説明する。なお、正極板Pおよび負極板Nは、並行して作製してもよく、いずれか一方から順に作製してもよいが、以下の説明では、正極板Pの作製を先に説明する。
【0024】
<正極板作製>
正極板Pは、正極合剤層形成ステップと、難燃化剤層形成ステップとを経て作製する。正極合剤層形成ステップでは、アルミニウム箔W1に正極合剤を塗布、乾燥させた後、第1プレス処理を施し正極合剤層W2を形成する。難燃化剤層形成ステップでは、形成された正極合剤層W2にホスファゼン化合物を含む難燃合剤を塗布、乾燥させた後、第2プレス処理を施し難燃化剤層W6を形成する。
【0025】
(正極合剤層形成)
正極活物質のリチウムマンガンマグネシウム複酸化物(LiMn2−xMg、0<x≦0.1)粉末、導電剤の鱗片状黒鉛およびアセチレンブラック、バインダのPVDFを分散溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)に溶解させたNMP溶液を所定の割合で混合し、必要に応じてNMPを添加、混練して正極スラリを作製する。正極スラリでは、正極活物質、鱗片状黒鉛、アセチレンブラック、PVDFが質量比100:8:2:5となるように調整する。得られた正極スラリをアルミニウム箔W1の両面に、ほぼ均等に塗布する。このとき、アルミニウム箔W1の長手方向に沿う一側の側縁に幅30mmの無塗布部を残しておく。
【0026】
アルミニウム箔W1に塗布した正極スラリを、所定温度範囲の温度環境下で分散溶媒のNMPを除去し乾燥させた後、第1プレス処理を施す。乾燥時の温度条件は、100〜125℃の範囲で設定することができるが、本例では、120℃に設定した。温度が低すぎる場合は、NMPの除去に時間がかかりすぎるため、好ましくない。反対に、温度が高すぎる場合は、乾燥速度が速くなり、バインダのPVDFが偏析しやすくなるため、好ましくない。
【0027】
第1プレス処理では、ロールプレス機を使用し、プレス圧(線圧)(以下、第1プレス圧という。)を後述する難燃化剤層形成ステップにおける第2プレス処理のプレス圧(線圧)(以下、第2プレス圧という。)に対して3倍以上に設定する。本例では、第1プレス圧を第2プレス圧に対して5倍となるように、400kN/mに設定した。この第1プレス処理により、正極合剤層W2に形成される細孔の平均径が2.1μm以下に調整される。また、正極合剤層W2の厚さは、本例では、80μm(アルミニウム箔W1の片面あたり)に調整される。その後、幅80mmに裁断し、側縁に残した無塗布部に切り欠きを入れることで正極リード片2を形成する。
【0028】
(難燃化剤層形成)
難燃化剤のホスファゼン化合物、バインダのPVDFのNMP溶液を所定の割合で混合し、必要に応じてNMPを添加して粘度調整することで難燃合剤溶液を作製する。難燃化剤は、本例では、正極活物質の質量に対して2〜8%(wt%)の範囲の割合に設定する。得られた難燃合剤溶液を、正極合剤層W2(両面)の表面に、ほぼ均等に塗布する。正極合剤層W2に塗布した難燃合剤溶液を、所定温度範囲の温度環境下で溶媒のNMPを除去し乾燥させた後、第2プレス処理を施す。乾燥時の温度条件は、用いた難燃化剤の融点より低い温度に設定する。すなわち、本例で用いたホスファゼン化合物の融点が約125℃のため、125℃より低い120℃に設定する。
【0029】
ここで、難燃化剤層W6の形成過程について説明する。難燃合剤溶液中では、難燃化剤のホスファゼン化合物が、バインダのPVDFとともに、溶媒のNMPに溶解している。難燃合剤溶液を正極合剤層W2に塗布した後、乾燥させると、NMPが除去されるのに伴い、ホスファゼン化合物が凝集しはじめる。このとき、正極合剤層W2に形成された細孔の平均径が2.1μm以下のため、ホスファゼン化合物が正極合剤層W2の細孔内に入り込むことが抑制される。結果として、ホスファゼン化合物の凝集粒がPVDFで結着された難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成される。換言すれば、難燃合剤溶液を塗布した時点では、難燃合剤溶液中に含まれる溶媒成分の幾分かが正極合剤層W2に浸透するものの、正極合剤層W2に形成された細孔の目詰まりが抑制される。また、得られた難燃化剤層W6では、ホスファゼン化合物の凝集粒がPVDFで結着されるため、ホスファゼン化合物の凝集粒間に空隙(細孔)が形成され多孔質化される。
【0030】
このような過程で難燃化剤層W6が形成されることから、乾燥時の温度条件をホスファゼン化合物の融点以上に設定すると、NMPの除去に伴いホスファゼン化合物が凝集しても熱により溶融し再析出することがある。この結果、ホスファゼン化合物間の空隙が狭められることで、難燃化剤層が緻密化するため、得られるリチウムイオン二次電池では、充放電に伴うイオンの移動性を阻害することとなる。従って、上述したように、難燃化剤層形成ステップでは、乾燥時の温度条件をホスファゼン化合物の融点より低く設定する。
【0031】
第2プレス処理では、ロールプレス機を使用し、第2プレス圧を第1プレス圧の1/3倍以下の80kN/mに設定して行った。上述したように、第1プレス圧を400kN/mに設定したことから、第2プレス圧は、第1プレス圧の1/5に相当する。この第2プレス処理により、難燃化剤層W6の厚さは、正極合剤層W2の厚さに対して1/4倍以下となるように調整される。本例では、難燃化剤層W6の厚さを、正極合剤層W2の厚さ(80μm)に対して1/16〜1/8倍の範囲、つまり5〜10μm(片面あたり)の範囲となるように調整する。難燃化剤層W6の厚さが正極合剤層W2の厚さに対して1/4倍を超えると、難燃化剤層W6自体の厚さが大きくなり、イオン移動性が阻害されるため、高率放電性能の低下を招くこととなる。また、第2プレス圧を第1プレス圧の1/5としたことで、第2プレス処理を施しても、正極合剤層W2が圧縮されず厚さがほとんど変化しない。換言すれば、乾燥後の難燃化剤層では、上述したように、多孔状に形成されているため、第2プレス圧での軽度のプレス処理により、難燃化剤層に形成された細孔を残しつつ厚さが調整されたものと考えられる。
【0032】
<負極板作製>
負極板Nは、図2に示すように、圧延銅箔W3に負極合剤を塗布、乾燥させる合剤塗布・乾燥ステップと、プレス処理を施し負極合剤層W4を形成するプレス処理ステップと、を経て作製する。
【0033】
負極活物質の黒鉛を主体とする炭素材、バインダのPVDFのNMP溶液を所定の割合で混合し、必要に応じてNMPを添加、混練して負極スラリを作製する。負極スラリでは、負極活物質、PVDFが質量比90:10となるように調整する。得られた負極スラリを圧延銅箔W3の両面に、ほぼ均等に塗布する。このとき、圧延銅箔W3の長手方向に沿う一側の側縁に、正極板Pと同様に、幅30mmの無塗布部を残しておく。
【0034】
圧延銅箔W3に塗布した負極スラリを、約120℃の温度環境下で分散溶媒のNMPを除去し乾燥させた後、プレス処理を施す。プレス処理では、ロールプレス機を使用し、プレス圧(線圧)を400kN/mに設定して行う。プレス処理により、負極合剤層W4の厚さは、本例では、60μm(圧延銅箔W3の片面あたり)に調整される。その後、幅86mmに裁断し、側縁に残した無塗布部に、正極板Pと同様に、切り欠きを入れることで負極リード片3を形成し負極板Nを得る。
【0035】
<電極群作製>
作製した正極板Pと負極板Nとを幅90mmのセパレータW5を介して軸芯1の周囲に捲回装置で捲回し電極群6を作製する。このとき、正極リード片2と負極リード片3とが、それぞれ電極群6の互いに反対側の両端面に位置するように捲回する。また、正極板P、負極板N、セパレータW5の長さを調整し、電極群6の直径を38±0.1mmとする。電極群6の両端面からそれぞれ導出されている正極リード片2および負極リード片3を正極集電リング4および負極集電リング5にそれぞれ溶接する。すなわち、正極リード片2を変形させ、その全てを、正極集電リング4の周囲から一体に張り出している鍔部周辺付近に集合、接触させた後、正極リード片2と鍔部周辺とを超音波溶接して正極リード片2を鍔部周面に接続する。一方、負極集電リング5と負極リード片3との接続操作も、正極集電リング4と正極リード片2との接続操作と同様に実施する。その後、正極集電リング4の鍔部周面全周に絶縁被覆を施す。
【0036】
<電池組立>
リチウムイオン二次電池20の組立は以下の手順で行う。すなわち、作製した電極群6の軸芯1に固定された正極集電リング4には予め正極リード9の一端を溶接しておき、負極集電リング5には予め負極リード板8を溶接しておく。電池容器7内に電極群6を挿入し、負極リード板8と電池容器7の内底面とを溶接する。電池容器7の上部に段付け加工を施し、電池蓋11を載せるための段付け部を形成する。正極集電リング4に溶接しておいた正極リード9の他端を電池蓋11の下面に溶接した後、軸芯1の中空部分から電池容器7内に非水電解液を注液して電極群6を非水電解液に浸潤させる。正極リード9を折りたたむようにして電池容器7内に収容し、電池蓋11を段付け部に載せた後、電池蓋11をガスケット10を介してカシメ固定することで、リチウムイオン二次電池20の組立を完成させる。
【0037】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0038】
本実施形態では、正極板Pの両面に塗工された正極合剤層W2の表面に、難燃化剤のホスファゼン化合物を含む難燃化剤層W6がそれぞれ形成されている。このため、過充電等の電池異常時に活物質の分解反応やその連鎖反応で発熱量が大きくなりやすい正極合剤層W2の近傍に難燃化剤層W6が位置している。これにより、電池異常時に電池温度が上昇してもホスファゼン化合物が難燃性を発揮するので、電池挙動を穏やかにし安全性を向上させることができる。
【0039】
また、難燃化剤層W6に含まれるホスファゼン化合物の量が正極活物質に対して2wt%に満たないと、電池異常時に十分な難燃性を発揮することが難しくなる。反対に、ホスファゼン化合物の量が8wt%を超えると、難燃化剤層W6により電子やリチウムイオンの伝導性が妨げられることで、電池性能、とりわけ高率放電性能の低下を招くこととなる。本実施形態では、難燃化剤層W6におけるホスファゼン化合物の量が2〜8wt%の範囲である5wt%に調整されているため、通常の充放電時に電池性能を確保するとともに、電池異常時に安全性を確保することができる。
【0040】
更に、本実施形態で示した製造方法では、正極合剤層W2の形成時に第1プレス処理により、正極合剤層W2に形成される細孔の平均径が2.1μm以下に調整されている。正極合剤層W2の細孔の平均径が制限されたことで、ホスファゼン化合物を含む難燃化剤層W6の形成時に難燃合剤が正極合剤層W2の細孔に入り込むことを抑制することができる。また、難燃化剤層W6の形成時には、第2プレス圧の調整により、乾燥に伴い形成された細孔を押し潰すことなく厚さが調整された多孔状の難燃化剤層W6が形成される。従って、正極合剤層W2の細孔が閉塞されず、難燃化剤層W6が多孔質化されることにより、正極板Pの全体としてイオンの移動性が確保される。このため、リチウムイオン二次電池20では、安全性を確保するとともに、電池性能を確保することができ、とりわけ高率放電時の容量低下を抑制することができる。
【0041】
ここで、正極合剤層W2に形成される細孔の平均細孔径と、得られるリチウムイオン二次電池20における高率放電性能との関係について説明する。高率放電性能としては、0.2Cおよび3.0Cの電流値にて放電試験を行い、0.2C放電時に測定した放電容量に対する、3.0C放電時に測定した放電容量の割合(相対容量比)を百分率で表した容量比を用いた。図3に示すように、平均細孔径が0.6μmに満たない範囲(図3の矢印Aで示す範囲)では、正極板の作製自体が困難となる。これは、細孔径を小さくするためにプレス圧を大きくする必要があることに加え、正極活物質や導電剤の粒子サイズによるものと考えられる。一方、平均細孔径が2.1μmを超える範囲(図3の矢印Dの範囲)では、正極合剤層W2に難燃化剤層W6を形成するときに、難燃合剤の溶液が正極合剤層W2の細孔内に入り込む。この結果、乾燥、第2プレス処理を施すことで難燃化剤が固化すると、正極合剤層W2に形成された細孔が塞がれるうえに難燃化剤層W6に形成される細孔径も小さくなるため、電池充放電時のリチウムイオンの移動性が阻害されてしまう。このため、電池容量等の電池性能の低下を招くこととなる。
【0042】
これに対して、正極合剤層W2の平均細孔径が0.6〜2.1μmの範囲(図3の矢印BおよびCの範囲)では、正極合剤層W2の形成に支障がなく、難燃化剤層W6の形成時には難燃合剤の溶液が正極合剤層W2に入り込むことが抑制される。この結果、得られたリチウムイオン二次電池20では、イオンの移動性が確保されるため、とりわけ平均細孔径0.8〜2.1μmの範囲において、3C/0.2C容量比が50%を超える優れた高率放電性能を示すこととなる。図3に示す矢印Bの範囲のうち、平均細孔径が0.8μmに満たない範囲では、矢印Cの範囲と比べて、細孔径自体が小さくなり、リチウムイオンの移動抵抗が大きくなるため、高率放電性能も若干低下する傾向を示す。
【0043】
また、正極合剤層形成ステップでは、正極スラリを乾燥させるときの温度条件が100〜130℃の範囲で設定される。乾燥温度が低すぎる場合はNMPの除去に時間がかかりすぎ、反対に、乾燥温度が高すぎる場合はバインダのPVDFが偏析しやすくなるため、好ましくない。従って、乾燥時の温度条件を上述した範囲とすることで、細孔を確実に形成しつつ、ほぼ均一な正極合剤層W2を形成することができる。
【0044】
更に、難燃化剤層形成ステップでは、難燃合剤を乾燥させるときの温度条件として、ホスファゼン化合物の融点より低い温度に設定される。乾燥温度がホスファゼン化合物の融点以上では、溶媒であるNMPの除去によりホスファゼン化合物が凝集固化する過程において熱溶融し再析出することがある。ホスファゼン化合物の熱溶融、再析出が生じると、得られる難燃化剤層が緻密化し、多孔状に形成することが難しくなる。結果として、イオンの移動性を妨げることとなり、電池性能、とりわけ、高率放電性能を低下させることとなる。従って、難燃合剤の乾燥温度をホスファゼン化合物の融点より低く設定することで、多孔状の難燃化剤層W6を形成することができる。
【0045】
また更に、本実施形態では、正極活物質として、スピネル結晶構造を有し、結晶中のマンガンサイトの一部がマグネシウム置換されたリチウムマンガンマグネシウム複酸化物(LiMn2−xMg、0<x≦0.1)が用いられている。スピネル結晶構造では熱安定性に優れることから、電池異常時等の温度上昇に際しても分解反応の進行を抑制することができる。このため、正極板Pにおける発熱量が低減するので、安全性確保に寄与することができる。さらに、マンガンサイトの一部がマグネシウム置換されたリチウムマンガンマグネシウム複酸化物では、マグネシウム置換されていないマンガン酸リチウムと比べてマンガンイオンの溶出が抑制され、結晶構造が一層強固となり安定化されるので、長期間にわたり電池機能を発揮し寿命向上を図ることができる。マグネシウム置換割合xが0.1を超えると、結晶中のマグネシウム量が多くなり結晶構造の不安定化を招くことがあるため、好ましくない。
【0046】
更にまた、通常、リチウムマンガン複酸化物等のマンガン系正極活物質を用いた場合、正極合剤層W2からマンガンイオンが溶出することがある。マンガンイオンの溶出量が増加した場合は、正極側でリチウムイオンをドープ・脱ドープできる割合が減少して不可逆容量が増加し、結果として電池容量が低下することとなる。また、溶出したマンガンイオンが負極側に析出しデンドライトを形成して微小短絡を引き起こす可能性も考えられる。本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、非水電解液にリチウム塩としてLiBFが0.8〜1.0Mの範囲の割合で添加されているため、マンガンイオンの溶出を抑制することができる。従って、容量や出力等の電池性能を維持することができ、結果的に長寿命化を図ることができる。LiBFの添加量が0.8Mに満たないと、マンガンイオンの溶出抑制が不十分となり、また、非水電解液の電気伝導性も低下するので、電池性能の低下を招く。反対に、LiBFの添加量を1.0Mを超えるほど多くしても、マンガンイオンの溶出のさらなる抑制効果を期待することは難しい。従って、非水電解液に添加されるLiBFの割合を、0.8〜1.0Mの範囲とすることが好ましい。
【0047】
また、本実施形態では、負極活物質として、黒鉛を主体とする炭素材が用いられている。このような炭素材としては、例えば、黒鉛の表面が熱分解炭素で被覆された炭素材を挙げることができる。熱分解炭素の被覆層では、非晶質炭素が形成され、配向性のある黒鉛を増粒することで、炭素材が等方性を有することとなる。また、この熱分解炭素の被覆層には多数の細孔が形成されている。従って、黒鉛を用いたことによる電圧特性の平坦性と、リチウムイオンの吸蔵、放出が等方的に進行することによる優れた充放電特性と、を有する電池を得ることができる。このような黒鉛材を負極活物質に用いたリチウムイオン二次電池20では、放電終期の電圧低下が少なくなるため、安定出力が望まれる家庭用や産業用の電源として好適に使用することができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、難燃化剤層W6の形成により安全性を確保することができる。また、第1プレス圧により正極合剤層W2における細孔の平均径を制限し、第2プレス圧により難燃化剤層W6を多孔状に形成することで、高率放電時の放電容量の低下抑制を図ることができる。すなわち、本実施形態は、安全性に優れるうえ、高率放電性能についても優れたリチウムイオン二次電池20である。これに対して、従来のリチウムイオン二次電池では、安全性を確保するために、例えば、非水電解液やセパレータに難燃化剤を配合して電池構成材料自体の難燃化が図られている。ところが、リチウムイオン二次電池では、正極活物質の熱分解反応による発熱が大きくなるため、温度上昇を抑制するには多量の難燃化剤が必要となる。セパレータ中に多量の難燃化剤を含有させると、セパレータとして本来求められる強度を保つことが難しくなる。また、非水電解液に難燃化剤を添加すると、非水電解液中でのイオン伝導が不十分となり出力特性や放電容量を低下させる。すなわち、安全性向上を図ることにより、高率放電性能等の電池性能の低下を招くことがある。
【0049】
なお、本実施形態では、難燃化剤層W6を正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面に形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、正極板の片面に形成するようにしてもよい。このようにしても本実施形態と同様の難燃効果の得られることを確認している。また、本実施形態では、難燃化剤層W6におけるホスファゼン化合物の量を正極活物質に対して2〜8wt%の範囲に調整する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、難燃化剤層W6として、難燃性能を発揮することに加えて、イオン移動性を確保し高率放電性能の低下を抑制するために多孔質化されていればよい。難燃性能と高率放電性能とをバランスよく確保することを考慮すれば、ホスファゼン化合物の量を上述した範囲に設定することが好ましい。
【0050】
本実施形態では、難燃化剤層W6を形成するときの第2プレス圧を、正極合剤層W2を形成するときの第1プレス圧に対して1/3倍以下の1/5倍に設定する例を示した。本発明は、第2プレス圧を第1プレス圧に対して小さくすることで、難燃化剤層W6の細孔を残しつつ厚さを調整することができればよく、第2プレス圧を第1プレス圧に対して1/3倍以下とする。反対に、第2プレス圧が小さくなりすぎると、難燃化剤層W6の厚さを調整することが難しくなるため、第2プレス圧を第1プレス圧に対して1/7倍以上とすることが好ましい。
【0051】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、非水電解液の有機溶媒としてECおよびDMCが体積比2:3で混合された混合溶媒を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態以外で用いることのできる有機溶媒としては、ECおよびDMCが含まれていればよく、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル等の有機溶媒が混合されていてもよい。また、これらの有機溶媒の混合配合比についても特に制限されるものではない。本実施形態では、非水電解液にリチウム塩としてLiBFを0.8〜1.0Mの範囲の割合で添加する例を示したが、本発明はリチウム塩の種類や添加量に制限されるものではない。リチウム塩としては、通常のリチウムイオン二次電池に用いられるリチウム塩としてもよい。正極活物質に用いるリチウムマンガン複酸化物からのマンガンイオンの溶出を抑制し、非水電解液中でのリチウムイオンの伝導性を確保することを考慮すれば、ECおよびDMCの混合溶媒にLiBFを0.8〜1.0Mの範囲の割合となるように添加した非水電解液を用いることが好ましい。
【0052】
更に、本実施形態では、正極合剤として、正極活物質の100質量部に、導電剤として鱗片状黒鉛の8質量部およびアセチレンブラックの2質量部、バインダとしてPVDFの5質量部が配合されている例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。リチウムイオン二次電池に通常使用される別の導電剤を用いてもよく、導電剤を用いなくてもよい。また、PVDF以外のバインダを用いてもよい。本実施形態以外で用いることのできるバインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレン/ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロ−ス、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン等の重合体およびこれらの混合体等を挙げることができる。さらに、各材料の配合比率を変えてもよいことはもちろんである。
【0053】
また更に、本実施形態では、正極活物質として、スピネル結晶構造を有し、結晶中のマンガンサイトの一部がマグネシウムで置換されたスピネル系リチウムマンガンマグネシウム複酸化物を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。正極活物質としては、スピネル結晶構造を有するリチウムマンガン遷移金属複酸化物であればよく、例えば、マンガンやマグネシウム以外に、アルミニウム、コバルト、ニッケル等の遷移金属が含まれていてもよい。また、負極活物質として、黒鉛を主体とする炭素材を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、黒鉛以外の炭素材、例えば、非晶質炭素等を用いるようにしてもよい。電圧特性の平坦化を考慮すれば、黒鉛を主体とする炭素材を用いることが好ましく、例えば、黒鉛の表面に非晶質炭素の粒子を複合化した炭素材を用いてもよい。
【0054】
更にまた、本実施形態では、円筒形リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、非水電解液を使用する電池一般に適用することができる、また、電池の形状についても特に制限はなく、円筒形以外に、例えば、角型等としてもよい。また、本実施形態では、正極板P、負極板Nを捲回した電極群6を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状の正極板、負極板を積層した電極群としてもよい。さらに、本発明の適用可能な電池としては、上述した電池容器7に電池蓋11がカシメ固定されて封口されている構造の電池以外であっても構わない。このような構造の一例として正負極外部端子が電池蓋を貫通し電池容器内で軸芯を介して押し合っている状態の電池を挙げることができる。
【実施例】
【0055】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0056】
(実施例1)
下表1に示すように、実施例1では、正極合剤層W2を形成するときの第1プレス圧を400kN/m(線圧)、難燃化剤層W6を形成するときの第2プレス圧を80kN/m(線圧)に設定した。すなわち、第1プレス圧の第2プレス圧に対するプレス圧比を5とした。正極合剤層W2の形成後に、平均細孔径を測定した結果、1.2μmであった。この平均細孔径は、水銀ポロシメータ(株式会社島津製作所製、オートポアIV9520)を用いて測定したものである。難燃化剤層W6を形成するときは、難燃化剤のホスファゼン化合物(株式会社ブリヂストン製、商品名ホスライト(登録商標)、固体状)を、正極活物質に対して1wt%となるように難燃合剤の溶液を調製した。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2〜実施例5)
表1に示すように、実施例2〜実施例5では、難燃化剤の配合量を変えたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池20を作製した。難燃化剤の配合量は、実施例2では2wt%、実施例3では5wt%、実施例4では8wt%、実施例5では10wt%とした。正極合剤層W2の平均細孔径は、実施例2〜実施例5のいずれにおいても1.2μmであった。
【0059】
(実施例6〜実施例9)
表1に示すように、実施例6〜実施例9では、プレス圧比を変えたこと以外は実施例3と同様にして、リチウムイオン二次電池20を作製した。このとき、第2プレス圧は変えずに第1プレス圧を変えることでプレス圧比を調整した。プレス圧比は、実施例6では2、実施例7では3、実施例8では7、実施例9では10とした。正極合剤層W2の平均細孔径は、実施例6では2.1μm、実施例7では1.7μm、実施例8では1.0μm、実施例9では0.8μmであった。
【0060】
(比較例1)
表1に示すように、比較例1では、プレス圧比を0.5に調整したこと以外は実施例3と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。正極合剤層の平均細孔径は、2.5μmであった。
【0061】
(評価)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池について、過充電試験を行い電池表面の最高温度を測定した。過充電試験では、電池中央部に熱電対を配置し、各リチウムイオン二次電池を0.5Cの電流値で充電し続けたときの電池表面の温度を測定した。また、各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池について、高率放電性能を評価した。高率放電性能は、0.2Cおよび3.0Cの電流値にて放電試験を行い、0.2C放電時に測定した放電容量に対する、3.0C放電時に測定した放電容量の割合(相対容量比)を百分率で算出した。電池表面最高温度および放電容量比の結果を下表2に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、プレス圧比(第1/第2)を5とした実施例1〜5では、難燃化剤量を増加するに伴い、過充電試験での電池表面最高温度が低下し、3C/0.2C放電容量比も低下する傾向が見られた。しかしながら、プレス圧比を0.5とした比較例1よりも高率放電性能が向上することがわかった。また、実施例3、実施例6〜実施例9および比較例1における過充電試験の評価結果から、難燃化剤量を同じく5%としたリチウムイオン二次電池であれば、正極合剤層W2の平均細孔径による影響は小さく、いずれの電池も145℃前後の最高温度を示した。従って、プレス圧比を本実施形態で示した範囲、すなわち、3以上(第2プレス圧が第1プレス圧に対して1/3倍以下)とすることで、高率放電性能の向上がみられ、難燃性能も十分に発揮されることが明らかとなった。
【0064】
また、実施例3、実施例6〜実施例9および比較例1のリチウムイオン二次電池について、正極合剤層W2の平均細孔径と3C/0.2C放電容量比との関係を図3にプロットした。平均細孔径が2.5μmの比較例1のリチウムイオン二次電池では、3C/0.2C放電容量比が29%と高率放電性能が低下した。これは、正極合剤層W2の平均細孔径が大きく、難燃化剤層W6を形成するときに難燃合剤溶液が正極合剤層W2内へ入り込み、リチウムイオンの移動速度を低下する要因となったものと考えられる。これに対して、正極合剤層W2の平均細孔径が2.1μm以下の実施例3、実施例6〜実施例9の各リチウムイオン二次電池では、難燃合剤溶液の正極合剤層W2内への入り込みが抑えられるため、高率放電性能が向上する結果を示した。しかしながら、正極合剤層W2の平均細孔径が1.2μmより小さくなると高率放電性能が若干低下する傾向が見られた。これは、正極合剤層W2の細孔径が小さくなることで、正極合剤層W2内でリチウムイオンの移動性が妨げられたことによるものと考えられる。従って、正極合剤層W2の平均細孔径が2.1μm以下の範囲であれば、高率放電性能を確保することが可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、安全性を確保しつつ高率放電性能を向上させることができる非水電解液電池の製造方法を提供するものであるため、非水電解液電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0066】
P 正極板
N 負極板
W2 正極合剤層
W4 負極合剤層
W6 難燃化剤層
6 電極群
20 円筒形リチウムイオン二次電池(非水電解液電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極合剤層を有する正極板と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極板とを備えた非水電解液電池の製造方法であって、
前記正極板を構成する正極集電体の片面または両面に、前記正極活物質を含む正極合剤を塗布し乾燥させた後、第1のプレス処理を施し前記正極合剤層を形成する正極合剤層形成ステップと、
前記正極合剤層形成ステップで形成された正極合剤層に、ホスファゼン化合物を含む難燃合剤を塗布し乾燥させた後、第2のプレス処理を施し難燃化剤層を形成する難燃化剤層形成ステップと、
を含み、
前記難燃化剤層形成ステップにおいて、前記第1のプレス処理のプレス圧に対して1/3倍以下のプレス圧で前記第2のプレス処理を施すことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記正極合剤層形成ステップにおいて、前記正極合剤層に形成される細孔の平均径が2.1μm以下となるように前記第1のプレス処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記正極合剤層形成ステップにおいて、前記正極合剤を塗布した後、温度100℃〜125℃の範囲で乾燥させることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記難燃化剤層形成ステップにおいて、前記難燃合剤を塗布した後、前記難燃化剤の融点より低い温度で乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記難燃化剤層形成ステップにおいて、前記難燃合剤が前記正極活物質の質量に対して2%〜8%の範囲の前記ホスファゼン化合物を含むことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記難燃化剤層は、多孔質化されていることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記難燃化剤層は、前記正極合剤層の厚さに対して1/4倍以下の厚さに形成されていることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記正極活物質は、リチウムおよびマンガンを含みマンガンサイトの一部がマンガン以外の遷移金属で置換されたリチウムマンガン遷移金属複酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記負極活物質は、黒鉛を主体とする炭素材であることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−54892(P2013−54892A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192039(P2011−192039)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】